説明

除湿機能付温室装置

【課題】冬季においても成長を維持させながら植物を栽培できるミスト栽培温室装置を提供する。
【解決手段】上部に培地部17を、その下部に形成した空洞部内に液体噴射ノズル16を配置して施肥室5を形成し、前記培地部17に植えた植物Pの根部Rを前記施肥室5内に伸長させ、液状の肥料などを噴霧して成長させるミスト栽培装置2を配置した温室において、温室内の上層部と前記施肥室5との間に換気扇4を設けたダクト3を配置し、前記上層部の空気をダクト3を介して施肥室5に導入し、この施肥室5において空気中の水分を結露させるように構成した除湿機能付温室装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室内に配置した“ミスト栽培装置”を使用して植物を栽培するに際し、夏期の高温多湿時において湿度を植物の生育状況に対応して調節できる温室装置と、冬季の植物の成長が鈍る時の根部を積極的に暖めて冬季においても成長を維持させながら植物を栽培できる温室装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大地と自然環境に依存する従来の農業においては、大雨、台風、旱ばつ等の気象条件の問題、生産量と消費の好みに関係する農産物価格低下の問題、農産物の流通ルートの問題や農業就労人口の高齢化、更に企業の農業への参入などの各種の問題があることから、次第に農業は先細りになっている。
【0003】
一方、スーパーやデパートの地下売場なとの生鮮野菜や魚介類などを大量に、タイムリーに必要とする需要先の成長すると共に、ニンジン、ジャガイモ、タマネギのような根菜類も勿論、キウリ、トマトのような果菜類、更にホウレンソウ、ニラ、小松菜、シソなどの葉菜類なども1年中栽培され、市場に供給される栽培技術(水耕栽培)が開発され、その技術の一部は野菜栽培工場として効率的に実施され、成長しつつある(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、根部が長く成長して効率的に肥料や水を吸収する植物、特に青ジソや茶などの根部が比較的長い場合には、肥料を液体にしてミスト状で供給するする、いわゆる“ミスト栽培”が提案されている(例えば、特許文献2、3)
【特許文献1】特開2005−124494号公報
【特許文献2】特開2003−274774号公報
【特許文献3】特開2005−198537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように栽培農業には、例えばイチゴのように無菌の栽培用土壌を使用したものが多いが、根部が長く成長する野菜のように根部が直接、培地(土壌)中に長く延びて成長できる、成長を阻害しない培地の開発が必要である。また、培地は必要とする肥料や水分を蓄える性質を持ち、肥料などの供給方法にも問題がある。
【0006】
特許文献2は、初期の植物の育成に必要な少量の培地しか使用せず、根部に肥料を直接ミスト状にして供給する、いわゆる“ミスト栽培法”であり、この方法は植物が必要とする量の肥料や空気を根部に、集中して、直接に与えることができる点において、前記特許文献1に記載された水耕栽培方法とは本質的に相違している。
【0007】
ところで、このミスト栽培法においては、その植物に必要な肥料を、必要な量で、必要とする時期に正確に根部に供給できる点において、根腐れ問題や害虫問題など各種の問題を解消でき、更に、管理された清潔な環境において野菜などを工業的に生産できる。
【0008】
特に青ジソの葉に含まれている成分(ペリルアルデヒド)は、抗菌作用や消臭作用、更に血液の粘性低下の作用を持っている。そしてその成分を含むが故に経済的にも大きな価値を持っており、この青ジソをミスト栽培法によって大量栽培されている。なお、この青ジソの栽培には例えば、前記特許文献3に記載された方法、あるいはこれを改良した方法が採用されている。
【0009】
ミスト栽培装置を説明すると、枠型の架台を組み、この架台の周囲をテントなどに使用するようなシートで覆って架台の内部に空洞部ないし閉鎖された空間を形成し、この架台の上に薄形の培地容器を配置し、この容器内に培地を敷き、この培地に青ジソの苗を植付けて栽培すると、その根部は次第に薄い培地を貫いて下方に伸びる。架台の周囲はシートで覆われて空洞部、即ち、閉鎖空間を形成しており、この空洞部のその上方には2〜4本の液状の肥料を噴霧するスプレー管が配置されて施肥室が形成されている。
【0010】
そして青ジソの成長と共にその根部は前記架台の内部の空洞部内の上下方向に、あたかも林のように延びて成長するが、その根部に対して無菌状態で、有機肥料や水が所定のタイミングで噴霧状ないしシャワー状に付与されるように構成されている。
【0011】
ところで、青ジソは葉が商品であり、従って、葉の面積が大きく、かつ全体が均一な薄緑色で、部分的な変色がない上に虫食いなどがなく、綺麗で見栄えの良く、しかも食することかできるように柔らかいことが重要である。
【0012】
ところで、この青ジソの病気として考えられるものは、a)青枯病、b)さび病、c)斑点病(葉に褐色〜黒色の小さな斑点ができる。)、d)そうか病、e)灰色かび病などがある。また、害虫も大きな問題である。害虫の種類としてはアザミウマ類、アブラムシ類、カンザワハダニ、コナジラミ類などである。
【0013】
前記各種の病気や害虫の問題は、一般的には植物が圃場で直接に栽培されることから、気温の変化や太陽光線を受ける時間の長短や強さ、風雨などの各種の問題がある上に、前記のように害虫の攻撃にさらされることが大きく関係している。
【0014】
そこで、これらの病気や害虫の問題を一挙に解決する方法として、肥料や病原菌に対する管理が十分に行なえる前記ミスト栽培法が開発され、工業的に実施されているわけであるが、これにもなお問題がある。
【0015】
(高温多湿の問題点)
温室内にミスト栽培装置を設置し、噴霧室において根部に直接、液状肥料をミスト状に噴霧する方法を採用しているので、特に夏期においては噴霧装置内の湿度が上昇することは防ぐことができない。温室が太陽光線を浴びて室内が高温に暖められるが、室温と共に湿度が上昇し、時には90%を越える状態になる。そしてこの昼間において、高温の空気中に含まれていた水分は、太陽が陰ったり、夜間になると昼間に空気内に含まれていた水分は室温の低下と共に結露することになる。
【0016】
例えば、青ジソの場合、7〜8月の高温になる季節には急成長する。そして、その成長の際に大量の葉から大量の水分を放出し、これが湿度の上昇の原因となっている。そしてこの高温多湿の雰囲気は病気の原因ともなっている。つまり、空気中の水分が結露する時は、室温より低温の箇所であり、特に植物の葉の部分である。青ジソの場合は、葉の面積が広く、そして柔らかい。また、葉同志が重なり合っていることから葉の表面に水分を保有し易く、そしてこの水分を保有した状態で高温に保持されていると前記病気が発生するのである。
【0017】
図10は、気温(℃)と飽和蒸気量(g/m3 )との関係を示すグラフであるが、例えば10℃の室温の飽和蒸気は10gの水分を含み、15℃〜13g、20℃〜17g、25℃は23g、30℃〜30g、40℃〜50g、50℃〜84gもの水分を含んでいることが分かる。つまり、温室が太陽で暖められた状態の閉鎖空間、特に温室の上層部においては高温であり、湿度のわりに水分量が大きい。この水分量を多く含む空気が冷却されると次第に湿度か増加し、余剰の水分が結露することになるのである。
【0018】
(夏期の植物の病気)
この比較的高温多湿の雰囲気は特に青ジソのように葉の成長が早く、しかも柔らかであると共に水分を多量に発生する植物においては、前記のように各種の病気を発生して葉の品質つまり商品価値を低下させることになるので、高温・多湿の雰囲気を可能な限り回避する必要がある。
【0019】
(従来の高温時における温室の温度低下方法)
ところで、温室内の湿度を低下させる一般的な方法としては、温室の天井部に設けられた排気ファンによって温室内の空気を排気し、その排気分だけ外気を入れて温室内の温度と湿度の低下を計っている。しかし、この排気方法は、外気が湿度を多く含んでいる場合は、温室内の空気が含んでいる水分を積極的に除去するものではなく、効果的に温室内の湿度を低下させることができないのが現状である。
【0020】
(ミスト栽培の特徴と温室内の湿度低下)
ところで、ミスト栽培においては、温室内の地面に大量のミスト栽培装置が置かれており、これが低温部分を構成することになる。図10に示す飽和蒸気線図を検討すると、例えば、50℃の空気を20℃程度まで低下させた場合は、その空気から排出される水分量は66g程度にもなる。
【0021】
従って、ミスト栽培装置の施肥室(低温部)内に、温室の上層部に存在している高温かつ多湿の空気を、その内部に肥料が噴霧されて温度が低下している施肥室に導入することによって空気中の水分を積極的に結露させ、分離することが可能であり、当然、その分離された水分だけ温室内の湿度を低下させることが可能である。
【0022】
繰り返しになるが、温室内の湿度が異常に高いと、栽培中の柔らかい葉に青枯病やさび病、更に斑点病やベト病などを発生し易い。そしてこれが発生すると温室全体に蔓延し、温室内全体の青ジソの葉の品質が低下し、遂には壊滅状態となることもある。しかし、従来は、前記したように温室内の高温の空気を排気したり天井部を開放することで水分を排出する方法しか手段がなかったのである。しかし、この方法は、排気と共に外気を交換することになり、外気と共に水分を温室内に呼び込むことになり、積極的な湿度の低下方法にはならない。
【0023】
本発明は、夏期におけるハウス内の高湿度に起因する植物の病気などの問題を解決し、良品質の植物を効率的に栽培する温室装置を提供することを目的とするものである。
【0024】
(根部冷却による成長抑制の問題)
冬季にも植物を栽培する温室の場合は、灯油を燃焼させて加熱空気をつくり、この加熱空気を温室内に放出して室温を上昇する方法が一般的に採用されている。この場合、加熱空気量を低下させる意味で温室を横断して幕を張って温室を上下に二分してその体積を減少させ、それに応じて加熱空気の供給量を低下させ、それに伴なって加熱空気に使用する灯油な量を減少し、ひいては温室栽培のコストの低下を図ることが実施されている。
【0025】
ところで、ミスト栽培方法においては、根部に肥料や水を噴霧状で与えているので、この噴霧により蒸発潜熱などの原因で熱が奪われ、根部を冷やす一因ともなっている。現実のミスト栽培装置においては、この噴霧により根部が温室内の温度より3〜5℃は低下することが確認されている。
【0026】
特に冬季は植物の成長が停止し、枯渇する時期であり、前記のように温室内を灯油を使用して温室内を暖房しても、温室内全体を必要とする温度に保持することが困難である。特に、肥料を噴射して根部に施肥することから施肥室内の温度低下を阻止することができず、そのことが起因して植物の成長能力の低下により成長が著しく低下してしまうことになる。
【0027】
(発明の目的)
本発明の第1の目的は、ミスト栽培の“夏期”の、特に昼間の温室内の高温の空気に多量の水分が含まれており、これが室温の低下と共に結露することにより、植物に必要以上の水分を付与することになる。
【0028】
例えば「幅が30m、長さが60m、高さが7mの温室」の場合、容積は5000m3 であり、この内部の空気が45℃である場合は約275リットル(ドラム缶一本より多い。)の水分を保有している。
【0029】
このように高温の雰囲気における過剰水分が原因となって、特に、柔らかい葉物の植物に病気が発生する原因を効果的に解決することにある。
本発明の第2の目的は、室温が低い時、特に冬季における噴霧室内で根部が冷却されて肥料の吸収力を低下させ、その結果、根部の成長を妨げ、ひいては植物の成長を阻止することを抑制する方法を提供することにある。
【0030】
また、根部を暖めることによって、この根部より隔離された雰囲気内に位置している葉部の温度、つまり温室内の温度を通常の温度である20℃より5℃程度を低下させることを目的としている。
【0031】
温室内の温度の低下は、暖房の際の燃料消費量に大きく関係するものであり、冬季における温室内の温度を20℃より5℃程度低下させると、灯油に使用する費用を約50〜60%程度節減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0032】
前記目的を達成するための本発明に係る湿度調節機能付温室装置の構成は次の通りである。
1)上部に培地部を、その下部に形成した空間部の内部に液体噴射ノズルを配置して施肥室を形成し、前記培地部に植えた植物の根部を前記施肥室に伸長させ、液状の肥料などを噴霧して成長させるようにした栽培装置を配置した温室において、
前記温室内の上層部と前記施肥室との間を結ぶダクトに有圧換気扇を配置し、前記上層部の空気をダクトを介して前記施肥室に導入し、この施肥室内で空気中の水分を結露させるように構成した点を特徴としている。
【0033】
2)前記ダクトの空気吸引部を温室の上層部の高温空気が集まる場所に配置し、温室内の高温多湿の空気を空気を吸引して前記施肥室内に導入することを特徴としている。
3)前記温室内の空気をダクト内に供給するための有圧換気扇を、前記温室内の3mの高さにおける温度が41℃以上の時に作動させることを特徴としている。
【0034】
4)前記温室の上層部よりダクト内に押込まれた空気は施肥室内において結露させ、その施肥室内で結露水を排出することを特徴としている。
5)本発明に係る除湿機能付温室装置は、上部に培地部を、その下部に形成した空間部の内部に液体噴射ノズルを配置して施肥室を形成し、前記培地部に植えた植物の根部を前記施肥室に伸長させ、液状の肥料などを噴霧して成長させるようにした栽培装置を温室内に配置すると共に、この温室に空気加熱装置を併設して冬季に暖房加熱するように構成した温室において、前記施肥室内に電気発熱ヒーターを配置し、この電気発熱ヒーターにより低温時に根部を暖めるように構成したことを特徴としている。
【0035】
6)上部に培地部を、その下部に形成した空間部の内部に液体噴射ノズルを配置して施肥室を形成し、前記培地部に植えた植物の根部を前記施肥室に伸長させ、液状の肥料などを噴霧して成長させるようにした栽培装置を配置した温室において、
前記温室内を暖房する空気加熱装置と、肥料を加熱する加熱装置と、前記施肥室内の根部を暖めるための電気発熱ヒーターをそれぞれ配置し、
施肥室内に噴霧する肥料などの温度が、根部の成長を妨げる温度に低下する時期に、前前記空気加熱装置を作動させると共に前記肥料タンクの加熱装置と施肥室の電気発熱ヒーターを発熱させる共に、前記温室内の温度を通常の暖房温度より約5℃程度低下させることを特徴とする植物のミスト栽培方法。
【0036】
7)外気温が10℃以下であり、温室内の液状の肥料の温度が10℃以下である時に、前記空気加熱装置と肥料の加熱装置と電気発熱ヒーターを発熱させることにより、施肥室の温度を約18〜22℃に保持し、温室内の温度を15〜16℃を目標に制御することを特徴としている。
【0037】
本発明に係るミスト栽培装置を設けた温室装置は、温室の上層部の高温・多湿の空気を低温部である施肥室内に導入して通過させることによって結露させ、空気中の水分含有量を次第に低下させるものであり、いわば、高効率の除湿機能を持つ温室装置を提供するものである。
【0038】
また、ミスト栽培装置の欠点である、冬季における収穫量の減少と暖房費の高騰の問題を解決するために、根部を加熱すると共に、暖房する空気の温度を通常の温度より低下させることによって暖房費の経済性を図るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の温室の湿度低減方法の概念を示すものであって、鉄骨やアルミ型材を使用した構造物に透明ないし半透明なプラスチック板を全面的に使用した温室1であって、屋根面の一部を開放可能として高温時の温室(例えば、幅が30m、長さが60m、高さが7m)内の温度を調節できるようにしている。そしてこの温室の底部に「ミスト栽培装置2が複数基設置されている。
【0040】
このミスト栽培装置2にはダクト3(薄い合成樹脂パイプや金属パイプなど)が接続され、温室1の上層部1aまでこのダクト3が延長され、このダクト3に取付けられた換気扇(有圧換気扇)4(例えば、10リットル/分程度の小型のもの)によって温室の上層部1aの高温多湿の空気を吸引して温室の床面に配置されている前記ミスト栽培装置2に案内するように構成されている。
【0041】
図2は、ミスト栽培装置2を示す斜視図であって、その栽培装置2の主体部に空洞部からなる施肥室5(図示の都合上、開放部があるように見えるが、周囲は厚手のシートなどで閉鎖した空間を形成している。)が形成されている。
【0042】
この施肥室5には各種の構造のものが採用されるが、例えば、図6に示すように下部支持材6と上部支持材7を、支柱8によって所定の間隔をおいて接続して枠体9を形成している。そして前記下部支持材6の上に下部容器10が、上部支持材7の上に上部容器15がそれぞれ支持されている。
【0043】
下部容器10の上には電気加熱式の面状ヒーター13(この実施例の場合、本出願人が製造販売している商品名:プラヒート)が、冬季に植物の根部を暖房するために敷かれている。そしてこの面状ヒーター13の上にシート14を敷き、このシート14の上に図2に示すダクト3の水平部3aを載置している。
【0044】
前記施肥室5内の上方には複数本のスプレーノズル16が配置され、これより植物の根部に養分などを調整された液状の肥料が噴霧されるようになっている。
【0045】
また、上部支持材7の上に上部容器15が支持され、この上部容器15内には図示しない透水性網状物などを敷き、その上に培地17を敷いている。そして上部容器15と下部容器10との間の側面を厚手の非透水性シート18で覆い、施肥室5を一個の閉鎖された空間に形成し、根部に雑菌が侵入することを防止している。
【0046】
図2に示すように、培地17には青ジソ(大葉)などの植物Pが植えられ、前記施肥室5内に根部Rを伸ばし、この根部Rに対してスプレーノズル16よりその植物の性質に合わせて調節された肥料が噴霧状態で、適宜、適量だけ管理された状態で供給されるようになっている。
【0047】
図3と図4は、ミスト栽培装置2Aを示す横断面図と側断面図であって、図6で説明した同様な部材に(A)を付けて図示している。
【0048】
図10の飽和水蒸気線図を参照すると理解できるように、45℃の湿度が100%の空気の場合には、65g/m3 の水分を含有している。しかし、これが25℃の湿度が100%の空気となった場合には23g/m3 の水分となり、その差である42g/m3 もの水分が排出できることになる。
【0049】
温室1の上部に高温部が、また、地面近傍に低温部が存在すれば、高温部の空気を低温部までダクトで移送し、この低温部においてこのダクトの外側からスプレーノズルなどの水噴射手段によって温度を下げることによって、高温空気に含まれていた水分の多くを結露させ、これを排除することができるのである。従って、この水分が排出され、乾燥した空気を温室内で循環させることによって、温室内の湿度を急速に低下させることができるのである。
【0050】
前記のようにして温室内の湿度を積極的に低下させることができ、植物に水分による悪影響を格段に改善し、病気のない植物、特に面積が大きく、柔らかく、更に色彩に優れた葉を持つ植物(特に青ジソなど)の品質を保ちながら、大量生産することができるものである。
【0051】
前記説明は、夏期の高温多湿の状態の温室内の湿度の調節方法についてのものであるが本発明は、更に冬季にも植物を効率的に栽培できる温室装置を提供している。
【0052】
図6においては、下部容器10の上面に沿って電気発熱式の面状ヒーター13を配置しており、スプレーノズル16から噴射される肥料ミストによって施肥室5内に伸長する根分が冷却されるが、この冷却された分以上に、このヒーター13によって加熱し、根部の温度を高めて成長を促し、冬季においても効果的にミスト栽培を実施することができる。
【0053】
図7は、図6の装置の変形であって、面状ヒーター13を植物の根部に平行するように縦方向に配置して効率的に根部を加熱するようにている。このように面状ヒーター13を縦方向に配置することによって、根部に対して効率的に熱(遠赤外線)を与えることができるのである。
【0054】
図8は、ダクトを簡略化した温室30の正断面図、図9は同横断面図である。この温室30の内部の天井部には換気扇31(誘圧ファン)と、大型のダクト32と、ヘッダー33を配置し、このヘッダー33に複数本の小径のダクト34を接続し、このダクト34の下部をミスト栽培装置2の施肥室5内に図4に示すように延長させており、この延長部分に肥料噴霧をあてて冷却して空気中の水分を結露させるように構成している。
【0055】
また、図9に示すように温室30の屋根部分には開閉板が設けられ、温室30内の温度が異常に高温となった場合に、その自然の空気流で高温に加熱された空気を排出するように構成されたものを示している。
【0056】
(温室内の温度制御の重要性について)
本発明に係る湿度調節機能を持つ温室に関する技術的思想と利点を纏めると次のようになる。
【0057】
第1点:冬季においては、好ましくは夜間電力を使用して面状ヒーターを発熱させ、約20℃程度まで施肥室5内の温度を昇温させることによって、根部を加熱することによって冬季においても植物の成長を持続できる。
【0058】
第2点:夏期においては、温室の3m以上の部位に存在する高温の空気を、23℃程度の温度に調整されている施肥室内に、ダクトやチューブ(薄い合成樹脂チューブ)で導入することによって、この施肥室5内で空気中の水分を結露させ、温室内の湿度を効率的に低下させる。
【0059】
第3点:前記第2点の操作は、冬季の昼間の温かい時にも応用する。
第4点:冬季は植物の根部を加熱して低温障害から保護し、その成長を停止させることなく、収量の増加を図ることができる。
【0060】
第5点:冬季においては、施肥室5内に伸びる根部Rを暖めてその根部Rの細胞の活性化を図り、寒い時期にもかかわらず、植物の成長を維持促進できる。
更に、この根部を暖めることによって、植物の茎や葉の部分と共に、温室内の温度を、少なくとも5℃は低下させることができる。例えば、20℃程度の温度に暖房されている温室において、温度を前記20℃から5℃低下させた場合、この温度低下は暖房用燃料である灯油の使用量にも大きく影響して、暖房経費を大きく低下させることになる(約50〜60%も大幅に低減できる)。
【表1】

注:最も高さの高い部分(三角部分)が7mの温室において、地面から0m〜6m6mまでの距離における、a)冬季と夏期、b)夜間と昼間における、温室の温度の制御目標値を示したものである。
【0061】
このように制御することによって夏期においては湿度を空気中の湿度を低下させる効果がある。
また、冬季においては植物の根部を暖め、この根部を冬季においても成長を停止させることなく、栽培を可能にして効率を上げる。
【0062】
この根部の加熱により、温室内の温度を約5℃程度低下させても植物に実質的に低温の影響を与えることがなく、従って、この温室内を暖房するための灯油の消費量を大幅に低減できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】温室の断面図である。
【図2】温室に設置するダクトを併設したミスト栽培装置の斜視図である。
【図3】図2に示したミスト栽培装置の横断面図である。
【図4】図3の側断面図である。
【図5】図2に相当するミスト栽培装置の横断面図である。
【図6】現実に使用しているミスト栽培装置の横断面図である。
【図7】図6の変形のミスト栽培装置の横断面図である。
【図8】温室の横断面図である。
【図9】図8に示す温室の正断面図である。
【図10】温度の飽和水蒸気量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1 温室 1a 上層部 1b 下層部
2 ミスト栽培装置 3 ダクト(なるべく簡略化したもの)
3a ダクトの水平部
4 換気扇 5 施肥室 6 下部支持材 7 上部支持材
8 支柱 9 枠体 10 下部容器 11 上部容器
13 面状ヒーター 14 シート
16 肥料スプレーノズル 17 培地 18 非透水性シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に培地部を、その下部に形成した空間部の内部に液体噴射ノズルを配置して施肥室を形成し、前記培地部に植えた植物の根部を前記施肥室に伸長させ、液状の肥料などを噴霧して成長させるようにした栽培装置を配置した温室において、
前記温室内の上層部と前記施肥室との間を結ぶダクトに有圧換気扇を配置し、前記上層部の空気をダクトを介して前記施肥室に導入し、この施肥室において空気中の水分を結露させるように構成した除湿機能付温室装置。
【請求項2】
前記ダクトの空気吸引部を温室の上層部の高温空気が集まる場所に配置し、温室内の高温多湿の空気を空気を吸引して前記施肥室内に導入することを特徴とする請求項1記載の除湿機能付温室装置。
【請求項3】
前記温室内の空気をダクト内に供給するための有圧換気扇を、前記温室内の3mの高さにおける温度が41℃以上の時に作動させることを特徴とする請求項1記載の除湿機能付温室装置。
【請求項4】
前記温室の上層部よりダクト内に押込まれた空気は施肥室内において結露させ、その施肥室内で結露水を排出することを特徴とする請求項1記載の除湿機能付温室装置。
【請求項5】
上部に培地部を、その下部に形成した空間部の内部に液体噴射ノズルを配置して施肥室を形成し、前記培地部に植えた植物の根部を前記施肥室に伸長させ、液状の肥料などを噴霧して成長させるようにした栽培装置を温室内に配置すると共に、この温室に空気加熱装置を併設して冬季に暖房加熱するように構成した温室において、
前記施肥室内に電気発熱ヒーターを配置し、この電気発熱ヒーターにより低温時に根部を暖めるように構成した除湿機能付温室装置。
【請求項6】
上部に培地部を、その下部に形成した空間部の内部に液体噴射ノズルを配置して施肥室を形成し、前記培地部に植えた植物の根部を前記施肥室に伸長させ、液状の肥料などを噴霧して成長させるようにした栽培装置を配置した温室において
前記温室内を暖房する空気加熱装置と、肥料を加熱する加熱装置と、前記施肥室内の根部を暖めるための電気発熱ヒーターをそれぞれ配置し、
施肥室内に噴霧する肥料などの温度が、根部の成長を妨げる温度に低下する時期に、前前記空気加熱装置を作動させると共に前記肥料タンクの加熱装置と施肥室の電気発熱ヒーターを発熱させる共に、
前記温室内の温度を通常の暖房温度より約5℃程度低下させることを特徴とする植物のミスト栽培方法。
【請求項7】
外気温が10℃以下であり、温室内の液状の肥料の温度が10℃以下である時に、前記空気加熱装置と肥料の加熱装置と電気発熱ヒーターを発熱させることにより、施肥室の温度を約18〜22℃に保持し、温室内の温度を15〜16℃を目標に制御することを特徴とする請求項6記載の植物のミスト栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−61014(P2007−61014A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252274(P2005−252274)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000114064)ミサト株式会社 (15)
【Fターム(参考)】