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陰イオン性物質の分離分析方法及び装置
説明

陰イオン性物質の分離分析方法及び装置

【課題】陰イオン性物質の選択性の高い測定を可能とする。
【解決手段】キャピラリー電気泳動装置1及び質量分析計2を組み合わせて陰イオン性物質を分離分析する際に、泳動液4にpHが3.8以下の酸性溶液を使用し、シース液8に塩基性イオンを含まない揮発性溶液を使用することで電気浸透流12を抑え、陰極から陽極への陰イオン性物質の電気泳動13を、キャピラリー内壁に表面処理を施していない通常の溶融シリカキャピラリーのみで可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキャピラリー電気泳動及び質量分析を用いた陰イオン性物質を分離分析する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陰イオン性物質の測定にはイオンクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動等の分離分析装置が使用されてきた。これらの分析方法では電気伝導度若しくは間接又は直接的な吸光度の測定により分析を行ってきたが、生体物質などの組成が複雑な試料での分子選択性は高くなかった。
【0003】
質量分析計は質量電荷比(m/z)による分離定量ができるため分子選択性が非常に高い。このため図2のようなキャピラリー電気泳動装置1と質量分析計2を組み合わせた、キャピラリー電気泳動/質量分析計(CE/MS)は複雑な試料の分析に有効である。
【0004】
しかしダイオードアレイを用いたキャピラリー電気泳動ではキャピラリー3の両末端が泳動液4に浸っているのに対し、CE/MSでは試料導入側5のキャピラリー末端のみが泳動液に浸っており、検出器側6の末端が泳動液に浸っていない。電気泳動で供給される溶液量は限られているため、泳動液と電極部との通電性を確実に確保する必要がある。
【0005】
これに対処するため、いくつかの方法が開発されている。例えばポンプ7から送液されるシース液8と、検出器側末端のキャピラリーから供給される泳動液との混合をエレクトロンスプレーニードル9付近で行い、通電性を確保する方法がある(非特許文献1)。この場合、試料及び泳動液のイオン化は、質量分析計のオルフィス10とエレクトロンスプレーニードルの間に電位差を発生させることで行っている。イオン化を推進するために泳動液とシースガス11と呼ばれる窒素ガスとの混合もエレクトロンスプレーニードル付近で行っている。
【0006】
CE/MSの場合、検出器が質量分析計であるため揮発性の高い溶液しか泳動液に用いることができない等の制約がある。このためダイオードアレイを検出器としたキャピラリー電気泳動とは異なる、CE/MSに適した分離分析方法が必要である。
【0007】
近年、前記のようなシース液及びシースガスを用いた対策をした上でCE/MSを用いた極性化合物の分析法が開発されている。
【0008】
両性イオン性物質であるアミノ酸はpH2付近の酸性溶液中では陽イオン的な性質を持つ。溶融シリカキャピラリーを用いて、揮発性の高いギ酸等の酸性溶液を泳動液とした場合、順方向(試料導入側を陽極、検出器側を陰極)に電圧を印加すると質量分析計側にアミノ酸類が移動し質量分析計で検出できる(特許文献1, 非特許文献2)。
【0009】
一方、カルボン酸を含む陰イオン性物質では検出器をダイオードアレイとした場合は、弱酸性から塩基性の泳動液を用いて逆方向(試料導入側を陰極、検出器側を陽極)に電圧を印加する。このとき陽イオン性の界面活性剤である臭化セチルトリメチルアンモニウムのようなアルキルアンモニウム塩を泳動液中に添加してキャピラリー内壁の溶融シリカ表面のシラノールをマイナスからプラスに帯電させ、電気浸透流を反転させ測定を可能とした(特許文献2)。
【0010】
質量分析計を検出器としたCE/MSの場合、検出器側には泳動液に満たされた容器が存在しない(図5(a), 非特許文献3)。このため、陰イオン性物質の測定の際に、ダイオードアレイと同様の方法でアルキルアンモニウム塩等の陽イオン性物質を添加し、逆方向に電気泳動を行おうとすると陰極である試料導入側5に陽イオン性物質が移動し、検出器側6には溶液が存在しないため、空隙が発生し電流が流れず、電気泳動を行えないことが報告されている(図5(a))。これに対処するため、あらかじめ溶融シリカキャピラリー3表面のシラノールをプラスに帯電させる必要がある(図5(b), 特許文献3, 非特許文献3)。特許文献3及び非特許文献3ではポリブレン等の物質で陽イオン性にコートされたキャピラリーを使用する必要があった。
【0011】
近年ではこの方法以外に、通常の溶融シリカキャピラリー3を用いてギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム或いはトリメチルアミン等を含むpH10以上に調整された泳動液による長時間の順方向の電気泳動(試料導入側5を陽極、検出器側6を陰極)を行う方法が報告されている(図5(c), 非特許文献4, 非特許文献5)。この方法では本来、電気泳動13の力のみでは試料導入側(陽極側)に移動する陰イオン性物質を泳動液のもつ強い電気浸透流12で質量分析側(陰極側)に移動させて、検出させている。またこの方法にポンプによる補助加圧をして時間短縮を図っている方法もある(非特許文献5)。
【特許文献1】特開2001−83119号公報
【特許文献2】特開平11−118761号公報
【特許文献3】特開2003−35698号公報
【非特許文献1】Electrophoresis, 24, pp. 3837−3867, 2003
【非特許文献2】Anal. Chem., 72, pp.1236−1241, 2000
【非特許文献3】Anal. Chem., 74, pp.2233−2239, 2002
【非特許文献4】Anal. Chim. Acta, 507, pp.191−198, 2004
【非特許文献5】J. Biosci. Bioeng., 101, pp.403−409, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら内壁の表面コートされたキャピラリーは通常の溶融シリカキャピラリーよりもコストが高く、加えて寿命も短いことが指摘されている。一方、溶融シリカキャピラリーを用いて塩基性緩衝液による長時間の順方向電気泳動では、塩基性物質を使用しているため泳動液のpHが大気中の二酸化炭素に影響を受け易く、測定毎の分析時間のずれを防止するためには泳動液の頻繁な交換が要求される。また試料導入側でポンプによる補助加圧を行った場合、ノイズを与えることがある。
【0013】
さらに生体試料や食品等の試料中は陽イオン性物質と陰イオン性物質の混合状態にある。このため単一のCE/MS装置で試料中の陽イオン、陰イオン性物質を測定する際にはキャピラリーの交換若しくは泳動液の交換が必要となる。
【0014】
前記の問題点を解消するため、本発明ではキャピラリー内壁の表面処理を施していない通常の溶融シリカキャピラリーのみでも陰イオン性物質を簡便にかつ、安定して測定できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明ではキャピラリー電気泳動及び質量分析を組み合わせて陰イオン性物質を分離分析する際に、図1のように泳動液に酸性溶液を使用して、キャピラリー内壁の帯電を抑えることで電気浸透流12を抑え、電気泳動13を陰イオン性物質の主たる移動力(図中の白色の矢印で示す)にすることで前記課題を解決したものである。
【0016】
泳動液に酸性溶液を使用し電気浸透流を抑え、泳動液のキャピラリー中での枯渇を抑えることで、表面処理を施していない通常の溶融シリカキャピラリーを用いて、試料導入側を陰極、検出器側を陽極とする逆方向電気泳動を可能にし、前記課題を解決したものである。
【0017】
電気浸透流は低いpHでは抑えられるが、pHが高くなるに伴い大きくなる。pH3.8以上の泳動液では逆方向電気泳動を行おうとすると、電流が流れなくなる問題が発生しやすくなる。このためpH3.8以下に調整した酸性溶液を用いて前記課題を解決したものである。
【0018】
質量分析部分での溶液の揮発性を考慮し、酸性溶液で揮発性の高いギ酸又は酢酸を用いて前記課題を解決したものである。
【0019】
安定した泳動電流を確保し、安定した電気泳動結果を得るためには、検出器側のキャピラリー末端で電極と泳動液との通電性を確保し、質量分析のエレクトロンスプレーニードルにおけるイオン化を促進するシース液の選定が重要となる。シース液にアンモニウム等の塩基性イオンを含む場合、表2に示すように泳動電流が不安定になり、質量分析側での検出が困難となる。一方、アンモニウム等の塩基性イオンを含まない場合は安定した泳動電流が確保され質量分析側での検出が可能となる。ゆえにシース液にはアンモニウム等の塩基性イオンを含まず、かつ、中性又は酸性の揮発性溶液を用いたものである。
【0020】
シース液には、揮発性のある溶液、例えばメタノール又はイソプロパノール等の低級アルコールを含み、かつ、ギ酸又は酢酸等の酸性の揮発溶液を含む溶液を用いたものである。
【0021】
泳動液中にはギ酸又は酢酸等の酸性溶液が含まれている。このため表2に示すようにシース液にメタノール又はイソプロパノール等の低級アルコールのみを含む溶液を用いた場合でもエレクトロンスプレーニードルの末端で酸性である泳動液と混合し酸性溶液とすることが可能である。これによりキャピラリー電気泳動及び質量分析に必要な通電性を確保しつつイオン化を促進できるとともに、系を簡便にすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、溶融シリカキャピラリーの内壁にコート処理を行うことなしに、陰イオン性物質を測定することが可能になり、コート処理の手間又はコストを下げることが可能となる。
【0023】
またキャピラリー及び泳動液、シース液も陽イオン性物質の分離分析の際と共通であることから一組のCE/MS装置でキャピラリー又は泳動液の交換なしに陽イオン性物質と陰イオン性物質の連続した測定が可能となる。生体試料や食品等の実際の試料は陽イオン性物質と陰イオン性物質の混合状態にあり、両者の迅速な測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本実施形態は、図2のように試料の分離を行うキャピラリー電気泳動装置1と、質量電荷比による分離と定量を行う質量分析計2からなる。質量分析部分には、キャピラリー電気泳動により分離された試料を霧状にし、イオン化させるエレクトロンスプレーニードル9が設置されている。
【0025】
キャピラリー電気泳動装置には白金電極14、泳動液4に満たされた容器、試料が含まれている容器及び試料導入部分を持ち、キャピラリーの試料導入側5末端が電気泳動時に泳動液に浸るように構成されている。白金電極は高電圧(例えば−25kV)を印加するための高電圧電源15と接続している。
【0026】
キャピラリー電気泳動装置と質量分析計のそれぞれの筐体はリード線で結ばれており、これにより電圧を印加できるように確保している。
【0027】
前記エレクトロンスプレーニードルは、キャピラリー電気泳動装置の検出器側の電極としての役割のみならず、質量分析計のイオン化部の電極でもあり、オルフィス10との間に電源16により電圧が印加され、試料のイオン化を行っている。
【0028】
エレクトロンスプレーニードル付近で泳動液とシース液8(例えば50%メタノール)及びシースガス11(例えば窒素ガス)が混合され、泳動液と電極との通電性の確保並びに溶液の噴霧とイオン化の促進が行われている。イオン化した分子はオリフィスより質量分析計に導入され質量電荷比で分離定量される。
【0029】
キャピラリー電気泳動装置及び質量分析計をつなぐキャピラリーの末端は同一の高さにして、電気泳動の安定性を確保している。
【0030】
分析に用いる溶融シリカキャピラリーは質量分析計側末端をエレクトロンスプレーニードルに接続する前に、メタノール、1M塩酸、0.1M水酸化ナトリウム、水の各液で洗浄し、最後に泳動液で洗浄を行う。また測定毎に泳動液でのキャピラリーの洗浄も行う。
【0031】
このような装置において、陰イオン性物質を含む試料を導入し、試料導入側の白金電極に高電圧(例えば−25kV)を印加して、逆方向電気泳動を行うことにより、陰イオン性物質と泳動液はエレクトロンスプレーニードルに移動する。
【0032】
このとき陰イオン性化合物はイオン半径やイオン的な性質の違いにより移動速度が異なるため分離され、質量分析計に導入され、質量電荷比による分離と信号強度が測定される。
【実施例1】
【0033】
前記の実施するための最良の形態を用いて、陰イオン性のカルボン酸及び糖リン酸を測定した。
【0034】
キャピラリー電気泳動の分析条件として、溶融シリカキャピラリーには内径50μm、外径350μm、全長1mのものを用いた。泳動液には1Mギ酸(pH1.8)を用いた。印加電圧は−25kV(試料導入側を陰極、検出器側を陽極)とし、陰イオン性カルボン酸及び糖リン酸類を各100μM混合した標準溶液を50mbarで30秒間注入をした。
【0035】
質量分析計の分析条件として、エレクトロンスプレーの電圧を−3kVとする負イオンモードで測定を行った。
【0036】
シースガスは窒素ガスを15L/hour、シース液は50%メタノールを10μL/minで送液し、測定を行った。
【0037】
上記条件を用いて測定した標準溶液のマスクロマトグラムを図3に示す。
【実施例2】
【0038】
実施例1の測定方法でPiperazine−1,4−bis(2−ethanesulfonic acid)(PIPES)を内部標準として、イネの葉身に含まれる陰イオン性カルボン酸類を分析し定量した。
その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【実施例3】
【0040】
異なるシース液における1Mギ酸での逆方向電気泳動実施時の泳動電流の変化量とキャピラリー電気泳動/質量分析計(CE/MS)による測定の可否を判定した。他の測定条件は実施例1に従う。表2に示すとおりアンモニウムを含まない揮発性シース液では泳動電流の変動が小さくCE/MSでの分離及び測定が行えたが、アンモニウムを含むシース液では泳動電流の変動が大きくCE/MSでの分離及び測定が行えなかった。
【0041】
【表2】

【実施例4】
【0042】
pHの異なる泳動液を用いて陰イオン性カルボン酸類を分析した。他の測定条件は実施例1に従う。結果は図4に示す。
【産業上の利用可能性】
【0043】
混合された試料の成分解析が、一組のCE/MSで手間とコストを低減させて可能となり、比較的規模の小さい部署で分析ができるようになる。その結果、医薬品及び生命科学の研究開発、並びに、食品の品質管理及び安全性管理等の検査業務がスムーズに行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明における溶融シリカキャピラリーを用いるキャピラリー電気泳動/質量分析計(CE/MS)において酸性泳動液で逆方向電気泳動を行ったときの陰イオン性物質の移動の模式図
【図2】本発明の実施形態におけるCE/MSの構成図
【図3】陰イオン性カルボン酸及び糖リン酸類(各100μM)のマスクロマトグラム(実施例1)
【図4】pHの異なる泳動液での陰イオン性カルボン酸類の分析時間(実施例4)
【図5】CE/MSによる陰イオン性物質測定の問題点(a)と従来技術を用いたCE/MSにおける陰イオン性物質の移動(b,c)の模式図
【符号の説明】
【0045】
1 キャピラリー電気泳動装置
2 質量分析計
3 キャピラリー
4 泳動液
5 試料導入側
6 検出器側
7 ポンプ
8 シース液
9 エレクトロンスプレーニードル
10 オルフィス
11 シースガス
12 電気浸透流
13 陰イオン性物質の電気泳動
14 白金電極
15 高電圧電源
16 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリー電気泳動装置及び検出器として質量分析計を組み合わせて陰イオン性物質を分離分析する際に、泳動液が酸性溶液であることを特徴とする陰イオン性物質の分離分析方法。
【請求項2】
前記キャピラリー電気泳動において溶融シリカキャピラリーを用い、試料導入側が陰極、検出器側が陽極であることを特徴とする請求項1記載の陰イオン性物質の分離分析方法。
【請求項3】
前記酸性溶液がpHを3.8以下であることを特徴とする請求項1及び請求項2記載の陰イオン性物質の分離分析方法。
【請求項4】
前記酸性溶液がギ酸又は酢酸であることを特徴とする請求項3記載の陰イオン性物質の分離分析方法。
【請求項5】
前記質量分析のイオン化におけるシース液が、塩基性イオンを含まない物質から構成され、中性又は酸性の揮発性溶液であることを特徴とする請求項1及び請求項2記載の陰イオン性物質の分離分析方法。
【請求項6】
前記シース液がメタノール等の揮発性の高い低級アルコールを含む水溶液であることを特徴とする請求項5記載の陰イオン性物質の分離分析方法。
【請求項7】
前記シース液がギ酸等の揮発性の高い低分子カルボン酸を含む低級アルコール水溶液であることを特徴とする請求項5記載の陰イオン性物質の分離分析方法。
【請求項8】
溶融シリカキャピラリーを用いたキャピラリー電気泳動装置及び質量分析計を組み合わせた装置で、pH3.8以下の酸性溶液を泳動液として用い、塩基性イオンを含まない揮発性溶液をシース液として用いることを特徴とする分離分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−210356(P2009−210356A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52488(P2008−52488)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本分析化学会第56年会及び同講演予稿集(平成19年9月21日口頭発表、平成19年9月5日講演予稿集発行、社団法人 日本分析化学会)
【出願人】(708000982)
【Fターム(参考)】