説明

陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法およびそれを含有する紙

【課題】 本発明は、優れた湿潤紙力性能を有し、かつ、環境上好ましくないAOXを樹脂中に含有しない湿潤紙力向上剤として有用な陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 (A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンを反応させて得られるポリアミドポリアミンに(C)ジエポキシ化合物を反応させて陽イオン性熱硬化性樹脂を製造する方法において、(C)を反応させる前、もしくは反応中に(D)酸を添加する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の湿潤紙力向上剤として有用な陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、吸着性有機ハロゲン化合物(以降AOXと記す。)を含有せず、かつ湿潤紙力性能に優れる、ポリアミドポリアミン系の陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法とその水溶液、および前記陽イオン性熱硬化性樹脂を含有する紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙の強度、特に湿潤強度を向上させる薬剤(湿潤紙力向上剤)として、ポリアミドポリアミン―エピハロヒドリン樹脂が有用であることは、例えば特開昭56−34729号公報に記載されており、公知である。しかしながら、ポリアミドポリアミン―エピハロヒドリン樹脂水溶液中には、原料として用いられるエピハロヒドリン由来の副生成物として、ジハロヒドリンの1種である1,3−ジクロロ―2−プロパノール(以下DCPと記す)を代表とするAOXが含まれている。AOXは、人体等に対する有害性の面から、近年の環境保護の気運の中、非常に注目されている物質であり、AOXを含有しない湿潤紙力向上剤の開発が望まれている。
【0003】
AOXを含有しない湿潤紙力向上剤となる樹脂を製造する方法としては、上記ポリアミドポリアミン―エピハロヒドリン樹脂の原料として用いられるエピハロヒドリンを使用せずに製造する方法がある。これまでに、エピハロヒドリンの代わりに、アミノ基と反応性を持つ官能基を有する化合物を使用することが提案されている(特許文献1〜3)。
【0004】
また、これらの課題に対して本発明者らは、エピハロヒドリンの代わりに、アミノ基と反応する、異なる2種類以上の官能基(ハロゲン基を除く)を2個以上有する架橋剤を使用する陽イオン性熱硬化性樹脂(特許文献4)を提案した。
【0005】
しかしながら、エピハロヒドリンの代わりにジエポキシ化合物を使用する樹脂については、エポキシ基とポリアミドポリアミン中のアミノ基との反応性が高い事から、反応の制御が困難であり、場合によってはゲル化を起こす事、ジエポキシ化合物の使用量が制限される事等の問題があった(特許文献3)。このようなことから、エピハロヒドリンの代わりにジエポキシ化合物を使用するにあたり、工業的に実施可能かつ有利な製造方法が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開平2−8219号公報
【特許文献2】特表平9−511551号公報
【特許文献3】特開昭56−62822号公報
【特許文献4】特願2009−65406号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた湿潤紙力性能を有し、かつ、環境上好ましくないAOXを樹脂中に含有しない湿潤紙力向上剤として有用なジエポキシ化合物を使用する陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、(A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンを反応させて得られるポリアミドポリアミンに(C)ジエポキシ化合物を反応させて陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液を製造する方法において、(C)を反応させる前、もしくは反応中に(D)酸を添加する事により、反応の制御が容易となり、かつ、得られた陽イオン性熱硬化性樹脂(I)がAOXを含有せず、さらには優れた湿潤紙力性能を有する湿潤紙力向上剤であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、優れた湿潤紙力性能を有することはもちろん、環境上好ましくないAOXを樹脂中に含有しない湿潤紙力向上剤につき、工業的に実施可能かつ有利な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明においては、まず(A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンとの縮合反応により、ポリアミドポリアミンを生成させる。本発明における(A)脂肪族ジカルボン酸類とは、分子内に2個のカルボキシル基を有する脂肪族化合物およびその誘導体の総称を意味する。分子内に2個のカルボキシル基を有する脂肪族化合物としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の遊離酸が挙げられる。また、分子内に2個のカルボキシル基を有する脂肪族化合物の誘導体としては、前記遊離酸のエステル類や酸無水物などが挙げられ、これらの中でもグルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、およびこれら遊離酸のエステル類や酸無水物が好ましい。
これらの(A)脂肪族ジカルボン酸類は、一種類のみ用いても、また二種類以上併用してもよい。さらには、これらの脂肪族ジカルボン酸類とともに、本発明の効果を阻害しない範囲で、芳香族系など、他のジカルボン酸類を併用してもよい。また(A)脂肪族ジカルボン酸類は通常、一括で添加されるが、2回以上に分割して添加することもできる。
【0011】
本発明における(B)ポリアルキレンポリアミンは、分子内に2個の第1級アミノ基および少なくとも1個の第2級アミノ基を有する脂肪族化合物であり、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミンなどが挙げられ、これらの中でもジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イミノビスプロピルアミンが好ましい。
これらの(B)ポリアルキレンポリアミンは、一種類のみ用いても、また二種類以上併用してもよい。また、エチレンジアミンやプロピレンジアミンのような脂肪族ジアミンを、本発明の効果を阻害しない範囲で上記のポリアルキレンポリアミンと併用することもできる。
【0012】
本発明における(A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンとのポリアミド化反応において、(A)1モルに対し、(B)を0.5〜2モルの範囲で、好ましくは0.5〜1.5モルの範囲で、より好ましくは0.8〜1.2モルの範囲で反応させる。またこの際、本発明により得られる水溶性樹脂の性能を阻害しない範囲で、アミノカルボン酸類を併用することもできる。アミノカルボン酸類の例としては、グリシン、アラニン、アミノカプロン酸のようなアミノカルボン酸およびそのエステル誘導体、カプロラクタムのようなラクタム類などが挙げられる。
【0013】
ポリアミド化反応は加熱下で行われ、その際の温度は、通常、100〜250℃であり、好ましくは130〜200℃である。そして、生成ポリアミドポリアミンを50重量%水溶液としたときの25℃における粘度が400〜1000mPa・sとなるまで反応を続ける。ポリアミド化反応終了時の粘度が400mPa・sより低いと、最終製品である陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液が十分な湿潤紙力向上効果を発現せず、また1000mPa・sを越えると、最終製品の安定性が悪くなり、ゲル化に至ることが多い。
【0014】
(A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンとのポリアミド化反応に際しては、触媒として、硫酸やスルホン酸類を用いることができる。スルホン酸類としては、ベンゼンスルホン酸やパラトルエンスルホン酸などが挙げられる。酸触媒は、(B)ポリアルキレンポリアミン1モルに対して0.005〜0.1モルの範囲で用いるのが好ましく、さらには0.01〜0.05モルの範囲がより好ましい。
【0015】
こうして得られるポリアミドポリアミンは次に、(C)ジエポキシ化合物との反応に供される。
【0016】
ここで用いる(C)ジエポキシ化合物とは、分子中にエポキシ環を2個含む分子構造であればよく、具体的にはジエポキシブタン、2,2’−メチレンビスオキシラン、1,2−ビスオキシラニルエタン、2,2’−トリメチレンビスオキシラン、1,2:7,8−ジエポキシオクタン、1,2:8,9−ジエポキシノナン、1,2:3,4−ジエポキシシクロペンタン、1,2:3,4‐ジエポキシシクロヘキサン、1,2:3,4−ジエポキシシクロヘプタン、1,2:3,4‐ジエポキシシクロオクタン、1,2:5,6−ジエポキシシクロオクタン、ビシクロノナジエンジエポキシド、3−オキシラニル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、ジアンヒドロガラクチトール、2,3:5,6−ジエポキシ−2,6−ジメチル‐4‐ヘプタノン、1,2:5,6−ジエポキシ−4,7−メタノヒドリンダン、1,2,3,4,5,6‐ヘキサメチル‐2,3:5,6‐ジエポキシビシクロ[2.2.0]ヘキサン、γ‐テルピネンジエポキシド、3−メチル−3−[2−(3,3−ジメチルオキシラニル)エチル]オキシランメタノール、1−イソプロピル−4−メチル−1,2:3,4−ジエポキシシクロヘキサン、1,2:18,19−ジエポキシノナデカン−5,13−ジオール、1,3−ジメチル−2,3:5,6−ジエポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸メチル、1,2−ジメチル−2,3:5,6−ジエポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸メチル、1−(アセトキシメチル)−3,5−ジメチル−2,3:5,6−ジエポキシシクロヘキサン、1,2:5,6−ジエポキシ−3,4−ジエトキシヘキサンなどのジエポキシ化合物や、ジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジル、1,4−ビス(グリシジルオキシ)ブタン、2,2’−[エチレンビス(オキシエチレンオキシメチレン)]ビス(オキシラン)、2−ヒドロキシブタン二酸ジグリシジル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2−ビス(グリシジルオキシ)プロパン、1,3−ビス(グリシジルオキシ)ブタン、2,3−ブチレングリコールジグリシジルエーテル、1,2−ペンチレングリコールジグリシジルエーテル、1,3−ペンチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ペンチレングリコールジグリシジルエーテル、1,5−ペンチレングリコールジグリシジルエーテル、2,3−ペンチレングリコールジグリシジルエーテル、2,4−ペンチレングリコールジグリシジルエーテル、1,2−ヘキシレングリコールジグリシジルエーテル、1,3−ヘキシレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ビス(グリシジルオキシ)ヘキサン、1,8−オクチレングリコールジグリシジルエーテル、1,3−ビス(グリシジルオキシ)−2−プロパノール、ジグリシジルレソルシノールエーテル、4,4’−ビス(グリシジルオキシ)ビフェニル、メチルホスホン酸ジグリシジル、ジグリシジルジメチルアミニウム、ビス(2,3‐エポキシプロピル)スルフィド、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルファンなどのジグリシジル化合物が挙げられる。中でも、1,2:7,8−ジエポキシオクタン、エチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。
【0017】
これらの(C)ジエポキシ化合物は1種類で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0018】
ポリアミドポリアミンと(C)ジエポキシ化合物との反応は通常、反応物濃度10〜80重量%、好ましくは10〜60重量%の水溶液で行われる。この反応は、5〜95℃の温度範囲で2〜24時間反応を行うのが好ましい。本反応については、保温温度や反応濃度を何段階かに設定して、実施することも可能である。また、ポリアミドポリアミン中の第2級アミノ基に対する(C)ジエポキシ化合物のモル比は、0.1〜3.0であり、0.2〜1.5がより好ましい範囲である。(C)ジエポキシ化合物は、通常、一括で添加されるが、2回以上に分割して添加することもできる。
【0019】
また(C)ジエポキシ化合物添加終了後に反応系に水を加えて希釈してもよい。
【0020】
本反応は通常水溶液中で行われるが、(C)ジエポキシ化合物、または(D)酸を溶解することのできる溶剤、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等の溶剤を単独あるいは、混合使用してもよい。また、これらの溶剤を後工程で、蒸留などの操作により除去する事もできる。
【0021】
ポリアミドポリアミンと(C)ジエポキシ化合物との反応に際し、(D)酸を添加する。(D)酸の添加工程はポリアミドポリアミンに(C)ジエポキシ化合物を添加する前、もしくはそれらの反応中に設けることができる。(D)酸の添加については、系内の増粘状況により、複数回に渡っても良い。(D)酸としては、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、蟻酸、酢酸などの有機酸を単独もしくは混合して使用することができる。この(D)酸を添加する工程を設ける事により、ポリアミドポリアミン中のアミノ基とジエポキシ化合物との架橋反応が抑制され、急激な増粘やゲル化を伴わずに、任意の粘度の樹脂溶液を得ることができる。
【0022】
(D)酸の添加量は目的とする樹脂やその粘度により、調節される。反応中の増粘が速い樹脂については、(D)酸の添加量を多くすれば良く、また増粘が遅い際には、(D)酸の添加量を少なくするか、もしくは、(D)酸の中和量を超えない範囲で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機の塩基やジメチルアミン、ジエチルアミンなどのアミン類を用いて調整することもできる。(D)酸の添加量については通常、ポリアミドポリアミン溶液もしくはポリアミドポリアミンと(C)ジエポキシ化合物との反応溶液のpHが6〜8になるまで添加する事により、上記目的を効果的に達成することができる。
【0023】
反応終了後は、必要により水で希釈した後、当該樹脂に長期貯蔵安定性を付与するため、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸のような酸を加えて、pHを1.0〜8.0に調整し、目的物である陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液を得る。
【0024】
本発明の陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液は、優れた湿潤紙力向上効果を紙に付与し、しかもAOXを含有せず、かつ、卓越した安定性を有するという、極めて優れた性質を有している。ここでいうAOXには、エピハロヒドリンに由来して副反応で生成するジハロヒドリン(例えば、DCP)およびモノハロヒドリン(例えば、3−ハロ−1,2−プロパンジオール)が包含される。例えば、エピハロヒドリンの1種であるエピクロロヒドリンを原料とした場合は、副反応によって、DCPおよび3−クロロ−1,2−プロパンジオールが生成する可能性がある。
【0025】
本発明によれば、かかる優れた性質を有する陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液であるポリアミドポリアミン−エポキシ樹脂水溶液を反応中の急激な増粘やゲル化を起こすことなく、容易に製造できる。
【0026】
こうして得られる陽イオン性熱硬化性樹脂はポリアミドポリアミン−エポキシ樹脂であり、本発明において湿潤紙力向上剤として用いられる。当該ポリアミドポリアミン−エポキシ樹脂は、例えば、抄紙された紙にサイズプレス、ゲートロールコーター等を用いて、水溶液の形で塗布またはスプレーしたり、この樹脂を含む水溶液に紙を浸漬して紙にこの樹脂を含浸するなどの方法で紙中に含有させても、湿潤紙力向上効果を発揮するが、パルプスラリーにこの樹脂を添加して抄紙する、いわゆる内添法において、それもパルプの乾燥重量を基準に0.1重量%以上添加した場合に、高い効果を発揮する。パルプの乾燥重量基準でこの樹脂の添加量が0.1重量%未満の場合でも、湿潤紙力向上効果は発揮されるが、0.1重量%以上用いた場合に特にその効果が顕著である。この樹脂の添加量の上限は、5重量%程度までとするのが好ましい。
【0027】
本発明の湿潤紙力向上剤を含有する紙の製造法としては、このポリアミドポリアミン−エポキシ樹脂を、パルプとよく混合できるように添加すればよく、その添加時期に特別な制限はない。また、本発明の方法を実施するにあたり、抄紙自体は従来から公知の方法に従って行うことができる。すなわち、パルプの水性分散液に、前記のポリアミドポリアミン−エポキシ樹脂を添加し、よく混合してから抄紙すればよい。
【0028】
この際、紙の製造に通常用いられている薬剤も、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。例えば、硫酸アルミニウム(いわゆる硫酸バンド)は、サイズ剤として、あるいはポリアクリルアミド等の定着剤として、一般的に使用されており、本発明においても用いることができる。また、他のサイズ剤なども使用可能である。
【0029】
本発明の紙とは本発明によって得られる陽イオン性熱硬化性樹脂が湿潤紙力向上剤として含有されており、用途としては例えばPPC用紙・感光紙原紙・感熱紙原紙のような情報用紙、ティシュペーパー・タオルペーパー・ナプキン原紙のような衛生用紙、化粧板原紙・壁紙原紙・印画紙用紙・積層板原紙・食品容器原紙のような加工原紙、重袋用両更クラフト紙・片艶クラフト紙などの包装用紙、電気絶縁紙、耐水ライナー、耐水中芯、新聞用紙、紙器用板紙等が該当し、何れの抄紙工程においても、抄造された紙に有用な湿潤紙力向上効果を与える。なお、本発明でいう紙には板紙も含まれる。
【0030】
本発明に使用される原料パルプは特に限定されるものではなく、木材チップより得られるパルプ原料としては、クラフトパルプ、サルファイトパルプの晒し並びに未晒し化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプなどの晒し又は未晒し高収率パルプなどを挙げることができる。また、用途、品質に応じて合成繊維、内添填料、ガラス繊維など適宜選択/配合できる。
【0031】
本発明により得られる陽イオン性熱硬化性樹脂は、紙の湿潤紙力向上剤としての用途のみならず、製紙工程中に添加される填料の歩留向上剤、製紙速度を向上させるために使用される濾水性向上剤、あるいは工場排液などの汚水中に含まれる微粒子を除去するための沈殿凝集剤としても使用することができる。
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中にある%および量比は、特にことわらないかぎり重量基準である。また粘度は、ブルックフィールド粘度計により測定した値である。
【0033】
(製造例1)
((A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンの反応例)
温度計、リービッヒ冷却器および撹拌棒を備えた四つ口フラスコに、ジエチレントリアミン520g(5.04モル)、水37.3g、アジピン酸700g(4.79モル)および71%硫酸15.3g(0.11モル)を仕込み、145℃まで昇温し、1時間還流した後、水を抜きながら、140〜160℃で12時間反応させた。その後、水1006gを徐々に加えて、ポリアミドポリアミンの水溶液を得た。このポリアミドポリアミン水溶液は、固形分51%、25℃における粘度460mPa・sであった。
【実施例1】
【0034】
温度計、還流管および撹拌棒を備えた四つ口フラスコに、製造例1で得られたポリアミドポリアミン水溶液50.0g(2級アミノ基として0.12モル)と71%硫酸7.5gを加え、pH7.0に調整した。その後、反応物濃度が25%になるように水94.8gを仕込み、エチレングリコールジグリシジルエーテル10.4g(0.06モル(2級アミノ基に対する架橋剤のモル比0.5))を液温27〜30℃で15分間かけて滴下した後、30〜55℃で保温して増粘させた。その後、冷却しながら、71%硫酸1.5g、水88.6gを加え、固形分濃度16%、粘度34mPa・s(25℃)、pH3.3のポリアミドポリアミン−エポキシ樹脂水溶液(a)を得た。
【実施例2】
【0035】
温度計、還流管および撹拌棒を備えた四つ口フラスコに、製造例1で得られたポリアミドポリアミン水溶液40.0g(2級アミノ基として0.10モル)に71%硫酸6.1gを加え、pH7.0に調整した。その後、反応物濃度が25%になるように水95.7gを仕込み、エチレングリコールジグリシジルエーテル16.6g(0.10モル(2級アミノ基に対する架橋剤のモル比1.0))を液温27〜30℃で30分間かけて滴下した後、30〜60℃で保温して増粘させた。その後、冷却しながら、71%硫酸1.3g、水87.8gを加え、固形分濃度16%、粘度35mPa・s(25℃)、pH3.4のポリアミドポリアミン―エポキシ樹脂水溶液(b)を得た。
【実施例3】
【0036】
温度計、還流管および撹拌棒を備えた四つ口フラスコに、製造例1で得られたポリアミドポリアミン水溶液50.0g(2級アミノ基として0.12モル)に酢酸6.3gを加え、pH7.0に調整した。その後、反応物濃度が25%になるように水93.8gを仕込み、1,2:7,8−ジエポキシオクタン8.5g(0.06モル(2級アミノ基に対する架橋剤のモル比0.5))を液温27〜30℃で30分間かけて滴下した後、25〜50℃で保温して増粘させた。その後、冷却しながら、71%硫酸7.7g、水113.1gを加え、固形分濃度14%、粘度28mPa・s(25℃)、pH3.4のポリアミドポリアミン―エポキシ樹脂水溶液(c)を得た。
【0037】
(比較例1)
ポリアミドポリアミンとエチレングリコールジグリシジルエーテルとの反応前に硫酸を添加しない事以外は実施例1と同様に反応を実施した所、30℃、保温1時間でゲル化した。
【0038】
実施例1〜3で得られたポリアミドポリアミン―エポキシ樹脂水溶液について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0039】
(DCP含有量)
実施例1〜3のポリアミドポリアミン―エポキシ樹脂水溶液に関して、AOXの代表物質として、DCP含有量をガスクロマトグラフィーにより測定した。
ガスクロマトグラフィー条件
装置:島津製作所社製GC−14B
カラム:DB−WAX(J&W社製)L=30m、Φ=0.53mm、D=0.25μmキャリヤー:窒素(ガス流量=10.0ml/min)
分析条件:
注入口温度;300℃
検出器温度;300℃
温度プログラム;Oven 50℃×5min、
Rate 10℃/min、
Final 220℃×10min
【0040】
(保存安定性)
得られた水溶液を50℃、2週間放置後の性状により判断した。
○:粘度の変化が少ない。×:ゲル化している、あるいは粘度の低下が激しい。
【0041】
(湿潤紙力強度)
実施例1〜3で得られた水溶液を用いて、以下の抄紙試験を行った。比較試験としてポリアミドポリアミン―エポキシ樹脂水溶液を添加しない紙も併せて抄紙した(比較例2)。得られた紙の湿潤引っ張り強さをISO 1924/1−1992に準じて測定し、結果を湿潤裂断長として表1に示した。
【0042】
(抄紙条件)
使用パルプ:N−BKP/L−BKP=1/1
叩解度:383cc
樹脂添加量:0.9%(樹脂固形分の対パルプ乾燥重量)
熱処理条件:150℃、10分間
抄紙平均米坪量:60g/m
【0043】
【表1】


1)0.0005%未満(検出限界)
EGDE:エチレングリコールジグリシジルエーテル
DEO:1,2:7,8−ジエポキシオクタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンを反応させて得られるポリアミドポリアミンに(C)ジエポキシ化合物を反応させて陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液を製造する方法において、(C)を反応させる前、もしくは反応中に(D)酸を添加する事を特徴とする陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られた陽イオン性熱硬化性樹脂。
【請求項3】
請求項2に記載の陽イオン性熱硬化性樹脂を有効成分とする湿潤紙力向上剤。
【請求項4】
請求項3に記載の湿潤紙力向上剤を含有することを特徴とする紙。

【公開番号】特開2011−12128(P2011−12128A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155979(P2009−155979)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】