説明

除菌率の測定方法、菌類の定植方法、菌類の定植・回収率の測定方法、菌類定植システム及び除菌率測定システム

【課題】各種の除菌装置等による除菌効果を評価する際に、実際に除菌処理が施される状態を想定した被検体を作成することができ、実情に即した実験モデルによって除菌効果を評価することが可能な除菌率の測定方法、菌類の定植方法、菌類の定植・回収率の測定方法、菌類定植システム及び除菌率測定システムを提供する。
【解決手段】菌類を所定菌数となるように含んだ菌液を圧縮空気霧化装置11により通気性を有する定植用培地13に噴霧して菌類を定植する菌類定植工程、定植用培地に定植した定植菌数を求める定植菌数測定工程、菌類を定植した定植用培地を除菌する除菌処理工程、除菌処理後の定植用培地に残存する菌類を回収する残存菌類回収工程、定植用培地から回収した菌類を培養用培地に塗布し、培養後の菌数を測定する残存菌数測定工程を備え、定植菌数と残存菌数とから除菌率を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除菌率の測定方法、菌類の定植方法、菌類の定植・回収率の測定方法、菌類定植システム及び除菌率測定システムに関し、より詳細には、例えば、エアーシャワー装置、エアースプレーなどによる各種の除菌装置、除菌手段による除菌効果を評価する際に、実情に即した実験モデルを作成して、除菌効果を評価することが可能な除菌率の測定方法、例えば、除菌装置などによる除菌効果を評価するに当たり、実情に即した実験モデルを作成することができる菌類の定植方法及び該定植方法により定植された菌類の回収率を好適に評価することができる菌類の定植・回収率の測定方法、更に、前記菌類の定植方法を好適に実施することができる菌類定植システム及び前記除菌率の測定方法を好適に実施することができる除菌率測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、同じ衛生水を使用した場合であっても、例えば、除菌装置の構成の違いなどによる除菌処理方法の相違による除菌効果の相違を評価することができる技術の開発が望まれるようになってきた。そしてまた、より現実に近い状態で除菌効果を評価することができる技術の開発も望まれていた。従来より、布のような通気性を有する培地に菌類を定植する手段は、特に確立されてなく、例えば、工業規格試験のJIS L 1912には、マスクなどの細菌バリアー性を調べるために、通気性を有する不織布を通り抜ける細菌をトリプトソイ培地が入ったシャーレに受け止め、通気性を有しないシャーレトリプトソイ寒天培地に抵触し、培養することにより不織布の細菌バリアー製を調べる方法が記載されているが、通気性を有する培地に菌類を定植する手段は記載されていない。また、例えば、特許文献1には、通気性を有する基材に金属と除菌液を塗布し、除菌フィルタを製造することが記載されているが、通気性を有する培地に菌類を定植するという発想は、何ら示唆されていない。
【0003】
また、例えば、特許文献2には、オゾンエアーシャワー装置による除塵除菌処理の前後における被験者の手の甲に付着している一般生菌を測定することが記載されている。更に、イオン発生素子及び除菌方法に関する特許文献3には、イオン発生素子による除菌効果を評価するために、チャンバ内の空気中の枯草菌芽胞を捕集し、枯草菌芽胞の空気中浮遊生菌数の経時的変化を測定することが記載されている。そして、特許文献4には、除菌マットによる除菌率を測定するために、除菌マットを踏む前と踏んだ後での被験者の靴底をReplica plater(登録商標)で押し付けた後、Replica platerを寒天培地に圧着し、培養後のコロニー数を測定して除菌率を算出して履物からの除菌率を測定することが記載されている。
【0004】
しかしながら、いずれにも菌類が付着した衣服を着た被除菌者に除菌処理をするというような実際に除菌装置が使用されたり、除菌手段が施される状態を想定し、布などのように通気性を有する培地に菌類を定植して被検体とするという発想、更に、このような被検体に除菌処理をし、処理後の除菌率を測定して除菌装置による除菌効果を評価するという発想は、何ら示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−209995号公報
【特許文献2】特開2004-19957号公報
【特許文献3】特開2004−335411号公報
【特許文献4】特開平10−179367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、例えば、エアーシャワー装置、エアースプレーなどによる各種の除菌装置、除菌手段による除菌効果を評価する際に、菌類が付着した衣服を着た被除菌者に除菌処理をするというような実際に除菌処理が施される状態を想定した被検体を作成することができ、実情に即した実験モデルによって除菌効果を評価することが可能な除菌率の測定方法、菌類の定植方法、菌類の定植・回収率の測定方法、菌類定植システム及び除菌率測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、(1)菌類を所定菌数となるように含んだ菌液を圧縮空気により霧化して通気性を有する定植用培地に噴霧し、該定植用培地に菌類を定植する菌類定植工程と、菌類定植工程によって定植用培地に定植した定植菌数を求める定植菌数測定工程と、菌類を定植した定植用培地を除菌する除菌処理工程と、除菌処理後の定植用培地に残存する菌類を定植用培地から回収する残存菌類回収工程と、残存菌類回収工程によって定植用培地から回収した菌類を培養用培地に塗布し、培養後の菌数を測定する残存菌数測定工程と、を備え、定植菌数と残存菌数とから除菌率を求めることを特徴とする除菌率の測定方法、(2)菌類を含んだ菌液を圧縮空気により霧化し、通気性を有する定植用培地に噴霧して、該定植用培地に菌類を定植することを特徴とする菌類の定植方法、(3)菌類を通気性を有する定植用培地に定植した後、定植用培地から回収した菌数の比率を測定する菌類の定植・回収率の測定方法であって、菌類を所定菌数となるように含んだ菌液を上記(2)に記載の菌類の定植方法により定植用培地に菌類を定植する菌類定植工程と、菌類定植工程によって定植用培地に付着した菌液の量を測定し、該測定値と菌液に含有された所定菌数とから定植用培地に定植した定植菌数を求める定植菌数測定工程と、定植用培地に定植した菌類を定植用培地から回収する定植菌類回収工程と、定植菌類回収工程によって定植用培地から回収した菌類を培養用培地に塗布し、培養後の菌数を測定する回収菌数測定工程と、を備え、定植菌数と回収菌数とから定植用培地に定植した菌類の定植・回収率を求めることを特徴とする菌類の定植・回収率の測定方法、(4)通気性を有する培地に菌類を定植させる菌類定植システムであって、圧力発生手段と、ジェットノズルと、圧力発生手段により発生した圧力をジェットノズルに搬送する圧力搬送手段と、菌類を含んだ液である菌液を保存する菌液保存手段と、菌液保存手段から菌液をジェットノズルに搬送する菌液搬送手段とを備え、ジェットノズルから菌液を噴出する圧縮空気霧化装置と、通気性を有し、ジェットノズルから菌液が噴霧される定植用培地と、該定植用培地を圧縮空気霧化装置から所定距離離間した位置で固定する枠体と重量測定手段とを備えた培地固定具とを備えたことを特徴とする菌類定植システム、及び(5)上記(4)に記載の菌類定植システムと、菌類が定植された定植用培地を除菌する除菌装置と、除菌された定植用培地から残存する菌類を洗い出して回収する菌類回収装置と、回収した菌類を含む回収菌液を培養用培地に塗布する回収菌液塗布装置と、回収した菌類を培養する恒温槽と、培養用培地で培養された菌類の菌数を計測するためのコロニーカウンターとを備えた残存菌数測定システムとを、備えたことを特徴とする除菌率測定システムを提供する。
【0008】
ここで、本発明の上記(1)除菌率の測定方法及び上記(2)菌類の定植方法において、圧力発生手段と、ジェットノズルと、圧力発生手段により発生した圧力をジェットノズルに搬送する圧力搬送手段と、菌類を含んだ液である菌液を保存する菌液保存手段と、菌液保存手段から菌液をジェットノズルに搬送する菌液搬送手段とを備え、ジェットノズルから菌液を噴出する圧縮空気霧化装置によって、菌液を霧化して培地に噴霧すると、より好適である。また、圧力発生手段による圧力が1.2〜10kg/cmであったり、培地に噴霧される菌液の噴霧量が1〜50ml/分であったり、菌液に含まれる菌類の所定菌数が4×10〜1×10個/gであったり、ジェットノズルの口径が0.05〜0.5mmであったり、定植用培地が、天然繊維,合成繊維又は半合成繊維からなる織物,編み物又は不織布、シート状の寒天、又は寒天を含浸した天然繊維,合成繊維又は半合成繊維からなる織物,編み物又は不織布から選ばれる一種であったりしても、更に好適である。また、本発明の上記(1)除菌率の測定方法の場合、定植菌数測定工程により求められる定植菌数は、定植用培地に付着した菌液の量を測定し、その測定値と菌液に含有された所定菌数とから求められる数値であってもよく、又は、定植用培地に定植した菌類を定植用培地から回収し、回収した菌類を標準寒天培地に塗布し、1〜100時間培養後の菌数を計測することによって求められるものであってもよい。更に、菌類を定植用培地から回収する方法としては、菌類を、ストマッカー処理により定植用培地から洗い出して回収する方法が、より好適である。また、除菌率の測定方法の除菌処理工程が、除菌剤を圧縮空気により霧化する圧縮空気霧化装置、除菌剤を超音波振動子により霧化する超音波霧化装置又は手動ポンプ式のスプレー容器に除菌剤を収容して微粒子化するスプレー装置によって、定植用培地に除菌剤を付着させるか、又は、定植用培地を除菌された空気に接触又は該空気中に載置することによるものであっても、より好適である。更に、本発明の上記(1)除菌率の測定方法及び(3)菌類の定植・回収率の測定方法の場合、残存菌類回収工程又は定植菌類回収工程において、菌類を、ストマッカー処理により定植用培地から洗い出して回収するものであったり、残存菌数測定工程又は回収菌数測定工程において、培養用培地が標準寒天培地であり、1〜100時間培養後の菌数を測定するものであったりすると、更に好適である。また更に、本発明の上記(3)に記載の菌類の定植・回収率の測定方法の場合、菌類定植工程において、予め除菌処理を施した定植用培地に菌類を定植すると、より好適であり、本発明の上記(4)に記載の菌類定植システムにおいて、重量測定手段が、菌液に含まれる菌類の所定菌数と、定植用培地に付着した菌液重量とから、定植用培地に定植された定植菌数を算出する定植菌数測定手段を備えたものであると、より好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の除菌率の測定方法によれば、例えば、エアーシャワー装置、エアースプレーなどによる各種の除菌装置、除菌手段による除菌効果を評価する際に、菌類が付着した衣服を着た被除菌者に除菌処理をするというような実際に装置が使用されたり、除菌手段が講じられたりする状態を想定した被検体を作成することができ、実情に即した実験モデルによって除菌効果を評価することが可能となる。また、本発明の菌類の定植方法によれば、各種の除菌装置、除菌手段による除菌効果を評価する際に、実際に装置が使用されたり、手段が講じられたりする状態を想定した被検体を作成することが可能となる。更に、本発明の菌類の定植・回収率の測定方法によれば、例えば、予め除菌手段を講じた定植用培地に菌類の定植を行うことにより、前記除菌手段の効果を明らかにすることも可能となる。そして、本発明の菌類定植システムによれば上記菌類の定植方法を好適に実施することができ、また、本発明の除菌率測定システムによれば上記除菌率の測定方法を好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の定植方法を実施するのに好適な圧縮空気霧化装置の構成例を説明する圧縮空気霧化装置の一部概略縦断面図である。
【図2】本発明の菌類定植システムの概略構成図である。
【図3】本発明のシステムの培地固定具の一構成例を説明する培地固定具の概略側面図である。
【図4】上記培地固定具の概略正面図である。
【図5】本発明の定植・回収率の測定方法による定植菌数と回収菌数との相関を最小二乗法により計算して求めたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の(1)除菌率の測定方法、(2)菌類の定植方法及び(3)菌類の定植・回収率の測定方法をより詳細に説明する。本発明の(1)除菌率の測定方法は、菌類定植工程、定植菌数測定工程、除菌処理工程、残存菌類回収工程、残存菌数測定工程を備え、定植菌数測定工程によって得られた定植菌数と残存菌数測定工程によって計測した残存菌数とから除菌率を求めるものであり、これによって、除菌処理による除菌効果を評価しようとする方法である。ここで、本発明の除菌率の測定方法の場合、定植菌数は、第1の定植菌数測定工程、即ち、培地に付着した菌液の量を測定し、その測定値と菌液に含有された所定菌数とから求められる数値であってもよく、又は、第2の定植菌数測定工程、即ち、培地に定植した菌類を培地から回収し、回収した菌類を標準寒天培地に塗布し、1〜100時間培養後の菌数を計測することによって求められるものであってもよい。
【0012】
即ち、本発明の除菌率の測定方法の定植菌数測定工程において、第1の定植菌数測定工程により、即ち、定植用培地に付着した菌液の量を測定し、その測定値と菌液に含有された所定菌数とから求められる数値を例えば「重量定植菌数」とし、第2の定植菌数測定工程、即ち、定植用培地に定植した菌類を定植用培地から回収し、回収した菌類を標準寒天培地に塗布し、1〜100時間培養後の菌数を計測することによって求められる数値を「回収定植菌数」とし、これらの値を後述する実施例に記載する方法で繰り返し実験により1×10個/g〜3×10個/gの菌類を含む菌液について重量定植菌数と回収定植菌数とを求めたところ、回収定植菌数÷重量定植菌数×100=88.5±0.6%、相関係数は0.996となり、良好な正の相関が得られた(後述する図5のグラフ参照)。また、再現性も確認された。従って、本発明の除菌率の測定方法によって、例えば、各種除菌装置、除菌手段の除菌効果を評価するのであれば、重量定植菌数と各装置等による除菌後の残存菌数とから相対的な除菌率(相対除菌率)を比較することによって評価をすることができる。一方、例えば、ある特定の除菌装置等による除菌効果を評価するのであれば、例えば、菌類を定植する培地を複数用意し、菌類を定植した培地を二つのグループに分け、一方のグループは菌類を培地から回収し、回収した菌類を標準寒天培地に塗布し、1〜100時間培養後の菌数を計測することによって回収定植菌数を求め、他方のグループは除菌処理を行って残存菌数を求め、回収定植菌数の平均値と特定の除菌装置による除菌後の残存菌数の平均値とから絶対的な除菌率(絶対除菌率)を求めることによって特定の除菌装置による除菌効果を評価することができる。
【0013】
本発明の(1)除菌率の測定方法の菌類定植工程、(2)菌類の定植方法及び(3)菌類の定植・回収率の測定方法の菌類定植工程は、いずれも菌類を所定菌数となるように含んだ菌液を圧縮空気により霧化して通気性を有する培地に噴霧し、該培地に菌類を定植するものである。ここで、菌類としては、その種類が特に制限されるものではないが、取り扱い易さや安全性などを考慮すれば、Escherichia coli等の大腸菌、Staphylococcus aureus等の黄色ブドウ球菌、Pseudomonas aeruginosa等の緑膿菌などが好適であり、これらの中でも特にEscherichia coli等の大腸菌がより好適である。また、菌液は、含有する菌数が特に制限されるものではないが、4×10〜1×10個/gであると好適であり、より好適には1×10〜1×10個/g、更に好適には1×10〜5×10個/gである。菌液に含まれる菌数が少なすぎると、例えば、除菌処理後の菌の回収が困難となる場合があり、多すぎると、バラツキが生じる場合がある。なお、菌液を調製する液としては、菌数を保持することを考慮すれば、NB500(ニュートリエントブロスの500倍希釈純水溶液)、生理食塩水などが好ましい。
【0014】
菌類を定植する定植用培地としては、通気性を有するものであれば、その種類は特に制限されるものではないが、天然繊維,合成繊維又は半合成繊維からなる織物,編み物又は不織布、シート状の寒天、又は寒天を含浸した天然繊維,合成繊維又は半合成繊維からなる織物,編み物又は不織布から選ばれるものであると、より好適である。ここで、天然繊維,合成繊維又は半合成繊維からなる織物,編み物又は不織布としては、市販のものを好適に使用することができ、シート状の寒天としては、例えば、天草などの寒天原料から得た粘液を、角寒天、細寒天などと同様にして、凍結脱水後の形状がシート状となるようにすることによって製造することができる。また、寒天を含浸した天然繊維,合成繊維又は半合成繊維からなる織物,編み物又は不織布は、例えば、市販の天然繊維,合成繊維又は半合成繊維からなる織物,編み物又は不織布を天草などの寒天原料から得た寒天粘液を必要に応じて適宜濃度に希釈した液中に適宜時間浸し、その後、引き上げて乾燥、又は凍結脱水することによって製造することができる。なお、定植用培地の大きさ、形状は、特に制限されるものではなく、除菌処理の対象と該対象に対する除菌手段などを考慮して適宜選定することができるが、定植用培地が平面として利用できる場合、面積が25mm〜250000mmの正方形、長方形、円形などが好適であり、より好ましくは2500mm〜90000mmの正方形、長方形、円形など、更に好ましくは10000mm〜40000mmの正方形、長方形、円形などである。面積が小さすぎると、定植量が少なくなり、菌液の測定精度が下がる場合があり、面積が大きすぎると、菌液のつく量が全体の重量に対し少なくなるため、菌液の測定精度が下がると共に、回収が難しくなる場合がある。なお、定植用培地の形状としては、衣類などのように3次元立体形状を形成し得るものも用いることができ、この場合、人体形状を模擬した培地固定具に固定し、菌類を定植することもできる。この際、培地固定具を回転することにより、全周方向に菌類を定植することも可能となる。また、定植用培地の形状として衣類などを用いる場合には、菌類の定植前、若しくは定植後に衣類などを裁断することにより、重量の測定や菌類の回収を手際よく行うことも可能である。
【0015】
本発明の(1)除菌率の測定方法の菌類定植工程、(2)菌類の定植方法及び(3)菌類の定植・回収率の測定方法の菌類定植工程において、菌液を圧縮空気により霧化する手段としては、圧力発生手段と、ジェットノズルと、圧力発生手段により発生した圧力をジェットノズルに搬送する圧力搬送手段と、菌類を含んだ液である菌液を保存する菌液保存手段と、菌液保存手段から菌液をジェットノズルに搬送する菌液搬送手段とを備え、ジェットノズルから菌液を噴出する圧縮空気霧化装置が好適である。以下、図面を参照して菌類定植工程において好適に使用される圧縮空気霧化装置をより詳細に説明する。図1は、圧縮空気霧化装置の一構成例を説明するために圧縮空気霧化装置の一部の縦断面を拡大して示した一部概略縦断面図である。図中1は、圧縮空気霧化装置本体であり、略ペンシル状の形態をなしており、この圧縮空気霧化装置本体1の先端部にはジェットノズル2が設けられており、このジェットノズル2を開閉させるニードル3が圧縮空気霧化装置本体1の軸芯部に沿ってスライド自在に挿入されており、ニードル3は、その後端部に取り付けられたニードル調整器4により軸芯方向にスライドして、ジェットノズル2から図示しない圧力発生手段により発生した圧力(圧縮空気)を搬送する通気路(圧力搬送手段)5を通じて圧縮空気を噴出させると共に、圧縮空気霧化装置本体1の先端部から後方に向かって長さ方向中央部付近まで開設された菌液流路(菌液搬送手段)6を通じて、菌液流路6の後端部上側に菌液7が供給可能となるように取り付けられた菌液容器(菌液保存手段)8から供給される菌液7を噴出して、菌液7を霧化するように構成されている。通気路5は、圧縮空気が供給可能となるように図示しない圧力発生手段に接続されており、空気弁9の開閉によって、圧力調整器10により圧力調整された圧縮空気がジェットノズル2まで搬送される。一方、菌液容器(菌液保存手段)8に保存されている菌液7は、菌液流路(菌液搬送手段)6を通り、ニードル調整器4により、流量を調整され、ジェットノズル2まで搬送されている圧縮空気によりジェットノズル2から噴霧される。
【0016】
このような構成を有する装置としては、圧力発生手段として、コンプレッサー、ポンプなどを連結したエアーブラシ、射出ノズルなどを利用することができる。そして、このような圧縮空気霧化装置を利用し、定植用培地として上述したような織物、編み物、不織布などを利用する場合、図2に示す菌類の定植システムAを利用すると、より好適である。この定植システムAは、エアーブラシ(圧縮空気霧化装置本体)1にコンプレッサー(圧力発生手段)12を連結した圧縮空気霧化装置11と、定植用培地13と、定植用培地13をエアーブラシ(圧縮空気霧化装置本体)1のジェットノズルの先端部から所定距離離間した位置に固定する枠体14と秤(重力測定手段)15を備えた培地固定具Bを備えたものである。ここで、培地固定具Bは、定植用培地13をアクリル材などにより作成した枠体14に固定することができれば、その構成が特に制限されるものではないが、枠体14を秤(重力測定手段)15上に支持、載置する支柱16と台座17(図3参照)を備え、枠体14に定植用培地13を定植に用いる圧力(風力)によりなびかないように画鋲やクリップを利用して固定、取り付けるように構成されていると、より好適である。このシステムAの場合、圧縮空気霧化装置11と培地固定具Bは、実験台Cの上に載置してある。なお、定植用培地とジェットノズルの先端部との離間距離は、菌類の定植面積と定植する菌液の量などを考慮して適宜選定することができるが、50〜1000mmが好適であり、より好ましくは100〜700mm、更に好ましくは200〜500mmである。
【0017】
ここで、上記のような圧縮空気霧化装置を利用する場合、圧力発生手段による圧力が1.2〜10kg/cmであると、好適であり、より好ましくは1.5〜7kg/cm、更に好ましくは2〜7kg/cmである。圧力が低すぎると、噴霧液の平均粒径が大きくなり、定植用培地への均一な定植が困難となる場合があり、圧力が高すぎると、菌にかかる圧力が高くなることや菌の定植時に菌が定植用培地に接触し、死滅することにより、回収率が低下したり、定植用培地にかかる圧力が高くなることにより、均一な培地への定植が困難となる場合がある。また、ジェットノズルの口径が0.05〜0.5mmであると、好適であり、より好ましくは0.1〜0.4mm、更に好ましくは0.15〜0.35mmである。ジェットノズルの口径が小さすぎると、微細なゴミが存在するだけでもノズルがつまることにより、菌液が適正に霧化し難くなる場合があり、ジェットノズルの口径が大きすぎると、ノズルから霧化される菌液の平均粒径が大きくなり、定植用培地に対し均一に定植することが難しくなる場合がある。
【0018】
また、本発明の(1)除菌率の測定方法の菌類定植工程、(2)菌類の定植方法及び(3)菌類の定植・回収率の測定方法の菌類定植工程において、定植用培地に噴霧される菌液の噴霧量は、特に制限されるものではないが、1〜50ml/分であると、好適であり、より好ましくは5〜30ml/分、更に好ましくは10〜20ml/分である。噴霧量が少なすぎると、定植にバラツキが生じ易くなる場合があり、多すぎると、菌液が定植用培地から流れ落ち易くなる場合がある。なお、噴霧される菌液の平均粒径が定植用培地の孔径より小さいと、菌液は定植用培地をすり抜けてしまい、定植用培地に定植され難くなる可能性があることを考慮すると、噴出された菌液の平均粒径が定植用培地の孔径以上の径を有するものであれば、菌液の定植効率をより向上させることが可能となると考えられる。噴霧される菌液の平均粒径の測定方法としては、定植用培地の直前の菌液の粒径をレーザー装置で測定したり、定植用培地の直前の菌液の噴霧粒子を高性能カメラで撮影し、その平均粒径を計測する方法などが挙げられる。また、定植用培地の孔径の測定方法としては、定植用培地を顕微鏡で観察する方法などが挙げられる。
【0019】
次に、本発明の(1)除菌率の測定方法の定植菌数測定工程について詳述する。上述したように、本発明の(1)除菌率の測定方法の定植菌数測定工程において、定植菌数は、第1の定植菌数測定工程により求められる重量定植菌数であってもよく、又は、第2の定植菌数測定工程により求められる回収定植菌数であってもよい。本発明の(1)除菌率の測定方法の定植菌数測定工程において、第1の定植菌数測定工程により重量定植菌数を求める場合、その工程は、本発明の(3)菌類の定植・回収率の測定方法の定植菌数測定工程と同様であり、菌類定植工程によって培地に付着した菌液の量を測定し、その測定値と菌液に含有された所定菌数とから重量定植菌数を求めることができる。より具体的には、秤などの重量測定装置を利用して、菌液を噴霧する前後の培地の重量を測定し、噴霧後の重量増加分を噴霧により培地に付着した重量(噴霧重量)とし、(噴霧重量)×(菌液に含有された所定菌数)=重量定植菌数とすることによって、算出することができる。この重量定植菌数が、本発明の(1)除菌率の測定方法の第1の定植菌数測定工程により求められる(重量)定植菌数、(3)菌類の定植・回収率の測定方法の定植菌数測定工程により求められる定植菌数である。
【0020】
一方、本発明の(1)除菌率の測定方法の定植菌数測定工程において、第2の定植菌数測定工程により回収定植菌数を求める場合、その工程は、本発明の(3)菌類の定植・回収率の測定方法の定植菌類回収工程と回収菌数測定工程と同様であり、定植用培地に定植した菌類を定植用培地から回収し(定植菌類回収工程)、回収した菌類を標準寒天培地に塗布し、1〜100時間培養後の菌数を計測することによって回収定植菌数を求めることができる。回収定植菌数の場合、菌類を定植用培地から回収する手段としては、ストマッカー処理により培地から洗い出して回収する方法がより好適である。より具体的には、例えば、定植用培地を培地固定具を使用して固定していた場合には、培地固定具から取り外し、市販されているストマッカー袋に定植用培地の重量に合わせて適宜量(例えば、定植用培地重量の5〜30倍量)の生理食塩水などと共に入れ、このストマッカー袋をストマッカーに取り付け、例えば、60秒間程度のストマッカー処理を行う。この処理後の回収液を培地から回収した菌類とし、必要に応じて1〜100倍程度に生理食塩水などにより希釈し、スパイラルプレーターなどの菌液塗布装置により前記希釈した塗布用菌液を標準寒天培地に塗布して、恒温槽の培養温度を37±2℃とし、1〜100時間、より好ましくは2〜60時間、更に好ましくは10〜50時間培養した後、コロニーカウンターで寒天培地を観察し、菌数を計測することによって、回収定植菌数を求める。この回収定植菌数が、(1)除菌率の測定方法の第2の定植菌数測定工程により求められる(回収)定植菌数であり、(3)菌類の定植・回収率の測定方法の定植菌類回収工程、回収菌数測定工程により求められる回収菌数である。そして、(3)菌類の定植・回収率の測定方法の場合、上述した定植菌数と回収菌数とから培地に定植した菌類の定植・回収率を求めるものであり、より具体的には、回収菌数÷定植菌数×100=定植・回収率(%)により、培地に定植した菌類の定植・回収率を算出することができる。
【0021】
ここで、(3)菌類の定植・回収率の測定方法の場合、菌類定植工程において、予め除菌処理を施した定植用培地に菌類を定植すると、定植用培地に予め施すことができる除菌手段の除菌効率を評価することが可能となる。即ち、定植用培地として、予め除菌処理を施した定植用培地と除菌処理を施していない定植用培地を用意し、これらに定植した菌類の定植・回収率を比較することによって、除菌手段を施した定植用培地の残存菌数と、除菌処理を施さない定植用培地の残存菌数とを比較することができ、予め定植用培地に施した除菌処理、除菌手段による除菌効果の評価を行うことができる。より具体的には、例えば、銀イオンを含浸させたウール100%の布(織物)を除菌処理を施した定植用培地とし、含浸処理をしないウール100%の布(織物)を未処理の定植用培地とし、同条件の菌類の定植・回収率の測定方法によって、除菌処理を施した定植用培地と未処理の定植用培地の定植・回収率をそれぞれ求め、これらの値を比較することによって、銀イオンの含浸処理による除菌効果を評価することができる。
【0022】
本発明の(1)除菌率の測定方法の除菌処理工程について詳述すると、この除菌処理工程には、菌類を定植した定植用培地に除菌剤を付着させて培地を除菌する方法と、菌類を定植した定植用培地を除菌された空気に接触させたり、除菌された空気中に菌類を定植した定植用培地を載置する方法と、イオン性微粒子を噴霧する装置により除菌する方法とがある。ここで、除菌処理の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、菌類を定植した定植用培地に除菌剤を付着させて培地を除菌する除菌方法としては、エアーシャワー装置、エアースプレーなどの除菌装置による除菌効果を評価することを想定すると、除菌剤を圧縮空気により霧化して噴霧する圧縮空気方式の霧化装置、より具体的には、コンプレッサー付のエアーブラシ、射出ノズル等の圧縮空気霧化装置、超音波振動子により霧化する超音波方式の霧化装置、より具体的には、除菌機能付きの加湿器、除菌機能付きの湿度調整器等の超音波霧化装置、手動ポンプ式のスプレー容器に除菌剤を収容して微粒子化するスプレー装置などの各種除菌装置によって、定植用培地に除菌剤を付着させる除菌方法を挙げることができる。一方、除菌された空気に菌類を定植した定植用培地を接触させたり、除菌された空気中に菌類を定植した定植用培地を載置する除菌方法、除菌手段としては、イオン性微粒子を噴霧する装置により除菌を行った空気に接触させたり、紫外線により滅菌した空間に載置する除菌方法などを挙げることができる。
【0023】
本発明の(1)除菌率の測定方法の残存菌類回収工程は、除菌処理後の培地に残存する菌類を培地から回収するものであり、残存菌数測定工程は、残存菌類回収工程によって培地から回収した菌類を培養用培地に塗布し、培養後の菌数を測定するものであり、これらの工程の具体的な方法は、上述した(1)除菌率の測定方法の第2の定植菌数測定工程、(3)菌類の定植・回収率の測定方法の定植菌類回収工程と回収菌数測定工程と同様であり、残存菌類回収工程において、菌類を、ストマッカー処理により培地から洗い出して回収するとより好適であることも同様である。また、この工程においても、培養用培地が標準寒天培地であると、種々の微生物の増殖がし易いことから、より好適であり、培養時間も1〜100時間、より好ましくは2〜60時間、更に好ましくは10〜50時間であると、より好適である。
【0024】
そして、本発明の(1)除菌率の測定方法は、上述したように、重量定植菌数と除菌後の残存菌数とから相対的な除菌率(相対除菌率)、より具体的には、(重量定植菌数−残存菌数)÷重量定植菌数×100=相対除菌率(%)によって、相対的な除菌率を算出することができ、例えば、各種除菌装置の方式、除菌手段を想定した除菌処理後の相対除菌率を求め、これらの値を比較することにより、各種除菌装置、除菌手段の除菌効果を評価することができる。一方、回収定植菌数と除菌後の残存菌数とから絶対的な除菌率(絶対除菌率)、より具体的には、(回収定植菌数−残存菌数)÷回収定植菌数×100=絶対除菌率(%)によって、絶対的な除菌率を算出することができ、例えば、菌類を定植する培地を複数用意し、菌類を定植した培地を二つのグループに分け、一方のグループから回収定植菌数を求め、他方のグループは特定の除菌装置の方式、除菌手段を想定した除菌処理を行って残存菌数を求め、回収定植菌数の平均値と特定の除菌装置、除菌手段による除菌後の残存菌数の平均値とから絶対的な除菌率(絶対除菌率)を求めることによって特定の除菌装置、除菌手段による除菌効果を評価することができる。
【0025】
本発明の上記(1)、(2)及び(3)の方法において、菌液を定植用培地に噴霧して、定植用培地に菌類を定植する際に使用する装置、システムは特に制限されるものではないが、本発明の(4)菌類の定植システムを利用すると、好適である。本発明の定植システムは、上述した圧縮空気霧化装置と通気性を有する培地と培地固定具を備えたものであり、これらは、本発明の方法の説明において上述した通りである。
【0026】
ここで、本発明の(4)菌類定植システム、(5)除菌率測定システムの培地固定具の枠体としては、菌類を定植し難く、且つ定植用培地の通気性を妨げない構造からなるものであり、枠体を構成する構造部材は、除菌効果を有さないことが望ましく、このような材質としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリプロピレン樹脂などが挙げられる。そして、本発明の培地固定具は、更に、重量測定手段を備えたものであり、更に、重量測定手段が、菌液に含まれる菌類の所定菌数と、定植用培地に付着した菌液重量とから、定植用培地に定植された定植菌数を算出する定植菌数測定手段を備えたものであると、より好適である。以下、図面を参照して本発明の培地固定具について、より詳細に説明する。図3は、本発明の培地固定具の構成例を説明する培地固定具の概略側面図であり、図4は、該培地固定具の概略正面図である。上述したように、培地固定具Bは、秤(重量測定手段)15の上に枠体14が支柱16、台座17を介して載置されている。そして、秤15には、定植菌液量表示部18、定植菌数表示部19、菌液に含まれる菌類の所定菌数を入力する図示しない入力手段(図示せず)、定植用培地13を固定した培地固定具本体(枠体14、支柱16、台座17)の菌液噴霧前後の重量差から定植用培地13に付着した菌液重量を算出する図示しない付着菌液重量算出手段(付着菌液重量算出プログラム)、入力された所定菌数と付着菌液重量とから定植用培地13に定植された定植菌数を算出する図示しない定植菌数測定手段(定植菌数算出プログラム)を備えている。そして、定植菌液量表示部18には、付着菌液重量算出手段により算出された定植用培地13に付着した菌液重量が表示され、定植菌数表示部19には、定植菌数測定手段により算出された定植菌数が表示されるように構成されている。なお、秤15には、図示しない重量表示部を設けて、定植用培地13を固定した培地固定具本体の重量の測定結果も表示するようにすることもできる。
【0027】
本発明の(1)除菌率の測定方法において、各工程を実施する装置、システムは特に制限されるものではないが、本発明の(5)除菌率測定システムを利用すると、各工程をより好適に実施することができる。本発明の(5)除菌率測定システムは、上記(4)菌類定植システム、菌類が定植された定植用培地を除菌する除菌装置、除菌された定植用培地から残存する菌類を洗い出して回収する菌類回収装置(ストマッカー袋、ストマッカー)と、回収した菌類を培養する培養用培地と、回収した菌類を含む回収菌液を培養用培地に塗布する回収菌液塗布装置と、回収した菌類を培養する恒温槽と、培養用培地で培養された菌類の菌数を計測するためのコロニーカウンターを備えた残存菌類測定システムを備えたものであり、これらの詳細は、本発明の測定方法の説明において上述した通りである。
【0028】
なお、本発明は、上記構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実施例1〜6]
<実験装置及び試料>
圧縮空気霧化装置:IWATA社製コンプレッサー(IS−800J)
IWATA社製エアーブラシ(HP−CP)、ノズル口径0.3mm
菌液:大腸菌:E.coli NBRC3972(前培養を3回行った菌体を利用)を下記表1に示す噴霧菌数となるように生理食塩水を用いて調製
定植用培地:150mm×150mmの布(財団法人日本規格協会 JIS染色堅ろう度試験用単一繊維布 毛)を121℃、15分間のオートクレーブ後、50℃で8時間乾燥することにより殺菌
【0031】
<測定方法>
(1)図2に示す圧縮空気霧化装置11(図中、1はエアーブラシ、12はコンプレッサー)を用いて、定植用培地13をエアーブラシ1の先端部から400mm離した位置でアクリル製の正方形の枠体14(一辺の長さが150mm、枠の幅10mm、厚さ10mm)に展張した定植システムAを用いて菌液5mlを噴霧した。このときのコンプレッサー12の圧力は、3.5kg/cmとした。定植用培地における塗布形状を別途測定したところ、直径約180mmの円形であり、面積は25,450mmとなった。
(2)噴霧前後の布の重量を秤により測定し、菌液噴霧による重量増加を確認した。
(3)菌液を噴霧した布を培地固定具から外し、ストマッカー袋にいれ、50ml生理食塩水を加えてストマッカー(インターラブ社製)に取り付け、60秒間ストマッカー処理を行って菌を洗い出し、その後、10倍程度に希釈して、菌液塗布装置(株式会社GSIクレオス製スパイラルプレーター EDDY JET)を用い、標準寒天培地に塗布した。培養温度37℃で48時間培養後の菌数(以下、回収定植菌数)をコロニーカウンターを用いて計数した。
(4)噴霧菌数と重量増加から重量定植菌数を算出した。
上記の結果を下記表1及び図5に示す。図5に示すグラフは、重量定植菌数と回収定植菌数との相関性を示すものであり、各実験結果をプロットすると共に、これらの値から最小二乗法により計算して求めた関係式、相関係数及び検量線を示した。
【0032】
【表1】

【0033】
上記結果によれば、重量定植菌数が5×10〜2×10個の範囲で、重量定植菌数と回収定植菌数とが良好な正の相関性を示すことが認められた。
【0034】
[実施例7〜10]
<実験装置及び試料>
圧縮空気霧化装置:IWATA社製コンプレッサー(IS−800J)
IWATA社製エアーブラシ(HP−CP)、ノズル口径0.3mm
菌液:大腸菌:E.coli NBRC3972(前培養を3回行った菌体を利用)を下記表2に示す噴霧菌数となるように生理食塩水を用いて調製
定植用培地:150mm×150mmの布(財団法人日本規格協会 JIS染色堅ろう度試験用単一繊維布 毛)を121℃、15分間のオートクレーブ後、50℃で8時間乾燥することにより殺菌
【0035】
<測定方法>
(1)上記実験例と同じように図2に示す定植システムAを用いて菌液5mlを噴霧した。このときのコンプレッサー12の圧力は、3.5kg/cmとした。定植用培地における塗布形状を別途測定したところ、直径約180mmの円形であり、面積は25,450mmとなった。
(2)噴霧前後の布の重量を秤15により測定し、菌液噴霧による重量増加を確認した。
(3)菌液を噴霧した布を培地固定具から外し、ストマッカー袋にいれ、50ml生理食塩水を加えてストマッカー(インターラブ社製)に取り付け、60秒間ストマッカー処理を行って菌を洗い出し、その後、10倍程度に希釈して、菌液塗布装置(株式会社GSIクレオス製スパイラルプレーター EDDY JET)を用い、標準寒天培地に塗布した。培養温度37℃で48時間培養後の菌数(以下、回収定植菌数)をコロニーカウンターを用いて計数した。
(4)噴霧菌数と重量増加から算出(噴霧菌数×重量増加)した重量定植菌数に対する回収定植菌数の割合を算出して、定植・回収率とした。
上記の結果を下記表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
上記表2の結果によれば、本発明における菌類の定植方法において、定植・回収された菌数は、噴霧菌数に関係なく、ほぼ一定の数値を与えることが認められた。上記表2に示した実施例は、それぞれ異なった日時に行っており、本発明における菌類の定植方法が高い再現性があることが認められた。
【0038】
[実施例11〜15及び比較例1〜3]
<実験装置及び試料>
圧縮空気霧化装置:IWATA社製コンプレッサー(IS−800J)
IWATA社製エアーブラシ(HP−CP)、ノズル口径0.3mm
菌液:大腸菌:E.coli NBRC3972(前培養を3回行った菌体を利用)
2.90×10個/gに調製
定植用培地:布(財団法人日本規格協会 JIS染色堅ろう度試験用単一繊維布 毛)
150mm×150mm、殺菌は121℃、15分間のオートクレーブ後、50℃で8時間乾燥することにより行った。
除菌剤:安全環境研究所社製衛生水:弱酸性次亜塩素酸水、「アミスティー」(登録商標)。除菌剤濃度は、商品に表記された弱酸性次亜塩素酸濃度200ppmという記載に基づき、弱酸性次亜塩素酸濃度が下記表3に示す濃度となるように精製水で希釈して実験に供した。
【0039】
実施例11〜14として、前記実施例の大腸菌の布への定植方法と同様の条件で布に菌液を噴霧し、噴霧後の布の重量増加(噴霧重量)と噴霧した菌液中の菌数から定植菌数(重量定植菌数)を算出した。この布に対して、下記表3に示す除菌剤濃度に調製した除菌剤を用いて、下記表3に示す除菌方法により除菌処理を行った。なお、表3の除菌方法としてジェットノズルと記載した例は、除菌剤の噴霧量を5mlとし、前記実施例の大腸菌の布への定植方法と同様の定植システムを用いて同様の条件で布に噴霧した。超音波霧化装置については、安全環境研究所製UD−200 III超音波霧化器を使用し、100ml/時間の噴霧条件によって布に噴霧した。除菌処理後の布は、前記実施例に記載した定植・回収率の測定方法と同様にストマッカー袋にいれ、50mlの生理食塩水とともにストマッカー処理を行って菌を洗い出し、その後、10倍程度に希釈して標準寒天培地に塗布した。温度37℃で48時間培養後の回収菌数(残存菌数)をコロニーカウンターにより計数した。また、(重量定植菌数−残存菌数)÷重量定植菌数×100=除菌率(%)により、除菌率を算出した。これらの結果を下記表3に併記する。
【0040】
実施例15として、前記実施例の大腸菌の布への定植方法と同様の条件で銀イオンを20ppm含む溶液(有限会社ラヴァストーリー社製、商品名:ナノアグラ)20mlに布を浸し、乾燥した後、菌液を噴霧し、噴霧後の布の重量増加(噴霧重量)と噴霧した菌液中の菌数から定植菌数(重量定植菌数)を算出した。菌液を噴霧した布は、前記実施例に記載した定植・回収率の測定方法と同様にストマッカー袋にいれ、50mlの生理食塩水とともにストマッカー処理を行って菌を洗い出し、その後、10倍程度に希釈して標準寒天培地に塗布した。温度37℃で48時間培養後の回収菌数(残存菌数)をコロニーカウンターにより計数した。また、(重量定植菌数−残存菌数)÷重量定植菌数×100=除菌率(%)により、除菌率を算出した。この結果を下記表3に併記する。
【0041】
次に比較例として、通気性を有しない培地としてシャーレ寒天培地を用い、菌液塗布装置を用いて標準寒天培地に上記大腸菌を定植し、比較例1については、温度37℃で48時間培養後の回収菌数を計数した。比較例2、3については、大腸菌を定植した培地に対して、前記実施例と同様に下記表3に示す除菌剤濃度に調整した除菌剤を用いて下記表3に示す除菌方法により除菌処理を行い、温度37℃で48時間培養後の回収菌数を計数した。比較例1の回収個数に対する比較例2、3の回収菌数の割合を算出して、除菌率とした。結果を下記表3に併記する。
【0042】
【表3】

【0043】
上記表3の結果によれば、本発明の菌類の定植方法を用いた通気性を有する定植用培地への菌類の定植と、前記菌類を定植された定植用培地への除菌手段による除菌により、前記除菌手段の検証(ここでは、除菌率94%以上)を行えることが確認された。更にまた、除菌手段に用いる除菌剤濃度を変えた場合、高い除菌効果が見込まれる除菌剤濃度の高い実施例において、除菌剤濃度の低い実施例よりも高い除菌率が得られることが確認された。同じ除菌手段による同様の除菌を行った場合、従来用いられている通気性を持たないシャーレ寒天培地においては、除菌率が10%程度と比較的低かった。これらのことから、本発明の菌類の定植方法は、除菌率の測定方法としても有用であることが示された。
【0044】
[実施例16〜19]
実施例16、17は、それぞれ菌類を定植した定植用培地(布)をデシケータ内(湿度55%、温度27℃)に24時間放置した以外は、上記実施例7(噴霧菌数2.90×10個/g)と同様にして、重量定植菌数(定植処理後)、回収定植菌数(デシケータ内放置後)、定植・回収率を求め、実施例18、19は、それぞれ実施例16、17と同様にデシケータ内に放置した定植用培地に上記実施例11と除菌剤濃度を192ppmとした以外は同様の除菌処理を施し、同様にして残存菌数(デシケータ内放置、除菌処理後)を求め、実施例16、17の回収定植菌数の平均値とそれぞれの残存菌数とから除菌率を求めた。結果を下記表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
上記の結果によれば、本発明の方法において定植用培地に付着した菌類の個数が10のオーダ程度の少ない個数であっても、定植用培地から再現性良く回収して菌数を測定することができ、また、定植用培地に付着した菌類が200個程度の少ない個数であっても、除菌率を測定して、除菌効果を評価することができることが認められた。
【符号の説明】
【0047】
A 菌類定植システム
B 培地固定具
1 圧縮空気霧化装置本体
2 ジェットノズル
5 通気路(圧力搬送手段)
6 菌液流路(菌液搬送手段)
7 菌液
8 菌液容器(菌液保存手段)
11 圧縮空気霧化装置
12 コンプレッサー(圧力発生手段)
13 定植用培地
14 枠体
15 秤(重量測定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌類を所定菌数となるように含んだ菌液を圧縮空気により霧化して通気性を有する定植用培地に噴霧し、該定植用培地に前記菌類を定植する菌類定植工程と、前記菌類定植工程によって前記定植用培地に定植した定植菌数を求める定植菌数測定工程と、前記菌類を定植した前記定植用培地を除菌する除菌処理工程と、除菌処理後の前記定植用培地に残存する菌類を前記定植用培地から回収する残存菌類回収工程と、前記残存菌類回収工程によって前記定植用培地から回収した前記菌類を培養用培地に塗布し、培養後の菌数を測定する残存菌数測定工程と、を備え、前記定植菌数と前記残存菌数とから除菌率を求めることを特徴とする除菌率の測定方法。
【請求項2】
圧力発生手段と、ジェットノズルと、前記圧力発生手段により発生した圧力を前記ジェットノズルに搬送する圧力搬送手段と、菌類を含んだ液である菌液を保存する菌液保存手段と、該菌液保存手段から前記菌液をジェットノズルに搬送する菌液搬送手段とを備え、前記ジェットノズルから前記菌液を噴出する圧縮空気霧化装置によって、前記菌液を霧化して前記培地に噴霧する請求項1に記載の除菌率の測定方法。
【請求項3】
前記定植用培地が、天然繊維,合成繊維又は半合成繊維からなる織物,編み物又は不織布、シート状の寒天、又は寒天を含浸した天然繊維,合成繊維又は半合成繊維からなる織物,編み物又は不織布から選ばれる一種である請求項1又は2に記載の除菌率の測定方法。
【請求項4】
前記定植菌数測定工程において、前記定植用培地に付着した前記菌液の量を測定し、その測定値と前記菌液に含有された所定菌数とから前記定植用培地に定植した定植菌数を求める請求項1、2又は3に記載の除菌率の測定方法。
【請求項5】
前記定植菌数測定工程において、前記定植用培地に定植した前記菌類を前記定植用培地から回収し、回収した前記菌類を標準寒天培地に塗布し、1〜100時間培養後の菌数を測定する請求項1、2又は3に記載の除菌率の測定方法。
【請求項6】
前記菌類を、ストマッカー処理により前記定植用培地から洗い出して回収する請求項5に記載の除菌率の測定方法。
【請求項7】
前記残存菌数測定工程において、前記培養用培地が標準寒天培地であり、1〜100時間培養後の菌数を測定する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の除菌率の測定方法。
【請求項8】
前記圧力発生手段による圧力が1.2〜10kg/cmである請求項2乃至7のいずれか1項に記載の除菌率の測定方法。
【請求項9】
前記定植用培地に噴霧される菌液の噴霧量が1〜50ml/分である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の除菌率の測定方法。
【請求項10】
前記菌液に含まれる菌類の所定菌数が4×10〜1×10個/gである請求項1乃至9のいずれか1項に記載の除菌率の測定方法。
【請求項11】
前記ジェットノズルの口径が0.05〜0.5mmである請求項2乃至10のいずれか1項に記載の除菌率の測定方法。
【請求項12】
前記除菌処理工程が、前記除菌剤を圧縮空気により霧化する圧縮空気霧化装置、前記除菌剤を超音波振動子により霧化する超音波霧化装置又は手動ポンプ式のスプレー容器に除菌剤を収容して微粒子化するスプレー装置によって、前記定植用培地に前記除菌剤を付着させるか、又は、前記定植用培地を除菌された空気に接触又は該空気中に載置することによる請求項1乃至11のいずれか1項に記載の除菌率の測定方法。
【請求項13】
前記残存菌類回収工程において、前記菌類を、ストマッカー処理により前記定植用培地から洗い出して回収する請求項1乃至12のいずれか1項に記載の除菌率の測定方法。
【請求項14】
菌類を含んだ菌液を圧縮空気により霧化し、通気性を有する定植用培地に噴霧して、該定植用培地に菌類を定植することを特徴とする菌類の定植方法。
【請求項15】
圧力発生手段と、ジェットノズルと、前記圧力発生手段により発生した圧力を前記ジェットノズルに搬送する圧力搬送手段と、菌類を含んだ液である菌液を保存する菌液保存手段と、該菌液保存手段から前記菌液をジェットノズルに搬送する菌液搬送手段とを備え、前記ジェットノズルから前記菌液を噴出する圧縮空気霧化装置によって、前記菌液を霧化して前記定植用培地に噴霧する請求項14に記載の菌類の定植方法。
【請求項16】
前記定植用培地が、天然繊維,合成繊維又は半合成繊維からなる織物,編み物又は不織布、シート状の寒天、又は寒天を含浸した天然繊維,合成繊維又は半合成繊維からなる織物,編み物又は不織布から選ばれる一種である請求項14又は15に記載の菌類の定植方法。
【請求項17】
前記圧力発生手段による圧力が1.2〜10kg/cmである請求項15又は16に記載の菌類の定植方法。
【請求項18】
前記培地に噴霧される菌液の噴霧量が1〜50ml/分である請求項14乃至17のいずれか1項に記載の菌類の定植方法。
【請求項19】
前記菌液に含まれる菌類の所定菌数が4×10〜1×10個/gである請求項14乃至18のいずれか1項に記載の菌類の定植方法。
【請求項20】
前記ジェットノズルの口径が0.05〜0.5mmである請求項15乃至19のいずれか1項に記載の菌類の定植方法。
【請求項21】
菌類を通気性を有する定植用培地に定植した後、前記定植用培地から回収した菌数の比率を測定する菌類の定植・回収率の測定方法であって、菌類を所定菌数となるように含んだ菌液を請求項14乃至20のいずれか1項に記載の菌類の定植方法により前記定植用培地に前記菌類を定植する菌類定植工程と、前記菌類定植工程によって前記定植用培地に付着した前記菌液の量を測定し、該測定値と前記菌液に含有された所定菌数とから前記定植用培地に定植した定植菌数を求める定植菌数測定工程と、前記定植用培地に定植した前記菌類を前記定植用培地から回収する定植菌類回収工程と、前記定植菌類回収工程によって前記定植用培地から回収した前記菌類を培養用培地に塗布し、培養後の菌数を測定する回収菌数測定工程と、を備え、前記定植菌数と前記回収菌数とから前記定植用培地に定植した菌類の定植・回収率を求めることを特徴とする菌類の定植・回収率の測定方法。
【請求項22】
前記定植菌類回収工程において、前記菌類を、ストマッカー処理により前記定植用培地から洗い出して回収する請求項21に記載の菌類の定植・回収率の測定方法。
【請求項23】
前記培養用培地が標準寒天培地であり、1〜100時間培養後の菌数を測定する請求項21又は22に記載の菌類の定植・回収率の測定方法。
【請求項24】
前記菌類定植工程において、予め除菌処理を施した前記定植用培地に前記菌類を定植する請求項21、22又は23に記載の菌類の定植・回収率の測定方法。
【請求項25】
通気性を有する培地に菌類を定植させる菌類定植システムであって、圧力発生手段と、ジェットノズルと、圧力発生手段により発生した圧力をジェットノズルに搬送する圧力搬送手段と、前記菌類を含んだ液である菌液を保存する菌液保存手段と、該菌液保存手段から前記菌液をジェットノズルに搬送する菌液搬送手段とを備え、前記ジェットノズルから前記菌液を噴出する圧縮空気霧化装置と、通気性を有し、前記ジェットノズルから前記菌液が噴霧される定植用培地と、該定植用培地を前記圧縮空気霧化装置から所定距離離間した位置で固定する枠体と重量測定手段とを備えた培地固定具と、を備えたことを特徴とする菌類定植システム。
【請求項26】
前記重量測定手段が、前記菌液に含まれる菌類の所定菌数と、前記定植用培地に付着した菌液重量とから、前記定植用培地に定植された定植菌数を算出する定植菌数測定手段を備えた請求項25に記載の菌類定植システム。
【請求項27】
請求項25又は26に記載の菌類定植システムと、菌類が定植された定植用培地を除菌する除菌装置と、除菌された前記定植用培地から残存する菌類を洗い出して回収する菌類回収装置と、回収した菌類を含む回収菌液を培養用培地に塗布する回収菌液塗布装置と、回収した菌類を培養する恒温槽と、前記培養用培地で培養された菌類の菌数を計測するためのコロニーカウンターとを備えた残存菌数測定システムとを、備えたことを特徴とする除菌率測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−130672(P2011−130672A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290348(P2009−290348)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(391007666)藤田エンジニアリング株式会社 (4)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【Fターム(参考)】