説明

除塵ユニット

【課題】精密ろ過器の耐用期間の大幅な短縮が期待でき、更には、汚水中の粉塵、特に、排水中のアスベスト含有率のさらなる低下が期待できる徐塵ユニットを提供すること。
【解決手段】繊維状の又は粉粒状の有害物質を含む粉塵が発生する作業場における作業後の作業者の身体に付着している粉塵を除去するための徐塵ユニット。身体の洗浄装置(シャワー)26及び浴槽28を備え、該浴槽28の排水口28aが精密ろ過器36を備えた排水系38に接続される。浴槽28に、浴槽28の底部全面をろ過面とする重力ろ過手段42を脱着自在に装着する。該重力ろ過手段42は、不織布で形成されるろ材44と、該ろ材44の上下に配される上・下水切り層46、48とで形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状または粉末状の有害物質を含む粉塵が発生するためクローズド系(閉鎖系)とされた粉塵発生作業場と外部との出入口に設置する身体付着有害粉塵の除去ユニット(徐塵ユニット)に係る。
【0002】
ここでは、有害物質がアスベスト(繊維状有害物質)である場合を例に採り説明する。しかし、本発明の徐塵ユニットは、有害物質が繊維状でない場合でも適用可能である。
【背景技術】
【0003】
アスベスト(石綿)は、その呼吸系に対する発ガン性(肺がんや悪性中皮種)故に、原則製造等禁止になっている。
【0004】
他方、石綿は、腐らず、耐熱性・耐薬品性を有し、更には、軽量であるため、工業用原料とともに建築用原料とて多用されてきた。特に、石綿板、スレート、タイル等の建築材料の原料として、また、天井等の吹付け塗料の充填材として多量に使用されてきた。
【0005】
このため、既設の古い建物の解体作業乃至改修作業に際して、ほとんどの場合、アスベスト含有粉塵が発生する。したがって、上記解体・改修作業は、粉塵発生現場をクローズド(密閉系)で行うこと、及び、作業者の健康障害を防止するための必要な措置を講じることが義務付けられている。
【0006】
そして、クローズドとされた作業場12と外部14とをつなぐ出入通路16には、例えば、更衣室18、浴室(シャワー室)20及び徐塵室22からなる、組み立て・解体容易な徐塵ユニット24が配される(図1参照)。
【0007】
当然、シャワー室20には、洗浄装置(シャワー)26及び浴槽(浴タブ)28が配されている。そして、シャワー26には、湯沸し器30を備えた温水供給可能な給水系(給水ホース)32が接続され、浴タブ28の排水口28aには、排水ポンプ34及びろ過器36を備えた排水系(排水ホース)38が接続される。
【0008】
なお、徐塵室22には、作業者の着衣(装着物)の埃を除去できるバキューム装置40等を備え付ける。
【0009】
そして、作業者は、更衣室18で、保護衣(保護服・シューズカバー・保護手袋)、保護マスク等を身に付けて、作業場(粉塵発生現場)12へ入る。
【0010】
逆に、作業場12から外部16へ出るときは、作業者は、下記動作を行う。
【0011】
1)先ず、徐塵室(前室)22で、上記保護衣、保護マスク等に付着している粉塵をバキューム装置40で除去後、保護マスク以外の保護衣(着衣)等を脱いでポリ袋に入れる。
【0012】
2)次に、シャワー室20へ移り、保護マスクを着けたまま、シャワーを浴びて、身体及び保護マスクを清浄化した後、保護マスクを外す。
【0013】
3)続いて、更衣室18へ移り、普段着乃至制服に着替える。
【0014】
そして、上記シャワー室20で発生する洗浄後水(汚水)はアスベストを含んでいるため、そのまま排水することはできず、ろ過する必要がある。このとき、ろ過には、アスベストの繊維長さ(約3μm〜50mmで平均2mm)のみに着目して、捕捉粒子径(ろ過能)2〜5μmのろ材を組み込んだろ精密過器を使用していた。精密ろ過器としては、例えば、米国クリティカルインダストリー社から「ミニウォーター」の商品名で製造販売されているものがある。
【0015】
しかし、アスベストは、非常に微細繊維である(単繊維径:0.02〜0.03μm)。このため、上記精密ろ過器のろ過能2〜5μmのろ材をアスベストが通過する可能性があり、十分にアスベストが捕捉されるか否かを、ろ液(排水)について検証する必要があった。
【0016】
特に、昨今、アスベスト被害が顕著となり、アスベストの系外(外部)排出規制をより厳格にすることが求められるようになってきている。すなわち、排水中のアスベスト含有率の更なる低化が要求されるようになってきている。
【0017】
このため、本発明者らが、上記「ミニウォーター」におけるろ過能(5μm)より高いナノオーダ(1μm(1000nm)又は0.2μm(200nm))のろ過能を有するカートリッジフィルタで、アスベスト含有排水(汚水)のろ過を行ったところ、ある程度の捕捉は可能であるが、今後のアスベストの系外排水規制の厳格化に対応するには不十分なろ過能であった(後述の表1(E)・(F)参照)。
【0018】
また、ろ材が早期に目詰まりし、圧損が高くなってフィルター交換を頻繁に行わなければならないことが分かった。すなわち、カートリッジフィルタの耐用期間が短かった(通常、シャワー汚水に対して2〜3m3)。
【0019】
本発明の特許性に影響を与える特許文献は、本発明者らは寡聞にして知らない。
【0020】
ちなみに、特許庁ホームページの公報テキスト検索(要約+請求の範囲)で、論理式「(クリーンOR徐塵OR清浄)AND(アスベストOR石綿)AND(身体OR体)」で検索した結果は、ヒット件数は0件であった(平成18年2月1日現在)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上記にかんがみて、精密ろ過器の耐用期間(耐用処理量)の大幅な短縮が期待でき、更には、汚水中の粉塵、特に、排水中のアスベスト含有率のさらなる低下が期待できる徐塵ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記課題を、解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成の徐塵ユニットに想到した。
【0023】
繊維状の又は粉粒状の有害物質を含む粉塵が発生する作業場における作業後の作業者の身体に付着している粉塵を除去するための徐塵ユニットであって、
前記身体の洗浄装置(シャワー)及び浴槽を備え、該浴槽の排水口が精密ろ過手段を備えた排水系に接続される構成において、
前記浴槽に、浴槽の少なくとも内底部全面をろ過面とする重力ろ過手段が脱着自在に装着され、
該ろ過手段は、不織布で形成されるろ材と、該ろ材の上下に配される上・下水切り層とで形成されることを特徴とする。
【0024】
上記構成において、前記不織布はスパンボンドとすることができ、該スパンボンドの目付は20〜200g/m2のものを使用することができる。
【0025】
また、前記ろ材は、不織布でなくても、水透過性を有すれば、不織布と同様な効果を奏することが期待できる。
【0026】
上記各構成において、下水切り層を、浴槽とは別体のスノコとし、上水切り層をバスマットとすることができる。
【0027】
上記徐塵ユニットは、通常、洗浄装置及び浴槽を備えた浴室(シャワー室)を挟んで、作業場側に着衣徐塵室を備え、作業場入口側に更衣室を備えている構成とする。
【0028】
本発明の徐塵ユニットは、有害物質が繊維状有害物質、特にアスベストの場合に適用することが効果が顕著であり、アスベスト含有粉塵に適用した場合は、精密ろ過手段の、捕捉最小粒子径が、1μm未満のものを使用する。
【0029】
なお、本発明は下記構成のアスベスト含有汚水の処理方法としても記述できる。
【0030】
アスベスト含有粉塵の発生作業場における作業後の作業者の身体洗浄により発生するアスベスト含有汚水の処理方法であって、汚水を浴槽の少なくとも内底部全面に不織布を配して、該不織布をろ材とする重力ろ過手段で一次ろ過後、精密ろ過器で二次ろ過することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明を一実施形態に基づいて、さらに、詳細に説明をする。
【0032】
本実施形態の徐塵ユニット(身体付着有害粉塵の除去ユニット)は、前述と同様、更衣室18、浴室(シャワー室)20及び徐塵室22からなり、組み立て・解体容易なものである。
【0033】
例えば、徐塵ユニットの組み立ては、下記の如く行う(図示せず)。
【0034】
1)底シートを敷き、下部組立フレームをセット後、支柱棒を複数本(例えば、四隅に各1本と長手方向で各室の境目に2本ずつの計8本)立て、その上に上部組立フレームを載せて、慣用の継手手段(例えばねじ)で締結固定してユニットフレームを組み立てる。
【0035】
2)該ユニットフレームにおける更衣室、浴室及び着衣徐塵室の出入口にカーテンレール及びカーテンを取り付けた後、浴槽を浴室に据え付け、更には、給・排水ホース及びシャワーを取り付けた後、全体シートを被せて徐塵ユニットの組み立てを完了する。
【0036】
そして、本実施形態では、上記浴槽28に、浴槽28の少なくとも内底部全面をろ過面とする重力ろ過手段42を脱着自在に装着する(図2参照)。
【0037】
該重力ろ過手段42は、不織布で形成される又は水透過性を備えた可撓性シート体で形成されるろ材44と、該ろ材44の上下に配される上・下水切り層46、48とで形成したものである。
【0038】
なお、ろ材44は、浴槽28の上・下水切り層46、48で挟持される浴槽28の内底部対応部位のみでもよいが、通常、図例の如く、浴槽28の内周壁も覆う構成とする。当該構成により、浴槽28の内周壁へのアスベストの付着を防止できて望ましい。
【0039】
ここで、ろ材44を不織布又はろ過方向に水透過性を有する可撓性シート体で形成するのは、それらのものは、使用後、折り畳んで小さくして、前述の保護着衣と一緒にポリ袋に入れて廃棄等することができ、剛体のろ材に比して取扱いも容易なためである。
【0040】
また、ろ材44が不織布又は水透過性を有する可撓性シート体を平置きすることにより、重力による緩慢な自然ろ過が可能となる。このため繊維長の長いもの(例えば、3μm以上)の、捕捉が容易になると推測される。
【0041】
後者の可撓性シート体としては、多孔質プラスチックシート、漉き紙、織布(例えば、織り方や方向やピッチの違う織布を積層したもの。)等を挙げることができる。
【0042】
不織布の場合は、そのタイプは、特に限定されず、ケミカルボンド、ニードルパンチ等の乾式不織布、スパンボンド(紡糸と同時に熱カレンダーで圧着してシート状にしたものも含む。)、湿式不織布(数mm程度の繊維を金網で漉いてシート状にしたもの。)を使用可能である。特に、これらのうちで、スパンボンドが、薄いシート状不織布(約0.1〜0.5mm)を得易く、しかもアスベスト(繊維状有害物質)の捕獲性が良好で望ましい。
【0043】
特に、繊維状有害物質がアスベストの場合、目付が、望ましくは約20〜200g/m2、更に望ましくは約40〜150g/m2、最も望ましくは約50〜100g/m2であることを確認している。
【0044】
不織布の構成繊維としては、ポリオレフィン系、ポリプロピレン系、ポリエステル系、ナイロン系、等特に限定されない。
【0045】
具体的には、ユニチカ社から「エルベス」(オレフィン系)、「シンテックス」(ポリプロピレン系)、「ウィウィ」(ナイロン系)の、帝人から「ユニセル」(ポリエステル系)の、旭化成から「エタルプラス」(ポリエステル系)の、各登録商標名で上市されているものを使用可能である。
【0046】
上記上・下水切り層46、48は、水切りが良好なものなら特に限定されない。例えば、上水切り層46は、市販のバスマットを、下水切り層48は、市販のスノコを使用できる。なお、下水切り層は、浴槽28の内底部に一体化してもよい。
【0047】
上記徐塵ユニット24において、前述と同様に、シャワー26には、湯沸し器30を備えた温水供給可能に給水系(給水ホース)32を接続し、浴タブ28の排水口28aには、排水ポンプ34及び精密ろ過器36を備えた排水系(排水ホース)38を接続する。
【0048】
ここで、精密ろ過器(二次ろ過器)36にセットする、カートリッジフィルタは、ナノオーダのろ過能(最小捕捉粒子1μm未満)を有するもの、望ましくは、0.1〜0.5μm(100〜500nm)、さらに望ましくは0.2μm(200nm)のろ過能を有するものを使用する。
【0049】
そして、ポンプ、精密ろ過器36のエア抜き、シャワー18、給排水系などの試運転をしておく。
【0050】
使用態様は、前述と同様である。本実施形態では、身体洗浄により発生する排水(アスベスト含有汚水)は、精密ろ過器(加圧ろ過手段)36で二次ろ過される前に、浴槽に配された重力ろ過手段42で一次ろ過することにより、意外にも、アスベスト含有汚水中のアスベストの大部分が捕捉される。このため、二次ろ過手段である精密ろ過器に対する負荷が格段と小さくなり、結果的に、直接、アスベスト含有汚水を加圧通過させる場合に比して、排水中のアスベスト含有率がさらに低くなる。当然、精密ろ過器におけるカートリッジフィルタの交換期間(耐用処理量)も格段に増大する。
【実施例】
【0051】
本発明の効果を確認するために行った、アスベスト含有汚水についてのろ過試験について、説明する。
【0052】
試料は、下記のものを使用した。
【0053】
(A)原液:アモサイト15gを清水30Lに溶かして均一に分散させたもの。
【0054】
(B)一次ろ過液:スパンボンド(ポリエステル系、目付:70g/m2)にて重力ろ過したもの。
【0055】
(C)二次ろ過液:一次ろ過液をカートリッジフィルタ(0.2μm)にてろ過したもの。
【0056】
(D)ブランク液:ブランク水(水道水)をカートリッジフィルタ(0.2μm)でろ過したもの。
【0057】
(E)精密ろ過液(1):原液をカートリッジフィルタ(1μm)にてろ過したもの。
【0058】
(F)精密ろ過液(2):原液をカートリッジフィルタ(0.2μm)にてろ過したもの。
【0059】
上記各試料を表示量ずつ採取し、メンブランフィルタでろ過して乾燥したものについて、位相差顕微鏡にて、計数分析を行った。なお、「f/L」は、「試料1L中のアスベスト繊維数」を意味する。その結果を示す表1から、本発明では、徐塵ユニットから排出されるアスベスト含有汚水には、実質的にアスベストを含有しないことが分かる(試験例(C))。ブランク水をろ過した場合(試験例(D))と同様の「検出されず」となっている。
【0060】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の徐塵ユニットの全体構成図である。
【図2】図1の徐塵ユニットにセットする重力ろ過手段をセットした浴槽の斜視図である。
【図3】同じく断面図である。
【符号の説明】
【0062】
26 シャワー(洗浄装置)
28 浴槽(浴タブ)
28a 浴槽の排水口
36 精密ろ過手段(精密ろ過器、二次ろ過器)
38 排水系(排水ホース)
42 重力ろ過手段(一次ろ過器)
44 ろ材(不織布)
46 上水切り層
48 下水切り層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状の又は粉粒状の有害物質を含む粉塵が発生する作業場における作業後の作業者の身体に付着している粉塵を除去するための徐塵ユニットであって、
前記身体の洗浄装置(シャワー)及び浴槽を備え、該浴槽の排水口が精密ろ過手段を備えた排水系に接続される構成において、
前記浴槽に、浴槽の少なくとも内底部全面をろ過面とする重力ろ過手段が脱着自在に装着され、
該ろ過手段は、不織布で形成されるろ材と、該ろ材の上下に配される上・下水切り層とで形成されることを特徴とする。
【請求項2】
前記不織布がスパンボンドであることを特徴とする請求項1記載の徐塵ユニット。
【請求項3】
前記スパンボンドの目付が20〜200g/m2であることを特徴とする請求項2記載の徐塵ユニット。
【請求項4】
繊維状又は粉粒状の有害物質を含む粉塵が発生する作業場における作業後の作業者の身体に付着している粉塵を除去するための徐塵ユニットであって、
前記身体の洗浄装置(シャワー)及び浴槽を備え、該浴槽の排水口が精密ろ過手段を備えた排水系に接続される構成において、
前記浴槽に、浴槽の少なくとも内底部全面をろ過面とする重力ろ過手段が脱着自在に装着され、
該ろ過手段は、水透過性を有する可撓性シート状のろ材と、該ろ材の上下に配される上・下水切り層とで形成されることを特徴とする徐塵ユニット。
【請求項5】
前記下水切り層が前記浴槽とは別体のスノコであるとともに、前記上水切り層がバスマットであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の徐塵ユニット。
【請求項6】
前記徐塵ユニットが、前記洗浄装置及び前記浴槽を備えた浴室(シャワー室)を挟んで、作業場側に徐塵室を備え、作業場入口側に更衣室を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の徐塵ユニット。
【請求項7】
前記有害物質がアスベストであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の徐塵ユニット。
【請求項8】
前記精密ろ過手段の捕捉最小粒子径が、1μm未満であることを特徴とする請求項7記載の徐塵ユニット。
【請求項9】
アスベスト含有粉塵の発生作業場における作業後の作業者の身体洗浄により発生するアスベスト含有汚水の処理方法であって、汚水を浴槽に少なくとも内底部全面に不織布を配してろ材とする重力ろ過手段で一次ろ過後、最小捕捉粒子が1μm未満である精密ろ過器で二次ろ過することを特徴とするアスベスト含有汚水の処理方法。
【請求項10】
前記不織布が、目付20〜200g/m2のスパンボンドであることを特徴とする請求項9記載のアスベスト含有汚水の処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−229203(P2007−229203A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54449(P2006−54449)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】