説明

除電装置及び除電制御方法

【課題】 除電装置からの距離にかかわらず、イオンバランスを均一に保つことができる除電装置を提供する。
【解決手段】 放電電極2に対し、正側駆動電圧V及び負側駆動電圧Vを交互に繰返し印加する電極駆動手段と、駆動電圧Vの電圧値と駆動電圧Vの電圧値との少なくともいずれか一方を調整する電圧値調整手段と、駆動電圧Vの印加時間Tpと駆動電圧Vの印加時間Tnとの少なくともいずれか一方を調整する印加時間調整手段と、電圧値の調整量及び印加時間の調整量を制御する駆動制御手段により構成される。駆動制御手段は、正イオンを増加させる場合に、正極性駆動電圧の電圧値を相対的に増加させるとともに、正極性駆動電圧の印加時間の比率を小さくし、負イオンを増加させる場合に、正極性駆動電圧の電圧値を相対的に減少させるとともに、正極性駆動電圧の印加時間の比率を大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除電装置及び除電制御方法に係り、さらに詳しくは、コロナ放電のための駆動電圧を放電電極に繰返し印加することによって、放電電極の周辺に正イオン及び負イオンを発生させる除電装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
除電器は、静電気などによって帯電したワークに正イオン又は負イオンを供給することにより、ワークから余分な電気を除去する装置である。放電用の電極針に駆動用の高電圧を印加した際に、電極針の先端に生じるコロナ放電を利用する除電装置には、放電電極に駆動電圧を印加する際の駆動方式として、DC方式、AC方式、パルスDC方式、パルスAC方式などのタイプがある。DC方式では、大地アースに対し正電位が維持される正側電極と負電位が維持される負側電極とが、放電電極として設けられる。AC方式では、単一の放電電極に交流電圧が印加される。パルスDC方式では、パルス状の駆動電圧が正側電極と負側電極とに交互に印加される。パルスAC方式では、パルス状の交流電圧が単一の放電電極に印加される。
【0003】
通常、除電対象物は、正に帯電しているのか、或いは、負に帯電しているのかがわからないので、正イオン及び負イオンの両イオンを発生させる必要がある。また、除電が完了した際に、除電対象物上に静電気が残留しないようにするためには、正イオン及び負イオンを等しい量だけ発生させなければならない。ところが、コロナ放電によって放電電極を流れる電流の電圧特性は、正極性と負極性とで対称ではない(例えば、特許文献1)。例えば、コロナ放電に必要な駆動電圧の下限値は、負極性の方が低い。そこで、従来の除電装置では、正極性放電と負極性放電とが均等に生じるように、放電電極の駆動制御が行われる(例えば、特許文献2〜5)。特許文献2は、AC方式の除電装置であり、放電電極に正極性のDCバイアスが印加されている。この特許文献2には、イオンセンサの出力に基づいて、DCバイアスを調整することが記載されている。
【0004】
特許文献3は、パルスDC方式の除電装置であり、駆動周期を一定に保ちつつ、正側電極に印加する正極駆動電圧の印加時間と負側電極に印加する負極駆動電圧の印加時間との比率を調整することにより、イオンバランスを調整している。特許文献4は、パルスAC方式の除電装置であり、正極性駆動電圧の印加時間と負極性駆動電圧の印加時間とを一致させたまま、正極性駆動電圧及び負極性駆動電圧の各電圧値を調整することにより、イオンバランスを調整している。また、特許文献5では、駆動周期を一定に保ちつつ、正極性駆動電圧の印加時間と負極性駆動電圧の印加時間との比率を調整することにより、イオンバランスを調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4872083号明細書
【特許文献2】特開平8−298197号公報
【特許文献3】特許第4367580号公報
【特許文献4】特開2008−135329号公報
【特許文献5】特許第4219451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した様な従来の除電装置では、除電装置からの距離に応じてイオンバランスが変化することが知られており、従って、除電装置から特定の距離でイオンバランスをゼロにできたとしても、除電装置の近傍におけるイオンバランスが顕著に劣化してしまうという課題があった。
【0007】
本発明は、イオンバランスの距離特性を向上させることができる除電装置及び除電制御方法を提供することを目的とする。
【0008】
特に、所望量の正イオン及び負イオンをそれぞれ発生させることができるとともに、除電装置からの距離にかかわらず、イオンバランスを均一に保つことができる除電装置を提供することを目的とする。また、除電装置の近傍におけるイオンバランスの劣化を抑制することができる除電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の本発明による除電装置は、放電電極に対し、コロナ放電のための駆動電圧として、正極性駆動電圧及び負極性駆動電圧を交互に繰返し印加する電極駆動手段と、上記正極性駆動電圧の電圧値と上記負極性駆動電圧の電圧値との少なくともいずれか一方を調整する電圧値調整手段と、上記正極性駆動電圧の印加時間と上記負極性駆動電圧の印加時間との少なくともいずれか一方を調整する印加時間調整手段と、上記電圧値の調整量及び上記印加時間の調整量を制御する駆動制御手段を備え、上記駆動制御手段が、正イオンを増加させる場合に、上記正極性駆動電圧の電圧値を相対的に増加させるとともに、上記正極性駆動電圧の印加時間の比率を小さくし、負イオンを増加させる場合に、上記正極性駆動電圧の電圧値を相対的に減少させるとともに、上記正極性駆動電圧の印加時間の比率を大きくするように構成される。
【0010】
この様な構成によれば、増加させるイオンと同極性の駆動電圧の電圧値を増加させ、或いは、逆極性の駆動電圧の電圧値を減少させる一方、同極性の駆動電圧の印加時間の比率を小さくするので、駆動電圧の繰返し間隔よりも長い時間における放電電極の平均電位を一定に保つことができる。このため、駆動電圧の電圧値や印加時間を調整した際に、イオンバランスが劣化するのを抑制することができる。従って、除電装置からの距離にかかわらず、イオンバランスを均一に保つことができる。
【0011】
第2の本発明による除電装置は、上記構成に加え、上記放電電極の周辺における正イオン及び負イオン間のイオンバランスを検出するイオンバランス検出手段を備え、上記駆動制御手段が、検出されたイオンバランスに基づいて、上記電圧値の調整量及び上記印加時間の調整量を制御するように構成される。この様な構成によれば、イオンバランスの検出値に応じて、駆動電圧の電圧値や印加時間を自動調整させることができる。
【0012】
第3の本発明による除電装置は、上記構成に加え、上記イオンバランス及び上記平均電位の各目標値を保持する目標値記憶手段と、上記放電電極の出力電圧を検出する電極電圧検出手段とを備え、上記駆動制御手段が、上記イオンバランスが対応する目標値と一致するまで、上記正極性駆動電圧及び上記負極性駆動電圧の各電圧値を調整する電圧調整処理を繰返し行い、上記電圧調整処理の終了後、上記出力電圧から求められる上記平均電位が対応する目標値と一致するように、上記正極性駆動電圧及び上記負極性駆動電圧の各印加時間を調整するように構成される。
【0013】
この様な構成によれば、イオンバランスに基づく電圧調整処理が終了してから、正極性駆動電圧及び負極性駆動電圧の各印加時間を調整するので、イオンバランス及び平均電位を所望の目標値に速やかに近づけることができる。
【0014】
第4の本発明による除電装置は、上記構成に加え、上記イオンバランス検出手段が、接地電極及び大地アース間を流れる電流に基づいて、上記イオンバランスを検出し、上記電極電圧検出手段が、昇圧トランスの2次側接地端子と大地アースとの間を流れる電流に基づいて、上記出力電圧を検出するように構成される。
【0015】
この様な構成によれば、接地電極及び大地アース間を流れる電流によってイオンバランスを検出するので、表面電位計やイオンモニタを用いる場合に比べ、装置の構成を簡素化することができる。また、昇圧トランスの2次側接地端子及び大地アース間を流れる電流によって出力電圧を検出するので、放電電極の出力電圧を分圧用の抵抗器を用いて直接検出する場合に比べ、装置の製造コストを低減させることができる。
【0016】
第5の本発明による除電制御方法は、放電電極に対し、コロナ放電のための駆動電圧として、正極性駆動電圧及び負極性駆動電圧を交互に繰返し印加する電極駆動ステップと、上記正極性駆動電圧の電圧値と上記負極性駆動電圧の電圧値との少なくともいずれか一方を調整する電圧値調整ステップと、上記正極性駆動電圧の印加時間と上記負極性駆動電圧の印加時間との少なくともいずれか一方を調整する印加時間調整ステップと、上記電圧値の調整量及び上記印加時間の調整量を制御する駆動制御ステップとを備え、上記駆動制御ステップでは、正イオンを増加させる場合に、上記正極性駆動電圧の電圧値を相対的に増加させるとともに、上記正極性駆動電圧の印加時間の比率を小さくし、負イオンを増加させる場合に、上記正極性駆動電圧の電圧値を相対的に減少させるとともに、上記正極性駆動電圧の印加時間の比率を大きくするように構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明による除電装置及び除電制御方法では、駆動電圧の繰返し間隔よりも長い時間における放電電極の平均電位を一定に保つことができるので、駆動電圧の電圧値や印加時間を調整した際に、イオンバランスが劣化するのを抑制することができる。
【0018】
従って、所望量の正イオン及び負イオンをそれぞれ発生させることができるとともに、除電装置からの距離にかかわらず、イオンバランスを均一に保つことができる。特に、除電装置の近傍におけるイオンバランスの劣化を抑制することができ、イオンバランスの距離特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1による除電器1の一構成例を示したブロック図であり、パルスAC方式の除電装置が示されている。
【図2】図1の除電器1における放電電極2の駆動動作の一例を示したタイミングチャートであり、CPU5により生成されるPWM信号SWn,SWpが示されている。
【図3】図1の除電器1における放電電極2の駆動動作の一例を示した図であり、出力電圧に応じてパルス幅が異なるPWMパルスPkが示されている。
【図4】図1の除電器1における放電電極2の駆動動作の一例を示した図であり、放電電極2の平均電位Vに応じてデューティ比が異なるPWM信号SWnが示されている。
【図5】図1の除電器1における放電電極2の駆動動作の一例を示した図であり、放電電極2の電位が示されている。
【図6】図1のCPU5内の構成例を示したブロック図である。
【図7】図6のCPU5におけるイオンバランス制御時の動作の一例を示したフローチャートである。
【図8】図6のCPU5における電圧制御時の動作の一例を示したフローチャートである。
【図9】図1の除電器1を用いて測定されたイオンバランスの距離特性を示した図である。
【図10】本発明の実施の形態2による除電装置100の構成例を示したブロック図である。
【図11】図10の除電装置100における放電電極104の駆動動作の一例を示した図であり、放電電極104の電位が示されている。
【図12】本発明の実施の形態3による除電装置200の構成例を示したブロック図である。
【図13】図12の除電装置200における放電電極205,215の駆動動作の一例を示したタイミングチャートである。
【図14】図12の除電装置200において用いられる電圧テーブルの一例を示した図であり、デューティ比D=Ta/Tに対応する出力電圧v,vが示されている。
【図15】図12の除電装置200における放電電極205,215の駆動動作の一例を示した図であり、デューティ比Dが異なる場合の電位Va,Vbが示されている。
【図16】本発明による除電装置において放電電極の出力電圧を検出する出力電圧検出部の他の構成例を示したブロック図である。
【図17】本発明の実施の形態4による除電装置300の構成例を示したブロック図である。
【図18】本発明の実施の形態5による除電装置400の構成例を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
<除電器1>
図1は、本発明の実施の形態1による除電器1の一構成例を示したブロック図であり、パルスAC方式の除電装置が示されている。この除電器1は、放電電極2、接地電極3、DC電源4、CPU5、増幅器6,16,26、A/D変換器7,17,27、スイッチング素子11,21、発振回路12,22、昇圧トランス13,23、倍電圧整流回路14,24、電圧検出用整流回路15及び25により構成される。
【0021】
発振回路12、昇圧トランス13及び倍電圧整流回路14は、負側駆動電圧Vを放電電極2に繰返し印加するための電極駆動ユニットである。発振回路22、昇圧トランス23及び倍電圧整流回路24は、正側駆動電圧Vを放電電極2に繰返し印加するための電極駆動ユニットである。
【0022】
放電電極2は、所定の駆動電圧を印加することによって、コロナ放電を発生させるための電極であり、例えば、1又は2以上の導体針からなる。放電電極2には、正側駆動電圧Vと負側駆動電圧Vとが交互に繰返し印加される。接地電極3は、放電電流を回収するためのグランド電極であり、イオン電流検出用の抵抗素子Rfを介して大地アースに接続されている。
【0023】
DC電源4は、発振回路12及び22へ直流電源を供給するための電源ユニットであり、所定の直流電圧VDCが、スイッチング素子11を介して発振回路12に印加されるとともに、スイッチング素子21を介して発振回路22に印加される。
【0024】
発振回路12は、DC電源4から供給される直流電圧VDCを交流電圧VACに変換して昇圧トランス13を駆動するインバータ回路である。交流電圧VACの大きさは、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号SWnによってスイッチング素子11のオン時間を調整することによって制御される。
【0025】
倍電圧整流回路14は、複数のコンデンサと複数のダイオード(整流素子)とからなる昇圧回路であり、直列に接続されたコンデンサ間がダイオードによってはしご状に連結されている。倍電圧整流回路14は、昇圧トランス13の2次側出力端子に接続されている。昇圧トランス13の2次側接地端子は、出力電圧検出用の抵抗素子Rnを介して大地アースに接続されている。
【0026】
発振回路22は、DC電源4から供給される直流電圧VDCを交流電圧VACに変換して昇圧トランス23を駆動するインバータ回路である。交流電圧VACの大きさは、PWM信号SWpによってスイッチング素子21のオン時間を調整することによって制御される。
【0027】
倍電圧整流回路24は、倍電圧整流回路14と同様の構成からなり、昇圧トランス23の2次側出力端子に接続されている。倍電圧整流回路14と倍電圧整流回路24とでは、ダイオードの向きが異なる。昇圧トランス23の2次側接地端子は、出力電圧検出用の抵抗素子Rpを介して大地アースに接続されている。
【0028】
除電器1から出力される電流は、イオン電流Iiと呼ばれ、放電電極2の周辺の空気などがコロナ放電によって電離することにより生じる正イオン及び負イオン間のイオンバランスを示す。イオン電流Iiは、大地アースから抵抗素子Rfを介して接地電極3側へ流れる。
【0029】
抵抗素子Rfは、大地アースから接地電極3側へ流れるイオン電流Iiを電圧信号に変換するための抵抗器であり、変換後の電圧信号は、増幅器6により増幅され、A/D変換器7によりデジタルデータへ変換される。つまり、抵抗素子Rf、増幅器6及びA/D変換器7により、イオンバランスが検出される。ここでは、イオンバランスの検出値をVfとしている。
【0030】
電圧検出用整流回路15は、昇圧トランス13の2次側接地端子を流れる電流によって負側出力電圧を検出するための整流回路であり、2つのコンデンサ15a,15bと2つのダイオード15c,15dとからなる。電圧検出用整流回路15では、入力端子及び大地アース間にコンデンサ15aとダイオード15cとが直列接続され、ダイオード15cのカソード端子及び大地アース間にダイオード15dとコンデンサ15bとが直列接続され、ダイオード15dのカソード端子が出力端子に接続されている。
【0031】
抵抗素子Rnは、昇圧トランス13の2次側接地端子から大地アースへ流れる電流を電圧信号に変換するための抵抗器であり、変換後の電圧信号は、整流回路15によって全波整流される。整流回路15による全波整流後の電圧信号は、増幅器16により増幅され、A/D変換器17によりデジタルデータへ変換される。ここでは、負側出力電圧の検出値をVnとしている。
【0032】
電圧検出用整流回路25は、昇圧トランス23の2次側接地端子を流れる電流によって正側出力電圧を検出するための整流回路であり、2つのコンデンサ25a,25bと2つのダイオード25c,25dとから電圧検出用整流回路15と同様に構成されている。抵抗素子Rpは、昇圧トランス23の2次側接地端子から大地アースへ流れる電流を電圧信号に変換するための抵抗器であり、変換後の電圧信号は、整流回路25によって全波整流される。整流回路25による全波整流後の電圧信号は、増幅器26により増幅され、A/D変換器27によりデジタルデータへ変換される。ここでは、正側出力電圧の検出値をVpとしている。
【0033】
CPU5は、イオンバランス、正側出力電圧及び負側出力電圧の各検出結果に基づいて、正側駆動電圧V及び負側駆動電圧Vの各電圧値とそれぞれの印加時間とを調整するイオンバランス制御プロセッサである。イオンバランス、正側出力電圧及び負側出力電圧の検出値Vf,Vp及びVnは、それぞれCPU5の所定の入力ポートに入力される。また、スイッチング素子11及び21をオン又はオフさせるためのPWM信号SWn及びSWpは、それぞれ所定の出力ポートから出力される。
【0034】
正側駆動電圧Vの電圧値は、PWM信号SWpのパルス幅を調整することによって制御され、負側駆動電圧Vの電圧値は、PWM信号SWnのパルス幅を調整することによって制御される。正側駆動電圧Vの印加時間Tpは、正側駆動電圧Vを保持し続ける持続時間であり、スイッチング素子21のオン期間Tipを調整することによって制御される。負側駆動電圧Vの印加時間Tnは、負側駆動電圧Vを保持し続ける持続時間であり、スイッチング素子11のオン期間Tinを調整することによって制御される。スイッチング素子11,21を交互に繰返しオンさせることにより、正イオン及び負イオンをそれぞれ発生させることができる。
【0035】
この除電器1では、イオンバランスの距離特性を向上させるために、放電電極2の平均電位Vが一定に保たれるように、正側駆動電圧Vの印加時間Tpと負側駆動電圧Vの印加時間Tnとの比率が調整される。
【0036】
<PWM信号>
図2は、図1の除電器1における放電電極2の駆動動作の一例を示したタイミングチャートであり、CPU5により生成されるPWM信号SWn,SWpが示されている。負側駆動電圧Vの印加時間Tnと正側駆動電圧Vの印加時間Tpとは、それぞれスイッチング素子11,21のオン期間によって制御される。
【0037】
PWM信号SWnは、スイッチング素子11のオン期間Tin中、一定の周期T11でPWMパルスPnが繰返し出力されるパルス信号からなる。一方、PWM信号SWpは、スイッチング素子21のオン期間Tip中、一定の周期T11でPWMパルスPpが繰返し出力されるパルス信号からなる。
【0038】
スイッチング素子11は、オン期間Tin中、PWMパルスPnによって断続的にオンされ、オン期間Tip中、連続的にオフされる。負側駆動電圧Vの印加時間Tnは、スイッチング素子11のオン期間Tinによって規定される。スイッチング素子21は、オン期間Tip中、PWMパルスPpによって断続的にオンされ、オン期間Tin中、連続的にオフされる。正側駆動電圧Vの印加時間Tpは、スイッチング素子21のオン期間Tipによって規定される。
【0039】
周期Tは、負側駆動電圧V及び正側駆動電圧Vを交互に繰返し印加する際の繰返し間隔であり、除電周期と呼ばれる。この除電周期Tは、スイッチング素子11,21を交互に繰返しオンさせる際の繰返し間隔に対応し、T=Tp+Tnにより表される。
【0040】
<PWMパルスのデューティ比>
図3は、図1の除電器1における放電電極2の駆動動作の一例を示した図であり、出力電圧に応じてパルス幅が異なるPWMパルスPkが示されている。この図には、PWMパルスPkを繰返し出力する際の周期T11(T11<T)を一定に保ったまま、PWMパルスPkのデューティ比Dp=T12/T11を変化させる場合が示されている。
【0041】
負側駆動電圧Vの電圧値と正側駆動電圧Vの電圧値とは、それぞれPWMパルスPn,Ppのパルス幅によって制御される。PWMパルスPk(k=n,p)のパルス幅T12は、PWM信号SWkの立ち上がりから立ち下がりまでの時間であり、PWMパルスpkごとのスイッチング素子11,21のオン時間に対応する。PWMパルスPkごとのスイッチング素子11,21のオフ時間をT13とすれば、T11=T12+T13である。
【0042】
上記デューティ比Dpは、パルス幅T12と周期T11との比率である。放電電極2の出力電圧は、パルス幅T12を長くすることによってデューティ比Dpを大きくすれば、高くなる。一方、出力電圧は、パルス幅T12を短くすることによってデューティ比Dpを小さくすれば、低くなる。例えば、PWMパルスPnのデューティ比Dpを大きくすれば、負側駆動電圧Vの電圧値が高くなるので、負イオンを増加させることができる。
【0043】
除電周期Tが、例えば、T=0.005秒〜10秒程度であるのに対し、周期T11は、除電周期Tの1/100よりも小さな値が指定される。
【0044】
<印加時間のデューティ比>
図4は、図1の除電器1における放電電極2の駆動動作の一例を示した図であり、放電電極2の平均電位Vに応じてデューティ比が異なるPWM信号SWnが示されている。この図には、スイッチング素子11,21を交互に繰返しオンさせる際の繰返し間隔、すなわち、除電周期Tを一定に保ったまま、印加時間のデューティ比Ds=Tn/Tを変化させる場合が示されている。
【0045】
負側駆動電圧Vの印加時間Tnは、スイッチング素子11のオン期間Tinによって制御される。上記デューティ比Dsは、負側駆動電圧Vの印加時間Tnと除電周期Tとの比率である。
【0046】
平均電位Vは、放電電極2の電位を除電周期Tよりも長い時間で平均した時間平均値である。この平均電位Vは、正側駆動電圧V及び負側駆動電圧Vの各電圧値が一定である場合、印加時間Tnを長くすることによってデューティ比Dsを大きくすれば、低くなる。一方、平均電位Vは、印加時間Tnを短くすることによってデューティ比Dsを小さくすれば、高くなる。
【0047】
そこで、平均電位Vを一定に保ちつつ、正側駆動電圧Vの印加時間Tpと負側駆動電圧Vの印加時間Tnとの比率、すなわち、デューティ比Dsを調整するためには、例えば、デューティ比Dsを大きくする場合、負側駆動電圧Vの電圧値を小さくし、或いは、正側駆動電圧Vの電圧値を大きくする。一方、デューティ比Dsを小さくする場合には、負側駆動電圧Vの電圧値を大きくし、或いは、正側駆動電圧Vの電圧値を小さくする。つまり、駆動電圧の電圧値と当該駆動電圧の印加時間とを互いに反対方向へ変化させる。
【0048】
図5は、図1の除電器1における放電電極2の駆動動作の一例を示した図であり、放電電極2の電位が示されている。放電電極2には、正側駆動電圧Vと負側駆動電圧Vとが交互に繰返し印加される。
【0049】
この例では、デューティ比Ds=Tn/Tが1/2よりも大きく、正側駆動電圧Vは、負側駆動電圧Vよりも大きくなっている。デューティ比Dsを大きくする場合、正側駆動電圧Vの電圧値を大きくするか、或いは、負側駆動電圧Vの電圧値を小さくすることによって、平均電位V(この例では、V<0)を一定に維持することができる。
【0050】
一方、デューティ比Dsを小さくする場合には、正側駆動電圧Vの電圧値を小さくするか、或いは、負側駆動電圧Vの電圧値を大きくすれば良い。
【0051】
<CPU5>
図6は、図1のCPU5内の構成例を示したブロック図である。このCPU5は、目標値記憶部51,54、イオンバランス誤差抽出部52、平均電位算出部53、平均電位誤差抽出部55、駆動制御部56、電圧値調整部57、印加時間調整部58及びPWM信号生成部59により構成される。目標値記憶部51及び54には、イオンバランス及び平均電位Vの各目標値がそれぞれ保持される。これらの目標値は、例えば、ユーザ操作に基づいて、任意に指定することができる。
【0052】
イオンバランス誤差抽出部52は、イオンバランスの検出値Vfと対応する目標値とを比較し、イオンバランスの制御誤差を求めて駆動制御部56へ出力する。電圧値調整部57は、イオンバランスの制御誤差に基づいて、正側駆動電圧Vの電圧値と負側駆動電圧Vの電圧値とを調整する。平均電位算出部53は、出力電圧の検出値Vn,Vpから平均電位Vを求め、平均電位誤差抽出部55へ出力する。平均電位Vは、V=Vp−Vnにより求められる。
【0053】
平均電位誤差抽出部55は、平均電位算出部53により求められた平均電位Vと対応する目標値とを比較し、平均電位の制御誤差を求めて駆動制御部56へ出力する。印加時間調整部58は、平均電位の制御誤差に基づいて、正側駆動電圧Vの印加時間Tpと負側駆動電圧Vの印加時間Tnとを調整する。
【0054】
駆動制御部56は、イオンバランス及び平均電位の制御誤差に基づいて、駆動電圧V,Vの電圧値の調整量と印加時間Tp,Tnの調整量とを制御する。PWM信号生成部59は、電圧値調整部57及び印加時間調整部58の出力に基づいて、PWM信号SWp、SWnを生成する。
【0055】
具体的には、イオンバランス及び平均電位Vがそれぞれ目標値と一致するように、印加時間のデューティ比Ds=Tn/Tと、PWMパルスPp,Pnの各デューティ比Dp=T12/T11とが決定される。その際、駆動制御部56により、平均電位Vが一定に保たれるように、デューティ比Ds,Dpの調整が行われる。例えば、正イオンを増加させる場合、PWMパルスPpのデューティ比Dpを大きくするとともに、PWMパルスPnのデューティ比Dpを小さくし、かつ、正側駆動電圧Vの印加時間Tpを短く、すなわち、デューティ比Dsを大きくする。
【0056】
これに対し、負イオンを増加させる場合には、PWMパルスPnのデューティ比Dpを大きくするとともに、PWMパルスPpのデューティ比Dpを小さくし、かつ、負側駆動電圧Vの印加時間Tnを短く、すなわち、デューティ比Dsを小さくする。つまり、増加させるイオンと同極性の駆動電圧の電圧値を大きくするとともに、逆極性の駆動電圧の電圧値を小さくし、かつ、同極性の駆動電圧の印加時間の比率を小さくする。
【0057】
ここで、正側駆動電圧Vの電圧値及び負側駆動電圧Vの電圧値とデューティ比Dsとの関係は、例えば、所定の電圧テーブルとして予め保持される。或いは、所定の演算式からなる関数を用いて、これらの駆動パラメータを算出してもよい。
【0058】
この様に、平均電位Vを一定に保ちつつ、印加時間のデューティ比DsとPWMパルスPp,Pnの各デューティ比Dpとを調整するので、イオンバランスや出力電圧の検出値に応じてこれらの駆動パラメータを調整した際に、イオンバランスが劣化するのを抑制することができる。
【0059】
一般に、コロナ放電によって放電電極2を流れる電流(放電電流)の電圧特性は、正側と負側とで対称ではない。例えば、コロナ放電に必要な負側駆動電圧Vの下限値は、正側駆動電圧Vの下限値よりも小さい。また、駆動電圧と放電電流との関係は非線形であり、放電電流は駆動電圧が増加するのに伴って指数関数的に増大するが、その変化の割合も正側と負側とで大きく異なる。
【0060】
そこで、本実施の形態による除電器1では、放電特性に大きく影響する駆動電圧の電圧値、すなわち、PWMパルスPp,Pnの各デューティ比Dpの調整を行ってから、印加時間のデューティ比Dsの調整が行われる。具体的には、イオンバランスが目標値と一致するように、PWMパルスPp,Pnの各デューティ比Dpを調整する電圧調整処理が繰返し行われる。そして、平均電位Vが目標値と一致するように、デューティ比Dsを調整する処理が行われる。
【0061】
<イオンバランス制御>
図7のステップS101〜S107は、図6のCPU5におけるイオンバランス制御時の動作の一例を示したフローチャートであり、イオンバランスの検出値に基づいて、PWMパルスPp,Pnの各デューティ比Dpを調整する処理が示されている。まず、CPU5は、イオンバランスの検出値Vfを取得し、目標値と比較する(ステップS101,S102)。
【0062】
このとき、CPU5は、Vfが目標値よりも大きければ、負イオンが過多であると判断し、正イオンを増加させるために、PWMパルスPpのデューティ比Dpを大きくするとともに、PWMパルスPnのデューティ比Dpを小さくする(ステップS103,S104)。
【0063】
一方、Vfが目標値よりも小さければ、正イオンが過多であると判断し、負イオンを増加させるために、PWMパルスPpのデューティ比Dpを小さくするとともに、PWMパルスPnのデューティ比Dpを大きくする(ステップS103,S106,S107)。CPU5は、Vfが目標値と一致するまで、ステップS101〜S104,S106,S107の処理手順を繰り返す(ステップS105)。
【0064】
<電圧制御>
図8のステップS201〜S208は、図6のCPU5における電圧制御時の動作の一例を示したフローチャートであり、出力電圧の検出値に基づいて、デューティ比Dsを調整する処理が示されている。まず、CPU5は、出力電圧の検出値Vn,Vpを取得し、その差分(Vp−Vn)から平均電位Vを算出する(ステップS201,S202)。
【0065】
次に、CPU5は、得られた平均電位Vを目標値と比較し、平均電位Vが目標値よりも大きければ、平均電位Vを下げるために、印加時間Tpを小さくするとともに、印加時間Tnを大きくすることによって、印加時間のデューティ比Dsを大きくする(ステップS203〜S205)。
【0066】
一方、平均電位Vが目標値よりも小さければ、平均電位Vを上げるために、印加時間Tpを大きくするとともに、印加時間Tnを小さくすることによって、印加時間のデューティ比Dsを小さくする(ステップS204,S207,S208)。CPU5は、平均電位Vが目標値と一致するまで、ステップS201〜S205,S207,S208の処理手順を繰り返す(ステップS206)。
【0067】
<イオンバランスの距離特性>
図9は、図1の除電器1を用いて測定されたイオンバランスの距離特性を従来例と比較して示した図である。この図には、除電器1を用いて得られた検出点群が測定結果A,Aとして示され、従来の除電装置を用いて得られた検出点群が測定結果Bとして示されている。
【0068】
また、図中の測定結果Aは、平均電位Vの目標値がV=0(V)の場合であり、測定結果Aは、目標値がV=−450(V)の場合である。また、測定結果Bは、平均電位Vの目標値がV=450(V)の場合である。なお、図中の横軸は、除電器1からの距離を示し、縦軸は、イオンバランスを示す。また、駆動電圧V,Vは、5〜7kV程度である。
【0069】
従来の除電装置では、正側駆動時と負側駆動時とで放電が均等に生じるようにするため、平均電位が正極性となるように放電電極の駆動制御が行われる。このため、除電装置から特定の距離、この例では、460mm付近でイオンバランスがゼロとなっているが、除電装置の近傍におけるイオンバランスが著しく劣化している。
【0070】
例えば、イオンバランスは、除電装置からの距離が50mmから100mmまでの範囲で、急激に増大し、−200(V)〜−110(V)となっている。また、距離が100mmから400mmまでの範囲では、緩やかに増加し、−110(V)〜−10(V)となっている。
【0071】
これに対し、除電器1では、除電器1からの距離にかかわらず、イオンバランスが概ね一定に保たれている。特に、平均電位V=0(V)の場合には、除電器1の近傍におけるイオンバランスが顕著に改善されている。例えば、イオンバランスは、除電器1からの距離が20mmから100mmまでの範囲で、−30(V)〜0(V)となっている。また、距離が100mm以上の範囲では、−15〜10(V)の範囲内となっている。
【0072】
平均電位V=−450(V)の場合、除電器1の近傍におけるイオンバランスは、若干劣化しているが、除電器1からの距離が200mm以上の範囲で、−10(V)〜5(V)の範囲内であり、除電器1からの距離が遠い位置におけるイオンバランスが改善している。つまり、除電器1では、正イオン、負イオンの発生量とイオンバランスの距離特性とを切り分けて制御することができる。このため、例えば、平均電位Vの目標値として負の値を指定することにより、除電器1の近傍において従来の除電装置とは逆極性のイオンの発生量を増加させつつ、除電器1から遠い位置のイオンバランスを向上させることができる。
【0073】
本実施の形態によれば、放電電極2の平均電位Vが一定に保たれるように、正側駆動電圧V及び負側駆動電圧Vの各電圧値と印加時間の比率とを調整するので、イオンバランスの検出値に応じてこれらの駆動パラメータを調整した際に、イオンバランスが劣化するのを抑制することができる。このため、イオンバランスの検出値に対し、駆動電圧V,Vの各電圧値と印加時間とを適切に指定することにより、除電器1からの距離にかかわらず、イオンバランスを均一に保つことができる。特に、除電器1の近傍におけるイオンバランスの劣化を抑制することができる。
【0074】
また、接地電極3及び大地アース間を流れる電流Iiによってイオンバランスを検出するので、表面電位計やイオンモニタを用いる場合に比べ、除電器1の構成を簡素化することができる。また、昇圧トランス13,23の2次側接地端子及び大地アース間を流れる電流によって出力電圧を検出するので、放電電極2の出力電圧を分圧用の抵抗器を用いて直接検出する場合に比べ、除電器1の製造コストを低減させることができる。
【0075】
実施の形態2.
実施の形態1では、パルスAC方式の除電装置に本発明を適用した場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、AC方式の除電装置に本発明を適用し、放電電極の平均電位Vが一定に保たれるように、正極性駆動電圧の印加時間と負極性駆動電圧の印加時間との比率を調整する場合について説明する。
【0076】
図10は、本発明の実施の形態2による除電装置100の構成例を示したブロック図である。この除電装置100は、単一の放電電極104に交流電圧が印加されるAC方式の除電器であり、交流電源101、電圧波形調整回路102、昇圧トランス103及びDCバイアス用直流電源105により構成される。ここでは、電圧波形調整回路102及びDCバイアス用直流電源105を制御する制御部やイオンバランスの検出部が省略されている。
【0077】
交流電源101は、所定の交流電圧を昇圧トランス103へ供給する商用電源である。DCバイアス用直流電源105は、放電電極104にDCバイアスを印加するための電源ユニットであり、直流電圧の電圧値を調整することができる。この直流電源は、昇圧トランス103の2次側接地端子と大地アースとの間に配置されている。
【0078】
電圧波形調整回路102は、出力電圧の波形を半周期ごとに歪ませるための回路であり、ダイオード111及び可変抵抗112からなる。ダイオード111及び可変抵抗112は、並列に接続されている。この電圧波形調整回路102は、交流電源101と昇圧トランス103との間に配置されている。
【0079】
図11は、図10の除電装置100における放電電極104の駆動動作の一例を示した図であり、放電電極104の電位が示されている。放電電極104には、正極性駆動電圧と負極性駆動電圧とが交互に一定周期で印加される。放電電極104の電位の極大値は、V11であり、極小値は、−V12である。また、正極性駆動電圧の印加時間は、T21であり、負極性駆動電圧の印加時間は、T22である。除電周期は、T=T21+T22である。
【0080】
この例では、DCバイアス用直流電源105により、平均電位Vが負極性となるようにDCバイアス(電圧値はV13)が印加されている。また、電圧波形調整回路102により、基準電位(−V13)よりも負側の波形が歪んでおり、負側の振幅(V12−V13)が、正側の振幅(V11+V13)よりも小さくなっている。
【0081】
この除電装置100では、平均電位Vを一定に保ちつつ、正極性駆動電圧の印加時間T21と負極性駆動電圧の印加時間T22との比率を調整するために、正極性駆動電圧(ピーク値はV11)又は負極性駆動電圧(ピーク値はV12)と、当該駆動電圧の印加時間とを互いに反対方向へ変化させる。
【0082】
例えば、正極性駆動電圧を高くし、或いは、負極性駆動電圧を低くする場合には、正極性駆動電圧の印加時間T21を短くし、或いは、負極性駆動電圧の印加時間T22を長くする。一方、正極性駆動電圧を低くし、或いは、負極性駆動電圧を高くする場合には、正極性駆動電圧の印加時間T21を長くし、或いは、負極性駆動電圧の印加時間T22を短くする。
【0083】
この様な構成によっても、除電装置100からの距離にかかわらず、イオンバランスを均一に保つことができる。
【0084】
実施の形態3.
実施の形態1では、パルスAC方式の除電装置に本発明を適用した場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、パルスDC方式の除電装置に本発明を適用し、平均電位Vが一定に保たれるように、正側駆動電圧の印加時間と負側駆動電圧の印加時間との比率を調整する場合について説明する。
【0085】
図12は、本発明の実施の形態3による除電装置200の構成例を示したブロック図である。この除電装置100は、パルス状の駆動電圧が正側放電電極205と負側放電電極215とに交互に印加されるパルスDC方式の除電器であり、直流電源201,211、発振回路202,212、昇圧トランス203,213、倍電圧整流回路204及び214により構成される。
【0086】
直流電源201、発振回路202、昇圧トランス203及び倍電圧整流回路204は、正側駆動電圧vaを放電電極205に繰返し印加するための電極駆動ユニットである。直流電源211、発振回路212、昇圧トランス213及び倍電圧整流回路214は、負側駆動電圧vbを放電電極215に繰返し印加するための電極駆動ユニットである。
【0087】
正側駆動電圧vaの電圧値は、直流電源201の出力電圧vを調整することによって制御され、負側駆動電圧vbの電圧値は、直流電源211の出力電圧vを調整することによって制御される。正側駆動電圧vaを印加する印加時間Taは、スイッチング素子SWa,SWbを交互に繰返しオンさせる際のスイッチング素子SWaのオン時間を調整することによって制御される。一方、負側駆動電圧vbを印加する印加時間Tbは、スイッチング素子SWbのオン時間を調整することによって制御される。
【0088】
図13は、図12の除電装置200における放電電極205,215の駆動動作の一例を示したタイミングチャートである。正側駆動電圧vaの印加時間Taと負側駆動電圧vbの印加時間Tbとは、それぞれスイッチング素子SWa,SWbのオン時間によって制御される。
【0089】
スイッチング素子SWa,SWbは、周期Tで交互に繰返しオンされる。周期Tは、除電周期であり、T=Ta+Tbにより表される。除電装置200では、周期Tを一定に保ったまま、デューティ比D=Ta/Tが調整される。その際、放電電極205,215の平均電位Vが一定に保たれるように、直流電源201,211の出力電圧v,vが調整される。
【0090】
図14は、図12の除電装置200において用いられる電圧テーブルの一例を示した図であり、デューティ比D=Ta/Tに対応する出力電圧v,vが示されている。直流電源201の出力電圧vは、デューティ比Dがd〜dの範囲で、v12からv11まで負の傾きの直線221に沿って減少している。一方、直流電源211の出力電圧vは、デューティ比Dがd〜dの範囲で、v11からv12まで正の傾きの直線222に沿って増加している。
【0091】
除電装置200では、この様なデューティ比Dごとの電圧値からなる電圧テーブルが予め保持され、イオンバランスの検出値などからデューティ比Dが指定されれば、それに応じて適切な電圧値が電圧テーブルによって決定される。
【0092】
図15は、図12の除電装置200における放電電極205,215の駆動動作の一例を示した図であり、デューティ比D=Ta/Tが異なる場合の電位Va,Vbが示されている。図中の(a)には、Ta<Tbの場合が示され、(b)には、Ta=Tbの場合が示され、(c)には、Ta>Tbの場合が示されている。
【0093】
放電電極205の電位Vaは、スイッチング素子SWaのオン期間中、vaであり、スイッチング素子SWbのオン期間中は、0である。一方、放電電極215の電位Vbは、スイッチング素子SWbのオン期間中、−vbであり、スイッチング素子SWaのオン期間中は、0である。
【0094】
Ta<Tbの場合、正側駆動電圧vaの印加時間Taが短く、正側駆動電圧vaが負側駆動電圧vbよりも大きくなるように、直流電源201,211の出力電圧v,vが調整される。一方、Ta>Tbの場合には、正側駆動電圧vaの印加時間Tbが長く、正側駆動電圧vaが負側駆動電圧vbよりも小さくなるように、直流電源201,211の出力電圧v,vが調整される。
【0095】
この様な構成によっても、除電装置100からの距離にかかわらず、イオンバランスを均一に保つことができる。
【0096】
なお、実施の形態1では、昇圧トランス13,23の2次側接地端子と大地アースとの間を流れる電流に基づいて、放電電極2の出力電圧を検出する場合の例について説明したが、本発明は出力電圧の検出方法をこれに限定するものではない。例えば、寄生容量に蓄積された電荷を放電させるためのシャント(shunt)抵抗Rsを流れる電流によって、出力電圧を検出するような構成であってもよい。
【0097】
図16は、本発明による除電装置において放電電極の出力電圧を検出する出力電圧検出部の他の構成例を示したブロック図である。図中の(a)には、シャント抵抗Rsと大地アースとの間に電圧検出用の抵抗素子Rvが配置される場合が示されている。シャント抵抗Rsは、放電電極への配線と大地アースとの間に生じる寄生容量に蓄積された電荷を大地アースへ放電させるための抵抗器であり、高圧電源の出力端子に接続されている。
【0098】
シャント抵抗Rs及び抵抗素子Rvは、直列に接続され、シャント抵抗Rsを流れる電流(シャント電流)によって、放電電極の出力電圧が検知される。検知される出力電圧は、Rs及びRvによって分圧される。
【0099】
図中の(b)には、高圧電源の接地端子と大地アースとの間に電圧検出用の抵抗素子Rvが配置される場合が示されている。放電電極の出力電圧は、抵抗素子Rvを流れる電流によって検知される。抵抗素子Rvを流れる電流には、イオン電流Iiも含まれることから、シャント電流がイオン電流Iiよりも十分に大きければ、出力電圧の誤差を小さくすることができる。
【0100】
実施の形態4.
実施の形態1〜3では、駆動電圧が放電電極に単一の周期で繰返し印加される場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、イオン発生用の高周波駆動とイオン搬送用の低周波駆動とを行う場合について説明する。
【0101】
図17は、本発明の実施の形態4による除電装置300の構成例を示したブロック図である。この除電装置300は、放電電極301、高周波電源302、低周波電源303、イオン電流検出部304、比較器305,307及び電圧計306により構成される。
【0102】
高周波電源302は、正イオン及び負イオンを発生させるための高周波電圧を出力し、低周波電源303は、発生したイオンを搬送するための低周波電圧を出力する。高周波電源302を低周波電源303から供給される低周波電圧によって駆動することにより、低周波電圧が高周波電圧に重畳された駆動電圧が放電電極301に印加される。
【0103】
イオン電流検出部304は、低周波電源303の接地端子を介して大地アースへ流れるイオン電流を検出し、イオンバランスを検知する。比較器305は、イオン電流検出部304により検知されたイオンバランスと目標値とを比較し、その比較結果に基づいて、駆動電圧を決定し、低周波電源303へ出力する。
【0104】
電圧計306は、低周波電源303の出力電圧を検出し、平均電位Vを算出する。比較器307は、電圧計306により算出された平均電位Vと目標値とを比較し、その比較結果に基づいて、印加時間のデューティ比を決定し、低周波電源303へ出力する。
【0105】
この除電装置300では、平均電位Vを一定に保ちつつ、低周波電圧の正側駆動電圧及び負側駆動電圧と、正側駆動電圧の印加時間及び負側駆動電圧の印加時間とが調整される。この様な構成によっても、除電装置300からの距離にかかわらず、イオンバランスを均一に保つことができる。
【0106】
実施の形態5.
実施の形態1〜3では、駆動電圧が放電電極に単一の周期で繰返し印加される場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、イオン発生用の高周波電圧が印加される放電電極とイオン搬送用の低周波電圧が印加される放電電極とを用いる場合について説明する。
【0107】
図18は、本発明の実施の形態5による除電装置400の構成例を示したブロック図である。この除電装置400は、イオン発生用放電電極401、高周波電源402、イオン搬送用放電電極403、低周波電源404、イオン電流検出部405、比較器406,408及び電圧計407により構成される。
【0108】
イオン発生用放電電極401は、正イオン及び負イオンを発生させるための高周波電圧が印加される放電電極であり、高周波電源402の出力端子に接続される。イオン搬送用放電電極403は、発生したイオンを搬送するための低周波電圧が印加される放電電極であり、低周波電源404の出力端子に接続される。
【0109】
比較器406は、イオン電流検出部405により検知されたイオンバランスと目標値とを比較し、その比較結果に基づいて、駆動電圧を決定し、低周波電源404へ出力する。比較器408は、電圧計407により算出された平均電位Vと目標値とを比較し、その比較結果に基づいて、印加時間のデューティ比を決定し、低周波電源404へ出力する。
【0110】
この除電装置400では、平均電位Vを一定に保ちつつ、低周波電圧の正側駆動電圧及び負側駆動電圧と、正側駆動電圧の印加時間及び負側駆動電圧の印加時間とが調整される。この様な構成によっても、除電装置400からの距離にかかわらず、イオンバランスを均一に保つことができる。
【0111】
なお、実施の形態1,4及び5では、イオンバランスの検出値に基づいて駆動電圧の電圧値を調整し、出力電圧の検出値に基づいて駆動電圧の印加時間を調整する場合の例について説明したが、イオンバランスの検出値に基づいて駆動電圧の印加時間を調整し、出力電圧の検出値に基づいて駆動電圧の電圧値を調整するような構成であってもよい。
【0112】
また、実施の形態1,4及び5では、高圧電源の出力電圧を検出することによって、放電電極の出力電圧を検知する場合の例について説明したが、高圧電源の入力電圧を検出することによって出力電圧を検知するような構成であっても良い。例えば、昇圧トランスをインバータ回路(発振回路)で駆動する場合、昇圧トランスの出力電圧は、インバータ回路の入力電圧に比例する。そこで、インバータ回路への入力電圧を測定することにより、放電電極の出力電圧を検知することができる。
【0113】
また、実施の形態1では、除電周期Tを一定に保ちつつ、印加時間のデューティ比Ds=Tn/Tを調整する場合の例について説明したが、正極性駆動電圧又は負極性駆動電圧のいずれか一方の駆動電圧の印加時間を固定し、他方の駆動電圧の印加時間を調整するような構成であっても良い。
【0114】
また、実施の形態1では、正イオンを増加させる場合に、正極性駆動電圧を大きくするとともに、負極性駆動電圧を小さくし、負イオンを増加させる場合に、正極性駆動電圧を小さくするとともに、負極性駆動電圧を大きくする構成について説明した。しかしながら、本発明には、増加させようとするイオンと同極性の駆動電圧又は逆極性の駆動電圧のいずれか一方の駆動電圧の電圧値を固定し、他方の駆動電圧の電圧値を調整するような構成のものも含まれる。
【0115】
また、実施の形態1,4及び5では、イオンバランスの検出値に応じて、駆動電圧の電圧値や印加時間が自動調整される場合の例について説明したが、本発明はイオンバランスを検出して電圧値や印加時間などの駆動パラメータを自動調整するものに限定されるものではない。例えば、ユーザ操作を検知し、正イオンを相対的に増加させ、或いは、負イオンを相対的に増加させることがユーザにより指示された場合に、増加させるイオンと同極性の駆動電圧の電圧値を相対的に増加させるとともに、当該駆動電圧の印加時間の比率を小さくするような構成であっても良い。また、この様なユーザ操作に基づくマニュアル制御モードと、イオンバランスの検出値に基づく自動制御モードとをユーザに選択させるような構成であっても良い。
【符号の説明】
【0116】
1 除電器
2 放電電極
3 接地電極
4 DC電源
5 CPU
6,16,26 増幅器
7,17,27 A/D変換器
11,21 スイッチング素子
12,22 発振回路
13,23 昇圧トランス
14,24 倍電圧整流回路
15,25 電圧検出用整流回路
51,54 目標値記憶部
52 イオンバランス誤差抽出部
53 平均電位算出部
55 平均電位誤差抽出部
56 駆動制御部
57 電圧値調整部
58 印加時間調整部
59 PWM信号生成部
Dp PWMパルスのデューティ比
Ds 印加時間のデューティ比
Pn,Pp PWMパルス
除電周期
Tn 負極性駆動電圧の印加時間
Tp 正極性駆動電圧の印加時間
平均電位
正側駆動電圧
負側駆動電圧
Vf イオンバランスの検出値
Vn 負側出力電圧の検出値
Vp 正側出力電圧の検出値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電電極に対し、コロナ放電のための駆動電圧として、正極性駆動電圧及び負極性駆動電圧を交互に繰返し印加する電極駆動手段と、
上記正極性駆動電圧の電圧値と上記負極性駆動電圧の電圧値との少なくともいずれか一方を調整する電圧値調整手段と、
上記正極性駆動電圧の印加時間と上記負極性駆動電圧の印加時間との少なくともいずれか一方を調整する印加時間調整手段と、
上記電圧値の調整量及び上記印加時間の調整量を制御する駆動制御手段とを備え、
上記駆動制御手段は、正イオンを増加させる場合に、上記正極性駆動電圧の電圧値を相対的に増加させるとともに、上記正極性駆動電圧の印加時間の比率を小さくし、負イオンを増加させる場合に、上記正極性駆動電圧の電圧値を相対的に減少させるとともに、上記正極性駆動電圧の印加時間の比率を大きくすることを特徴とする除電装置。
【請求項2】
上記放電電極の周辺における正イオン及び負イオン間のイオンバランスを検出するイオンバランス検出手段を備え、
上記駆動制御手段は、検出されたイオンバランスに基づいて、上記電圧値の調整量及び上記印加時間の調整量を制御することを特徴とする請求項1に記載の除電装置。
【請求項3】
上記イオンバランス及び上記平均電位の各目標値を保持する目標値記憶手段と、
上記放電電極の出力電圧を検出する電極電圧検出手段とを備え、
上記駆動制御手段は、上記イオンバランスが対応する目標値と一致するまで、上記正極性駆動電圧及び上記負極性駆動電圧の各電圧値を調整する電圧調整処理を繰返し行い、上記電圧調整処理の終了後、上記出力電圧から求められる上記平均電位が対応する目標値と一致するように、上記正極性駆動電圧及び上記負極性駆動電圧の各印加時間を調整することを特徴とする請求項2に記載の除電装置。
【請求項4】
上記イオンバランス検出手段は、接地電極及び大地アース間を流れる電流に基づいて、上記イオンバランスを検出し、
上記電極電圧検出手段は、昇圧トランスの2次側接地端子と大地アースとの間を流れる電流に基づいて、上記出力電圧を検出することを特徴とする請求項3に記載の除電装置。
【請求項5】
放電電極に対し、コロナ放電のための駆動電圧として、正極性駆動電圧及び負極性駆動電圧を交互に繰返し印加する電極駆動ステップと、
上記正極性駆動電圧の電圧値と上記負極性駆動電圧の電圧値との少なくともいずれか一方を調整する電圧値調整ステップと、
上記正極性駆動電圧の印加時間と上記負極性駆動電圧の印加時間との少なくともいずれか一方を調整する印加時間調整ステップと、
上記電圧値の調整量及び上記印加時間の調整量を制御する駆動制御ステップとを備え、
上記駆動制御ステップでは、正イオンを増加させる場合に、上記正極性駆動電圧の電圧値を相対的に増加させるとともに、上記正極性駆動電圧の印加時間の比率を小さくし、負イオンを増加させる場合に、上記正極性駆動電圧の電圧値を相対的に減少させるとともに、上記正極性駆動電圧の印加時間の比率を大きくすることを特徴とする除電制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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