説明

陽電子消滅特性測定装置及び陽電子消滅特性測定方法

【課題】 被測定体(被測定物質)から試験片を切り出さなくても精度よく陽電子の消滅特性を測定する。
【解決手段】 陽電子消滅特性測定装置10は、陽電子線源と、陽電子線源で生成された陽電子が消滅するときに発生する放射線を検出する放射線検出手段14と、陽電子線源で生成された陽電子のうち被測定体に入射されなかった陽電子を検出する陽電子検出手段40を有している。陽電子線源は、被測定体Sと陽電子検出手段とに挟まれた状態で配置されている。消滅特性算出手段50は、放射線検出手段14で検出される放射線のうち、陽電子検出手段40で検出された陽電子が消滅したときに発生したと推定される放射線を除いて、被測定体S内における陽電子の消滅特性を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、被測定体に入射されて被測定体内で消滅する陽電子の消滅特性を測定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
22Naや68Geなどの陽電子線源(陽電子放出核種)から放出される陽電子が物質に照射されると、照射された陽電子は物質内を飛行した後に物質内の電子と結合して対消滅する。物質内に空孔(欠陥)が存在すると、その空孔に陽電子は捕捉され、空孔が存在しない場合と比較して消滅するまでの時間が長くなる。また、物質内に空孔(欠陥)が存在する場合、陽電子が消滅する際に放出する放射線(γ線)のエネルギースペクトルの分布が、空孔が存在しない場合のエネルギースペクトル分布と比較して相違する。このため、物質内に照射された陽電子が消滅するまでの時間や、物質内に照射された陽電子が消滅する際の放射線のエネルギースペクトル分布が分かれば、空孔(欠陥)に関連した物質の材料特性を推定することができる。そこで、陽電子の消滅特性を測定することで、ショットピーニング加工の評価や、原子炉に用いられている部材の疲労状態の観測について研究が行われている。
【0003】
陽電子の消滅特性を測定する方法としては、測定対象となる被測定体(被測定物質)から切り出された2枚の試験片により陽電子線源を挟み込み、陽電子が消滅する際の放射線(γ線)を測定する方法が知られている。この方法では、陽電子線源から放出される陽電子の全てが試験片に照射されるため、精度よく陽電子の消滅特性を測定することができる。しかしながら、このような方法では、被測定体から試験片を切り出さなくてはならず、被測定体を非破壊で検査することができない。
【0004】
そこで、測定対象となる被測定体から試験片を切り出すことなく、被測定体の陽電子消滅特性を測定する方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1に開示された測定方法では、陽電子線源と被測定体の間に陽電子検出器を配置し、陽電子線源から放出される陽電子のうち陽電子検出器で検出された陽電子のみを被測定体に照射するように構成している。そして、陽電子検出器で陽電子が検出された場合にのみ、その後の陽電子消滅による放射線(γ線)を検出し、この検出結果を用いて陽電子の消滅特性を算出する。これによって、陽電子線源から放出される陽電子のうち被測定体に照射されなかった陽電子が消滅する際に発生する放射線(γ線)がノイズとして除去される。その結果、陽電子線源を2枚の試験片で挟み込まなくても、精度よく陽電子の消滅特性が測定できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−28849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の方法では、陽電子線源と被測定体の間に陽電子検出器を配置するため、陽電子検出器に遮蔽される分だけ、陽電子線源から被測定体に照射される陽電子の数が減少する。また、陽電子検出器内で陽電子が消滅する場合があり、その場合に測定される陽電子消滅による放射線(γ線)の検出情報はノイズとなり、陽電子の消滅特性の測定精度を低下させてしまう。
【0007】
本願は、被測定体(被測定物質)から試験片を切り出さなくても精度よく陽電子の消滅特性を測定することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書が開示する陽電子消滅特性測定装置は、被測定体に入射されて被測定体内で消滅する陽電子の消滅特性を測定する。この陽電子消滅特性測定装置は、被測定体の表面に近接又は密着する位置に配置される陽電子線源と、陽電子線源で生成された陽電子が消滅するときに発生する放射線を検出する第1放射線検出手段と、陽電子線源で生成された陽電子のうち被測定体に入射されなかった陽電子を検出する陽電子検出手段と、第1放射線検出手段の検出結果と、陽電子検出手段の検出結果に基づいて、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する消滅特性算出手段と、を有している。陽電子線源は、被測定体と陽電子検出手段とに挟まれた状態で配置される。消滅特性算出手段は、第1放射線検出手段で検出される放射線のうち、陽電子検出手段で検出された陽電子が消滅したときに発生したと推定される放射線を除いて、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する。
【0009】
この陽電子消滅特性測定装置では、被測定体に入射されなかった陽電子を陽電子検出手段で検出し、被測定体に入射されなかった陽電子が消滅する時に発生する放射線をノイズとして除去する。このため、被測定体から切り出した2枚の試験片で陽電子線源を覆わなくても、被測定体内における陽電子の消滅特性を精度よく算出することができる。また、陽電子検出手段は被測定体に入射されなかった陽電子を検出するだけなので、陽電子検出手段で陽電子が消滅しても問題は生じない。さらに、陽電子線源と被測定体の間には陽電子検出手段が配置されていない。このため、陽電子検出手段を配置することによって、被測定体に照射される陽電子の数が減少することもない。
【0010】
上記の陽電子消滅特性測定装置は、陽電子線源で陽電子が生成したときに発生する放射線を検出する第2放射線検出手段をさらに有していてもよい。この場合、消滅特性算出手段は、第2放射線検出手段で放射線を検出した時刻と第1放射線検出手段で放射線を検出した時刻との時間差から得られる陽電子の寿命から消滅特性を算出してもよい。また、消滅特性算出手段は、第2放射線検出手段で検出される放射線のうち、陽電子検出手段で検出された陽電子が生成したときに発生したと推定される放射線を除いて、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出してもよい。例えば、消滅特性算出手段は、第1放射線検出手段で放射線を検出した時刻と陽電子検出手段で陽電子を検出した時刻の時間差が所定の第1時間差内となるときは、その第1放射線検出手段で検出された放射線を除去して、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出してもよい。あるいは、消滅特性算出手段は、第2放射線検出手段で放射線を検出した時刻と陽電子検出手段で陽電子を検出した時刻の時間差が所定の第2時間差内となるときは、その第2放射線検出手段で検出された放射線を除去して、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出してもよい。
【0011】
また、上記の陽電子消滅特性測定装置は、第1放射線検出手段は、陽電子が消滅するときに発生するγ線のエネルギーを測定するものとしてもよい。この場合、消滅特性算出手段は、第1放射線検出手段で検出された検出結果から得られるγ線のエネルギースペクトルの分布から、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出してもよい。例えば、消滅特性算出手段は、第1放射線検出手段で放射線を検出した時刻と陽電子検出手段で陽電子を検出した時刻の時間差が所定の第3時間差内となるときは、その第1放射線検出手段で検出された放射線を除去し、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出してもよい。
【0012】
なお、陽電子検出手段は、陽電子の入射によってシンチレーション光を放出するシンチレータと、シンチレータから放出されたシンチレーション光を検知する光センサと、光センサにシンチレーション光以外の光が入射することを規制する遮光カバーと、を有していてもよい。このような構成によると、シンチレータへの陽電子の入射を精度よく検出することができる。その結果、被測定体に入射されなかった陽電子を精度よく検出することができる。
【0013】
陽電子検出手段が上記の構成を採る場合、陽電子線源は、陽電子放出核種を塗布したシートであり、被測定体の表面に密着する位置に配置してもよい。また、遮光カバーは、シンチレータと光センサと陽電子線源を覆うとともに被測定体の表面に密着していてもよい。このような構成によると、被測定体に入射されなかった陽電子を精度よく検出することができる。なお、陽電子放出核種を塗布したシート自体が遮光性を有していてもよい。
【0014】
また、本明細書は、被測定体に入射されて被測定体内で消滅する陽電子の消滅特性を精度よく測定することができる新規な測定方法を提供する。すなわち、本明細書に開示する陽電子消滅特性測定方法は、被測定体の表面に近接又は密着する位置に陽電子線源を配置すると共に、陽電子線源が被測定体と陽電子検出手段とに挟まれた状態となるように陽電子検出手段を配置する工程と、陽電子線源及び陽電子検出手段を被測定体に対して配置した後に、放射線検出手段によって陽電子線源で生成された陽電子が消滅するときに発生する放射線を検出すると共に、陽電子検出手段によって陽電子線源で生成された陽電子のうち被測定体に入射されなかった陽電子を検出する検出工程と、検出工程で得られた放射線検出手段の検出結果と、陽電子検出手段の検出結果に基づいて、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する算出工程と、を有している。そして、算出工程では、放射線検出手段で検出される放射線のうち、陽電子検出手段で検出された陽電子が消滅したときに発生したと推定される放射線を除いて、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する。この方法によっても、上記の陽電子消滅特性測定装置と同様に、被測定体から試験片を切り出さなくても陽電子の消滅特性を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係る陽電子消滅特性測定装置の構成を示す斜視図。
【図2】陽電子検出ユニットの分解斜視図。
【図3】演算装置の構成を示す機能ブロック図。
【図4】陽電子検出ユニットの検出結果に基づいてノイズを除去する処理を説明するための図(その1)。
【図5】陽電子検出ユニットの検出結果に基づいてノイズを除去する処理を説明するための図(その2)。
【図6】陽電子寿命を測定した一例を示す図。
【図7】第2実施形態に係る陽電子消滅特性測定装置の構成を示す斜視図。
【図8】第2実施形態に係る演算装置の構成を示す機能ブロック図。
【図9】第2実施形態に係る陽電子消滅特性測定装置において、陽電子検出器の検出結果に基づいてノイズを除去する処理を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態) 本実施形態に係る陽電子消滅特性測定装置10は、陽電子が生成される際に発生するγ線(1.27MeV)と、陽電子が消滅する際に発生するγ線(511keV)を検出し、その時間差から被測定体内の陽電子の寿命を測定する装置である。図1に示されるように、陽電子消滅特性測定装置10は、第1γ線検出器12と、第2γ線検出器14と、陽電子検出器40と、演算装置50を有している。
【0017】
第1γ線検出器12は、陽電子が生成される際に発生するγ線(1.27MeV)を検出する。第1γ線検出器12は、例えば、γ線の入射によりシンチレーション光を放出するシンチレータと、そのシンチレーション光を電気信号に変換する光電子増倍管とで構成してもよい。第1γ線検出器12は、演算装置50に接続されている。第1γ線検出器12で陽電子が生成される際に発生するγ線(1.27MeV)を検出すると、第1γ線検出器12から演算装置50にパルス状の電気信号が出力される。
【0018】
第2γ線検出器14は、陽電子が消滅する際に発生するγ線(511keV)を検出する。第2γ線検出器14も、第1γ線検出器12と同様に構成してもよい。第2γ線検出器14は、演算装置50に接続されている。第2γ線検出器14で陽電子が消滅する際に発生するγ線(511keV)を検出すると、第2γ線検出器14から演算装置50にパルス状の電気信号が出力される。第1γ線検出器12と第2γ線検出器14は取付台16に取付けられ、被測定体Sの測定面に対して対向する位置に配置される。
【0019】
陽電子検出器40は、図2に示されるように、光電子増倍管41と、この光電子増倍管41の受光面に取付けられた陽電子検出ユニット42を備えている。陽電子検出ユニット42は、陽電子線源424と、薄膜遮光カバー423と、陽電子検出用のシンチレータ422と、集光器421を備えている。薄膜遮光カバー423は、シンチレータ422に外部の光が侵入することを遮断する。測定時には、薄膜遮光カバー423は、被測定体Sの測定面に密着するように配置される。シンチレータ422は、陽電子が入射することによりシンチレーション光を放出する。集光器421は、シンチレータ422から放出されるシンチレーション光を集光し、光電子増倍管41の受光面に導く。光電子増倍管41は、集光器421で集光されたシンチレーション光を電気信号に変換する。光電子増倍管41からの電気信号は演算装置50に入力される。
【0020】
陽電子線源424は、薄膜遮光カバー423とシンチレータ422の間に配置される。すなわち、陽電子線源424は、薄膜遮光カバー423とシンチレータ422に挟まれる。このため、陽電子線源424から放出される陽電子は、薄膜遮光カバー423かシンチレータ422のいずれかに入射することとなる。薄膜遮光カバー423に陽電子が入射すると、その陽電子は薄膜遮光カバー423を通って被測定体Sに入射される。一方、シンチレータ422に陽電子が入射すると、シンチレータ422からシンチレーション光が放出されると共に、シンチレータ422の内部又はシンチレータ422の外部(すなわち、被測定体S以外)で陽電子が消滅する。シンチレータ422からのシンチレーション光は、集光器421を介して光電子増倍管41に入射する。これにより、光電子増倍管41から演算装置50に電気信号が出力されることとなる。
【0021】
ここで、陽電子線源424には、22Naや68Geなどの陽電子線源(陽電子放出核種)を用いることができる。また、陽電子線源424は、1つの陽電子が発生してから消滅するまでの間に、他の陽電子が発生しないような弱い陽電子線源とされる。これによって、複数の陽電子が同時に存在し、陽電子の発生時刻と消滅時刻が特定できないといった事態の発生を防止することができる。
【0022】
演算装置50は、CPU,ROM,RAMを備えたコンピュータやプロセッサと、デジタルオシロスコープやNMIモジュール等の専用回路によって構成することができる。演算装置50は、第1γ線検出器12と第2γ線検出器14に接続される第1信号処理部20と、陽電子検出器40に接続される第2信号処理部30を備えている。第2信号処理部30は、陽電子検出器40(具体的には、光電子増倍管41)から出力される電気信号を処理し、陽電子検出器40に陽電子が入射した時刻を特定する。第2信号処理部30で特定された時刻は、第1信号処理部20に入力される。
【0023】
第1信号処理部20は、図3に示すように、陽電子発生時刻特定部21と、陽電子消滅時刻特定部22と、時刻差算出部23と、ノイズ情報除外部24と、陽電子寿命算出部25を備えている。陽電子発生時刻特定部21は、第1γ線検出器12からの信号に基づいて、陽電子線源424で陽電子が発生した時刻を特定する。陽電子消滅時刻特定部22は、第2γ線検出器14からの信号に基づいて、陽電子が消滅した時刻を特定する。時刻差算出部23は、陽電子発生時刻特定部21で特定された時刻と、陽電子消滅時刻特定部22で特定された時刻の時刻差から、陽電子が生存していた時間を算出する。陽電子発生時刻特定部21と陽電子消滅時刻特定部22と時刻差算出部23とは、従来公知の陽電子消滅特性測定装置の対応部分と同様に構成することができる。
【0024】
ノイズ情報除外部24は、第2信号処理部30で特定された時刻(すなわち、シンチレータ422に陽電子が入射した時刻)から、時刻差算出部23で算出された時刻差のうち、被測定体Sに入射されなかった陽電子に係るものを除外する。すなわち、図5に示すように、陽電子線源424から放出される陽電子が被測定体S(サンプル)に入射すると、被測定体内で消滅し、γ線(511keV)が発生する。一方、陽電子線源424から放出される陽電子がシンチレータ422に入射すると、シンチレーション光を発生すると共に、被測定体S以外で消滅して、γ線(511keV)が発生する。したがって、陽電子が発生したときのγ線(1.27MeV)が検出され、次に、シンチレーション光が検出され、その後、陽電子が消滅したときのγ線(511keV)が検出された場合は、陽電子線源424から放出される陽電子がシンチレータ422に入射したと特定することができる。一方、陽電子が発生したときのγ線(1.27MeV)が検出され、次に、シンチレーション光が検出されずに、陽電子が消滅したときのγ線(511keV)が検出された場合は、陽電子線源424から放出される陽電子が被測定体S(サンプル)に入射したと特定することができる。例えば、図4(a)に示すように、陽電子発生時刻t1と陽電子消滅時刻t2の間に、陽電子検出器40で陽電子が検出されていないとき(すなわち、シンチレーション光が検出されていないとき)は、陽電子発生時刻t1と陽電子消滅時刻t2は有効なデータとする。そして、その時刻差(t2−t1)は、被測定体Sにおける陽電子の寿命を算出するために用いられる。一方、図4(b)に示すように、陽電子発生時刻t3と陽電子消滅時刻t5の間の時刻t4に、陽電子検出器40で陽電子が検出されているとき(すなわち、シンチレーション光が検出されているとき)は、陽電子発生時刻t3と陽電子消滅時刻t5は無効なデータとして、被測定体Sにおける陽電子の寿命を算出するためのデータから除外する。なお、陽電子発生(時刻t3)と陽電子検出(時刻t4)と陽電子消滅(時刻t5)は、極めて短い期間の間に発生する。このため、陽電子発生時刻t3と陽電子検出時刻t4との時間差が所定の第1時間差内となるときは、陽電子発生時刻t3とその後に検出される陽電子消滅時刻t5は無効なデータとして除外してもよい。あるいは、陽電子検出時刻t4と陽電子消滅時刻t5との時間差が所定の第2時間差内となるときは、陽電子発生時刻t3と陽電子消滅時刻t5は無効なデータとして除外してもよい。
【0025】
陽電子寿命算出部25は、ノイズ情報除外部22でノイズが除外され、被測定体Sに入射された陽電子の生存時間から、被測定体Sにおける陽電子の寿命を算出する。陽電子寿命算出部25は、従来の陽電子消滅特性測定装置の対応部分と同様に構成することができる。
【0026】
次に、上述した陽電子消滅特性測定装置10を用いて、被測定体Sにおける陽電子寿命を測定する手順について説明する。まず、被測定体Sに対して陽電子検出器40をセットする。具体的には、薄膜遮光カバー423が被測定体Sの測定面に密着するように、陽電子検出器40を被測定体Sに取付ける。これによって、陽電子線源424は、被測定体Sと陽電子検出部(シンチレータ422)とで挟まれた状態となる。次いで、第1γ線検出器12と第2γ線検出器14を被測定体Sに対向する位置にセットする。第1γ線検出器12及び第2γ線検出器14のセットが終わると、演算装置50を作動させて、陽電子寿命の測定を開始する。
【0027】
陽電子線源424で陽電子が生成されると、そのときに発生するγ線(1.27MeV)は、第1γ線検出器12で検出される。第1信号処理部20は、第1γ線検出器12からの信号に基づいて、陽電子が生成した時刻を特定する。陽電子線源424で生成された陽電子は、被測定体Sか、シンチレータ422に入射する。被測定体Sに入射した陽電子は、適当な時間を経た後に電子と結合して消滅し、γ線(511keV)を発生させる。このγ線(511keV)は、第2γ線検出器14によって検出される。第1信号処理部20は、第2γ線検出器14からの信号に基づいて陽電子が消滅した時刻を特定し、その時間差から陽電子の生存時間を算出する。
【0028】
一方、シンチレータ422に入射した陽電子は、シンチレーション光を発生させ、その後、被測定体S以外で消滅し、γ線(511keV)を発生させる。シンチレーション光は、集光器421によって光電子増倍管41の受光面に集められ、光電子増倍管41によって電気信号に変換される。第2信号処理部30は、光電子増倍管41からの電気信号に基づいて、陽電子がシンチレータ422に入射した時刻を特定する。また、被測定体S以外で陽電子が消滅した際に発生するγ線(511keV)は、第2γ線検出器14によって検出される。このため、被測定体Sに入射されなかった場合も、第1信号処理部20で時刻差が算出されることとなる。ただし、第2信号処理部30で算出された時刻と、陽電子の発生時刻と、陽電子の消滅時刻の関係から、被測定体Sに入射されなかった陽電子に関するデータは除外される。このため、第1信号処理部20は、被測定体Sに入射された陽電子から得られたデータのみに基づいて、陽電子の寿命を算出する。
【0029】
上述した説明から明らかなように、本実施形態の陽電子消滅特性測定装置10では、被測定体Sに入射されなかった陽電子を陽電子検出器40で検出し、被測定体Sに入射されなかった陽電子が発生させる放射線をノイズとして除去する。このため、陽電子線源424を被測定体Sで挟み込むような状態としなくても、被測定体Sの陽電子消滅特性を精度よく算出することができる。また、陽電子線源424と被測定体Sの間には陽電子検出用のシンチレータ422が配置されないため、被測定体Sに照射される陽電子が減少することを防止することができる。
【0030】
ここで、陽電子寿命を測定した一例を、図6を参照して説明する。図6において、実施例は、陽電子検出器40で検出した陽電子により得られたデータ(ノイズ)を除去した測定結果である。一方、比較例は、陽電子検出器40で検出した陽電子により得られたデータ(ノイズ)を除去しなかった測定結果である。図6から明らかなように、比較例では、陽電子検出器40で検出した陽電子により得られたデータを除去していないため、被測定体Sに入射されなかった陽電子の寿命まで含まれ、測定結果には多くのノイズ成分が含まれている。一方、実施例では、被測定体Sに入射されなかった陽電子の寿命データが除外されるため、測定結果からノイズ成分が除去されている。
【0031】
なお、上述した実施形態では、陽電子が生成する際のγ線(1.27MeV)と、陽電子が消滅する際のγ線(511keV)を、異なるγ線検出器で検出する構成であったが、このような構成には限られない。例えば、陽電子が生成する際のγ線(1.27MeV)と、陽電子が消滅する際のγ線(511keV)を1つのγ線検出器で検出し、これらを処理することによって、陽電子の生成時刻、消滅時刻及びその時刻差を求めるようにしてもよい。
【0032】
(第2実施形態) 第2実施形態に係る陽電子消滅特性測定装置90は、陽電子が消滅する際に発生するγ線のエネルギーを検出し、その検出されたγ線のエネルギースペクトルの分布から、被測定体のドップラーブロードニングを算出する装置である。図7に示すように、陽電子消滅特性測定装置90は、γ線検出器18と、陽電子検出器40と、演算装置70を有している。陽電子検出器40と演算装置70を構成する第2信号処理部30は、第1実施形態の対応する部分と同一の構成とされている。以下、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0033】
γ線検出器18は、陽電子が消滅する際に発生するγ線(511keV)のエネルギーを検出する。γ線検出器18には、GeSSD等を用いることができる。γ線検出器18は、陽電子検出器40がγ線検出器18と被測定体Sとで挟まれるように、被測定体Sに対向した位置に配置される。γ線検出器18で検出されたエネルギーは、第3信号処理部60に入力される。
【0034】
第3信号処理部60は、図8に示すように、陽電子消滅時刻特定部62と、ノイズ情報除外部64と、スペクトル特性算出部66を備えている。陽電子消滅時刻特定部62は、γ線検出器18からの信号に基づいて、陽電子が消滅した時刻を特定する。ノイズ情報除外部64は、第2信号処理部30で特定された時刻(すなわち、シンチレータ422に陽電子が入射した時刻)と、陽電子消滅時刻特定部62で特定された消滅時刻から、検出されたγ線が、被測定体Sで消滅することにより発生したものか、被測定体S以外で消滅することにより発生したものかを判定する。そして、被測定体S以外で消滅したと判定すると、そのデータをスペクトル特性の算出のためのデータから除外する。具体的には、陽電子検出器40で陽電子が検出された時刻の直後に生じた陽電子の消滅を、被測定体S以外での陽電子の消滅として、データから除外する。例えば、図9に示すように、時刻t1で陽電子が検出され、時刻t2、t3で陽電子の消滅が検出されたとする。この場合、時刻t2での陽電子の消滅は被測定体S以外での陽電子の消滅であると判定し、時刻t3での陽電子の消滅は被測定体Sでの陽電子の消滅であると判定する。そして、被測定体S以外での陽電子の消滅に係るデータを、スペクトル特性の算出のためのデータから除外する。スペクトル特性算出部66は、ノイズ情報除外部64でノイズが除去されたデータに基づいて、γ線のエネルギースペクトル分布を算出し、そのエネルギースペクトル分布に基づいてSパラメータを算出する。
【0035】
なお、図9に示す陽電子検出(時刻t1)と陽電子消滅(時刻t2)は、極めて短い期間の間に発生する。このため、ノイズ情報除外部64は、陽電子検出時刻t1と陽電子消滅時刻t2との時間差が所定の第3時間差内となるときに、陽電子消滅時刻t2におけるγ線のデータは無効なデータとして除外してもよい。
【0036】
上述した説明から明らかなように、第2実施形態の陽電子消滅特性測定装置90でも、被測定体Sに入射されなかった陽電子を陽電子検出器40で検出し、被測定体Sに入射されなかった陽電子が消滅する際に発生する放射線をノイズとして除去する。このため、陽電子線源424を被測定体Sで挟み込むような状態としなくても、被測定体Sの陽電子消滅特性(Sパラメータ)を精度よく算出することができる。
【0037】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0038】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0039】
10 陽電子消滅特性測定装置
12 第1γ線検出器
14 第2γ線検出器
40 陽電子検出器
41 光電子増倍管
42 陽電子検出ユニット
421 集光器
422 陽電子検出用シンチレータ
423 薄膜遮光カバー
424 陽電子線源
20 第1信号処理部
30 第2信号処理部
50 演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定体に入射されて被測定体内で消滅する陽電子の消滅特性を測定する陽電子消滅特性測定装置であり、
被測定体の表面に近接又は密着する位置に配置される陽電子線源と、
陽電子線源で生成された陽電子が消滅するときに発生する放射線を検出する第1放射線検出手段と、
陽電子線源で生成された陽電子のうち被測定体に入射されなかった陽電子を検出する陽電子検出手段と、
第1放射線検出手段の検出結果と、陽電子検出手段の検出結果に基づいて、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する消滅特性算出手段と、を有しており、
陽電子線源は、被測定体と陽電子検出手段とに挟まれた状態で配置されており、
消滅特性算出手段は、第1放射線検出手段で検出される放射線のうち、陽電子検出手段で検出された陽電子が消滅したときに発生したと推定される放射線を除いて、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する、陽電子消滅特性測定装置。
【請求項2】
陽電子線源で陽電子が生成したときに発生する放射線を検出する第2放射線検出手段をさらに有しており、
消滅特性算出手段は、
第2放射線検出手段で放射線を検出した時刻と第1放射線検出手段で放射線を検出した時刻との時間差から得られる陽電子の寿命から消滅特性を算出するものであり、
第2放射線検出手段で検出される放射線のうち、陽電子検出手段で検出された陽電子が生成したときに発生したと推定される放射線を除いて、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する、請求項1に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【請求項3】
第1放射線検出手段は、陽電子が消滅するときに発生するγ線のエネルギーを測定し、
消滅特性算出手段は、第1放射線検出手段で検出された検出結果から得られるγ線のエネルギースペクトルの分布から、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する、請求項1に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【請求項4】
陽電子検出手段は、
陽電子の入射によってシンチレーション光を放出するシンチレータと、
シンチレータから放出されたシンチレーション光を検知する光センサと、
光センサにシンチレーション光以外の光が入射することを規制する遮光カバーと、を有している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【請求項5】
陽電子線源は、陽電子放出核種を塗布したシートであり、被測定体の表面に密着する位置に配置されており、
遮光カバーは、シンチレータと光センサと陽電子線源を覆うとともに被測定体の表面に密着している、請求項4に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【請求項6】
被測定体に入射されて被測定体内で消滅する陽電子の消滅特性を測定する陽電子消滅特性測定方法であり、
被測定体の表面に近接又は密着する位置に陽電子線源を配置すると共に、陽電子線源が被測定体と陽電子検出手段とに挟まれた状態となるように陽電子検出手段を配置する工程と、
陽電子線源及び陽電子検出手段を被測定体に対して配置した後に、放射線検出手段によって陽電子線源で生成された陽電子が消滅するときに発生する放射線を検出すると共に、陽電子検出手段によって陽電子線源で生成された陽電子のうち被測定体に入射されなかった陽電子を検出する検出工程と、
検出工程で得られた放射線検出手段の検出結果と、陽電子検出手段の検出結果に基づいて、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する算出工程と、を有しており、
算出工程では、放射線検出手段で検出される放射線のうち、陽電子検出手段で検出された陽電子が消滅したときに発生したと推定される放射線を除いて、被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する、陽電子消滅特性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127942(P2012−127942A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252066(P2011−252066)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(591017869)東洋精鋼株式会社 (7)
【Fターム(参考)】