説明

陰イオン交換樹脂を含む医薬組成物

【課題】 陰イオン交換樹脂を有効成分として含む医薬組成物であって、服用時における樹脂の吸水膨潤によるざらつきが抑制されており、服用時、嚥下時、及び嚥下後の口腔内ないし食道内の粘膜付着による違和感、不快感、及び残留感が抑制された医薬組成物を提供する。
【解決手段】 陰イオン交換樹脂を含む医薬組成物であって、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤抑制剤(例えば増粘剤ないしゲル化剤、塩類、及び糖類からなる群から選ばれる1種以上の物質)を含み、吸水した陰イオン交換樹脂の口腔内でのざらつき感が軽減され、及び/又は口腔内粘膜への付着が抑制され、服用感が改善された医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換樹脂を含む医薬組成物において、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤を抑制することにより、ざらつきや粘膜付着の発現を抑制し、服用感を改善した医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
経口製剤の剤形としては、通常、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、又は散剤などが選択されている。有効成分が高分子であるイオン交換樹脂の場合にも、経口製剤の剤形として同様に錠剤や顆粒剤などが選択されてきた。しかしながら、イオン交換樹脂を有効成分とする製剤では一般的に高用量が必要であり、製剤が嵩高くなって服用しづらくなるという問題がある。また、この製剤では、水との接触により速やかに吸水膨潤が起こり、口腔内のざらつき感や粘膜付着が生じる。このため、服用時、嚥下時、及び嚥下後に、口腔内から食道内にかけての違和感、不快感、及び残留感が大きいという欠点もある。
【0003】
このような問題を解決するための手段として、イオン交換樹脂を有効成分とする製剤について、国際公開WO98/58654号には内服用ゲル状組成物が開示されており、特開2001−181212号公報には耐熱性ゲル状経口組成物が開示されている。これらの組成物では、あらかじめ製剤をゲル化しておくことにより、製剤自体は嵩高くなるものの、口腔内に含んだ製剤が柔らかく感じられるという特徴がある。この理由から、これらの製剤は、錠剤や顆粒剤のような従来の製剤よりも服用時に嵩高さが減少しているような感じを与える。また、これらの製剤は流動性及び崩壊性も備えていることから、嚥下に必要な力が少なくて済むなど服用感がある程度改善されている。
【0004】
しかしながら、これらの組成物といえども、ざらつきや粘膜付着が十分に抑制されているわけではなく、服用時、嚥下時、及び嚥下後における口腔内ないし食道内での違和感、不快感、及び残留感が依然として大きいという問題を有している。なお、陽イオン交換樹脂についてはゲル化剤であるペクチンとの相互作用により服用感が改善されると考えられるものの、このゲル化剤では陰イオン交換樹脂のざらつきや粘膜付着を十分に抑制することはできず、さらなる服用感の改善が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、陰イオン交換樹脂を有効成分として含む医薬組成物であって、服用時における樹脂の吸水膨潤によるざらつきが抑制されており、服用時、嚥下時、及び嚥下後の口腔内ないし食道内の粘膜付着による違和感、不快感、及び残留感が抑制された医薬組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、増粘剤ないしゲル化剤、塩類、及び糖類からなる群から選ばれる1以上の物質を陰イオン交換樹脂に添加することにより、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤を抑制できることを見出した。本発明者らはこの知見を基にしてさらに研究を続け、吸水膨潤した際の陰イオン交換樹脂の粒径とざらつきとの関係を検討し、粘膜付着性についてもモデルを作製して評価した。その結果、吸水膨潤を抑制することにより、ざらつき及び粘膜付着を軽減ないし排除することができ、服用感が顕著に改善された陰イオン交換樹脂組成物を提供できることを見出した。また、この組成物が用時懸濁型の製剤として極めて優れた性質を有していることも見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0007】
すなわち、本発明により、陰イオン交換樹脂を含む医薬組成物であって、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤抑制剤を含み、服用感が改善された医薬組成物が提供される。本発明によれば、上記医薬組成物の服用感の改善は、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤が抑制される結果、陰イオン交換樹脂の口腔内でのざらつき感が軽減され、及び/又は口腔内粘膜への付着が抑制されることにより達成される。
【0008】
上記発明の好ましい態様によれば、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤を抑制し、かつそれにより陰イオン交換樹脂の口腔内でのざらつき感を軽減し、及び/又は口腔内粘膜への付着を抑制するために十分な量の吸水膨潤抑制剤を含む上記の医薬組成物;吸水膨潤抑制剤が増粘剤ないしゲル化剤、塩類、及び糖類からなる群から選ばれる1種以上の物質を含む上記の医薬組成物;及び陰イオン交換樹脂の粒径が200μm以下となるように吸水膨潤が抑制された上記の医薬組成物が提供される。また、上記発明のさらに好ましい態様によれば、陰イオン交換樹脂が、コレスチミド、コレスチラミン、コレスチポール、塩酸セベレマー、又は塩酸コレセベラムである上記の医薬組成物;及び用時懸濁型の製剤である上記の医薬組成物が提供される。
【0009】
別の観点からは、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤抑制剤であって、増粘剤ないしゲル化剤、塩類、及び糖類からなる群から選ばれる1種以上の物質を含む抑制剤が本発明により提供される。この発明の好ましい態様によれば、陰イオン交換樹脂を含む医薬組成物の服用感を改善するために用いる上記の抑制剤;服用感の改善が陰イオン交換樹脂の口腔内でのざらつき感の軽減及び/又は口腔内粘膜への付着の抑制である上記の抑制剤;及び陰イオン交換樹脂が、コレスチミド、コレスチラミン、コレスチポール、塩酸セベレマー、又は塩酸コレセベラムである上記の抑制剤が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、陰イオン交換樹脂を含む医薬組成物であって、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤が顕著に抑制されており、それにより陰イオン交換樹脂の口腔内でのざらつき感が軽減され、及び/又は口腔内粘膜への付着が抑制された医薬組成物が提供される。本発明の医薬組成物は服用感が顕著に改善されていることから、服用時、嚥下時、及び嚥下後の違和感、不快感、及び残留感が軽減されており、用時懸濁型の製剤として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において用いられる陰イオン交換樹脂の種類は特に限定されず、医薬品又は食品などに利用可能であり、かつ服用可能な陰イオン交換樹脂であればいかなる陰イオン交換樹脂を用いることもできる。陰イオン交換樹脂として、例えば、コレスチミド、コレスチラミン、コレスチポール、塩酸セベラマー、および塩酸コレセベラムなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0012】
なかでも、コレスチミド(2−メチルイミダゾール−エピクロロヒドリン共重合体)は最も好ましい陰イオン交換樹脂として挙げられる。コレスチミドは、不規則に入り乱れた複雑な立体構造を有するが、下記式(I)の基本構造で示され、また、その構造は部分的には下記式(II)で示され、エピクロロヒドリン誘導体とイミダゾール誘導体に代表されるアミン類の重合反応(例えば特開昭60−209523号公報に記載の製造方法)によって得ることができる。コレスチミドは、JANでは一般名colestimide (化学名:2-methylimidazole-epichlorohydrin copolymer)として登録されているが、INNでは一般名colestilan(化学名:2-methylimidazole polymer with 1-chloro-2,3-epoxypropane)として登録されている。
【0013】
【化1】

【0014】
コレスチポールは、(クロロメチル)オキシランを付加したN-(2−アミノエチル)−N'−[2−[(2−アミノ−エチル)アミノ]エチル]−1,2−エタンジアミン重合体で、シグマ社から市販されている。
コレスチラミンは4級アンモニウム基を付加したスチレン−ジビニルベンゼン共重合体を含む強塩基性陰イオン交換樹脂で、その基本構造は下記式(III)で表される。
【化2】

【0015】
塩酸セベラマーの基本構造は下記式で表され、米国特許第5496545号公報に記載の方法、またはそれに準ずる方法により製造することができる。
【化3】

【0016】
塩酸コレセベラムの基本構造は下記式で表され、米国特許第5607669号公報に記載の方法、またはそれに準ずる方法により製造することができる。
【化4】

【0017】
本発明の医薬組成物は、陰イオン交換樹脂を含む組成物であって、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤抑制剤を含むことを特徴としている。本発明の医薬組成物は、陰イオン交換樹脂の口腔内での吸水膨潤が抑制されており、それによりイオン交換樹脂の口腔内でのざらつき感が軽減され、及び/又は口腔内粘膜への付着が抑制される結果、服用感が顕著に改善されている。本発明の医薬組成物において、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤抑制剤としては、陰イオン交換樹脂の口腔内での吸水膨潤を抑制することができ、それによりイオン交換樹脂の口腔内でのざらつき感を軽減でき、及び/又は口腔内粘膜への付着を抑制できるものであれば、その種類は特に限定されない。好ましくは、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤抑制剤として、増粘剤ないしゲル化剤、塩類、及び糖類からなる群から選ばれる1種以上の物質を用いることができるが、これらに限定されることはない。
【0018】
陰イオン交換樹脂の吸水膨潤に関して、陰イオン交換樹脂としてコレスチミドを用いる場合について説明すると、コレスチミドは精製水中では240μmまで膨潤するが、本発明の医薬組成物では、用時調製された水性懸濁液中又は口腔内において吸水膨潤後の粒径が200μm以下に抑制されていることが好ましい。吸水膨潤の程度は、例えば、顕微鏡法により容易に確認することができる。吸水膨潤後の陰イオン交換樹脂の粒径が150μm以下となるように吸水膨潤が抑制されていることがさらに好ましい。また、例えば、本発明の医薬組成物を吸水膨潤させた場合には、有効成分である陰イオン交換樹脂を精製水中で吸水膨潤させた場合に比べて、粒径の増加率が20%ないし40%程度抑制されていることが好ましい。本発明の医薬組成物では、このように陰イオン交換樹脂の吸水膨潤を抑制することにより、口腔内でのイオン交換樹脂のざらつき感を軽減でき、及び/又は口腔内粘膜への付着を抑制でき、その結果、服用時、嚥下時、及び嚥下後の違和感、不快感、及び残留感が顕著に改善されている。もっとも、本発明の医薬組成物では、吸水膨潤後のコレスチミドの粒径が粒径150μm又は200μmを越える場合であっても、口腔内でのイオン交換樹脂のざらつき感を軽減でき、及び/又は口腔内粘膜への付着を抑制できる場合があるので、上記の説明は単なる例示として理解しなければならない。
【0019】
陰イオン交換樹脂の吸水膨潤抑制剤として、好ましくは、増粘剤ないしゲル化剤、塩類、及び糖類からなる群から選ばれる1種以上の物質を用いることができる。
増粘剤ないしゲル化剤の種類は特に限定されず、経口投与可能な医薬品又は食品の製造に利用可能なものであればいかなるものを用いてもよい。本明細書において「増粘剤ないしゲル化剤」という用語は、増粘剤及び/又はゲル化剤として通常用いられる物質を意味している。例えば、増粘剤として医薬の製造に利用可能な物質が食品の分野においてゲル化剤として用いられることがある。従って、上記の用語は、このように同一又は異なる技術分野において片方又は両方の用途に用いられる物質を包含するものとして解釈すべきである。
【0020】
増粘剤ないしゲル化剤としては、例えば、寒天、ゼラチン、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、カラギーナン、キサンタンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、フェヌグリークガム、カードラン、タマリンドガム、グルコマンナン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、CMC−Na)、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、プルラン、アラビアガム、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
【0021】
塩類の種類は特に限定されず、生理学的に許容可能な塩類であれば無機塩類又は有機塩類のいずれであってもよい。好ましくは無機塩類を用いることができる。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸1水素2ナトリウム、又はリン酸1水素2カリウムなどが挙げられる。
【0022】
糖類の種類は特に限定されず、医薬品や食品などの製造や食品添加物などに用いられるものであればいかなるものを用いてもよい。糖類としては、例えば、フラクトース、グルコース、ガラクトース、ソルビトール、マンニトール、キシロース、キシリトール、エリスリトールなどの単糖類、シュクロース、マルトース、ラクトース、イソマルトース、トレハロース、マルチトール、ラクチトール、パラチノース、ラクツロース、パラチニットなどの2糖類、直鎖オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、マルトテトラオース、マルトペンタオース、大豆オリゴ糖、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖などのオリゴ糖、水飴、還元水飴、カップリングシュガーなどの糖類、デキストリン、又はポリデキストロースなどの多糖類が挙げられる。
【0023】
本発明の医薬組成物において、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤抑制剤の添加量は、使用する陰イオン交換樹脂の種類や製剤の使用形態などに応じて適宜選択可能であり、特に制限されないが、例えば、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤を抑制し、かつそれにより陰イオン交換樹脂の口腔内でのざらつき感を軽減し、及び/又は口腔内粘膜への付着を抑制するために十分な量の吸水膨潤抑制剤を添加することが好ましい。このような添加量は、本明細書の実施例に記載された評価方法を参照することにより、当業者が適宜選択可能である。
【0024】
本発明の医薬組成物は、通常用いられる製剤の形態の医薬組成物として調製することができる。このようにして提供される製剤の形態の医薬組成物は、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤抑制剤のほか、医薬の製造に通常用いられる製剤用添加物を1種又は2種以上含んでいてもよい。製剤用添加物の種類は特に限定されないが、例えば、基剤、溶剤、分散剤、着色剤、香味剤、甘味剤、粘稠剤、湿潤剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤などが挙げられる。
【0025】
本発明の医薬組成物の形態は特に限定されず、例えば、乾燥状態の固形製剤のほか、水性若しくは油性懸濁状又は半固形状の形態の製剤であってもよい。固形製剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、又はドライシロップ剤などを挙げることができる。水性又は油性懸濁状態の製剤としては、シロップ剤などを挙げることができ、半固形状態の製剤としては、例えば、ゼリー剤などを挙げることができる。
【0026】
水性又は油性懸濁状態の製剤あるいは半固形状態の製剤の調製には、例えば、ソルビトール、シロップなどの基剤、メチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの粘稠剤、ステアリン酸アルミニウムゲル、水素化食用脂肪、レシチン、ソルビタンモノオレエート、アラビアゴムなどの乳化剤、アーモンド油、精留ココナッツ油、グリセリンエステルなどの油状エステル、プロピレングリコール、エチルアルコールなどの(食用油も包含し得る)非水性溶解剤、p−ヒドロキシ安息香酸のメチルエステル、エチルエステルもしくはプロピルエステル、またはソルビン酸などの保存剤、および必要に応じて通常の香味剤または着色剤などを配合することができる。水性又は油性懸濁状態の製剤あるいは半固形状態の製剤は、例えば、溶解、懸濁、乳化、加熱、混合、充填、又は滅菌などの1又は2以上の工程を含む方法により調製することができ、これらの工程には通常の製造機器を適宜用いることができる。
【0027】
本発明の医薬組成物は、使用時に水又は適当な水性媒体に懸濁して投与する固形剤の形態をとっていてもよい。このような用時調製型の製剤は本発明の医薬組成物の好ましい形態である。このような用時調製型の固形剤の調製には、例えば、ラクトース、マンニトールなどの賦形剤、ポリビニルポリピロリドン、カルボキシメチルスターチナトリウムなどの崩壊剤、ヒドロキシプロピルセルロースなどの結合剤、結晶セルロース、CMC−Naなどの分散剤、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのコーティング剤などを用いることができる。上記の用時調製型の製剤を含む固形製剤は、例えば、溶解、懸濁、乳化、加熱、混合、充填、又は滅菌などの1又は2以上の工程を含む方法により調製することができ、これらの工程には通常の製造機器を適宜用いることができる。
【0028】
本発明の医薬組成物の投与量は特に限定されず、使用する陰イオン交換樹脂の種類、患者の年齢、健康状態、体重、及び疾患の重篤度などに応じて、並びに同時に行う治療や処置の種類又は頻度、及び所望の効果の性質などに応じて適宜決定すればよい。一般的には、陰イオン交換樹脂としてコレスチミドを用いる場合には、成人1日あたりの投与量は有効成分量として1〜60gであり、この投与量を1日あたり1回ないしは数回投与すればよい。
【0029】
また、本発明の医薬組成物を含む食品を調製することもできる。例えば、いわゆる健康食品の形態で提供される食品(例えばドリンクやゼリーなど)のほか、食品としての製菓(例えばキャンディー、ビスケット、米菓、チョコレートなど)やジャム類、麺類、パン類など多様な食品を用いて、本発明の医薬組成物を含む食品を調製することができる。例えば、麺類のうちうどんなどは食塩水を用いて捏ね上げ独特の腰とつるみを出すことができるので、本発明の医薬組成物を含む食品を調製するための好適な材料である。また、例えば、キャンディーなどの菓子類などは、シュークロース、グルコースなどの糖類を多く含んでいるので、これらも本発明の医薬組成物を含む食品を調製するための好適な対象である。上記のうどんやキャンディーなどのように、塩類や糖類があらかじめ含まれている食品を用いて本発明の医薬組成物を含む食品を製造する場合には、陰イオン交換樹脂のみを食品に添加すればよい場合もあるが、あらかじめ本発明の医薬組成物を調製しておき、その組成物を食品に添加してもよい。香味剤など適宜の添加物の使用により、たとえばすりおろしりんご味に仕立てることにより、ざらつきを果肉食感に変えて食品の服用感を改善することも可能である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
以下の実施例で用いたコレスチミドは、特開昭60−209523号公報に記載の製造方法に準じて製造された前述の構造を有するコレスチミドであり、その平均粒径は80μm(粒度分布測定器)である。
実施例1
コレスチミド5.0g、各種塩類0.1、0.5、1.0gを適量の精製水に懸濁ないし溶解し、コレスチミド懸濁剤100gを調製した。25℃で24時間放置し、グラスウール濾過により膨潤した樹脂を分離し、濾液の重量を測定した。なお、対照として精製水のみによる懸濁剤の濾液の重量も測定した。
結果を図1に示す。コレスチミドの吸水量は、精製水中では14gであったが、各種塩類の添加により、濃度依存的に9gまで吸水量を抑制することができた。
【0031】
実施例2
コレスチミド1.5g、各種増粘剤0.2、0.5、1.0、及び1.5gを適量の精製水に懸濁ないし溶解し、コレスチミド懸濁剤100gを調製した。37℃で30分放置し、グラスウール濾過により膨潤した樹脂を分離し、顕微鏡法により粒径を測定した。対照として精製水のみによる懸濁剤の樹脂粒径も測定した。結果を図2に示す。コレスチミドの粒径は精製水中では膨潤により240μmにまで増加したが、各種増粘剤の添加により濃度依存的に粒径70μmまで膨潤抑制することができた。
【0032】
実施例3
コレスチミド1.5g、各種塩類0.1、0.5、及び1.0gを適量の精製水に懸濁ないし溶解し、コレスチミド懸濁剤100gを調製した。37℃で30分放置し、グラスウール濾過により膨潤した樹脂を分離し、顕微鏡法により粒径を測定した。対照として精製水のみによる懸濁剤の樹脂粒径も測定した。結果を図3に示す。コレスチミドの粒径は精製水中では膨潤により240μmにまで増加したが、各種塩類の添加により濃度依存的に80μmまで膨潤抑制することができた。
【0033】
実施例4
コレスチミド1.5g、シュクロース20、30、40、50、及び70gを適量の精製水に懸濁ないし溶解し、コレスチミド懸濁剤100gを調製した。37℃で30分放置し、グラスウール濾過により膨潤した樹脂を分離し、顕微鏡法により粒径を測定した。対照として精製水のみによる懸濁剤の樹脂粒径も測定した。また、コレスチミド原末1.5g、CMC−Na0.9g、グルコース6.7g、無水クエン酸0.06gを混合し、用時懸濁型の散剤(インスタント粉末ドリンク)を調製した。この散剤を100mLの精製水に懸濁した時の樹脂粒径も同様に測定した。結果を図4に示す。コレスチミドの粒径は精製水中では膨潤により240μmにまで増加したが、シュクロースの添加により濃度依存的に130μmまで膨潤抑制することができた。また、散剤の用時懸濁液においても140μmに膨潤抑制することができた。
【0034】
実施例5:
コレスチミド1.5g、グルコース3.3g、デキストリン2.6g、および各種濃度の各種増粘剤を適量の精製水に懸濁ないし溶解し、コレスチミド懸濁剤100gを調製した。37℃で30分放置し、グラスウール濾過により膨潤した樹脂を分離し、顕微鏡法により粒径を測定した。対照として精製水のみによる懸濁剤の樹脂粒径も測定した。結果を図5に示す。コレスチミド原末の粒径は、精製水中では膨潤により240μmにまで増加したが、増粘剤及び糖類の添加により、増粘剤濃度依存的に80μmまで膨潤抑制することができた。
【0035】
実施例6
コレスチミド1.5g、グルコース3.3g、デキストリン2.6g、クエン酸0.2g、及びカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)それぞれ0.1、0.3、0.5、0.7、0.9、又は1.1gを混合し、6種類の散剤を調製した。この散剤をそれぞれ100mLの精製水に懸濁し、その直後と30分後の粘度を測定温度20℃でB型粘度計(東機産業社製、2号ローター使用)を用いて測定した。結果を図6に示す。CMC−Na0.5%から0.7%以上で粘性が発現し、懸濁直後から30分後にかけて粘度が数倍に増加した。この結果から、上記散剤を用時に水性媒体に懸濁した後、速やかに服用することにより、低粘度の状態で、かつ膨潤が抑制された状態で服用することができ、より服用感を改善できることが示された。
【0036】
実施例7
コレスチミド1.5g、各種増粘剤0.5gを適量の精製水に懸濁ないし溶解し、コレスチミド懸濁剤100gを調製した。37℃で30分放置し、この懸濁剤をコラーゲン処理をほどこした直径5cm,高さ1.2cmのプラスティックシャーレに流し込み、その後液を排出し、シャーレに付着した樹脂の重量を測定した。対照として精製水のみによる懸濁剤の付着も測定した。結果を図7に示す。精製水のみの場合と比べて、各種増粘剤を添加することにより付着性は半分以下に減少した。実施例2によれば0.5%CMC−Na懸濁液中の樹脂粒径は160μmであり、この程度まで膨潤抑制できれば粘膜付着を抑制できることが示された。
【0037】
実施例8
コレスチミド1.5g、CMC−Naそれぞれ0(無添加)、0.5、0.7、0.9、又は1.1gを精製水に懸濁ないし溶解し、100gのコレスチミド懸濁剤を調製した。この懸濁剤をパネラー10名に服用させ、その際の服用感を次の6段階に分けて評価した。
点数5:ざらつき感が全くなく服用しやすい
4:ごくわずかざらつき感があるが問題なく服用できる
3:多少ざらつき感があるが問題なく服用できる
2:ざらつき感があるが服用できる
1:ざらつき感があり服用しにくい
0:ざらつき感が激しく服用できない
結果を図8に示す。CMC−Na濃度0.7%以上で服用感が改善された。これは、実施例2によれば、コレスチミドの粒径が150μm以下になる濃度であり、樹脂粒径が150μm以下となるように膨潤を抑制することで服用感を改善できることが示された。
【0038】
実施例9
コレスチミド1.5g、エリスリトール2.5g、グルコース9.0g、塩化ナトリウム0.11g、寒天0.20g、及びキサンタンガム0.10gを適量の精製水に懸濁ないし溶解し、容器に充填し、加熱してゼリー剤50gを調製した。このゼリー剤のコレスチミドの粒径を顕微鏡法により測定すると190μmであり、服用感は良好であった。
【0039】
実施例10
コレスチミド原末1.5g、エリスリトール2.5g、グルコース10.0g、塩化ナトリウム0.15g、寒天0.15g、及びCMC−Na0.10gを適量の精製水に懸濁ないし溶解し、容器に充填し、加熱してゼリー剤50gを調製した。このゼリー剤のコレスチミドの粒径を顕微鏡法により測定すると185μmであり、服用感は良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】塩類を添加した懸濁剤においてコレスチミドの吸水量が抑制された結果を示した図である。
【図2】増粘剤を添加した懸濁剤においてコレスチミド樹脂の吸水膨潤が抑制された結果を示した図である。
【図3】塩類を添加した懸濁剤においてコレスチミド樹脂の吸水膨潤が抑制された結果を示した図である。
【図4】糖類を添加した懸濁剤及び散剤から用時調製した懸濁剤においてコレスチミド樹脂の吸水膨潤が抑制された結果を示した図である。
【図5】増粘剤及び糖類を添加した懸濁剤においてコレスチミド樹脂の吸水膨潤が抑制された結果を示した図である。
【図6】散剤から用時調製した懸濁剤における粘度発現を示した図である。
【図7】増粘剤を添加した懸濁剤における樹脂の付着抑制を示す図である。
【図8】増粘剤を添加した懸濁剤の官能試験の結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン交換樹脂を含む医薬組成物であって、陰イオン交換樹脂の吸水膨潤抑制剤を含み、服用感が改善された医薬組成物。
【請求項2】
陰イオン交換樹脂の吸水膨潤を抑制し、かつそれにより陰イオン交換樹脂の口腔内でのざらつき感を軽減するために、及び/又は口腔内粘膜への付着を抑制するために十分な量の吸水膨潤抑制剤を含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
吸水膨潤抑制剤が増粘剤ないしゲル化剤、塩類、及び糖類からなる群から選ばれる1種以上の物質を含む請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
陰イオン交換樹脂の粒径が200μm以下となるように吸水膨潤が抑制された請求項1ないし3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
陰イオン交換樹脂が、コレスチミド、コレスチラミン、コレスチポール、塩酸セベレマー、又は塩酸コレセベラムである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
用時懸濁型の製剤である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
陰イオン交換樹脂の吸水膨潤抑制剤であって、増粘剤ないしゲル化剤、塩類、及び糖類からなる群から選ばれる1種以上の物質を含む抑制剤。
【請求項8】
陰イオン交換樹脂を含む医薬組成物の服用感を改善するために用いる上記の抑制剤。
【請求項9】
服用感の改善が陰イオン交換樹脂の口腔内でのざらつき感の軽減及び/又は口腔内粘膜への付着の抑制である請求項7又は8に記載の抑制剤。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−8637(P2006−8637A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191446(P2004−191446)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】