説明

除湿用シート状物

【課題】本発明の課題は、優れた除湿性能を有し、本発明の除湿用シート状物を成形加工してなる除湿素子において、除湿素子の変形がない除湿用シート状物を提供することにある。
【解決手段】水分吸着剤及び有機繊維を含有してなるシートに、水溶性ポリエステル樹脂を後塗工して製造される除湿用シート状物。水溶性ポリエステル樹脂の含有量が、水分吸着剤に対して30質量%以下且つ除湿用シート状物に対して3g/m以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸放湿を可能とする除湿用シート状物に関する。
【背景技術】
【0002】
デシカント空調機は、デシカントといわれる水分吸着剤によって低湿度の空気を作り出す空調機器である。低湿度の空気の供給によって、一般的に推奨されている28℃程度の温度でも快適性を充分に得ることができる。このデシカント空調機は、室外から室内へと空気を導入するための給気用ファン、給気空気中の水分を吸着することにより除湿するための除湿ロータ、除湿された空気を冷却するための冷却器、除湿ロータに吸着した水分を除去して除湿ロータを再生するための加熱器、そして、室内の空気を室外へ排気するための再生用ファン等を有している。除湿ロータは、水分吸着剤を含有してなる除湿用シート状物を円筒形ロータ状に加工したものである。この除湿ロータが回転することによって、処理空気の水分を吸着する吸着ゾーンとこの吸着水分を高温で除去する再生ゾーンとを順次通過するようになっている。
【0003】
除湿用シート状物の水分吸着剤としては、高吸水性高分子、カルボキシメチルセルロース等の有機系水分吸着剤、セピオライト、ゼオライト、ベントナイト、アタパルジャイト、珪藻土、活性炭、多孔質金属酸化物、水酸化アルミニウム等の無機系水分吸着剤が用いられている。
【0004】
デシカント空調機は除湿された空気を冷却するため、結露による問題が発生しにくいという利点があるが、再生ゾーンにおいて、水分吸着剤から吸着水分を脱着させるために加熱エネルギーが必要なため、空調機全体のエネルギー効率は必ずしも満足できるものではなかった。特に、広く使用されている多孔質金属酸化物では吸湿量は多いが、一度吸着した水分をなかなか放さないため、脱水するのに多くの加熱エネルギーが必要であり、より低温で再生できる水分吸着剤が求められている。
【0005】
デシカント空調用除湿素子は、無機系除湿素子と有機系除湿素子に分けられる。無機系除湿素子としては、無機繊維シートなどで作製したハニカムロータにゼオライトを含有するスラリーを含浸し、高温焼成して有機物を除去し得られる除湿素子、セラミック繊維シートに水ガラスを含浸して、シリカゲルを生成させて得られる除湿素子等がある。有機系除湿素子にとしては、水分吸着剤と有機繊維とを含有してなる多孔性の除湿用シート状物をハニカム状に成形加工した有機系除湿素子がある(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0006】
また、水分吸着量の向上を目的として、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等の吸湿性塩を多孔質水分吸着剤に担持させる技術が提案されている(例えば、特許文献5〜8参照)。
【0007】
これらの除湿素子に含まれている水分吸着剤の多くは、水分を吸脱着するときに体積が大きく変動する。無機系除湿素子は、剛直な無機繊維から構成されているために、水分吸着剤の体積変動を吸収することができず、亀裂、シンタリング、水分吸着剤の脱離等が発生するという問題があった、有機系除湿素子では、柔軟な有機繊維によって構成された空隙が体積変動を吸収するために、亀裂やシンタリングは発生しにくい。しかし、有機系除湿素子の有機繊維として、水酸基を含有するパルプ等を使用するものが多く、この水酸基の水素結合によって調湿用シートの強度が保たれているため、湿った空気によって水素結合が弱くなることがあり、除湿用シート状物の強度が低下し、有機系除湿素子のセルが変形する問題が発生することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−226037号公報
【特許文献2】特開平5−115737号公報
【特許文献3】特開2004−268020号公報
【特許文献4】国際公開第08/004703号パンフレット
【特許文献5】特開2003−201113号公報
【特許文献6】特開平11−114410号公報
【特許文献7】特公平7−49091号公報
【特許文献8】特開昭60−241930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、優れた除湿性能を有し、本発明の除湿用シート状物を成形加工してなる除湿素子において、除湿素子の変形がない除湿用シート状物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、水分吸着剤と有機繊維とを含有してなるシートにおいて、水溶性ポリエステル樹脂を後塗工することよって、解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0011】
水分吸着剤と有機繊維とを含有してなるシートに、水溶性ポリエステルを後加工することによって、水分吸着剤の吸着特性を維持したままシート強度を向上させ、本発明の除湿用シート状物を成形加工してなる除湿素子において、形状変化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、水分吸着剤としては、多孔質金属酸化物を使用することができる。多孔質金属酸化物は、珪素、チタン、アルミニウム、タンタル、バナジウム、ジルコニウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム等から選ばれる少なくとも1種の金属原子の酸化物を含有してなり、その形態としては、多数の細孔を有する粒状体、一次粒子径が数nmの単独粒子が複数凝集してなる複合粒子、管状体、繊維状金属酸化物の凝集体等が挙げられる。より具体的には、非晶質アルミニウム珪酸塩、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲル、繊維状又は管状のアルミニウム珪酸塩、繊維状又は管状の酸化チタン等を挙げることができる。また、高吸水性高分子、カルボキシメチルセルロース等の有機系水分吸着剤を使用することもできる。
【0013】
本発明の除湿用シート状物において、水分吸着剤の含有量は、10質量%以上90質量%以下が好ましく、35質量%以上80質量%以下がより好ましく、40質量%70質量%以下がさらに好ましい。含有量が10質量%未満であると、充分な吸湿量が得られない場合がある。90質量%を超えると、除湿用シート状物から水分吸着剤の脱離(粉落ち)が起きる場合がある。
【0014】
本発明において、除湿用シート状物に吸湿性塩を含有させてもよい。吸湿性塩としては、具体的には塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等のハロゲン化金属塩、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛などの金属硫酸塩、酢酸カリウム等の金属酢酸塩、塩酸ジメチルアミンなどのアミン塩類、オルトリン酸などのリン酸化合物、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、スルファミン酸グアニジンなどのグアニジン塩、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等を挙げることができる。この中でも、ハロゲン化金属塩、グアニジン塩を使用すると、吸湿量と放湿速度を効率的に高めることができる。
【0015】
吸湿性塩を含有させる場合、除湿用シート状物中の吸湿性塩の含有量は、水分吸着剤に対して1〜100質量%以下が好ましい。1質量%未満では、吸湿量及び放湿速度が向上しない場合があり、100質量%を超えると、液だれを起こす場合がある。さらに好ましい吸湿性塩の含有量は、水分吸着剤の総量に対して2質量%以上70質量%以下である。
【0016】
有機繊維としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ジエン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド系樹脂よりなる繊維を使用することができる。また、木材パルプ、楮、三椏、藁、ケナフ、竹、リンター、バガス、エスパルト、サトウキビ等の植物繊維、あるいはこれらを微細化したものを用いることができ、さらに、セルロース再生繊維であるレーヨン繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂系繊維、シリコーン樹脂系繊維等を用いることができる。ステンレスやニッケルウール等の金属繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維等の無機繊維も用いることができる。
【0017】
本発明の除湿用シート状物において、有機繊維の含有量は、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上65質量%以下がより好ましく、30質量%60質量%以下がさらに好ましい。含有量が10質量%未満であると、除湿用シート状物から水分吸着剤の脱離(粉落ち)が起きる場合がある。90質量%を超えると、充分な吸湿量が得られない場合がある。
【0018】
ポリエステルとは、ポリアルコールと多過カルボン酸を反応させた1種の重縮合体で生まれる化学物質の総称である。ポリエステルに親水基を導入することにより、水溶性ポリエステルにすることができ、溶剤を使わずに水溶液として使用することができる。水溶性ポリエステルに含まれる親水基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、スルホ基、エーテル基などが挙げられる。好ましくはカルボキシル基である。
【0019】
本発明の除湿用シート状物における水溶性ポリエステル樹脂の含有量は、水分吸着剤に対して30質量%以下且つ除湿用シート状物に対して3g/m以上が好ましい。30質量%を超えると、吸湿量を著しく阻害し、3g/m未満では、本発明の除湿用シート状物を成形加工してなる除湿素子において、形状変化を抑制することが難しくなる場合がある。さらに好ましい含有量は、水分吸着剤に対して15質量%以下且つ除湿用シート状物に対して5g/m以上である。
【0020】
本発明の除湿用シート状物の製造方法は、
(I)水分吸着剤及び有機繊維を含有するウェブを作製した後に、水溶性ポリエステル樹脂を後塗工する方法、
(II)有機繊維を含有してなるシート基材に水分吸着剤を塗工した後に、水溶性ポリエステル樹脂を後塗工する方法、
を挙げることができる。
【0021】
製造方法(I)において、水分吸着剤及び有機繊維を含有するウェブを作製する方法としては、カード法、エアレイ法等の乾式法、湿式抄造法を用いることができる。このうち、水分吸着剤が均一に分散されること、水分吸着剤が不規則な構造となりやすいこと等の理由から、湿式抄造法を用いることが好ましい。湿式抄造法とは、希釈した構成材料を水中に低濃度で分散させて、これを抄き上げる方法で、安価で、均一性が高く、大量製造が可能な手法である。具体的には、水分吸着剤と有機繊維とを主体としてスラリーを調製し、これに填料、分散剤、増粘剤、消泡剤、紙力増強剤、サイズ剤、凝集剤、着色剤、定着剤等を適宜添加して、抄紙機で湿式抄造して、湿紙を得る。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、傾斜型抄紙機、これらの中から同種又は異種の抄紙機を組み合わせてなるコンビネーション抄紙機などを用いることができる。エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラムドライヤー、赤外方式ドライヤー等を用いて、湿紙を乾燥し、ウェブを得ることができる。
【0022】
湿式抄造法では、水分吸着剤と有機繊維で構成される凝集構造を安定化させるために、凝集剤を添加することができる。凝集剤としては、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、アルミナ、シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム等の無機含水酸化物、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アニオン又はカチオン変性ポリアクリルアミド、同じくポリエチレンオキサイド系ポリマー、アクリル酸又はメタクリル酸含有共重合物等の水溶性重合体、アルギン酸又はポリビニルリン酸及びこれらのアルカリ性塩、アンモニア、ジエチルアミン及びエチレンジアミン等のアルキルアミン、エタノールアミン等のアルカノールアミン、ピリジン、モルホリン、含アクリロイルモルホリン重合物などがある。特に、アニオン又はカチオン変性水溶性ポリマー凝集剤のうち、ポリマー中にカチオン単位とアニオン単位の双方を有する両性凝集剤は優れた凝集効果を発揮することができる。
【0023】
また、フィブリル化繊維を含有させると、水分吸着剤の含有率を高めることができて好ましい。フィブリル化繊維とは、セルロース繊維、アラミド繊維、芳香族ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維などの高い結晶性を有する繊維を、ビーター、コニカルリファイナー、シングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、ホモジナイザー、サンドミル等の各種叩解機を用い機械的に粉砕して得られる、繊維の表面や繊維自体が非常に細かく割れている繊維をいう。フィブリル化繊維を用いた場合、水分吸着剤とフィブリル化繊維とを水中で分散し、これに適宜凝集剤を添加して、水中凝集構造物を作製し、短繊維ともに湿式抄造する。フィブリル化繊維の具体例としては、セルロース繊維をホモジナイザーでフィブリル化したもの(商品名:セリッシュKY−100S、KY−100G、ダイセルファインケム株式会社製)、アラミドパルプなどがある。さらに、微生物によって生産されるバクテリアセルロース解離物、柔細胞由来のフィブリル化セルロース繊維も使用できる。
【0024】
フィブリル化繊維の繊維長と繊維幅のアスペクト比は約20〜100000の範囲に分布し、カナディアンスタンダードフリーネスは0〜500mlの範囲にあることが好ましく、0〜200mlの範囲にあることがより好ましい。さらに質量平均繊維長が0.1〜2mmの範囲にあるものが好ましい。
【0025】
製造方法(I)〜(II)において、水分吸着剤の塗工や水溶性ポリエステル樹脂の後塗工には、ブレードコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、ショートドウェルコーター、コンマコーター、ダイコーター、リバースロールコーター、キスコーター、ディップコーター、カーテンコーター、エクストルージョンコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、サイズプレス等の含浸又は塗工装置を使用することができる。コーティング液としては、水分吸着剤や水溶性ポリエステル樹脂を含有する溶液又は分散液を使用する。媒体としては、アルコール、ケトン等の有機溶剤と水との混合液や水を好適に用いることができる。
【0026】
吸湿性塩を含有させる場合、吸湿性塩は、水分吸着剤と同時に塗工するか、水分吸着剤の後に塗工することが好ましい。水溶性ポリエステル樹脂を塗工する液に吸湿性塩を混ぜてもよい。
【0027】
製造方法(II)で用いることができるシート基材としては、紙、織布、乾式不織布、湿式不織布、編物等の布帛などがある。このうち、特に不織布は空隙率が高く、また繊維構成によっては分散液の塗工性・浸透性も向上させることができ、さらに、繊維マトリクス内に水分吸着剤が保持されることで、シート基材からの脱離が抑制されるので、特に適したシート基材である。これらのシート基材は、単独で用いても良いし、貼り合わせ等によって積層複合化して用いても良い。また、プリーツ加工、コルゲート加工、積層加工、ロールコア加工、ドーナツ加工等から選ばれる少なくとも1つの成型加工法を用いたフィルター加工が施されていても良い。
【0028】
本発明の除湿用シート状物は、単層構造であっても良いし、多層構造であっても良い。高目付の除湿用シート状物を得ようとする場合には、多層構造とすると地合が良好になる傾向がある。例えば、目付100g/mの除湿用シート状物を製造する場合、1層構造ではなく、50g/m+50g/mの2層構造、30g/m+40g/m+30g/mの3層構造とすることができる。
【0029】
本発明の除湿用シート状物は、その目付が25〜250g/mであることが好ましく、30〜200g/mであることがより好ましく、40〜150g/mであることがさらに好ましい。また、厚みは30〜500μmが好ましく、40〜300μmがより好ましく、50〜200μmがさらに好ましい。
【0030】
本発明の除湿用シート状物は、そのまま用いてもよいが、シート強度を高めるために、別種の紙、フィルム、布帛等の基材と積層複合化させても構わない。また、カレンダー処理などによって、表面均一性を向上させたり、厚みを調整したりしてもよい。
【0031】
本発明の除湿用シート状物を用いて、次のような成型加工によって、除湿ロータを製造することができる。まず、除湿用シート状物からハニカム状積層構造体を製造する。ハニカム状積層構造体とは、開孔を有するセル壁からなる積層構造体であって、片面段ボールからなるコルゲートハニカム状積層構造体、六角形セルからなるヘキサゴンハニカム状積層構造体、正方形セルからなるハニカム状積層構造体、三角形セルからなるハニカム状積層構造体及び中空円筒状セルを集合してなるハニカム状積層構造体などが挙げられる。ここで、六角形や正方形などのセル形状は必ずしも正多角形である必要はなく、角が丸味を帯びる、辺が曲がっているなどの異形であっても構わない。片面段ボールは、JIS Z 1516に記載の「外装用段ボール」に準拠して作製することができる。次いで、ハニカム状積層構造体を型抜きなどの方法で円筒形ロータ状に切り抜く方法で、除湿ロータが得られる。また、除湿用シート状物から得られた片面段ボールを渦巻き状に巻き上げて円筒形ロータ状に成形加工する方法によっても、除湿ロータを製造することができる。また、紙、布帛、フィルム等のシート基材を円筒形ロータ状に成型加工した後に、水分吸着剤と吸湿性塩をコーティングする方法でも、除湿ロータを製造することができる。
【実施例】
【0032】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、特にことわりのない場合、部数、百分率、比率は質量基準である。
【0033】
(水分吸着剤)
実施例及び比較例で使用した吸着剤を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
水分吸着剤1は以下の方法で調製した。Si濃度が383mmol/Lになるように、純水で希釈したオルトケイ酸ナトリウム水溶液400mlを調製した。また、これとは別に、塩化アルミニウムを純水に溶解させ、Al濃度が450mmol/Lの水溶液400mlを調製した。次に、塩化アルミニウム水溶液にオルトケイ酸ナトリウム水溶液を混合し、マグネティックスターラーで撹拌した。このときのSi/Al比は0.85であった。さらに、この混合溶液に1N水酸化ナトリウム水溶液18mlを滴下し、pHを7とした。この溶液から遠心分離により前駆体を回収し、4Lの純水中に分散させた。室温下で1時間撹拌した後、4Lの密閉容器に移し替え、恒温槽にて98℃で2日間加熱を行った。冷却後、遠心分離により3回洗浄後、60℃で乾燥を行い、吸着剤1を得た。透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡で、吸着剤1を観察したところ、一次粒子径は2〜5nmの粒子からなる粒子径2〜40nmの複合粒子が0.1〜100μmの凝集構造体を構成していて、該凝集構造体に2〜20nmの細孔があった。
【0036】
水分吸着剤2は以下の方法で調製した。ゾルゲル法によって得られたアナターゼ酸化チタン粒子に、20mol/kg濃度の水酸化カリウム水溶液を加え、温度120℃で15時間加熱した。得られたスラリー状物を繰り返し水洗し、さらに塩酸で中和し、再度充分に水洗して、余剰のイオン成分を除去した後、乾燥させて網状構造の繊維状酸化チタンを得た。得られた繊維状酸化チタンのBET法による比表面積は480m/gであった。
【0037】
水溶性ポリエステルは以下の方法で調整した。ジメチルテレフタル酸179.4部、ジメチルイソフタル酸46.2部、5−スルホン酸ナトリウムジメチルイソフタル酸47部、エチレングリコール163部、シュウ酸チタニウムカリ0.1部を加えて、窒素雰囲気下で撹拌混合しながら、200℃まで昇温後、3時間かけて260℃まで昇温し、エステル交換反応を終了した。さらに、三酸化アンチモン0.08部を加えた後、250℃に昇温し、0.5mmHgに減圧し、重合反応を進行させた。得られたポリエステル樹脂20部と、水80部を90℃で2時間かけて撹拌し、水溶性ポリエステル20%液を得た。
【0038】
表1に示した水分吸着剤50質量部、ポリエステル繊維(商品名:テピルスTM04PN、帝人ファイバー株式会社製、繊度0.1dtex、繊維長3mm)26質量部及びポリエステル繊維(商品名:テピルスTJ04CN、帝人ファイバー株式会社製、繊度1.1dtex、繊維長5mm)17質量部、セルロース系フィブリル化繊維(商品名:セリッシュKY−100G、ダイセルファインケム株式会社製)7質量部を混合し、固形分濃度2質量%のスラリーとした。
【0039】
得られたスラリーに凝集剤(商品名:PERCOL57、BASFジャパン)を全固形分に対して0.2質量%添加し、カナディアン・スタンダード・フリーネス(C.S.F)で600〜750mlにし、円網型抄紙機で抄紙し、乾燥して、60g/mのウェブ1〜3を得た。
【0040】
得られたウェブ同士の間にポリエチレン樹脂を厚さ25μmで押出ポリサンドラミネートして貼り合わせ、積層シート1〜3を得た。
【0041】
実施例1〜3
積層シート1〜3に水溶性ポリエステルを片面乾燥質量4g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させた後に、塩化マグネシウム水溶液を片面6g/mずつになるように両面塗工し、乾燥させ、得られたシートを実施例1〜3のシート状物とした。
【0042】
実施例4
水分吸着剤1にアンモニアを適量加えて、ビーズミルで湿式粉砕して、12質量%濃度の分散液を作製し、結着剤としてラテックス(商品名:モビニール8020、ニチゴー・モビニール製)を水分吸着剤に対して10質量部添加し、水を加え濃度10質量%の塗工液Aを作製した。
【0043】
次に、ポリエステル繊維(商品名:テピルスTM04PN、帝人ファイバー株式会社製、繊度0.3dtex、繊維長3mm)30質量部及びポリエステル繊維(商品名:テピルスTJ04CN、帝人ファイバー株式会社製、繊度1.7dtex、繊維長5mm)30質量部、NBKP40質量部を混合し、固形分2質量%スラリーとし、円網型抄紙機で抄紙し、乾燥して、40g/mのウェブ4を得た。
【0044】
得られたウェブ同士の間にポリエチレン樹脂を厚さ25μmで押出ポリサンドラミネートして貼り合わせ、積層シート4を得た。積層シート4に塗工液Aを片側に乾燥質量20g/mずつになるように両面塗工し、乾燥させ後に、水溶性ポリエステルを片面乾燥質量4g/mずつになるように両面後塗工し、得られたシートを実施例4のシート状物とした。
【0045】
実施例5
積層シート1に水溶性ポリエステルを片面乾燥質量1.5g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させたシートを実施例5のシート状物とした。
【0046】
実施例6
積層シート1に水溶性ポリエステルを片面乾燥質量5g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させたシートを実施例6のシート状物とした。
【0047】
実施例7
積層シート1に水溶性ポリエステルを片面乾燥質量1g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させたシートを実施例7のシート状物とした。
【0048】
実施例8
積層シート1に水溶性ポリエステルを片面乾燥質量3g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させたシートを実施例8のシート状物とした。
【0049】
実施例9
積層シート1に水溶性ポリエステルを片面乾燥質量4.5g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させたシートを実施例9のシート状物とした。
【0050】
実施例10
積層シート1に水溶性ポリエステルを片面乾燥質量6g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させたシートを実施例10のシート状物とした。
【0051】
実施例11
積層シート1に水溶性ポリエステルを片面乾燥質量9g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させたシートを実施例11のシート状物とした。
【0052】
実施例12
積層シート1に水溶性ポリエステルを片面乾燥質量10g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させたシートを実施例12のシート状物とした。
【0053】
比較例1〜3
積層シート1〜3に塩化マグネシウム水溶液を片側に乾燥質量6g/mずつになるように両面塗工し、乾燥させ、得られたシートを比較例1〜3のシート状物とした。
【0054】
比較例4
水溶性ポリエステルを後塗工しないこと以外は、実施例4と同じにした。
【0055】
比較例5
積層シート1にポリオレフィン水性ディスパージョンを片面乾燥質量4g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させた後に、塩化マグネシウム水溶液を片面6g/mずつになるように両面塗工し、乾燥させ、得られたシートを比較例5のシート状物とした。
【0056】
比較例6
積層シート1にポリビニルアルコール(商品名:PVA−117、(株)クラレ製)水溶液を片面乾燥質量4g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させた後に、塩化マグネシウム水溶液を片面6g/mずつになるように両面塗工し、乾燥させ、得られたシートを比較例6のシート状物とした。
【0057】
比較例7
積層シート1にエチレン−酢酸ビニルエマルジョン(商品名:リカボンド(登録商標)BEF9857、中央理化工業(株)製)水溶液を片面乾燥質量4g/mずつになるように両面後塗工し、乾燥させた後に、塩化マグネシウム水溶液を片面6g/mずつになるように両面塗工し、乾燥させ、得られたシートを比較例7のシート状物とした。
【0058】
<評価1:吸湿特性>
実施例及び比較例で作製した除湿用シート状物を10cm×10cmに裁断して、90℃で2時間乾燥させ、乾燥質量WSDを測定した。次に、25℃、相対湿度30%(低湿雰囲気)で2時間放置して、質量WS30を測定した。続いて、温度は25℃のままで相対湿度を50%(中湿雰囲気)に上げて2時間放置して、質量WS50を測定した。さらに、温度25℃のままで相対湿度を80%(高湿雰囲気)に上げて2時間放置して、質量WS80を測定した。下記式(1)〜(3)から、水分吸着量AS30、AS50、AS80(g/m)を測定し、結果を表2に示した。
【0059】
S30(g/m)=(WS30−WSD)× 100 (1)
S50(g/m)=(WS50−WSD)× 100 (2)
S80(g/m)=(WS80−WSD)× 100 (3)
【0060】
<評価2:剛直度評価>
JIS−L1085に準じてガーレ剛直度を測定し、結果を表2に示した。
【0061】
<評価3:除湿素子変形評価>
実施例及び比較例で作製した除湿用シート状物を高さ1.9mm、ピッチ3.2mmの片段段ボールを作製し、これをハブに渦巻き状に巻き付けて、外径1000mm、内径180mm、厚み100mmの円筒形ロータ状の除湿素子を作製した。外枠をアルミニウム製として、中心ハブとは、片側4本のスポークで連結し、除湿素子の形状安定化を図った。温度25℃相対湿度を90%の庫内に作製したロータを立て掛けて1ケ月間放置し、巻き上がった片段段ボールが変形したかどうかを調べ、結果を表2に示した。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例1〜4と比較例1〜4との比較から、水溶性ポリエステル樹脂を後塗工することによりシートの強度が上がり、ロータが変形しにくくなっている。また、後塗工したことによる吸湿量低下はあまり見られなかった。実施例1、5〜12の比較から、実施例7は、水溶性ポリエステル樹脂の含有量が除湿用シート状物に対して3g/m未満のため変形が見られ、実施例12は、水溶性ポリエステル樹脂の含有量が水分吸着剤に対して30質量%超のため、吸湿量低下が大きくなる傾向が見られた。よって、除湿用シート状物における水溶性ポリエステル樹脂の含有量は、水分吸着剤に対して30質量%以下且つ除湿用シート状物に対して3g/m以上であることが好ましいことがわかる。水溶性ポリエステル樹脂を後塗工した実施例1とポリオレフィン水性ディスパージョンを塗工した比較例5及びポリビニルアルコールを後塗工した比較例6とを比べると、比較例5及び6は、後塗工したことによりロータが変形しにくくなったが、除湿量はかなり低下した。水溶性ポリエステル樹脂を後塗工した実施例1とエチレン−酢酸ビニルエマルジョンを塗工した比較例7とを比べると、比較例7は後塗工してもロータが変形し、除湿量もかなり低下していた。
【0064】
水分吸湿剤と有機繊維とを含有してなるシートに水溶性ポリエステル樹脂を後塗工することによりなる本発明の除湿用シート状物とこのシート状物からなる除湿素子では、形状の変化が少なく、優れた除湿性能を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の除湿用シート状物は、高い吸湿量を示すので、デシカント空調機の除湿ロータとして使用できるほか、ビル空調気化式加湿用素子、燃料電池用加湿用素子、除湿器用除湿素子、自動販売機等の吸水蒸散素子、冷却用吸水蒸散素子、全熱交換素子等の調湿素子や熱交換素子にも利用可能である。また、包装材料、押入やタンス用の除湿シート、壁紙や床材等の内装材料等にも利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分吸着剤及び有機繊維を含有してなるシートに、水溶性ポリエステル樹脂を後塗工して製造される除湿用シート状物。
【請求項2】
水溶性ポリエステル樹脂の含有量が、水分吸着剤に対して30質量%以下且つ除湿用シート状物に対して3g/m以上である請求項1記載の除湿用シート状物。

【公開番号】特開2012−192393(P2012−192393A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60432(P2011−60432)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】