説明

陶器湯煎を利用した薬材の皮膚再生効能増進方法

陶器を使用した湯煎を通じて薬材の皮膚再生効能を増進させることができる方法が開示される。前記方法は、優れた皮膚再生効能を示し、これを通じて得た薬材抽出物は、化粧品、健康食品又は医薬分野において多様に活用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
陶器湯煎を利用して薬材の皮膚再生効能を増進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、外部から身体を保護する防御膜としての役割をする。皮膚に傷ができると、生体の自然治癒作用により傷の位置を血液が満たすようになり、血小板の顆粒減少とハーゲマン因子(hageman factor)の活性化が開始され、傷の治癒過程が進行する。血液の凝固は、一時的な防御作用であって、露出した傷組織を保護し、治癒過程の間、細胞が移動することができる基盤を提供する。
【0003】
傷の治癒過程には、大きく、炎症期、再上皮化期、増殖期、及び成熟期の4段階が含まれる。炎症期には、傷の位置に免疫細胞が出現するが、この細胞は、血管から傷の位置に移動したものである。続いて、顆粒組織の形成を誘導する成長因子や信号伝達物質が分泌される。重大な感染がない状態では、炎症期が一般的に短期間で進行する。
【0004】
増殖期は、再上皮化期と類似して起こるようになるが、傷の位置で顆粒組織が形成される特性を示す。顆粒組織は、線維芽細胞(fibroblasts)、炎症性細胞(inflammatory cells)とともに、未成熟コラーゲン(immaturity collagen)、フィブロネクチン(fibronectin)及びヒアルロン酸(hyaluronic acid)等の細胞外基質構成要素の組合せからなっている。こうした顆粒組織が傷の部分を急速に埋め、組織的な構造を備えることが、傷の治療に重要である。再上皮化期では、剥がれた傷の表面が角質形成細胞(keratinocytes)層によって覆われつつ新たな表皮が作成され、上皮層が再建される。細胞は、傷の周囲又は残った皮膚の真皮残余物から傷を通って浮き上がり、かさぶたの下で生きている結合組織の上を通って移動を開始する。
【0005】
傷の再上皮化が完了すると、結合組織の増加と再編成を通じて傷の面積が減少する一連の過程が進行する。その後、成熟期の間には、回復期組織の固まった細胞と毛細血管が少しずつ消えるようになるが、このような組織が過形成された場合、又は正常に分解されない場合には傷痕ができることになる。
【0006】
以上は、一般的な傷の治療過程を説明したものである。傷の治療過程においては、傷を早く治すことだけでなく、副作用や傷痕なく治療することが重要である。したがって、炎症の抑制や成長因子の発現調節を通じて組織細胞がバランスよく埋められていくことが重要であり、このような効能を有する物質を見つけ出そうとする努力が進められている。
【0007】
また、先に言及した傷の治療のために、様々な種類の薬草から有効成分を抽出するための方法が多様に試みられており、より効率的に有効成分を抽出することのできる方法についての研究が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一実施形態の目的は、薬材の皮膚再生効果を増進させることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る方法は、陶器湯煎を利用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る薬材の皮膚再生効能増進方法は、優れた皮膚の再生効能を示す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】陶器湯煎を利用した濃縮液と、単純抽出を利用した濃縮液の皮膚再生効果を比較実験した結果である。
【図2】試験管内創傷治癒測定法(in vitro wound healing assay)を利用して、それぞれ異なる材質の容器を使用して、湯煎法を実施して製造した濃縮液の皮膚再生効果を比較実験した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る薬材の皮膚再生効能増進方法は、陶器湯煎を利用することを特徴とする。陶器を利用した湯煎法は、他の材質の容器を使用した湯煎法に比べて薬材の皮膚再生効能が格段に優れるという長所がある。本発明の発明者らは、反復的かつ多様な実験を通じて、陶器を使用した湯煎法により製造された薬材抽出物が、皮膚再生効能に非常に優れることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明において、「陶器湯煎」とは、陶器を利用した湯煎を通じて薬材を煎じる方法を意味する。たとえば、薬材が入れられた陶器を、水が一部満たされた別途の加熱容器内に2/3程度浸した状態で、加熱することができる。
【0014】
本発明において、「陶器」とは、土器や瀬戸物を含めた意味である。陶器は、伝統的に、調味料、主食及び副食の貯蔵用具、酒類発酵道具、及び飲料水の貯蔵用具等として使用されてきた。陶器を製造する過程は、まず、土を練って日陰で多少乾かした後、杵で打って煉瓦の形にし、床に打ち付けて板状のタタラを製造する。その次に、製造されたタタラをろくろの上に載せ、棒で成形をする。陶器の形は、ろくろの速度及び手さばき等によって決定される。
【0015】
本発明に係る薬材の皮膚再生効能増進方法で使用される薬材は、特に制限されず、動物類、菠菜類、淡水類、又は漢方薬であってよい。適用可能な漢方薬としては、たとえば、五味子、石菖蒲、酸棗仁、龍眼肉(円肉)、柏子仁、黄ゴン、蘿蔔子、天門冬、麦門冬、白朮、白芍薬、甘草、蒲公英、山薬、蓮子肉、乾栗、ヨク苡仁、麻黄、クコの実、山茱萸、澤瀉、牧丹皮、独活、車前子、高麗人蔘、鹿茸、葡萄根、熟地黄、生地黄、乾地黄、桔梗、乾薑、陳皮、大黄、ビャクシ、羌活、藁本、サンザシ、細辛、柴胡、香附子、甘菊、升麻、黄耆、梔子及び大腹皮等があるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、前記薬材のうち皮膚再生効能増進方法に使用される薬材としては、高麗人蔘、蒲公英、藁本、山薬、及び升麻等を含む群から選択される一つ以上であってよい。前記薬材の剤形は、特に制限されないが、採取した生体そのまま、又は乾燥後に切断した切片、粉末、ペースト、団子又は抽出液の状態で混在することができる。
【0016】
一実施形態において、前記薬材の皮膚再生効能増進方法は、20〜180℃の温度で湯煎を行うことができる。本発明に係る薬材の皮膚再生効能増進方法は、高温抽出だけでなく、低温抽出により有効成分が効果的に抽出される薬材に対しても適用可能である。たとえば、前記薬材の皮膚再生効能増進方法は、高温抽出のために80〜150℃、より具体的には90〜130℃の温度で湯煎を行うことができる。また、低温抽出のために30〜70℃、より具体的には40〜60℃の温度で湯煎を行うことができる。
【0017】
他の一実施形態において、前記薬材の皮膚再生効能増進方法は、0.5〜5.0気圧の圧力で湯煎を行うことができる。本発明に係る薬材の皮膚再生効能増進方法は、加圧抽出だけでなく、減圧抽出により有効成分が効果的に抽出される薬材に対しても適用可能である。たとえば、前記薬材の皮膚再生効能増進方法は、減圧抽出のために0.6〜0.9気圧の圧力で湯煎を行うことができる。また、加圧抽出のために1.5〜5.0気圧の圧力で湯煎を行うことができる。
【0018】
本発明に係る薬材の皮膚再生効能増進方法は、多様な温度と圧力で適用可能である。たとえば、前記増進方法は、高温・加圧条件又は低温・減圧条件で薬材に対する湯煎を行うことができる。こうした湯煎条件は、薬材の種類、形態及び性質等に応じて変わり得る。一実施形態において、前記増進方法における湯煎過程は、80〜150℃の温度、及び1.5〜5.0気圧で行うことができる。他の一実施形態において、前記湯煎は、30〜70℃の温度、及び0.6〜0.9気圧で行うことができる。
【0019】
本発明に係る薬材の皮膚再生効能増進方法を利用した薬材抽出物の製造過程は、特に制限されるものではなく、湯煎や冷却過程を反復的に経ることができる。たとえば、前記薬材の皮膚再生効能増進方法は、(a)60〜80時間の薬材湯煎工程、(b)12〜36時間の常温冷却工程、(c)12〜36時間の水湯煎工程、(d)薬材濾過工程、及び(e)抽出物の濃縮工程を含むことができる。
【0020】
より具体的には、前記薬材の皮膚再生効能増進方法は、(a)72時間の薬材湯煎工程、(b)24時間の常温冷却工程、(c)24時間の水湯煎工程、(d)薬材濾過工程、及び(e)抽出物の濃縮工程を含むことができる。
【0021】
一実施形態において、前記製造方法で湯煎する工程は、釜の水を利用することができる。釜で加熱された水は、温度が一定であり、周囲温度の変化によって冷却されにくいという長所がある。
【0022】
[実施例]
以下、下記の実施例によって本発明をさらに詳細に説明することとする。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであるに過ぎず、本発明の範囲がこれらのみに限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]陶器を使用した湯煎法による濃縮液の製造
高麗人蔘、蒲公英、藁本、山薬、及び升麻各1kgを、陶器に水10Lとともに入れ、釜を利用して72時間湯煎した。その後、24時間常温で冷却した後、再び24時間水湯煎を実施した。その次に、抽出後に残った薬材を濾過し、濾過液を減圧濃縮して濃縮液50gを得た。
【0024】
[比較例1]単純抽出による濃縮液の製造
高麗人蔘、蒲公英、藁本、山薬、及び升麻各1kgを、陶器に水10Lとともに入れ、72時間加熱した。その後、24時間常温で冷却した後、再び24時間加熱を実施した。本比較例において、加熱は、湯煎をせずに、陶器に直接熱を加える方式で実施した。その次に、抽出後に残った薬材を濾過し、濾過液を減圧濃縮し、濃縮液40gを得た。
【0025】
[比較例2]ガラス容器を使用した湯煎法による濃縮液の製造
高麗人蔘、蒲公英、藁本、山薬、及び升麻各1kgを、ガラスで製造された容器に、水10Lとともに入れ、釜を利用して72時間湯煎した。その後、24時間常温で冷却した後、再び24時間水湯煎を実施した。その次に、抽出後に残った薬材を濾過し、濾過液を減圧濃縮して濃縮液65gを得た。
【0026】
[比較例3]木製容器を使用した湯煎法による濃縮液の製造
高麗人蔘、蒲公英、藁本、山薬、及び升麻各1kgを、木材(杉)で製造された容器に、水10Lとともに入れ、釜を使用して72時間湯煎した。その後、24時間常温で冷却した後、再び24時間水湯煎を実施した。その次に、抽出後に残った薬材を濾過し、濾過液を減圧濃縮して濃縮液45gを得た。
【0027】
[比較例4]鉄製容器を使用した湯煎法による濃縮液の製造
高麗人蔘、蒲公英、藁本、山薬、及び升麻各1kgを、鉄で製造された容器に、水10Lとともに入れ、釜を使用して72時間湯煎した。その後、24時間常温で冷却した後、再び24時間水湯煎を実施した。その次に、抽出後に残った薬材を濾過し、濾過液を減圧濃縮して濃縮液55gを得た。
【0028】
[実験例1]肉眼的形態を通じた薬材濃縮液の皮膚再生細胞の活性化
ヒトの角質形成細胞(HaCaT)は、韓国ソウルの韓国細胞株銀行(Korean Cell Line Bank)から分譲を受けて使用した。HaCaTは、10%(v/v)FBS(ウシ胎仔血清)、ペニシリン100U/ml、及びストレプトマイシン100μg/mlを含むDMEM(Dulbecco´s Modified Eagle´s Medium)培地を使用して、37℃、5%COの供給条件を具備した動物細胞培養器で培養した。ウェル(Well)あたり1.5×10個の濃度で準備されたHaCaT細胞を24時間培養して細胞単層を形成させた後、p200ピペットチップで「掻き傷」を誘導した。
【0029】
実施例1の陶器湯煎による濃縮液(陶器湯煎濃縮液)、及び比較例1の湯煎をせずに直接加熱して製造した濃縮液(簡易抽出による濃縮液)を準備した。「掻き傷」の付いた細胞層を、準備した各濃縮液を10ppmの濃度で処理した培地で培養した。培養を開始した後、24時間、そして48時間が経過した時点で、掻き傷が再生される程度を確認した。結果を図1に示した。
【0030】
図1を参照すると、陶器を利用した湯煎を通じて得た濃縮液(実施例1)を処理した培地で培養された細胞の「掻き傷」は、時間の経過とともに、掻き傷の面積が顕著に減少した。単純抽出による濃縮液(比較例1)を処理した場合と比較して、傷の回復速度が顕著に速いことが分かる。
【0031】
また、陶器湯煎による場合(実施例1)と比較して、互いに異なる材質の容器を使用して製造された濃縮液(比較例2〜4)を処理した場合の皮膚再生効果を比較した結果を図2に示した。対照群は、薬材濃縮液を処理していない場合であり、残りの他の実験群は、それぞれの材質からなる容器を使用して湯煎法で製造された薬材濃縮液(比較例2〜4)を処理した。結果を図2に示した。
【0032】
図2を参照すると、ガラス、木及び鉄製の容器を使用した湯煎法で製造された濃縮液を処理した場合よりも、陶器を使用した湯煎による濃縮液を処理した場合に、皮膚再生効果が最も優れるということを比較確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る薬材の皮膚再生効能増進方法は、優れた皮膚再生効能を示し、これを通じて得た薬材抽出物は、化粧品、健康食品又は医薬分野において多様に活用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶器を利用した湯煎過程を通じて薬材成分を抽出することを特徴とする、陶器湯煎を利用した薬材の皮膚再生効能促進方法。
【請求項2】
前記薬材は、高麗人参、蒲公英、藁本、山薬、及び升麻よりなる群から選択される一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の陶器湯煎を利用した薬材の皮膚再生効能促進方法。
【請求項3】
前記湯煎は、20〜180℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1に記載の陶器湯煎を利用した薬材の皮膚再生効能促進方法。
【請求項4】
前記湯煎は、0.5〜5.0気圧で行われることを特徴とする、請求項1に記載の陶器湯煎を利用した薬材の皮膚再生効能促進方法。
【請求項5】
前記湯煎は、80〜150℃の温度、及び1.5〜5.0気圧で行われることを特徴とする、請求項1に記載の陶器湯煎を利用した薬材の皮膚再生効能促進方法。
【請求項6】
前記湯煎は、30〜70℃の温度、及び0.6〜0.9気圧で行われることを特徴とする、請求項1に記載の陶器湯煎を利用した薬材の皮膚再生効能促進方法。
【請求項7】
前記方法は、
(a)60〜80時間の薬材湯煎工程、
(b)12〜36時間の常温冷却工程、
(c)12〜36時間の水湯煎工程、
(d)薬材濾過工程、及び
(e)抽出物の濃縮工程
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の陶器湯煎を利用した薬材の皮膚再生効能促進方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−503155(P2013−503155A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526628(P2012−526628)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005457
【国際公開番号】WO2011/025176
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(506213681)株式会社アモーレパシフィック (24)
【氏名又は名称原語表記】AMOREPACIFIC CORPORATION
【住所又は居所原語表記】181,2−ga,Hangang−ro,Yongsan−gu,Seoul,Republic of Korea
【Fターム(参考)】