説明

陶器製便器

【課題】製造工程における亀裂等の破損を抑制することのできる陶器製便器を提供する。
【解決手段】陶器製便器は、上方に向けて開口した便鉢部10と、便鉢部10の上端周縁に連結された上面部20と、上面部20の周縁から下方に延び、便鉢部10の周囲を覆う台座部30と、台座部30の左右及び前側の裏面32、33と便鉢部10の裏面12とを連結した内壁部40とを有している。便鉢部10と台座部30と内壁部40とにより空洞部Hを形成している。台座部30内の左右の一方に形成された内壁部40の後部から台座部30内の前側に形成された内壁部40を経由して台座部30内の左右の他方に形成された内壁部40の後部まで連続する開口部50を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陶器製便器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の陶器製便器が開示されている。この陶器製便器は、上方に向けて開口した便鉢部と、便鉢部の上端周縁に連結された上面部と、上面部の周縁から下方に延びた台座部とを有している。また、この陶器製便器は、台座部の裏面と便鉢部の裏面とを連結した内壁部を有している。この陶器製便器には、便鉢部と台座部と内壁部とに囲まれた空洞部が形成されている。内壁部と便鉢部との境界部分には開口部が形成されている。
【0003】
この陶器製便器では、製造工程、特に乾燥工程及び焼成工程において生じる便鉢部、台座部及び内壁部の収縮のずれを開口部により吸収することができる。このため、内壁部と便鉢部との境界付近に応力が集中せず、亀裂等の破損を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−107438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の陶器製便器では、開口部は、便鉢部、台座部及び内壁部の収縮のずれを吸収するために設けられている。つまり、製造工程において、便鉢部、台座部及び内壁部の乾燥速度を均一にするために開口部を設けたものではない。このため、この陶器製便器では、製造工程において、便鉢部、台座部及び内壁部の乾燥速度が不均一となり、それら部位に収縮のずれが生じてしまう。これにより、開口部が形成された内壁部と便鉢部との境界付近以外の部位において応力が集中し亀裂等の破損が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、製造工程における亀裂等の破損を抑制することのできる陶器製便器を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の陶器製便器は、上方に向けて開口した便鉢部と、便鉢部の上端周縁に連結された上面部と、上面部の周縁から下方に延び、便鉢部の周囲を覆う台座部と、台座部の左右及び前側の裏面と便鉢部の裏面とを連結した内壁部とを有し、便鉢部と台座部と内壁部とにより空洞部を形成している陶器製便器であって、
前記台座部内の左右の一方に形成された前記内壁部の後部から台座部内の前側に形成された内壁部を経由して台座部内の左右の他方に形成された内壁部の後部まで連続する開口部を有していることを特徴とする。
【0008】
この陶器製便器は、台座部内の左右の一方に形成された内壁部の後部から台座部内の前側に形成された内壁部を経由して台座部内の左右の他方に形成された内壁部の後部まで連続する開口部を有しているため、製造工程において、便鉢部、台座部及び内壁部に囲まれた空洞部内と外部との空気の流通を良好に行うことができる。このため、便鉢部、台座部及び内壁部の乾燥速度を均一にすることができる。これにより、製造工程において、便鉢部、台座部及び内壁部の収縮のずれが少なくなるとともに、各部位の内外面の硬度差を少なくすることができる。
【0009】
したがって、本発明の陶器製便器は、製造工程における亀裂等の破損を抑制することができる。
【0010】
前記開口部の開口縁は、前記内壁部の周縁より所定間隔以上離れた内側に位置し得る。この場合、開口部の開口縁の周りに内壁部が存在するため、便鉢部と台座部との間の支持を良好に行うことができる。このため、製造工程における便鉢部等の変形を防止することができる。
【0011】
前記開口部より下方の内壁部は、防露材の周端面を固定可能であり得る。この場合、防露材を良好に固定することができ、便鉢部に洗浄水を貯留して陶器製便器を使用する際、便鉢部の裏面等に結露が生じることを防止することができる。
【0012】
前記開口部は、前記台座部内の左右に形成された前記内壁部の夫々に設けられた第1開口部と、前記台座部内の前側に形成された内壁部に設けられ、第1開口部の前端部同士を連結した第2開口部とから構成されており、第2開口部は第1開口部よりも高さ方向の幅が狭く形成され得る。この場合、製造工程において、第1開口部から便鉢部、台座部及び内壁部に囲まれた空間内部と外部との空気の流通を良好に行うことができるとともに、前側の台座部等の支持を内壁部により良好に行うことができる。このため、製造工程における便鉢部及び台座部の変形を防止することができる。
【0013】
前記第1開口部は、対応する部分が非吸水性である成形型を利用した泥漿鋳込み成形における着肉工程時に形成され、前記第2開口部は、脱型工程後かつ乾燥工程前に前記内壁部の対応する部分を切断して形成され得る。この場合、開口部を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例の陶器製便器を示す断面図である。
【図2】図1の矢視X−X断面図である。
【図3】実施例の陶器製便器を示す斜視図である。
【図4】実施例の陶器製便器の泥漿鋳込み成形型及び泥漿の着肉状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の陶器製便器を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0016】
実施例の陶器製便器は、図1〜図3に示すように、便鉢部10、上面部20、台座部30及び内壁部40を有している。便鉢部10は上方に開口している。便鉢部10の下流端には、上昇流路11U及び上昇流路11Uに連通する下降流路11Dを有する便器排水路11が形成されている。
【0017】
上面部20は便鉢部10の上端周縁に連結されている。台座部30は、上面部20の周縁から下方に延び、便鉢部10の周囲を覆っている。台座部30の下端部は下方に向けて開口する下端開口部31を形成している。下端開口部31は前側が半円形の半楕円形状である。
【0018】
内壁部40は、台座部30の左右裏面32及び前側裏面33と、便鉢部10の裏面12とを連結している。これにより、便鉢部10と台座部30と内壁部40とに囲まれた空洞部Hが形成されている。
【0019】
台座部30内の左右に形成された内壁部40の夫々には、後部から前方へ延びる横長形状の第1開口部50Aが設けられている。台座部30内の前側に形成された内壁部40には、第1開口部50Aの前端部同士を連結した第2開口部50Bが設けられている。このため、後述する製造工程において、便鉢部10、台座部30及び内壁部40に囲まれた空洞部H内と外部との空気の流通を良好に行うことができる。よって、便鉢部10、台座部30及び内壁部40の乾燥速度を均一にすることができる。これにより、製造工程において、便鉢部10、台座部30及び内壁部40の収縮のずれが少なくなるとともに、各部位の内外面の硬度差を少なくすることができる。
【0020】
したがって、実施例の陶器製便器は、製造工程における亀裂等の破損を抑制することができる。
【0021】
第2開口部50Bは第1開口部50Aよりも高さ方向の幅が狭く形成されている。このため、前側の台座部30等の支持を内壁部40により良好に行うことができる。このため、後述する製造工程における便鉢部10及び台座部30の変形を防止することができる。
【0022】
開口部50の開口縁は、内壁部40の周縁、すなわち、内壁部40が便鉢部10の裏面又は台座部30の裏面に連結される部分より15mm以上離れた内側に位置している。このため、開口部50の開口縁の周りに内壁部40が存在するため、便鉢部10と台座部30との間の支持を良好に行うことができる。また、開口部50の開口縁と、内壁部40が便鉢部10の裏面に連結される部分との間隔は、台座部30の前側よりも左右の方が大きく形成されている。このため、第1開口部50Aが前後方向に長く形成されていても便鉢部10と台座部30との間の支持を良好に行なうことができる。よって、後述する製造工程における便鉢部10等の変形を防止することができる。
【0023】
また、開口部50の開口縁と、内壁部40が台座部30の裏面に連結される部分との間隔は、台座部30の前側及び左右とも防露材Bを取り付けるのに十分な大きさを確保している。このため、開口部50の下方の内壁部40は、防露材Bの終端面を固定可能である。この場合、防露材Bを良好に固定することができ、便鉢部10に洗浄水を貯留して陶器製便器を使用する際、便鉢部10の裏面等に結露が生じることを防止することができる。
【0024】
このような構成を有する陶器製便器の製造工程を説明する。この陶器製便器は、図4(A)(B)に示す泥漿鋳込み成形型を利用して成形される。陶器製便器の上面部20を成形する泥漿鋳込み成形型は、上下の分割された上型1と下型2とから構成されている。陶器製便器の便鉢部10、便器排水路11、台座部30、内壁部40等の本体部を成形する泥漿鋳込み成形型は、上下左右に分割された上型3、2つの左右型4及び下型5から構成されている。左右型4の夫々には、第1開口部50Aに対応する位置に樹脂が塗布されて非吸水領域6が形成されている。左右型4の非吸水領域6には泥漿が着肉しない。
【0025】
先ず、上述した各型を組合せ、型内に形成された空間部に泥漿を注入し、所定時間の間、各型の吸水作用により泥漿を各型の内面に着肉させる(着肉工程)。次に、各空間部から泥漿を排出し、各型を離型し、成形体を脱型する(脱型工程)。脱型された本体部の内壁部40には、非吸水領域6に対応する部分が開口し、第1開口部50Aが形成されている。このように、第1開口部50Aは着肉工程時に形成される。次に、第1開口部50Aの前端部同士を連結するように内壁部40の対応する部分を切断し、第2開口部50Bを形成する(切断工程)。このように、開口部50は容易に形成することができる。次に、脱型された上面部20と本体部とを重ね合わせ、接合用泥漿を利用して接合する(接合工程)。次に、上面部20と本体部とが接合された成形体を所定時間の間、乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥工程により含水率が所定値に低下した成形体を焼成する(焼成工程)。以上の工程を経て陶器製便器は製造される。
【0026】
本発明は、上記記載及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例では、第2開口部の高さ方向の幅を第1開口部よりも狭く形成したが、同じ幅に形成してもよい。
(2)実施例では、第1開口部と第2開口部とを別の手段により形成したが、同じ手段により形成してもよい。つまり、脱型後かつ乾燥前に内壁部を切断して第1開口部及び第2開口部を形成してもよい。また、泥漿鋳込み成形型の第1開口部及び第2開口部に対応する部分を非吸水性にし、着肉時に形成してもよい。
(3)実施例では、開口部より下方の内壁部に防露材の終端面を固定しているが、内壁部の下方に存在する台座部の内面に防露材の終端面を固定してもよい。
【符号の説明】
【0027】
10…便鉢部
12…(便鉢部の)裏面
20…上面部
30…台座部
32、33…(台座部の)裏面(32…左右裏面、33…前側裏面)
40…内壁部
50…開口部
50A…第1開口部
50B…第2開口部
H…空洞部
B…防露材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に向けて開口した便鉢部と、便鉢部の上端周縁に連結された上面部と、上面部の周縁から下方に延び、便鉢部の周囲を覆う台座部と、台座部の左右及び前側の裏面と便鉢部の裏面とを連結した内壁部とを有し、便鉢部と台座部と内壁部とにより空洞部を形成している陶器製便器であって、
前記台座部内の左右の一方に形成された前記内壁部の後部から台座部内の前側に形成された内壁部を経由して台座部内の左右の他方に形成された内壁部の後部まで連続する開口部を有していることを特徴とする陶器製便器。
【請求項2】
前記開口部の開口縁は、前記内壁部の周縁より所定間隔以上離れた内側に位置していることを特徴とする請求項1記載の陶器製便器。
【請求項3】
前記開口部より下方の内壁部は、防露材の周端面を固定可能であることを特徴とする請求項1又は2記載の陶器製便器。
【請求項4】
前記開口部は、前記台座部内の左右に形成された前記内壁部の夫々に設けられた第1開口部と、前記台座部内の前側に形成された内壁部に設けられ、第1開口部の前端部同士を連結した第2開口部とから構成されており、第2開口部は第1開口部よりも高さ方向の幅が狭く形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の陶器製便器。
【請求項5】
前記第1開口部は、対応する部分が非吸水性である成形型を利用した泥漿鋳込み成形時に形成され、
前記第2開口部は、脱型後かつ乾燥前に前記内壁部の対応する部分を切断して形成されていることを特徴とする請求項4記載の陶器製便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−63972(P2011−63972A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214687(P2009−214687)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】