説明

院内感染防止用病棟

【課題】 病棟における院内感染を完全になくすには、病棟を外来棟と分離し、病棟に出入りする人や物を入口で無菌状態にする必要がある。
【解決手段】本発明に係る院内感染防止用病棟は、ホール(1)、面会室(2)、厨房(3)、汚物処理室(4)、手術室(5)、洗面室(6)、病室(7)、検査室(8)及び空調装置(9)を備える。該ホールは玄関(11)で外部と連通し、内部に面会人、入院患者、医療関係者、厨房・清掃関係者及び被検査者の各出入口(12〜16)を備える。該面会人出入口は該面会室に通じ、該入院患者、医療関係者、厨房・清掃関係者及び被検査者の各出入口は全身殺菌室に通じている。該入院患者と医療関係者の全身殺菌室は該手術室、洗面室及び病室に連通し、該厨房・清掃関係者用の全身殺菌室は該厨房と汚物処理室に通じている。少なくとも該手術室、洗面室及び病室に次亜水のミストの吹出口が開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は院内感染防止用病棟に関し、外来棟と完全に分離することにより、細菌の病棟内への侵入を阻止するようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
従来、次亜塩素酸水の殺菌効果を利用して、加湿装置のエレメントに繁殖する雑菌等による影響を抑え、使用者に対して健康上安全な加湿の得られる加湿装置付き空調装置が開示されている(特許文献1)。
また、除菌消臭効果のある次亜塩素酸水を超音波加湿器の水として利用することにより、レジオネラ菌等の雑菌の繁殖をなくすようにした除菌消臭超音波加湿器もある(特許文献2)。
【0003】
現在院内感染ばかりか一般社会の中に薬剤耐性菌が蔓延しつつあるということがマスコミにしばしば報じられるようになっている。ペニシリンに始まる抗生物質登場が、細菌感染症の予防、治療の切り札となるという考えはすでに過去のものとなりつつあり、世界中の製薬会社に、もはや新薬を開発することは無意味であるとして、開発が殆ど中止される状況が生まれている。
【0004】
研究者の間の常識として、抗生物質の由来は土壌中の細菌であり、彼らの生存競争に使われている槍に相当する物である。一方薬剤耐性はそれに対する防御手段としての盾に当たる物で、現在これらの耐性を司る遺伝情報が、土壌細菌からプラスミッドやトランスポーゾンと言った担体(DNA断片)に乗って菌から菌へと運ばれ、最終的には、人類や食用動物の腸管内の細菌(大腸菌が代表的存在)に移ってきている。
【0005】
世界中で、地域差はあるものの、一般社会の清潔度と、抗生物質の販売規制の差によって、耐性菌の検出頻度は大きく異なっている。しかし主として米国やカナダからの報告では、手指を介しての接触感染により、家族内伝播、老人保健施設や小児の保育所と言った場で糞便内の大腸菌の検査を行うと全く同じ耐性菌がほぼ全員から検出されると言うことが分かってきている。
【0006】
又、耐性菌の多い地域を旅行した人間の帰国後に、その地域に広がっている耐性大腸菌が旅行者の腸管内に移っていることも、30年以上前から繰り返し報告されている。
【0007】
又、食用動物飼育に当たって、抗生物質を与えると腸内の細菌が減少し、菌によって消費される栄養分が腸から吸収されることで動物の発育が早まることから、長年動物専用の抗生物質が製薬メーカーによって開発され、飼育業者が飼料に混入して与えて来た。その結果、動物の腸管内で耐性菌が増え、それによって汚染された細菌が市場で販売されている食用肉(鶏に特に多いという報告がある)から検出される例が多々あることが分かって、一定の種類の抗生物質を動物に与えることを禁止する法律さえ作られている。
【0008】
一旦耐性を獲得した菌は、同じプラスミッド上に他種類の耐性因子が存在することから、一種類の薬剤の使用を制限しても、他の薬剤を与えた場合、やはり耐性菌が選択され続ける(Co-resistance共同耐性)ため、何年経過しても全く減少しないという報告も見られる。
【0009】
従来強調されてきた院内感染菌の薬剤耐性の問題ばかりでなく、このような機作によって、一般社会の中にも耐性菌が増加し、病院などと一般社会との間での耐性菌のやりとりも大きな問題とされるようになっている。
【0010】
現在こういった耐性菌に対して、唯一カルバペエム系の薬剤のみ抗菌力を示してはいるが、やはり伝達性を持つカルバペネム耐性菌が徐々に増加するであろうという警告もしばしば見られてきている。
【0011】
現在、薬剤耐性菌として問題とされる菌種は、グラム陽性菌群に属するMRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)、更にそれに対する特効薬のバンコマイシンに対して耐性となったVRSA及びバンコマイシン耐性の腸球菌等の空中落下細菌として検出される菌群と、多剤耐性緑膿菌、多剤耐性腸内細菌群(大腸菌や、一時新聞の紙面を賑わせたセラチア等)及び床面や、水気の多いところに生息しやすいグラム陰性菌群の二種類に大別される。これらは各々伝播のパターンが異なるため、空中殺菌(ミストによる)と床面等(特に便所や汚物処理所等)を洗浄殺菌する方法を併用する必要がある。
【0012】
手指を介しての接触感染は両群の菌共に見られる。医療施設内では消毒薬をアルコールに溶かしたものを手に吹き付け、擦り合わせる方法が行われているが、この方法は一般社会の中では行われるべきものではなく、皮膚の防御被膜を取り去ったり、手の表面を荒らしたりして好ましくないことが専門家から警告されている。
【0013】
近年米国の細菌学者が出版した小冊子「最近の逆襲」(本邦でも嘗て吉川昌之介東大教授が出版して話題となった著書と奇しくも同名である)の中にも、もはや抗生物質時代は終わり、人類が頼ることのできる殺菌物質はアルコールと次亜塩素酸のみであると書かれている。
【0014】
しかし、アルコールは一般的に何処でも用いられるものではない。また、次亜塩素酸はソーダ塩として3%のものが各種の消毒に用いられているが、人体にはアルカリ性が強く、200ppm程度に薄めたものが傷のない皮膚、粘膜用として認可されているのみである。次亜塩素酸は中和するために酸を加えると刺激性の強い塩素ガスが出て危険なため、一般には用いられていない。しかし塩素ガスを出さぬ方法で中和して、弱酸性とすると、殺菌、殺ヴィールス力が100倍となり、組織刺激性も無い液となる。
【0015】
この弱酸性次亜塩素酸をどのように応用して、現在普及しつつある食品消毒のみでなく、院内感染や、一般社会での抗生物質耐性菌の拡散を防ぐかを考えることが最も重要な課題である。ここに申請する特許は、その最も極端な例として、抗生物質に全く頼らずして、院内感染の発生を最大限予防する病院建築の設計である。
【0016】
この無菌病棟は、遠くない将来に、抗生物質耐性菌が社会に満ちあふれ、もはや病院でも手術に際して高率に院内感染が生じ、ヴィール性呼吸器感染に伴う細菌感染(嘗てのインフルエンザ大流行の際の死者の大部分は最近の混合感染によるものであったことは呼吸器感染症学者の常識となっている。)による死亡率の増加が必然的であるという悲観的観測に沿って、その対応策の一つの形を提供することを意図する。
【0017】
【特許文献1】特開2002―181358号公報
【特許文献2】登録実用新案公報第3154192号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1に記載された発明の空調装置は、その段落[0023]に述べられているように、加湿装置(200)を空調ケース(110)内に収容したもので、その目的は[0004]から、加湿手段(210)に繁殖する雑菌等による影響を抑え、使用者に対して健康上安全な加湿の得られる加湿装置を提供することである。そして、[0006] 、[0007]から雑菌等の処理には水道水に含まれる次亜塩素酸を利用していることが分かる。
この空調装置は、[0037]の末尾5〜7行の「加湿エレメント210の水分が蒸発し湿気として加湿送風口292および空気送風口112から放出される。」及び[0056]の2〜4行の「加湿エレメント210の水分が蒸発し湿気として加湿送風口292および空気送風口112から放出される。」から、部屋毎に設置されるタイプと考えられ、小さな建屋の場合は採用し易いが、病棟のように大きな建屋自体を外来棟から完全に遮断するのには不向きである。
【0019】
特許文献2には次亜塩素酸水を使用した除菌消臭超音波加湿器が開示されている。その図2と図3を参照すると、除菌消臭超音波加湿器1が生成するマイクロミスト10は送風機9の送風に載って空間に送り出されるようになっており、大型建造物の空調装置に組み込まれるのではなく、部屋ごとに設置されるものと思われる。従って、この特許文献2に記載された発明は、特許文献1と同様な課題を抱えている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(請求項1)本発明にかかる院内感染防止用病棟はホール、面会室、厨房、汚物処理室、手術室、洗面室(トイレ)、病室、検査室及び空調装置を備えている。該ホールは玄関で外部と連通し、内部に面会人、入院患者、医療関係者、厨房・清掃関係者及び被検査者の各出入口を備えている。該面会人出入口は該面会室に通じている。該入院患者、該医療関係者、該厨房・清掃関係者及び被検査者の各出入口は各別の全身殺菌室に通じている。該入院患者と該医療関係者の該全身殺菌室は該手術室、該洗面室及び該病室に連通している。該厨房・清掃関係者の該全身殺菌室は該厨房及び該汚物処理室に連通している。該被検査者の該全身殺菌室は該検査室に連通している。そして、少なくとも該手術室、該洗面室及び該病室に、該空調装置からメインダクトを通って送られる弱酸性(pH5〜6.5)で次亜塩素酸を一定濃度に含む殺菌水(以下「次亜水」という。)のミストの吹出口が開口している。
【0021】
この院内感染防止用病棟は、外来棟と独立して、又は外来棟と連続して建立されるが、何れの場合でも、人や物が外来棟を通って入ってくる場合に、細菌がこれらに付着して院内感染防止用病棟に入り込むのを遮断しなければならない。
本発明では、院内感染防止用病棟のホールに入って来た人物を、その除菌の必要度に応じて各別の経路に導くようになっている。即ち、面会人は直接に又は軽度の除菌処理をして面会室に行き、入院患者や医療関係者は全身殺菌室で除菌後に手術室、洗面室及び病室に通路を通って行き、厨房・清掃関係者のように被菌率が高い人物は全身殺菌室で除菌後に厨房室及び汚物処理室に行けるだけにして医者や入院患者等との接触を断ち、万が一細菌がこれらの人物に残留していても医者や入院患者等に感染する恐れをなくしている。従って、極めて効率的でかつ完全な除菌作業ができる。
【0022】
装置から送り出された次亜水ミストは各室に吹出口から送り込まれて隅々まで行きわたり、殺菌、除臭機能を発揮して各室内を浄化し、人体には何らの悪影響も与えない。次亜水のミストを各室に送り込むやり方は、メインダクトから室ごとに分流させる並列型や、各室を順次に流す直列型があり、その選択は自由である。ここでいう「各室」には、既記のホール、面会室、厨房、汚物処理室、手術室、洗面室、病室以外の全身殺菌室、廊下、食堂その他の室を含むこともあるので、以下の説明では、必要に応じ、これらを包括して「各室等」と表現する。
【0023】
この次亜水ミストは酸化性が強いので、このミストと接触する各室等、メインダクト、吹出口等の面を耐酸化性材で構成する必要がある。耐酸化性の無い材料を止むを得ず使用した場合はその表面を耐久性のある耐酸化性膜で厚く覆って、耐酸化性とし、長期の使用に耐えるようにする必要がある。
【0024】
(請求項2)該面会室は透孔を有する可透視の仕切壁で面会人室と入院患者室に仕切られ、該入院患者室は該病室と連通し、該入院患者室内が該面会人室内より高圧に保たれていてもよい。
こうすると、面会人が直接入院患者と接触することはなく、気流は常に入院患者室から面会人室に流れるので、面会人から入院患者に細菌が感染するのを防げる。
【0025】
(請求項3)該厨房は配膳用ワゴンを収納するワゴン室、食器洗浄室、食器消毒室、食器乾燥棚、配膳棚、食後の食器の配置棚、該ワゴン室に連通する専用エレベーターを備えていてもよい。
こうすると、飲食物に細菌類が付着するのを効果的に予防することができる。
【0026】
(請求項4)該厨房には食材及び手指を殺菌する次亜水をペダルで開閉して供給する蛇口が設けられていてもよい。
こうすると、調理師等はこの蛇口を開いて手洗いをし、食材を洗浄することにより、これらに付着している細菌類を除去できる。
【0027】
(請求項5)該汚物処理室の床面にはマットが敷設され、該マットは通水性を有し、表面が防滑面となり、かつ耐酸化性を有し、該床面上に延びた給水管から該マット上に給水される次亜水が該マット及び排水溝を通って室外へ排出されるようになっていてもよい。
こうすると、細菌による汚染が起きやすい該汚物処理室でも、次亜水を床面の一端側からマット表面が浸る程度に連続的又は間欠的に供給し、床面の他端側で排出することにより、床面を常に除菌状態に保つことができる。マット表面が濡れていても滑ることはなく、マットが腐食することもない。なお、この際、マット面を該通路の表面より僅かに低くして、次亜水が通路に流れ出ないようにし、通路とマット面に生じる段差は、表面が傾斜した踏板等でバリアフリーと同様に保つ。また、床面には必要な勾配をつけるのがよい。
【0028】
(請求項6)該手術室は全周面を耐酸化性の被覆材で囲まれていてもよい。
こうすると、HIV患者や他の強毒ヴィールス感染患者の手術が必要な場合でも、手術室の全周面を次亜水の吹き付け洗浄で殺菌ができる。
【0029】
(請求項7)該手術室は前段に、水温が40±3℃で20〜50ppmの次亜水を入れる浴槽と消毒衣の用意された手術準備室を備えていてもよい。
こうすると、手術をする患者や医療従事者はこの手術準備室で全身殺菌してから手術に臨むので、不慮の感染を防止できる。
【0030】
(請求項8)該洗面室の床面にはマットが敷設され、該マットは通水性を有し、表面が防滑面となり、かつ耐酸化性を有し、該床面上に延びた給水管から該マット上に給水される次亜水が該マット及び排水溝を通って室外へ排出されるようになっていてもよい。
こうすると、細菌による汚染が起きやすい洗面室でも、次亜水を床面の一端側からマットの表面が浸る程度に連続的又は間欠的に供給し、床面の他端側で排出することにより、床面を常に除菌状態に保つことができる。マットの表面が濡れていても滑ることはなく、マットが腐食することもない。
なお、この場合も、マットの表面を廊下の表面より僅かに低くして、次亜水が廊下に流れ出ないようにし、廊下とマットの表面に生じる段差は、表面が傾斜した踏板等でバリアフリーと同様に保つことができる。

【0031】
(請求項9)該病室の床面は耐酸化性かつ防滑性の資材で被覆され、壁面や天井面等の周面は平坦面の耐水性、耐酸化性及び非帯電性の物質で構成されていてもよい。
こうすると、除菌、殺菌用のミストが病室内に吹き出されても、資材が腐食する恐れがなく、周面を清掃具で拭取ることができ、床面が濡れても防滑性を備えているので患者、医者、職員、清掃業者等が滑ったりせず安全で、静電気も起きないので発火等の恐れもない.
【0032】
(請求項10)該入院患者と該医療関係者の該全身殺菌室は順次連通可能に仕切られた除塵室、脱衣室、浴室及び着衣室で構成されていてもよい。
こうすると、除塵室で大まかな除塵が行われ、脱衣して入浴することで完全な殺菌が行われ、無菌の衣服を纏うことで細菌の手術室、病室等への侵入を防げる。
【0033】
(請求項11)該厨房・清掃関係者用の該全身殺菌室は順次連通可能に仕切られた除塵室、脱衣室、シャワー室及び着衣室で構成されていてもよい。
こうすると、浴洗までは必要でない厨房・清掃関係者に適合した除菌を行うことができる。
【0034】
(請求項12)該入院患者の浴室の床面は表面を防滑面とした耐酸化性の素材で構成され、その各浴槽は900〜1,100ppmの炭酸泉の湯水が満たされ、その水量に応じ、10〜20gの次亜塩素酸ソーダが加えられて0.1g/L=100ppm程度の最終濃度とされてもよい。
こうすると、床面は腐食や劣化したりせず、床面上の防滑面により滑って転んだりすることがなく、浴槽内の湯水は人体に付着している細菌類を駆除でき、沐浴後の湯水は排水口から排出できる。
【0035】
(請求項13)該医療関係者用の該浴室は中間で深さの異なる並列された複数の殺菌プールで前部及び後部に仕切られ、該前部及び後部はシャワー室となっていてもよい。
完全な消毒が求められる医療関係者の場合、シャワーだけでは問題が残る(特に外陰部及び女性の膣内消毒について)。この構成の浴室により、該前部の通路の両側に配置された多数のシャワーで一旦石鹸を使用して体の表面の有機物を除き、次いで各人が首まで浸れるように深さの異なった複数列となっている殺菌プールを強制的に歩かせて全身殺菌を行い、該後部のシャワーで頭や顔を洗浄するので、十分に殺菌できる。該殺菌プールの長さは10m程度とするのが好ましく、殺菌水は常に循環パイプで殺菌消毒装置に循環させて清浄に保つとともに、必要な塩素濃度を備えさせるようにするのが望ましい。
【0036】
(請求項14)該ミストの粒子の大きさは4〜7μmであってもよい。
こうすると、ミストが該メインダクト、該吹出口、各室等の表面に衝突してもその表面張力により破裂することがないので、表面を濡らさずに済む。
【0037】
(請求項15)該ミスト内の次亜塩素酸濃度は50〜300ppmであってもよい。
こうすると、各室等に応じて最適の濃度条件で殺菌や除菌を行え、臭気も耐え得る範囲におさまる。
【発明の効果】
【0038】
(請求項1)本発明にかかる院内感染防止用病棟によれば、ホールに入って来た人物を、その除菌の必要度に応じて各別の経路に導き、面会人は直接に又は軽度の除菌処理をして面会室に行け、入院患者や医療関係者は全身殺菌室で除菌後に直接に、又はエレベーターを使用して手術室、洗面室及び病室に行くことができ、厨房・清掃関係者のように被菌率が高い人物は、全身殺菌室で除菌後に厨房及び汚物処理室に行けるだけなので、万が一細菌がこれらの人物に残留していても医者や入院患者等に感染する恐れはない。従って、極めて効率的でかつ完全な除菌作業ができる。検査の必要な人物は全身殺菌室から検査室に行くので、万一除菌が不完全でも他人との接触はなく、感染の危険性はほとんどない。また、少なくとも該手術室、洗面室及び病室は吹出口から送り込まれた次亜水のミストが隅々まで行きわたって殺菌、除臭機能を発揮するので浄化され、しかもこのミストは人体に何らの悪影響も与えない。
【0039】
この次亜水ミストは酸化性が強いので、このミストが接触する各ダクト、吹出口、各室の面を耐酸化性材で構成する必要がある。耐酸化性の無い材料を止むを得ず使用した場合はその表面を耐久性のある耐酸化性膜で厚く覆って、耐酸化性とし、長期の使用に耐えるようにする必要がある。
【0040】
請求項2によれば、該面会室は透孔を有する可透視の仕切壁で面会人室と入院患者室に仕切られ、該入院患者室は該病室と連通し、該入院患者室内が該面会人室内より高圧に保たれているので、面会人が直接入院患者と接触することはなく、気流は常に入院患者室から面会人室に流れるので、面会人から入院患者に細菌が感染するのを防げる。
【0041】
請求項3によれば、該厨房は配膳用ワゴンを収納するワゴン室、食器洗浄室、食器消毒室、食器乾燥棚、配膳棚、食後の食器の配置棚、該ワゴン室に連通する専用エレベーターを備えているので、飲食物の調理、洗浄、配膳時等に細菌類が付着するのを効果的に予防することができる。
【0042】
請求項4によれば、該厨房には食材及び手指を殺菌する次亜水をペダルで開閉して供給する蛇口が設けられているので、調理師等はこのペダルで蛇口を開閉して手洗いをし、食材を洗浄することにより、これらに付着している細菌類を除去できる。
【0043】
請求項5によれば、該汚物処理室の床面にはマットが敷設され、該マットは通水性を有し、表面が防滑面となり、かつ耐酸化性を有し、該床面上に延びた給水管から該マット上に給水される次亜水が該マット及び排水溝を通って室外へ排出されるようになっているので、細菌による汚染が起きやすい汚物処理室でも、次亜水を床面の一端側からマット表面が浸る程度に連続的又は間欠的に供給し、床面の他端側で排出することにより、床面を常に除菌状態に保つことができる。マット表面が濡れていても滑ることはなく、マットが腐食することもない。なお、マット面を該通路の表面より僅かに低くして次亜水が通路に流れ出ないようにし、通路とマット面に生じる段差は、表面が傾斜した踏板等でバリアフリーとするのが望ましい。また、床面には必要な勾配をつけるのがよい。
【0044】
請求項6によれば、該手術室は全周面を耐酸化性の被覆材で囲まれているので、HIV患者や他の強毒ヴィールス感染患者の手術が必要な場合でも、手術室の全周面を次亜水の吹き付け洗浄で殺菌ができる。
【0045】
請求項7によれば、該手術室は前段に、水温が40±3℃で20〜50ppmの次亜水を入れる浴槽と消毒衣の用意された手術準備室を備えているので、手術をする患者や医療従事者はこの手術準備室で全身殺菌してから手術に臨むことにより、不慮の感染を防止できる。
【0046】
請求項8によれば、該洗面室の床面にはマットが敷設され、該マットは通水性を有し、表面が防滑面となり、かつ耐酸化性を有し、該床面上に延びた給水管から該マット上に給水される次亜水が該マット及び排水溝を通って室外へ排出されるようになっているので、細菌による汚染が起きやすい洗面室でも、該汚物処理室と同様に床面の除菌性、防滑性、耐腐食性を保て、マット面を該汚物処理室と同様の配置として同様の効果を奏する。
【0047】
請求項9によれば、該病室の床面は耐酸化性かつ防滑性の資材で被覆され、壁面や天井面等の周面は平坦面で耐水性、耐酸化性及び非帯電性の物質で構成されているので、除菌、殺菌用のミストが病室内に吹き出されても、資材が腐食する恐れがなく、周面を清掃具で拭取ることができ、床面が濡れても防滑性を備えているので患者、医者、職員、清掃業者等が滑ったりせず安全で、静電気も起きないので発火等の恐れもない。
【0048】
請求項10によれば、入院患者と医療関係者の該全身殺菌室は順次連通可能に仕切られた除塵室、脱衣室、浴室及び着衣室で構成されているので、除塵室で大まかな除塵が行われ、脱衣して入浴することで完全な殺菌が行われ、無菌の衣服を纏うことで細菌の手術室、病室等への侵入を防げる。
【0049】
請求項11によれば、厨房・清掃関係者及び被検査者の該全身殺菌室は順次連通可能に仕切られた除塵室、脱衣室、シャワー室及び着衣室で構成されているので、沐浴までは必要でない厨房・清掃関係者や被検査者に適合した除菌を行うことができる。
【0050】
請求項12によれば、入院患者の該浴室の床面は表面を防滑面とした耐酸化性の素材で構成され、その各浴槽は900〜1,100ppmの炭酸泉の湯水が満たされ、その水量に応じ、10〜20gの次亜塩素酸ソーダが加えられて0.1g/L=100ppm程度の最終濃度とされるので、床面は腐食や劣化したりせず、床面上の防滑面により滑って転んだりすることがなく、浴槽内の湯水は人体に付着している細菌類を効果的に駆除でき、沐浴後の湯水は排水口から排出できる。
【0051】
請求項13によれば、医療関係者の該浴室は中間で深さの異なる並列された複数の殺菌プールで前部及び後部に仕切られ、該前部及び後部はシャワー室となっているので、医療関係者は強制的に殺菌プールを通ることになり、完全な除菌が可能で、患者に対する感染を防げる。
【0052】
請求項14によれば、該ミストの粒子の大きさは4〜7μmなので、ミストが該メインダクト、該吹出口、各室等の表面に衝突してもその表面張力により破裂することがなく、表面を濡らさずに済む。
【0053】
請求項15によれば、該ミスト内の次亜塩素酸濃度は50〜300ppmなので、各室に応じて最適の濃度条件で殺菌や除菌を行え、臭気も耐え得る範囲におさまる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る院内感染防止用病棟を概念的に示す斜面図である。
【図2】厨房3及び検査室8を含む部分の拡大図である。
【図3】厨房3の一部をさらに拡大した部分断面図である。
【図4】汚物処理室4の床部の構造を示す部分切断斜面図である。
【図5】手術室5の部分切断斜面図である。
【図6】洗面室6の床部の構造を示す部分切断斜面図である。
【図7】病室7の部分切断斜面図である。
【図8】浴室163の部分切断斜面図である。
【図9】医療関係者用の浴室173の拡大斜面図である。
【図10】「遊離有効塩素の存在比」のグラフである。
【図11】「遊離塩素の殺菌効果と水のpH」の関係を示す図である。
【図12】表3のデータのグラフである。
【図13】ハセップメイカー生成水の噴霧による落下菌の比較試験を病室7内のT1〜T9の9箇所でした状態の説明図である。
【図14】噴霧場所を図13に示す病室内の3箇所T7、T8、T9として、表5に示すデータをグラフで示したものである。
【図15】アルヴィシャット(次亜塩素酸系消毒薬)のネコカリシウイルスに対する不活性化効果の測定の実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
(請求項1)図1で、本発明にかかる院内感染防止用病棟はホール1、面会室2、厨房3、汚物処理室4、手術室5、洗面室(トイレを含む。)6、病室7、検査室8及び空調装置9を備えている。
【0056】
このホール1は玄関11で外部と連通し、内部に面会人出入口12、入院患者出入口13、医療関係者出入口14、厨房・清掃関係者出入口15及び被検査者出入口16を備えている。
面会人出入口12は面会室2に通じており、入院患者、医療関係者、厨房・清掃関係者及び被検査者の各出入口13、14、15、16は各別の全身殺菌室17、18、19、20に通じている。
【0057】
入院患者の全身殺菌室17と医療関係者の全身殺菌室18は手術室5、洗面室6及び病室7に連通している。被検査者の全身殺菌室19は検査室8に連通している。また、厨房・清掃関係者の全身殺菌室20は厨房3及び汚物処理室4に連通している。
【0058】
そして、少なくとも手術室5、洗面室6及び病室7に、次亜水の製造と送風をする空調装置9から延びるメインダクト91から分岐して、次亜水のミストの吹出口92が開口している。このミストの吹出口92は、これらの室以外のホール1、面会室2、厨房3、汚物処理室4、検査室8及び全身殺菌室17、18、19及び20等にも開口させてよく、この場合は殺菌効果をさらに上げることができる。
【0059】
この院内感染防止用病棟は、外来棟と独立して、又は外来棟と連続して建立される。玄関11を通ってホール1に入って来た人物は、ここで自身の進むべき経路を選ぶことになる。面会人は完全な除菌は必要ないので、直接に面会室2に行く。前述の通り、この面会室2にミストの吹出口92を開口させておけば、面会人自身の除菌もできる。
【0060】
これから入院しようとする患者は全身殺菌室17で、また医療関係者は全身殺菌室18でそれぞれ除菌後に通路を通って直接に、又はエレベータEによって、手術室5や病室7に行く。洗面室(トイレ)6は男性用6aと女性用6bに仕切られており、図示のように病室7から独立している場合や、病室7に付属している場合がある。
【0061】
厨房・清掃関係者のように被菌率が高い人物は、全身殺菌室20で除菌後に厨房3や汚物処理室4に行けるだけなので、万が一細菌がこれらの人物に残留していても医者や入院患者等に感染する恐れはない。また、被検査者は全身殺菌室19を通って直接検査室8に行くので、他人との接触がなく、万一除菌漏れがあっても感染を防止できる。
以上から、この院内感染防止用病棟では、極めて効率的でかつ完全な除菌作業が可能となる。
【0062】
なお、図面で、10は緊急通路で、危篤状態に陥った患者の親族等の出入用となっており、全身を覆う使い捨て用の予防着を纏うための着衣室101を備えている。この着衣室101は病室7等に通じている。また、この着衣室101にもミストの吹出口92を開口させてもよい。
【0063】
各室1〜8相互の通行は、各室相互が隣り合っている場合は直接に、離間している場合は適宜通路やエレベータEを介して、それぞれ開閉が許容されている扉(符号省略)により行われる。病棟から去る場合は全身消毒が不要なので、そのためのバイパスを設けてもよく、厨房・清掃関係者の全身殺菌室20と厨房3や汚物処理室4を結ぶ通路Gを利用するようにしてもよい。この通路Gは非常口G’を兼用させることもできる。
【0064】
また、メインダクト91を通って各室1〜8に吹出口92から送り込まれた次亜水ミストは、各室の隅々まで行きわたり、殺菌、除臭機能を発揮して室内を浄化し、人体には何らの悪影響も与えない。
【0065】
この次亜水ミストは酸化性が強いので、メインダクト91、吹出口92、各室1〜8のミストと接触する面を耐酸化性材で構成する必要がある。耐酸化性の無い材料を止むを得ず使用した場合はその表面を耐久性のある耐酸化性膜で厚く覆って、耐酸化性とし、長期の使用に耐えるようにする必要がある。次亜水のミストを各室1〜8に送り込むやり方は、メインダクト91から室ごとに分流させる並列型や、各室を順次に流す直列型があり、その選択は自由である。
【0066】
本発明の実施例である図1で、病棟は想像線で示すように3階建を示してあり、各階の連絡には、通常のように、エレベータEや階段S等の昇降手段が設けられる。この種の病棟にあっては、ここで示した各室以外に食堂や図書室等もあり得るので、この明細書でいう「病室」はこれらと代替可能である。
【0067】
次亜塩素酸のpHによるHOCl量(これが殺菌力の強い成分)の変化については、図10の「遊離有効塩素の存在比」及び図11の「遊離塩素の殺菌効果と水のpH」(「浄水の技術」丹保憲二等著 第102頁 技報堂 1985年11月 出版)に示す通りである。pH9−10は次亜塩素酸ソーダ、pH4−5は弱酸性次亜塩素酸で、pH7を境に酸性に向かうと殺菌効果が強くなり、アルカリ性に向かうと殺菌効果が弱くなることが分かる。
【0068】
(請求項2)面会室2は透孔21を有する可透視の仕切壁22で面会人室23と入院患者室24に仕切られ、入院患者室24は病室7と連通し、入院患者室24内が面会人室23内より高圧に保たれている。
この場合、面会人が直接入院患者と接触することはなく、気流は常に入院患者室24から面会人室23に流れるので、面会人から入院患者に細菌が感染するのを防げる。
【0069】
(請求項3)図2で、厨房3は配膳用ワゴンを収納するワゴン室31、食器洗浄室32、食器消毒室33、食器乾燥棚34、配膳棚35、食後の食器の配置棚36、ワゴン室31に連通する専用エレベータ37を備えている。
この場合、飲食物の調理、食器の洗浄、配膳時等に細菌類が付着するのを効果的に予防することができる。
【0070】
(請求項4)図3で、厨房3には食材及び手指を殺菌する次亜水をペダル38で開閉して供給する蛇口39が設けられている。
この場合、調理師等はこのペダル38により蛇口39を開き、手洗いをし、また食材を洗浄することにより、これらに付着している細菌類を除去できる。
【0071】
(請求項5)図4で、汚物処理室4の床面41にはマット42が敷設される。この床面41には適度の勾配をつけておく。マット42は通水性を有し、表面が防滑面となり、かつ耐酸化性を有している。そして、床面41上に延びた給水管43からマット42上に給水される次亜水は、マット42を通り、排水溝44によって室外へ排出される。
この場合、細菌による汚染が起きやすい汚物処理室4でも、次亜水を床面41の一端側からマット42の表面が浸る程度に連続的又は間欠的に供給し、床面41の他端側で排出することにより、床面41を常に除菌状態に保つことができる。マット42の表面が濡れていても滑ることはなく、マット42が腐食することもない。
なお、マット42の表面を廊下の表面より僅かに低くして、次亜水が廊下に流れ出ないようにし、廊下とマット42の表面に生じる段差は、表面が傾斜した踏板等でバリアフリーと同様に保つことができる。
【0072】
(請求項6)図5で、手術室5は全周面を耐酸化性の被覆材51で囲まれている。
この場合、HIV患者や他の強毒ヴィールス感染患者の手術が必要な場合でも、手術室5の全周面を次亜水の吹き付け洗浄で殺菌ができる。
【0073】
(請求項7)図1で、手術室5は前段に、水温が40±3℃で20〜50ppmの次亜水を入れる浴槽52と消毒衣の用意された手術準備室53を備えている。
この場合、手術をする患者や医療関係者はこの手術準備室53で全身殺菌してから手術に臨むので、不慮の感染を防止できる。
【0074】
(請求項8)図6で、洗面室6の床面61にはマット62が敷設され、このマット62は通水性を有し、表面が防滑面となり、かつ耐酸化性を有し、床面61上に延びた給水管63からマット62上に給水される次亜水がマット62及び排水溝64を通って室外へ排出されるようになっている。
この場合、細菌による汚染が起きやすい洗面室6でも、汚物処理室4と同様に床面61の除菌性、防滑性、耐腐食性を保て、マット62面を汚物処理室4と同様の配置として同様の効果を奏する。
【0075】
(請求項9)図7は病室7の部分図で、床面71は耐酸化性かつ防滑性の資材72で被覆され、壁面や天井面等の周面73は平坦面で耐水性、耐酸化性及び非帯電性の物質で構成されている。
この場合、除菌、殺菌用のミストが病室7内に吹き出されても、資材72が腐食する恐れがなく、周面を清掃具で拭取ることができ、床面71が濡れても防滑性を備えているので患者、医療関係者、清掃業者等が滑ったりせず安全で、静電気も起きないので発火等の恐れもない。
【0076】
(請求項10)図1で、入院患者の全身殺菌室17と医療関係者の全身殺菌室18はそれぞれ順次連通可能に仕切られた除塵室171及び181、脱衣室172及び182、浴室173及び183、及び着衣室174及び184で構成されている。
この場合、除塵室171や181で大まかな除塵が行われ、脱衣室172や182で脱衣し、浴室173や183で入浴し、着衣室174や184で無菌の衣服を着衣することで完全な殺菌が行われ、細菌が手術室5や病室7等へ侵入するのを防げる。
【0077】
(請求項11)図1で、被検査者の全身殺菌室19や厨房・清掃関係者の全身殺菌室20はそれぞれ、順次連通可能に仕切られた除塵室191、201、脱衣室192、202、シャワー室193、203及び着衣室194、204で構成されている。
この場合、被検査者や厨房・清掃関係者はそれぞれ、除塵室191、201で大まかな除塵を行ない、脱衣室192、202で脱衣し、シャワー室193、203でシャワーを浴び、着衣室194、204で無菌の衣服を纏うことでほぼ完全な殺菌が行われ、細菌が検査室へ持ち運ばれたり、食品や料理等へ付着するのを防げる。
【0078】
(請求項12)図8は浴室173及び183の内の一つ173を取り上げて示した部分切断斜面図で、浴室183にも共通する。床面175は表面を防滑面とした耐酸化性の素材176で構成されており、浴槽177は900〜1,100ppmの炭酸泉の湯水が満たされる。そしてその水量に応じ、10〜20gの次亜塩素酸ソーダが加えられて0.1g/L=100ppm程度の最終濃度とされるようになっている。排水口178は床面175の勾配の下端部に設けられる。
この場合、床面175は腐食や劣化したりせず、床面175上の防滑面により滑って転んだりすることがなく、浴槽177内の湯水は人体に付着している細菌類を駆除でき、沐浴後の湯水は排水口178から排出できる。
【0079】
(請求項13)図9で、医療関係者用の全身殺菌室18の浴室183は中間で深さの異なる並列された複数の殺菌プールF1、F2、F3で前部183a及び後部183bに仕切られ、前部183a及び後部183bはシャワー室となっている。
この場合、医療関係者は前部183aで予備洗浄し、次いで強制的に殺菌プールF1、F2、F3を首まで浸かって通り、後部183bで頭部等の残部洗浄をすることになるので、完全な除菌が可能となり、患者に対する感染を防げる。これらの殺菌プールF1、F2、F3は循環パイプF4で殺菌消毒装置F5に連通させ、常時清浄な殺菌水に保つ。
【0080】
(請求項14)ミストの粒子の大きさは4〜7μmとなっている。
この場合、ミストがメインダクト91、吹出口92及び各室等1〜8のそれぞれの表面に衝突してもその表面張力により破裂することがないので、これらの表面を濡らさずに済む。
【0081】
(請求項15)ミスト内の次亜塩素酸濃度は50〜300ppmとなっている。
この場合、各室に応じて最適の濃度条件で殺菌や除菌を行え、臭気も耐え得る範囲におさまる。
【実施例1】
【0082】
ハセップメイカー生成水を含めた3種類の試験水に各種の試験菌を添加して試験管に入れ、1ml当たりの生菌数の時間別実験データは表1に示す通りで、試験先は財団法人日本食品分析センターである。
【0083】
【表1】

* 1) ハセップメイカー生成水:有効塩素濃度57ppm pH7.2(23℃)、食塩水の電解水もしくは中和した次亜塩素酸ソーダ(弱酸性次亜塩素酸)と同質の成分
2) 塩化ベンザルコニウム :有効濃度0.05%
3) 次亜塩素酸ナトリウム :有効塩素濃度200ppm
4) <10:試験機関における検出限界を表す。つまり、菌が検出されなかったことを意味する。
5) 添加菌数:各殺菌剤に接触させる前の菌数である。
【実施例2】
【0084】
表2は、室内に細菌検出用の寒天平板をP1〜P10の10箇所に置いて、ハセップメイカー生成水、水道水、強酸化水の噴霧による落下菌を比較した試験データである。
【0085】
【表2】

【0086】
表3はこれらの各試験水の噴霧前から終了2時間後に至る各中間時期での10か所の平均値である。これをグラフで表示したのが図12である。
【0087】
【表3】

【実施例3】
【0088】
図13に示す病室7内の9箇所T1〜T9で、ハセップメイカー生成水の噴霧による落下菌の比較試験結果は、表4に示す通りである。最下欄の生菌総数で分かる通り、噴霧の前後で生菌総数が大なり小なり減少している。その条件は、表4の下に記してある。
【0089】
【表4】

「条件」
・噴霧方法:搬送流付き超音波噴霧器74
・噴霧場所:病室7内のT1〜T9
・ハセップメイカー生成水:(pH6.0、有効塩素濃度200ppm)1時間噴霧
・環境:噴霧中は出入口75のドアは閉めていたが、噴霧中に看護師の出入りは数回あった。
【実施例4】
【0090】
実施例3の試験の条件中、噴霧場所を図13に示す病室7内の3箇所T7〜T9で、同様の比較試験を噴霧前、噴霧中、噴霧後に分けてした結果は、表5に示す通りである。最下欄の生菌総数を見てわかる通り、噴霧前と噴霧後では生菌総数が大幅に減少している。図14は、これをグラフで示したものである。
【0091】
【表5】

【実施例5】
【0092】
アルヴィシャット(次亜塩素酸系消毒薬)のネコカリシウイルスに対する不活性化効果の測定の実験の結果は表6及びそのグラフである図15に示す通りで、再現性があることが確認された。
【0093】
【表6】

表6は、培養が不可能なヒトノロウイルスに変えて類似のネコカリシウイルスを用いた場合である。ウイルスを処理するために用いた濃度は、予備実験の結果から最終濃度100ppmとし、ウイルスとの接触時間を1から10分間とした。その結果、ネコカリシウイルス感受性CRFK細胞でのブラックの数は急激に減少し、1分間の接触で約1/700になり、3分間では約1/7000になった。10分間の接触では10万分の1以下に減少したが、この作用時間内では完全なウイルスの不活性化は観察されなかった。ちなみに、アルコールを用いた場合は、30分で0.1%、5分で1%までの減少であった。
これらの結果は、アルヴィシャットが効率よくヒトノロウイルスを不活性化しうることを示しており、近年急増しているノロウイルスによる食中毒を予防できる可能性を示し、食品衛生上の観点からも重要な結果といえる。
【符号の説明】
【0094】
1 ホール
11 玄関
12、13、14、15、16 出入口
17、18、19、20 全身殺菌室
171、181、191、201 除塵室
172、182、192、202 脱衣室
173、183 浴室
174、184、194、204 着衣室
193、203 シャワー室
2 面会室
21 透孔
22 仕切壁
23 面会人室
24 入院患者室
3 厨房
31 ワゴン室
32 食器洗浄室
33 食器消毒室
34 食器乾燥棚
35 配膳棚
36 配置棚
37 専用エレベータ
38 ペダル
39 蛇口
331 床面
332 素材
4 汚物処理室
41 床面
42 マット
43 給水管
44 排水溝
5 手術室
51 被覆材
52 浴槽
53 手術準備室
6 洗面室
61 床面
62 マット
63 給水管
64 排水溝
7 病室
71 床面
72 資材
73 周面
175 床面
176 素材
177 浴槽
8 検査室
183a 前部
183b 後部
F1、F2、F3 殺菌プール
F4 循環パイプ
F5 殺菌消毒装置
9 空調装置
91 メインダクト
92 吹出口
10 緊急通路
101 着衣室
E エレベータ
S 階段
G 通路
G’ 非常口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホール(1)、面会室(2)、厨房(3)、汚物処理室(4)、手術室(5)、洗面室(6)、病室(7)、検査室(8)及び空調装置(9)を備え、
該ホール(1)は玄関(11)で外部と連通し、内部に面会人、入院患者、医療関係者、厨房・清掃関係者及び被検査者の各出入口(12,13,14,15,16)を備え、
該面会人出入口(12)は該面会室(2)に通じ、
該入院患者、該医療関係者、該厨房・清掃関係者及び被検査者の各出入口(13,14,15,16)は各別の全身殺菌室(17,18,19,20)に通じており、
該入院患者と該医療関係者の該全身殺菌室(17,18)は該手術室(5)、該洗面室(6)及び該病室(7)に連通しており、
該厨房・清掃関係者の該全身殺菌室(19)は該厨房(3)及び該汚物処理室(4)に連通しており、
該被検査者の該全身殺菌室(20)は該検査室(8)に連通しており、
少なくとも該手術室(5)、該洗面室(6)及び該病室(7)に該空調装置(9)からメインダクト(91)を通って送られる次亜水のミストの吹出口(92)が開口している
ことを特徴とする院内感染防止用病棟。

【請求項2】
該面会室(2)は透孔(21)を有する可透視の仕切壁(22)で面会人室(23)と入院患者室(24)に仕切られ、該入院患者室(24)は該病室(7)と連通し、該入院患者室(24)内が該面会人室(23)内より高圧に保たれている請求項1に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項3】
該厨房(3)は配膳用ワゴンを収納するワゴン室(31)、食器洗浄室(32)、食器消毒室(33)、食器乾燥棚(34)、配膳棚(35)、食後の食器の配置棚(36)、該ワゴン室(31)に連通する専用エレベーター(37)を備えている請求項1に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項4】
該厨房(3)には食材及び手指を殺菌する次亜水をペダル(38)で開閉して供給する蛇口(39)が設けられている請求項1又は3に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項5】
該汚物処理室(4)の床面(41)にはマット(42)が敷設され、該マット(42)は通水性を有し、表面が防滑面となり、かつ耐酸化性を有し、該床面(41)上に延びた給水管(43)から該マット(42)上に給水される次亜水が該マット(42)及び排水溝(44)を通って室外へ排出されるようになっている請求項1に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項6】
該手術室(5)は全周面を耐酸化性の被覆材(51)で囲まれている請求項1に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項7】
該手術室(5)は前段に、水温が40±3℃で20〜50ppmの次亜水を入れる浴槽(52)と消毒衣の用意された手術準備室(53)を備えている請求項1又は5に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項8】
該洗面室(6)の床面(61)にはマット(62)が敷設され、該マット(62)は通水性を有し、表面が防滑面となり、かつ耐酸化性を有し、該床面(61)上に延びた給水管(63)から該マット(62)上に給水される次亜水が該マット(62)及び排水溝(64)を通って室外へ排出されるようになっている請求項1に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項9】
該病室(7)の床面(71)は耐酸化性かつ防滑性の資材(72)で被覆され、壁面や天井面等の周面(73)は平坦面の耐水性、耐酸化性及び非帯電性の物質で構成されている請求項1に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項10】
該入院患者と該医療関係者の該全身殺菌室(17,18)は順次連通可能に仕切られた除塵室(171,
181)、脱衣室(172, 182)、浴室(173, 183)及び着衣室(174, 184)で構成されている請求項1に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項11】
厨房・清掃関係者及び被検査者の該全身殺菌室(19,20)は順次連通可能に仕切られた除塵室(191,201)、脱衣室(192,202)、シャワー室(193,203)及び着衣室(194,204)で構成されている請求項1に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項12】
入院患者の該浴室(163)の床面(165)は表面を防滑面とした耐酸化性の素材(166)で構成され、その各浴槽(167)は900〜1,100ppmの炭酸泉の湯水が満たされ、その水量に応じ、10〜20gの次亜塩素酸ソーダが加えられて0.1g/L=100ppm程度の最終濃度とされる請求項8に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項13】
医療関係者の該浴室(173)は中間で深さの異なる並列された複数の殺菌プール(F1,F2,F3)で前部(173a)及び後部(173b)に仕切られ、該前部(173a)及び該後部(173b)はシャワー室となっている請求項8に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項14】
該ミストの粒子の大きさは4〜7μmである請求項1に記載の院内感染防止用病棟。

【請求項15】
該ミスト内の次亜塩素酸濃度は50〜300ppmである請求項1又は10に記載の院内感染防止用病棟。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−105710(P2012−105710A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254889(P2010−254889)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【特許番号】特許第4883819号(P4883819)
【特許公報発行日】平成24年2月22日(2012.2.22)
【出願人】(510302283)
【Fターム(参考)】