説明

陥没箇所抽出装置および陥没箇所抽出プログラム

【課題】地中構造物上部地盤において、地中構造物の変状を伴わない地盤陥没が発生する箇所を抽出すること。
【解決手段】抽出部15aは、領域情報記憶部14aおよび設定条件記憶部14bに格納された領域情報および各種設定値を用いて、地中構造物上部の地盤が地下水および浸透水により飽和状態または飽和状態に近い状態となり、地中構造物上部の地盤と地中構造物内部との間で動水勾配が生じる可能性がある箇所であるか否かを判定する第一の判定処理と、地中構造物上部の地盤にて固結度の異なる堆積物が接触する箇所であるか否かを判定する第二の判定処理とを行なう。そして、抽出部15aは、各判定処理の判定結果に応じて、陥没する可能性の度合いを示す点数を順次加算することで合計点数を算出し、算出した合計点数と所定の設定値とを比較することで、陥没の発生する度合いが分類された箇所(陥没箇所)を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、陥没箇所抽出装置および陥没箇所抽出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地盤の陥没は、炭鉱などの採掘後地中に残置された空洞や、内部に空洞をもつような地中構造物、地中構造物建設のための掘削時に残置された空洞などのように人工的に形成された空洞が崩壊し、崩落した空洞の上部地盤がずれることにより発生することが知られている。すなわち、地盤における陥没現象は、人工的に形成された空洞の崩壊を伴う浅所陥没であることが知られている。以下では、人工的に形成された空洞のことを、空洞を支える構造物も含めて地中構造物と記載する。
【0003】
ここで、地盤の陥没は、地中構造物が存在する箇所から地中構造物の上部の地表面までの地盤が一気に落ちることによって発生する場合と、崩落を繰り返しながら空洞が徐々に上昇して発生する場合とがあると考えられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
このため、地盤陥没を予防するために、所在が不明となった地中構造物、あるいは、地中構造物が崩落してその上部地盤へ上昇した地表面下の空洞を発見することで、地盤陥没が発生する可能性のある箇所を抽出することが行われている。これにより、地盤陥没に対しては、発見した地中構造物や空洞を、閉塞または充填するという対策をとることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】川本:地盤陥没災害と地下空洞調査について,物理探査,Vol.58,No.6,pp.589-597,2005年.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、散見されている陥没事象には、地中構造物に大きな変状が伴っていないことから原因が特定できない陥没現象が含まれている。すなわち、地中構造物上部未固結地盤では、従来のように、地中構造物の崩落を伴う浅所陥没以外のメカニズムにより陥没が発生する場合があることが明らかとなっている。
【0007】
しかし、上記した従来の技術では、地盤中に予め存在する地中構造物が崩落することによって地盤の陥没が発生することを前提として、陥没する可能性の高い箇所を抽出しているため、地中構造物の変状を伴わない陥没が発生する箇所を必ずしも抽出することができないといった課題があった。
【0008】
そこで、この発明は、上述した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、地中構造物上部地盤において、地中構造物の変状を伴わない地盤陥没が発生する可能性のある箇所を抽出することが可能となる陥没箇所抽出装置および陥没箇所抽出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この装置は、地中構造物が埋設される領域が含まれる所定の領域の地理学的情報、地形学的情報および地質学的情報と、前記地中構造物の情報とからなる領域情報を記憶する領域情報記憶手段と、前記地中構造物上部の地盤が地下水および浸透水により飽和状態または飽和状態に近い状態となり、前記地中構造物上部の地盤と前記地中構造物内部との間で動水勾配が生じる可能性がある箇所であるか否かを判定する第一の判定処理と、前記地中構造物上部の地盤にて固結度の異なる堆積物が接触する箇所であるか否かを判定する第二の判定処理とを、前記領域情報記憶手段が記憶する前記領域情報に基づいて実行し、前記第一の判定処理および前記第二の判定処理の判定結果に基づいて前記地中構造物上部の地表面が陥没する可能性のある陥没箇所を抽出する抽出手段と、を備えたことを要件とする。
【0010】
また、このプログラムは、地中構造物が埋設される領域が含まれる所定の領域の地理学的情報、地形学的情報および地質学的情報と、前記地中構造物の情報とからなる領域情報を所定の記憶部に格納する領域情報格納手順と、前記地中構造物上部の地盤が地下水および浸透水により飽和状態または飽和状態に近い状態となり、前記地中構造物上部の地盤と前記地中構造物内部との間で動水勾配が生じる可能性がある箇所であるか否かを判定する第一の判定処理と、前記地中構造物上部の地盤にて固結度の異なる堆積物が接触する箇所であるか否かを判定する第二の判定処理とを、前記所定の記憶部が記憶する前記領域情報に基づいて実行し、前記第一の判定処理および前記第二の判定処理の判定結果に基づいて前記地中構造物上部の地表面が陥没する可能性のある陥没箇所を抽出する抽出手順と、をコンピュータに実行させることを要件とする。
【発明の効果】
【0011】
開示の装置およびプログラムによれば、地中構造物上部地盤において、地中構造物の変状を伴わない地盤陥没が発生する可能性のある箇所を抽出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、浅所陥没を説明するための図である。
【図2】図2は、パイピング構造の類型化を説明するための図である。
【図3】図3は、電気探査を行った結果について説明するための図である。
【図4】図4は、領域情報記憶部を説明するための図(1)である。
【図5】図5は、領域情報記憶部を説明するための図(2)である。
【図6】図6は、領域情報記憶部を説明するための図(3)である。
【図7】図7は、領域情報記憶部を説明するための図(4)である。
【図8】図8は、領域情報記憶部を説明するための図(5)である。
【図9】図9は、抽出結果の一例を説明するための図である。
【図10】図10は、本実施例における陥没箇所抽出装置の処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る陥没箇所抽出装置および陥没箇所抽出プログラムの実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る陥没箇所抽出プログラムを実行する陥没箇所抽出装置を実施例として説明する。
【実施例】
【0014】
まず、図1〜3を用いて、本実施例における陥没箇所抽出装置の処理の概念について説明する。図1は、浅所陥没を説明するための図であり、図2は、パイピング構造の類型化を説明するための図であり、図3は、電気探査を行った結果について説明するための図である。
【0015】
本実施例における陥没箇所抽出装置は、地中構造物が地中に埋設されている領域において、地中構造物上部の地表面が陥没する可能性のある箇所を陥没箇所として抽出する。
【0016】
従来、地中構造物上部地盤における陥没現象は、地中構造物に崩落などの大きな変状を伴う浅所陥没であると考えられていた。すなわち、図1に示すように、地中構造物の一部、あるいは全部が崩落することで、地中構造物上部の地表面が陥没する。
【0017】
しかし、近年、地中構造物上部未固結地盤の地表面が陥没する事象が各地で散見されている。これらの陥没事象には、地中構造物に大きな変状が伴っていないことから、原因が特定できない陥没現象が含まれている。すなわち、地中構造物上部未固結地盤では、従来のように、浅所陥没以外のメカニズムにより陥没が発生する場合があることが明らかとなっている。
【0018】
一方、地中構造物の変状を伴わないことから原因が特定できないとされていた陥没は、パイピング(piping)を素因とする地中構造物上部地盤内の土砂流失により発生する可能性が見出されていた。具体的には、かかる陥没現象では、地中構造物上部の地表面に降った雨水が地盤中の未固結堆積物中に浸透することで、パイプ状の水みち(パイプ)が形成され、水みちにおける水の流動により地盤の土砂が引き込まれることで、地表面に近い箇所に空洞が形成されることで陥没が発生することが示唆されていた。
【0019】
すなわち、陥没が発生する可能性がある陥没箇所を抽出するためには、地中構造物の変状を伴わない地中構造物上部の陥没現象が、パイピングを素因とする現象であることを検証する必要があり、このため、実際に、地中構造物上部にて陥没が発生した箇所の現地調査が行われた。
【0020】
以下では、陥没が生じた箇所を調査することで明らかとなった事象について、図2および図3を用いて説明する。
【0021】
まず、陥没が生じた複数の箇所をトレンチ調査することにより、浅所陥没に由来する地盤のズレが認められないことと、地表面の近くで空洞が生じたことにより陥没(陥没穴)が発生したこととが確認され、また、すべての箇所で、地中構造物に対して、降雨により地表から浸透する浸透水や地下水が浸透するように形成されたパイプが確認された。なお、トレンチ調査とは、着目する箇所の地盤を溝状に掘削して地中の状況を直接観察する調査方法のことである。
【0022】
さらに、陥没箇所のトレンチ調査の結果を解析することで、地中構造物上部の地盤における堆積物の種類によって、パイピング構造が類型化できることが明らかとなった。具体的には、図2の(A)に示すように、陥没箇所において、地中構造物上部の地盤における未固結堆積物が段丘堆積物、扇状地堆積物および河床堆積物のような岩石質材料である場合、すなわち、地中構造物上部の地盤が礫を多く含む地盤である場合、石積みのような構造(インターロック構造)のパイプが形成されることが確認された。ここで、インターロック構造のパイプは、高透水性であることから、陥没は、堆積物の礫と礫との間の基質部を構成していた粗砂および細礫が流出することでインターロック構造のパイプが成長し、その結果、地表面の近くの地盤の細粒分が洗い流されて発生したと推定される。
【0023】
また、図2の(B)に示すように、陥没箇所において、地中構造物上部の地盤における未固結堆積物が土石流堆積物および崖錐堆積物のような石分まじり土質材料からなる場合、すなわち、地中構造物上部の地盤が細粒分を多く含む地盤である場合、円筒状の構造のパイプが形成されることが確認された。ここで、円筒状の構造のパイプは、透水性が低いが、パイプ部分は、周囲の地盤と比較して浸透性が相対的に高くなるため、パイプに優先的に水が浸透することが推定される。したがって、円筒状の構造のパイプによっても、陥没が発生することが推定される。
【0024】
以上まとめると、陥没箇所で認められたパイプの構造は、未固結堆積物の成因や性質により分類することができ、パイプ構造の差は、未固結堆積物を構成している粒度組成、材料強度および透水性に影響を強く受けていることが明らかとなった。また、パイプの構造により、パイプを流れる地下水および浸透水の流速と、流出される粒子の大きさとが決定されると推定される。
【0025】
次に、陥没が生じた複数の箇所を電気探査した結果について説明する。ここで、電気探査に先立ち、陥没が発生した箇所の地下水位を測定するためのボーリング調査によりボーリング孔が掘削されており、その際、基盤岩の種類および基盤面の位置(基盤深さ)が確認さる。そして、基盤岩の種類が既知となったことから、陥没が発生した箇所の基盤の比抵抗値は、既知となる。
【0026】
2次元電気探査では、地中構造物が埋設されている領域の2次元断面における比抵抗(単位:Ωm)を測定した比抵抗断面が得られる。ここで、基盤岩の比抵抗値が既知であることから、比抵抗断面が得られると、地中構造物が埋設されている領域において、基盤が位置する面を推定することができる(図3の(A)に示す「推定基盤面」参照)。なお、図3の(A)は、インターロック構造のパイプが確認された陥没箇所にて、トレンチ調査が行われる前に行われた2次元電気探査の結果を示している。
【0027】
そして、2次元電気探査により推定基盤面が決定されたのち、3次元電気探査を行った。3次元電気探査は、例えば、「特開2008−281404号公報」に記載されている技術であり、探査対象となる地盤の3次元における比抵抗値を、塩水などの液体を散水する前後で測定することで、比抵抗値の変化を検出し、検出した比抵抗値の変化から地盤中にて突出して液体が浸透している箇所を検知する技術である。すなわち、3次元電気探査では、流速の速い水の浸透経路を推定することができる。
【0028】
図3の(B)に、トレンチ調査によりインターロック構造のパイプが確認された領域に対して、3次元電気探査を行った結果を示す。なお、2次元電気探査および3次元電気探査は、トレンチ調査に先立ち行われている。図3の(B)に示すように、水平軸(図中の左右方向)「16m」付近で比抵抗値の変化率が大きい箇所が検知されている。ここで、水平軸「16m」付近は、トレンチ調査から薄い表土層あるいは耕作土層の直下に段丘堆積物が存在する箇所であり、透水性が高い礫層に塩水が集中して浸透したことから、3次元電気探査の結果は、トレンチ調査の結果と整合性があることが分かる。
【0029】
一方、トレンチ調査の結果からインターロック構造が発生していることが確認された箇所(インターロック構造箇所)は、図3の(B)に示すように、透水性が高いにも関わらず、予想に反して、比抵抗値の変化率が小さく、比抵抗値の変化率が高い箇所は、成長したインターロック構造箇所の先端が基盤と接触する位置にて検知された。すなわち、パイプは、未固結堆積物中から発生して、基盤面に向かって成長していることが推察される。
【0030】
インターロック構造箇所の変化率が周辺と比較して小さい値となったのは、塩水の散水量が十分でなく、浸透性が高すぎるために、インターロック構造箇所の礫間を満たすことなく基盤まで塩水が浸透したためと推察される。
【0031】
ここで、上記で説明したトレンチ調査および電気探査の結果と、ボーリング孔を用いた地下水位の調査結果とをまとめると、以下に示す2つの要因が、パイピングが発生して、地中構造物の変状を伴うことなく地中構造物上部の陥没が発生するための条件となることが示唆される。
【0032】
地下水位は、地中構造物が埋設されている地盤の基盤面、または、基盤面より地表面側に位置するものと考えられるが、降雨量に応じて上昇する。したがって、多雨期において、地下水および降雨による浸透水により地盤中の未固結堆積物粒子間に水が保有されているような状態、すなわち、地中構造物上部の地盤が水により飽和状態または飽和状態に近い状態となると、地中構造物内部(余掘り空間および地中構造物壁面内部)の大気圧と地中構造物上部の地盤との間で動水勾配が生じることとなり、図2で説明したいずれかの構造を有するパイピングが発生しやすくなる。
【0033】
また、3次元電気探査の結果から、基盤岩と未固結堆積物が接する箇所、換言すれば、粗粒なものと細粒なものとが接する箇所で、流速の速い水が流れやすく、淘汰の悪い堆積物中を浸透した水が地中深くまで移動しやすい環境が形成されて地盤中にパイピングが発生しやすくなる。
【0034】
すなわち、地盤が保有する水の状態により動水勾配を生じる可能性の高い箇所であり、かつ、固結度の異なる堆積物(未固結堆積物と固い基盤岩と)が接触する箇所であるならば、パイピングが発生しやすい環境となり、パイピングによる陥没が発生する可能性が高いことと判定することができる。
【0035】
かかる処理の概念に基づいて、本実施例における陥没箇所抽出装置は、地中構造物が埋設される領域を含む所定の領域(以下、地中構造物埋設周辺領域と記す)において、陥没箇所の抽出処理を行なう。
【0036】
次に、本実施例における陥没箇所抽出装置が実行する処理の具体例について、図4〜図9を用いて説明する。図4は、本実施例における陥没箇所抽出装置の構成を示すブロック図であり、図5〜8は、領域情報記憶部を説明するための図であり、図9は、抽出結果の一例を説明するための図である。
【0037】
図4に示すように、本実施例における陥没箇所抽出装置10は、入力部11と、出力部12と、入出力制御I/F部13と、記憶部14と、処理部15とを有する。
【0038】
入力部11は、各種の情報を利用者から受け付けて入力し、特に本発明に密接に関連するものとしては、上述した領域情報を受け付けて入力したり、後述する処理部15が処理を行なう際の各種設定条件を受け付けて入力したりする。なお、入力部11が受け付ける領域情報および各種設定条件については、のちに詳述する。
【0039】
出力部12は、各種の情報を出力し、モニタなどを備え、特に本発明に密接に関連するものとしては、後述する処理部15の処理結果を表示する。
【0040】
入出力制御I/F部13は、入力部11および出力部12と、記憶部14および処理部15との間におけるデータ転送を制御する。
【0041】
記憶部14は、処理部15による各種処理に用いるデータと、処理部15による各種処理結果を記憶し、特に本発明に密接に関連するものとしては、図4に示すように、領域情報記憶部14aと、設定条件記憶部14bと、抽出結果記憶部14cとを有する。
【0042】
領域情報記憶部14aは、入力部11を介して利用者から受け付けた領域情報を記憶する。ここで、領域情報記憶部14aは、地中構造物埋設周辺領域の地形学的情報および地質学的情報と、施工者から提供された地中構造物の情報とからなる領域情報を記憶する。
【0043】
具体的には、領域情報記憶部14aは、図5に示すように、地理学的情報として、気象庁が公開している地中構造物埋設周辺領域における降雨量情報(年間平均降雨量および年間最大降雨量)を記憶する。また、領域情報記憶部14aは、図5に示すように、施工者から提供される地中構造物埋設周辺領域における地中構造物が埋設されている位置の情報である埋設位置情報、地中構造物の天端標高である地中構造物標高および地中構造物への湧き水の有無である地中構造物内湧き水の有無を記憶する。ここで、埋設位置情報は、地中構造物埋設周辺領域を抽出するために用いられる。
【0044】
また、領域情報記憶部14aは、図5に示すように、地形学的情報として、例えば、2万5千分の1地形図から利用者が抽出した地中構造物埋設周辺領域の地表標高、集水域、未固結堆積物分布域および未固結堆積物分布域における基盤深さを記憶する。
【0045】
ここで、地表標高は、2万5千分の1地形図から作成された50mメッシュ数値地図から抽出される。また、集水域は、地中構造物埋設周辺領域の2万5千分の1地形図にて、尾根線を結ぶことにより、利用者により決定される。また、未固結堆積物分布域は、地中構造物埋設周辺領域の2万5千分の1地形図にて、斜面勾配の遷緩線などから集水域の内側において、利用者により抽出される。また、未固結堆積物分布域における基盤深さは、地中構造物埋設周辺領域の2万5千分の1地形図から推定される地形に応じて、予め設定された設定値(単位:m)が設定される。例えば、地中構造物が埋設される位置の地形が風化準平原である場合、基盤深さは、「20m」として設定され、土砂排出が少ない河川の段丘である場合、基盤深さは、「1m」として設定され、土砂排出が多い河川(隆起帯の河川)の段丘である場合、基盤深さは、「2m」として設定される。また、幼年期地形である場合、基盤深さは、「2m」として設定され、壮年期地形である場合、基盤深さは、「0m」として設定され、老年期地形である場合、基盤深さは、「3m」として設定される。
【0046】
また、領域情報記憶部14aは、図5に示すように、地質学的情報として、例えば、例えば、地中構造物埋設周辺領域の未固結堆積物分布域において、2万5千分の1地質図を参照した利用者により抽出された未固結堆積物の種類および基盤岩の種類を記憶する。例えば、領域情報記憶部14aは、未固結堆積物分布域にある未固結堆積物が、段丘堆積物、扇状地堆積物および河床堆積物などの岩石質材料であるか、土石流堆積物および崖錐堆積物のような石分まじり土質材料であるのかを記憶し、未固結堆積物分布域にある基盤(基盤岩)の種類が、堆積岩や火成岩などであるのかを記憶する。
【0047】
また、領域情報記憶部14aは、図5に示すように、地中構造物埋設周辺領域における水みち(伏流水や宙水など)情報と地中構造物埋設周辺領域の地表にある集水設備の情報とを記憶する。伏流水の情報および集水施設の情報は、図5に示すように、2万5千分の1地形図より大縮尺となる5千分の1地形図から抽出される場合であっても、現地調査によって抽出される場合であってもよい。なお、集水施設の設置箇所は、降雨による浸透水の浸透量をより増加させることが予想される箇所であり、集水施設としては、水田、側溝、水槽、アスファルトやコンクリートで舗装された道路、アスファルトなどでフェーシングされたテニスコートや運動場などヤードの周辺といった箇所が抽出される。
【0048】
以下、領域情報記憶部14aが記憶する領域情報の具体例について、図を用いて説明する。例えば、領域情報記憶部14aは、図6の(A)に示すように、集水域を一つのポリゴンデータとして表した集水域データを記憶する。また、領域情報記憶部14aは、図6の(B)に示すように、未固結堆積物の種類ごとに色分けされた未固結堆積物分布域ごとを一つのポリゴンデータとして表した未固結堆積物データを記憶する。
【0049】
また、領域情報記憶部14aは、図7の(A)に示すように、未固結堆積物分布域において、基盤深さが同一範囲にある領域ごとを一つのポリゴンデータとして表した基盤深さデータを記憶する。また、領域情報記憶部14aは、図7の(B)に示すように、未固結堆積物分布域において、基盤の種類(基盤地質)が同一である領域ごとを一つのポリゴンデータとして表した基盤地質データを記憶する。なお、図7の(B)に示す基盤地質データでは、基盤地質ごとに異なる数字(凡例番号)と異なる模様とが割り当てられており、例えば、左上から右下に向かう斜線で示される模様が割り当てられている領域の基盤地質が、「凡例番号:006」が割り当てられた基盤地質であることが示されている。
【0050】
また、領域情報記憶部14aは、図8の(A)に示すように、基盤深さと地中構造物の埋設位置情報と地中構造物の天端標高との情報を網羅する情報として、地中構造物が基盤と交差する地点が抽出された地中構造物基盤交差データを記憶する。また、領域情報記憶部14aは、図8の(B)に示すように、地中構造物埋設周辺領域における水みちの情報として、地中構造物の埋設位置が水みちと交わる箇所ごとを一つのポリゴンデータとして表した水みちデータを記憶する。
【0051】
また、領域情報記憶部14aは、図8の(C)に示すように、地中構造物埋設周辺領域における集水施設の情報として、地中構造物の埋設位置が集水施設と交わる箇所ごとを一つのポリゴンデータとして表した集水設備データを記憶する。
【0052】
ここで、領域情報記憶部14aは、50mメッシュ数値地図から抽出された地表標高データ(図示せず)を記憶している。しかし、地表標高データは、50m間隔で格子状に配置されたデータであるため、格子(メッシュ)の各隅に該当する箇所であるならば正確な高さとなるが、格子の各隅以外の箇所であるならば精度が低くなる。このため、領域情報記憶部14aは、図5に示す領域情報の他に、図8の(D)に示すように、地表標高を地形補正するための補正データを記憶する。
【0053】
図8の(D)に示す補正データには、補正したい標高メッシュ「h0」の補正に用いられる隣接メッシュの地表標高「h(1)〜h(4)」が記憶されている。ここで、後述する抽出部15aは、「h0」と各地表標高との差分「Δh=(h0−h(i))、i=1〜4」を算出し、算出したΔhのうち、最大でかつ正の値となった値を補正係数として決定し、決定した補正係数を「h0」から減算した値を、標高メッシュ「h0」の補正地表標高とする。
【0054】
図4に戻って、設定条件記憶部14bは、陥没箇所抽出装置10の利用者が予め設定した各種設定値を記憶し、後述する抽出部15aは、領域情報記憶部14aが記憶する領域情報と、設定条件記憶部14bが記憶する各種設定値とを用いて、陥没箇所を抽出する。
【0055】
抽出結果記憶部14cは、後述する抽出部15aが抽出した陥没箇所の抽出結果を記憶する。なお、設定条件記憶部14bが記憶する各種設定値および抽出結果記憶部14cが記憶する抽出結果については、後に詳述する。
【0056】
処理部15は、記憶部14が記憶するデータに基づいて各種処理を実行し、特に本発明に密接に関連するものとしては、図4に示すように、抽出部15aを有する。
【0057】
抽出部15aは、上述した処理の概念に基づいて、地中構造物上部地盤において、地中構造物の変状を伴わない陥没が発生する可能性のある陥没箇所を抽出する。
【0058】
まず、抽出部15aは、地中構造物埋設周辺領域において、地中構造物上部の地盤が地下水および浸透水により飽和状態または飽和状態に近い状態となり、地中構造物上部の地盤と地中構造物内部との間で動水勾配が生じる可能性がある箇所であるか否かを判定する第一の判定処理を行なう。
【0059】
具体的には、抽出部15aは、「基盤の深さと降雨量情報(年間平均降雨量)とから推定される地下水位」と「集水域の地表から降雨により浸透する浸透水」とが接触するか否かを地中構造物埋設周辺領域の各箇所において判定する第一の判定処理を実行する。なお、通常状態における地下水位は、「基盤の深さ(図7の(A)参照)」と同じ位置にあると設定される場合であっても、「基盤の深さ」と「年間平均降雨量」とから考慮される水位分、上位位置にあると設定される場合であってもよい。
【0060】
より具体的には、抽出部15aは、「地表標高」と、「未固結堆積物の種類から推定される浸透水の浸透深さ」と、「集水域にある未固結堆積物分布域の面積、地中構造物が存在する位置での集水域の幅、未固結堆積物の種類および降雨量情報(年間最大降雨量)とから推定される地下水位上昇量」との3種類の値を用いて、地下水と浸透水とが接触する可能性のある箇所であるか否かを判定する。
【0061】
抽出部15aは、地中構造物埋設周辺領域にある各箇所の地表標高を、地表標高データから取得する。
【0062】
また、抽出部15aは、地中構造物埋設周辺領域にある各箇所の浸透深さを、図4に示す設定条件記憶部14bが記憶する設定値から取得する。ここで、設定条件記憶部14bは、未固結堆積物の種類に応じて推定される透水性の大小に基づいて、未固結堆積物の種類ごとに予め利用者から設定された浸透深さを記憶している。例えば、設定条件記憶部14bは、未固結堆積物が段丘堆積物、扇状地堆積物および河床堆積物などの浸透性が大きい岩石質材料である場合、「浸透深さ」を「5m」とする設定値を記憶する。一方、設定条件記憶部14bは、未固結堆積物が土石流堆積物および崖錐堆積物のような浸透性の小さい石分まじり土質材料である場合、「浸透深さ」を「0.5m」とする設定値を記憶する。これにより、抽出部15aは、図6の(B)に示した未固結堆積物データを参照して判定対象箇所における未固結堆積物の種類を特定し、特定した種類に対応付けられている浸透深さを設定条件記憶部14bから取得する。
【0063】
また、抽出部15aは、地下水位上昇量を、例えば、以下に説明する第一の判定処理により算出する。まず、抽出部15aは、集水域データ(図6の(A)参照)から集水域面積(面積A)および地中構造物が存在する位置での集水域の幅(長さL)を算出する。面積Aから降雨により地下に浸水した浸透水は、長さLの区間を通り、地中構造物周辺での地下水位の上昇に寄与する。
【0064】
したがって、面積Aに対して、領域情報として記憶されている降雨量情報(R:年間最大降雨量)が与えられた場合、年間最大降雨量と同等の降雨による地下水位上昇量(H)は、RおよびAに比例し、Lに反比例することとなる。ここで、浸透水の浸透量は、上述したように未固結堆積物の種類によって推定できるので、「地下水位上昇量:H」は、未固結堆積物の種類ごとに定まる係数値(α)を用いて、「α×R×A/L」として算出することができる。
【0065】
このため、設定条件記憶部14bは、予め利用者から設定された「未固結堆積物が岩石質材料である場合の係数値」および「未固結堆積物が石分まじり土質材料である場合の係数値」を記憶している。すなわち、抽出部15aは、領域情報から取得した「R」と、領域情報から算出した「A、L」と、設定条件記憶部14bにて該当する未固結堆積物の種類に対応付けられている係数値とを用いて、地中構造物埋設周辺領域にある各箇所の地下水位上昇量を算出する。
【0066】
かかる処理により、3種類の値を取得したうえで、抽出部15aは、地中構造物埋設周辺領域にある各箇所(各判定対象箇所)にて、地下水と浸透水とが接触するか否かを判定する。以上が、第一の判定処理の内容となる。
【0067】
ここで、抽出部15aは、第一の判定処理により、地下水と浸透水とが接触すると判定した箇所に対しては、陥没する可能性の度合いを評価するための点数(例えば、4点)を加算する。なお、第一の判定結果が肯定の場合に加算される点数は、設定条件記憶部14bにて記憶されている。
【0068】
そして、抽出部15aは、第一の判定結果が否定判定であった箇所において、当該第一の判定処理にて用いられた地下水位上昇量を未固結堆積物の種類(図6の(B)参照)から推定される毛細管現象による地下水の上昇量を加算して補正したのち、第一の判定処理を再実行する。なお、未固結堆積物の種類から推定される毛細管現象による地下水の上昇量は、予め利用者から設定されて、設定条件記憶部14bに格納されている。
【0069】
また、抽出部15aは、第一の判定結果が否定判定であった箇所において、当該前記第一の判定処理にて用いられた地表標高の値を、領域情報記憶部14aが記憶する補正データ(図8の(D)参照)に基づいて補正したうえで、第一の判定処理を再実行する。
【0070】
ここで、抽出部15aは、再実行した第一の判定処理において肯定判定とした箇所に対しては、陥没する可能性の度合いを評価するための点数(例えば、2点)を加算する。なお、再実行した第一の判定処理の結果が肯定の場合に加算される点数は、設定条件記憶部14bにて記憶されている。
【0071】
続いて、抽出部15aは、地中構造物埋設周辺領域において、地中構造物上部の地盤にて固結度の異なる堆積物が接触する箇所であるか否かを判定する第二の判定処理を行なう。
【0072】
具体的には、抽出部15aは、図8の(A)で示した地中構造物基盤交差データを参照して、地中構造物が基盤と交差するか否かを、地中構造物埋設周辺領域の各箇所において判定する。
【0073】
ここで、抽出部15aは、第二の判定処理において肯定と判定とした箇所に対しては、陥没する可能性の度合いを評価するための点数(例えば、3点)を加算する。なお、第二の判定結果が肯定の場合に加算される点数は、設定条件記憶部14bにて記憶されている。
【0074】
以上が、第一の判定処理および第二の判定処理の具体的な例である。ここで、抽出部14aは、第一の判定処理および第二の判定処理の判定結果から陥没箇所を抽出してもよいが、本実施例では、抽出部15aは、陥没箇所をより精度よく抽出するために、以下に説明する第三〜第六の判定処理を実行する。
【0075】
まず、抽出部15aは、図7の(B)で示した基盤地質データを参照して判定対象箇所における基盤岩の種類を特定し、特定した基盤岩の種類から当該基盤に透水性があるか否かを判定する第三の判定処理を実行する。ここで、抽出部15aは、特定した種類の基盤岩が割れ目性岩盤である場合、より高い動水勾配が発生すると判定し、陥没する可能性の度合いを評価するための点数(例えば、2点)を加算する。なお、第三の判定結果が肯定の場合に加算される点数は、設定条件記憶部14bにて記憶されている。
【0076】
また、抽出部15aは、図5で示した領域情報の「地中構造物内湧き水の有無」を参照して、判定対象箇所における地中構造物内湧き水の有無を判定する第四の判定処理を実行する。ここで、抽出部15aは、「湧き水有」の場合、地中構造物に向かって地下水が実際に浸透している箇所であると判定して、陥没する可能性の度合いを評価するための点数(例えば、2点)を加算する。なお、第四の判定結果が肯定の場合に加算される点数は、設定条件記憶部14bにて記憶されている。
【0077】
第一の判定処理から第四の判定処理に至る判定結果が判明した時点で、抽出部15aは、判定対象箇所にて加算された点数を合計し、合計値が設定条件記憶部14bに予め格納されている「第一の設定値(例えば、7点)」より小さいならば、判定対象箇所を陥没が発生する可能性が低い「通常点検」箇所であるとして抽出する。
【0078】
一方、抽出部15aは、合計値が「第一の設定値(例えば、7点)」以上であるならば、判定対象箇所を陥没が発生する可能性が高い陥没箇所であるとして、第五の判定処理および第六の判定処理を継続して実行する。
【0079】
まず、抽出部15aは、図8の(B)で示した水みちデータを参照して、判定対象箇所に水みちがあるか否かを判定する第五の判定処理を実行する。ここで、抽出部15aは、「水みち有」の場合、陥没発生の可能性がより高くなると判定して、陥没する可能性の度合いを評価するための点数(例えば、4点)を加算する。なお、第五の判定結果が肯定の場合に加算される点数は、設定条件記憶部14bにて記憶されている。
【0080】
また、抽出部15aは、図8の(C)で示した集水設備データを参照して、判定対象箇所に集水設備があるか否かを判定する第六の判定処理を実行する。ここで、抽出部15aは、「集水設備有」の場合、陥没発生の可能性がさらに高くなると判定して、陥没する可能性の度合いを評価するための点数(例えば、4点)を加算する。なお、第六の判定結果が肯定の場合に加算される点数は、設定条件記憶部14bにて記憶されている。
【0081】
第六の判定処理の判定結果が判明した時点で、抽出部15aは、第五および第六の判定処理が実行された判定対象箇所にて加算された点数を合計し、合計値が設定条件記憶部14bに予め格納されている「第二の設定値(例えば、11点)」より小さいならば、判定対象箇所を、将来、陥没が発生する可能性が高い「経過観察」箇所であるとして抽出する。
【0082】
一方、抽出部15aは、合計値が「第二の設定値(例えば、11点)」以上であるならば、判定対象箇所を、近々に陥没が発生する可能性が高い「要観察」箇所であるとして抽出する。
【0083】
そして、抽出部15aは、抽出した「通常点検」箇所、「経過観察」箇所および「要観察」箇所を、抽出結果記憶部14cに格納するとともに、抽出結果を、出力部12のモニタに表示させる。
【0084】
例えば、抽出部15aは、図9に示すように、地中構造物埋設周辺領域における地形図と、「通常点検:黒塗り枠」、「経過観察:白抜き枠」および「要調査:斜線入り枠」といったように、陥没する可能性の度合いに応じて色分けされた地中構造物とを重畳させた抽出結果を、出力部12のモニタに表示させる。
【0085】
なお、上記した実施例では、第五の判定処理および第六の判定処理が、通常点検として抽出されなかった箇所に対して実行される場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものでななく、第一の判定処理から第六の判定処理までのすべての判定処理が、判定対象箇所すべてに対して実行される場合であってもよい。また、上述した判定処理の実行順は、利用者により任意に変更することが可能である。また、上述した第一および第二の判定処理以外の判定処理を実行するか否かは、利用者により任意に変更することが可能である。
【0086】
次に、図10を用いて、本実施例における陥没箇所抽出装置10の処理について説明する。図10は、本実施例における陥没箇所抽出装置の処理を説明するためのフローチャートである。なお、以下では、陥没箇所抽出装置10の利用者により、領域情報および各種設定値が領域情報記憶部14aおよび設定条件記憶部14bに格納されたのちの処理について説明する。
【0087】
図10に示すように、まず、本実施例における陥没箇所抽出装置10は、利用者から入力部11を介して陥没箇所抽出要求を受け付けると(ステップS101肯定)、抽出部15aは、判定対象箇所において、地下水と浸透水とが接触するか否かを判定する(ステップS102、第一の判定処理)。
【0088】
ここで、判定対象箇所において、地下水と浸透水とが接触すると判定した場合(ステップS102肯定)、抽出部15aは、加点を行なう(ステップS103)。
【0089】
一方、判定対象箇所において、地下水と浸透水とが接触しないと判定した場合(ステップS102否定)、抽出部15aは、毛細管現象による補正で、地下水と浸透水とが接触するか否かを判定する(ステップS104、第一の判定処理の再実行)。
【0090】
ここで、毛細管現象による補正で、地下水と浸透水とが接触すると判定した場合(ステップS104肯定)、抽出部15aは、加点を行なう(ステップS105)。
【0091】
一方、毛細管現象による補正で、地下水と浸透水とが接触しないと判定した場合(ステップS104否定)、抽出部15aは、地形補正で、地下水と浸透水とが接触するか否かを判定する(ステップS106、第一の判定処理の再実行)。
【0092】
ここで、地形補正で、地下水と浸透水とが接触すると判定した場合(ステップS106肯定)、抽出部15aは、加点を行なう(ステップS107)。
【0093】
一方、地形補正で、地下水と浸透水とが接触しないと判定した場合(ステップS106否定)、およびステップS103とステップS105との加点処理を行なったのち、抽出部15aは、判定対象箇所が地中構造物と基盤とが交差する箇所であるか否かの判定を行なう(ステップS108、第二の判定処理)。
【0094】
ここで、判定対象箇所が地中構造物と基盤とが交差する箇所である場合(ステップS108肯定)、抽出部15aは、加点を行なう(ステップS109)。
【0095】
一方、判定対象箇所が地中構造物と基盤とが交差しない箇所である場合(ステップS108否定)、および、ステップS109の加点処理ののち、抽出部15aは、判定対象箇所にある地中構造物上の基盤に透水性があるか否かの判定を行なう(ステップS110、第三の判定処理)。
【0096】
ここで、判定対象箇所の基盤に透水性がある場合(ステップS110肯定)、抽出部15aは、加点を行なう(ステップS111)。
【0097】
一方、判定対象箇所の基盤に透水性がない場合(ステップS110否定)、および、ステップS111の加点処理ののち、抽出部15aは、判定対象箇所にある地中構造物内に湧き水があるか否かの判定を行なう(ステップS112、第四の判定処理)。
【0098】
ここで、地中構造物内に湧き水がある場合(ステップS112肯定)、抽出部15aは、加点を行なう(ステップS113)。
【0099】
一方、地中構造物内に湧き水がない場合(ステップS112否定)、および、ステップS114の加点処理ののち、抽出部15aは、判定対象箇所における合計点を算出する(ステップS114)。
【0100】
そして、抽出部15aは、算出した合計点が第一の設定値以上であるか否かを判定し(ステップS115)、算出した合計点が第一の設定値より小さい場合(ステップS115否定)、判定対象箇所を通常点検箇所として抽出して(ステップS116)、処理を終了する。
【0101】
一方、算出した合計点が第一の設定値以上である場合(ステップS115肯定)、抽出部15aは、判定対象箇所に水みちがあるか否かを判定する(ステップS117、第五の判定処理)。
【0102】
ここで、判定対象箇所に水みちがある場合(ステップS117肯定)、抽出部15aは、加点を行なう(ステップS118)。
【0103】
一方、判定対象箇所に水みちがない場合(ステップS117否定)、および、ステップS118の加点処理ののち、抽出部15aは、判定対象箇所に集水設備があるか否かを判定する(ステップS119、第六の判定処理)。
【0104】
ここで、判定対象箇所に集水設備がある場合(ステップS119肯定)、抽出部15aは、加点を行なう(ステップS120)。
【0105】
一方、判定対象箇所に集水設備がない場合(ステップS119否定)、および、ステップS120の加点処理ののち、抽出部15aは、判定対象箇所における合計点を算出する(ステップS121)。
【0106】
そして、抽出部15aは、算出した合計点が第二の設定値以上であるか否かを判定し(ステップS122)、算出した合計点が第二の設定値より小さい場合(ステップS122否定)、判定対象箇所を経過観察箇所として抽出して(ステップS124)、処理を終了する。
【0107】
一方、算出した合計点が第二の設定値以上である場合(ステップS122肯定)、抽出部15aは、判定対象箇所を要調査箇所として抽出して(ステップS123)、処理を終了する。そして、本実施例における陥没箇所抽出装置10は、図10で説明した処理を、地中構造物埋設周辺領域の判定対象箇所ごとに実行し、すべての判定対象箇所にて処理を実行すると、抽出結果を抽出結果記憶部14cに格納する。
【0108】
上記したように、本実施例によれば、抽出部15aは、利用者により領域情報記憶部14aおよび設定条件記憶部14bに格納された領域情報および各種設定値を用いて、地中構造物埋設周辺領域の判定対象箇所において、地下水と浸透水とが接触するか否かを判定する第一の判定処理および判定対象箇所が地中構造物と基盤とが交差する箇所であるか否かの第二の判定処理を行なう。また、抽出部15aは、第一の判定結果が否定であった箇所について、毛細管現象による補正および地形補正を行なったのち、第一の判定処理を再実行する。
【0109】
また、抽出部15aは、判定対象箇所にある地中構造物上の基盤に透水性があるか否かを判定する第三の判定処理、判定対象箇所にある地中構造物内に湧き水があるか否かの判定を行なう第四の判定処理、判定対象箇所に水みちがあるか否かを判定する第五の判定処理および判定対象箇所に集水設備があるか否かを判定する第六の判定処理を実行する。そして、抽出部15aは、各判定処理の判定結果に応じて、陥没する可能性の度合いを示す点数を順次加算することで合計点数を算出し、当該算出した合計点数と所定の設定値とを比較することで、陥没の発生する度合いが分類された箇所(陥没箇所)を抽出する。
【0110】
したがって、従来、原因とされていた浅所陥没ではなく、パイピングを素因として陥没が発生する可能性のある陥没箇所を抽出することができ、地中構造物上部地盤において、地中構造物の変状を伴わない地盤陥没が発生する可能性のある箇所を抽出することが可能となる。さらに、陥没の発生する可能性の度合いも抽出することができ、陥没箇所での再発防止や、陥没箇所に隣接し第三者被害が発生する可能性の高い箇所への予防策のための抜本的な対策工を実行することが可能となる。
【0111】
なお、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上のように、本発明に係る陥没箇所抽出装置および陥没箇所抽出プログラムは、陥没が発生する可能性のある箇所を抽出する場合に有用であり、特に、地中構造物上部地盤において、地中構造物の変状を伴わない地盤陥没が発生する可能性のある箇所を抽出することに適する。
【符号の説明】
【0113】
10 陥没箇所抽出装置
11 入力部
12 出力部
13 入出力制御I/F部
14 記憶部
14a 領域情報記憶部
14b 設定条件記憶部
14c 抽出結果記憶部
15 処理部
15a 抽出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中構造物が埋設される領域が含まれる所定の領域の地理学的情報、地形学的情報および地質学的情報と、前記地中構造物の情報とからなる領域情報を記憶する領域情報記憶手段と、
前記地中構造物上部の地盤が地下水および浸透水により飽和状態または飽和状態に近い状態となり、前記地中構造物上部の地盤と前記地中構造物内部との間で動水勾配が生じる可能性がある箇所であるか否かを判定する第一の判定処理と、前記地中構造物上部の地盤にて固結度の異なる堆積物が接触する箇所であるか否かを判定する第二の判定処理とを、前記領域情報記憶手段が記憶する前記領域情報に基づいて実行し、前記第一の判定処理および前記第二の判定処理の判定結果に基づいて前記地中構造物上部の地表面が陥没する可能性のある陥没箇所を抽出する抽出手段と、
を備えたことを特徴とする陥没箇所抽出装置。
【請求項2】
前記領域情報記憶手段は、前記地理学的情報として、前記所定の領域における降雨量情報を記憶し、前記地中構造物の情報として、前記所定の領域における前記地中構造物が埋設されている位置の情報である埋設位置情報および当該地中構造物の標高を記憶し、前記地形学的情報として、地形図から特定される前記所定の領域の地表標高、前記所定の領域における集水域、前記所定の領域における未固結堆積物分布域および前記未固結堆積物分布域にある基盤の深さを記憶し、前記地質学的情報として、地質図から特定される前記未固結堆積物分布域にある未固結堆積物の種類を記憶し、
前記抽出手段は、前記領域情報を参照して前記所定の領域にて特定される地中構造物埋設周辺領域の各箇所を判定対象箇所とし、
前記地表標高と、前記未固結堆積物の種類から推定される浸透水の浸透深さと、前記集水域にある未固結堆積物分布域の面積、前記集水域にある地中構造物が存在する位置での当該集水域の幅、前記未固結堆積物の種類および前記降雨量情報から推定される地下水位上昇量とを用いて、前記基盤の深さと前記降雨量情報とから推定される水位にある地下水と前記集水域の地表から降雨により浸透する浸透水とが接触するか否かを各判定対象箇所において判定することにより前記第一の判定処理を実行し、
前記地中構造物の標高および前記基盤の深さを用いて、前記地中構造物が前記基盤と交差するか否かを各判定対象箇所において判定することにより前記第二の判定処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の陥没箇所抽出装置。
【請求項3】
前記抽出手段は、前記第一の判定処理により地下水と浸透水とが接触しないと判定された判定対象箇所において、当該前記第一の判定処理にて用いられた地下水位上昇量を前記未固結堆積物の種類から推定される毛細管現象による地下水の上昇量を加算して補正したうえで、および/または、当該前記第一の判定処理にて用いられた地表標高の値を、推定元である地形図の距離分解能に応じて補正したうえで、前記第一の判定処理を再実行し、前記第一の判定処理、再実行された前記第一の判定処理および前記第二の判定処理の判定結果に基づいて、前記陥没箇所を抽出することを特徴とする請求項2に記載の陥没箇所抽出装置。
【請求項4】
前記領域情報記憶手段は、前記地質学的情報として、前記地質図から推定される前記未固結堆積物分布域における基盤の種類と、前記地中構造物の情報として、前記地中構造物内における湧き水の発生の有無とをさらに記憶し、
前記抽出手段は、前記第一の判定処理および前記第二の判定処理とともに、前記領域情報を参照して、前記基盤の種類から当該基盤に透水性があるか否かを各判定対象箇所において判定する第三の判定処理と、前記地中構造物内における湧き水の発生の有無を各判定対象箇所において判定する第四の判定処理とをさらに実行し、既に判定されている判定結果と前記第三の判定処理および前記第四の判定処理の判定結果とに基づいて、前記陥没箇所を抽出することを特徴とする請求項2に記載の陥没箇所抽出装置。
【請求項5】
前記領域情報記憶手段は、前記所定の領域における水みちの情報と前記所定の領域の地表にある集水施設の情報とを前記領域情報としてさらに記憶し、
前記抽出手段は、前記領域情報を参照して、水みちがあるか否かを各判定対象箇所において判定する第五の判定処理と、集水施設があるか否かを各判定対象箇所において判定する第六の判定処理とをさらに実行し、既に判定されている判定結果と前記第五の判定処理および前記第六の判定処理の結果とに基づいて、前記陥没箇所を抽出することを特徴とする請求項4に記載の陥没箇所抽出装置。
【請求項6】
前記抽出手段は、各判定処理の判定結果に応じて、陥没する可能性の度合いを示す点数を順次加算することで合計点数を算出し、当該算出した合計点数と所定の設定点数とを比較することで、各判定対象箇所にて地表面が陥没する可能性の度合いを分類することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の陥没箇所抽出装置。
【請求項7】
地中構造物が埋設される領域が含まれる所定の領域の地理学的情報、地形学的情報および地質学的情報と、前記地中構造物の情報とからなる領域情報を所定の記憶部に格納する領域情報格納手順と、
前記地中構造物上部の地盤が地下水および浸透水により飽和状態または飽和状態に近い状態となり、前記地中構造物上部の地盤と前記地中構造物内部との間で動水勾配が生じる可能性がある箇所であるか否かを判定する第一の判定処理と、前記地中構造物上部の地盤にて固結度の異なる堆積物が接触する箇所であるか否かを判定する第二の判定処理とを、前記所定の記憶部が記憶する前記領域情報に基づいて実行し、前記第一の判定処理および前記第二の判定処理の判定結果に基づいて前記地中構造物上部の地表面が陥没する可能性のある陥没箇所を抽出する抽出手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする陥没箇所抽出プログラム。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−52399(P2011−52399A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200453(P2009−200453)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【Fターム(参考)】