説明

限界点探索装置及び方法

【課題】限界点を探索する途中での結果を有効に活用し、効率のよい限界点探索を行う限界点探索装置及び方法を提供すること。
【解決手段】限界点探索装置10は、探査した限界値に対応する限界点によって境界を作成し、作成した境界を構成する限界点のうち、第1の限界点を挟んで隣り合うN個の限界点を求め(N=次元数(変化させる制御パラメータ数))、求めたN個の限界点によって形成される超平面と平行な超平面であって第1の限界点を含む超平面を、境界を構成する全ての限界点について求め、求めた超平面によって構成される大境界を作成する。そして、限界点探索装置10は、作成した大境界と、作成した境界との隙間である境界ギャップのうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップを算出し、算出した最大の境界ギャップの頂点であって大境界を構成する頂点の方向に向かって、探索始点から限界点の探索を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限界点探索装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンは、高性能化により、多くの制御パラメータによって制御されて動作する。この制御パラメータによって制御されるエンジンの特性は、実験計画法(DOE)によって配置された所定数の計測点における計測データに基づいて、モデル化されている。例えば、排ガス(NOx)量の少ないエンジンにするために、このような計測データに基づいたモデルを使用して、コモンレール圧や、燃料噴射時期等の制御パラメータが最適化される。
【0003】
ただし、制御パラメータの組み合わせによっては、装置が過熱等により運転不可能になることがある。このため、運転可能な限界値を計測し、この限界値を頂点(限界点)として運転可能領域を求める。この限界点に対応する制御パラメータの限界値を探査する技術を開示する特許文献1が知られている。
【0004】
特許文献1で開示するエンジン用試験装置は、複数の運転条件をパラメータとする座標系にてエンジンの運転可能領域Xを探索するときに、運転可能領域X内に第一探索開始点を配置し、第一探索開始点を起点として複数の探索点を所定方向に順次配列することにより運転可能領域Xの境界探索(以下、第一境界探索という。)を行う。次に、エンジン用試験装置は、第一境界探索にて取得された運転可能領域Xの境界点に基づいて運転可能領域A1を仮算出し、この運転可能領域A1の略重心Gに第二探索開始点を配置し、第二探索開始点を起点として複数の探索点を所定方向に配列することにより運転可能領域Xの境界探索(以下、第二境界探索という。)を行い、かつ、第一境界探索及び第二境界探索にて取得された運転可能領域Xの境界点に基づいて運転可能領域A2を算出する。このようにエンジン用試験装置は、第一境界探索及び第二境界探索を含む複数の境界探索を行い、一回のみの境界探索を行って運転可能領域が取得される構成と比較して、運転可能領域Xの探索精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−202975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、一組の探索を終えると、探索開始点を移動して再探索を行うので、限界点を探索する際に重複して探索する部分がある。また、特許文献1に開示された技術は、探索する方向が所定の方向なので、探索開始点を移動させても限界点を効率よく探索できない場合もある。
【0007】
そこで、限界点を探索する途中での結果を有効に活用し、効率のよい限界点探索を行う装置及び方法が求められている。
【0008】
本発明は、限界点を探索する途中での結果を有効に活用し、効率のよい限界点探索を行う限界点探索装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、以下のような解決手段を提供する。
(1) 複数の制御パラメータによって制御されるエンジンの運転可能領域を構成する限界点を探索する限界点探索装置であって、前記エンジンの動作状態を測定するエンジン測定手段と、前記エンジン測定手段によって測定された結果が前記エンジンの所定の動作条件を超えるまで、所定の探索始点から、所定の探索方向に向かって前記制御パラメータの値を変化させて、制御パラメータの限界値を探査する限界値探査手段と、前記限界値探査手段によって探査された限界値に対応する限界点によって境界を作成する境界作成手段と、前記境界作成手段によって作成された境界を構成する限界点のうち、第1の限界点を挟んで隣り合うN個の限界点を求め(N=次元数(変化させる制御パラメータ数))、求めたN個の限界点によって形成される超平面と平行な超平面であって第1の限界点を含む超平面を求める超平面作成手段と、前記境界作成手段によって作成された境界を構成する全ての限界点について、前記超平面作成手段によって超平面を求め、求められた超平面によって構成される大境界を作成する大境界作成手段と、前記大境界作成手段によって作成された大境界と、前記境界作成手段によって作成された境界との隙間である境界ギャップのうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップを算出する最大境界ギャップ算出手段と、前記最大境界ギャップ算出手段によって算出された最大の境界ギャップの頂点であって前記大境界を構成する頂点の方向に向かって、前記探索始点から限界点の探索を行うように前記限界値探査手段を制御する探索制御手段と、を備える限界点探索装置。
【0010】
(1)の構成によれば、本発明に係る限界点探索装置は、探査した限界値に対応する限界点によって境界を作成し、作成した境界を構成する限界点のうち、第1の限界点を挟んで隣り合うN個の限界点を求め(N=次元数(変化させる制御パラメータ数))、求めたN個の限界点によって形成される超平面と平行な超平面であって第1の限界点を含む超平面を、境界を構成する全ての限界点について求め、求めた超平面によって構成される大境界を作成する。そして、限界点探索装置は、作成した大境界と、作成した境界との隙間である境界ギャップのうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップを算出し、算出した最大の境界ギャップの頂点であって大境界を構成する頂点の方向に向かって、探索始点から限界点の探索を行う。
【0011】
すなわち、本発明に係る限界点探索装置は、新たに探索した限界点を含めて、探索が不十分な可能性が高い方向に向けて限界点の探索を行う。
したがって、本発明に係る限界点探索装置は、限界点を探索する途中での結果である探索した限界点を有効に活用し、効率のよい限界点探索を行うことができる。
【0012】
(2) 前記限界点を探索する際に、探索する方向と前記境界との交点を算出し、算出した交点と前記探索始点との間に、探索のための計測を開始する計測始点を算出する計測始点算出手段をさらに備える、(1)に記載の限界点探索装置。
【0013】
したがって、(2)に係る限界点探索装置は、計測回数を少なくするように、探索を開始する始点を移動させるので、探索した限界点を有効に活用し、さらに効率のよい限界点探索を行うことができる。
【0014】
(3) 前記最大境界ギャップ算出手段によって算出された最大の前記境界ギャップの大きさが、閾値以下であるか否かを判定する境界ギャップ判定手段を備え、前記探索制御手段は、前記境界ギャップ判定手段によって最大の前記境界ギャップの大きさが閾値以下であると判定されるまで、限界点の探索を行うように前記限界値探査手段を制御する(1)又は(2)に記載の限界点探索装置。
【0015】
したがって、(3)に係る限界点探索装置は、探索した限界点を有効に活用して、運転可能領域のうち探索が不十分な可能性が高い方向が残っているか否かを定量的に判定するので、さらに効率のよい限界点探索を行うことができる。
【0016】
(4) 複数の制御パラメータによって制御されるエンジンの運転可能領域を構成する限界点を探索する限界点探索装置が実行する方法であって、前記エンジンの動作状態を測定するエンジン測定ステップと、前記エンジン測定ステップによって測定された結果が前記エンジンの所定の動作条件を超えるまで、所定の探索始点から、所定の探索方向に向かって前記制御パラメータの値を変化させて、制御パラメータの限界値を探査する限界値探査ステップと、前記限界値探査ステップによって探査された限界値に対応する限界点によって境界を作成する境界作成ステップと、前記境界作成ステップによって作成された境界を構成する限界点のうち、第1の限界点を挟んで隣り合うN個の限界点を求め(N=次元数(変化させる制御パラメータ数))、求めたNの限界点によって形成される超平面と平行な超平面であって第1の限界点を含む超平面を求める超平面作成ステップと、前記境界作成ステップによって作成された境界を構成する全ての限界点について、前記超平面作成ステップによって超平面を求め、求められた超平面によって構成される大境界を作成する大境界作成ステップと、前記大境界作成ステップによって作成された大境界と、前記境界作成ステップによって作成された境界との隙間である境界ギャップのうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップを算出する最大境界ギャップ算出ステップと、前記最大境界ギャップ算出ステップによって算出された最大の境界ギャップの頂点であって前記大境界を構成する頂点の方向に向かって、前記探索始点から限界点の探索を行うように制御する探索制御ステップと、を備える方法。
【0017】
したがって、本発明に係る方法は、(1)と同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、限界点を探索する途中での結果を有効に活用し、効率のよい限界点探索を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の特徴を説明する説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る限界点探索装置の機能を示す機能ブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る限界点探索装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る限界点探索装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係る限界点探索装置により探索した限界点の例を示す図である。
【図6】従来の限界点探索により探索した限界点の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明の特徴を説明する説明図である。図1(1)は、最大の境界ギャップを構成する頂点の方向に向けて限界点を探索することを示し、図1(2)は、図1(1)の例に続いて新たな限界点を探索していることを示す図である。図1において、制御パラメータの数は2つ(次元数N=2)なので、超平面は、直線で表されている。
【0022】
図1(1)の例は、限界点探索装置10が制御パラメータの限界値(例えば、2つの制御パラメータの組み合わせ)を探査し、最初に所定の方向(例えば、4方向)の限界点を探し出したことを示す図である。
【0023】
次に、図1(1)の例は、2つの制御パラメータによって制御されるエンジンの運転可能領域390について、限界点探索装置10が、最初の探索始点100と最初の探索方向とを決定し、探査した限界値に対応する限界点101,102,103,104によって境界190を作成したことを示す例である。最初の探索始点100は、エンジンの動作条件内であることが既知の点である。最初の探索方向は、例えば、2つの制御パラメータ(P1、P2)の場合、P1の制御パラメータのみを増減する探索方向と、P2の制御パラメータのみを増減する探索方向との4方向である。
【0024】
次に、図1(1)の例は、作成された境界190を構成する限界点101,102,103,104のうち、限界点101を挟んで隣り合う限界点102及び限界点104を求め、求めた限界点102及び限界点104によって形成される線分201と平行な直線であって限界点101を含む直線211を求めたことを示している。次に、図1(1)の例は、作成された境界を構成する全ての限界点101,102,103,104について、同様の直線を求め、求めた直線211,212,213,214によって構成される大境界290を作成したことを示している。そして、図1(1)の例は、作成された大境界290と、作成された境界190との隙間である境界ギャップ401,402,403,404のうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップ401を算出し、算出した最大の境界ギャップ401の頂点であって大境界290を構成する頂点301の方向に向かって、探索始点100から探索し、新たな限界点105を探索したことを示している。
【0025】
さらに、図1(2)の例は、図1(1)で探索した限界点105を加えた境界191を構成する限界点101,102,103,104,105のうち、限界点101を挟んで隣り合う限界点105及び限界点104を求め、求めた限界点105及び限界点104によって形成される線分203と平行な直線であって限界点101を含む直線221を求めたことを示している。次に、図2(1)の例は、作成された境界191を構成する全ての限界点101,102,103,104,105について、同様に、直線221,222,223,224,225を求め、求めた直線221,222,223,224,225によって構成される大境界291を作成したことを示している。そして、図2(1)の例は、作成された大境界291と、作成された境界191との隙間である境界ギャップ411,412,413,414,415のうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップ415を算出し、算出した最大の境界ギャップ415の頂点であって大境界291を構成する頂点315の方向に向かって探索し、新たな限界点106を探索したことを示している。
さらに、図1(2)の例は、限界点を探索する際に、頂点315に向かう方向と境界191との交点112を算出し、算出した交点112と探索始点100との間に計測始点111を算出し、計測始点111から探索のための計測を開始して、限界点106を探索したことを示している。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態に係る限界点探索装置10の機能を示す機能ブロック図である。限界点探索装置10は、エンジン測定手段としてのエンジン測定部11と、限界値探査手段としての限界値探査部12と、境界作成手段としての境界作成部13と、超平面作成手段としての超平面作成部14と、大境界作成手段としての大境界作成部15と、最大境界ギャップ算出手段としての最大境界ギャップ算出部16と、探索制御手段としての探索制御部17と、計測始点算出手段としての計測始点算出部18と、境界ギャップ判定手段としての境界ギャップ判定部19とを備えている。
【0027】
エンジン測定部11は、エンジンの動作状態を測定する。例えば、エンジン測定部11は、制御パラメータ(例えば、コモンレール圧や、燃料噴射時期等)を用いてエンジンを動作させ、動作状態(例えば、排ガス(NOx)量等)を測定できるシステム(例えば、ECU(Electronic Control Unit)制御システム50)に制御パラメータの値を送信し、エンジンの動作状態を測定した測定結果を受信する。
【0028】
限界値探査部12は、エンジン測定部11によって測定された結果がエンジンの所定の動作条件を超えるまで、所定の探索始点から、所定の探索方向に向かって制御パラメータの値を変化させて、制御パラメータの限界値を探査する。具体的には、限界値探査部12は、指定された探索始点から指定された探索方向に向かって、制御パラメータを変化させながら(例えば、動作条件を超える値と現時点での値との間を2分しながら変化させる2分法や、連続的にスイープさせて変化させる方法等により)エンジンの性能を測定し、限界値を探査する。
【0029】
境界作成部13は、限界値探査部12によって探査された限界値に対応する限界点によって境界を作成する。具体的には、境界作成部13は、図1(1)で示す様に、限界点同士を超平面(図1(1)では、直線)によって結び境界190を作成する。
【0030】
超平面作成部14は、境界作成部13によって作成された境界を構成する限界点のうち、第1の限界点を挟んで隣り合うN個の限界点を求め(N=次元数(変化させる制御パラメータ数))、求めたN個の限界点によって形成される超平面と平行な超平面であって第1の限界点を含む超平面を求める。具体的には、超平面作成部14は、図1(1)で示す様に、例えば、作成された境界190を構成する限界点101,102,103,104のうち、限界点101を挟んで隣り合う限界点102及び限界点104を求め、求めた限界点102及び限界点104によって形成される超平面(図1(1)では、線分201)と平行な超平面であって限界点101を含む超平面(図1(1)では、直線211)を求める。
【0031】
大境界作成部15は、境界作成部13によって作成された境界を構成する全ての限界点について、超平面作成部14によって超平面を求め、求められた超平面によって構成される大境界を作成する。具体的には、大境界作成部15は、図1(1)で示す様に、例えば、作成された境界190を構成する全ての限界点101,102,103,104について、超平面作成部14によって超平面(図1(1)では、直線211、212、213、214)を作成し、作成した超平面(図1(1)では、直線211、212、213、214)によって構成される大境界290を作成する。
【0032】
最大境界ギャップ算出部16は、大境界作成部15によって作成された大境界と、境界作成部13によって作成された境界との隙間である境界ギャップのうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップを算出する。具体的には、最大境界ギャップ算出部16は、図1(1)で示す様に、例えば、作成された境界190との隙間である境界ギャップ401,402,403,404のうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップ401を算出する。
【0033】
探索制御部17は、最大境界ギャップ算出部16によって算出された最大の境界ギャップの頂点であって大境界を構成する頂点の方向に向かって、探索始点から限界点の探索を行うように限界値探査手段を制御する。具体的には、探索制御部17は、図1(1)で示す様に、例えば、算出された最大の境界ギャップ401の頂点であって大境界を構成する頂点301の方向に向かって、探索始点100から限界点の探索を行うように限界値探査部12を制御する。
【0034】
計測始点算出部18は、限界点を探索する際に、探索する方向と境界との交点を算出し、算出した交点と探索始点との間に、探索のための計測を開始する計測始点を算出する。具体的には、計測始点算出部18は、図1(2)で示す様に、例えば、限界点を探索する際に、頂点315に向かう方向と境界191との交点112を算出し、算出した交点112と探索始点100との間に計測始点111(例えば、交点112と探索始点100との中点)を算出する。
【0035】
境界ギャップ判定部19は、最大境界ギャップ算出部16によって算出された最大の境界ギャップの大きさが、閾値以下であるか否かを判定する。具体的には、境界ギャップ判定部19は、最大の境界ギャップの大きさが、大境界の大きさの一定の割合以下であるか否かを判定する。境界ギャップ判定部19は、大境界の大きさと、境界の大きさとの差(すなわち、境界ギャップの総和)が一定の割合以下であるか否かを判定するとしてもよい。
そして、探索制御部17は、境界ギャップ判定部19によって最大の境界ギャップの大きさが閾値以下であると判定されるまで、限界点の探索を行うように限界値探査部12を制御する。具体的には、探索制御部17は、新たに探索された限界点を追加した境界と、新たに探索された限界点を追加した大境界とにより算出された最大の境界ギャップの大きさが、閾値以上であると判定されると、最大の境界ギャップの方向を探索方向とするように制御して、限界値探査部12に限界値を探査させる。そして、探索制御部17は、最大の境界ギャップの大きさが、閾値以下であると判定されるまで、新たな境界ギャップの算出と、新たな限界点の探索とを繰り返すように制御する。
【0036】
図3は、本発明の一実施形態に係る限界点探索装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。限界点探索装置10は、CPU(Central Processing Unit)1010、バスライン1005、通信I/F1040、メインメモリ1050、BIOS(Basic Input Output System)1060、I/Oコントローラ1070、キーボード/マウス1100、及び表示装置1022を備える。
【0037】
I/Oコントローラ1070には、ハードディスク1074、半導体メモリ1078、等の記憶手段を接続することができる。
【0038】
BIOS1060は、限界点探索装置10の起動時にCPU1010が実行するブートプログラムや、限界点探索装置10のハードウェアに依存するプログラム等を格納する。
【0039】
ハードディスク1074は、限界点探索装置10が本発明の機能を実行するためのプログラムを記憶しており、さらに、各種データベースを構成可能である。
【0040】
限界点探索装置10に提供されるプログラムは、ハードディスク1074、又はメモリカード等の記録媒体に格納されて提供される。このプログラムは、I/Oコントローラ1070を介して、記録媒体から読み出され、又は通信I/F1040を介してダウンロードされることによって、限界点探索装置10にインストールされ実行されてもよい。
【0041】
前述のプログラムは、専用通信回線に接続されたサーバシステムに設けたハードディスク又は光ディスクライブラリ等の記憶装置を記録媒体として使用し、通信回線を介して限界点探索装置10に提供されるとしてもよい。
【0042】
ここで、表示装置1022は、限界点探索装置10による演算処理結果の画面を表示したりするものであり、ブラウン管表示装置(CRT)、液晶表示装置(LCD)等のディスプレイ装置を含む。
【0043】
また、通信I/F1040は、限界点探索装置10を専用ネットワークを介して端末(例えば、測定対象の装置やECU制御システム50等)と接続できるようにするためのネットワーク・アダプタである。
【0044】
図4は、本発明の一実施形態に係る限界点探索装置10の処理内容を示すフローチャートである。なお、本処理は、例えば、プログラム開始指令を受け付けて開始し、プログラム終了指令又は終了条件により終了する。
【0045】
ステップS101において、CPU1010は、最初の探索始点及び探索方向を決定する。より具体的には、CPU1010は、所定の制御パラメータの値(例えば、エンジンの所定の動作条件における中心の値)と、所定の方向(例えば、制御パラメータが2つの場合、平面座標におけるX軸方向及びY軸方向)とを最初の探索始点及び探索方向とする。その後、CPU1010は、処理をステップS102に移す。
【0046】
ステップS102において、CPU1010は、探索した限界点により境界を作成する。より具体的には、CPU1010は、限界点同士を超平面によって結び境界を作成する。その後、CPU1010は、処理をステップS103に移す。
【0047】
ステップS103において、CPU1010は、探索した限界点により大境界を作成する。より具体的には、CPU1010は、作成された境界を構成する限界点のうち、第1の限界点を挟んで隣り合うN個の限界点を求め(N=次元数(変化させる制御パラメータ数))、求めたN個の限界点によって形成される超平面と平行な超平面であって第1の限界点を含む超平面を求める。次に、CPU1010は、境界を構成する全ての限界点についてこの超平面を求め、求めた超平面によって構成される大境界を作成する。その後、CPU1010は、処理をステップS104に移す。
【0048】
ステップS104において、CPU1010は、大きさが最大の境界ギャップを算出する。より具体的には、CPU1010は、ステップS103で作成した大境界と、ステップS102で作成した境界との隙間である境界ギャップのうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップを算出する。その後、CPU1010は、処理をステップS105に移す。
【0049】
ステップS105において、CPU1010は、最大の境界ギャップの大きさが閾値以下か否かを判断する。より具体的には、CPU1010は、最大の境界ギャップの大きさが大境界の大きさの一定の割合以下であり、かつ、境界ギャップの総和が大境界の大きさの一定の割合以下であるか否かを判断する。この判断がYESの場合、CPU1010は、処理を終了し、NOの場合、CPU1010は、処理をステップS106に移す。
【0050】
ステップS106において、CPU1010は、境界ギャップの方向に向かって限界点を探索する。より具体的には、CPU1010は、探索する方向と境界との交点を算出し、算出した交点と探索始点との中点を、探索のための計測を開始する計測始点とする。次に、CPU1010は、計測始点から、ステップS104において算出した最大の境界ギャップの頂点であって大境界を構成する頂点の方向に向かって、エンジン測定部11によって測定された結果がエンジンの所定の動作条件を超えるまで、制御パラメータの値を変化させて、制御パラメータの限界値を探査する。その後、CPU1010は、処理をステップS102に移す。
【0051】
図5は、本発明の一実施形態に係る限界点探索装置10により探索した限界点の例を示す図である。図6は、従来の限界点探索により探索した限界点の例を示す図である。
【0052】
図5は、限界点探索装置10により、境界ギャップの大きさが最大の方向に向かって限界点を探索した結果、限界点131から限界点137の7点で運転可能領域390を概ね構成することができていることを示している。図6は、従来の、例えば、8方向探索により限界点を探索した結果、限界点141から限界点148の8点を探索したが、図6の例のような運転可能領域390の場合には、探索した8点でも運転可能領域390を構成するには不十分であることを示している。
【0053】
本実施形態によれば、限界点探索装置10は、探査した限界値に対応する限界点によって境界を作成し、作成した境界を構成する限界点のうち、第1の限界点を挟んで隣り合うN個の限界点を求め(N=次元数(変化させる制御パラメータ数))、求めたN個の限界点によって形成される超平面と平行な超平面であって第1の限界点を含む超平面を、境界を構成する全ての限界点について求め、求めた超平面によって構成される大境界を作成する。そして、限界点探索装置10は、作成した大境界と、作成した境界との隙間である境界ギャップのうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップを算出し、算出した最大の境界ギャップの頂点であって大境界を構成する頂点の方向に向かって、探索始点から限界点の探索を行う。さらに、限界点探索装置10は、探索する方向と境界との交点を算出し、算出した交点と探索始点との間に、探索のための計測を開始する計測始点を算出する。さらに、限界点探索装置10は、算出された最大の境界ギャップの大きさが、閾値以下であるか否かを判定し、閾値以下であると判定されるまで、限界点の探索を行うように限界値の探査を制御する。
したがって、限界点探索装置10は、限界点を探索する途中での結果である探索した限界点を有効に活用し、効率のよい限界点探索を行うことができる。
【0054】
本実施形態では、制御パラメータが2つの場合の2次元における例について述べたが、本発明は、制御パラメータが3つ以上の場合の3次元以上についても適宜対応付けて成立する。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0056】
10 限界点探索装置
11 エンジン測定部
12 限界値探査部
13 境界作成部
14 超平面作成部
15 大境界作成部
16 最大境界ギャップ算出部
17 探索制御部
18 計測始点算出部
19 境界ギャップ判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の制御パラメータによって制御されるエンジンの運転可能領域を構成する限界点を探索する限界点探索装置であって、
前記エンジンの動作状態を測定するエンジン測定手段と、
前記エンジン測定手段によって測定された結果が前記エンジンの所定の動作条件を超えるまで、所定の探索始点から、所定の探索方向に向かって前記制御パラメータの値を変化させて、制御パラメータの限界値を探査する限界値探査手段と、
前記限界値探査手段によって探査された限界値に対応する限界点によって境界を作成する境界作成手段と、
前記境界作成手段によって作成された境界を構成する限界点のうち、第1の限界点を挟んで隣り合うN個の限界点を求め(N=次元数)、求めたN個の限界点によって形成される超平面線分と平行な超平面であって第1の限界点を含む超平面を求める超平面作成手段と、
前記境界作成手段によって作成された境界を構成する全ての限界点について、前記超平面作成手段によって超平面を求め、求められた超平面によって構成される大境界を作成する大境界作成手段と、
前記大境界作成手段によって作成された大境界と、前記境界作成手段によって作成された境界との隙間である境界ギャップのうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップを算出する最大境界ギャップ算出手段と、
前記最大境界ギャップ算出手段によって算出された最大の境界ギャップの頂点であって前記大境界を構成する頂点の方向に向かって、前記探索始点から限界点の探索を行うように前記限界値探査手段を制御する探索制御手段と、
を備える限界点探索装置。
【請求項2】
前記限界点を探索する際に、探索する方向と前記境界との交点を算出し、算出した交点と前記探索始点との間に、探索のための計測を開始する計測始点を算出する計測始点算出手段をさらに備える、
請求項1に記載の限界点探索装置。
【請求項3】
前記最大境界ギャップ算出手段によって算出された最大の前記境界ギャップの大きさが、閾値以下であるか否かを判定する境界ギャップ判定手段を備え、
前記探索制御手段は、前記境界ギャップ判定手段によって最大の前記境界ギャップの大きさが閾値以下であると判定されるまで、限界点の探索を行うように前記限界値探査手段を制御する請求項1又は2に記載の限界点探索装置。
【請求項4】
複数の制御パラメータによって制御されるエンジンの運転可能領域を構成する限界点を探索する限界点探索装置が実行する方法であって、
前記エンジンの動作状態を測定するエンジン測定ステップと、
前記エンジン測定ステップによって測定された結果が前記エンジンの所定の動作条件を超えるまで、所定の探索始点から、所定の探索方向に向かって前記制御パラメータの値を変化させて、制御パラメータの限界値を探査する限界値探査ステップと、
前記限界値探査ステップによって探査された限界値に対応する限界点によって境界を作成する境界作成ステップと、
前記境界作成ステップによって作成された境界を構成する限界点のうち、第1の限界点を挟んで隣り合うN個の限界点を求め(N=次元数)、求めたN個の限界点によって形成される超平面と平行な超平面であって第1の限界点を含む超平面を求める超平面作成ステップと、
前記境界作成ステップによって作成された境界を構成する全ての限界点について、前記超平面作成ステップによって超平面を求め、求められた超平面によって構成される大境界を作成する大境界作成ステップと、
前記大境界作成ステップによって作成された大境界と、前記境界作成ステップによって作成された境界との隙間である境界ギャップのうち、当該境界ギャップの大きさが最大の境界ギャップを算出する最大境界ギャップ算出ステップと、
前記最大境界ギャップ算出ステップによって算出された最大の境界ギャップの頂点であって前記大境界を構成する頂点の方向に向かって、前記探索始点から限界点の探索を行うように制御する探索制御ステップと、
を備える方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−64638(P2013−64638A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203270(P2011−203270)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】