説明

陰極構体

【目的】 優れた高密度電流動作特性を維持しながら、電子放射量の減少を防ぎ、かつ、陰極線管の大形化や高輝度化にも対応可能な陰極構体を提供する。
【構成】 陰極スリーブ21と、陰極スリーブ21の一端に嵌合された陰極基体22と、陰極基体22の頂面に被着形成された電子放射物質層23とを備える陰極構体であり、電子放射物質層23は、陰極基体22の頂面側にあり、多面体形状のアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された下側層231 と、下側層231 上にあり、希土類金属酸化物を含んだ針形状のアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された上側層232 とからなり、下側層231 の厚さは電子放射物質層23の厚さの5乃至37%の範囲内にあるように選ばれている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、陰極構体に係わり、特に、陰極の電子放射物質層を下側層と上側層の2層構造にし、下側層及び上側層を形成する粒子の形状またはそれらの層の厚さを選択することにより、長期間にわたって高密度電流動作特性を維持可能な陰極を得ている陰極線管に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、テレビジョン放送の受信画像を表示するカラー受像管やパソコン等の情報処理機器で得られたデータ画像情報を表示するデータ表示管等の陰極線管においては、表示すべきデータ情報の多様化及び高密度化等に伴って、表示される表示画像についても高精細な画像の表示が要望されるようになっている。このような要望を満たす陰極線管としては、その陰極構体に、高電流密度状態において長時間にわたって安定した電子放射特性を維持できるものを用いる必要があり、このような陰極構体の1つに、特開平5−12983号に開示された陰極構体が知られている。
【0003】ここで、図6は、前記特開平5−12983号に開示された陰極構体を示す断面図である。
【0004】図6において、61は円筒状陰極スリーブ、62は帽状陰極基体、63は電子放射物質層、631 は電子放射物質層63の下側層、632 は電子放射物質層63の上側層、64はヒーターである。
【0005】そして、円筒状陰極スリーブ61は、高融点金属、例えばニッケル(Ni)を主成分とし、その中に少量のシリコン(Si)やマグネシウム(Mg)等の還元性金属を含んだ材料からなる。帽状陰極基体62は、陰極スリーブ61と同じ材料からなり、陰極スリーブ61の一端に嵌合される。電子放射物質層63は、アルカリ土類金属酸化物からなり、陰極基体62の頂面に被着形成された下側層631 と、希土類金属酸化物、例えばバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )等の複合酸化物を含んだアルカリ土類金属酸化物からなり、下側層631 上に被着形成された上側層632 とによって2層構造になっている。ヒーター64は、陰極スリーブ61内に支持固定され、傍熱型の陰極が構成される。
【0006】前記構成による電子放射物質層63を形成する場合、始めに、陰極基体62の頂面(表面)にアルカリ土類金属炭酸塩からなる下側(第1)層を被着形成し、次に、その下側層上にバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )等の希土類金属酸化物を含有したアルカリ土類金属炭酸塩からなる上側(第2)層を被着形成し、次いで、陰極線管の製造工程における熱処理時に、下側(第1)層及び上側(第2)層の熱分解により、下側(第1)層及び上側(第2)層のアルカリ土類金属炭酸塩をそれぞれアルカリ土類金属酸化物に変化させ、下側層631 及び上側層632 を形成している。
【0007】前記構成による陰極構体によれば、電子放射物質層63の電子放射面側に形成されたバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )等の希土類金属酸化物を含んだアルカリ土類金属酸化物からなる上側層632 は、陰極基体62中のシリコン(Si)やマグネシウム(Mg)等の還元性金属によって生成された遊離バリウム(Ba)を上側層632 内に拘束させ、電子放射物質層63中の遊離バリウム(Ba)が高濃度状態になるように維持させる。その結果、陰極を高電流密度の状態で動作させた場合においても、電子放射物質層63内のジュール熱の発生が少なくなり、かつ、バリウム(Ba)の蒸発の程度も少なくなる。
【0008】このように、前記特開平5−12983号に開示の陰極構体は、高密度電流動作状態、例えば2A/cm2 程度の高電流密度状態で動作させても、電流エミッションの低下を少なくすることができ、長寿命の陰極構体を得ることができる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】前記特開平5−12983号に開示の陰極構体は、長時間にわたり高電流密度動作状態で、安定した電子放射特性を得ることができるものであるが、例えば、51cmの螢光面対角径を有する大型ディスプレーモニターに使用されるカラー陰極線管においては、電子銃の第1グリッド電極(G1)の電子ビーム通過孔の径が0.4mmで、陰極電流が300μA(陰極負荷時に2.7A/cm2 相当)である場合、陰極負荷時の陰極電流が大きいため、カラー陰極線管として十分な電子放射特性を得ることができず、比較的短寿命のカラー陰極線管となる場合がある。すなわち、前記特開平5−12983号に開示の陰極構体は、大型ディスプレーモニターに使用されるカラー陰極線管のようなカラー陰極線管の大形化や高輝度化(陰極電流の増大)に対して、何等の考慮が払われていない。
【0010】一般に、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )等の希土類金属酸化物は、電子放射物質層63内に遊離バリウム(Ba)を拘束し、電子放射物質層63中の遊離バリウム(Ba)を高濃度状態に維持させるものであって、電子放射物質層63の上側層632 に含まれるバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )の分散量を多くすればする程、遊離バリウム(Ba)を高濃度状態に維持させることができる。
【0011】ところが、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )等の希土類金属酸化物は、全く電子放射に寄与しないものであるため、高密度電流動作特性を向上させようとして希土類金属酸化物の含有量を増大させると、電子放射物質層63からの電子放射量が減少するようになる。これに対して、電子放射物質層63の層厚を厚くし、相対的に希土類金属酸化物の分散量を増すことも可能であるが、このような構成にすると、電子放射物質層63の熱容量が増加し、エミッション立ち上がり時間(出画時間)が遅くなる等の動作特性の悪化をもたらし、同時に、電子放射物質層63と陰極基体62との間の熱膨張係数差に基づく熱ストレスが増大し、陰極基体62から電子放射物質層63が剥離してしまうことがある。
【0012】また、電子放射物質層63において、下側層631 の層厚を薄くし、相対的に上側層632 の層厚を厚くすると、下側層631 内のアルカリ金属酸化物の平均粒径が下側層631 の層厚とほぼ同じ程度となるため、上側層632 中のバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )等の希土類金属酸化物が陰極基体62に接するようになり、電子放射物質層63の接着力が低下し、陰極基体62から電子放射物質層63が剥離してしまうようになる。
【0013】本発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた高密度電流動作特性を維持しながら、電子放射量の減少を防ぎ、かつ、陰極線管の大形化や高輝度化にも対応可能な陰極構体を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明による陰極構体は、電子放射物質層が、陰極基体の頂面側にあって、多面体形状のアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された下側層と、下側層上にあって、希土類金属酸化物を含んだ針形状のアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された上側層とからなっており、下側層の厚さが電子放射物質層の厚さの5乃至37%の範囲内にあるように選ばれた第1の手段を具備する。
【0015】また、前記目的を達成するために、本発明による陰極構体は、電子放射物質層が、陰極基体の頂面側にあって、第1の平均粒径を持つアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された下側層と、下側層上にあって、希土類金属酸化物を含んだ第1の平均粒径よりも大きい第2の平均粒径を持つアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された上側層とからなっており、下側層の厚さが電子放射物質層の厚さの5乃至37%の範囲内にあるように選ばれた第2の手段を具備する。
【0016】前記第1の手段及び第2の手段によれば、陰極基体の頂面側に被着形成させる電子放射物質層の下側層を、多面体形状のアルカリ土類金属酸化物粒子または平均粒径の小さいアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成しているので、下側層の層厚を薄くしても、電子放射物質層の上側層内の希土類金属酸化物と陰極基体との接触を防止することができるので、上側層の層厚を厚くすることが可能となり、その結果、上側層中に含まれる希土類金属酸化物の分散量を相対的に多くすることができる。そして、希土類金属酸化物の分散量が相対的に多くなると、電子放射物質層内の遊離バリウム(Ba)を高濃度状態に維持されるようになるので、電子放射物質層の電気抵抗が小さく、電子放射物質層内のジュール熱の発生が少なくなり、優れた高電流密度動作特性を発揮できる陰極構体を得ることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明の第1の実施の形態において、陰極構体は、陰極スリーブと、陰極スリーブの一端に嵌合された陰極基体と、陰極基体の頂面に被着形成された電子放射物質層とを備えるものであって、電子放射物質層は、陰極基体の頂面側にあり、多面体形状のアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された下側層と、下側層上にあり、希土類金属酸化物を含んだ針形状のアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された上側層とからなり、下側層の厚さは電子放射物質層の厚さの5乃至37%の範囲内にあるように選ばれているものである。
【0018】本発明の第2の実施の形態において、陰極構体は、陰極スリーブと、陰極スリーブの一端に嵌合された陰極基体と、陰極基体の頂面に被着形成された電子放射物質層とを備えるものであって、電子放射物質層は、陰極基体の頂面側にあり、第1の平均粒径を持つアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された下側層と、下側層上にあり、希土類金属酸化物を含んだ第1の平均粒径よりも大きい第2の平均粒径を持つアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された上側層とからなり、下側層の厚さは電子放射物質層の厚さの5乃至37%の範囲内にあるように選ばれているものである。
【0019】本発明の第2の実施の形態の一具体例において、陰極構体は、第1の平均粒径が第2の平均粒径の1/2以下に選ばれているものである。
【0020】本発明の第1及び第2の実施の形態の好適例において、陰極構体は、希土類金属酸化物がバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )であり、その含有量が1乃至3重量%であるものである。
【0021】本発明の第1の実施の形態によれば、陰極から電子放射する電子放射物質層として、陰極基体の頂面側に被着形成した下側層と、下側層上に被着形成した上側層との2層構造とし、下側層を多面体形状のアルカリ土類金属酸化物粒子により、上側層を希土類金属酸化物を含んだ針形状のアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成しているもので、下側層におけるアルカリ土類金属酸化物粒子の平均粒径が小さいので、下側層を比較的薄い層厚に形成しても、上側層内の希土類金属酸化物と陰極基体とが接触するのを防ぐことができ、下側層の層厚を薄くできることにより、上側層の層厚をその分だけ厚くすることが可能となり、上側層中に含まれる希土類金属酸化物の分散量を相対的に多くすることができる。
【0022】そして、電子放射物質層内の希土類金属酸化物の分散量が相対的に多くなると、電子放射物質層内の遊離バリウム(Ba)を高濃度状態に維持できるので、電子放射物質層の電気抵抗が小さく、電子放射物質層内のジュール熱の発生が少なくなり、陰極線管の大型化または高輝度化に対応可能な、優れた高電流密度動作特性を発揮できる陰極構体を得ることができる。
【0023】本発明の第2の実施の形態によれば、陰極から電子放射する電子放射物質層として、陰極基体の頂面側に被着形成した下側層と、下側層上に被着形成した上側層との2層構造とし、下側層を平均粒径が小さいアルカリ土類金属酸化物粒子により、上側層を希土類金属酸化物を含んだ平均粒径が大きいアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成しているもので、下側層を比較的薄い層厚に形成しても、上側層内の希土類金属酸化物と陰極基体とが接触するのを防ぐことができ、また、下側層の層厚を薄くできることにより、上側層の層厚をその分だけ厚くすることが可能となり、上側層中に含まれる希土類金属酸化物の分散量を相対的に多くすることができる。
【0024】そして、電子放射物質層内の希土類金属酸化物の分散量が相対的に多くなると、電子放射物質層内の遊離バリウム(Ba)を高濃度状態に維持できるので、電子放射物質層の電気抵抗が小さく、電子放射物質層内のジュール熱の発生が少なくなって、陰極線管の大型化または高輝度化に対応可能な、優れた高電流密度動作特性を発揮できる陰極構体を得ることができる。
【0025】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を用いて詳細に説明する。
【0026】図1は、本発明による陰極構体が用いられるカラー陰極線管の概略構成を示す断面図である。
【0027】図1において、1はパネル部、1Fはフェースプレート、2はネック部、3はファンネル部、4は螢光面、5はシャドウマスク、6は磁気シールド、7は偏向ヨーク、8は調整用マグネット組立、9はインライン電子銃、10は電子ビーム(3本の中の1本だけを示している)である。
【0028】そして、カラー陰極線管を構成するガラス管体は、ガラス管体の前側に設けられ、大径のフェースプレート1Fを有するパネル部1と、ガラス管体の後側に設けられ、内部にインライン電子銃9が収納される細長いネック部2と、パネル部1とネック部2とを連接し、外周に偏向ヨーク7が装着される漏斗形のファンネル部3とからなっている。パネル部1のフェースプレート1Fには内面に螢光面4が被着形成され、パネル部1内部に螢光面4に対向配置されるようにシャドウマスク5が固着される。パネル部1とファンネル部3の結合領域の内側には磁気シールド6が配置される。ネック部2の外側にはピュリテイ・コンバーゼンス調整用マグネット組立8が配置される。インライン電子銃9から投射された3本の電子ビーム10は、偏向ヨーク7が発生する磁界によって所定方向に偏向された後、シャドウマスク5に設けられている多くの電子ビーム通過孔(図示なし)を通して螢光面4にある対応する色の画素に到達するように構成されている。
【0029】前記構成によるカラー陰極線管における動作、即ち、画像表示動作は、既知のカラー陰極線管における画像表示動作と全く同じであるので、このカラー陰極線管における画像表示動作は、その説明を省略する。
【0030】次に、図2は、図1に図示されたカラー陰極線管に用いられるインライン電子銃9の構成を示す側面図である。
【0031】図2において、11は陰極構体、12は制御電極(G1)、13は加速電極(G2)、14は第1集束電極(G3)、15(1)、15(2)は第2集束電極(G4)、16は第3集束電極(G5)、17は陽極電極、18は一対のビードガラス、19はステム、20はサポート材である。
【0032】そして、インライン電子銃9は、陰極構体11の電子放射面側に、制御電極12、加速電極13、第1集束電極14、第2集束電極15(1)、第2集束電極15(2)、第3集束電極16、陽極電極17がこの順に配置される。制御電極12、加速電極13、第1集束電極14、第2集束電極15(1)、第2集束電極15(2)、第3集束電極16、陽極電極17のそれぞれには、陰極構体11から放射される3本の電子ビームを通過させる電子ビーム通過孔(図示なし)が設けられるとともに、一対のビードガラス18によって保持固定される。一対のビードガラス18は、ステム19に立設されたピン(図番なし)に固定され、サポート材20によって陰極構体11を保持固定し、同時に、制御電極12、加速電極13、第1集束電極14、第2集束電極15(1)、第2集束電極15(2)、第3集束電極16、陽極電極17のそれぞれを保持固定する。
【0033】次いで、図3は、図2に図示されたインライン電子銃9における陰極構体11の近傍の構成を示す断面図である。
【0034】図3において、12Hは制御電極12の電子ビーム通過孔、21は円筒状陰極スリーブ、22は帽状陰極基体、23は電子放射物質層、24はヒーター、24Lはヒーターリード、25は漏斗状金属支持体、26は朝顔状アイレット、27はヒーターサポートであり、その他、図2に示された構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付けている。
【0035】そして、円筒状陰極スリーブ21は、一端に帽状陰極基体22が嵌合され、内部にヒーター24が収納されて、傍熱型陰極を構成している。帽状陰極基体22は、頂面に電子放射物質層23が被着形成される。制御電極12は、電子放射物質層23に対向した部分に電子ビーム通過孔12Hが形成される。ヒーター24は、両端に設けられたヒーターリード24Lの開放端がヒーターサポート27の一端部に溶接される。漏斗状金属支持体25は、小径部と大径部とからなり、小径部が陰極スリーブ21の他端領域外周に嵌合固定される。朝顔状アイレット26は、小径部と大径部とからなり、小径部が漏斗状金属支持体25の大径部外周に嵌合固定され、大径部外周面がサポート材20を介して一対のビードガラス18に接合される。ヒーターサポート27は、他端部が一対のビードガラス18に接合される。
【0036】このような構成によって、陰極スリーブ21は、漏斗状金属支持体25、朝顔状アイレット26及びサポート材20によって一対のビードガラス18に固定され、ヒーター24は、ヒーターリード24L及びヒーターサポート27によって同じく一対のビードガラス18に固定される。
【0037】続いて、図4は、図3に図示された陰極構体11における主要構成部分を示す断面構成図である。
【0038】図4において、231 は電子放射物質層23の下側(第1)層、232 は電子放射物質層23の上側(第2)層であり、その他、図3に示された構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付けている。
【0039】そして、円筒状陰極スリーブ21は、高融点金属、例えば、ニッケル(Ni)を主成分とし、その中に少量のシリコン(Si)やマグネシウム(Mg)の還元性金属を含んだ金属材料によって構成される。同じように、帽状陰極基体22は、高融点金属、例えば、ニッケル(Ni)を主成分とし、その中に少量のシリコン(Si)やマグネシウム(Mg)の還元性金属を含んだ金属材料によって構成される。電子放射物質層23の下側層231 は、多面体形状のアルカリ土類金属酸化物粒子からなり、陰極基体22の頂面に被着形成される。電子放射物質層23の上側層232 は、希土類金属酸化物を含んだ針形状のアルカリ土類金属酸化物粒子からなり、下側層231 の上面に被着形成される。
【0040】この場合、下側層231 に用いられるアルカリ土類金属酸化物は、バリウム・ストロンチウム・カルシウムの炭酸塩[(Ba・Sr・Ca)CO3 ]であり、上側層232 に用いられる希土類金属酸化物を含んだアルカリ土類金属酸化物は、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )等を分散したバリウム・ストロンチウム・カルシウムの炭酸塩[(Ba・Sr・Ca)CO3 ]である。
【0041】ここで、電子放射物質層23の下側層231 及び上側層232 は、次のような手順によって形成される。
【0042】下側層231 を形成する第1の懸濁液(スラリー)については、54重量%の硝酸バリウム(BaNO3 )、39重量%の硝酸ストロンチウム(SrNO3 )、7重量%の硝酸カルシウム(CaNO3 )の混合溶液に、炭酸ナトリウム(Na2 CO3 )を添加してバリウム・ストロンチウム・カルシウムの炭酸塩[(Ba・Sr・Ca)CO3 ]を沈殿させ、粉末状の第1の沈殿物を得ている。この第1の沈殿物であるバリウム・ストロンチウム・カルシウム炭酸塩[Ba・Sr・Ca)CO3 ]は、粒子形状としてマイクロトラック粒度分布計を用いて測定したとき平均粒径が2μmの多面体形状(電子顕微鏡で観察)のものからなっている。得られた第1の沈殿物にニトロセルロースラッカー、酢酸ブチルを加えてローリング混合し、第1の懸濁液(スラリー)が調製される。
【0043】なお、以下に述べる各粒子形状の測定は、いずれも、マイクロトラック粒度分布計を用いて測定したものである。
【0044】一方、上側層232 を形成する第2の懸濁液(スラリー)については、53重量%の硝酸バリウム(BaNO3 )、38重量%の硝酸ストロンチウム(SrNO3 )、6重量%の硝酸カルシウム(CaNO3 )の混合溶液に、炭酸ナトリウム(Na2 CO3 )を添加してバリウム・ストロンチウム・カルシウムの炭酸塩[(Ba・Sr・Ca)CO3 ]を沈殿させ、粉末状の第2の沈殿物を得ている。この第2の沈殿物であるバリウム・ストロンチウム・カルシウム炭酸塩[Ba・Sr・Ca)CO3 ]は、粒子形状として平均粒径が10μmの針形状のものからなっている。得られた第2の沈殿物に3重量%のバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )を混合し、この混合物にニトロセルロースラッカー、酢酸ブチルを加えてローリング混合し、第2の懸濁液(スラリー)が調製される。
【0045】次に、ニッケル(Ni)を主成分とする帽状陰極基体22の頂面に、スプレー法によって第1の懸濁液を塗布し、約8μmの厚さの下側層231 を形成する。次いで、下側層231 の上面に、同様のスプレー法によって第2の懸濁液を塗布し、約60μmの厚さの上側層232 を形成する。このとき、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )の粒子形状は、平均粒径が1.2μの多面体形状をしている。
【0046】続いて、カラー陰極線管の真空排気工程において、電子放射物質層23の下側層231 及び上側層232 を、ヒーター24の通電によって加熱することにより、下側層231 及び上側層232 内にあるバリウム・ストロンチウム・カルシウムの炭酸塩[(Ba・Sr・Ca)CO3 ]を熱分解し、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの酸化物[(Ba・Sr・Ca)O]を生成させる。このため、電子放射物質層23は、アルカリ土類金属酸化物粒子からなる下側層231 と、希土類金属酸化物を含んだアルカリ土類金属酸化物粒子からなる上側層232が形成される。
【0047】この後、電子放射物質層23を、温度900乃至1100℃の雰囲気中で加熱して活性化させ、陰極構体11が形成される。
【0048】前記構成による本実施例の陰極構体11によれば、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )を含んだアルカリ土類金属酸化物粒子からなる上側層232 を設け、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )によって遊離バリウム(Ba)を拘束し、電子放射物質層23における遊離バリウム(Ba)を高濃度状態に維持させることにより、優れた高電流密度動作特性を発揮できる陰極構体を得ることができる。この場合、本実施例の陰極構体11は、アルカリ土類金属酸化物粒子からなる下側層231 の層厚を電子放射物質層23全体の層厚の約12%に選んでいるため、電子放射物質層23の88%を希土類金属酸化物を分散させた上側層232 によって構成することができ、高電流密度動作特性を良好にすることができる。また、下側層231 を構成しているアルカリ土類金属酸化物粒子を多面体形状のものとし、その平均粒径が2μmであって下側層231 の層厚の約1/4に該当するので、上側層232 に分散されたバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )が陰極基体22に接触することがなく、電子放射物質層23と陰極基体22との間の接着力が低下して陰極基体22から電子放射物質層23が剥離することがない。
【0049】前記実施例においては、電子放射物質層23における下側層231 の層厚を約8μmにし、上側層232 の層厚を約60μmにした例を示すものであるが、本発明の陰極構体は下側層231 及び上側層232 の各層厚が前述の例に限られるものではなく、それぞれ他の層厚になるように選んでもよい。
【0050】すなわち、その1つの例(以下、この例を他の第1例という)としては、電子放射物質層23における下側層231 の層厚を約5μmにるように形成し、上側層232 の層厚を約75μmになるように形成して、下側層231 の層厚を電子放射物質層23全体の層厚の約6%にしたものである。他の第1例における電子放射物質層23の形成方法は、前記実施例と同じであって、まず、帽状陰極基体22の頂面に、スプレー法によって前記実施例において調製された第1の懸濁液(スラリー)と同じ懸濁液を塗布し、約5μmの層厚の下側層231 を形成し、次に、下側層231 の上面に、同様なスプレー法によって前記実施例において調製された第2の懸濁液(スラリー)と同じ懸濁液を塗布し、約75μmの層厚の上側層232 を形成しているものである。
【0051】他の第1例においては、アルカリ土類金属酸化物からなる下側層231 の層厚を電子放射物質層23の約6%にし、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5)を含んだアルカリ土類金属酸化物からなる上側層232 の層厚の占める割合を電子放射物質層23の層厚の約94%にしたことにより、前記実施例と同様に、高電流密度動作特性を良好にすることができる。また、他の第1例においても、下側層231 を構成するアルカリ土類金属酸化物の平均粒径が2μmで、下側層231 の層厚の約2/5に該当するため、上側層232 に分散されたバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )が陰極基体22に接触することはなく、電子放射物質層23と陰極基体22との間の接着力が低下し、電子放射物質層23が剥離することはない。
【0052】また、その他の例(以下、この例を他の第2例という)としては、電子放射物質層23における下側層231 の層厚を約26μmにるように形成し、上側層232 の層厚を約60μmになるように形成して、下側層231 の層厚を電子放射物質層23全体の層厚の約30%にしたものである。他の第2例における電子放射物質層23の形成方法も、前記実施例と同じであって、まず、帽状陰極基体22の頂面に、スプレー法によって前記実施例において調製された第1の懸濁液(スラリー)と同じ懸濁液を塗布し、約26μmの層厚の下側層231 を形成し、次に、下側層231 の上面に、同様なスプレー法によって前記実施例において調製された第2の懸濁液(スラリー)と同じ懸濁液を塗布し、約60μmの層厚の上側層232 を形成しているものである。
【0053】他の第2例においては、アルカリ土類金属酸化物からなる下側層231 の層厚を電子放射物質層23の約30%にし、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )を含んだアルカリ土類金属酸化物からなる上側層232 の層厚の占める割合を電子放射物質層23の層厚の約70%にしたことにより、前記実施例と同様に、高電流密度動作特性を良好にすることができる。また、他の第2例においても、下側層231 を構成するアルカリ土類金属酸化物の平均粒径が2μmで、下側層231 の層厚の約1/15に該当するため、上側層232 に分散されたバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )が陰極基体22に接触することはなく、電子放射物質層23と陰極基体22との間の接着力が低下し、電子放射物質層23が剥離することはない。
【0054】ここで、図5は、本発明の陰極構体における電子放射量と動作時間との関係を示す特性図である。
【0055】図5において、縦軸は%で表した電子放射量、横軸はkh(キロアワー)で表した動作時間であって、曲線aは下側層231 の層厚を8μm、上側層232 の層厚を60μmにしたものの例及び下側層231 の層厚を26μm、上側層232 の層厚を60μmにした例であり、曲線bは下側層231 の層厚を5μm、上側層232 の層厚を75μmにした例である。また、曲線cは比較のために挙げたもので、下側層及び上側層の各層厚を34μmにした既知の例である。
【0056】図5の曲線a、bに示されるように、本実施例の陰極構体は、既知の陰極構体に比べて、動作時間の経過とともに電子放射量の低下の割合が少なくなっており、その結果として、高電流密度動作を維持しながら寿命を長くすることができる。
【0057】この場合、下側層231 の層厚は、電子放射物質層23の層厚の5%以下になると、下側層231 の層厚とアルカリ土類金属酸化物の平均粒径との関係から上側層23に分散されたバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )が陰極基体22に接触することがあるので好ましくなく、一方、電子放射物質層23の層厚の37%以上になると、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )の総量が不足するようになるので同様に好ましくない。その結果、本発明おける下側層231の層厚は電子放射物質層23の層厚の5乃至37%の範囲内にあるように選択する。
【0058】また、前記実施例を含む各例においては、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )の含有量が3重量%である例を挙げて説明したが、本発明における電子放射物質層23の上側層232 に含まれるバリウムスカンデート(Ba2 Sc25 )の含有量は3重量%である場合に限られず、他の含有量、具体的には0.01乃至15.0重量%の範囲内であれば、任意の含有量を選択することができる。
【0059】すなわち、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )の含有量が0.01重量%以下であれば、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )の含有させたことの意義が失われ、一方、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )の含有量が15.0重量%以上になると、電子放射物質層23における電子放射機能が低下するので、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )の含有量は0.01乃至15.0重量%の範囲内に選ばれる。
【0060】さらに、前記実施例を含む各例においては、電子放射物質層23の上側層232 に用いられる希土類金属酸化物としてバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )を用いた例を挙げて説明したが、本発明に用いられる希土類金属酸化物はバリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )に限られるものでなく、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )に類似特性の他の希土類金属酸化物を用いてもよいことは勿論である。
【0061】
【発明の効果】以上のように、請求項1に記載の発明によれば、陰極から電子放射する電子放射物質層として、陰極基体の頂面側に被着形成した下側層と、下側層上に被着形成した上側層との2層構造とし、下側層を多面体形状のアルカリ土類金属酸化物粒子により、上側層を希土類金属酸化物を含んだ針形状のアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成しているもので、下側層におけるアルカリ土類金属酸化物粒子の層厚方向の平均粒径が小さいので、下側層を比較的薄い層厚に形成しても、上側層内の希土類金属酸化物と陰極基体とが接触するのを防ぐことができ、また、下側層の層厚を薄くできることにより、上側層の層厚をその分だけ厚くすることが可能となり、上側層中に含まれる希土類金属酸化物の分散量を相対的に多くすることができる。そして、電子放射物質層内の希土類金属酸化物の分散量が相対的に多くなると、電子放射物質層内の遊離バリウム(Ba)を高濃度状態に維持できるようになるので、電子放射物質層の電気抵抗が小さく、電子放射物質層内のジュール熱の発生が少なくなり、陰極線管の大型化や高輝度化に対応可能な、優れた高電流密度動作特性を発揮できる陰極構体が得られるという効果がある。
【0062】また、請求項2に記載の発明によれば、陰極から電子放射する電子放射物質層として、陰極基体の頂面側に被着形成した下側層と、下側層上に被着形成した上側層との2層構造とし、下側層を平均粒径が小さいアルカリ土類金属酸化物粒子により、上側層を希土類金属酸化物を含んだ平均粒径が大きいアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成しているもので、下側層を比較的薄い層厚に形成しても、上側層内の希土類金属酸化物と陰極基体とが接触するのを防ぐことができ、また、下側層の層厚を薄くできることにより、上側層の層厚をその分だけ厚くすることが可能となり、上側層中に含まれる希土類金属酸化物の分散量を相対的に多くすることができる。そして、電子放射物質層内の希土類金属酸化物の分散量が相対的に多くなると、電子放射物質層内の遊離バリウム(Ba)を高濃度状態に維持できるようになるので、電子放射物質層の電気抵抗が小さく、電子放射物質層内のジュール熱の発生が少なくなり、陰極線管の大型化や高輝度化に対応可能な、優れた高電流密度動作特性を発揮できる陰極構体が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による陰極構体が用いられるカラー陰極線管の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に図示されたカラー陰極線管に用いられるインライン電子銃の構成を示す側面図である。
【図3】図2に図示されたインライン電子銃における陰極構体近傍の構成を示す断面図である。
【図4】図3に図示された陰極構体における主要構成部分を示す断面構成図である。
【図5】本発明によって得られる陰極構体における電子放射量と動作時間との関係を示す特性図である。
【図6】既知の陰極構体の構成の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 パネル部
1F フェースプレート
2 ネック部
3 ファンネル部
4 螢光面
5 シャドウマスク
6 磁気シールド
7 偏向ヨーク
8 調整用マグネット組立
9 インライン電子銃
10 電子ビーム
11 陰極構体
12 制御電極(G1)
12H 電子ビーム通過孔
13 加速電極(G2)
14 第1集束電極(G3)
15(1)、15(2) 第2集束電極(G4)
16 第3集束電極(G5)
17 陽極電極
18 一対のビードガラス
19 ステム
20 サポート材
21 円筒状陰極スリーブ
22 帽状陰極基体
23 電子放射物質層
231 下側(第1)層
232 上側(第2)層
24 ヒーター
24L ヒーターリード
25 金属支持体
26 アイレット
27 ヒーターサポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】 陰極スリーブと、前記陰極スリーブの一端に嵌合された陰極基体と、前記陰極基体の頂面に被着形成された電子放射物質層とを備える陰極構体において、前記電子放射物質層は、前記陰極基体の頂面側にあり、多面体形状のアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された下側層と、前記下側層上にあり、希土類金属酸化物を含んだ針形状のアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された上側層とからなり、前記下側層の厚さは前記電子放射物質層の厚さの5乃至37%の範囲内にあるように選ばれていることを特徴とする陰極構体。
【請求項2】 陰極スリーブと、前記陰極スリーブの一端に嵌合された陰極基体と、前記陰極基体の頂面に被着形成された電子放射物質層とを備える陰極構体において、前記電子放射物質層は、前記陰極基体の頂面側にあり、第1の平均粒径を持つアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された下側層と、前記下側層上にあり、希土類金属酸化物を含んだ前記第1の平均粒径よりも大きい第2の平均粒径を持つアルカリ土類金属酸化物粒子によって形成された上側層とからなり、前記下側層の厚さは前記電子放射物質層の厚さの5乃至37%の範囲内にあるように選ばれていることを特徴とする陰極構体。
【請求項3】 前記第1の平均粒径は、前記第2の平均粒径の1/2以下に選ばれていることを特徴とする請求項2に記載の陰極構体。
【請求項4】 前記希土類金属酸化物は、バリウムスカンデート(Ba2 Sc2 5 )であって、その含有量が1乃至3重量%の範囲内にあることを特徴とする請求項1乃至3に記載の陰極線管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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