説明

除電装置

【課題】除電対象物の帯電電位による影響を受けることなく、イオンバランスを調整できるようにする。
【解決手段】高電圧発生回路4からの高電圧信号により放電針1を放電させる除電装置において、回路内の基準電位ライン10と大地との間に第1の電流検出素子R1を設けると共に、放電針1への電圧印加ライン12と基準電位ライン10とを接続するライン14内に第2の電流検出素子R2を設ける。各電流検出素子R1,R2を流れた電流は、電圧検出回路71,72により電圧として検出されて制御回路6に入力され、イオンバランスを調整する処理に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン発生電極に高電圧を印加することによって放電を生じさせ、除電用のイオンを発生させる除電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電気が帯電する可能性があり、その帯電電位を除かなければ様々なトラブルが生じるおそれがある物品(以下「ワーク」という。)を除電するために、従前より、コロナ放電を利用した除電装置が用いられている。この種の除電装置は、正負の各極性毎に専用の放電針が設けられ、これら2種類の放電針により正イオンと負イオンとを同時に発生させるDC方式の装置と、同一の放電針に正極性の高電圧と負極性の高電圧とを交互に印加することにより、正イオンと負イオンとを交互に発生させるAC方式の装置とに分類される。
【0003】
ワークの帯電状態は、ワークの材質や周囲の環境などによってまちまちであり、また同じ現場内でもワークによって帯電状態にばらつきが生じるため、どのような帯電状態のワークでも除電できるように、正イオンと負イオンとを均等に発生させる必要がある。この課題を解決するために、従来の除電装置では、イオンの発生により生じるイオン電流を検出して、その検出値に基づき、正イオンと負イオンとがバランス良く発生しているかどうかを判別し、バランスが悪いと判別した場合には、これを是正するための制御(以下、「イオンバランスの調整」という。)を実施している。
【0004】
たとえば、特許文献1には、昇圧整流回路(本明細書では「高電圧発生回路」と呼ぶ。)とカップリングコンデンサとを組み合わせた回路を有するパルスAC方式の除電装置において、装置内の基準電位ラインとグランドライン(大地)とを結ぶライン上に抵抗を設け、この抵抗の両端にかかる電位差を用いて、正イオンと負イオンとの生成量や両者の差を算出することが記載されている。さらに特許文献1には、放電針と除電対象物(ワーク)との距離と上記の抵抗により検出される電位差とを用いて、昇圧整流回路の開閉のバランスを定めるデューティ比を制御することが、記載されている。
【0005】
また特許文献2には、正負の各極性毎に設けられた高電圧生成回路が共通の除電バーに接続されて、各高電圧生成回路を交互に動作させる構成の除電装置において、除電バーの近傍のグランドプレートと装置のフレームグランドとの間に一対の抵抗による直列回路を配備し、一方の抵抗により除電バーが生成するイオンの量を検出し、他方の抵抗を用いてワーク近傍のイオンバランスを検出すること、各検出結果に基づき除電バーへの供給電圧またはパルス幅を変化させること、各検出結果を表示することなどが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−207150号公報
【特許文献2】特開2003−68498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
除電装置においては、帯電したワークと放電針との間の電位差や両者間の空間のインピーダンスによって、ワークと放電針との間や内部の回路に電流が流れることがある(以下、この電流を「帯電起因電流」という。)。この帯電起因電流は通常はごく小さなレベルであるが、ワークの帯電電位が高くなったり、放電針とワークとの距離が比較的短くなった場合には、この帯電起因電流がイオンバランスの調整精度を悪化させるレベルになる可能性がある。
【0008】
特許文献1に記載された発明では、基準電位ラインとグランドライン(大地)との間に配備された抵抗(後記する本発明の実施例の抵抗R1に相当する。)に、イオンの発生量に対応する大きさのイオン電流が流れることを利用して、この抵抗にかかる電圧を用いてイオンバランスを調整しているが、特許文献1の回路構成によると、当該抵抗には、イオン電流だけではなく、帯電起因電流が流れる可能性がある。このため、帯電起因電流のレベルが大きくなると、各極性のイオンの発生量の関係を正確に認識できなくなり、イオンバランスの調整の精度を確保するのが困難になる。
【0009】
また特許文献2に記載された発明では、放電針の近傍のグランドプレートに接続された抵抗を使用しているが、この抵抗にもグランドプレートを介して帯電起因電流が流れ込む可能性があるので、イオンバランスの調整の精度を確保するのは、やはり困難である。
【0010】
上記のとおり、特許文献1,2に記載された発明では、帯電起因電流の影響を受けるパラメータに基づきイオンバランスが調整されるので、実際にはイオンバランスが悪いのに調整が行われなかったり、イオンバランスがとれているのにさらに過分な調整が行われて、バランスが崩れてしまうおそれがある。また、ワークの除電に必要な極性のイオンを減らして反対の極性のイオンを増やすような調整が行われると、ワークの除電に支障が生じるおそれがある。
【0011】
本発明は上記の問題点に着目し、イオン電流が流れるが帯電起因電流も流れる可能性がある箇所と、帯電起因電流が流れるがイオン電流が流れることはない箇所との2箇所でそれぞれ電流を検出し、これらの検出結果に基づき、帯電起因電流の影響を受けることなくイオンバランスを調整できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による除電装置は、放電によりイオンを発生させるイオン発生電極と、このイオン発生電極を放電させるための高電圧を生成する高電圧発生回路と、イオン発生電極への電圧印加ラインと高電圧発生回路と大地とに、それぞれ接続される基準電位ラインと、基準電位ラインと大地とを接続する回路に配備されて、イオンの発生量に対応する大きさのイオン電流を含むと共に除電対象物の帯電電位により生じる帯電起因電流を含む可能性のある電流を検出する第1の電流検出素子と、イオン発生電極への電圧印加ラインと基準電位ラインとを接続する回路に配備されて、帯電起因電流を含むがイオン電流を含む可能性はない電流を検出する第2の電流検出素子と、第1および第2の電流検出素子による検出結果に基づき高電圧処理回路の動作を制御することにより、各極性間のイオンバランスを調整する処理回路とを具備する。
【0013】
上記の構成によれば、第1の電流検出素子にイオン電流と共に比較的大きな帯電起因電流が流れたとしても、第2の電流検出素子によって帯電起因電流を検出することができるので、帯電起因電流の影響を受けることなく、各極性のイオンの発生量を調整することが可能になる。
【0014】
上記の除電装置では、第1および第2の電流検出素子の少なくとも一方を、一対の電圧検出端子を有する2端子型の電流検出用抵抗素子とすることができる。この場合の処理回路には、2端子型の電流検出用抵抗素子の各電圧検出端子の間の電圧を検出するための検出回路が含まれる。
【0015】
また第1および第2の電流検出素子の少なくとも一方を、一対の電圧検出端子と一対の電流端子とを有する4端子型の電流検出抵抗素子とすることもできる。この場合の処理回路には、4端子型の電流検出抵抗素子の各電圧検出端子の間の電圧を検出するための検出回路が含まれる。
【0016】
また、本発明の他の実施形態では、高電圧発生回路はカップリングコンデンサを介してイオン発生電極に接続され、処理回路の制御により高電圧発生回路からの高電圧の出力と当該出力の停止とが所定の周期で繰り返されることによりカップリングコンデンサの充電と放電とが切り換えられて、イオン発生電極に正極性の高電圧と負極性の高電圧とが交互に印加される。
【0017】
他の一実施形態による除電装置では、処理回路は、第2の電流検出素子による検出結果を用いて第1の電流検出素子による検出結果を補正し、この補正後の検出結果に基づき高電圧発生回路の動作を制御する。
この実施形態によれば、第1の電流検出素子にイオン電流と帯電起因電流とが流れた場合でも、第2の電流検出素子による検出結果を用いた補正によってイオン電流の大きさを正しく表す検出データを取得し、これを用いてイオンバランスを適切に調整することが可能になる。
【0018】
他の実施形態による除電装置では、処理回路は、第2の電流検出素子により得た検出データの値またはその変化量があらかじめ定めた許容範囲を超える場合には、高電圧発生回路に対する制御内容が変更されないようにしている。
この実施形態による制御は、たとえば帯電状態のばらつきが大きいために、一時的に大きな帯電起因電流を発生させるようなワークを処理する場合に適している。
【0019】
さらに上記の除電装置では,処理回路は、第2の電流検出素子に対して得た検出データに基づきイオン発生電極に印加されている電圧のレベルを判別することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、装置内の回路に除電対象物の帯電電位による電流が流れた場合でも、その電流による影響でイオンバランスの調整に不備が生じるのを防ぐことができる。これにより、どのような帯電状態のワークに対しても、その帯電電位の影響を受けることなく、正負のイオンを均衡のとれた状態で発生させて、除電を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】パルスAC方式の除電装置の構成例を示す回路図である。
【図2】正イオンが発生している間の電流の流れを示す図である。
【図3】負イオンが発生している間の電流の流れを示す図である。
【図4】正極性の電位が帯電したワークによる帯電起因電流の流れを示す図である。
【図5】イオンバランスの調整処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】DC方式の除電装置の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明が適用されたパルスAC方式の除電装置の一構成例を示す。
この除電装置は、イオン発生電極となる放電針1を複数具備すると共に、交流電源2、スイッチ部3、高電圧発生回路4、カップリングコンデンサ5、抵抗R1〜R5、制御回路6、第1および第2の電圧検出回路71,72などを含む回路が装置内に組み込まれる。各放電針1は、実際には、所定の距離をおいて配備されて、並列に接続される。
【0023】
各放電針1の近傍には、金属製のグランドプレート8が針に接触しない状態で配備される。グランドプレート8は,抵抗R5を介して回路内の基準電位ライン10(図中に太線で表す範囲のラインが含まれる。)に接続される。基準電位ライン10は、抵抗R1を介してフレームグランドFG(すなわち大地)に接続される。
【0024】
高電圧発生回路4は、昇圧トランス41やコッククロフト・ウォルトン型の倍電圧整流回路42により構成される。昇圧トランス41の一次側コイル41Aの入力端は、スイッチ部3を介して電源2に接続され、二次側コイル41Bと倍電圧整流回路42との間のラインが基準電位ライン10に接続されている。また、スイッチ部3は制御回路6に接続される。
【0025】
カップリングコンデンサ5(以下、単に「コンデンサ5」という。)は、正極側が倍電圧整流回路42の出力端に接続され、負極側が放電針1に接続される。コンデンサ5と倍電圧整流回路42とを結ぶライン11は、抵抗R4を含むライン13により基準電位ライン10に接続され、コンデンサ5と放電針1とを結ぶライン12は、抵抗R3およびR2の直列回路を含むライン14により基準電位ライン10に接続される。なお、コンデンサ5には無極性のコンデンサを使用することもできる。
【0026】
基準電位ライン10とフレームグランドFGとの間の抵抗R1や、ライン14内の抵抗R2は、2端子型の電流検出抵抗素子である。抵抗R1にかかる電圧は第1電圧検出回路71により検出され、抵抗R2にかかる電圧は第2電圧検出回路72により検出される。図1では、簡略化のため、各電圧検出回路71,72をブロックとして、対応する抵抗R1,R2の近傍に接続されるように表しているが、第1電圧検出回路71は、抵抗R1のフレームグランドに近い方の端子に対する他方の端子の電位差を検出し、第2電圧検出回路72は、抵抗R2の基準電位ライン10に近い方の端子に対する他方の端子の電位差を検出する。ただし、この方法に代えて、接地電位に対する各端子の電位差を検出した上で各検出値の差を求めてもよい。
【0027】
ライン14では、放電針1に印加されるのと同等のレベルの高電圧が抵抗R3,R2により分圧される。分圧により抵抗R2に印加される電圧は数ボルト程度であり、この電圧が第2電圧検出回路72により検出される。よって、第2電圧検出回路72により検出された電圧により、放電針1の針先に印加されている電圧のレベルを判別することができる。
【0028】
制御回路6はマイクロコンピュータを含むもので、スイッチ部3を切り換えることによって、高電圧発生回路4と電源2とが接続される状態とこの接続が遮断される状態とを交互に設定する。
【0029】
スイッチ部3が閉じている間は、昇圧トランス41の一次側コイル41Aに電源2からの高周波信号が供給される。この高周波信号が二次側コイル41Bで昇圧されて倍電圧整流回路42に与えられることによって、倍電圧整流回路42から正極性の高電圧信号が出力される。
【0030】
スイッチ部3が開放されると、昇圧トランス41の動作が停止し、倍電圧整流回路42からの高電圧信号の出力も停止する。
このように、高電圧発生回路4から出力される高電圧信号のオン・オフ状態は、スイッチ部3の開閉に同期する周期で切り替えられる。
【0031】
図2は、上記の高電圧信号がオン状態のときの電流の流れを示し、図3は、高電圧信号がオフ状態のときの電流の流れを示す。なお、図2および図3、ならびに次の図4では、基準電位ライン10を他と同じ太さの線にして、代わりに、電流の流れを太線で示す。
【0032】
高電圧信号がオン状態のときは、図2中に一点鎖線で示すように、この信号の立ち上がり時のAC成分によって、高電圧発生回路4からコンデンサ5を通過した電流がライン12を通って放電針1へと流れる。またキルヒホッフの法則より、放電針1から放出された電流に等しい量の電流(イオン電流)が大地から抵抗R1および基準電位ライン10を介して高電圧発生回路4へと戻る。
また、図2中に点線で示すように、ライン12を流れる電流の一部は、ライン14へと分岐して抵抗R3,R2の直列回路に流れた後に、基準電位ライン10を通って高電圧発生回路4へと戻る。
【0033】
高電圧信号がオフ状態のときは、コンデンサ5から電荷が放出されるため、図3中に一点鎖線で示すように、コンデンサ5の正極から出て、ライン13,基準電位ライン10,抵抗R1,大地,放電針1を順に通ってコンデンサ5の負極へと向かう電流経路が生じる。また、図3中に点線で示すように、ライン13を流れて基準ライン10に達した電流の一部がライン14の方に分岐し、その分岐電流が抵抗R2,R3を介してコンデンサ5へと戻る。
【0034】
上記の事象を整理すると、高電圧信号がオン状態のときは、放電針1に正極性の電圧が印加されて正イオンが発生すると共に、大地から高電圧発生回路4に向かう方向に沿ってイオン電流が流れる。このため抵抗R1の電位は大地より低くなる。
高電圧信号がオフ状態のときは、放電針1に負極性の電圧が印加されて負イオンが発生すると共に、高電圧発生回路4から大地に向かう方向に沿ってイオン電流が流れる。このため抵抗R1の電位は大地より高い状態となる。
【0035】
よって、第1電圧検出回路71により検出される抵抗R1の電圧は、正イオンが発生している間は負の方向に変化し、その変動幅は、正イオンの発生量が多くなるほど大きくなる。また負イオンが発生している間は、抵抗R1の電圧は正の方向に変化し、その変動幅は、負イオンの発生量が多くなるほど大きくなる。
【0036】
このように、第1電圧検出回路71により検出される抵抗R1の電圧は、発生するイオンの極性や発生量によって異なる変化を示すが、この抵抗R1にはイオン電流だけでなく、ワークの帯電電位に伴う帯電起因電流が流れる。このため、抵抗R1の電圧のみを用いてイオンバランスを調整すると、不具合が生じる可能性がある。
【0037】
図4は、上記の除電装置において、正極性の電位が帯電しているワークWによって生じる帯電起因電流の流れを示す。図4中の2点鎖線に示すように、この場合の帯電起因電流は、ワークWから放電針1へと流れ、放電針1からライン14を経て基準電位ライン10に到達し、さらに抵抗R1を通って大地へと流れる。したがって、抵抗R1における帯電起因電流は、負イオンが発生しているときのイオン電流と同じ方向に流れることになる。また、この帯電起因電流は、発生するイオンの極性に関係なく、帯電電位の極性に応じて一定の方向に流れるので、その影響を受けた抵抗R1の電圧によりイオンの発生量を判別すると、正イオンは実際より少なく、負イオンは実際より多いと判別されてしまう。
【0038】
負極性の電位が帯電しているワークにより生じる帯電起因電流は、図4に示したのとは反対方向に流れる。したがって、この場合の抵抗R1における帯電起因電流は、正イオンが発生しているときのイオン電流と同じ方向に流れることになる。この結果、帯電起因電流の影響を受けた抵抗R1の電圧によりイオンの発生量を判別すると、正イオンは実際より多く、負イオンは実際より少ないと判別されてしまう。
【0039】
一般に、帯電したワークと放電針との間の空間のインピーダンス(図4中の点線枠内のZ)は非常に大きいので、ワークWの帯電電位がさほど高くない場合には、抵抗R1に流れる帯電起因電流は非常に小さい値となる。たとえば、ワークWと放電針1との間の空間のインピーダンスが100ギガオームで、ワークWの帯電電位が5キロボルトであるとすると、帯電起因電流は0.05μアンペアとなる。
【0040】
しかし、放電針1とワークWとの間の空間のインピーダンスは両者間の距離が短くなるにつれて小さくなる。またイオンの発生強度自体がμアンペア単位の値をとるため、高帯電のワークが放電針1に接近すると、帯電起因電流の値は大きくなる。たとえば、ワークWと放電針1との間の空間のインピーダンスが10ギガオームとなり、ワークWの帯電電位が30キロボルトであるとすると、帯電起因電流は3μアンペアとなり、イオン電流に影響を与える可能性が生じる。
【0041】
このように、帯電起因電流が大きくなっている場合に、抵抗R1の電圧のみに基づいてイオンバランスを調整すると、イオンバランスが著しく悪くなるおそれがある。またワークWの帯電電位を中和するのに必要なイオンを減らす調整が行われるため、除電が不完全になるおそれがある。
【0042】
ここで、ライン14内の抵抗R2に着目すると、この抵抗R2には帯電起因電流が流れる。また、この抵抗R2には、放電針1への印加電圧に応じた強さの電流が流れるが、この電流はイオン電流とは無関係である。また、放電針1に対する正負各極性の電圧がそれぞれ安定し、帯電起因電流が無視できる程度の強度である場合には、抵抗R2に流れる電流も安定した状態になる。したがって、第2電圧検出回路72により検出される抵抗R2の電圧の変化により帯電起因電流の大きさを判別することができると考えられる。
【0043】
上記の考察に基づき、この実施例では、第2電圧検出回路72からの検出信号を用いて抵抗R2の電圧の変化を検出し、その変化の幅が許容できる範囲であれば、第1電圧検出回路71により検出された抵抗R1の電圧のみを用いてイオンバランスを調整し、抵抗R2の電圧の変化の幅が許容範囲を超える場合には、抵抗R2の電圧に基づいて抵抗R1の電圧を補正し、その補正後の電圧を用いてイオンバランスを調整する。この方法によれば、常に、イオン電流を精度良く表すパラメータを用いた調整が可能になる。
【0044】
なお、上記の制御のために、この実施例では、あらかじめワークWがない状態下での抵抗R1,R2の電圧(以下、「基準電圧V1,V2」という。)を取得して、制御回路6内のメモリに登録する。抵抗R1,R2に流れる電流の方向は、発生するイオンの極性によって変動するので、基準電圧として、正イオンが発生している間の電圧と負イオンが発生している間の電圧との平均値を求めるようにしている。
基準電圧の平均値は、高電圧信号が一周期分の変化を示す間の抵抗R1,R2における電圧の変化を積分する演算により求めることができる。ただし、電圧の変化の山部分と谷部分との中間位置の電圧を求めてもよい。
【0045】
図5は、イオンバランスの調整処理に関する制御回路6の手順を示す。
この処理は、高電圧信号の周期に対応する間隔で繰り返し実行される。ただし、ループの実行のタイミングは一周期に1回のペースに限らず、複数周期につき1回のペースとしてもよい。
【0046】
ループの最初のステップS1では、高電圧信号のオン期間およびオフ期間毎に、各電圧検出回路71,72からの検出信号を取得し、抵抗R1,R2の平均電圧V1,V2を計測する。この計測にも、基準電圧V1,V2と同様の方法を適用することができる。
【0047】
ステップS2では、抵抗R2につき登録されている基準電圧V2に対する平均電圧V2の変化量d(d=V2−V2)を算出する。ステップS3では、変化量dの絶対値をあらかじめ定めたしきい値dthと比較する。
【0048】
帯電起因電流の強さが無視できる程度であれば、dの絶対値はしきい値dth以下となる。この場合には、ステップS6に進み、抵抗R1の基準電圧V1に対する平均電圧V1の変化量を求め、その変化量に基づきイオンバランスを調整する。
【0049】
一方、dの絶対値がしきい値dthより大きい場合には、ステップS4に進み、dの値を用いて抵抗R1の平均電圧V1を補正する。さらにステップS5に進んで、基準電圧V1に対する補正後の平均電圧V1の変化量を求め、その変化量に基づきイオンバランスを調整する。
【0050】
図4に示した電流の流れによれば、正極側に帯電しているワークWによる帯電起因電流が生じている場合には、抵抗R1,R2の電位はともに正の方向に引き上げられるため、ステップS2で算出される変化量dは正の値になる。また負極側に帯電しているワークによる帯電起因電流が生じている場合には、抵抗R1,R2の電位はともに負の方向に引き下げられるので、ステップS2で算出される変化量dは負の値となる。
【0051】
よって、上記のステップS4では、たとえば、変化量dに所定大きさの負の係数を乗算した値をV1に加算する演算によりV1を補正する。または、変化量dと抵抗R2の抵抗値とにより帯電起因電流の大きさを算出し、その電流の大きさと抵抗R1の抵抗値とを用いて、帯電起因電流により抵抗R1に生じた昇圧成分または降圧成分を求め、その成分をV1から除く補正を行ってもよい。または、制御回路6のメモリに、変化量dの値と補正値との関係テーブルを登録しておき、このテーブルから算出された変化量dに対応する補正値を読み出して補正を行ってもよい。
【0052】
いずれの補正によっても、正極側に帯電したワークにより抵抗R1の平均電圧V1が引き上げられた場合には、その引き上げ幅に相当する値だけV1の値を低くし、負極側に帯電したワークにより抵抗R1の平均電圧V1が引き下げられた場合には、その引き下げ幅に相当する値だけV1の値を高くすることができる。よって、この補正後の電圧V1を用いてイオンバランスを調整する処理(ステップS5)を行えば、帯電起因電流の影響を受けることなく、イオンバランスの調整を精度良く行うことが可能になる。
【0053】
なお、図5の例では、各抵抗R1,R2の平均電圧を使用したが、正イオンが発生している間の電圧と負イオンが発生している間の電圧との強度差を使用してもよい。また、正イオンが発生している期間の電圧と負イオンが発生している期間の電圧とを個別に求めて、各電圧毎にそれぞれの基準電圧に対する変化量を求めて、各変化量に基づきイオンバランスを調整してもよい。
【0054】
イオンバランスの調整処理では、高電圧信号をオンにする期間(正イオンの発生期間)と高電圧信号をオフにする期間(負イオンの発生期間)との割合を決めるデューティ比を変更するなどして、各極性のイオンの発生強度の割合を変更するが、その変更によって放電針1への印加電圧が変動する可能性がある。したがってデューティ比を変更した場合には、基準電圧V2を再取得してから再開するのが望ましいが、その場合には、外部のワーク検出用センサなどからの信号を用いて放電針1の近傍にワークWが存在しないことを確認して基準電圧V2を再取得するのが、より望ましい。
ただし、基準電圧V2を自動的に変更することも可能である。たとえば、デューティ比を種々に変更して基準電圧V2を計測し、その計測結果からデューティ比と基準電圧V2との関係テーブルを作成してこの関係テーブルを制御回路6のメモリ内に登録しておけば、デューティ比を変更する都度、関係テーブルから変更後のデューティ比に対応する基準電圧V2を読み出して、その値に変更することができる。
【0055】
また図5に示した制御では、抵抗R2の基準電圧V2に対する平均電圧V2の変化量dがあらかじめ定めたしきい値dthを超えた場合には、常に、そのdの値を用いて平均電圧V1を補正するようにしたが、変化量dが所定の許容値を超えた場合には、その後のイオンバランスの調整処理を中止してもよい。なお、この中止の判別に用いられる許容値はdthより高い値であるが、dthの値を図5の例より低くしてもよい。
【0056】
たとえば、局所的に高帯電の箇所が存在するワークが高速で通過する場合に、高帯電箇所により帯電起因電流が一時的に増大したことに応じてイオンバランスを調整すると、その調整によりイオンの発生量の割合が変更された時点では高帯電箇所が除電対象位置から離れている可能性がある。そうなると、次の除電対象箇所に対しては、調整前の割合でイオンを作用させた方が望ましい。
このような場合に、平均電圧V2の変化量に許容範囲を超える変化が生じたことに応じてイオンバランスの調整処理を中止すれば、高帯電箇所による帯電起因電流の一時的な変化の影響によりイオンバランスが崩れるのを防ぐことができる。なお、イオンバランスの調整処理を中止した後に、抵抗R2の基準電圧V2に対する平均電圧V2の変化量dが許容値を下回る状態になった場合には、イオンバランスの調整処理を再開してもよい。ただし、イオンバランスの調整処理を中止した後の抵抗R2の平均電圧V2が安定しない場合には、警報を出力するなどの措置をとるのが望ましい。
【0057】
さらに、上記の除電装置に表示部を設けるか、除電装置の制御回路6を外部の表示装置に接続して、平均電圧V2の値をディジタル表示したり、複数の段階の電圧レベルの中で平均電圧V2に該当するレベルを表示すれば、放電針1に印加されている電圧をユーザに認識させることができる。
【0058】
また、基準電圧V2に対するV2の変化量dが取り得る値の範囲をあらかじめ複数段階のレベルに分類しておき、平均電圧V2に代えて、または平均電圧V2と共に、変化量dの値に該当するレベルを表示してもよい。この表示によれば、ユーザは帯電起因電流の強さを認識することができる。
さらに、イオンの発生強度を制御するためのパラメータを大きく変更していないのに変化量dがしきい値dthを超えた場合には、帯電起因電流が生じている可能性が高いことを示す警告表示を行ってもよい。
【0059】
また放電針1とワークWとの距離を示す距離データを入力する手段を設け、ユーザにより入力された距離データから放電針1とワークWとの間の空間のインピーダンスを推定し、さらに平均電圧V2から求めた帯電起因電流の強度とインピーダンスの推定値とを用いてワークWの帯電電位を推定し、その推定結果を表示してもよい。ただし、空間のインピーダンスは湿度や温度によって変動する可能性があるので、温度センサや湿度センサなどにより温度や湿度を検出し、その検出結果を加味してインピーダンスの推定を行うのが望ましい。
【0060】
また上記実施例では、抵抗R1,R2として2端子型の電流検出用抵抗素子を用いるとしたが、少なくともいずれか一方の抵抗を、電圧検出端子と電流端子とを一対ずつ備える4端子型の電流検出用抵抗素子に置き換えて、各電圧検出端子間の電圧を検出してもよい。
【0061】
上記のとおり、一組の高電圧発生回路とカップリングコンデンサとを用いて放電針1への印加電圧を切り換えるAC交流方式の除電装置を例として、本発明を説明したが、本発明が適用される範囲は、この構成に限定されるものではない。他の実施形態として、図6に、DC方式の除電装置を示す。
【0062】
図6の実施例の除電装置は、正イオンを発生させる回路100Aと負イオンを発生させる回路100Bとを具備する。図6では、回路100A,100B内の対応する構成を、同じ数字にAまたはBを加えた符号により示す。ただし、以下の説明で送付の回路100A,100Bに共通する事項に言及する場合には、符号中のA,Bを省略する。
【0063】
回路100A,100Bには、それぞれ複数の放電針1、交流電源2、スイッチ部3、高電圧発生回路4、グランドプレート8、第1電圧検出回路71、第2電圧電圧検出回路72などが含まれる。これらは図1の例の除電装置の対応する構成と同様のものである。ただし、回路100Bの倍電圧整流回路42Bの各ダイオード(符号なし)は反対向きに接続される。またグランドプレート8が抵抗R5を介して基準電位ライン10に接続される点、基準電位ライン10が抵抗R1を介してフレームグランドFGに接続される点、および高電圧発生回路4の昇圧トランス41と倍電圧整流回路42との間のラインが基準電位ライン10に接続される点も、図1の実施例と同様である。
【0064】
つぎに図1の実施例とは異なる構成を説明する。
まず高電圧発生回路4と放電針1とは、抵抗R6を含むライン15により接続される。このライン15は、抵抗R3,R2の直列回路を含むライン16により基準電位ライン10に接続される。
【0065】
また回路100Aにのみ制御回路6Aが設けられるが、この制御回路6Aは、双方の回路100A,100Bのスイッチ部3A,3Bを統括制御する。各回路100A,100Bの第1電圧検出回路71A,71Bおよび第2電圧検出回路72A,72Bも、すべて制御回路6Aに接続される。
【0066】
回路100Aでは、スイッチ部3Aが閉じたときに、高電圧発生回路4Aからライン15Aを介して放電針1Aへと電流が流れ、放電針1Aから放出された電流により正イオンが発生する。また、放出された電流に等しい強さの電流が大地から抵抗R1Aを介して基準電位ライン10Aに流入し、高電圧発生回路4Aへと戻る。また高電圧発生回路4Aからライン15Aに流れた電流の一部はライン16Aに分岐して、抵抗3A,2Aを順に流れた後に、基準電位ライン10Aを経由して高電圧発生回路4Aへと戻る。
第1電圧検出回路71Aは、上記の電流が流れている間の抵抗R1Aの電圧を検出し、第2電圧検出回路72Aは、上記の電流が流れている間の抵抗R2Aの電圧を検出する。
【0067】
回路100Bでは、スイッチ部3Bが閉じたときに、高電圧発生回路4Bから基準電位ライン10Aおよび抵抗R1Aを通って大地に流れる電流が発生する。基準電位ライン10Aに流れた電流の一部はライン16Bに向かう方向に分岐し、その分岐電流は抵抗R2B,R3Bを順に通って高電圧発生回路4Bへと戻る。大地に流れた電流は、放電針1およびライン15Bを通って高電圧発生回路4Bに戻り、これに伴って負イオンが発生する。
第1電圧検出回路71Bは、上記の電流が流れている間の抵抗R1Bの電圧を検出し、第2電圧検出回路72Bは、上記の電流が流れている間の抵抗R2Bの電圧を検出する。
【0068】
上記のとおり、各回路100A,100Bでのイオンの発生に関わる電流の経路はそれぞれ異なるが、帯電ワークにより生じる帯電起因電流は、いずれの回路でも同じになる。正極性の帯電電位による帯電起因電流は、放電針1からライン15,16を順に通って基準電位ライン10に達し、さらに基準電位ライン10から大地へと流れる。負極性の帯電電位による帯電起因電流は、同じ経路を反対の方向に沿って流れる。よって、各回路100A,100Bの抵抗R1A,R1Bには、イオン電流のほか、帯電起因電流が流れる可能性があるが、同様に帯電起因電流が流れる抵抗R2A,R2Bの電圧の変化を検出することによって、帯電起因電流の大きさを認識することができる。
【0069】
制御回路6Aは、図5の例に準じた手順により抵抗R2A,R2Bの電圧の変化量をチェックし(変化量は抵抗R2A,R2B毎に求めても良いし、両者の平均の変化量または両者間の差の変化量を求めてもよい。)、変化量がしきい値以下であれば、抵抗R1A,R1Bの電圧を用いてイオンバランスを調整する。一方、抵抗R2A,R2Bの電圧の変化量がしきい値を上回る場合には、帯電起因電流の強度が高いと考えられるので、抵抗R2A,R2Bの電圧の変化量により抵抗R1A,R1Bの電圧を補正し、補正後の電圧を用いてイオンバランスを調整する。
【0070】
なお、この実施例では、スイッチ部3A,3Bのオン期間を規定する制御信号のデューティ比を変更する方法によりイオンの発生強度を変更するが、これに限らず、各高電圧発生回路4A,4Bから出力される電圧のレベルを変更する方法によりイオンの発生強度を変更してもよい。また局所的な高帯電箇所を有するワークを処理する場合には、抵抗R2A,R2Bの電圧の変化量が許容範囲を超えたことに応じて、イオンバランスの調整処理を中止するのが望ましい。
【符号の説明】
【0071】
1,1A,1B 放電針
2,2A,2B 交流電源
4,4A,4B 高電圧発生回路
5 コンデンサ
6,6A 制御回路
10,10A,10B 基準電位ライン
12,15A,15B 電圧印加ライン
71,71A,71B 第1電圧検出回路
72,72A,72B 第2電圧検出回路
R1,R1A,R1B 電流検出素子(抵抗)
R2,R2A,R2B 電流検出素子(抵抗)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電によりイオンを発生させるイオン発生電極と、
前記イオン発生電極を放電させるための高電圧を生成する高電圧発生回路と、
前記イオン発生電極への電圧印加ラインと高電圧発生回路と大地とに、それぞれ接続される基準電位ラインと、
基準電位ラインと大地とを接続する回路に配備されて、イオンの発生量に対応する大きさのイオン電流を含むと共に除電対象物の帯電電位により生じる帯電起因電流を含む可能性のある電流を検出する第1の電流検出素子と、
前記イオン発生電極への電圧印加ラインと基準電位ラインとを接続する回路に配備されて、前記帯電起因電流を含むがイオン電流を含む可能性はない電流を検出する第2の電流検出素子と、
前記第1および第2の電流検出素子による電流の検出結果に基づき前記高電圧発生回路の動作を制御することにより、前記各極性間のイオンバランスを調整する処理回路とを、具備する除電装置。
【請求項2】
前記第1および第2の電流検出素子の少なくとも一方は、一対の電圧検出端子を有する2端子型の電流検出用抵抗素子であり、
前記処理回路には、前記2端子型の電流検出用抵抗素子の各電圧検出端子の間の電圧を検出するための検出回路が含まれる、請求項1に記載された除電装置。
【請求項3】
前記第1および第2の電流検出素子の少なくとも一方は、一対の電圧検出端子と一対の電流端子とを有する4端子型の電流検出抵抗素子であり、
前記処理回路には、前記4端子型の電流検出抵抗素子の各電圧検出端子の間の電圧を検出するための検出回路が含まれる、請求項1に記載された除電装置。
【請求項4】
前記高電圧発生回路は、カップリングコンデンサを介して前記イオン発生電極に接続され、前記処理回路の制御により高電圧発生回路からの高電圧の出力と当該出力の停止とが所定の周期で繰り返されることによりカップリングコンデンサの充電と放電とが切り換えられて、前記イオン発生電極に正極性の高電圧と負極性の高電圧とが交互に印加される、請求項1〜3のいずれかに記載された除電装置。
【請求項5】
前記処理回路は、前記第2の電流検出素子による検出結果を用いて前記第1の電流検出素子による検出結果を補正し、この補正後の検出結果に基づき前記高電圧発生回路の動作を制御する、請求項1〜3のいずれかに記載された除電装置。
【請求項6】
前記処理回路は、前記第2の電流検出素子により得た検出データの値またはその変化量があらかじめ定めた許容範囲を超える場合には、前記高電圧発生回路に対する制御内容が変更されないようにする、請求項1〜3のいずれかに記載された除電装置。
【請求項7】
前記処理回路は、前記第2の電流検出素子に対して得た検出データに基づき前記イオン発生電極に印加されている電圧のレベルを判別する、請求項1〜6のいずれかに記載された除電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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