説明

除湿フィルター、これを用いたデシカント空調装置及び空調の方法

【課題】高い除湿能力を有し、より低温で、理想的には常温で、容易にかつ確実に再生できる能力を有し、デシカントローターに適用した場合に、省エネ及び装置の小型化の面で極めて有用な除湿フィルターの提供。
【解決手段】デシカント空調装置のデシカントローターに使用する、基材に、平均細孔直径が3〜18nm、比表面積が80m2/g以上である多数の細孔を有する珪質頁岩からなる除湿材料を付着又は含有させてなり、該除湿材料が、温度40℃、相対湿度30%の環境下で24時間静置した後、温度30℃、相対湿度75%の環境下に2時間静置した際に60mg/g以上の質量増加を示し、さらに、その後、温度40℃、相対湿度30%の環境下に2時間静置した際に60mg/g以上の質量減少を示し、かつ、上記質量増加量と上記質量減少量との差が20mg/g以下である珪質頁岩の少なくとも細孔内に、潮解性物質が付着されている除湿フィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除湿フィルター、これを用いたデシカントローターを有するデシカント空調装置及び空調の方法に関する。さらに詳しくは、デシカント空調装置に備えられるデシカントローターとして好適に用いることができる除湿フィルターに関する。さらに、デシカントローターとした場合に、除湿能力の再生が常温でも可能であり、条件によっては除湿と熱交換とが同時に行われる全熱交換器としての機能をも発現させることができる除湿フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷却コイルを用いた冷却・除湿型の空調装置に代わる新しい技術として、潜熱・顕熱分離型のデシカント空調装置が提案されている。デシカント空調装置には、効率良く除湿と再生を行うためのデシカントローターが用いられており、また、デシカントローターには、シリカゲル、ゼオライト、活性炭などの除湿能力に優れた除湿材料が使用されている。また、近年、除湿材料の一つとして高い、吸放湿性を示す安価な材料である珪質頁岩が注目されており、建材等における調湿材料として広く使用されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。そして、デシカント空調装置は、冷却・除湿型の空調装置と異なり、過冷却や再熱を行う必要がなく、省エネルギーであり、また、フロンや温暖化ガスの排出を抑えることができるなどの特長を有していることから、今後さらなる普及が期待されている。
【0003】
一方で、従来、デシカント空調装置は、大型のものしかなく、その多くは業務用に限定されており、家庭用としては、ほとんど使用されていなかった。この理由の一つとして、従来のデシカント空調装置は、空気中の水分を除湿させたデシカントローターを再生するために80℃以上の高温熱源を必要とすることが挙げられる。すなわち、80℃以上の高温熱源で再生処理するためには、加熱器や、蒸気コイル、温水コイルなどを装置内に組み込まなければならず、これにより、装置は大型にせざるを得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2652593号公報
【特許文献2】特許第2964393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、優れた除湿能力を有することは勿論、より低温で、理想的には常温で、容易にかつ確実に再生することのできる能力を有する、デシカントローターに適用した場合に、省エネ及び装置の小型化の面で極めて好適な除湿フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、デシカント空調装置のデシカントローターに使用される除湿フィルターであって、基材に、平均細孔直径が3〜18nm、比表面積が80m2/g以上である多数の細孔を有する珪質頁岩からなる除湿材料を、付着又は含有させてなり、該除湿材料が、温度40℃、相対湿度30%の環境下で24時間静置した後、温度30℃、相対湿度75%の環境下に2時間静置した際に60mg/g以上の質量増加を示し、さらに、その後、温度40℃、相対湿度30%の環境下に2時間静置した際に60mg/g以上の質量減少を示し、かつ、上記における質量増加量と上記における質量減少量との差が20mg/g以下である珪質頁岩の少なくとも細孔内に、潮解性物質が付着されているものであることを特徴とする除湿フィルターである。
【0007】
また、本発明の別の実施形態は、上記の除湿フィルターをデシカントローターに適用したことを特徴とするデシカント空調装置である。また、本発明の別の実施形態は、上記の除湿フィルターをデシカントローターに使用し、かつ、上記デシカントローターの回転数を1rpmよりも多く30rpm以下とすることを特徴とするデシカント空調を行う方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた除湿能力を有しつつ、40℃程度の低温で優れた再生能力を発揮することができ、長期にわたって繰り返し使用できる、デシカントローターへの適用が可能な除湿フィルターが提供される。また、本発明によれば、ローターの回転数等の条件によっては常温でも再生が可能で、40℃で再生したと同等に或いはそれ以上に、除湿性能が回復するという驚くべき効果が得られ、さらに、26℃の常温再生で処理した30℃の空気は、30℃よりも低くなり、これを用いることで、除湿と熱交換が同時に行われる全熱交換器としての機能をも発現させることが可能な除湿フィルターが提供される。また、本発明によれば、従来、再生のために必要であった加熱器を省略することも可能となるので、デシカントローターを適用したデシカント空調装置等の小型化が可能になると同時に、省エネ化が達成でき、コストの大幅な削減が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明で使用する除湿材料と、A型シリカゲルの繰り返しの除湿・再生能力を示す測定結果。
【図2】本発明の除湿フィルターの繰り返しの除湿・再生能力を示す測定結果。
【図3】本発明の除湿フィルターの一例を示す概略図である。
【図4】図3の除湿フィルターを、モーターを取り付けたボックスに挟み込んで除湿ローターにした状態を示す概略図である。
【図5】図4の除湿ローターの評価に用いた通風ボックスの概略図である。
【図6】本発明の除湿フィルターの一例を示す概略図である。
【図7】本発明の除湿フィルターをローターに用いた場合の、再生空気温度とその際の除湿量との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の除湿フィルターをローターに用いた場合の、ローターの回転数とその際の除湿量との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の除湿フィルターをローターに用いた場合の、ローターの回転数と室内へ供給される空気(SA)の温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。前記した通り、デシカント空調装置のさらなる普及を促進させるためには、装置を小型化、より省エネ化させて、家庭用として使用できるようにすることが求められる。また、装置の小型化には、加熱器、蒸気コイル、温水コイルなどの機器を、省略又は小型化させる方法が有力であり、そのためには、デシカントローターを、理想的には常温で、少なくとも常温よりもやや高めのより低い温度で素早く再生できるようにすることが求められる。本発明者らは、家庭用の小型のデシカントシステムの開発に当たり、主な課題として下記の4点を考え、このようなデシカントシステムに好適な材料の選定と、当該材料をこれらの目的に合致した状態にする方法の開発を中心に詳細な検討を行った。本発明は、このような検討の結果、達成したものである。
(1)3kPa〜1.5kPaの水蒸気分圧差の中で多量に吸湿できる材料の開発
(2)低温再生可能な物理吸着だけで吸着が起る材料の開発
(3)低温再生を繰り返しても特性が変化しない耐久性の高い材料の開発
(4)再生用空気としてエアコン排熱等、未利用の低温排熱を有効活用したシステムの開発
【0011】
本発明者らは、先ず、デシカントローター、すなわち、これを構成する除湿フィルターの除湿・再生に大きく寄与する除湿材料について検討を行った。その結果、稚内層珪質頁岩に代表される、平均細孔直径3〜12nm、比表面積80m2/g以上である多数の細孔を有する珪質頁岩が、高い除湿能力を有しつつ、40℃で、ある程度の再生能力を発揮することがわかった。具体的には、珪質頁岩を、温度40℃、相対湿度30%の環境下で24時間静置した後、温度30℃、相対湿度75%の環境下に2時間静置した際に65mg/g程度の質量増加(除湿能力)があり、さらに、その後、温度40℃、相対湿度30%の環境下に2時間静置した際に65mg/g程度の質量減少(再生能力)があることがわかった(図1参照)。これらのことから、本発明者らは、上記した特性を有する珪質頁岩を除湿材料として除湿フィルターを作製し、これを用いることで、低温での再生が可能なデシカントローターができるとの知見を得た。
【0012】
しかし、前記した特性を有する珪質頁岩は、従来、デシカントローター(除湿フィルター)の除湿材料として広く用いられているA型シリカゲルに比べて、除湿能力が低い傾向にあることがわかった。一方、A型シリカゲルは、除湿能力に優れるものの、80℃以上で再生処理する必要があり、また、材料コストが高いという問題があり、前記した家庭用の小型のデシカントシステムへの適用には不向きである。そこで、本発明者らは、さらなる検討を重ねた結果、前記した特性を有する珪質頁岩の少なくとも細孔内に潮解性物質を適宜に付着又は含有させると、低温で再生する効果を維持しつつ、珪質頁岩の除湿能力が大幅に向上するという驚くべき現象を見出した。このことは、潮解性物質を適宜に付着させた珪質頁岩を除湿材料として用いて除湿フィルターを形成することで、低温再生が可能なデシカントローターとして、より有用なものとなることを意味する。本発明者らの検討によれば、特に、潮解性物質の中でも、塩化ナトリウム単独、或いは塩化ナトリウムを含有するものを用いた場合において、除湿フィルターは、従来と同様のデシカントローターの運転状態において、40℃程度の低温で再生する効果を維持しつつ、デシカントローターに特に必要とされる中湿域から高湿域にかけて除湿能力が飛躍的に向上し得ることがわかった。上記検討の結果、本発明者らは、デシカントローターを形成する場合には、前記した特定の特性を有する珪質頁岩に塩化ナトリウム等の潮解性物質を付着又は含有させた除湿材料を除湿フィルターの材料として用いることが有用であると結論した。
【0013】
本発明者らは、より低温での再生の可能性についてさらに検討を続けた結果、従来のデシカントローターの場合は、通常は、0.5〜0.7rpm(30〜40rph)程度、試験的に速くすることを行ったとしても1rpm(60rph)と、ゆっくりと回転させて運転しているのに対し、回転数を上げると、より低温での再生が可能となることを見出した。塩化ナトリウムを付着させた上記の特性を有する珪質頁岩を基材の合成紙に担持させたものを用いて、コルゲート構造を有する稚内層珪質頁岩含有紙が層状に巻き回されてなる除湿フィルターを用いてローターを形成して検討を行ったところ、下記のことがわかった。第1に、再生空気の温度を26℃〜50℃で段階的に変化させ、それぞれの相対湿度については60%で一定とした再生空気を風量を150m3/hで送った場合に、従来よりも格段に速い7.5rpm(450rph)でローターを回転させると、図7に示したように、26℃程度の常温でも、40℃で再生したと同等に或いはそれ以上の状態に再生できることがわかった。また、第2に、図8に示したように、この場合に、ローターの回転数を上げるほど再生能は向上し、しかも、この傾向は、温度が高い場合よりも、常温で行った場合の方がその効果が高くなるという、極めて興味深い知見を得た。さらに、第3に、図9に示したように、外気温度を30℃、相対湿度75%とし、再生空気を26℃、相対湿度60%で一定とした場合に、ローターの回転数の増加とともに、室内へ供給される空気の温度が低下することがわかった。例えば、上記の条件で、回転数を22rpmとして試験を行った結果、温度30℃、相対湿度75%の湿った外気は除湿され、さらに、温度26℃、湿度60%の再生空気でさらに熱交換されて、室内へ供給される空気が、温度26.82℃、湿度63.47%となるという結果が得られた。このことは、ローターの回転数等の運転条件を適宜に決定すれば、高い除湿性能を有し、同時に全熱交換器としても機能する極めて有用なデシカントシステムの構築が可能であることを示している。本発明者らの検討によれば、ローターの回転数を、1rpmよりも多く30rpm以下、より好ましくは、2rpm以上25rpm以下、さらには、5rpm以上22rpm以下とするとよい。
【0014】
本発明者らは、除湿材料として用いる、前記した特性を有する珪質頁岩をさらに改質させることについても検討を行った。その結果、例えば、珪質頁岩をアルカリエッチング処理すると、珪質頁岩原石よりも吸湿性能が向上することがわかった。すなわち、この場合、除湿フィルターの除湿能力が向上して、デシカントローターとして、より好適に用い得ることがわかった。なお、アルカリエッチング処理した場合には、珪質頁岩の細孔が広がる場合があるが、平均細孔直径が18nm以下となるように調整することが好ましい。
【0015】
以上の背景から見い出された本発明の除湿フィルターは、基本的には、基材に、平均細孔直径が3〜18nm、比表面積が80m2/g以上である多数の細孔を有する珪質頁岩からなる除湿材料を、付着又は含有させてなるものである。そして、この除湿材料が、デシカントローターに用いる除湿材料として好適となる特性を有するように調整されていることを特徴としている。具体的には、温度40℃、相対湿度30%の環境下で24時間静置した後、温度30℃、相対湿度75%の環境下に2時間静置した際に60mg/g以上の質量増加があり、さらに、その後、温度40℃、相対湿度30%の環境下に2時間静置した際に60mg/g以上の質量減少があり、かつ、上記における質量増加量と上記における質量減少量の差が20mg/g以下であるように調整されていることを特徴としている(図1参照)。そして、本発明においては、より高い除湿性能の発現と、前記したより低温での再生を可能とするために、前記珪質頁岩の少なくとも細孔内に潮解性物質(好ましくは、塩化ナトリウムを含有するもの)が付着又は含有されているものを使用する。なお、前記珪質頁岩がアルカリエッチング処理されたものであることも好ましい形態である。
【0016】
このような構成の除湿フィルターは、優れた除湿能力を有しつつ、従来のデシカントローターと同様の運転条件であれば、40℃で優れた再生能を発揮することが可能であり、さらに、前記したように、従来のものよりも回転数を多くした場合には、常温で、高い再生能を発揮するという、従来にない顕著な効果が得られる。さらに、運転条件によっては、前記したように、全熱交換器としても機能するようにできるので、小型で省エネを達成した、特に家庭用として有用なデシカントシステムを構築できる。また、本発明の除湿フィルターは、繰り返し使用した場合に、フィルターの持つ除湿能力を効果的に発揮し続けることを確認した。したがって、本発明の除湿フィルターは、耐久性の点でも、デシカントローターとして好適に使用することができ、好適であることがわかった。以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0017】
本発明において規定した除湿材料の選択する要件である、温度40℃、相対湿度30%の環境下で24時間静置させるという構成は、除湿能力を測るための基準となるものであり、後述の質量増加の量は、この基準値との差異である。
【0018】
本発明において規定した除湿材料の選択する要件である、温度30℃、相対湿度75%の環境下は、デシカントローターにおける除湿処理を想定している。そして、本発明において、除湿材料は、前記した基準となる環境下に24時間静置させた後、この除湿処理を想定した環境下に2時間静置した際に60mg/g以上の質量増加を生じるものである。この場合の質量増加量は、80mg/g以上であることが好ましく、さらには、100mg/g以上であることが特に好ましい。本発明では、このように60mg/g以上の質量増加量となるように除湿材料を調整しているため、除湿フィルターは、優れた除湿能力を発揮させることができ、デシカントローターとして好適に使用し得る。特に、潮解性物質を付着させた珪質頁岩を用いる場合は、珪質頁岩原石を用いる場合と比べてはるかに高い除湿能力を得ることが可能となる。この場合、デシカントローターの除湿能力向上を図ることで、その大型化を抑制し、装置の小型化を実現させることが可能となる。
【0019】
一方、温度40℃、相対湿度30%の環境下は、デシカントローターにおける再生処理を想定している。そして、本発明において、除湿材料は、前記した質量増加の状態の後、この再生処理を想定した環境下に2時間静置した際に60mg/g以上の質量減少を生じるものである。この場合の質量減少量は、80mg/g以上であることが好ましく、さらには、100mg/g以上であることが特に好ましい。本発明では、60mg/g以上の質量減少量となるように除湿材料を調整しているため、除湿フィルターは優れた再生能力を発揮することができ、デシカントローターとして好適に用い得る。つまり、再生させたデシカントローターを再び除湿処理に用いる場合において、十分な量の除湿を行える状態にすることが可能となる。
【0020】
なお、前記の除湿又は再生を想定した環境下において、2時間静置を条件としているが、これは、あくまで除湿・再生能力を測る目安であり、除湿又は再生に2時間要することを意味しているものではない。むしろ、図1に示すように、珪質頁岩に潮解性物質を付着させてなる除湿材料は、除湿時又は再生時において、比例的に質量が増大又は減少していることからして、除湿・再生は素早く行われるものと考えられる。つまり、このような除湿材料を用いてなる本発明の除湿フィルターは、デシカントローターとした際、素早く、しかも高い水準で除湿・再生することができる。また、これにより、回転数を上げることも可能となり、除湿能力の高いデシカントローターとすることができ、極めて省エネルギーのシステムを構築することが可能となる。
【0021】
また、本発明においては、除湿材料が、前記した場合における、質量増加量と質量減少量との差が20mg/g以下となるように調整されている。好ましくは、15mg/g以下であり、さらに好ましくは、10mg/g以下である。本発明では、20mg/g以下となるように調整しているため、除湿フィルターは、蓄湿を最小限に抑えることができ、繰り返し使用に耐え得るものとなっている。特に、10mg/g以下となるように調整した場合には、初期の除湿能力を長期にわたって維持することが可能となるため、繰り返し使用が必要なデシカントローターの用途に最適である。
【0022】
本発明において、珪質頁岩としては、平均細孔直径が3〜12nm、比表面積が80m2/g以上である微細な細孔を多数有する珪質頁岩原石を用いることができる。また、珪質頁岩原石を改質させて細孔を拡大させたもの(平均細孔直径18nm以下)を用いることもできる。すなわち、本発明に用いる珪質頁岩は、平均細孔直径が3〜18nm、比表面積が80m2/g以上の細孔を多数有するものである。上記した特性の珪質頁岩原石は、先に述べたように、原石においても優れた吸放湿性能を有しており、このような特性を有する珪質頁岩原石としては、例えば、北海道天北地方で産出される、いわゆる、稚内層珪質頁岩と呼ばれるものが挙げられる。稚内層珪質頁岩は、上記した特性を有する他、細孔容量が0.1〜0.4ml/gの範囲内にあり、最大吸湿率が15質量%以上の、シャープな細孔径分布を有する天然の多孔質体である。本発明者らの検討によれば、特に、本発明においては、比表面積が100m2/g以上の珪質頁岩を用いることが好ましい。
【0023】
なお、本発明において、細孔容量は、BJH(Barrett Joyner Halenda)法で測定した。また、比表面積は、BET(Brunauer Emmett Teller)法で測定した。また、平均細孔直径は、前記の方法で測定した、細孔容量と比表面積とから、細孔が円柱体と仮定して、下記の式から計算により求めた。なお、最大吸湿率は、測定対象物を150℃のオーブンに入れ72時間保持した後に測定した対象物の絶乾質量と、その後、25℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽に入れて48時間保持した後に再度測定する対象物の質量との質量増加率により得られる。相対湿度に応じての水分吸着量及び水分放湿量の変化は、水蒸気吸着量測定装置で連続して測定することができる。
(式)平均細孔直径=4×細孔容量(ml/g)÷比表面積(m2/g)
【0024】
本発明においては、前記したように、より高い除湿能力や再生能力を有する除湿材料とするためには、少なくとも、平均細孔直径が3〜18nm、比表面積が80m2/g以上である多数の細孔を有する珪質頁岩の少なくとも細孔内に、潮解性物質を付着させることが好ましい。潮解性物質としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。好ましくは、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウムであり、さらに好ましくは、塩化ナトリウムである。塩化ナトリウムを用いる場合は、中湿域(相対湿度53〜75%)から高湿域(相対湿度75〜93%)にかけて吸湿量(除湿能力)が飛躍的に増大する一方で、40℃程度の低温で吸湿した水分のほぼ全てを放湿させる再生能力が発揮されるようになる。なお、これらの潮解性物質は、併用してもよい。
【0025】
また、本発明においては、前記したような除湿能力や再生能力を有するように、珪質頁岩への潮解性物質の付着量を適宜調整することが好ましく、例えば、塩化ナトリウムを用いる場合は、10〜150mg/gの範囲内とすることができる。また、塩化リチウム、塩化マグネシウム又は塩化カルシウムを用いる場合は、10〜250mg/gの範囲内とすることができる。これらの範囲より下回る場合は、珪質頁岩原石との吸放湿性能があまり変化せず、除湿・再生能力向上効果が少ない場合がある。一方、これらの範囲を上回る場合は、潮解性物質の飛まつや流出を生じさせる場合がある。これらの観点をより考慮すると、好ましくは、塩化ナトリウムを用いる場合は15〜60mg/gの範囲内であり、塩化リチウムを用いる場合は20〜50mg/gの範囲内であり、塩化カルシウムを用いる場合は20〜50mg/gの範囲内である。しかし、これらの付着量は、上記数値に限定されるものではなく、前記したような除湿能力や再生能力を有するように、珪質頁岩の特性、改質状態、潮解性物質の種類、組み合わせなどを適宜考慮して決定される。
【0026】
本発明において、潮解性物質を、前記珪質頁岩の表面及び細孔内に付着させる方法は、特に制限はないが、例えば、前記珪質頁岩を、潮解性物質の水溶液に浸漬させた後、乾燥処理する方法が挙げられる。
【0027】
また、このように前記珪質頁岩に潮解性物質を付着させる場合は、潮解性物質の水溶液は、前記したような除湿能力や再生能力を有するように、その濃度を調製することが好ましい。例えば、潮解性物質の水溶液中における濃度を、1〜25質量%の範囲内に調整することができる。この範囲より下回る場合は、珪質頁岩原石との吸放湿性能があまり変化せず、除湿・再生能力向上効果が少ない場合がある。一方、この範囲を上回る場合は、潮解性物質の飛まつや流出を生じさせる場合がある。これらの観点から、特に、塩化ナトリウム水溶液の濃度は、1〜15質量%、さらには、1〜8質量%の範囲内に調整することが好ましい。また、塩化リチウム水溶液の濃度は、3〜7質量%の範囲内に調整することが好ましく、塩化カルシウム水溶液の濃度は、3〜7質量%の範囲内に調整することが好ましい。しかし、これらの濃度も、上記数値に限定されるものではなく、前記したような除湿能力や再生能力を有するように、珪質頁岩の特性、改質状態、潮解性物質の種類、組み合わせなどを適宜考慮して決定される。
【0028】
また、潮解性物質の水溶液に前記珪質頁岩を浸漬させた状態で、真空引きを行ってもよい。この場合、珪質頁岩の細孔内部に残存している空気が引き抜かれ、細孔深部まで水溶液を進入させることができるようになる。すなわち、珪質頁岩の細孔内壁と水溶液との接触効率を高めることができるようになり、水溶液中の潮解性物質を、より効率的、さらにはより安定的に付着できるようになる。真空引きの条件は、特に制限はないが、例えば、常温で、30〜200分とすることが好ましい。
【0029】
また、真空引きを行う以外にも、珪質頁岩を前記した水溶液に浸漬させた状態で、静置させることで、前記した潮解性物質を付着させてもよい。静置させる場合の条件は、特に制限はないが、例えば、常温で、700〜2,000分とすることが好ましい。
【0030】
また、乾燥処理は、風乾でもよいし、熱風乾燥やオーブンによる強制乾燥、あるいは減圧乾燥であってもよい。本発明においては、絶乾させることが好ましく、例えば、40〜400℃で乾燥処理することが好ましい。なお、珪質頁岩は、900℃までは、空隙がほとんど変化しないことから、乾燥温度の上限に関しては、特に制限されない。乾燥処理に使用する装置に合わせて効率的な条件に設定すればよい。
【0031】
また、珪質頁岩への潮解性物質の付着は、その他にも、珪質頁岩をボールミルなどで湿式粉砕する際に、水に変えて潮解性物質水溶液を用いることで、珪質頁岩に潮解性物質を付着させる方法が挙げられる。この方法では、塩化ナトリウムの付着と珪質頁岩の微粉砕化を同時に行うことができるため、非常に効率的であり、安価に行い得る。粉砕条件は、特に制限はなく、所望の粒径の粉末を得るのに適した粉砕時間などを選択することができる。例えば、粒径を20μm以下とする場合は、12時間以上粉砕処理するなど、求める粒径にするための粉砕条件で粉砕すれば、潮解性物質を付着させることができる。なお、この方法における乾燥処理は、前記と同様の方法で行い得る。
【0032】
また、本発明に用いる珪質頁岩としては、前記した特性を有する珪質頁岩原石をそのまま用いてもよいし、細孔の状態を改質させたものを用いてもよい。珪質頁岩の細孔の状態を改質する方法としては、例えば、アルカリエッチング処理が挙げられる。エッチング処理した場合、珪質頁岩原石よりも、比表面積はやや低下する傾向にあるが、細孔容量を増大させることができ、吸放湿性能も向上させることが可能となる。すなわち、除湿フィルターの除湿・再生能力を向上させることができる。本発明においては、エッチング処理などの方法で、前記珪質頁岩の細孔容量が、0.40ml/g以上となるように調整することが好ましい。一方で、細孔容量を大きくし過ぎると、珪質頁岩のもつ優れた吸放湿性能が損なわれるおそれがあるので、細孔容量は、0.65ml/g以下であることが好ましい。特に好ましい細孔容量は、吸放湿性能の向上効果の高い、0.45〜0.50ml/gの範囲内である。なお、アルカリエッチング処理した場合、珪質頁岩原石の細孔も拡がる場合がある。この場合、珪質頁岩が微細な細孔を多数有する状態を維持できるように、その平均細孔直径は、18nm以下に調整することが好ましい。すなわち、本発明に用いる珪質頁岩(原石、改質品)の平均細孔直径は、3〜18nmの範囲内である。
【0033】
アルカリエッチング処理は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ性化合物の水溶液に前記珪質頁岩を浸漬させることにより行うことができる。特には、水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。アルカリ性化合物の水溶液の濃度は、例えば、0.5〜3.0mol/lの範囲内にすることができる。また、珪質頁岩をアルカリ性化合物の水溶液に浸漬させた状態で、真空引きを行ってもよいし、静置させたままでもよい。好ましくは、珪質頁岩の吸放湿性能を向上させる効果がより高い真空引きである。真空引きの条件は、例えば、常温で、45〜300分とすることが好ましく、また、静置の条件は、常温で、1,000〜2,500分とすることが好ましい。アルカリエッチング処理を行った後は、前記した方法などにより、乾燥処理を行うことが好ましい。なお、アルカリエッチング処理は、前記した潮解性物質の珪質頁岩への付着と同時に行ってもよい。具体的には、潮解性物質と、アルカリ性化合物とを含む水溶液を用いて、珪質頁岩に浸漬させて、乾燥処理することで、珪質頁岩への潮解性物質付着とアルカリエッチング処理を同時に行い得る。
【0034】
本発明において、除湿材料は、他の機能を付与することなどを目的として、珪質頁岩の表面又は細孔内に、上記した物質以外のものが付着されていてもよい。また、前記した水溶液には、バインダー成分を配合させてもよい。
【0035】
本発明の除湿フィルターは、以上の構成を有する除湿材料を、従来公知の方法を用いて、基材に付着又は含有させることで得ることができる。すなわち、本発明の除湿フィルターは、上記で説明した除湿材料を用いる以外は、従来公知のデシカントローターとして用いる除湿フィルターと同様の構成にすることができる。例えば、除湿フィルターを構成する基材は、その素材又は構造などにおいて、特に制限はなく、従来、デシカントローターとして使用する除湿フィルター用の基材であれば、いずれのものであってもよい。より具体的には、基材の素材としては、紙、不織布、セラミックスなどが挙げられる。また、基材の構造としては、コルゲート構造又はハニカム構造などが挙げられる。また、コルゲート構造やハニカム構造におけるセル数などの構造設計も従来と同様にすることができる。また、不織布からなる不織布基材の場合は、複数の不織布を積層させてなる構造にすることができる。本発明者らの検討によれば、特に、基材の素材として紙、特に合成紙を用い、合成紙の調製の際に、原料スラリー中に珪質頁岩粉を含有させることで珪質頁岩を含有してなる紙を調製し、さらに、該紙を、高さが数ミリ程度の微細に波打つコルゲート構造を有するものとし、これを用いて下記のような形状の除湿フィルターとしたものが特に好ましい。すなわち、上記コルゲート構造を有する長尺の紙を緻密に巻き回して円筒状の除湿フィルターとし、これに潮解性物質を付着させたものは、高い除湿機能を有すると共に、軽量で耐久性に優れ、デシカントローターに適用した場合に、40℃と低い温度で、さらに運転条件によっては常温で、速やかに再生されるものとなる。
【0036】
また、本発明の除湿フィルターを、基材に除湿材料を付着させて得る場合は、エマルジョンなどのバインダーに前記除湿材料を含有させた後、これを、含浸塗布、スプレー塗布又はロール塗布などを用いて付着させる方法を用いることができる。この場合のバインダーとしては、除湿材料の除湿・再生能力が阻害されないように、通気性を有するバインダーを用いることが好ましく、アクリル樹脂などに水ガラスなどの添加剤を加えたものや、通気性バインダーと称されるものを用いたりすることが好ましい。通気性バインダーとしては、例えば、少なくとも、15〜70質量%の除湿材料と、樹脂量が30〜70質量%となる量の樹脂エマルジョンと、固形分が5〜40質量%となる量の透湿性付与剤とが配合されてなり、上記樹脂エマルジョンを構成する樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃の範囲である、多孔質の連続皮膜を形成するためのコーティング剤(前記した除湿材料を含有させている形態)を用いることができる(特開2008−138167号公報参照)。また、その他にも、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンが、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが、上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、さらに、該コロイダルシリカの配合量が、上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である通気性バインダーを用いることもできる(特開平3−106948号公報参照)。バインダー中の除湿材料の含有量は多ければ多い程、吸放湿性能(除湿・再生能力)に優れることとなるが、特には、30〜70質量%の範囲内とすることが好ましい。30質量%未満の場合は、除湿能力が低くなる場合があり、70質量%を超える場合は、バインダー能力が低くなって、基材への固着力に問題が生じる場合がある。また、基材に対する除湿材料の付着量は、例えば、10〜70g/m2の範囲内にすることが好ましい。しかし、除湿材料の付着量は、特に制限はなく、基材の種類などや求める性能に合わせて、適宜調整すればよい。
【0037】
また、本発明の除湿フィルターを、基材に除湿材料を含有させて得る場合は、例えば、基材を形成させる際、基材を構成する材料とともに除湿材料を配合させて得る方法を用いることができる。例えば、紙からなる紙基材の場合は、紙抄きのスラリーに除湿材料を配合し、抄き上げすることにより、除湿材料を含有させた紙基材を得ることができる。また、除湿フィルターに対する除湿材料の含有量は、特に制限されないが、除湿フィルター全質量に対して20〜90質量%の範囲内とすることが好ましい。また、紙基材や不織布基材を用いる場合は、除湿フィルター全質量に対して20〜70質量%の範囲内にすることがより好ましい。20質量%未満では、除湿能力が低くなる場合があり、90質量%を超える場合は、基材の強度が弱く、フィルター形成加工が困難となる場合がある。特に好ましくは、30〜60質量%の範囲内である。また、セラミックス基材を用いる場合は、除湿・再生性能と、強度とのバランスから80質量%程度、具体的には、75〜85質量%の範囲内にすることがより好ましい。
【0038】
本発明の除湿フィルターは、前記したような所定形状に形成させることにより、デシカントローターとして使用することができる。デシカントローターの形状は特に制限はないが、例えば、円盤状に形成させたものが挙げられる。本発明の除湿フィルターを用いて形成されるデシカントローターは、除湿能力に優れるとともに、40℃で、さらには常温で、優れた再生能力を発揮するものとなる。また、長期にわたって、除湿能力の初期状態を維持することが可能であるため、繰り返し耐久性にも優れている。すなわち、本発明の除湿フィルターは、デシカント空調装置を小型化、省エネ化させるのに極めて効果的であり、家庭用としての普及促進を可能とするものである。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、本実施例において、比表面積の値はBET法により測定したものであり、細孔容量の値はBJH法により測定したものである。また、平均細孔直径は、比表面積と細孔容量とから、前記した式を用いて算出したものである。
【0040】
<除湿材料の作製>
(珪質頁岩原石)
北海道天北地方から産出した稚内層珪質頁岩を、ハンマークラッシャーにて粉砕し、ふるいをかけて、粒径を1〜2mmに調製した。得られた稚内層珪質頁岩(原石)の粒子を、除湿材料1とした。除湿材料1は、比表面積が149m2/g、平均細孔直径が10.2nm、細孔容量が0.38ml/gであった。
【0041】
(潮解性物質の付着)
〔塩化ナトリウム〕
上記で得られた稚内層珪質頁岩(原石)の粒子を、5質量%の塩化ナトリウム水溶液に含浸させた後、デシケータ内で1時間真空引き(常温)を行った。その後、さらに、吸引ろ過し、150℃のオーブンで絶乾することにより、稚内層珪質頁岩の表面及び細孔内部に塩化ナトリウムを付着させた、除湿材料2を得た。なお、除湿材料2における塩化ナトリウムの付着量を、塩化ナトリウムを付着させる前後の珪質頁岩(絶乾)の質量変化により測定したところ、37mg/gであった。
【0042】
5質量%の塩化ナトリウム水溶液に変えて、3質量%の塩化ナトリウム水溶液、又は、10質量%の塩化ナトリウム水溶液を用いる以外は、上記と同様の方法で、珪質頁岩原石に塩化ナトリウムを付着させてなる除湿材料3、4をそれぞれ得た。なお、除湿材料3、4における塩化ナトリウムの付着量を、塩化ナトリウムを付着させる前後の珪質頁岩(絶乾)の質量変化により測定したところ、それぞれ、24mg/g、70mg/gであった。
【0043】
〔塩化リチウム〕
5質量%の塩化ナトリウム水溶液に変えて、4質量%の塩化リチウム水溶液を用いる以外は、上記と同様の方法で、珪質頁岩原石に塩化リチウムを付着させてなる除湿材料5を得た。なお、除湿材料5における塩化リチウムの付着量を、塩化リチウムを付着させる前後の珪質頁岩(絶乾)の質量変化により測定したところ、27mg/gであった。
【0044】
〔塩化カルシウム〕
5質量%の塩化ナトリウム水溶液に変えて、5質量%の塩化カルシウム水溶液を用いる以外は、上記と同様の方法で、珪質頁岩原石に塩化カルシウムを付着させてなる除湿材料6を得た。なお、除湿材料6における塩化カルシウムの付着量を、塩化カルシウムを付着させる前後の珪質頁岩(絶乾)の質量変化により測定したところ、37mg/gであった。
【0045】
<除湿・再生能力の試験>
除湿材料1、2、A型シリカゲルを、温度40℃、相対湿度30%の環境下で24時間静置した後、質量を測定し、それぞれの基準値とした。次に、これらを温度30℃、相対湿度75%の環境下で2時間静置した後、温度40℃、相対湿度30%の環境下で2時間静置し、さらに、これを1サイクルとして、5サイクル繰り返し、経時で質量を測定した。得られた測定値の基準値に対する質量差を質量変化量とし、図1に示した。また、1サイクル目において、温度30℃、相対湿度75%の環境下で2時間静置した直後における基準値との質量差Aと、温度40℃、相対湿度30%の環境下で2時間静置した直後における基準値との質量差Bを、A−Bとともに表1に示した。なお、除湿材料1、2については、5サイクル繰り返した後も、20サイクルまで繰り返して質量を測定したが、基準値との質量差はほとんどなかった。
【0046】
除湿材料3〜6についても、上記と同様の方法で、質量差Aと質量差Bを測定し、A−Bとともに表1に示した。
【0047】

【0048】
以上の評価結果から、珪質頁岩を除湿材料として用いる除湿フィルターは、A型シリカゲルを除湿材料として用いる除湿フィルターと異なり、40℃で再生可能であり、繰り返し耐久性に優れたものとなり得ることを確認した。特に、潮解性物質(さらには、塩化ナトリウム)を付着させた珪質頁岩を除湿材料として用いる除湿フィルターは、40℃での再生能力を維持しつつ、特に優れた除湿能力が発揮されることを確認した。
【0049】
<除湿フィルターの試作と評価>
以上の検討結果から、下記のようにして、潮解性物質として塩化物を付着又は含有させた珪質頁岩を除湿材料として用いた除湿フィルターを試作し、得られた除湿フィルターの吸放湿性能についての評価を行った。以下、これらについて説明する。
【0050】
(稚内層珪質頁岩含有紙からなる除湿フィルターの試作)
稚内層珪質頁岩をボールミルによって湿式粉砕し、粉砕時間を調整して、平均粒径が20μmとなるように調整した。このようにして得られた粉末45質量部と、化学繊維55質量部とを含む水性スラリーを用い、試験用抄紙機で抄紙した後、プレスして脱水し、110℃でシリンダードライヤーを用いて乾燥して、稚内層珪質頁岩を含有する合成紙を得た。得られた稚内層珪質頁岩含有紙は、コルゲート構造に成形した。そして、これを巻き込むことで、直径150mm、長さ95mmの円筒型の除湿フィルターを試作した。より具体的には、まず、厚み0.1mmの紙が、それぞれが幅3mm、高さ2.5mmで均一に波打つコルゲート構造を有する、幅95mmの長尺の稚内層珪質頁岩含有紙を作製し、次に、得られた紙を均一の強さで巻くことで、図6に示したような、コルゲート構造を有する稚内層珪質頁岩含有紙が層状に巻き回されてハニカム構造が形成された除湿フィルターを得た。なお、図面の凹凸は鋭角に描いてあるが、試験に使用したものは波状であり、曲面で形成されている。
【0051】
(潮解性物質含有除湿フィルターの試作)
次に、上記で得た稚内層珪質頁岩含有紙を層状に巻き回されてなる除湿フィルターを用い、下記のようにして、稚内層珪質頁岩に、潮解性物質を付着又は含有させたものを除湿材料とする潮解性物質含有除湿フィルターを得た。
【0052】
〔試作例1:潮解性物質が塩化ナトリウム〕
濃度が5質量%の塩化ナトリウム水溶液を用意し、この水溶液に、前記で作成した稚内層珪質頁岩含有紙からなる除湿フィルターを常圧下、24時間含浸させた。その後、フィルター表面および内部の液をエアースプレーにて吹き飛ばし、110℃のオーブンで10時間乾燥させて、試作例1の、潮解性物質として塩化ナトリウムを用いてなる塩化物含有除湿フィルター1を作成した。
【0053】
〔試作例2:潮解性物質が塩化ナトリウム+塩化リチウム〕
塩化ナトリウム濃度が7質量%、塩化リチウム濃度が4質量%の、混合水溶液を用いる以外は、試作例1と同様の方法で、2種類の潮解性物質を用いてなる塩化物含有除湿フィルター2を試作した。
【0054】
〔除湿フィルターの吸放湿性評価〕
試作例1及び2で得た塩化物含有除湿フィルターをそれぞれに用い、下記のようにして吸放湿性能を測定した。それぞれのフィルターに、図6に矢印で示した方向に、温度30℃、相対湿度75%に調整した湿った空気を、風量45m3/hで10分間通風した後、温度40℃、相対湿度30%に調整した乾燥した空気を風量45m3/hで10分間通風し、これを1サイクルとして、2サイクル半繰り返し、経時でフィルターの質量をそれぞれ測定した。得られた測定値の基準値に対する質量差を質量変化量とし、図2に示した。試作例1の測定値を実線で、試作例2の測定値を破線でそれぞれ示した。図2に示したように、得られた試作例1及び2の除湿フィルターは、いずれも40℃の低温で、確実に再生(放湿)できることを確認した。そのときの吸放湿量は10分で60mg/gであった。また、図2に示されているように、塩化リチウムと塩化ナトリウムの2種類を担持させた場合の方が、塩化ナトリウム単独担持よりも、再生速度が若干遅くなる傾向があった。しかし、いずれの場合も40℃で十分に再生できることを確認した。
【0055】
<除湿ローターの試作と評価>
上記した通り、稚内層珪質頁岩含有紙からなる除湿フィルターは、40℃の低温で、確実に再生(放湿)できることが確認できたので、さらに、このような除湿フィルターを用いて除湿ローターを試作し、その性能及び再生性能についての評価を行った。以下、これらについて説明する。
【0056】
(除湿ローターの除湿フィルター部の作製)
先ず、濃度が8質量%の塩化ナトリウム水溶液を用意し、この水溶液に、前記と同様にして作成したコルゲート構造を有する稚内層珪質頁岩含有紙を、含浸、乾燥することで、塩化ナトリウムが担持された幅60mmの稚内層珪質頁岩含有紙を作成した。得られた紙を用いて、前記した除湿フィルターの試作例1及び2で行ったと同様の方法で、コルゲート構造を有する稚内層珪質頁岩含有紙が層状に巻き回されてなる除湿フィルターを得た。この除湿フィルターを用いて、下記のようにして、直径400mm、長さ60mmの円形の除湿ローターを試作した。除湿ローターを形成するために、先ず、図3に示したように、上記で得た除湿フィルターの中央部にベアリングを入れるための直径38mmの穴を設け、そこへ軸受けボス3aとベアリング3bをはめ込んだ。次に、このフィルターをステンレス製の金枠2にはめ込み、金枠と軸受けボス3aをスポーク4にて固定した。また、金枠の外側外周上に、モーターの回転を受けるため、126歯のギヤ5をはめ込み、金枠に固定した。
【0057】
(除湿ローターの回転部の作製)
前記で得た除湿フィルターを回転体とするため、モーターを取り付けたボックスに挟み込んだ。図4は、その状態を示す概略図である。図4に示したように、ベアリング3の中心に直径8mmの芯棒を入れ、φ400mmの大きさで中央をカットした2枚の側板1で、ローター2を両側から挟み込んだ。この側板の片側には、モーター6が取り付けられている。このモーターの回転数は、ギヤボックス7のギヤ軸を変えることで、0.5rpmから22rpmまで制御することができるようにした。モーターの軸8の先端には16歯数のギヤが取り付けられており、これとローター外周のギヤ(206歯数)が噛み合うことで、ローターを適宜な回転数で回転させることができる構造になっている。
【0058】
(除湿ローターの評価)
〔除湿ローターの評価用通風ボックス〕
上記で試作した除湿ローターを、通風が可能な断熱ボックスに設置して、下記のようにして除湿・再生能試験を行い評価した。この際に使用した断熱ボックス1の断面図を図5に示した。図示した通り、除湿ローター中央部の前後垂直に仕切板2と8があり、この仕切板と除湿ローター13により、断熱ボックス1は、図中、3、4、6及び7で示した4つの部屋に仕切られている。そして、各部屋の中央上部には、図中、9、10、11及び12で示したφ150mmの大きさの円筒ダクトチューブが接続されている。この除湿ローターの評価用通風ボックスは、例えば、下記のようにして使用する。温度30℃、湿度75%に調整された高温・多湿の処理空気がダクトチューブ9から部屋3へと導入されると、部屋3より、除湿ローター13の片側半分を処理空気が通過して部屋6へと移動する。このとき、処理空気中の水分は、除湿ローター13を構成しているハニカム構造を有する潮解性物質含有除湿フィルターによって、効率よく吸着除湿される。そして、その後にダクトチューブ11より除湿された空気が排出される。一方、再生のために用いる再生空気は、ダクトチューブ12より部屋7に導入され、除湿ローター13のハニカムローターの上記処理空気とは異なる反対側半分を通過して部屋4へ空気が移動する。この際に、除湿ローター13を構成する除湿フィルターに吸着された水分が脱離することでローターが再生され、空気はダクトチューブ10より排出される。さらに、モーター15で除湿ローター13を回転させることで、上記した空気の除湿と再生とが連続的に行われる。
【0059】
(除湿・再生能試験−1)
前記した除湿ローターの評価用通風ボックス1を用い、処理空気温度30℃、相対湿度75%(絶対湿度=20.18g/kg−DA)、再生空気温度40℃、相対湿度27.4%(絶対湿度=12.67g/kg−DA)で、除湿ローターを、風量150m3/h、ローター回転数を1〜22rpmの範囲のそれぞれの回転数で回転させたときの除湿量と、除湿された後の空気の温度と相対湿度を測定し、表2に示した。除湿ローターには、先に述べたようにして作製した、濃度8質量%の塩化ナトリウム水溶液で含浸処理した稚内層珪質頁岩含有紙を用いて得たものを用いた。なお、上記DAは、Dry Airを意味する。
【0060】

【0061】
以上の結果から、回転数によっても異なるが、150m3/hの風量において、5〜6g/kg−DAの空気を除湿でき、上記で説明したローター型にした場合にも、40℃の再生温度で除湿再生が連続してできることが確認できた。
【0062】
(除湿・再生能試験−2)
次に、処理空気温度30℃、相対湿度75%(絶対湿度=20.18g/kg−DA)とし、再生空気温度を26℃、相対湿度60%(絶対湿度=12.67g/kg−DA)で、前記で用いたと同様の、濃度8質量%の塩化ナトリウム水溶液で含浸処理した稚内層珪質頁岩含有紙をもとに作成した除湿ローターを、下記の条件で評価した。すなわち、風量150m3/h、ローター回転数を1〜22rpmの範囲のそれぞれの回転数で回転させたときの除湿量と、除湿された後の空気の温度と相対湿度を測定し、表3に示した。
【0063】

【0064】
以上の結果から、潮解性物質担持稚内層珪質頁岩ローターは、26℃の常温でも、ローター回転数を7.5rpm以上に高めることで、40℃再生の場合と同等の除湿性能が得られることが明らかとなった。また、26℃の常温再生の場合では、30℃の処理空気は、ローターを通過する際に除湿されるとともに、26℃の再生空気との間で熱交換されることで、除湿後の空気は30℃よりも低くなることが分かった。とくに、22rpmと速くした場合は、除湿後の空気温度が26.8℃、相対湿度63.5%となっており、除湿と熱交換が同時に行われる全熱交換器としての機能を発現できるという結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、優れた除湿能力を有しつつ、低温で優れた再生能力を有する除湿フィルターを提供することができる。したがって、本発明の除湿フィルターをデシカントローターとして適用することにより、加熱器などの機器を省略することが可能となり、デシカント空調装置の小型化、省エネ化を実現させることが可能となるので、家庭用等に適用した場合における今後の利用価値は甚大である。
【符号の説明】
【0066】
図3
1:除湿フィルター
2:金枠
3a:軸受けボス
3b:ベアリング
4:スポーク
5:ギヤ
図4
1:側板
2:ローター
3:ベアリング
6:モーター
7:ギヤボックス
8:モーターの軸
図5
1:断熱ボックス、評価用通風ボックス
2、8:仕切板
3、4、6、7:部屋
9、10、11、12:ダクトチューブ
13:除湿ローター
15:モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デシカント空調装置のデシカントローターに使用される除湿フィルターであって、
基材に、平均細孔直径が3〜18nm、比表面積が80m2/g以上である多数の細孔を有する珪質頁岩からなる除湿材料を、付着又は含有させてなり、
該除湿材料が、温度40℃、相対湿度30%の環境下で24時間静置した後、温度30℃、相対湿度75%の環境下に2時間静置した際に60mg/g以上の質量増加を示し、さらに、その後、温度40℃、相対湿度30%の環境下に2時間静置した際に60mg/g以上の質量減少を示し、かつ、上記における質量増加量と上記における質量減少量との差が20mg/g以下である珪質頁岩の少なくとも細孔内に、潮解性物質が付着されているものであることを特徴とする除湿フィルター。
【請求項2】
前記潮解性物質が、少なくとも塩化ナトリウムを含む請求項1に記載の除湿フィルター。
【請求項3】
前記における質量増加量が100mg/g以上であり、かつ、前記における質量減少量が100mg/g以上である請求項1又は2に記載の除湿フィルター。
【請求項4】
前記基材が、紙基材であり、その構造が、コルゲート構造又はハニカム構造である請求項1〜3のいずれか1項に記載の除湿フィルター。
【請求項5】
前記基材が、不織布基材であり、その構造が、不織布を積層させてなる構造である請求項1〜3のいずれか1項に記載の除湿フィルター。
【請求項6】
前記除湿材料の付着が、該除湿材料と通気性バインダーを含むコーティング剤を基材にコーティングすることによりなされる請求項1〜5のいずれか1項に記載の除湿フィルター。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の除湿フィルターをデシカントローターに適用したことを特徴とするデシカント空調装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の除湿フィルターをデシカントローターに使用し、かつ、上記デシカントローターの回転数を1rpmよりも多く30rpm以下とすることを特徴とするデシカント空調を行う方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−115643(P2010−115643A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240716(P2009−240716)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 エネルギー使用合理化技術戦略的開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(506106866)株式会社自然素材研究所 (21)
【出願人】(507081430)有限会社稚内グリーンファクトリー (7)
【出願人】(000237053)富士スレート株式会社 (10)
【Fターム(参考)】