説明

陰イオン交換膜、遷移金属酸化物粒子およびそれらの製造方法

【課題】 陰イオン交換膜型燃料電池の電解質として用いても過酸化物による劣化を防止することができる、過酸化物に対する耐酸化性に優れた高耐久性陰イオン交換膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子を含有することを特徴とする陰イオン交換膜、ならびに、硫酸で処理した後、さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理して得られたものであることを特徴とする、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子、およびそれらの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換膜に関し、さらに詳しくは、固体高分子電解質形燃料電池の電解質に好適に用いられる耐酸化性に優れた高耐久性陰イオン交換膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質形燃料電池は、イオン交換樹脂等の固体高分子を電解質として用いた燃料電池であり、動作温度が比較的低いという特徴を有する。
【0003】
該固体高分子形燃料電池は、図1に示されるように、それぞれ外部と連通する燃料流通孔2および酸化剤流通孔3を有する電池隔壁1内の空間を、電解質8の両面にそれぞれ燃料側電極触媒層4と燃料側ガス拡散電極6、酸化剤側電極触媒層5と酸化剤側ガス拡散電極7が接合した膜電極接合体で仕切って形成された基本構造を有している。そして、このような基本構造の固体高分子電解質形燃料電池では、燃料流通孔2を通して水素ガスあるいはメタノール等からなる燃料を供給すると共に酸化剤流通孔3を通して酸化剤となる酸素や空気等の酸素含有ガスを供給し、更に両ガス拡散電極6、7間に外部負荷回路を接続することにより電気エネルギーを発生させている。
【0004】
これまでは、電解質8として陽イオン交換型電解質膜(以下、陽イオン交換膜ともいう)を使用した陽イオン交換膜型燃料電池の研究・開発が活発に行われてきたが、近年は電解質8として陰イオン交換型電解質膜(以下、陰イオン交換膜ともいう)を使用した陰イオン交換膜型燃料電池が提案されている。陰イオン交換膜型燃料電池では、水酸イオンが電解質8内を伝導して、酸化剤流通孔3側から燃料流通孔2側に移動する。即ち、燃料流通孔2に水素あるいはメタノール水溶液などの液体燃料を供給し、酸化剤流通孔3に酸素および水を供給すると、酸化剤側電極触媒層5において該電極内に含まれる触媒と酸素および水とが接触することにより水酸イオンが生成し、生成した水酸イオンが電解質8内を伝導して燃料流通孔2側に移動し、燃料側電極触媒層4で燃料と反応して水を生成する。また、燃料側電極触媒層4において水と同時に電子が生成し、生成した電子は外部負荷回路を通じて酸化剤側電極触媒層5へと移動する。
【0005】
このような陰イオン交換膜型燃料電池は、陽イオン交換膜型燃料電池にはない、次のような利点を有する。
(I)反応場が強塩基性のため、安価な遷移金属触媒が使用可能となる。
(II)触媒種の選択枝が広がるため、電池の高出力化や様々な燃料の使用が可能となる。
(III)電解質中の水酸イオンの移動方向が燃料の酸化剤ガス極への透過方向と逆方向であるために酸化剤ガス極への燃料透過が抑制され、燃料と酸化剤ガスとの直接反応による過電圧増大を防止し、出力電圧の低下を抑えることが可能である。
【0006】
ところでこれらの固体高分子電解質形燃料電池においては、燃料極で燃料の酸化、酸素極で酸素の還元が行われるが、水素を燃料とし、電解質に陽イオン交換膜、及び陰イオン交換膜を用いる場合の理想的な反応式は、次の式に示したように表される。
[陽イオン交換膜]燃料(水素)極 : H → 2H + 2e
酸 素 極 : O + 4H + 4e → 2H
[陰イオン交換膜]燃料(水素)極 : H + 2OH → 2HO + 2e
酸 素 極 : O + 2HO + 4e → 4OH
しかしながら、実際の燃料電池ではこれらの主反応の他に副反応が起こる。通常、電極触媒層において過酸化物が副生し、生成した過酸化物が拡散しながら過酸化物ラジカルとなって電解質を劣化させる。生成する過酸化物の代表的なものが過酸化水素(H)や過酸化水素イオン(HOO)である。その生成のメカニズムについては必ずしも完全に理解されているわけではないが、考えられるメカニズムは次のようである。すなわち、HやHOOの生成は水素極、酸素極どちらの極でも起こりうるものであるが、例えば、酸素極では、酸素の不完全還元反応により次の式によって生じると考えられる。
[陽イオン交換膜]O + 2H + 2e → 2H
[陰イオン交換膜]O + HO + 2e → HOO + OH
そして、これらの電極上で発生したHやHOOは、電極から拡散等のため離れ、電解質中に移動する。HやHOOは酸化力の強い物質で、電解質を構成する多くの有機物を酸化する。その詳しいメカニズムは必ずしも明らかになっていないが、多くの場合、HやHOOがラジカル化し、生成したラジカルが酸化反応の直接の反応物質になっていると考えられる。
【0007】
すなわち、HやHOOから発生したラジカルが、電解質を構成する有機物から水素を引き抜いたり、他の結合を切断したりすると考えられる。ラジカル化する原因は、必ずしも明らかでないが、重金属イオンとの接触が触媒作用を有していると考えられている。このほか、熱、光等でもラジカル化すると考えられる。
【0008】
陽イオン交換膜型燃料電池においては、陽イオン交換膜としてパーフルオロカーボン系電解質膜と炭化水素系電解質膜とが用いられており、パーフルオロカーボン系電解質膜はラジカル耐性に優れている。これは、炭化水素の水素をすべてフッ素に置換したポリマーであり、多くの化学物質に対して、反応性が極めて乏しく、過酸化物に対してもほとんど酸化を受けないという特徴を有し、燃料電池に用いたときの性能は長期間維持されるものであった。しかしながら、上述のデュポン社の商品名「Nafion」で代表されるパーフルオロカーボン系電解質膜は一般に極めて高価である。また、含水率が高い、機械的強度が低いなどの望ましくない特徴も有している。
【0009】
一方で、炭化水素系電解質膜は一般にラジカルに対する耐久性が低く、過酸化物ラジカルによる酸化反応を起こしやすい。そこで、炭化水素系のイオン交換膜がH等の過酸化物のラジカルによって酸化劣化することを抑制するため、例えば、特許文献1には、電解質内に触媒層を設けたり、電極触媒層内に触媒粒子を配置したりすることにより、クロスオーバーする水素ガス及び酸素ガスを水に変換し、かつ電極で発生した過酸化物を分解する技術が開示されている。
【0010】
しかし、特許文献1に記載されている触媒粒子は、水素と酸素とを直接反応させることも目的としているため、白金等の貴金属であり、コストが高くなる欠点を有する。またこれら白金等の貴金属は、電解質を劣化させるHを分解する作用も有するが、酸素と水素とが共存する環境下では、酸素と水素との直接反応によりHを生成する触媒作用も有しており、必ずしも電解質の劣化を効果的に抑制しないという問題が特許文献2で提起されている。
【0011】
特許文献2には、この問題点を解決するため、陽イオン交換型電解質内に過酸化物を接触分解する遷移金属酸化物を分散配合して、過酸化物を分解する技術が開示されており、遷移金属酸化物を分散配合した陽イオン交換膜が、Hに対して耐性を有することが示されている。さらに特許文献3には、電極触媒層内にマンガン酸化物を担持し、過酸化物を分解する技術が開示されており、マンガン酸化物を含む電極触媒層からなる膜電極接合体が、Hに対して耐性を有することが示されている。
【0012】
しかしながら、これらの特許文献1〜3は固体高分子電解質膜を用いた燃料電池に関するものではあるが、具体的には陽イオン交換膜型燃料電池についてのみ記載されているに過ぎず、陰イオン交換膜型燃料電池について実施されているものはこれまでなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−103992号公報
【特許文献2】特開2001−118591号公報
【特許文献3】特開2007−280672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本研究者らが、陰イオン交換膜型燃料電池において陰イオン交換膜内に過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物を含有して、過酸化物に対する耐酸化性を向上させようとしたところ、逆にそのHに対する耐久性が低下することが判明した。さらに、遷移金属酸化物に含まれる不純物金属除去方法として硫酸による処理が知られているので、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物を硫酸処理して用いてみたが、それでも耐久性が低下することが判明した。
【0015】
よって本発明は、陰イオン交換膜型燃料電池の電解質として用いても過酸化物による劣化を防止することができる、過酸化物に対する耐酸化性に優れた高耐久性陰イオン交換膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行ってきた。その結果、陰イオン交換膜に特定の処理を施した遷移金属酸化物を含有させると、該陰イオン交換膜を陰イオン交換膜型燃料電池の電解質として用いた際に過酸化物に対する耐酸化性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子を含有することを特徴とする陰イオン交換膜及びその製造方法、該陰イオン交換膜からなることを特徴とする燃料電池用隔膜並びに該燃料電池用隔膜を用いることを特徴とする燃料電池である。さらには、該陰イオン交換膜に含有される、硫酸で処理した後、さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理して得られたものであることを特徴とする、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子およびその製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、過酸化物に対する耐酸化性に優れた陰イオン交換膜が提供される。陰イオン交換膜型燃料電池において、従来の陽イオン交換膜で過酸化物に対する耐酸化性を向上させるために行われているのと同様に、単に過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物を分散配合した陰イオン交換膜では、Hに対する耐久性が低下するのに対して、本発明の陰イオン交換膜は特定の処理を施した遷移金属酸化物を含有させることによりHに対する耐久性が向上した。したがって、本発明の陰イオン交換膜を電解質として燃料電池に使用した場合は、その性能が長期間維持される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】固体高分子形燃料電池の基本構造を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の陰イオン交換膜は、過酸化物に対する耐酸化性の向上を目指した、硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子を含有した陰イオン交換膜である。本発明の陰イオン交換膜は、遷移金属酸化物粒子を含有しない陰イオン交換膜(以下、陰イオン交換膜前駆体ともいう)の表面に遷移金属酸化物粒子含有層が設けられている膜、または、遷移金属酸化物粒子が陰イオン交換膜を構成する陰イオン交換樹脂に分散している膜などであっても良い。
【0021】
本発明において、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子(以下、遷移金属酸化物粒子ともいう)は、MnまたはCeの少なくとも一種類を含む酸化物であり、中でもMnO、CeOは膜の耐久性において効果が大きいので好ましい。上記遷移金属酸化物粒子の粒子径は、反応性を損なわない限り特に制限されず、例えば、平均粒子径10〜1000nm、好ましくは10〜100nmである。なお、本発明で用いる上記遷移金属酸化物粒子は、あらかじめ硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理したものである。未処理の場合、硫酸による処理若しくは塩化物イオンを含む水溶液による処理のいずれか一方の処理のみの場合又は処理の順番が逆の場合、陰イオン交換膜の過酸化物に対する耐久性は向上しないどころか逆に低下してしまう。硫酸による処理の後の塩化物イオンを含む水溶液による処理は、遷移金属酸化物粒子を陰イオン交換膜に分散させる前に行われていても良く、分散させた後に行われていても良い。
【0022】
陰イオン交換膜前駆体は、固体高分子電解質形燃料電池の電解質として用いることができる陰イオン交換膜であれば特に制限はない。炭化水素系の陰イオン交換膜前駆体は、パーフルオロカーボン系に比べてコストが低く、含水率が低く、機械的強度が高いので、また、過酸化物に対する耐酸化性を向上するという本発明の効果が得やすいという理由から好ましい。さらには多孔質膜を母材とし、空隙部に、陰イオン交換樹脂を充填したものであることが好ましい。多孔質膜を母材としたものとすることにより、多孔質膜が補強部分として働くため、膜厚を厚くする必要がなく、電気抵抗を犠牲にすることなく、陰イオン交換膜の物理的強度をさらに高めることができる。
【0023】
陰イオン交換膜前駆体の母材となる多孔質膜としては、公知のイオン交換膜の基材として使用できるものであれば特に制限はないが、具体的には、多孔質膜、不織布、織布、紙、不織紙、無機膜等を挙げることができる。また、これら多孔質膜の材質としては、特に制限されるものではなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、あるいは無機物、およびこれらの混合物を挙げることができる。これらの多孔質膜の中でも、機械的強度、化学的安定性、耐薬品性に優れ、陰イオン交換樹脂との馴染みがよい等の観点から、炭化水素系材料であるポリオレフィンを材質とした多孔質膜(以下、ポリオレフィン系多孔質膜とする)であることが好ましい。このようなポリオレフィン系多孔質膜としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン等のα−オレフィンの単独重合体または共重合体等のポリオレフィンより製造されたものが例示される。これらの中でも、ポリエチレン、またはポリプロピレンからなる多孔質膜が好ましく、特に、ポリエチレンからなる多孔質膜が好ましい。陰イオン交換膜前駆体の母材となる多孔質膜の膜厚は、一般には3〜200μmの範囲であり、膜抵抗のより小さい膜を得る観点等から5〜60μmであることが好ましく、さらに、メタノール等の燃料透過性の低さ、必要な機械的強度のバランスを考慮すると、7〜40μmであることが最も好ましい。
【0024】
陰イオン交換樹脂は、特に制限されるものではないが、多孔質膜との馴染み、密着性等を考慮すると、陰イオン交換基を除く樹脂部分が、架橋された炭化水素系重合体で構成されていることが好ましい。ここで炭化水素系重合体とは、実質的に炭素−フッ素結合を含まず、重合体を構成する主鎖及び側鎖の結合の大部分が、炭素−炭素結合で構成されている重合体を指す。この炭化水素系重合体には、炭素−炭素結合の合間に、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、シロキサン結合等により酸素、窒素、珪素、硫黄、ホウ素、リン等の他の原子が少量含まれていてもよい。また、上記主鎖及び側鎖に結合する原子は、全てが水素原子である必要はなく、少量であれば塩素、臭素、フッ素、ヨウ素等の他の原子、又は他の原子を含む置換基により置換されていてもよい。これら炭素と水素以外の元素の量は、陰イオン交換基を除いた樹脂(重合体)を構成する全元素中40モル%以下、好適には10モル%以下であることが好ましい。
【0025】
陰イオン交換膜前駆体における陰イオン交換基(多孔質膜の空隙部に充填する陰イオン交換樹脂が有する陰イオン交換基)は、特に制限されるものではないが、陰イオン伝導性に優れることから、4級アンモニウム塩基やピリジニウム塩基であることが好ましい。
【0026】
本発明において、前記陰イオン交換膜前駆体は、膜厚が5〜60μmであり、膜抵抗が0.5mol/LNaCl水溶液中の測定で0.05〜1.5Ω・cmであり、破断強度が0.08MPa以上、陰イオン交換容量が0.2〜5mmol/gであることが好ましい。
【0027】
膜表面に設けられている遷移金属酸化物粒子含有層は、遷移金属酸化物粒子が含有されていれば特に制限されるものではないが、陰イオン交換膜前駆体との馴染み、密着性等を考慮すると、炭化水素系重合体と遷移金属酸化物粒子で構成されていることが好ましく、さらに、炭化水素系重合体の中でも、陰イオン交換膜前駆体とイオン的な相互作用を持つことからポリアクリル酸やポリスルホン酸などのポリ酸が特に好ましい。遷移金属酸化物粒子含有層の厚みは10〜1000nmが好ましく、10〜100nmがより好ましい。該遷移金属酸化物粒子含有層中の、硫酸処理の後に塩化物イオンを含む水溶液による処理が施された遷移金属酸化物粒子含有量は、陰イオン交換膜に対して0.1〜10質量%となる量であることが好ましく、0.5〜7質量%となる量であることがより好ましい。0.1質量%以下では過酸化物に対する耐酸化性の効果はなく、10質量%以上では膜抵抗が著しく増加する。
【0028】
遷移金属酸化物粒子が陰イオン交換膜を構成する陰イオン交換樹脂に分散している本発明の陰イオン交換膜は、遷移金属酸化物粒子が陰イオン交換樹脂に分散している以外は、上記陰イオン交換膜前駆体として説明したものと同じである。陰イオン交換膜における遷移金属酸化物粒子の含有量は特に制限されないが、遷移金属酸化物粒子は陰イオン交換膜に対して0.1〜30質量%であることが好ましい。0.1質量%以下では過酸化物に対する耐酸化性の効果はなく、30質量%以上では膜抵抗が著しく増加する。
【0029】
本発明の、硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した遷移金属酸化物粒子を含有する陰イオン交換膜は、
(1)硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した遷移金属酸化物粒子と炭化水素系重合体、溶媒から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物(以下、遷移金属酸化物粒子含有組成物ともいう)を膜表面に塗布して得る方法、
(2)硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した遷移金属酸化物粒子と、イオン交換基が導入可能な官能基またはイオン交換基を有する重合性単量体とを混合した単量体組成物を重合して得る方法、
(3)硫酸処理した遷移金属酸化物粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物を膜表面に塗布して得られた陰イオン交換膜を、塩化物イオンを含む水溶液で処理して得る方法、
(4)硫酸処理した遷移金属酸化物粒子と、イオン交換基が導入可能な官能基またはイオン交換基を有する重合性単量体とを混合した単量体組成物を重合して得られた陰イオン交換膜を、塩化物イオンを含む水溶液で処理して得る方法、
の各方法で得ることができる。
【0030】
方法(1)及び(2)は、硫酸処理した後にさらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した遷移金属酸化物粒子を得た後に、陰イオン交換膜に含有させるものであり、方法(3)及び(4)は、硫酸処理した遷移金属酸化物粒子を含有する陰イオン交換膜を得た後に、含有する遷移金属酸化物粒子を塩化物イオンを含む水溶液で処理するものである。
以下、各製造方法を順番に説明する。
【0031】
まず、方法(1)であるが、最初に、硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した遷移金属酸化物粒子(以下、本発明の粒子ともいう)を得る。
【0032】
遷移金属酸化物粒子の硫酸による処理方法としては、特開平7−289906号公報等に記載の遷移金属酸化物粒子に含まれる不純物金属除去方法として公知の方法を制限なく採用できる。例えば、遷移金属酸化物粒子を硫酸に浸漬させる方法や遷移金属酸化物粒子の充填物に硫酸を通過させる方法が挙げられる。遷移金属酸化物粒子を硫酸に浸漬させる方法は、遷移金属酸化物粒子を所定濃度、温度に調整した硫酸に浸漬、攪拌した後、硫酸の除去を行う方法を採用すればよい。
【0033】
硫酸による処理に用いられる硫酸の濃度は、1規定以上16規定以下が好ましい。1規定未満では硫酸による処理の効果が十分に得られなく、16規定以上では作業の安全性が損なわれる場合がある。遷移金属酸化物粒子に対する硫酸の量は、特に規定されるものではないが、生産性の観点から、遷移金属酸化物粒子に対して容量基準で2倍〜100倍が好ましい。2倍量より少ない場合は処理の効果が十分に得られない場合があり、また100倍量以上では生産性が悪化する場合がある。硫酸の処理温度は、不純物金属の除去の観点から60℃〜100℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。処理時間は処理温度、硫酸濃度によって通常変動するが、好ましくは30分から24時間、生産性の観点からより好ましくは1〜6時間である。処理後の硫酸の除去方法は、ろ紙によるろ過や吸引ろ過など任意の方法が用いられる。また、ろ過後の残渣を回収して水による洗浄を行い、その後必要に応じて水分を除去するための乾燥を行うことができる。乾燥は、必要に応じて常圧乾燥や真空乾燥などの任意の方法により行うことができる。乾燥温度に制限はないが、好ましくは50〜150℃である。
【0034】
塩化物イオンを含む水溶液による処理方法としては、硫酸処理した遷移金属酸化物粒子をそのまま所定濃度の塩化物イオンを含む水溶液中に所定時間浸漬する方法を採用すればよい。通常、塩化物イオンを含む水溶液で処理した後は、塩化物イオンを含む水溶液の除去を行う。塩化物イオンを含む水溶液を除去した後は必要に応じて水による洗浄を行ってもよい。
【0035】
塩化物イオンを含む水溶液に特に制限はないが、高い塩化物イオン濃度とするために、水に対して溶解性の高い塩化物イオンを含む塩を水に溶解したものが好適である。水に対して溶解性の高い塩化物イオンを含む塩の中でも、汎用性の観点から、LiCl、NaCl、KCl、CsCl、RbClなどの塩化アルカリ金属を水に溶解した塩化物イオンを含む水溶液が最も好適である。塩化物イオンを含む水溶液の濃度は特に制限されず、例えば、0.1〜7mol/Lの範囲が適当に選択できる。例えば塩化ナトリウムとしては、0.1〜7mol/L、さらに、反応性の観点から0.3〜7mol/Lが好ましい。塩化物イオンを含む水溶液による処理温度は特に制限されず、0℃〜100℃の範囲が適当に選択できる。反応性の観点、取り扱いの観点から10℃〜80℃が好ましい。遷移金属酸化物粒子に対する塩化物イオンを含む水溶液の量は、特に規定されるものではないが、生産性の観点から、遷移金属酸化物粒子に対して容量基準で5倍以上が好ましい。5倍量より少ない場合は処理の効果が十分に得られない場合がある。
【0036】
塩化物イオンを含む水溶液による処理方法は、塩化物イオンを含む水溶液に遷移金属酸化物粒子を添加する浸漬処理の他、遷移金属酸化物粒子の充填物に塩化物イオンを含む水溶液を通過させる処理などを用いることができる。処理時間は処理温度、塩化物イオンを含む水溶液濃度によって通常変動するが、好ましくは30分から24時間、生産性の観点からより好ましくは1〜6時間である。処理後の塩化物イオンを含む水溶液の除去方法は、ろ紙によるろ過や吸引ろ過など任意の方法が用いられる。また、ろ過後の残渣を回収して水による洗浄を行う。乾燥は、必要に応じて常圧乾燥や真空乾燥などの任意の方法により行うことができる。乾燥温度に制限はないが、生産性の観点から50〜150℃が好ましい。
【0037】
本発明の粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物を得る方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、炭化水素系重合体を溶媒に溶解し、これに本発明の粒子を分散させる方法が挙げられる。
【0038】
炭化水素系重合体としては、陰イオン交換膜前駆体とイオン的な相互作用を持つことからポリアクリル酸やポリスルホン酸などのポリ酸が好ましい。ポリ酸の分子量は特に制限はないが、溶媒への溶解性や接着性の観点から、5,000〜1,000,000が好ましい。溶媒は、炭化水素系重合体が溶解するものであれば特に制限はないが、陰イオン交換膜前駆体との馴染み易さの観点から、アルコールやエーテルが好ましい。溶媒中の炭化水素系重合体の濃度は特に制限はないが、得られた組成物の取り扱いの観点から0.1〜30質量%が好ましい。また、溶媒中の本発明の粒子の濃度は特に制限はないが、0.1〜10質量%が好ましい。
【0039】
次に、本発明の粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物を陰イオン交換膜前駆体の表面に塗布する。
【0040】
本発明で用いられる陰イオン交換膜前駆体の具体的な製造方法を例示すると、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体(例えば、クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードメチルスチレン、ブロモブチルスチレン等)、架橋性重合性単量体(例えば、ジビニルベンゼン化合物)、および有効量の重合開始剤(例えば、有機化酸化物)を含む重合性組成物を前記多孔質膜と接触させることにより、該多孔質膜の空隙部に該重合性組成物を充填させた後、重合硬化させ、次いで、ハロゲノアルキル基を前記陰イオン交換基に変換する方法(以下、接触重合法とする)を挙げることができる。なお、この接触重合法においては、前記重合性組成物にエポキシ化合物等を配合することもできる。
【0041】
また、前記陰イオン交換膜前駆体のその他の製造方法を例示すると、前記接触重合法において、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体に替えて、スチレン等のハロゲノアルキル基を導入可能な官能基を有する重合性単量体を使用し、前記の通り、重合性組成物を重合硬化させ、ハロゲノアルキル基を導入可能な官能基に、ハロゲノアルキル基を導入し、次いで、導入したハロゲノアルキル基を陰イオン交換基に変更する方法が挙げられる。
【0042】
さらに、他の方法を例示すれば、前記接触重合法において、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体に替えて、陰イオン交換基を導入した重合性単量体を使用して、前記の通り、重合性組成物を重合硬化させる方法を挙げることができる。
【0043】
本発明において、陰イオン交換膜前駆体は、前記の方法の中でも、得られる膜が十分な密着性、およびイオン交換容量を有し、かつ燃料の透過を十分に抑制できるものとなるためには、前記接触重合法により製造することが好ましい。
【0044】
本発明の粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物を陰イオン交換膜前駆体の表面に塗布する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、本発明の粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物に陰イオン交換膜前駆体を浸漬する方法や噴霧する方法が挙げられる。
【0045】
本発明の粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物に陰イオン交換膜前駆体を浸漬することにより、陰イオン交換膜前駆体の表面に上記組成物を塗布する方法としては、該組成物に陰イオン交換膜前駆体を一定時間浸漬した後、陰イオン交換膜前駆体を取り出し乾燥する方法を採用すればよい。該組成物に陰イオン交換膜前駆体を浸漬することにより、陰イオン交換膜前駆体表面に該組成物が塗布される。さらに乾燥により、組成物中の溶媒の除去を行う。該組成物に陰イオン交換膜前駆体を浸漬する時間は、特に制限されるものではないが、生産性の観点から、15〜60分が好ましい。15分より少ない場合は十分に塗布されない場合がある。該組成物に陰イオン交換膜前駆体を浸漬する温度は特に制限されず、0℃〜50℃の範囲が適当に選択でき、取り扱いの観点から20℃〜50℃が好ましい。浸漬後の陰イオン交換膜前駆体の乾燥の、乾燥温度に特に制限されるものではないが、10〜70℃が好ましい。
【0046】
次に方法(2)では、本発明の粒子をイオン交換基が導入可能な官能基またはイオン交換基を有する重合性単量体と混合して単量体組成物を得、該単量体組成物を重合して本発明の陰イオン交換膜を得る。
【0047】
本発明の粒子を含有する陰イオン交換膜は、方法(1)における陰イオン交換膜前駆体の製造において、重合性単量体等を含有する重合性組成物に本発明の粒子を混合する以外は同じ方法を採用することで得ることができる。重合性単量体等を含有する重合性組成物に本発明の粒子を混合する方法は特に制限はなく、例えば重合性組成物中に上記遷移金属酸化物粒子を添加し、攪拌することで混合する手法が挙げられる。なお、重合性組成物中における上記遷移金属酸化物粒子の濃度は0.1〜30質量%が好ましい。
【0048】
方法(3)では、硫酸処理した遷移金属酸化物粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物を膜表面に塗布して得られた陰イオン交換膜を、塩化物イオンを含む水溶液で処理して得る。
【0049】
硫酸処理した遷移金属酸化物粒子は、方法(1)における硫酸による処理方法により得ることができる。
【0050】
硫酸処理した遷移金属酸化物粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物を得、該組成物を陰イオン交換膜前駆体の表面に塗布する方法としては、本発明の粒子の代わりに硫酸処理した遷移金属酸化物粒子を用いる以外は、方法(1)における本発明の粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物を得、該組成物を陰イオン交換膜前駆体の表面に塗布する方法と同じ方法を採用することができる。
【0051】
硫酸処理した遷移金属酸化物粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物を膜表面に塗布して得られた陰イオン交換膜を塩化物イオンを含む水溶液で処理する方法としては、硫酸処理した遷移金属酸化物粒子の代わりに、硫酸処理した遷移金属酸化物粒子から成る粒子含有層を設けた陰イオン交換膜を用いる以外は方法(1)における塩化物イオンを含む水溶液による処理方法と同じ方法を採用することができる。ただし、遷移金属酸化物粒子に対する塩化物イオンを含む水溶液の量は、硫酸処理した遷移金属酸化物粒子から成る粒子含有層を設けた陰イオン交換膜に対して容量基準で100倍以上が好ましい。100倍量より少ない場合は、陰イオン交換膜が塩化物イオンを含む水溶液に浸漬せずに処理の効果が十分に得られない場合がある。塩化物イオンを含む水溶液で処理して得られた本発明の陰イオン交換膜は、必要に応じて水による洗浄を行ってもよい。
【0052】
方法(4)では、硫酸で処理した遷移金属酸化物粒子を得、該遷移金属酸化物粒子をイオン交換基が導入可能な官能基またはイオン交換基を有する重合性単量体と混合して単量体組成物を得、該単量体組成物を重合して硫酸で処理した遷移金属酸化物粒子を含有する陰イオン交換膜を得る。
【0053】
硫酸で処理した遷移金属酸化物粒子は方法(1)における硫酸による処理方法と同じ方法で得ることができる。また、硫酸処理した遷移金属酸化物粒子を含有する陰イオン交換膜は、方法(1)における陰イオン交換膜前駆体の製造において、重合性単量体等を含有する重合性組成物に硫酸処理した遷移金属酸化物粒子を混合する以外は同じ方法を採用することで得ることができる。重合性単量体等を含有する重合性組成物に硫酸処理した遷移金属酸化物粒子を混合する方法は特に制限はなく、例えば重合性組成物中に上記遷移金属酸化物粒子を添加し、攪拌することで混合する手法が挙げられる。なお、重合性組成物中における上記遷移金属酸化物粒子の濃度は0.1〜30質量%が好ましい。
【0054】
硫酸処理した遷移金属酸化物粒子を含有する陰イオン交換膜を、塩化物イオンを含む水溶液で処理方法は、方法(3)における塩化物イオンを含む水溶液による処理が採用される。
【0055】
はpHが高くなるほど反応性が高くなり、pHが高い条件では極微量の金属でも触媒作用を有してHが容易にラジカル化すると考えられる。陰イオン交換膜は陽イオン交換膜に比べて膜内のpHが高いことから、遷移金属酸化物粒子を含有させた場合、遷移金属酸化物粒子に含まれている不純物金属や安定価数より低い価数を持つ遷移金属によってHがラジカル化し、膜の酸化劣化が進行したと考えられる。そこで、本発明の粒子を含有する陰イオン交換膜が、過酸化物に対する耐酸化性に優れるという効果を奏するのは以下のような理由からであると考えられる。
【0056】
遷移金属酸化物粒子を硫酸処理することにより、遷移金属酸化物粒子中に含まれる不純物金属や安定価数より低い価数を持つ遷移金属が除去される。しかしながら、それまで安定価数を持っていた遷移金属までもが硫酸処理により酸化されて安定価数よりも高い価数を持つこととなり、遷移金属酸化物の一部で過酸化物が生成する。この過酸化物は陰イオン交換膜に対して酸化剤として働くために、硫酸処理した遷移金属酸化物粒子を含有した陰イオン交換膜は、含有しないものよりも酸化劣化の度合いが増大すると考えられる。
【0057】
硫酸処理後、さらに塩化物イオンを含む水溶液による処理することで、上記硫酸処理由来の過酸化物が還元されて、安定価数を持った遷移金属酸化物となる。不純物金属が除去されて、かつ安定価数のみの遷移金属酸化物はHからラジカルを発生させることなく、効率よく分解するため、本発明の硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子を含有した陰イオン交換膜は、Hに対して耐性を有すると考えられる。
【0058】
上記の製造方法により製造された本発明の陰イオン交換膜は、必要に応じて洗浄、裁断などが行われ、定法に従って陰イオン交換型燃料電池用の電解質として用いられる。本発明の陰イオン交換膜が採用される陰イオン交換型燃料電池としては、前記した図1の基本構造を有するものが一般的であるが、その他の公知の構造を有するアニオン型燃料電池にも勿論適用することができる。燃料としては、水素またはメタノールが最も一般的であり、本発明の効果が最も顕著に発揮されるものであるが、その他、エタノール、エチレングリコール、ジメチルエーテル、アンモニア、ヒドラジン等においても同様の優れた効果が発揮される。
【実施例】
【0059】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0060】
(硫酸で処理した遷移金属酸化物粒子の製造)
硫酸で処理した遷移金属酸化物粒子は、以下の方法により得た。市販のMnO粒子(酸化マンガン(IV)、和光純薬工業)20gに、5規定硫酸100gを加え、80℃に保持して4時間攪拌した後、吸引ろ過を行った。得られた粒子を水で洗浄した後、90℃で真空乾燥することで、水分を除去し、硫酸で処理したMnOを得た。
【0061】
(陰イオン交換膜前駆体の製造)
まず、クロロメチルスチレン100質量部、ジビニルベンゼン(ジビニルベンゼン57質量%、エチルビニルベンゼン40質量%、ジエチルベンゼン3質量%)10質量部、重合開始剤(商品名:パーブチルO)5質量部、エポキシ化合物(商品名:エポライト40E)5質量部を混合して重合性単量体組成物を得た。得られた重合性組成物に多孔質膜(重量平均分子量25万のポリエチレン製、膜厚25μm、平均孔径0.03μm、空隙率37%)を25℃にて1分間浸漬した。続いて、この多孔質膜を重合性組成物中から取り出し、窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合することで陰イオン交換基を導入する前の陰イオン交換膜原膜を得た。
【0062】
得られた陰イオン交換膜原膜を、25質量%トリメチルアミンと25質量%アセトンを含む水溶液に室温で20時間浸漬することで、陰イオン交換基としてトリメチルアンモニウム基を導入した。その後膜を取り出し、0.5規定塩酸に30分浸漬させた。さらに、膜を取り出し水で洗浄することで、陰イオン交換膜前駆体を得た。
【0063】
(実施例1)
25℃にて、硫酸で処理したMnO粒子1gを1質量%ポリアクリル酸メタノール溶液20gに分散した後、この溶液に陰イオン交換膜前駆体64cmを浸漬した。30分間浸漬させた後、陰イオン交換膜前駆体を溶液から取り出し1時間室温にて乾燥することにより、硫酸で処理したMnO粒子を含有した陰イオン交換膜を得た。上記の硫酸で処理したMnO粒子を含有した陰イオン交換膜64cmを、0.5mol/LNaCl水溶液50gに1時間、室温にて浸漬して処理した。その後に得られた膜を水で洗浄することで、本発明の陰イオン交換膜を得た。遷移金属酸化物粒子の含有量は、陰イオン交換膜に対して1.0質量%であった。
得られた本発明の陰イオン交換膜の耐酸化性の評価結果を表1に示す。
【0064】
(実施例2)
硫酸で処理したMnO粒子5gを、0.5mol/LNaCl水溶液100gに1時間、室温にて浸漬して処理した。その後ろ過を行い、残渣を水で洗浄した。洗浄した残渣を50℃で真空乾燥することで、本発明のMnO粒子を得た。本発明のMnO粒子1gを1質量%ポリアクリル酸メタノール溶液20gに分散した後、この溶液に陰イオン交換膜前駆体64cmを浸漬した。30分間浸漬させた後、陰イオン交換膜前駆体を溶液から取り出し1時間乾燥、さらにメタノールに30分間浸漬させ、1時間乾燥させることで、本発明の陰イオン交換膜を得た。
得られた本発明の陰イオン交換膜の耐酸化性の評価結果を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
硫酸で処理したMnO粒子5gを、クロロメチルスチレン100質量部、ジビニルベンゼン(57質量%ジビニルベンゼン、40質量%エチルビニルベンゼン、3質量%ジエチルベンゼン)10質量部、重合開始剤(商品名:パーブチルO)5質量部、エポキシ化合物(商品名:エポライト40E)5質量部から成る重合性単量体組成物100gに分散した。硫酸で処理したMnO粒子を分散した重合性組成物に、多孔質膜(重量平均分子量25万のポリエチレン製、膜厚25μm、平均孔径0.03μm、空隙率37%)を浸漬した。続いて、この多孔質膜を重合性組成物中から取り出し、窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合することで硫酸処理したMnOを含有した陰イオン交換膜原膜を得た。
【0066】
得られた陰イオン交換膜原膜を、25質量%トリメチルアミンと25質量%アセトンを含む水溶液に室温で20時間浸漬して陰イオン交換基を導入した。その後膜を取り出し、0.5規定塩酸に30分浸漬させた。さらに、膜を取り出し水で洗浄することで、硫酸で処理したMnO粒子を含有した陰イオン交換膜を得た。上記の硫酸で処理したMnO粒子を含有した陰イオン交換膜64cmを、0.5mol/LNaCl水溶液50gに1時間、室温にて浸漬して処理した。その後に得られた膜を水で洗浄することで、本発明の陰イオン交換膜を得た。
得られた本発明の陰イオン交換膜の耐酸化性の評価結果を表1に示す。
【0067】
(実施例4)
硫酸で処理したMnO粒子5gを、0.5mol/LNaCl水溶液100gに1時間、室温にて浸漬して処理した。その後ろ過を行い、残渣を水で洗浄した。洗浄した残渣を50℃で真空乾燥することで、本発明のMnO粒子を得た。本発明のMnO粒子5gを、クロロメチルスチレン100質量部、ジビニルベンゼン(57質量%ジビニルベンゼン、40質量%エチルビニルベンゼン、3質量%ジエチルベンゼン)10質量部、重合開始剤(商品名:パーブチルO)5質量部、エポキシ化合物(商品名:エポライト40E)5質量部から成る重合性単量体組成物100gに分散した。本発明のMnO粒子を分散した重合性組成物に、多孔質膜(重量平均分子量25万のポリエチレン製、膜厚25μm、平均孔径0.03μm、空隙率37%)を浸漬した。続いて、この多孔質膜を重合性組成物中から取り出し、窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合することで本発明のMnO粒子を含有した陰イオン交換膜原膜を得た。
【0068】
得られた陰イオン交換膜原膜を、25質量%トリメチルアミンと25質量%アセトンを含む水溶液に室温で20時間浸漬して陰イオン交換基を導入した。その後膜を取り出し、0.5規定塩酸に30分浸漬させた。さらに、膜を取り出し水で洗浄することで、本発明の陰イオン交換膜を得た。
得られた本発明の陰イオン交換膜の耐酸化性の評価結果を表1に示す。
【0069】
(比較例1)
市販のMnO粒子1gを1質量%ポリアクリル酸メタノール溶液20gに分散した後、この溶液に陰イオン交換膜前駆体64cmを浸漬した。30分間浸漬させた後、陰イオン交換膜前駆体を溶液から取り出し1時間乾燥、さらにメタノールに30分間浸漬させ、1時間乾燥させることで、市販のMnO粒子を含有した陰イオン交換膜を得た。
得られた陰イオン交換膜の耐酸化性の評価結果を表1に示す。
【0070】
(比較例2)
硫酸で処理したMnO粒子1gを1質量%ポリアクリル酸メタノール溶液20gに分散した後、この溶液に陰イオン交換膜前駆体64cmを浸漬した。30分間浸漬させた後、陰イオン交換膜前駆体を溶液から取り出し1時間乾燥、さらにメタノールに30分間浸漬させ、1時間乾燥させることで、硫酸で処理したMnO粒子を含有した陰イオン交換膜を得た。
得られた陰イオン交換膜の耐酸化性の評価結果を表1に示す。
【0071】
(比較例3)
陰イオン交換膜前駆体を、遷移金属酸化物粒子を含有してない陰イオン交換膜として比較例に用いた。
耐酸化性の評価結果を表1に示す。
【0072】
(参考例1)
スチレン100質量部、ジビニルベンゼン(57質量%ジビニルベンゼン、40質量%エチルビニルベンゼン、3質量%ジエチルベンゼン)10質量部等から成る重合性単量体組成物を多孔質膜に浸漬、重合して得られた陽イオン交換膜原膜にスルホン化を行うことで陽イオン交換膜前駆体を得た。市販のMnO粒子1gを質量%ポリアクリル酸メタノール溶液20gに分散した後、この溶液に陽イオン交換膜前駆体64cmを浸漬した。30分間浸漬させた後、陰イオン交換膜前駆体を溶液から取り出し1時間乾燥、さらにメタノールに30分間浸漬させ、1時間乾燥させることで、市販のMnO粒子を含有した陽イオン交換膜を得た。
得られた陽イオン交換膜の耐酸化性の評価結果を表1に示す。
【0073】
(耐酸化性の評価実験)
イオン交換膜についての耐酸化性の評価実験は以下のとおり行った。80℃の3質量%H水溶液に膜を浸漬し、24時間経過後の膜の重量変化を測定して、イオン交換樹脂重量残存率により耐酸化性を評価した。イオン交換樹脂重量残存率は、浸漬24時間後の膜の膜中に含まれるイオン交換樹脂重量の、浸漬前の膜の膜中に含まれるイオン交換樹脂重量に対する割合(百分率(%))である。
【0074】
膜中に含まれるイオン交換樹脂重量は、膜の乾燥重量から、イオン交換膜を構成する多孔質膜の重量を除いた値である。乾燥重量は、膜を50℃で3時間減圧乾燥させた後の重量である。陰イオン交換膜を構成する多孔質膜の重量は、膜と同じ面積に裁断した多孔質フィルムの重量を測定した。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示されるように、参考例1の市販MnOを陽イオン交換膜前駆体に塗布して得た陽イオン交換膜は陽イオン交換樹脂残存率が87%である一方、比較例1の市販MnOを陰イオン交換膜前駆体に塗布して得た陰イオン交換膜では陰イオン交換樹脂残存率が76%であった。さらに、比較例2の硫酸処理MnOを陰イオン交換膜前駆体に塗布して得た陰イオン交換膜で陰イオン交換樹脂残存率が63%、比較例3の陰イオン交換膜前駆体で67%であった。これに対して実施例1の硫酸処理MnOを陰イオン交換膜前駆体に塗布してから塩化物処理した陰イオン交換膜の陰イオン交換樹脂残存率は85%、実施例2の硫酸処理MnOを塩化物処理してから陰イオン交換膜前駆体に塗布した陰イオン交換膜で88%、実施例3の硫酸処理MnOを重合性単量体組成物に含浸、重合してから塩化物処理した陰イオン交換膜で86%、実施例4の硫酸処理MnOを塩化物処理してから重合性単量体組成物に含浸、重合した陰イオン交換膜で84%であった。
【符号の説明】
【0077】
1;電池隔壁
2;燃料流通孔
3;酸化剤流通孔
4;燃料側電極触媒層
5;酸化剤側電極触媒層
6;燃料側ガス拡散電極
7;酸化剤側ガス拡散電極
8;電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子を含有することを特徴とする陰イオン交換膜。
【請求項2】
硫酸で処理した後、さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理して得られたものであることを特徴とする、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子。
【請求項3】
硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子と、イオン交換基が導入可能な官能基またはイオン交換基を有する重合性単量体とを混合した単量体組成物を重合することを特徴とする請求項1記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項4】
硫酸で処理した後さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理した、過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物を膜表面に塗布することを特徴とする請求項1記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項5】
硫酸処理した遷移金属酸化物粒子と、イオン交換基が導入可能な官能基またはイオン交換基を有する重合性単量体とを混合した単量体組成物を重合して得られた陰イオン交換膜前駆体を、塩化物イオンを含む水溶液で処理することを特徴とする請求項1記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項6】
硫酸処理した遷移金属酸化物粒子から成る遷移金属酸化物粒子含有組成物を膜表面に塗布した陰イオン交換膜を、塩化物イオンを含む水溶液で処理することを特徴とする請求項1記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項7】
硫酸で処理した後、さらに塩化物イオンを含む水溶液で処理することを特徴とする請求項2に記載の過酸化物を接触分解する触媒能を有する遷移金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の陰イオン交換膜からなることを特徴とする陰イオン交換膜型燃料電池用隔膜。
【請求項9】
請求項8に記載の陰イオン交換膜型燃料電池用隔膜を用いることを特徴とする陰イオン交換膜型燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−190384(P2011−190384A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58962(P2010−58962)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】