説明

陽極材固定テープ

【課題】導電性塗料方式の電気防食工法において、鉄筋コンクリート構造物へのはつり作業を要することなく、極めて良好な作業環境下にて容易かつ迅速に陽極材を鉄筋コンクリート構造物に固定することができる陽極材固定テープを提供する。
【解決手段】陽極材固定テープは、粘着剤層7Bを介して下地モルタル層2に貼着され、この状態で線状の陽極材3が保持部7Cに保持される。そして、この陽極材固定テープは、陽極材3と共に、下地モルタル層2に被覆される導電性塗料層4中に埋め込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物の塩害を防止するための電気防食工法のうち、外部直流電源を使用する導電性塗料方式の電気防食工法に好適に使用することができる陽極材固定テープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
沿岸部に建造された桟橋、鉄道橋、道路橋などの鉄筋コンクリート構造物や、海砂を使用した各種の鉄筋コンクリート構造物においては、塩分の浸入により内部の鉄筋が徐々に腐食して膨張し、その周囲のコンクリートが鉄筋の膨張により破壊するという塩害が多々発生している。
【0003】
このような鉄筋コンクリート構造物の塩害の防止および補修の一つの手段として、鉄筋コンクリート構造物の表面に形成した導電性塗料層から内部の鉄筋に向けて微弱な直流電流を流し続けることにより、鉄筋の電位をマイナスに保持して鉄筋の腐食を防止するという、外部直流電源を使用した導電性塗料方式の電気防食工法が従来一般に知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
ここで、特許文献1には、外部直流電源のプラス極に接続される線状または帯状の不溶性電極(陽極材)を一次陽極として鉄筋コンクリート構造物に固定し、この一次陽極としての陽極材を導電性充填材を介して二次陽極としての導電性塗料層で被覆することが記載されている。
【0005】
また、特許文献1には、一次陽極としての不溶性電極(陽極材)を鉄筋コンクリート構造物に固定する方法として、不溶性電極(陽極材)を収容する細溝を鉄筋コンクリート構造物の表面に形成し、かつ、不溶性電極(陽極材)を挟んで固定するためのバンド状固定具の挿入孔を細溝内に形成することが記載されている。
【0006】
なお、鉄筋コンクリート構造物の電気防食における陽極の設置方法を開示する特許文献2には、鉄筋コンクリート構造物の表面に長溝を切削すると共に、帯状の陽極材を樹脂製の陽極材保持部材に装着し、この陽極材保持部材と共に帯状の陽極材を鉄筋コンクリート構造物の表面の長溝内に押し込むことで、陽極材を鉄筋コンクリート構造物に固定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3053688号公報
【特許文献2】特開2008−169462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1あるいは特許文献2に記載されているような従来一般の電気防食工法においては、外部直流電源のプラス極に一次陽極として接続される不溶性電極などの陽極材を鉄筋コンクリート構造物に固定するに当たり、鉄筋コンクリート構造物の表面に少なくとも細溝を形成する必要があり、そのためのはつり作業に多大な手間が掛かるという問題がある。また、はつり作業に伴って粉塵や騒音が発生するため、その作業環境が劣悪化するという問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点に対応してなされたものであり、導電性塗料方式の電気防食工法において、鉄筋コンクリート構造物へのはつり作業を要することなく、極めて良好な作業環境下にて容易かつ迅速に陽極材を鉄筋コンクリート構造物に固定することができる陽極材固定テープを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するため、本発明に係る陽極材固定テープは、鉄筋コンクリート構造物に貼着可能な粘着剤層をテープ基材の片面に有する粘着テープであって、テープ基材には、線状または帯状の陽極材を保持するための保持部が一体に形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る陽極材固定テープは、導電性塗料方式の電気防食工法において、陽極材を鉄筋コンクリート構造物に固定するために使用される。その際、本発明の陽極材固定テープは、テープ基材が粘着剤層を介して鉄筋コンクリート構造物に貼着され、この状態でテープ基材に一体に形成された保持部に線状または帯状の陽極材が保持される。そして、この陽極材固定テープは、鉄筋コンクリート構造物に被覆される導電性塗料層中に陽極材と共に埋め込まれる。
【0012】
本発明の陽極材固定テープにおいて、テープ基材が多数の網目または孔目を有する網状に形成されていると、その網目または孔目に導電性塗料が浸入することで、テープ基材が導電性塗料層中に確実に埋め込まれるので好ましい。
【0013】
また、本発明の陽極材固定テープにおいて、テープ基材が導電性樹脂からなり、粘着剤が導電性粘着剤からなる場合には、一次陽極としての陽極材から二次陽極としての導電性塗料層への電気的導通状態が良好に保たれるので好ましい。さらに、テープ基材は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのように、陽極材の酸化環境においても耐久性を有する材料で構成されているのが好ましい。
【0014】
ここで、テープ基材に吸水性がないと、導電性塗料は、吸水性のあるコンクリートとの境で乾燥速度の差から亀裂が生じるおそれがある。そこで、テープ基材は、ガラス繊維のように水に濡れて吸水するもの、例えば、ガラスクロスやポリエチレンにカーボンクロスを貼ったものとするのが好ましい。
【0015】
また、粘着剤層が酸化や吸水によって膨潤すると、テープ基材を埋め込んだ導電性塗料が剥離するおそれがある。そこで、粘着剤層の粘着剤は、膨潤し難い耐膨潤性粘着剤とするのが好ましい。
【0016】
ここで、本発明の陽極材固定テープにおいて、陽極材を保持するための保持部は、テープ基材の幅方向の両側または片側、あるいは幅方向の中央部に形成された複数の屈曲片により構成することができる。この複数の屈曲片は、テープ基材の長手方向に連続的に配列されていてもよく、あるいは、所定間隔を開けて間欠的に配列されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る陽極材固定テープは、テープ基材が粘着剤層を介して鉄筋コンクリート構造物に貼着され、この状態でテープ基材に一体に形成された保持部に線状または帯状の陽極材が保持される。従って、本発明の陽極材固定テープによれば、鉄筋コンクリート構造物へのはつり作業を要することなく、極めて良好な作業環境下にて容易かつ迅速に陽極材を鉄筋コンクリート構造物に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る陽極材固定テープを使用した電気防食工法が適用される鉄筋コンクリート構造物を模式的に示す斜視図である。
【図2】一実施形態に係る陽極材固定テープの部分斜視図である。
【図3】一実施形態に係る陽極材固定テープを使用した電気防食工法の各工程を示す鉄筋コンクリート構造物の部分断面図であり、(a)は下地処理工程、(b)は陽極材固定テープ貼着工程、(c)は陽極材固定工程をそれぞれ示す。
【図4】一実施形態に係る陽極材固定テープを使用した電気防食工法の各工程を示す鉄筋コンクリート構造物の部分断面図であり、(a)は導電性塗料層形成工程、(b)は表面保護層形成工程をそれぞれ示す。
【図5】一実施形態に係る陽極材固定テープの変形例を示す部分斜視図である。
【図6】一実施形態に係る陽極材固定テープの他の変形例を示す部分斜視図である。
【図7】(a)〜(e)は、図4〜図6に示した陽極材固定テープの保持部の異なる変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照して本発明に係る陽極材固定テープの実施の形態を説明する。一実施形態の陽極材固定テープは、例えば図1に模式的に示した鉄筋コンクリート構造物1の内部の鉄筋1Aが塩害により腐食して膨張し、その周囲のコンクリート1Bが膨張して破壊するのを未然に防止するための導電性塗料方式の電気防食工法に使用されるものである。
【0020】
ここで、一般的な導電性塗料方式の電気防食工法では、コンクリート1Bの表面に下地モルタル層2を形成し、この下地モルタル層2の表面に線状(または帯状)の陽極材3を固定する。続いて、陽極材3を埋め込むように導電性塗料層4を下地モルタル層2の表面に形成し、その導電性塗料層4を表面保護層5で覆う。そして、陽極材3を外部直流電源6のプラス極に一次陽極として接続し、各鉄筋1Aを外部直流電源6のマイナス極に接続する。
【0021】
これにより、導電性塗料方式の電気防食工法では、一次陽極としての陽極材3から二次陽極としての導電性塗料層4、下地モルタル層2、コンクリート1Bを経由して微弱な直流電流が各鉄筋1Aの表面に流れ、こうして各鉄筋1Aの腐食が防止される。
【0022】
ここで、一実施形態の陽極材固定テープは、例えば図1に示した下地モルタル層2の表面に線状の陽極材3を固定するために使用される。この陽極材固定テープ7は、図2に拡大して示すように、所定幅の長尺のテープ基材7Aの片面に粘着剤層7Bが形成された粘着テープであって、テープ基材7Aの幅方向の両側部には、線状の陽極材3を保持するための保持部7C,7Cが一体に形成されている。
【0023】
保持部7C,7Cは、テープ基材7Aの両側部をそれぞれ内側に向けて粘着剤層7Bとは反対側にループ状ないしヘアピン状に折り返した断面形状を有する。そして、この保持部7C,7Cは、テープ基材7Aの長手方向に所定間隔で配列されて幅方向に延びる複数のスリット7Dにより、複数の舌片に分割されている。
【0024】
このため、一実施形態の陽極材固定テープ7は、図示しない剥離紙を粘着剤層7Bに添着することにより、この剥離紙側を内側にして巻いたリール状で保管することができる。
【0025】
つぎに、図3および図4を参照して、導電性塗料方式の電気防食工法の各工程と共に一実施形態の陽極材固定テープ7の使用例を説明する。この導電性塗料方式の電気防食工法は、図3の(a)に示す下地処理工程、図3の(b)に示す陽極材固定テープ貼着工程、図3の(c)に示す陽極材固定工程、図4の(a)に示す導電性塗料層形成工程、図4の(b)に示す表面保護層形成工程の各工程を備えている。
【0026】
図3の(a)に示す下地処理工程では、サンドブラストなどにより清浄にしたコンクリート1Bの表面に適宜の吸水防止剤を塗布し、その後、導電性塗料層4にアルカリ成分を供与するための下地モルタル層2を厚さ5mm程度に塗布する。なお、吸水防止剤としては、アクリルエマルション希釈水溶液などが使用できる。
【0027】
図3の(b)に示す陽極材固定テープ貼着工程では、図2に示した陽極材固定テープ7の粘着剤層7Bから図示しない剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層7Bを下地モルタル層2の表面に押し付けて陽極材固定テープ7を下地モルタル層2の表面に貼着する。
【0028】
そして、図3の(c)に示す陽極材固定工程では、陽極材固定テープ7の片側の保持部7Cの内側に線状の陽極材3を挿通して陽極材3を下地モルタル層2上に固定する。ここで、陽極材3としては、例えば直径0.8mmのプラチナ・ニオブ銅線を使用することができる。この陽極材3は、陽極材固定テープ7の長手方向に沿って保持部7Cの内側に挿通してもよいし、陽極材固定テープ7の幅方向に沿って保持部7Cの内側に挿通してもよい。
【0029】
図4の(a)に示す導電性塗料層形成工程では、下地モルタル層2の表面に貼着された陽極材固定テープ7と共に陽極材3を埋め込むように、下地モルタル層2の表面に導電性塗料層4を形成する。この導電性塗料層4は、例えば炭素繊維などの導電性短繊維を含んだアクリル樹脂系の一液性塗料をローラー施工または吹付け施工により塗布して形成する。その後、図4の(b)に示すように、導電性塗料層4の表面に保護塗料を塗布して表面保護層7を形成する。
【0030】
このように、一実施形態の陽極材固定テープ7を使用した導電性塗料方式の電気防食工法では、一次陽極としての陽極材3を鉄筋コンクリート構造物1に固定するに当たり、従来のように、陽極材3を埋設するための長溝をはつり作業によりコンクリート1B(下地モルタル層2)の表面に形成する必要が全くない。
【0031】
従って、一実施形態の陽極材固定テープ7によれば、鉄筋コンクリート構造物1へのはつり作業を要することなく、粉塵や騒音の発生しない極めて良好な作業環境下にて迅速かつ容易に陽極材3を鉄筋コンクリート構造物1(下地モルタル層2)に固定することができる。
【0032】
本発明に係る陽極材固定テープは、前述した一実施形態に限定されるものではない。例えば、図3に示した陽極材固定テープ7の保持部7C,7Cは、テープ基材7Aの長手方向に連続的に配列されているが、この保持部7C,7Cは、図5に示すように、テープ基材7Aの長手方向に所定間隔を開けて間欠的に配列された複数の屈曲片として構成してもよい。
【0033】
また、陽極材固定テープ7のテープ基材7Aおよび保持部7C,7Cは、図6の(a)に示すように多数の網目を有する網状(ネット状)に形成されていてもよいし、あるいは、図6の(b)に示すように多数の孔目を有する網状(ネット状)に形成されていてもよい。これらの場合、図4の(a)に示した導電性塗料層形成工程においては、導電性塗料が多数の網目または孔目に浸入することで、テープ基材7Aが導電性塗料層4中に確実に埋め込まれるので好ましい。
【0034】
さらに、陽極材固定テープ7の保持部7Cは、図7の(a)に示すように、テープ基材7Aの幅方向の片側にのみ形成してもよく、また、この保持部7Cは、図7の(b)に示すように、テープ基材7Aの幅方向の中央部に配置してもよい。
【0035】
また、図7の(a)に示した保持部7Cは、図7の(c)に示すように扁平化された保持部7Eに変更してもよい。この保持部7Eは、帯状に形成された陽極材3を保持するのに好適である。
【0036】
さらに、図7の(a)に示した保持部7Cは、図7の(d)に示すようにテープ基材7Aの幅方向の内側に巻かれた断面形状の保持部7Fに変更してもよいし、あるいは図7の(e)に示すようにテープ基材7Aの幅方向の外側に巻かれた保持部7Gに変更してもよい。
【0037】
ここで、陽極材固定テープ7のテープ基材7Aは、ニッケルやステンレスなどの導電性金属のファイバーが添加された導電性樹脂で構成することができる。また、陽極材固定テープ7の粘着剤層7Bは、エポキシ樹脂などからなる有機バインダーにニッケル粉やカーボン粉などからなる導電フィラーが混錬された導電性粘着剤で構成することができる。この場合、一次陽極としての陽極材3から二次陽極としての導電性塗料層4への電気的導通状態が良好に保たれるので好ましい。
【符号の説明】
【0038】
1 :鉄筋コンクリート構造物1
1A:鉄筋
1B:コンクリート
2 :下地モルタル層
3 :陽極材
4 :導電性塗料層
5 :表面保護層
6 :外部直流電源
7 :陽極材固定テープ
7A:テープ基材
7B:粘着剤層
7C:保持部
7D:スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物に貼着可能な粘着剤層をテープ基材の片面に有する粘着テープであって、テープ基材には、線状または帯状の陽極材を保持するための保持部が一体に形成されていることを特徴とする陽極材固定テープ。
【請求項2】
前記テープ基材が多数の網目または孔目を有する網状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の陽極材固定テープ。
【請求項3】
前記テープ基材が導電性樹脂からなり、前記粘着剤が導電性粘着剤からなることを特徴とする請求項1または2に記載の陽極材固定テープ。
【請求項4】
前記保持部は、前記テープ基材に形成された複数の屈曲片により構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1の請求項に記載の陽極材固定テープ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−92393(P2012−92393A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240663(P2010−240663)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000232759)日本防蝕工業株式会社 (21)
【Fターム(参考)】