説明

陶磁器及びその製造方法

【課題】1200℃以下で焼成される焼結体であり、適度に高い熱膨張性と高い耐熱衝撃性を有するマイクロ波を吸収して発熱する白色セラミックスからなる陶磁器を提供する。
【解決手段】釉層が焼結体の表面に形成された陶磁器であり、当該焼結体は、全成分に対して(a)70〜92質量%のZnO、(b)5〜19質量%のSiO2及び(c)3〜18質量%のAl23を含有し、(a)〜(c)成分の全成分に対する配合割合の合計は98質量%以上であり、当該焼結体の平均線膨張係数は4.0×10-6〜5.7×10-6/Kである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1200℃以下で焼成される焼結体であり、適度に高い熱膨張性と高い耐熱衝撃性を有する、マイクロ波を吸収して発熱する白色セラミックスからなる陶磁器とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な陶磁器は電子レンジのマイクロ波により加熱されないから、被加熱物が陶磁器に入れられ、電子レンジ内でマイクロ波が照射されても、焦げ目が被加熱物につかない。しかし、焼き魚のように、電子レンジ内のマイクロ波照射で焦げ目つけが好まれる食品がある。
そこで、炭化珪素が主材とされる材料が焼成されてなる電子レンジ用耐熱皿が検討された(例えば、特許文献1参照)。更に、酸化亜鉛と酸化アルミニウムとの焼結体よりなるマイクロ波吸収発熱体(例えば、特許文献2参照)、強磁性酸化物とガラス相を含むセラミックで構成され釉薬が施されている電子レンジ調理用具(例えば、特許文献3参照)、金属鉄の結晶とマグネタイトあるいはその一方が釉薬層中又は釉薬表面もしくはセラミックス基材表面に生成されているマイクロ波吸収発熱セラミックスが検討された(例えば、特許文献4参照)。
【0003】
上記電子レンジ用耐熱皿、電子レンジ調理用具及びマイクロ波吸収発熱セラミックスは有色であり、最も多く使用される白色食器が実現されない。上記電子レンジ用耐熱皿及び電子レンジ調理用具の素地の熱膨張性は、マイクロ波による急加熱に耐え得るよう低いが、低熱膨張性素地と釉薬の熱膨張の差異により亀裂が釉層に生じ、加熱調理時に発生する油等の液体が低熱膨張性素地にしみ込み、臭い移りが起きる。
上記マイクロ波吸収発熱体の素地は1200℃以下の温度での焼結性が低く、当該素地が1200℃以下の温度で焼成されて得られる製品は実用的な強度を有していない。一方、当該素地が1200℃より高い温度で焼成されると、当該素地に主成分として含まれる酸化亜鉛はガラスと反応性が高いので、釉層の形成が困難になる。更に、上記マイクロ波吸収発熱体はマイクロ波により急激に加熱されるので、電子レンジの出力、発熱体の形状等により熱衝撃による破損が懸念される。
上記マイクロ波吸収発熱セラミックスの表面はマイクロ波により急激に加熱されるので、上記マイクロ波吸収発熱セラミックスは熱応力により破損されやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−325298号公報
【特許文献2】特開平7−249487号公報
【特許文献3】特開平5−258857号公報
【特許文献4】特開2005−75697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、1200℃以下で焼成される焼結体であり、適度に高い熱膨張性と高い耐熱衝撃性を有しマイクロ波を吸収して発熱する白色セラミックスからなる陶磁器が望まれていたが、このような陶磁器は実現されていなかった。
本発明が解決しようとする課題は、1200℃以下で焼成される焼結体であり、適度に高い熱膨張性と高い耐熱衝撃性を有するマイクロ波を吸収して発熱する白色セラミックスからなる陶磁器とその製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の陶磁器は、釉層が焼結体の表面に形成されてなり、当該焼結体は、全成分に対して(a)70〜92質量%のZnO、(b)5〜19質量%のSiO2及び(c)3〜18質量%のAl23を含有し、(a)〜(c)成分の全成分に対する配合割合の合計は98質量%以上であり、当該焼結体の平均線膨張係数は4.0×10-6〜5.7×10-6/Kである。本発明の陶磁器は、好ましくは電子レンジ内で使用される。
本発明の陶磁器の製造方法は、釉薬が、全成分に対して(a)70〜92質量%のZnO、(b)5〜19質量%のSiO2及び(c)3〜18質量%のAl23を含有する生地又は当該生地が600℃〜1400℃で仮焼されて形成される無釉素地に施釉される工程、施釉された生地又は無釉素地が1000〜1200℃で釉焼される工程を実施し、(a)〜(c)成分の全成分に対する配合割合の合計は98質量%以上である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の陶磁器は、マイクロ波を吸収して発熱するから、電子レンジ内で被加熱物を加熱できる。
本発明の陶磁器は、有色食器よりも頻繁に使用される白色食器として利用され得る。
本発明の陶磁器は、適度に高い熱膨張性を有しているから、セラミックスと釉薬の熱膨張の差異が非常に小さく、亀裂が釉層に生じ難い。従って、加熱調理時に発生する油等の液体が本発明の陶磁器に吸収され難く、臭い移りが本発明の陶磁器に発生し難く、本発明の陶磁器の洗浄は容易である。
本発明の陶磁器は、高い耐熱衝撃性を有しているから、急激な温度変化に伴う熱衝撃による破損が生じがたい。
本発明の陶磁器の製造方法は、1200℃以下の焼結温度で本発明の陶磁器を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の陶磁器を構成する焼結体は、全成分に対して(a)70〜92質量%のZnO、(b)5〜19質量%のSiO2及び(c)3〜18質量%のAl23を含有する。(a)〜(c)成分の全成分に対する配合割合の合計は98質量%以上である。(a)〜(c)成分の全成分に対する配合割合が小さすぎると、陶磁器のマイクロ波照射による十分な発熱が起きなくなる。
【0009】
ZnOの全成分に対する好ましい配合割合は70〜85質量%である。ZnOの配合割合が小さすぎると、陶磁器のマイクロ波照射による十分な発熱が起きなくなる。一方、ZnOの配合割合が大きすぎると、焼結体の原料となる素地の強度が低下し、焼結体の線膨張係数が大きくなって、陶磁器の耐熱衝撃性が著しく低下する。
【0010】
SiO2の全成分に対する好ましい配合割合は7〜16質量%である。SiO2の配合割合が小さすぎると、ZnOの配合割合が相対的に大きくなり過ぎる。一方、SiO2の配合割合が大きすぎると、ZnOの配合割合が相対的に小さくなりすぎる。SiO2は珪石、粘土鉱物、カオリン類鉱物等に由来する。
【0011】
Al23の全成分に対する好ましい配合割合は4〜16質量%である。Al23の配合割合が小さすぎると、ZnOの配合割合が相対的に大きくなり過ぎる。一方、Al23の配合割合が大きすぎると、ZnOの配合割合が相対的に小さくなりすぎる。Al23は酸化アルミニウム粒子、粘土鉱物、カオリン類鉱物等に由来する。成形工程における可塑性の向上の観点から、好ましい鉱物は粘土鉱物、カオリン類鉱物である。
【0012】
本発明の陶磁器を構成する焼結体は(a)ZnO、(b)SiO2及び(c)Al23以外の酸化物を含有し得る。当該酸化物の具体例は、熱膨張を調整するためのコーディエライト由来の酸化マグネシウムである。酸化マグネシウムの全成分に対する配合割合は0〜1質量%である。
【0013】
更に、本発明の陶磁器を構成する焼結体は、天然原料由来の不可避成分として酸化第二鉄、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムを含有し得る。酸化第二鉄の全成分に対する配合割合は0〜0.5質量%、酸化チタンの全成分に対する配合割合は0〜0.5質量%、酸化カルシウムの全成分に対する配合割合は0〜0.2質量%、酸化ナトリウムの全成分に対する配合割合は0〜0.5質量%、酸化カリウムの全成分に対する配合割合は0〜1質量%程度である。
【0014】
次に、本発明の陶磁器の製造方法を説明する。酸化亜鉛粒子、珪石、粘土鉱物、カオリン類鉱物、酸化アルミニウム粒子等から選択された原料が、ボールミル等の粉砕混合機により混合され、生地が得られる。当該生地は、全成分に対して(a)70〜92質量%のZnO、(b)5〜19質量%のSiO2及び(c)3〜18質量%のAl23を含有する。(a)〜(c)成分の全成分に対する配合割合の合計は98質量%以上である。次に、当該生地の含水率が12〜25%に調整され、陶土が得られる。当該陶土はローラーマシン等のロクロ成形、鋳込み成形、プレス成形等の成形方法で成形され、乾燥される。
【0015】
成形された生地は施釉され得るが、600〜1400℃、好ましくは800〜1200℃で仮焼されてから施釉されてもよい。仮焼温度が低すぎると、素地強度が施釉に十分でなくなる。一方、仮焼温度が高すぎると、陶磁器の耐熱衝撃性が低下する。
【0016】
施釉後の釉焼温度は1000〜1200℃であり、好ましい釉焼温度は1050〜1150℃である。釉焼温度が低すぎると、生地又は無釉素地に適合する熱膨張係数を有する釉層を得難くなる。一方、釉焼温度が高すぎると、素地と釉層が激しく反応し、良好な釉面が得られない。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。各種測定方法は次のとおりである。
【0018】
(1)発熱特性
2.45GHzの周波数のマイクロ波が20mm×130mm×8mmの板状試料に180秒間照射され、板状試料の表面温度が放射温度計(タスコジャパン株式会社製THI−440S、測定温度範囲−50〜500℃)で測定された。
【0019】
(2)耐熱衝撃特性
20mm×130mm×8mmの板状試料が275℃の恒温機中に1時間保持され、その後25℃の水に投入され、破損の有無が確認された。
【0020】
(3)平均熱膨張係数
7mm×7mm×20mmの角柱状試料の30〜700℃の温度範囲での熱膨張係数が、マックサイエンス株式会社製TMA−4400により毎分10℃の昇温速度で測定された。
【0021】
(4)素地に含まれる成分の配合割合
それぞれの使用原料は1050℃で仮焼された後、それぞれの使用原料の化学組成が分析された。
蛙目粘土の化学組成は蛍光X線分析装置(株式会社リガク製ZSX100e)によりガラスビードによる検量線法にて測定された。
亜鉛華、アルミナ及びコーディエライトの化学組成は、それぞれの原料はJIS M8853により溶液化処理後、ICP発光分光分析装置(島津製作所製ICPS−8100型)による検量線法にて分析された。原料の化学分析値と配合割合から素地に含まれる成分の配合割合が算出された。
【0022】
実施例1〜9及び比較例1〜3
表1に記載される原料100質量部、分散剤であるケイ酸ナトリウム0.25質量部及び水33質量部がボールミルで混合され、泥奬が得られた。当該泥奬が順次、20mm×130mm×8mmの陶磁器製板状試料用生地と7mm×7mm×20mmの陶磁器製角柱状試料用生地に鋳込み成形され、自然乾燥された。20mm×130mm×8mmの陶磁器製板状試料用生地は電気炉で900℃で仮焼された後、施釉され、次に1100℃で釉焼され、20mm×130mm×8mmの陶磁器製板状試料が得られた。7mm×7mm×20mmの陶磁器製角柱状試料用生地は電気炉で900℃で仮焼された後、次に1100℃で釉焼され、7mm×7mm×20mmの陶磁器製角柱状試料が得られた。
陶磁器の組成、発熱特性、耐熱衝撃特性及び平均熱膨張係数が表2に示されている。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
実施例1〜9の陶磁器は、180秒間のマイクロ波照射で被加熱食品に焦げ目をつけられる200℃以上に加熱された。温度差250℃の熱衝撃がこれらの陶磁器に加えられても、これらの陶磁器の破損はなかった。更に、これらの陶磁器の平均熱膨張係数は、一般的な釉の平均熱膨張係数である4.0×10-6/K程度と近かった。
ZnOの配合割合が小さすぎる比較例1の陶磁器は、180秒間のマイクロ波照射で被加熱食品に焦げ目をつけられる200℃以上に加熱されなかった。当該陶磁器の平均熱膨張係数は、一般的な釉の平均熱膨張係数より小さかった。
全成分に対するZnO、SiO2及びAl23の配合割合が98質量%より小さい比較例2の陶磁器は、180秒間のマイクロ波照射で被加熱食品に焦げ目をつけられる200℃以上に加熱されなかった。
温度差250℃の熱衝撃が、ZnOの配合割合が大きすぎ、SiO2の配合割合が小さすぎる比較例3の陶磁器に加えられると、当該陶磁器は破損した。当該陶磁器の平均熱膨張係数は、温度差250℃の熱衝撃に耐えるには大きすぎた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の陶磁器は、被加熱物を載せて電子レンジ内でマイクロ波照射により被加熱物を加熱する容器として好適である。特に、本発明の陶磁器は、マイクロ波照射により被加熱食品に焦げ目をつける容器として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釉層が焼結体の表面に形成されてなり、
当該焼結体は、全成分に対して(a)70〜92質量%のZnO、(b)5〜19質量%のSiO2及び(c)3〜18質量%のAl23を含有し、
(a)〜(c)成分の全成分に対する配合割合の合計は98質量%以上であり、
当該焼結体の平均線膨張係数は4.0×10-6〜5.7×10-6/Kである、陶磁器。
【請求項2】
釉薬が、全成分に対して(a)70〜92質量%のZnO、(b)5〜19質量%のSiO2及び(c)3〜18質量%のAl23を含有する生地又は当該生地が600℃〜1400℃で仮焼されて形成される無釉素地に施釉される工程、
施釉された生地又は無釉素地が1000〜1200℃で釉焼される工程、が実施され、
(a)〜(c)成分の全成分に対する配合割合の合計は98質量%以上である、請求項1に記載された陶磁器の製造方法。
【請求項3】
電子レンジ内で使用される、請求項1に記載された陶磁器。

【公開番号】特開2013−40075(P2013−40075A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178215(P2011−178215)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(590003722)佐賀県 (38)
【出願人】(501084846)有限会社渕野陶土 (1)
【Fターム(参考)】