説明

陶磁器製品の製造方法

【目的】陶磁器製品の製法において、押出し成形適性を向上し焼成時の収縮を小さくしたものである。
【構成】セメントと、無機粉体と、硅砂と、増粘剤と水とを必須成分とするセメント混合物を押出し成形し水和硬化後、焼成してなる陶磁器製品の製造方法において、上記無機粉体が30%以上のガラス質を含むもので、上記硅砂の含有率を上記セメント全混合物の15〜55重量%とすること、および、上記セメント混合物を押出し成形し水和硬化後、釉薬原料を表面に塗布し焼成すること、および上記セメント混合物を押出し成形し、水和硬化前または後に表面に凹凸部を形成した後、焼成すること、および、上記セメント混合物を押出し成形し、水和硬化前または後に表面に凹凸部を形成した後、釉薬原料を表面に塗布し焼成する。以上の構成により、焼成時の収縮率の少ない陶磁器製品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、内外装仕上げに用いる陶磁器製品の製造方法に関し、寸法精度や生産性を改良したものに関するものである。
【0002】
【従来の技術】出願人は、特願平2−199970(特開平4−89352)においてセメントとガラス質の混合組成物を成形し、水和硬化とガラス質分の焼成を利用した陶磁器材料の製造方法を提案した。
【0003】これは、セメントと、50%以上のガラス質を含む無機粉体と、軟質ガラス砕粉と、増粘剤と、水とを含むセメント混合物を押出し成形し、水和硬化後に焼成するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】先行技術では、焼成による収縮が従来のものより改善されているとは言え、実験において1〜4%の収縮を示しさらに改善する余地があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明はこのような問題点に鑑みて成されたもので、前記先行技術において副資材として実施例で6〜12%添加していた硅砂の添加量を増やすことにより、焼成時の収縮が改善されるだけでなく、先行技術で必須成分であったガラス砕粉を必要としなくても押出し成形適性が向上し、また、無機粉体の適用範囲を広げることが可能となった。
【0006】本発明の陶磁器製品の製造方法は、請求項1では、セメントと、無機粉体と、硅砂と、増粘剤と水とを必須成分とするセメント混合物を押出し成形し水和硬化後、焼成してなる陶磁器製品の製造方法において、上記無機粉体が30%以上のガラス質を含むもので、上記硅砂の含有率を上記混合物の15〜55重量%とすることを、請求項2では、上記セメント混合物を押出し成形し水和硬化後、釉薬原料を表面に塗布し焼成してなることを、請求項3では上記セメント混合物を押出し成形し、水和硬化前または後に表面に凹凸部を形成した後、焼成してなることを、請求項4では上記セメント混合物を押出し成形し、水和硬化前または後に表面に凹凸部を形成した後、釉薬原料を表面に塗布し焼成してなることを、さらに、請求項5では、請求項2および請求項4において、施釉原料を表面に塗布する前に、素焼きしてなることを技術手段として採用している。
【0007】
【作用】上記構成により、■硅砂が押出し成形の際に金型との滑り性を向上し、押出し圧力を小さくして生産性を向上させる。■硅砂の存在が押出し成形物の密度を向上し、乾燥収縮を小さくするとともに、ガラス質が30%程度の無機粉体を用いても焼成による強度を発現し、クラックも生じにくい。
【0008】第2請求項では、■焼成時の収縮が小さいので釉薬原料を施釉して焼成すると密着が良い。
【0009】第3請求項では、■押出し成形物の密度が向上しているので、凹凸加工した形状を維持しながら焼成できる。
【0010】第4請求項では、■押出し成形物の密度が向上しているので、凹凸加工した形状を維持しながら焼成でき、施釉後の焼成による収縮も小さいので密着性も良い。 第5請求項では、■施釉原料を表面に塗布する前に素焼きするので、セメント混合物中の有機分が燃焼するとともに、ある程度のガラス質の融着を生じるのでガスの発生や収縮が小さくなり釉薬のピンホール、欠け等が生じにくい。
【0011】
【実施例】以下、本願発明の構成を述べる。
【0012】本発明に用いるセメントは、ポルトランドセメント、アルミナセメント、フライアッシュセメントなどで、混合物全体の20〜70重量%である。
【0013】セメントは、焼成前の搬送性や加工性を上げるだけでなく焼成時の収縮をおさえる効果があるが、その比率が20重量%未満では水和硬化が不十分で、70重量%を越えると、後述する無機粉体の量が相対的に減るため焼成後の強度が落ちるので好ましくない。
【0014】30%以上のガラス質を含む無機粉体とは、天然無機物、無機廃棄物のうち、シラス、坑火石、フライアッシュ、スラグ等で混合物全体の25〜75重量%であり、単体またはこれらの混合体が用いられる。
【0015】上記無機粉体は、1000度C以上で焼成した際に、融着による強度の発現に寄与するが、混合比率が25%未満では焼成強度が不足し、75%を越えるとセメントが相対的に減るため、水和硬化時の強度が不足する。
【0016】なお、硅石、カオリン、タルクなどガラス質が30%未満の含有率の無機物を充填材として利用する事は可能であるが、焼成の際、融着を生じにくいので上記必須成分ではない。
【0017】また、板ガラス、ガラス瓶などアルカリガラス砕粉のうち、粒径は500μアンダーで望ましくは50μアンダーのものを0〜40重量%上記無機粉体とともに混合して、低温時から緩やかに焼成融着を生じせしめ、クラックなどの欠点を防止するには効果的であるが必須成分ではない。
【0018】硅砂は、SiOに富む中実粉体であり15〜55重量%の範囲で混合するとセメント混合物の押出し性を向上し、成形体の密度を上げるのに寄与する。
【0019】平均粒径が100μ以上でセメント粉体より少し大きく粒度分布が広いものがが良い。
【0020】すなわち、押出し成形の際に硅砂がセメント混合物と金型内面との滑り性を発現し、従来は少ない含水率では金型内で滑りにくかったセメント混合物を容易に押出し成形できるので、水が少ない分だけ成形体の密度が上がり、強度や寸法安定性の発現に寄与する。
【0021】なお、硅砂が15重量%未満であると水の混合比率を上げない限り、または、ガラス砕粉など押出し適性を上げる他材料を添加しない限り金型内で詰まりを生じ、一方、55重量%を越えると相対的にセメントと無機粉体の混合比率が下がり、水和硬化強度、焼成強度が小さくなるので好ましくない。
【0022】増粘剤は、可塑性や保形性を向上させるためのものでメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、PVA等で、混合物全体の0.2〜2重量%を添加する。
【0023】水は、混合物全体の重量に対して15〜25重量%を添加する。15重量%未満であると押出しが不可能で、25重量%を越えると、成形後の保形性が悪くなるとともに、焼成の際に余剰水分の蒸発が多く隙間が生じ収縮やクラックを生じる。
【0024】なお、上記混合物に補強繊維としてワラストナイトやスティールファイバー等を混合したり、さらに骨材としてシャモットや川砂、カオリナイト、蛇紋岩、滑石等を混合しても良い。
【0025】上記混合物を、例えば圧力20〜70kg/cm、真空度1〜20cmHg程度で押出し成形し、数時間〜数日間、養生し水和反応させるが、養生は進行させるほど好ましい。
【0026】このことにより、成形板は移送や堆積などに支障が無い程度に硬化し、焼成時にガラス質の融着が起こりやすい内部微細構造になる。
【0027】その後、焼成炉に入れ、最高温度を1000度C以上、好ましくは1000〜1300度Cで10数分〜数時間焼成して得られる。上記焼成前後に適宜昇温、冷却工程を入れる。
【0028】この際、セメントの水和により発生した消石灰が、焼成中に生石灰となり湿分を吸収して膨脹すると強度劣化をきたすので、これを防止して石灰分とガラス質とを反応させるために焼成温度は1000度C以上が必要である。
【0029】以上の方法で製造された陶磁器製品は1%以下の収縮率であり、従来10〜15%の収縮が常識とされていた陶磁器製品より遥かに寸法安定性が優れ、先行技術よりも改善されている。
【0030】第2請求項では、上述の水和硬化後に、スプレーなどで釉薬原料塗布した後、焼成してなるものである。上記の釉薬原料は、1000度C以上で焼成するので、タイルなど従来の陶磁器製品に汎用されるものが採用でき、艶やぼかし模様等変化に富んだ化粧を創出できる。また、前述のように基材の焼成による収縮が小さいので、釉薬の密着が良くクラックも生じ難く、光沢や表面硬度や耐汚染性が良好である。
【0031】第3請求項では、押出し成形後、水和硬化前に表面に型押しや切削などの凹凸加工を施すか、または水和硬化後に切刻して溝等を形成し、焼成してなるものである。具体的には押出し成形機の口がね近傍に型ロールや型ベルトを供え、押出された未硬化の板状物表面に型押して模様を転刻したり、送りコンベア上で、表面をルーターやカッターなどで切刻し、格子やストライプなど化粧目地を設ける。 本願構成によると、凹凸加工後の保形性や焼成時の収縮が少ないので金型再現性や直線性が出やすい。
【0032】第4請求項では、押出し成形後、水和硬化前に表面に型押しや切削などの凹凸加工を施したり、水和硬化後に切刻し、焼成前に釉薬原料塗布し焼成する。これにより、立体感のある外観を形成でき、疑似目地を多数有するタイルパネル調の長尺板や異形断面形状の板を得ることができる。
【0033】第5請求項では、施釉原料の塗布前に素焼きをするものである。すなわち、押出し成形後、第4請求項に示すように水和硬化前に表面に型押しや切削を施し、または、水和硬化後に切刻して凹凸加工を施した後、釉薬原料を塗布する方法、および第2請求項に示すように凹凸加工を施さずに水和硬化後に、釉薬原料を塗布する方法の改良であって、施釉原料塗布前に、増粘剤や不純物などの有機質分を燃焼させ、さらにガラス質の融着を進行させるために600度C以上で数分間ないし数時間加熱するものであるが、焼成炉設備の数量や温度調整および生産性の関係上、後工程の焼成と同様の温度で素焼きしても良い。
【0034】上記素焼き工程の後、加熱された状態のまままたは、一端冷却してから、釉薬原料の塗布し焼成する。これにより、内部の燃焼ガスの放出によるピンホールやクラックの発生が防げ、また、焼成収縮も緩和されるので釉薬の剥離や欠けなどの発生も防げる。
【0035】
【実験例】以下、実施例を述べる。
実施例1セメント29、坑火石32、硅砂20、メチルセルロース1、水17重量%を混合し、真空押し出し成形機にて、材の長手方向に幅300mm、厚さ18mm、長さ450mmの板を成形し、室内で2日放置した後80度Cで8時間養生した後、最高温度1180度Cで1時間焼成し陶磁器板を得た。
【0036】上記混合物は、押出し成形時の保形性が良好で、水和硬化後に移送可能であり、焼成による乾燥収縮が収縮率0.8%で、反りやクラックも観察され無かった。 焼成後の板の曲げ強度は平均210kg/cmで内外装仕上げ材としての強度が十分あることが分かった。
【0037】実施例2セメント25、シラス25、軟質ガラス砕粉4、硅砂29、メチルセルロース1、水16重量%を混合し、上記実施例1と同様に板を押出し成形し、養生した後、釉薬をスプレー塗布し、最高温度1170度Cで30分間焼成して陶磁器板を得た。この実施例2の収縮率は0.3%で、施釉面にクラックは観察され無かった。
【0038】焼成後の板の曲げ強度は平均205kg/cmであった。
実施例3セメント33、スラグ17、軟質ガラス砕粉8、硅砂25、メチルセルロース1、水16重量%を混合し、上記実施例1と同様に板を押出し成形し、養生した後に、ルーターにて10cm間隔で格子状の凹溝を切刻し、最高温度1170度Cで1時間焼成して陶磁器板を得た。
【0039】これにより得られた実施例3は格子状の直線が精度良く形成されており、表面加工にも適していることが分かった。また、この実施例3の収縮率は0.3%で、クラックは観察されなかった。
実施例4実施例1において、水和硬化後、実施例3に準じて切刻加工後に、実施例2に準じる釉薬原料をスプレー塗布し焼成して陶磁器板を得た。いれにより得られた実施例4は、光沢を有するタイルパネル様外観のを有しており、表面を精度良く形成できることが分かった。以上のように、本実験で収縮率の小さい表面性の良い陶磁器製品を得られることが分かった。
【0040】実施例5実施例2において同様の組成で実施例1に準じて板を押出し成形し、養生した後、最高温度1170度Cで15分間の素焼きを行い、その後、釉薬をスプレー塗布し、最高温度1170度Cで15分間焼成して陶磁器板を得た。この実施例5の収縮率は0.2%で、施釉面にピンホール、クラックは観察されず光沢に富んだ表面が得られた。焼成後の板の曲げ強度は平均205kg/cmであった。
【0041】
【発明の効果】以上のように本願発明によれば、組成物の中の硅砂が押出し成形の際に金型との滑り性を向上し、押出し圧力を小さくして生産性を向上させるので量産が可能となる。
【0042】また、硅砂は押出し成形物の密度を向上し、乾燥収縮を小さくするとともに、焼成によるガラス質の融着強度を発現し、クラックを生じにくくなり表面性良好な建築仕上げ板を供する事ができる。
【0043】第2請求項によれば、焼成時の収縮が小さいので釉薬原料を施釉して焼成すると密着性が向上し、表面が剥がれにくい化粧板がえられる。
【0044】第3請求項によれば、押出し成形物の密度が向上しているので、凹凸加工した形状を維持しながら、焼成できるのでシャープな立体感の外観が得られる。
【0045】第4請求項によれば、押出し成形物の密度が向上し凹凸加工した形状を維持ししかも、施釉後の焼成による収縮も小さいので、立体感に富み釉薬の密着性も良い陶磁器製品が得られる。
【0046】第5請求項では、施釉原料を表面に塗布する前に素焼きするので、セメント混合物中の有機分が燃焼するとともに、ある程度のガラス質の融着を生じるのでガスの発生や収縮が小さくなり釉薬のピンホール、欠け等が生じにくく光沢に富んだ化粧板が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 セメントと、無機粉体と、硅砂と、増粘剤と水とを必須成分とするセメント混合物を押出し成形し水和硬化後、焼成してなる陶磁器製品の製造方法において、上記無機粉体が30%以上のガラス質を含むもので、上記硅砂の含有率を上記混合物の15〜55重量%とすることを特徴とする陶磁器製品の製造方法。
【請求項2】 セメントと、無機粉体と、硅砂と、増粘剤と水とを必須成分とするセメント混合物を押出し成形し水和硬化後、釉薬原料を表面に塗布し焼成してなる陶磁器製品の製造方法において、上記無機粉体が30%以上のガラス質を含むもので、上記硅砂の含有率を上記混合物の15〜55重量%とすることを特徴とする陶磁器製品の製造方法。
【請求項3】 セメントと、無機粉体と、硅砂と、増粘剤と水とを必須成分とするセメント混合物を押出し成形し、水和硬化前または後に表面に凹凸部を形成した後、焼成してなる陶磁器製品の製造方法において、上記無機粉体が30%以上のガラス質を含むもので、上記硅砂の含有率を上記混合物の15〜55重量%とすることを特徴とする陶磁器製品の製造方法。
【請求項4】 セメントと、無機粉体と、硅砂と、増粘剤と水とを必須成分とするセメント混合物を押出し成形し、水和硬化前または後に表面に凹凸部を形成した後、釉薬原料を表面に塗布し焼成してなる陶磁器製品の製造方法において、上記無機粉体が30%以上のガラス質を含むもので、上記硅砂の含有率を上記混合物の15〜55重量%とすることを特徴とする陶磁器製品の製造方法。
【請求項5】 セメントと、無機粉体と、硅砂と、増粘剤と水とを必須成分とするセメント混合物を押出し成形し、水和硬化前または後に表面に凹凸部を形成するか、または、凹凸部を形成しないで素焼きした後、釉薬原料を表面に塗布し焼成してなる陶磁器製品の製造方法において、上記無機粉体が30%以上のガラス質を含むもので、上記硅砂の含有率を上記混合物の15〜55重量%とすることを特徴とする陶磁器製品の製造方法。