説明

除菌層装置

【課題】本発明は、特に養液栽培で使用される農業用用水や養液に存在する病原菌を効率良く除菌する除菌層装置を提供する。
【解決手段】除菌層装置10は、容器11、除菌層12、導水パイプ14、排水パイプ15、除菌シート16、邪魔板17,18及び水栓ソケット12からなり、除菌層を、銀、銅等の抗菌効果を有する金属を担持させたリン酸塩系の抗菌剤と、無機系バインダーと、異形粒状セラミックスとの混合原料をドーナツ状に焼成して形成し、除菌層と邪魔板とを容器内で交互に積層し、除菌層中心に形成された貫通孔に導水パイプと排水パイプとを挿通し、容器内壁と排水パイプの垂設部分を除菌シートで被覆して構成されている。該除菌層装置を循環する農業用循環水13は、除菌層及び除菌シートに満遍なく行き渡り、除菌層は異形粒状セラミックスを含むので、循環水の接触面積を広くすることができ、液中の病原菌を効率よく除菌することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環する液体、特に養液栽培で使用される農業用用水や養液に存在する病原菌を除菌する除菌層に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農業用循環水中の細菌などを除去する方法として、オゾン殺菌、紫外線殺菌、銀イオンなどの除菌性能を持った金属性分を溶出する方法、メンブレンフィルターやサンドフィルターなどによる物理的除去などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−228603号公報
【特許文献2】特開平9−163884号公報
【特許文献3】特開2004−194649号公報
【特許文献4】特開2001−017011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、オゾン殺菌方法では、オゾンが養液中のマンガン成分と反応して、酸化マンガンとなり、植物への吸収が抑制されると同時に、有機物や養液成分などと過剰反応することにより殺菌効率が低下するという可能性がある。
紫外線殺菌は、養液中の微量要素に影響を与えるほか、汚れなどによる濁度が大きい場合は養液の透過率が低くなり、殺菌効率が低下する。
銀イオンなどの除菌性能を持った金属性分を溶出する方法では、金属イオンの溶出量制御が難しく、植物の根に過剰に付着した場合、根部障害を起こし、地上部の生長を抑制する可能性がある。
物理的除去では、物理的にトラップした病原菌を死滅させるために他の殺菌方法を組み合わせる必要がある。また、細菌などをトラップするためには細かいフィルターが必要となり目の詰まりが早くなりメンテナンスが必要となり、日常的な洗浄処理が必要となる。
【0005】
上記問題点を解決するためになされた本発明は、特に養液栽培で使用される農業用用水や養液に存在する病原菌を効率良く除菌する除菌層装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1に記載の除菌層装置は、銀又は銅イオンから成る抗菌成分をイオン交換法により担持し、抗菌成分の溶出量が50ppb以下であるリン酸塩系の抗菌剤を粒状セラミックスの表面に無機バインダーで均一に固定した除菌粒を容器に充填して除菌層を構成したことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の除菌層装置は、請求項1に記載の除菌層装置において、前記容器内面を除菌効果のあるシート材で被覆したことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の除菌層装置は、請求項1若しくは請求項2に記載の除菌層装置において、前記除菌層を異なる粒子サイズの除菌粒で構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の除菌層装置は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の除菌層装置において、前記抗菌剤と、前記粒状セラミックス及び前記無機バインダーの混合材料を所定形状に成型し、ついで焼成して形成した成型体で前記除菌層を構成したことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の除菌層装置は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の除菌層装置において、除菌対象液体の導水口を前記容器の上部に設け、除菌対象液体の排水口を前記容器の下部に設け、前記除菌層中に導水口から排水口へ流れる除菌対象液体の流れを乱す邪魔板を設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の除菌装置は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の除菌層装置において、前記抗菌剤と、前記粒状セラミックス及び前記無機バインダーの混合材料を、中心穴を有するドーナツ状に成型したドーナツ形成型体を複数個積層して前記除菌層を構成し、除菌対象液体の導水口を最上層のドーナツ形成型体の上面に近接して配置し、各ドーナツ形成型体の中心穴に除菌対象液体の排水パイプを貫通して該排水パイプの排水口を前記容器の下部に配置し、上下に隣接するドーナツ形成型体の間に導水口から排水口へ流れる除菌対象液体の流れを乱す邪魔板を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の除菌層装置によれば、銀及び銅などの抗菌成分を含み、その成分が液体に溶出しにくい抗菌剤を表面に均一に固定化させた除菌粒を容器に充填したから、そこを流れる液体に対して溶出や吸収などの影響をほとんど与えることがない。
また、粒状セラミックスの表面全体に抗菌剤が存在するため、液中の病原菌と抗菌剤との接触面積が広く、効率よく除菌することができる。
また、抗菌剤は無機バインダーなどで強力に粒状セラミックスと固定化してあるため剥がれ落ちることはなく、長期にわたって除菌性能が持続する。
【0013】
請求項2に記載の除菌層装置によれば、除菌粒と容器内面との間に除菌効果のあるシート状のものを施工したから、容器内面を伝って流れようとする液に対しても除菌することができる。
【0014】
請求項3に記載の除菌層装置によれば、除菌層を異なる粒子サイズの除菌粒で構成したので、除菌粒の充填効率を変えることができ、それによって除菌条件・除菌性能を制御することができる。すなわち、使用条件によって適切な除菌層を選定することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の除菌層装置によれば、前記抗菌剤と、前記粒状セラミックス及び前記無機バインダーの混合材料を所定形状に成型し、ついで焼成して形成した成型体で前記除菌層を構成したので、焼成によって形成された除菌粒の充填効率を変えることができ、それによって除菌条件・除菌性能を制御することができる。すなわち、使用条件によって適切な除菌層を選定することが可能となる。
また、成型体で除菌層を構成したので、除菌層の交換や洗浄等のメンテナンスが容易になる。
【0016】
請求項5に記載の除菌層装置によれば、除菌層中に導水口から排水口へ流れる除菌対象液体の流れを乱す邪魔板を設けたので、液中の病原菌と粒表面に存在する抗菌剤との接触する可能性が増加する。また、邪魔板の形状を変更することによって除菌性能や液体流量を制御することができる。さらにまた、成型で圧を加えることで粒同士が密着し気孔が狭くなり、そこを通過する病原菌は粒表面と接触しやすくなるので、除菌性能が向上する。
【0017】
請求項6に記載の除菌層装置によれば、ドーナツ形成型体を積層して除菌層を構成し、ドーナツ形成型体間に邪魔板を配置したので、除菌層や邪魔板の交換、洗浄等のメンテナンスがより一層容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施例に係る除菌層装置の構成の概略を示す縦断面図である。
【図2】第2実施例に係る除菌層装置の構成の概略を示す縦断面図である。
【実施例1】
【0019】
本発明の第1実施例に係る除菌層装置を図1に示す。
除菌層装置10は容器11、除菌層12、容器11中に除菌対象液体である農業用循環水13を導水する導水パイプ14、容器11中から農業用循環水13を排水する排水パイプ15、除菌シート16及び邪魔板17,18を備えている。
【0020】
除菌層12は、6層構造を有し、各層12a,12b,12c,12d,12e,12fは、例えば特開平07−053319号に開示されているように、銀又は銅イオンから成る抗菌成分をイオン交換法により担持し、抗菌成分の溶出量が50ppb以下であるリン酸塩系の抗菌剤と、SiO、Al等からなる無機系バインダー及び粒子サイズが100〜325メッシュの異なる粒子サイズをもつ粒状セラミックスとの混合原料を中心穴を有するドーナツ状に成型して焼成した成型体からなる。
本実施例において、除菌層成型体12a,12b,12c,12d,12e,12fは、混合原料を外径84mm、内径38mm、厚さ34mmのドーナツ状に成型して900℃で5時間焼成して形成されている。
【0021】
導水パイプ14は、その導水口14aが容器11内部の上部空間に開口している。排水パイプ15は容器11中心部に垂設され、下端の排水口15aが容器11の底部11a近辺に開口している。排水口15aには周面に多数の小孔を形成した水栓ソケット19が装着されている。
本実施例において、導水パイプ14と排水パイプ15は、外径25mmの塩化ビニルパイプが使用されている。
【0022】
容器11の内周面と排水パイプ15の容器内11の垂設部分15bの外周面は除菌シート16で被覆されている。
本実施例において、除菌シート16は、除菌層12の抗菌剤と同じ抗菌剤を3重量%、パルプ67%、及び化学繊維30%から成る密度0.55g/cmの除菌シートである。
【0023】
邪魔板17,18は、ゴム製で中心穴を有する大径円板形の邪魔板17と、同じく中心穴を有する小径円板形の邪魔板18の2種類からなり、容器11中に設けられている。
【0024】
大径邪魔板17は容器11の内周面に装着できる外径寸法を有する。
また、小径邪魔板18は排水パイプ15の垂設部分15bに装着できる内径を有する。
さらにまた、大径邪魔板17の内径寸法と小径邪魔板の外径寸法18は、導水口14aから容器11に導水された液体が容器底部11aへと直線的に流下するのではなく、容器11の径方向へも邪魔板17,18を伝って流れ、これにより液体の流れが乱されるように、所要寸法に設定されている。
【0025】
各邪魔板17,18は、容器11に最下層の第1除菌層成型体12aを装填し、その表面に大径邪魔板17を載置し、ついでその上から第2除菌層成型体12bを積層し、その表面に小径邪魔板18を載置し、以下同様にして交互に除菌層成型体12c,12d,12e,12fと邪魔板17,18を積層した後、排水パイプ15を除菌層成型体12a,12b,12c,12d,12e,12fの中心穴に挿通して、容器11中に装着される。
【実施例2】
【0026】
次に本発明の第2実施例に係る除菌層装置を図2に示す。
ドーナツ状に成型した除菌層成型体12a,12b,12c,12d,12e,12fで除菌層12を構成した第1実施例に係る除菌層装置10に対し、第2実施例に係る除菌層装置20の除菌層12は、銀又は銅イオンから成る抗菌成分をイオン交換法により担持し、抗菌成分の溶出量が50ppb以下であるリン酸塩系の抗菌剤と、SiO、Al等からなる無機系バインダー及び粒子サイズが100〜325メッシュの異なる粒子サイズをもつ粒状セラミックスとの混合原料を焼成して形成した除菌粒12gを容器11に充填して構成されている。
本実施例において、除菌粒12gは、容器11に3kg充填されている。
導水パイプ14、排水パイプ15、邪魔板17,18等、その他の構成は第1実施例と同じであるので、説明を省略する。
【0027】
上記第1実施例及び第2実施例の作用効果を検証するため、以下に列記する比較例1乃至比較例5を用意し、両実施例及び比較例について性能比較実験を実施した。
該性能比較実験は、根腐病原菌(Pythium helicoides)遊走子を水に懸濁させた懸濁水50リットルを毎分20リットルの流量で5回流して、除菌層通過前の菌数と、5回通過後の菌数を測定することによって行った。該性能比較実験の結果を表1に示す。
【0028】
a)比較例1について
邪魔板17,18及び除菌性能を有した除菌シート16を設置しないこと以外は、実施例1と同じ条件で評価実験を実施し、除菌率12%を得た。
b)比較例2について
容器に充填する粒が、抗菌剤がついていない粒であること、及び除菌性能を有した除菌シート16を設置しないこと以外は、実施例2と同じ条件で評価実験を実施し、除菌率6%を得た。
c)比較例3について
除菌性能を有した除菌シート16を設置しないこと以外は、実施例1と同じ条件で評価実験を実施し、除菌率95%を得た。
d)比較例4について
設置するシートが除菌性能を有しないこと以外は、実施例1と同じ条件で評価実験を実施し、除菌率78%を得た。
e)比較例5について
邪魔板17,18をセットしないこと以外は、実施例1と同じ条件で評価実験を実施し、除菌率80%を得た。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、本実施例に係る除菌層装置10,20によれば循環する水、特に農業用循環水13に存在する病原菌を効率よく、更に循環する水にほとんど影響を及ぼすことなく除菌することができる。
【符号の説明】
【0031】
10,20…除菌層装置、
11…容器、
12…除菌層、12a,12b,12c,12d,12e,12f…除菌層成形体、12g…除菌粒、
13…農業用循環水、
14…導水パイプ、15…排水パイプ、
16…除菌シート、
17…大径邪魔板、18…小径邪魔板、
19…水栓ソケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀又は銅イオンから成る抗菌成分をイオン交換法により担持し、抗菌成分の溶出量が50ppb以下であるリン酸塩系の抗菌剤を粒状セラミックスの表面に無機バインダーで均一に固定した除菌粒を容器に充填して除菌層を構成したことを特徴とする除菌層装置。
【請求項2】
前記容器内面を除菌効果のあるシート材で被覆したことを特徴とする請求項1に記載の除菌層装置。
【請求項3】
前記除菌層を異なる粒子サイズの除菌粒で構成したことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の除菌層装置。
【請求項4】
前記抗菌剤と、前記粒状セラミックス及び前記無機バインダーの混合材料を所定形状に成型し、ついで焼成して形成した成型体で前記除菌層を構成したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の除菌層装置。
【請求項5】
除菌対象液体の導水口を前記容器の上部に設け、除菌対象液体の排水口を前記容器の下部に設け、前記除菌層中に導水口から排水口へ流れる除菌対象液体の流れを乱す邪魔板を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の除菌層装置。
【請求項6】
前記抗菌剤と、前記粒状セラミックス及び前記無機バインダーの混合材料を、中心穴を有するドーナツ状に成型したドーナツ形成型体を複数個積層して前記除菌層を構成し、除菌対象液体の導水口を最上層のドーナツ形成型体の上面に近接して配置し、各ドーナツ形成型体の中心穴に除菌対象液体の排水パイプを貫通して該排水パイプの排水口を前記容器の下部に配置したことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の除菌層装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−263843(P2010−263843A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118459(P2009−118459)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000244176)明智セラミックス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】