説明

隅角観察鏡

【課題】被験者が上方を向いた状態で角膜上面のほぼ真上から正立像で隅角を観察することができるコンパクトな隅角観察鏡を得る。
【解決手段】隅角観察鏡10は、眼球2に接触させる1回反射のコンタクトプリズム20と、このコンタクトプリズム20とは別体の3回反射プリズム30とからなる。コンタクトプリズム20は、眼球の角膜に接触する凹面21と、この凹面21から入射した光束を内面反射させる内面反射面22と、この内面反射面22で反射した光束を出射させる出射面23とを有し、3回反射プリズム30は、コンタクトプリズム20の出射面23からの光束を入射させた後、3回反射させて出射する1つの内面反射面33と2つの反射透過面31、32とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隅角観察鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
眼球の緑内障の診断や治療を行う上で、隅角(前眼房からの房水出口)の観察は非常に重要である。隅角からの光線は角膜で全反射されるため、通常は直接隅角を観察することはできない。そこで隅角を観察するには、被験者(患者)の角膜表面に装着し、角膜表面での全反射条件を緩和させるためのコンタクトレンズ(眼球に接触するレンズまたはプリズム)が必要となる。図4は、眼科手術に用いる一般的なプリズム型のコンタクトレンズ1を示している。このコンタクトレンズ1は、眼球2の角膜3の曲率に沿う凹面(球面又は疑似球面)1aと平坦な出射面1bとを有し、眼球2の隅角4からの光線を角膜3で全反射させることなく凹面1aからレンズ1内に導き、出射面1bから出射させて観察する。出射面1bは、隅角4からの光線(射出光軸)5と直交する関係にあることが理想である。
【0003】
また、主に眼科診断で用いられるものとしては1回反射型の隅角観察鏡が提案されており(特許文献1)、近年は2回反射型の隅角観察鏡も提案されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6767098号公報
【特許文献2】米国特許第6976758号公報
【特許文献3】米国特許第7419262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4の隅角観察用コンタクトレンズ1は、構造が簡単でコンパクトであるが、被験者が上方を向いた状態で真上から観察することができない。使用時は被験者の体勢を斜め上方に傾ける必要があるため、不便であった。
【0006】
特許文献1の1回反射型の隅角観察鏡は、反射面を3方や4方に配置しているため、隅角の広い範囲を被験者が上方を向いた状態で真上から観察することができるが、全体が大きいという問題がある。そのため、眼科診断では用いられるが、眼科手術では手技の妨げとなるため用いられていない。さらに各方位の像は鏡像(裏像)となるという問題もある。特許文献2は、特許文献1を改良して2回反射型とし正立像観察を可能としているが、一回反射型よりも大型化しているという問題がある。特許文献3は眼科手術に用いる隅角観察鏡として被験者が上方を向いた状態で真上から観察することができるようプリズム型のコンタクトレンズの射出側に、2つの反射面を持つ部材を付加し、コンタクトレンズの射出光軸を偏向させた構造であるが、1方位の隅角しか観察できないことと、観察している隅角と相対する方位の付加部材の横方向の張り出しが大きく、眼科手術では手技の妨げとなりやすいという問題がある。
【0007】
本発明は、従来の眼科診断・眼科手術に用いる隅角観察鏡についての以上の問題意識に基づき、被験者が上方を向いた状態で角膜上面のほぼ真上から正立像で隅角を観察することができるコンパクトな隅角観察鏡を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、眼球に接触させる1回反射のコンタクトプリズムと、このコンタクトプリズムとは別体の3回反射プリズムとを組み合わせることで、4回反射型の隅角観察鏡を得たもので、コンタクトプリズムには、眼球の角膜に接触する凹面と、この凹面から入射した光束を内面反射させる内面反射面と、この内面反射面で反射した光束を出射させる出射面(透過面)とを形成し、3回反射プリズムには、このコンタクトプリズムの出射面からの光束を入射させた後、3回反射させて出射する1つの内面反射面と2つの反射透過面とを形成したことを特徴としている。3回反射プリズムの入射面と出射面は、ともに光線の入射角条件によって光束を反射させまたは透過させる反射透過面である。
【0009】
3回反射プリズムの内面反射面は、同時に、上記の4回反射で観察する隅角部位とは別の隅角部位から出射し、コンタクトプリズムの凹面及び出射面を透過して該3回反射プリズムに入射した光束を反射させた後に出射面から直ちに出射させる1回反射光路を構成することができる。
【0010】
本発明の隅角観察鏡は、さらに、4回反射する光路と1回反射する光路の見かけの観察物体距離を略一致させるための観察物体距離調整レンズを備えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の隅角観察鏡によれば、被験者が上方を向いた状態で角膜上面のほぼ真上から正立像で隅角を観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(A)、(B)は、本発明による隅角観察鏡の一実施形態の全体構成を示す、眼球への装着状態と非装着状態の断面図である。
【図2】図1の隅角観察鏡の斜視図である。
【図3】図1、図2の隅角観察鏡の4回反射の光路と1回反射の光路との光路長の差及び同光路長差を打ち消して観察する観察物体距離調節レンズの作用を示す光路図である。
【図4】従来の隅角観察鏡の原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1ないし図3は、本発明による隅角観察鏡10の一実施形態を示している。本隅角観察鏡10は、眼球に接触させるコンタクトプリズム(コンタクトレンズ)20と、このコンタクトプリズム20とは別体の3回反射プリズム30とを有している。
【0014】
コンタクトプリズム20は基本的には三角柱状をなしており、その三角柱の1面に、眼球2の角膜3の曲率(凸)とほぼ同じ曲率(凹)を持って該角膜3に接触する凹面(球面)21を形成している。そして、三角柱の他の2面が、この凹面21から入射した光束を内面反射させる内面反射面22と、この内面反射面で反射した光束を出射させる出射面(透過面)23とを構成する。内面反射面22には金属コートが施されている。
【0015】
3回反射プリズム30は、コンタクトプリズム20の出射面23に空気層を介在させて対向する第1の反射透過面31と、この出射面23と第1の反射透過面31を透過した光束を全反射させる第2の反射透過面32と、この第2の反射透過面32で反射した光束を第1の反射透過面31に向けて反射する内面反射面33とを有する三角柱状をなしている。内面反射面33には金属コートが施されている。
【0016】
コンタクトプリズム20の凹面21の中心と凹面21の曲率中心を通る軸を本隅角観察鏡10の光軸Oとすると、第2の反射透過面32は、光軸Oに略直交するよう配置することが望ましい。内面反射面22、出射面23及び内面反射面33の角度は、次のように定められている。本隅角観察鏡10のコンタクトプリズム20の凹面21を眼球2の角膜3に沿わせ、光軸Oを眼球2の中心軸と合致させた状態(図1(A))を想定したとき、眼球2の隅角から出た光束は角膜3で全反射することなく凹面21からコンタクトプリズム20内に入射する。入射した光束は、内面反射面22で反射(第1回反射)した後、出射面23(第1の反射透過面31)に略直交する方向に進み、同出射面23を出射して第1の反射透過面31から3回反射プリズム30内に入射する。第1の反射透過面31から入射した光束は、第2の反射透過面32で全反射(第2回反射)した後、内面反射面33で反射(第3回反射)し、さらに第1の反射透過面31で全反射(第4回反射)して第2の反射透過面32から光軸Oに略平行に出射する。以上の4回反射像を光軸O上に置いた顕微鏡50(図3)で観察することにより、隅角4の正立像を観察することができる。この4回反射光路を図1に一点鎖線で示した。このように4回の反射を行うことで、眼球2の上方に配置される隅角観察鏡10の横方向への張り出しが少なくコンパクトな構成が可能となる。なお、眼球の大きさや形状には個人差があり隅角位置も異なる。よって上記経路は標準的な目を想定した場合の例である。被験者によっては反射透過面32からの射出光路が光軸Oから数度程度の傾きをもつ場合もある。この場合は顕微鏡50の隅角観察鏡10に対する相対位置を調節することにより良好な隅角観察が可能となる。
【0017】
具体的な角度の例をあげると、出射面23(第1の反射透過面31)が光軸Oとなす角度をα、3回反射プリズム30を二等辺三角柱としたとき第1の反射透過面31と第2の反射透過面32が内面反射面33となす角度をそれぞれβ、第1の反射透過面31と第2の反射透過面32がなす角度をγとすると、
α=42゜±5゜
β=66゜±5゜
γ=48゜±5゜
程度である。また、光軸Oとなす角度が異なる内面反射面22を有する複数のコンタクトプリズム20を用意して、選択使用することにより、被験者による隅角4の位置の違いにも対処することができる。
【0018】
また、コンタクトプリズム20と3回反射プリズム30の材質(屈折率n)について、特別な制限はないが、3回反射プリズム30は全反射条件を考慮すれば、γ<48°の場合はn>1.50、γ<45°の場合はn>1.55とすることが望ましい。コンタクトプリズム20と3回反射プリズム30は、同じ材料で形成しても良いし、異なる材料で形成しても良い。
【0019】
3回反射プリズム30の内面反射面33はまた、以上の4回反射で観察する隅角4と180゜対向位置の隅角4を観察する1回反射の鏡像観察光路を構成している。つまり、4回反射で観察する隅角部位とは別の隅角部位から出射し、コンタクトプリズム20の凹面21及び出射面23を透過して該3回反射プリズム30に入射した光束は、内面反射面33で反射した後、直ちに、第2の反射透過面32から出射する。この1回反射の鏡像観察光路を図1に破線で示した。
【0020】
内面反射面33をこのように1回反射の鏡像観察用に用いると、図1(A)に示すように、4回反射の観察光路によって観察する隅角4だけでなく、同隅角4に相対する部位の隅角4の観察が可能となる。ただし、2つの光路は隅角観察部位までの距離が異なるため、手術用顕微鏡観察下では、観察像の焦点位置にズレが生じて一方に焦点を合わせると他方がボケ、同時観察ができない。
【0021】
そこでこの実施形態では破線の1回反射の鏡像観察用光路上に、正のパワーの観察物体距離調整レンズ40を配置して見かけの観察物体距離を一点鎖線の4回反射光路の観察物体距離と略等しくなるよう調整している。これにより同一焦点位置で両視野同時観察ができる。
【0022】
図3は物体距離調整レンズ40の作用を説明する模式図である。説明を簡単にするためにコンタクトプリズム20と3回反射プリズム30は反射面を展開し、光路が一直線になるように示してある。4回反射の光路は反射面が多いので、展開したコンタクトプリズム20と3回反射プリズム30の実質的な光路長が長く、手術用顕微鏡対物レンズ50からの観察物体距離が長くなる。一方、1回反射の光路は反射面が少ないので、展開したコンタクトプリズム20と3回反射プリズム30の実質的な光路長は短いため、観察物体距離は短くなる。このため、手術用顕微鏡50の焦点を4回反射の光路上の隅角観察部位に合わせると、1回反射の鏡像観察光路上の隅角観察部位に焦点は合わない。そこで、本実施形態では、1回反射の鏡像観察光路(図1破線)上に正のパワーをもつ観察物体距離調整レンズ40を配置して、手術用顕微鏡50の焦点を4回反射の正立像観察光路上の隅角観察部位に合わせたとき、同時に1回反射の鏡像観察光路上の隅角観察部位にも焦点を合わせることができるようにしている。すなわち、1回反射の鏡像観察光路上の隅角4の見かけの観察物体距離を、4回反射の正立像観察光路上の隅角4の観察物体距離に一致させ、両隅角4を同時に観察できるようにしている。
【符号の説明】
【0023】
2 眼球
3 角膜
4 隅角
10 隅角観察鏡
20 コンタクトプリズム(コンタクトレンズ)
21 凹面(球面)
22 内面反射面
23 出射面
30 3回反射プリズム
31 第1の反射透過面
32 第2の反射透過面
33 内面反射面
40 観察物体距離調整レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼球に接触させるコンタクトプリズムと、このコンタクトプリズムとは別体の3回反射プリズムとからなり、
上記コンタクトプリズムは、眼球の角膜に接触する凹面と、この凹面から入射した光束を内面反射させる内面反射面と、この内面反射面で反射した光束を出射させる出射面とを有し、
上記3回反射プリズムは、上記コンタクトプリズムの出射面からの光束を入射させた後、3回反射させて出射する1つの内面反射面と2つの反射透過面とを有することを特徴とする隅角観察鏡。
【請求項2】
請求項1記載の隅角観察鏡において、上記3回反射プリズムの入射面と出射面は、上記2つの反射透過面である隅角観察鏡。
【請求項3】
請求項1または2記載の隅角観察鏡において、上記3回反射プリズムの内面反射面は、上記の4回反射で観察する隅角部位とは別の隅角部位から出射し、コンタクトプリズムの凹面及び出射面を透過して該3回反射プリズムに入射した光束を反射させた後に出射面から直ちに出射させる1回反射光路を構成している隅角観察鏡。
【請求項4】
請求項3記載の隅角観察鏡において、さらに、上記4回反射する光路と1回反射する光路の見かけの観察物体距離を略一致させるための観察物体距離調整レンズを有する隅角観察鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−62325(P2011−62325A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215206(P2009−215206)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)