説明

除膜方法

【課題】部品の母材を傷付けることなくパリレン膜を効率よく除去することができる除膜方法を提供する。
【解決手段】成膜装置を用いて成膜対象物に対しパリレン膜を成膜したとき、この成膜装置の構成部品Bに付着したパリレン膜Pを除去する除膜方法において、パリレン膜Pが付着した構成部品Bたる防着板の表面にペレット状のドライアイスを吹き付けて衝突させるブラスト工程を含む。このブラスト工程に先立ち、防着板を加熱する加熱工程を更に含ませてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置を用いて成膜対象物に対しパリレン膜を成膜したとき、この成膜装置の構成部品に付着したパリレン膜を除去する除膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば有機EL素子の発光層等を保護する封止膜に、耐水性や耐薬品性に優れるパリレン膜が用いられており、このようなパリレン膜の成膜には真空蒸着装置(成膜装置)が一般に用いられている(例えば特許文献1参照)。この成膜装置では、有機EL素子が形成された樹脂製基板等の成膜対象物を成膜室内に配置した後、当該成膜室を所定圧力に真空引きする。そして、パリレン粉末を熱分解してパリレンダイマーを得て、このパリレンダイマーを更に熱分解して得たパリレンモノマーを成膜対象物表面に供給し、当該表面にてパリレンモノマーを蒸着重合させることでパリレン膜が成膜される。
【0003】
パリレン膜の成膜時、パリレンモノマーは、成膜対象物表面だけでなく、成膜室を画成する隔壁や成膜対象物を支持するステージ等、成膜装置を構成する構成部品表面にも付着し、重合してパリレン膜が形成される。この場合、パリレン膜が成膜され易い部分には通常防着板(構成部品に含まれる)が設けられているが、構成部品へのパリレン膜の膜厚が厚くなると、成膜対象物への良好な成膜が阻害される虞がある。このため、成膜装置からパリレン膜が付着した防着板等の構成部品を一旦取り外し、その表面に付着したパリレン膜を除去した後、再使用される。ここで、パリレン膜は、上記の如く耐薬品性に優れた結晶性の高い膜である。このため、フッ酸や硝酸等の強酸を用いた洗浄によって除去することが実質的にできないことから、ガラスビーズブラスト(GBB)やホワイトアランダムブラスト(ABB)を用いてパリレン膜を除去することが一般的である。
【0004】
然し、上記従来例では、構成部品表面に硬質のガラスビーズやアルミナビーズを衝突させてパリレン膜を物理的に破壊して除去するため、構成部品の母材(例えば、アルミナ製)によっては、その表面が傷付けられるという不具合がある。つまり、パリレン膜が除去された箇所にまでガラスビーズやアルミナビーズが衝突すると、当該箇所が研削され、構成部品表面に微細な凹凸が形成されるという不具合が生じる。そして、このように傷付いた構成部品を再使用し、構成部品表面のうち凹部にパリレン膜が付着してしまうと、上記従来例の方法では、もはやパリレン膜を除去することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−235765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、部品の母材を傷付けることなくパリレン膜を効率よく除去することができる除膜方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、成膜装置を用いて成膜対象物に対しパリレン膜を成膜したとき、この成膜装置の構成部品に付着したパリレン膜を除去する除膜方法において、前記パリレン膜が付着した構成部品表面にペレット状のドライアイスを吹き付けて衝突させるブラスト工程を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、パリレン膜のドライアイスが吹き付けられて衝突した箇所では、急激な熱収縮を起こし、この熱収縮を起こしたパリレン膜が割れると共に、パリレン膜と構成部品表面との間に隙間が生じる。そして、この隙間にドライアイスが入り込み、入り込んだドライアイスが瞬時に気化して急激な体積膨張を起こすことで、パリレン膜が部品表面から簡単に剥離される。このとき、部品表面にもドライアイスが衝突するが、部品表面に衝突したドライアイスは急激に気化するため、構成部品表面に傷を付けることはない。尚、本発明において、ペレット状のドライアイスには、粒状のドライアイスが含まれるものとする。
【0009】
また、本発明においては、前記ブラスト工程に先立ち、前記構成部品を加熱(例えば、100〜200℃)する加熱工程を更に含むことが好ましい。これによれば、部品とパリレン膜との熱膨張係数の差に起因して、部品表面とパリレン膜との密着性が低下し、上記熱収縮の効果が更に大きくなることと相俟って、パリレン膜をより一層効率よく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の除膜方法に利用するドライアイス吹付装置の構成を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、構成部品を真空蒸着装置の成膜室に着脱自在に配置される防着板Bとし、この防着板に付着したパリレン膜Pを除去する場合を例に本発明の実施形態の除膜方法について説明する。尚、パリレン膜Pの成膜に用いられる真空蒸着装置の構造等は公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0012】
図1を参照して、1は、本実施形態の除膜方法に利用するドライアイス吹付装置である。ドライアイス吹付装置1は、液化炭酸を収納するタンク2と、タンク2に配管3を介して接続される、液化炭酸からペレット状のドライアイスを形成するペレタイザー4と、このペレタイザー4に配管5を介して接続され、図示省略のコンプレッサーを内蔵する本体6とを備える。本体6には、先端にガンノズル7が設けられた供給ホース8が接続されている。そして、ペレタイザー4から供給されるドライアイスをコンプレッサーで圧縮した空気によりガンノズル7に送り、所定圧力でパリレン膜Pに対して吹き付けられる。以下に、このドライアイス吹付装置1を用いたパリレン膜Pの除去方法を具体的に説明する。
【0013】
先ず、パリレン膜Pが付着した防着板Bを真空蒸着装置から取り外し、所定の位置にセットする。そして、パリレン膜Pの表面に、ガンノズル7を操作してペレット状のドライアイスを吹き付ける。ドライアイスのサイズは、直径がφ0.3mm〜3mmであり、かつ、長さが0.3mm〜5mmであることが好ましい(ドライアイスの直径及び長さが共に0.3mmのとき、粒状(球状)となる)。本実施形態では、ガンノズル7の噴射口の口径が、例えば、φ6〜16mmであるものを用いている。ガンノズル7の噴射口からパリレン膜Pの表面までの距離は、例えば、50〜60mmの範囲内で設定することが好ましい。ドライアイスの吹付圧は、例えば0.1〜1.0MPa/cmの範囲内で設定することができる。そして、パリレン膜Pの表面に対して直交する方向からドライアイスを吹き付ける。
【0014】
以上によれば、パリレン膜Pの表面にペレット状のドライアイスが吹き付けられると、パリレン膜Pのドライアイスが吹き付けられた部分が急激な熱収縮を起こし、熱収縮を起こしたパリレン膜Pが割れると共にパリレン膜Pと防着板B表面との界面に隙間が生じる。そして、この隙間に他のドライアイスが入り込み、入り込んだドライアイスが瞬時に気化して急激な体積膨張(750倍)を起こすことで、パリレン膜Pが防着板B表面から簡単に剥離される。このとき、防着板B表面にもドライアイスが衝突するが、衝突したドライアイスは急激に気化するため、防着板B(母材)の表面が傷付くことがない。また、従来例の如くガラスビーズやアルミナビーズを用いることがないため、防着板Bの表面に不純物が残存することがない。このため、その後の洗浄処理は不要となる。
【0015】
また、ドライアイスの吹き付けに先立ち、防着板Bを所定温度(例えば、100〜200℃)に加熱するようにしてもよい。防着板Bの加熱には、ヒートガンや加熱炉を用いることができる。ヒートガンや加熱炉は公知構造のものを用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。これにより、防着板Bとパリレン膜Pとの熱膨張係数の差に起因して、防着板B表面とパリレン膜Pとの密着性が低下し、上記熱収縮の効果が更に大きくなることと相俟って、パリレン膜Pをより一層簡単に剥離除去することができる。
【0016】
上記効果を確認するため、以下の実験を行った。本実験では、真空蒸着装置のダイマータンクにおいてパリレン粉末を約160℃に加熱してダイマータンク内壁にパリレン膜Pを付着させ、付着させたパリレン膜Pに対し、図1の上記ドライアイス吹付装置1を用いてパリレン膜Pを除去した。ここで、ドライアイスとしては直径がφ0.3mmのものを用い、ガンノズル7の噴射口からパリレン膜Pの表面までの距離は約50mmとし、圧縮空気圧力は0.3MPa/cmとした。本実験によれば、ダイマータンク内壁に付着したパリレン膜を除去でき、しかも、ダイマータンクの母材に傷が無いことが確認された。
【0017】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、防着板B表面に付着したパリレン膜を除去する場合について説明したが、構成部品はこれに限定されるものではなく、基板に対する成膜範囲を限定するマスク等、パリレン膜が付着したものであれば、本発明を適用することができる。また、上記実施形態では、真空蒸着装置から防着板を取り外した後、別の場所でパリレン膜を除去する場合を例としているが、真空蒸発装置内で直接ドライアイスを吹き付けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0018】
1…ドライアイス吹付装置、7…ガンノズル、P…パリレン膜、B…防着板(構成部品)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置を用いて成膜対象物に対しパリレン膜を成膜したとき、この成膜装置の構成部品に付着したパリレン膜を除去する除膜方法において、
前記パリレン膜が付着した構成部品表面にペレット状のドライアイスを吹き付けて衝突させるブラスト工程を含むことを特徴とする除膜方法。
【請求項2】
前記ブラスト工程に先立ち、前記構成部品を加熱する加熱工程を更に含むことを特徴とする請求項1記載の除膜方法。


【図1】
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【公開番号】特開2013−95989(P2013−95989A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241887(P2011−241887)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】