説明

陰極スパッタリングによって方向性を有する層を形成する方法、および上記方法を実施するための装置

陰極スパッタリングによって、一定且つ特定の方向に方向性を有する層、例えば、好ましい磁化方向を有する低保磁力層または低保磁力層の支持層を基板表面(4)上に形成するために、ターゲット表面(6)から出てくる複数の微粒子の基板表面(4)の接平面上での投影が、特定の方向を取り囲む好ましい角度範囲内にある状態において、複数の微粒子が支配的に基板表面(4)に衝突することによって、コーティングプロセスが実行される。コーティングプロセスは、例えば、特定の方向に平行な基板表面(4)に対し直角に伸びる複数のプレート(9)を包含するコリメータ(8)を、基板表面(4)の前面に配置することによって達成される。ただし、コリメータ(8)を配置する代わりに、またはコリメータ(8)を配置することに加えて、ターゲット表面(6)に対する基板表面(4)の位置または動きを適切に調整するかまたは制御することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極スパッタリングによって基板表面上に方向性を有する層を形成する方法に関する。この方法において、上記の層は、基板表面の接平面にて特定の方向性を有している。このような種類の層は、多くの場合、磁気層(磁性体層)であるか、または、好ましい磁化方向を特徴とする磁気層を支持するための支持層である。これらの磁気層または支持層は、主に、データ処理システムのメモリモジュールにおいて、例えば、ハードディスクやMRAM(Magnetic Random−Access Memory:磁気ランダムアクセスメモリ)用の読み書きヘッドにおいて使用される。さらに、本発明は、上記方法を実施するための装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
前述のようなカテゴリに属する方法が、従来技術として、下記の特許文献1(米国特許第6,790,482号)に記述されている。この方法は、平らな基板上に形成され且つ方向性を有する磁気層を提供する。この方向性を有する磁気層は、明確で且つほぼ一定であるような特定の方向(いわゆる容易軸)における磁化が、他の方向における磁化、特に当該特定の方向に対し垂直な方向における磁化よりも容易であることを可能にする。上記の磁気層を特定の方向に配向させるために、所定の磁界が生成されるように基板の下側に電磁石が配置される。これによって、選択された特定の方向が電気力線(lines of electric flux)に対し平行に伸びていく状態で、基板表面に衝突する複数の微粒子が、電磁石により生成された磁界の磁力線(lines of flux)に沿って磁気的に整列させられるであろう。
【0003】
正確にいえば、実際の磁気層の方向性は、各々の領域間で、通常望まれている一定且つ特定の方向からかなり大きくそれるので、上記の従来技術による解は、全ての応用分野に対して満足のいくものではない。さらに、基板の大きさおよび形状があまりにも制限されてしまうので、満足できる結果を得ることができない。
【0004】
永久磁石を使用した同様の方法が、下記の特許文献2(米国特許出願公開第2003/0146084号)に記述されている。この特許文献2では、ターゲットと基板との間に配置され且つ設置されたコリメータが、基板の法線から大きくそれた角度を有する複数の微粒子をインターセプト(intercept)することによって、これらの微粒子の基板表面に対する入射角を制限する機能を有すると共に、プラズマが基板に影響されないようにし続ける機能を有する。
【0005】
たった今説明した特許文献2の方法と類似している他の方法が、下記の特許文献3(国際公開第96/08817号)に記述されている。この特許文献2の方法もまた、コリメータを使用している。ここでは、磁気層における結晶の方向性が、基板表面の面内方向に伸びるかまたは基板表面に対し直角の方向に伸びるような状態で、コリメータのアスペクト比が、磁気層のパラメータを制御する役目を果たしている。ただし、特許文献2および特許文献3のケースでは、基板表面の面内で明確且つ特定の方向性が何ら求められていないことは確かである。
【0006】
下記の特許文献4(米国特許第6,482,301号)においては、前述の特許文献2および特許文献3に類似のさらに他の方法が記述されている。この特許文献4においては、複数の微粒子が基板表面に衝突して入射される際に発生し得る当該微粒子の不規則性および磁気異方性が、コリメータにより抑止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,790,482号
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0146084号
【特許文献3】国際公開第96/08817号
【特許文献4】米国特許第6,482,301号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の観点より、本発明の目的は、簡単で且つ普遍的に適用され得る方法によって、基板の表面上に方向性を有する層を形成することを可能にするための包括的な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、添付の特許請求の範囲の請求項1に記載された本発明の特徴により達成される。
より詳しくいえば、このような本発明の特徴は、陰極スパッタリングによって、コーティング期間(coating period)内で基板表面上に方向性を有する層を形成する方法であって、上記の層は、全ての場合において、基板表面の接平面にて特定の方向性を有しており、これによって、ターゲット表面の少なくとも1つの領域から出てくる複数の微粒子が、基板表面の各々の目的点に衝突するような状態で、ターゲット表面を有する少なくとも1つのターゲットがチャンバ内に配置され、ここで、ターゲット表面上の各々の起点が、基板表面の各々の目的点における複数の微粒子の入射方向を決定するようになっており、さらに、コーティング期間にわたって平均化された複数の微粒子の累積的な入射の密度であって、基板表面の目的点における基板表面の接平面上にて、複数の微粒子の入射方向から同一の法線方向への投影に従って衝突する複数の微粒子の累積的な入射の密度が、上記特定の方向性に対応する特定の方向において最大値を示すようになっている。
【0010】
本発明は、十分な精度でもって、極めて柔軟に選択できる特定の方向性を維持するような方向性を有する膜を形成することを可能にする方法を提供する。例えば、このような特定の方向性は、一定になっているかまたは中心点から放射状になっている。本発明の種々の実施形態が実現可能である。例えば、基板およびターゲットは、互いにしっかりと結び付けられていてもよいし、あるいは、互いに移動可能であってもよい。これらの基板およびターゲットの相対的な位置または動きは、それぞれ、独創的な機能性を作り出すことができるように選択されるかまたは制御される。ただし、このような独創的な機能性は、機械的スクリーニングを使用することによっても達成されることが可能である。方向性を有する層を整列させるために磁界を付加的に使用することは、排除されるべきことではない。本発明に係る方法を実施するための装置は、非常に多様な形態にて構成され得るという結果になる。しかしながら、一般に、これらの装置は、比較的簡単な設計で作製されることが可能である。多くの場合、本発明による新規の方法を実施することができるようにするために、現存する装置を改良することも可能である。
【0011】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。ただし、添付の図面は、単に例示的な実施例を提示しているにすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施例を表す本発明に係る装置の概略的な上面図である。
【図2】図1のラインII−IIに沿って得られる断面図である。
【図3】図1および図2における装置のターゲットの概略的な正面図である。
【図4】第2の実施例を表す本発明に係る装置の概略的な正面図である。
【図5】図4に関する装置のスクリーニング系の概略的な上面図である。
【図6】特殊な設計バージョンにおけるスクリーニング系の要素を示す図である。
【図7a】基板表面の目的点において、基板表面の特定の方向に対し平行な微粒子の入射ローブ(incedent lobe)の断面図である。
【図7b】特定の方向に対し垂直な微粒子の入射ローブの断面図である。
【図8】基板表面の目的点において、基板表面の接平面における方向性の関数として累積的な微粒子の入射の度合いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、第1の実施例を表す本発明に係る装置の概略的な上面図、図2は、図1のラインII−IIに沿って得られる断面図、そして、図3は、図1および図2における装置のターゲットの概略的な正面図である。
図1〜図3に示す装置は、真空チャンバ(図示していない)内に設置されている。この真空チャンバは、軸2の周りを回転する円筒形のバスケットであって、その外側にて基板3が取り付けられるホルダが設けられた円筒形のバスケット1を備えることを特徴とする。基板3は、約200mmの直径を有する複数のディスクであってよい。これらのディスクは、コーティングプロセスの完了後に、例えば読み書きヘッド用の構成部品を作製する際に切断されて使用されるであろう。少し離れた位置で、バスケット1は、長く伸びた垂直の平板の形状を有するターゲット5により取り囲まれている。このターゲット5のターゲット表面6は、軸2の方に方向付けられている。ターゲット5は、一般のマグネトロン・ターゲット(magnetron target)として構成される。より詳しくいえば、このマグネトロン・ターゲットでは、ターゲット表面6の所定の領域における閉じたループ7(図3)の周囲部にて集中する磁界を生成するための磁石が、ターゲット表面6の後方に設けられている。ここでは、対応する浸食溝(erosion target)をターゲット表面6に形成することによって、主としてターゲット表面6の所定の領域で、ターゲット5が除去された状態になっている。
【0014】
各々のターゲット5とバスケット1との間に、且つ、どちらかといえばターゲット6よりも基板表面4に近い状態で、コリメータ8の形態を有するスクリーニング系が配置されている。このコリメータ8は、数枚の長方形の互いに平行なプレート9を有するくし形コリメータとして構成される。これらのプレート9は、アルミニウム(Al)から作製され、互いに一定の間隔で適切に配置される。ターゲット表面6と基板表面4との間の間隔は、例えば、75mmであってよい。コリメータ8と基板表面4との間の間隔は、例えば、30mmであってよい。プレート9の長さは、例えば、10mmであってよいし、相隣り合うプレート間の間隔は、例えば、50mmであってよい。
【0015】
陰極スパッタリングプロセスにおいて、基本的に一般的な方法で所定のコーティング期間中にターゲット材料を基板3上に蒸着することによって、方向性を有する層が、各々の基板表面4上に形成される。また一方で、バスケット1は、0.1回転/秒の速さでゆっくりと且つ規則正しく回転する。この場合、バスケット1の回転と、コリメータ8の効果とを組み合わせることによって、基板表面を横切るようにして一定且つ特定の方向性を有する層が形成される。この層の特定の方向性に対応する特定の方向は、軸2に対し垂直に伸びる平面と基板表面4との間の交差線に対応している。ここで論じられている特定の方向は、水平方向にて図示されている。これ以降、上記の点に関して、より詳細に説明する。
【0016】
最終的に望まれている結果は、おそらくは、好ましい磁化方向(すなわち、比較的小さな磁界によって層が直ちに磁化され得る方向)を有する低保磁力層(low−retentivity layer)が基板表面上に形成されることであろう(いわゆる磁化容易軸)。これに反して、好ましい磁化方向に対し直角の方向は、かなり大きな磁界を必要とするであろう(いわゆる磁化困難軸)。好ましい磁化方向を示す軟磁性材料が、基板表面4を構成するベース層上にスパッタリングにより直接被覆されるようにするために、基本的に、例えばニッケル鉄21(NiFe21)のようなニッケル鉄合金、またはコバルト鉄合金等の低保磁力層からなるターゲット5を使用することが可能である。大抵の場合、軟磁性材料の好ましい磁化の方向は、層の特定の方向に一致しているであろう。ただし、上記の低保磁力層と異なる材料を選択することによって、特定の方向と異なる方向の方向性、例えば、特定の方向に対し垂直の方向の方向性が得られてもよい。前述のようなシステムを使用することによって、望まれている方向から特定の方向への最大のずれが、0.5°を超えないような方向性を有する層が形成されている。
【0017】
基板表面4上に好ましい磁化方向を有する磁気層を形成するための他の可能なアプローチにおいて、最初のステップは、例えば、クロム(Cr)、バナジウム(V)、またはタングステン(W)からなる方向性を有する支持層を蒸着し、その後に、この支持層上に磁性材料の層を被覆することである。ここでは、通常、使用される磁性材料に応じて、当該磁性材料が支持層に対し平行に整列されるかまたは垂直に整列されるという点において、磁性材料の層の好ましい磁化方向が、支持層の特定の方向により決定される。さらに、通常、陰極スパッタリングを行うことによって磁気層を形成する際に、特定の方向性を確立するための特殊なステップが付加的に選択されることはあっても、このような特殊なステップを何ら必要としない。いかなる場合でも、もし適切であれば、基本的に一般的な方法で、基板表面4の領域内で効果的な磁界の下で磁気層を蒸着することによって、好ましい磁化方向の形成を助けることが可能である。この場合、例えば、各々の目的点における基板表面上での投影は、好ましい磁化方向に合致している。
【0018】
図4は、第2の実施例を表す本発明に係る装置の概略的な正面図である。図4では、本発明に係る他の装置を例示している。この場合、基板3は、真空チャンバ10の底部の固定された位置に設置されており、平面状の基板表面4は、基板3の上部に位置している。ターゲット5は、真空チャンバ10の天井部に設置されており、ターゲット表面6は、基板3と向かい合っている。基板3およびターゲット5は、ディスクの形状を有している。前述の第1の実施例の場合と同様にターゲット表面6の後方に配置される磁石は、回転することが可能である。ターゲット5と基板3との間に、前述の第1の実施例の場合と同様にコリメータ8の形状を有するスクリーニング系が配置される。
【0019】
コリメータ8は、前述の第1の実施例の場合と同様に、互いに平行で且つ平面状の複数のプレート9(図5)からなるくし形コリメータとして構成される。これらのプレート9は、前述の第1の実施例の場合と同様に、アルミニウム(Al)から作製され、基板表面4に対し垂直の方向(この場合には、水平面に対し垂直の方向)に伸びることが可能である。さらに、これらのプレート9は、基板表面4に対し平行であって且つy方向に整列される。x方向において連続的に相隣り合うプレート間の間隔は、y方向に対し直角に伸びると共に基板表面4に対し平行に伸びており、好ましくは、中心から外側端部に向かうにつれてゆっくりと増加する。複数のプレート9は、異なる長さ、もしくは異なる平均の長さを有しており、且つ/または、異なる厚さ、もしくは異なる平均の厚さを有している。好ましくは、プレート9の長さおよび/または厚さは、x方向において中心点から外側端部に向かうにつれて次第に減少する。個々のプレート9の厚さが、当該プレートの表面を横切って変化する場合(特に、基板表面4に対し平行に伸びるy方向に変化する場合)、好ましくは、上記の場合と同様に、且つ、図6に示すように、中心から外側端部に向かうにつれて次第に減少する。
【0020】
コリメータ8は、基板3に対して、中心軸11の周りを回転することが可能である。ここでは、通常、基板3を回転可能に設置すると共に、コリメータ8を固定された位置に取り付けるほうが、より簡単である。複数のプレート8は、周辺部のプレートを除いて、各々のプレート9が、コリメータ8の180°の回転により移動可能であるように設置される。このようなコリメータ8の回転によって、各々のプレート9は、第1の位置から第2の位置へシフトする。この第2の位置は、コリメータ8が回転する前に相隣り合うプレート9が位置する2つの点のほぼ中間に位置している。ここで、コリメータ8の第1の位置において相隣り合うプレート9により占有されていた2つの点は、これらのプレート9が第2の位置にシフトしたときに空き状態になる。このようなコリメータ8の第1の位置から第2の位置へのシフトは、図5に示すように、相隣り合うプレート9の間の間隔が等距離である場合にのみ正確に達成され得る。しかしながら、好ましくは、相隣り合うプレート間の間隔が外側に向かうにつれて次第に増加する場合においても、ある程度の精度でコリメータ8の第1の位置から第2の位置へのシフトが達成され得る。
【0021】
ここでは、前述の第1の実施例の場合と同様に、基板4上のy軸に対応する一定且つ特定の方向に方向性を有する層が、一般の陰極スパッタリングにより形成される。この場合には、ターゲット材料は、主として、ターゲット表面6上のハート形のループに沿って除去される。これまで述べたようなプレート9の構成によって、かなりの程度まで、方向性を有する層の厚さが変化することが防止され得る。もしそうでなければ、好ましい角度範囲の広がりによって局所的な微粒子の密度が十分補償されないという点において、方向性を有する層を形成するシステムにおいて非対称構造が生ずる結果になるであろう。さらに、前述のようなコリメータ8の第1の位置から第2の位置へのシフトは、おそらくはコーティング時間の半分が経過した後に、複数のプレート9のシャドーイング効果(shadowing effect)を互いに等しくするといったような同一の目的に貢献するであろう。
【0022】
しかしながら、本発明に係る方法は、前述のような実施例が示唆するよりも広い範囲の応用分野にて使用され得る。例えば、湾曲した基板表面でもコーティングプロセスを実行することが可能であり、また一方で、特定の方向性は、好ましくは、基板表面上の位置、すなわち、基板表面の目的点の連続的な関数であってよい。全ての場合における決定的な要因として、コーティング期間にわたって平均化された複数の微粒子の入射ベクトルの合計は、複数の微粒子の基板表面の接平面領域上での投影が、基板表面の目的点における特定の方向に一致する状態において支配的であり、この状態において、複数の微粒子の基板表面上への入射が制御されなければならない。ここで、平面状の基板表面の場合には、複数の微粒子の基板表面の接平面領域上での投影は、基板表面の接平面領域に完全に一致している。このケースにおける特定の方向は、正負の符号が付かないパラメータとして規定される。換言すれば、複数の微粒子の基板表面上への入射が一方の側から生ずるかまたは他方の側から生ずるかは、重要なことではない。
【0023】
基板表面4の目的点における複数の微粒子の入射速度の密度がρ(θ,φ,t)により表される場合、方向の関数であって全てのコーティング時間Tにわたって積分される複数の微粒子の入射の密度(r(θ,φ))は、次の式(1)(〔数1〕)のように表されるであろう。この式(1)において、θは、基板表面4上の法線に対する入射方向の角度を表しており、φは、入射方向の基板表面4の接平面上への投影と当該接平面における固定された方向との間の角度を表している。
【0024】
【数1】

【0025】
このような方向の関数は、基板表面4の接平面に対し垂直の方向から見た2つの断面図によって、図7aおよび図7bに示されている。ここで、y方向は特定の方向であり、x方向は、特定の方向に対し直角に伸びている。しかしながら、基板表面の接平面における特定の方向を最終的に決定するものは、複数の微粒子の累積的な入射の密度、すなわち、複数の微粒子の入射の傾斜を表す角度θの全範囲にわたって重み付けがなされた入射の密度の合計である。したがって、複数の微粒子の累積的な入射の密度(R(φ))は、次の式(2)(〔数2〕)のように表されるであろう。
【0026】
【数2】

【0027】
この式(2)において、w(θ)は、例えばsinθに比例する可能性のある重み付けの関数、すなわち、基板表面の接平面上での法線方向への投影の相対的な長さに比例する可能性のある重み付けの関数である。また一方で、R(φ)は、図8に示されている。この関数(R(φ))は、φが特定の方向に対応する点において最大値を示す。なぜならばここでは、複数の微粒子の入射方向の投影が、主として特定の方向を取り囲む角度範囲(例えば、±π/4)に集中しているか、且つ/または、当該角度範囲に制限されている状態で、複数の微粒子の入射が明確に制御されているからである。この場合、特定の方向は、正負の符号が付かない変数として規定されるので、この変数は、基本的に、RS(φ)=R(φ)+R(φ+π)(0≦φ<π)が特定の方向に対応する点において最大値を有することを示すために十分機能する。ただし、一般的にいって、Rは、少なくとも大よそ鏡面対称である。
【0028】
複数の微粒子の基板表面4上への入射を制御するための2つの好ましい方法がある。1つの方法は、コリメータ8等の機械的スクリーニング要素を使用することであり、他の方法は、基板およびターゲットの相対的な位置を調整するかまたは制御することである。例えば、複数の微粒子の基板表面上への特定の入射方向は、複数の微粒子の基板表面の接平面上での投影が、特定の方向に近くなる状態において支配的であり、この状態において、1つまたは複数のターゲットに対して基板を移動可能にすることが可能である。さらに、このような基板の移動は不規則であってよいし、且つ/または、断続的であってよい。これに加えて、本発明に係る装置の出力、すなわち、ターゲットから出てくる複数の微粒子の流れの密度を明確に変化させることも可能である。より詳しくいえば、例えば、支配的に基板表面に衝突する複数の微粒子の入射が、特定の方向に対し平行になるときに複数の微粒子の流れの密度が特に高くなるように、ターゲットに対する基板の位置を変えることによって、複数の微粒子の流れの密度の変化が遂行される。図1〜図3で述べた第1の実施例に示されるように、例えば、基板3が、2つの相隣り合うターゲット5の間のほぼ中間に位置しているときで、且つ、装置の出力が増加する可能性があるときに、バスケット1の回転を遅くしたり停止させたりすることによって、前述の2つの方法を組み合わせることが可能である。
【0029】
この場合、スクリーニング要素に関していえば、複数の微粒子の経路が、ターゲット表面上の点と基板表面上の点とをつなぐ基本的に直線状の線に沿って、スクリーニング要素に衝突するような状態で、スクリーニング要素が構成され且つ配置されることが望ましい。より詳しくいえば、もしスクリーニング要素が配置されていなければ、複数の微粒子の基板表面の接平面上での投影が、好ましい角度範囲から外れている状態で、複数の微粒子がその入射方向から基板表面の目的点に衝突するであろうと思われる場合に、スクリーニング要素によって複数の微粒子をインターセプトすることが可能になる。このスクリーニング要素を配置することは、コーティング時間において講じられる手段や、複数の微粒子の入射の傾斜(すなわち、角度θ)に対する重み付けの手段に対して有効である。これに関連して、基板表面が、大部分の複数の微粒子が比較的小さな領域(例えば、前述の第1の実施例のループ7の周囲の領域)から出てくるような可変の活性化領域を有するという事実を考慮に入れることも必要である。
【0030】
これに加えて、前述のように、基板の領域に磁界を印加することも可能である。しかしながら、ほとんど全ての場合において、基板の領域に磁界を印加することは不要であろう。
【符号の説明】
【0031】
1 バスケット
2 軸
3 基板
4 基板表面
5 ターゲット
6 ターゲット表面
7 ループ
8 コリメータ
9 プレート
10 真空チャンバ
11 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極スパッタリングによって、コーティング期間内で基板表面(4)上に方向性を有する層を形成する方法であって、
前記層は、全ての場合において、前記基板表面(4)の接平面にて特定の方向性を有しており、これによって、ターゲット表面(6)の少なくとも1つの領域から出てくる複数の微粒子が、前記基板表面(4)の各々の目的点に衝突するような状態で、前記ターゲット表面(6)を有する少なくとも1つのターゲット(5)が真空チャンバ(10)内に配置され、ここで、前記ターゲット表面(6)上の各々の起点が、前記基板表面(4)の各々の目的点における前記複数の微粒子の入射方向を決定するようになっており、
さらに、前記コーティング期間にわたって平均化された前記複数の微粒子の累積的な入射の密度であって、前記基板表面(4)の目的点における前記基板表面(4)の接平面上にて、前記複数の微粒子の入射方向から同一の法線方向への投影に従って衝突する前記複数の微粒子の累積的な入射の密度が、前記特定の方向性に対応する特定の方向において最大値を示すようになっていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基板表面(4)の少なくとも一部および前記コーティング期間の少なくとも一部に対して、可能な入射角の範囲が制限されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記可能な入射角の範囲の制限が、前記ターゲット表面(6)と前記基板表面(4)との間に機械的スクリーニング要素を配置することによって得られることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記複数の微粒子の入射方向は、前記コーティング期間の中間点における前記複数の微粒子の前記基板表面(4)の接平面上での投影が、前記特定の方向を取り囲む好ましい角度範囲内にある状態において支配的であり、この状態で、前記コーティング期間中の前記基板表面(4)に対する前記ターゲット表面(6)の空間的方向性が制御されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、好ましい磁化方向を有する磁気層を形成するために用いられることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記方向性を有する層が前記磁気層であり、前記好ましい磁気方向が、前記特定の方向により決定されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記方向性を有する層が、その上に磁気層が続いて形成される支持層であり、前記磁気層の好ましい磁化方向は、全ての場合において、前記支持層の前記特定の方向により決定されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記基板表面(4)が平面であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記特定の方向が一定であって、且つ、前記基板表面(4)を横切っていることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を実施するための装置であって、少なくとも1つのターゲット(5)が設置されると共に、基板(3)を取り付けるための少なくとも1つのホルダを有する真空チャンバ(10)を備え、ここで、基板表面(4)は、前記少なくとも1つのターゲット(5)のターゲット表面(6)と向かい合っており、
さらに、前記ターゲット表面(6)から出てくる直線状の複数の微粒子の前記基板表面(4)上での投影が、前記特定の磁化方向を取り囲む好ましい角度範囲から外れているときに、前記ターゲット表面(6)から出てくる前記複数の微粒子をブロックするために、少なくとも1つのスクリーニング系が、前記ターゲット表面(6)と前記ホルダとの間に用意され且つ配置されることを特徴とする装置。
【請求項11】
前記スクリーニング系が、複数のプレート(9)を有するコリメータ(8)として構成されており、前記複数のプレート(9)は、基本的に平坦であって、且つ、前記基板表面(4)に対し直角に整列されることを特徴とする請求項1から10記載の装置。
【請求項12】
前記ホルダに対する前記コリメータ(8)の設置場所は、2つの位置の間で切り替えられることが可能であり、前記設置場所が切り替えられるときに、前記2つの位置の一方の位置において、各々の前記プレート(9)は、それぞれ対応する他方の位置において空き状態である点を占有することを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記複数のプレート(9)が、基本的に互いに平行に設置されることを特徴とする請求項11または12記載の装置。
【請求項14】
前記コリメータ(8)の2つの位置の一方の位置において、各々の前記プレート(9)が、例外になり得る端部のプレートを除いて、それぞれ対応する他方の位置において他のプレート(9)により占有されるような2つの点のほぼ中間に位置する点を占有することを特徴とする請求項12または13記載の装置。
【請求項15】
前記基板表面(4)の方に向けられた軸の周りで基板表面(4)に対する1回転の半分だけ、前記コリメータ(8)が、それぞれ対応する他方の位置に移動可能であることを特徴とする請求項13または14記載の装置。
【請求項16】
前記スクリーニング系は、前記好ましい角度範囲が、少なくとも2つの相反する方向に関して、前記基板表面(4)の中心点から前記基板表面(4)の端部に向かうにつれて増加するように設計されることを特徴とする請求項10から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
相隣り合うプレート(9)間の間隔が、前記コリメータ(8)の中心点から前記コリメータ(8)の外側端部に向かうにつれて増加することを特徴とする請求項13から16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記複数のプレート(9)の平均の長さは、好ましくは、当該複数のプレート(9)の平均の長さが、前記コリメータ(8)の中心点から前記コリメータ(8)の外側端部に向かうにつれて減少するという点において変化することを特徴とする請求項11から17記載の装置。
【請求項19】
前記複数のプレート(9)の平均の厚さは、好ましくは、当該複数のプレート(9)の平均の厚さが、前記コリメータ(8)の中心点から前記コリメータ(8)の外側端部に向かうにつれて次第に減少するという点において変化することを特徴とする請求項11から18記載の装置。
【請求項20】
前記複数のプレート(9)の少なくとも一部の厚さは、好ましくは、当該複数のプレート(9)の少なくとも一部の厚さが、前記プレート(9)の中心点から前記プレート(9)の外側端部に向かうにつれて減少するという点において、前記基板表面(4)に対し平行に変化することを特徴とする請求項11から19記載の装置。
【請求項21】
前記ホルダが、前記ターゲット表面(6)に対して、前記複数のプレート(9)に平行に移動可能であることを特徴とする請求項13記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−514940(P2010−514940A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544347(P2009−544347)
【出願日】平成19年12月24日(2007.12.24)
【国際出願番号】PCT/CH2007/000647
【国際公開番号】WO2008/080244
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(590000031)オーツェー エルリコン バルツェルス アクチェンゲゼルシャフト (8)
【Fターム(参考)】