説明

階段被覆構造の劣化状態検査具及びそれを用いた検査方法

【課題】階段下地に階段被覆材を貼着した階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態を簡便且つ確実に検査、判定できる検査具と、これを用いた検査方法を提供する。
【解決手段】検査具は、検査用の荷重Fを受ける荷重受け部1aと、その荷重Fによって階段被覆材4の段鼻被覆部4bの表面を押す押し駒1dと、押し駒から段鼻被覆部の前側に延びる腕部1cとを備えた検査具本体1、及び、押し駒が階段被覆材の段鼻被覆部の表面を押したときの腕部の変動寸法を計測する変動寸法計測具2を有する。検査方法は、検査具本体1の押し駒1dを階段被覆材4の段鼻被覆部4bの表面に載置し、検査具本体1の荷重受け部1aに検査用の荷重Fを載荷して段鼻被覆部4bの表面を押し駒1dで押し、そのときの検査具本体の腕部1cの変動寸法を変動寸法計測具2で計測する。変動寸法の大小によって階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階段下地に階段被覆材を貼着した階段被覆構造の劣化状態、特に段鼻部分の劣化状態を簡便且つ確実に検査できる検査具と、それを用いた検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、階段下地の踏み面と段鼻と蹴上げ面に亘って柔軟な合成樹脂製の階段被覆材を重ね合わせ、階段被覆材の踏み面被覆部と階段下地の踏み面を接着剤で貼着すると共に、階段被覆材の段鼻被覆部と階段下地の段鼻との間に充填材を充填して固着し、階段被覆材の蹴上げ面被覆部と階段下地の蹴上げ面を粘着剤で貼着した階段被覆構造が知られている(特許文献1)。
【0003】
この階段被覆構造は、柔軟な合成樹脂製の階段被覆材によって、階段昇降時の騒音の軽減と防滑性の向上を図ることができるものであり、しかも、踏圧による階段被覆材のズレや剥がれ(捲れ)が生じないように階段被覆材の踏み面被覆部や蹴上げ面被覆部を接着剤や粘着剤で貼着しているため、防滑性の向上と相俟って階段昇降時の安全性を確保できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−125643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1の階段被覆構造では、階段被覆材の段鼻被覆部と階段下地の段鼻との間に充填された充填材が、例えば、経年的に劣化したり、階段下地から滲出する水分によって劣化したりすると、充填材の固着力が低下して充填材と階段下地の段鼻との界面などが剥離し、階段を昇降する人の荷重が階段被覆材の段鼻被覆部に加わるたびに、階段被覆材の段鼻被覆部が変形、変動を繰り返すため、そのまま放置しておくと階段被覆材の段鼻被覆部やその周辺部に亀裂や破損を生じる恐れがあった。
【0006】
上記のような階段被覆構造の充填材に起因した段鼻部分の劣化は、外部から目視検査で発見することが困難であるため、階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態を簡便且つ確実に検査できる検査具や検査方法の早期開発が強く求められていた。
【0007】
本発明は上記事情の下になされたもので、その解決しようとする課題は、階段下地に階段被覆材を貼着した階段被覆構造の特に段鼻部分の劣化状態を簡便且つ確実に検査、判定できる検査具と、これを用いた検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る検査具は、階段下地の踏み面と段鼻と蹴上げ面に亘って柔軟な階段被覆材が被覆、貼着された階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態を検査する検査具であって、
検査用の荷重を受ける荷重受け部と、荷重受け部に受けた検査用の荷重によって階段被覆材の段鼻被覆部の表面を押す押し駒と、押し駒から段鼻被覆部の前側に延びる腕部とを備えた検査具本体、及び、押し駒が階段被覆材の段鼻被覆部の表面を押したときの腕部の変動寸法を計測する変動寸法計測具を有することを特徴とするものである。
【0009】
そして、本発明の請求項2に係る検査具は、前記請求項1の検査具において、前記検査具本体が略鉤形に形成され、階段被覆材の踏み面被覆部の表面に載置される上辺部と、階段被覆材の蹴上げ面被覆部の表面に沿って配置される垂辺部と、コーナー部に近接して上辺部の下面に設けられた凸部とを備えており、上辺部の上面が前記荷重受け部、垂辺部が前記腕部、凸部が前記押し駒となっていることを特徴とするものである。
更に、本発明の請求項3に係る検査具は、前記請求項1又は請求項2の検査具において、前記変動寸法計測具が、前記腕部の変動によって変動する変動体と固定体を備え、変動体は移動可能に固定体に磁着されており、固定体は変動体の変動寸法を計測する目盛を有していることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項4に係る検査方法は、上記の請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の検査具を用いて、階段下地の踏み面と段鼻と蹴上げ面に亘って柔軟な階段被覆材が被覆、貼着された階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態を検査する検査方法であって、
検査具本体の押し駒を階段被覆材の段鼻被覆部の表面に載置し、検査具本体の荷重受け部に検査用の荷重を載荷して段鼻被覆部の表面を押し駒で押し、そのときの検査具本体の腕部の変動寸法を変動寸法計測具で計測することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に係る検査具は、本発明の請求項4に係る検査方法に従って、検査具本体の押し駒を階段被覆材の段鼻被覆部の表面に載置し、検査具本体の荷重受け部に検査用の荷重を載荷して段鼻被覆部の表面を押し駒で押し、そのときの検査具本体の腕部の変動寸法を変動寸法計測具で計測することにより、腕部の変動寸法が大きいほど階段被覆構造の段鼻部分の劣化が進行していると判定して、段鼻部分の劣化状態(充填材に起因する劣化状態)を簡便且つ確実に検査することができる。
【0012】
そして、請求項2に係る検査具は、略鉤形に形成された検査具本体の垂辺部を階段被覆材の段鼻被覆部に一部当接させた状態で蹴上げ面被覆部の前面側に沿わせて、検査具本体の上辺部を階段被覆材の踏み面被覆部の表面に載置すると、検査具本体のコーナー部に近接して上辺部の下面に設けられた凸部(押し駒)が階段被覆材の段鼻被覆部の検査に適した箇所に載置された状態で検査具本体を適切に位置決めしてセットでき、上辺部(荷重受け部)に検査用の荷重をかけると、その荷重が上辺部を介してロスなく凸部に伝わって該凸部が階段被覆材の段鼻被覆部を押し込むため、より簡便且つ確実に、そして精度良く階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態(充填材に起因する劣化状態)を検査することができる。従って、検査の精度や作業性が向上する。
【0013】
更に、請求項3に係る検査具は、変動寸法計測具が、目盛を有する固定体に変動体を移動可能に磁着したものであるため、構造が極めて簡単であるにも拘わらず、検査具本体の腕部(垂辺部)の変動寸法を正確に計測することができ、小型軽量で持ち運びも容易である。
【0014】
また、請求項4に係る本発明の検査方法は、上記請求項1〜3のいずれかの検査具を用いて、その検査具本体の押し駒(凸部)を階段被覆材の段鼻被覆部の表面に載置し、検査具本体の荷重受け部(上辺部)に検査用の荷重を載荷して段鼻被覆部の表面を押し駒(凸部)で押し、そのときの検査具本体の腕部(垂辺部)の変動寸法を変動寸法計測具で計測するものであるから、階段被覆構造の段鼻部分の充填材に起因した劣化状態を簡便かつ確実に精度良く検査、判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る階段被覆構造の劣化状態検査具の検査具本体を示す斜視図である。
【図2】同検査具の変動寸法計測具を示す斜視図である。
【図3】同変動寸法計測具の変動体を示す斜視図である。
【図4】同検査具を用いた本発明に係る階段被覆構造の劣化状態検査方法の説明図である。
【図5】図4の要部を拡大して詳細に示した断面図である。
【図6】劣化状態検査具の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係る階段被覆構造の劣化状態検査具と、それを用いた検査方法を詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施形態に係る劣化状態検査具の検査具本体を示す斜視図、図2は同検査具の変動寸法計測具を示す斜視図、図3は同変動寸法計測具の変動体を示す斜視図,図4は同検査具を用いた本発明の劣化状態検査方法の説明図、図5は図4の要部を拡大して詳細に示した断面図である。
【0018】
本実施形態の検査具は、図4,図5に示すように、検査具本体1と変動寸法計測具2とを具備し、階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態を検査するものである。検査の対象となる本実施形態の階段被覆構造は、図4,図5に示すように、階段下地3の踏み面3aと段鼻3bと蹴上げ面3cに亘って柔軟な階段被覆材4を重ね合わせ、階段被覆材4の踏み面被覆部4aと階段下地3の踏み面3aを接着剤5Aで貼着し、階段被覆材4の段鼻被覆部4bと階段下地3の段鼻3bとの間に充填材5Bを充填して固着し、階段被覆材4の蹴上げ面被覆部4cと階段下地3の蹴上げ面3cを粘着剤5Cで貼着し、階段被覆材4の端縁をシーリング材5Dでシールしたものである。
【0019】
階段下地3は例えばコンクリートなどで形成されたものが好適である。また、階段被覆材4は、柔軟な合成樹脂(例えば軟質塩化ビニル樹脂、オレフィン系樹脂等)やゴムなどで形成されたものであって、図5に示すように、踏み面被覆部4aの上面に防滑用の突起4dが形成され、段鼻被覆部4bが短期間で破損しないように厚肉化されものが好適である。
【0020】
階段被覆材4の踏み面被覆部4aと階段下地3の踏み面3aを接着する接着剤5Aとしては、1液反応型もしくは2液混合型のウレタン系接着剤、2液混合型のエポキシ系接着剤、1液反応型のシリコーン系接着剤などが好ましく使用され、これらの接着剤5aは、通常、櫛目ゴテを用いて階段下地3の踏み面3aに櫛目状に塗布される。
【0021】
また、充填材5Bは、階段被覆材4の貼着時のズレや粘着剤5Cの厚みによって生じる間隙を埋めたり、階段下地3の段鼻3bの欠損部を埋めたりすることを目的として、階段被覆材4の段鼻被覆部4bと階段下地3の段鼻3bとの間に充填・固着されるものであって、1液反応型もしくは2液混合型のウレタン系、2液混合型のエポキシ系、1液反応型のシリコーン系などの充填材が好ましく使用される。
【0022】
また、粘着剤5Cは、階段被覆材4の蹴上げ面被覆部4cが階段下地3の蹴上げ面3cから剥がれて捲れ上がるのを防止する目的で、蹴上げ面被覆部4cと蹴上げ面3cを貼着するものであり、例えば、合成樹脂発泡シートの両面にアクリル系粘着剤を塗布した両面粘着シートや、単層のブチルゴム粘着シートなどが好ましく使用される。
【0023】
更に、シーリング材5Dは、階段被覆材4の捲れ防止や防水を目的として階段被覆材4の端縁をシールするものであり、例えば、1液反応型もしくは2液混合型のウレタン系、2液混合型のエポキシ系、1液反応型のシリコーン系などのシーリング材が好ましく使用される。
【0024】
なお、上記の接着剤5A、充填材5B、シーリング材5Dは同一のものを用いてもよいし、それぞれ同一種ながら粘度や反応後の硬さが異なるものを用いてもよいし、種類が異なるものを用いてもよい。また、上記粘着剤5Cは、必要がなければ使用しなくてもよい。
【0025】
このような階段被覆構造では、充填材5Bが経年的に劣化したり、階段下地3から滲出する水分によって劣化したりすると、充填材5Bの固着力が低下し、図5に示すように、充填材5Bと階段下地3の段鼻3bとの界面などが剥離して空隙Vを生じ、階段を昇降する人の荷重が階段被覆材4の段鼻被覆部4bに加わるたびに、階段被覆材4の段鼻被覆部4bが変形、変動を繰り返すため、そのまま放置しておくと、階段被覆材4の段鼻被覆部4bやその周辺部に亀裂や破損を生じる恐れがある。
【0026】
本実施形態の検査具は、上記のような階段被覆構造の充填材5Bに起因する段鼻部分の劣化の有無や劣化の程度を検査、判定するものであって、図4,図5に示すように、検査具本体1と変動寸法計測具2とを具備している。
【0027】
検査具本体1は、検査用の荷重Fを受ける荷重受け部と、荷重受け部に受けた検査用の荷重Fによって階段被覆材4の段鼻被覆部4bの表面を押す押し駒と、押し駒から段鼻被覆部4bの前側に延びる腕部とを、必須構成要件として具備したものであって、本実施形態においては、図1,図5に示すように、検査具本体1が略鉤形に形成されており、階段被覆材4の踏み面被覆部4aの表面(前面)に載置される上辺部1aと、階段被覆材4の蹴上げ面被覆部4cの表面に沿って配置され段鼻被覆部4bに部分的に当接する垂辺部1cと、コーナー部1bに近接して上辺部1aの下面に設けられた凸部1dとを備えている。そして、上辺部1aの上面が上記荷重受け部とされ、垂辺部1cが上記腕部とされ、凸部1dが上記押し駒となっている。
なお、本実施形態では、腕部は下向きに垂下する垂辺部1cとなっているが、別の実施形態においては垂辺部1cに代えて、荷重受け部から大きく屈曲することなく前側に向けて延設したものとしてもよい。この別の実施形態の検査具本体は特に図示しないが、荷重受け部と腕部とが略平坦に連続し、前記両者の接する部分に設けた押し駒とで形成されることになる。
【0028】
図1に示すように、検査具本体1の凸部(押し駒)1dは、垂辺部1cと反対側の下側の角部を斜めに面取りして斜面1eを設けた、五角形の断面形状を有する角棒状に形成されており、コーナー部1bに近接して上辺部1aの下面の幅方向に設けられている。この斜面1eは、段鼻被覆部4bや踏み面被覆部4aの表面にある防滑用の突起と凸部1dとが干渉するのを避けるために設けられたものである。
上記凸部1dは、本実施形態ではコーナー部1bとの間に少しの隙間があくように近接して形成されているが、隙間が生じないように近接して形成されていてもよい。このように検査具本体1は、凸部1dをコーナー部1bに近接させて上辺部1aの下面に形成しているため、図5に示すように検査具本体1の垂辺部1cを階段被覆材4の段鼻被覆部4bに部分的に当接させながら蹴上げ面被覆部4cの前面に沿わせて、上辺部1aを階段被覆材4の踏み面被覆部4aに載置すると、凸部(押し駒)1dが階段被覆材4の段鼻被覆部4bの検査に適した箇所に載置された状態で、検査具本体1を適切に位置決めしてセットできるようになっている。
【0029】
検査具本体1の凸部(押し駒)1dの大きさは限定されないが、高さを10mm程度、全長を上辺部1aの幅寸法と同じく50mm程度、幅を10mm程度、斜面1eを設けた部分の幅及び高さを5mm程度とするのが適当であり、このような大きさにすると、押し駒としての機能を確実に発揮させることができる。
【0030】
なお、凸部(押し駒)1dの形状は、上記の五角形の断面形状を有する角棒状に限定されるものでなく、例えば、半円形や半楕円形の断面形状を有する棒状の凸部とするなど、押し駒としての機能を発揮できる凸形状であればよい。
【0031】
図1,図5に示すように、検査具本体1の垂辺部1cは、その上半部が上辺部1aと略直角になっているが、垂辺部1cの下半部は後側に僅かに傾斜するように屈曲しており、この屈曲した下半部の下端にL型部材1fが固着されている。このように垂辺部1cの下半部が屈曲していると、図5に示すように検査具本体1をセットしたときに、凸部(押し駒)1dが階段被覆材4の段鼻被覆部4bに載置されて上辺部1aが少し前上がりに傾斜しても、垂辺部1cの屈曲した下半部が蹴上げ面に沿って真下方向に垂下し、下端のL型部材1fを変動寸法計測具2の後述する変動体21に載置できるので、検査用の荷重Fを上辺部1aに載荷したときの垂辺部1cの変動寸法を確実に計測することができる。
【0032】
上記のような検査具本体1は、アルミニウム等の金属や合成樹脂などの強度や剛性が高い材料で製作することが好ましい。
【0033】
一方、変動寸法計測具2は、図2,図5に示すように、検査治具本体1の垂辺部(腕部)1cの変動によって変動する変動体21と、変動寸法計測用の目盛を有する固定体22とを備えたものであって、固定体22は、土台22aの後端両側の角部から左右一対の柱体22b,22bが立設され、L型金具22cで固定されている。そして、左右の柱体22b,22bの相互間には、鉄やニッケルなどの磁性体からなる磁着板22dが設けられ、また、左右の柱体22b,22bの前面には、変動寸法計測用の目盛22eを設けた左右一対の目盛板22f,22fが取付けられている。この目盛板22fの上部と下部には縦方向の長穴22g,22gが形成されており、上部の長穴22gは回転締付け具22hによって締付け固定され、下部の長穴22gはガイド用のネジ22iによって上下可動に保持されている。従って、回転締付け具22h,22hを緩めると、目盛板2f,2fを適正な高さ位置となるように上下方向に移動させることができ、その適正な高さ位置で回転締付け具22h,22hを締め付けると、目盛板2f,2fが固定されるようになっている。
【0034】
これに対し、可動体21は、図2,図3,図5に示すように、鉤形部材21aの内側に磁石21bを少し後方に突き出して固定し、この磁石21bを固定体22の磁着板22dに磁着させることにより、固定体22に対して上下方向に変動可能に取付けられたものであって、鉤形部材21aの左右両側には、目盛22eを指し示す突片21c,21cが一体に形成されている。この可動体21の鉤形部材21aの上面には、検査具本体1の垂辺部(腕部)1cの下端のL型部材1fが載置されるようになっており、検査時に垂辺部1cが下方に変動すると、可動体21がL型部材1fに押されて下方に移動し、可動体21の左右の突片21c,21cが指し示す目盛22eを読み取ることで、変動寸法を計測できるようになっている。
【0035】
本実施形態の変動寸法計測具2は、固定体22の左右の柱体22b,22bに目盛板22f,22fをそれぞれ取付け、可動体21の鉤形部材21aの左右両側に目盛を指し示す突片21c,21cを設けているが、片方の柱体22bに目盛板22fを取付け、鉤形部材21aの片側に突片21cを設けるようにしても勿論よい。
また、可動体21は固定体22の磁着板22dに磁着させないで、例えばバネなどを用いて固定体22の左右の柱体22b,22bの間に上下変動可能に取付けるようにしてもよい。
【0036】
次に、上記検査具を用いて階段被覆構造の充填材に起因した段鼻部分の劣化状態を検査する本発明の検査方法について説明する。
【0037】
まず、図4,図5に示すように、変動寸法計測具2の固定体22の柱体22bと磁着板22dを階段被覆構造の検査すべき段鼻部分の下方の蹴上げ面に沿わせて、固定体22の土台22aを下段の階段被覆材4の踏み面被覆部4aの後端部上面に載置することにより、変動寸法計測具2を安定良く設置する。
【0038】
次いで、検査具本体1の垂辺部1cを階段被覆材4の段鼻被覆部4bに一部当接させながら下方の蹴上げ面に沿わせて、検査具本体1の上辺部1aを階段被覆材4の踏み面被覆部4aに載置することにより、検査具本体1を適正に位置決めし、凸部(押し駒)1dが階段被覆材4の段鼻被覆部4bの表面に載置された状態で、検査具本体1を設置する。
【0039】
そして、検査具本体1の垂辺部1c下端のL型部材1fが変動寸法計測具2の変動体21の上面(鉤形部材21aの上面)に載置されるように変動体21を移動させ、必要な場合には、変動体21の突片21c,21cが基準の目盛を指し示すように目盛板22f,22fを前述した要領で上下動させて回転締付け具22hで締付け固定する。
【0040】
上記のようにして検査具本体1と変動寸法計測具2の設置、調整作業が完了すると、検査具本体1の上辺部(荷重受け部)1aに検査用の荷重Fを載荷する。検査用の荷重Fは、人の平均的な荷重に近い0.6kN程度とするのが適当である。検査用の荷重Fを載荷すると、その荷重が上辺部1aを介してロスなく凸部(押し駒)1dに伝わり、凸部1dが階段被覆材4の段鼻被覆部4bを押し込むため、その押し込み寸法分だけ検査具本体1の垂辺部(腕部)1cが下方に変動(移動)し、変動寸法計測具2の可動体21がL型部材1fによって押し下げられる。従って、押し下げられた可動体21の突片21c,21cが指し示す目盛22eを読み取ると、検査具本体1の垂辺部1cの変動寸法を計測できるので、この変動寸法が大きいほど階段被覆材4の段鼻被覆部4bの剥離、変形が大きく、充填材5Bに起因する階段被覆構造の段鼻部分の劣化が進行していると判定して、段鼻部分の劣化状態を簡便且つ確実に精度良く検査することができる。
【0041】
次に、検査具本体1の垂辺部1cの変動寸法と階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態との関係を調べるために行ったテスト検査について説明する。
【0042】
[テスト検査]
段鼻被覆部4bの厚さが5mmの軟質塩化ビニル樹脂製の階段被覆材4をコンクリート製の階段下地3の踏み面3aと段鼻3bと蹴上げ面3cに亘って重ね合わせ、階段被覆材4の踏み面被覆部4aを、階段下地3の踏み面3aに予め櫛目状に塗布した1液ウレタン系接着剤5Aで該踏み面3aに接着すると共に、階段被覆材4の段鼻被覆部4bの内面に予め塗布した1液ウレタン系充填材5Bで、階段被覆材4の段鼻被覆部4bと階段下地3の段鼻3bとの隙間を充填して固着させ、更に、階段被覆材4の蹴上げ被覆部4cの裏面に予め設けた両面粘着シート5C(合成樹脂発泡シートの両面にアクリル系粘着剤を塗布した両面粘着シート)で、階段被覆材4の蹴上げ面被覆部4cを階段下地3の蹴上げ面3cに貼着することによって、階段下地3の段鼻3bと充填材5Bとが密接、固着したテスト用の階段被覆構造(1)、即ち、段鼻部分の劣化がない状態の階段被覆構造(1)を構築した。
次に、充填材5Bと階段下地3の段鼻3bとの間に、充填材5Bと段鼻3bとの接合面積のほぼ半分の面積を有するポリエチレンシートを介在させた以外は、上記の階段被覆構造(1)と同様にして、充填材5Bと段鼻3bとの接合面積のほぼ半分の面積がポリエチレンシートで剥離して空隙が生じたテスト用の階段被覆構造(2)、即ち、ポリエチレンシートで人為的に段鼻部分を中程度の疑似劣化状態とした階段被覆構造(2)を構築した。
更に、充填材5Bと階段下地3の段鼻3bとの間に、充填材5Bと段鼻3bとの接合面積にほぼ等しい面積を有するポリエチレンシートを介在させた以外は、上記の階段被覆構造(1)と同様にして、充填材5Bと段鼻3bとがポリエチレンシートで完全に剥離して空隙を生じたテスト用の階段被覆構造(3)、即ち、ポリエチレンシートで人為的に段鼻部分をほぼ完全な疑似劣化状態とした階段被覆構造(3)を構築した。
【0043】
これらのテスト用階段被覆構造(1)(2)(3)のそれぞれについて、前述した本発明の検査方法に従って本発明の劣化状態検査具の検査具本体1と変動寸法計測具2を設置し、検査具本体1の上辺部(荷重受け部)1aに0.6kNの検査用の荷重Fを載荷して、垂辺部(腕部)1cの変動寸法、換言すれば凸部(押し駒)1dによる階段被覆材4の段鼻被覆部4bの押し込み寸法を計測したところ、下記表1に示すように、段鼻部分の劣化がないテスト用階段被覆構造(1)では1.7mm、段鼻部分が中程度の疑似劣化状態にあるテスト用階段被覆構造(2)では2.3mm、段鼻部分がほぼ完全な疑似劣化状態にあるテスト用階段被覆構造(3)では4.3mmであった。
【0044】
【表1】

【0045】
以上の結果から、既設の階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態を検査したときに、検査具本体1の垂辺部1cの変動寸法が2mm未満であれば、段鼻部分の劣化が全くないか、殆ど劣化が進行していないと判定でき、変動寸法が2〜3mm程度であれば、段鼻部分の劣化状態が中程度であると判定でき、変動寸法が4mmを超えると、段鼻部分がほぼ完全な劣化状態にあると判定できる。
【0046】
本発明の検査具を用いた本発明の検査方法は、上記のように検査具本体1の垂辺部(腕部)1cの変動寸法を変動寸法計測具2で計測するという客観的な方法によって、簡便且つ確実に精度良く階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態を検査、判定することができるので、既設の階段被覆構造において階段被覆材を貼り替えるリフォーム工事が必要かどうか、的確に判断できるというメリットがある。
【0047】
図6は劣化状態検査具の他の例を示す断面図であって、この検査具は、鉤形に形成されたカバー体11のコーナー部に、斜め上方に略45°の角度で突き出すガイド筒部11aを貫通させて形成し、このガイド筒部11aに押しピン12を挿入してその先端を階段被覆材4の段鼻被覆部4bに当接させると共に、押しピン12の後端をコネクタ13で押し込み荷重計測器14の検知ロッド14aに接続したものである。なお、12aは押しピン12の中間部に形成された鍔状の押し込みストッパーであるが、このストッパー12aは省略してもよい。
【0048】
この検査具は、図6に示すように、カバー体11を階段被覆材4の踏み面被覆部4aと段鼻被覆部4bに被せて固定し、押しピン12に荷重を負荷して、押しピン12の先端を階段被覆材4の段鼻被覆部4bに所定寸法だけ(ストッパー12aがある場合はストッパー12aがガイド筒部11aの先端面に当たるまで)押し込み、そのときの荷重を荷重計測器14で計測することによって、階段被覆構造の充填材5Bに起因した段鼻部分の劣化状態を簡便かつ確実に精度良く検査、判定できるものである。即ち、階段被覆構造の段鼻部分の劣化が進行するほど階段被覆材4の段鼻被覆部4bが変形し易くなって計測荷重が小さくなるので、計測荷重の大小から段鼻部分の劣化状態を検査、判定できるのである。
【0049】
なお、図6において、3は階段下地、3bは階段下地の段鼻、4cは階段被覆材4の蹴上げ面被覆部、5Aは接着剤、5Bは充填材、5Cは粘着剤、5Dはシーリング剤を示す。
【0050】
上記カバー体11のガイド筒部11aは金属や剛直な合成樹脂で形成されたもので、中心に直径6mm程度の貫通孔を有している。このガイド筒部11aの先端面には押しピン12のストッパー12aが当接して、押しピン12がそれ以上押し込まれないようになっている。なお、ストッパー12aがガイド筒部11aの先端面に当接した後、さらに大きな荷重を負荷すると、計測荷重が極端に大きくなるため、不適切な荷重を負荷していることが判る。また、ストッパー12aがガイド筒部先端面に当接すると、通電により検知ランプが点灯して確認できるようにしてもよい。
【0051】
上記ガイド筒部11aは、カバー体11の裏面側に少し突入するように形成されていてもよい。このようにガイド筒部11aがカバー体11の裏面側に突入していると、その突入した部分が階段被覆材4の段鼻被覆部4bの排水溝部(図6には表れていない)に嵌まり込んで安定良く当接するので、都合が良い。
【0052】
前記押しピン12は金属や剛直な合成樹脂で作成することが好ましく、その形状は特に限定されないが、円柱状で先端が細くとがり、該先端が直径5mm程度の円形であることが好ましい。この押しピン12の押し込み量(押し込み寸法)は1mm程度であることが望ましいため、押しピン12の先端を階段被覆材4の段鼻被覆部4bに当接させたときにガイド筒部11aの先端面とストッパー12aとの間隔が1mm程度となるようにストッパー12aの位置を定めて設けることが好ましい。なお、このストッパー12aを設けない場合は、押しピン12の外周に目盛を設け、その目盛を読み取って押し込み量を調整してもよい。
【0053】
また、押し込み荷重計測器14としては、コネクタ13で押しピン12を接続できる検知ロッド14aを有し、押しピン12から検知ロッド14aの先端に負荷された荷重(応力)を計測して表示部に表示する公知の荷重計測器が使用される。そして、コネクター13としては、円筒部内面に雌螺子を有し、荷重計測器14の検知ロッド14a先端部の雄螺子および押しピン12後端部の雄螺子と螺合して両者を接続できるものが使用される。
【符号の説明】
【0054】
1 検査具本体
1a 検査具本体の上辺部(荷重受け部)
1b 検査具本体のコーナー部
1c 検査具本体の垂辺部(腕部)
1d 検査具本体の凸部(押し駒)
1e 凸部の斜面
1f L型部材
2 変動寸法計測具
21 変動体
21b 磁石
22 固定体
22d 磁着板
22e 目盛
22f 目盛板
3 階段下地
3a 階段下地の踏み面
3b 階段下地の段鼻
3c 階段下地の蹴上げ面
4 階段被覆材
4a 階段被覆材の踏み面被覆部
4b 階段被覆材の段鼻被覆部
4a 階段被覆材の蹴上げ面被覆部
5A 接着剤
5B 充填材
5C 粘着剤
F 検査用の荷重
V 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
階段下地の踏み面と段鼻と蹴上げ面に亘って柔軟な階段被覆材が被覆、貼着された階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態を検査する検査具であって、
検査用の荷重を受ける荷重受け部と、荷重受け部に受けた検査用の荷重によって階段被覆材の段鼻被覆部の表面を押す押し駒と、押し駒から段鼻被覆部の前側に延びる腕部とを備えた検査具本体、及び、押し駒が階段被覆材の段鼻被覆部の表面を押したときの腕部の変動寸法を計測する変動寸法計測具を有することを特徴とする検査具。
【請求項2】
前記検査具本体は略鉤形に形成され、階段被覆材の踏み面被覆部の表面に載置される上辺部と、階段被覆材の蹴上げ面被覆部の表面に沿って配置される垂辺部と、コーナー部に近接して上辺部の下面に設けられた凸部とを備えており、上辺部の上面が前記荷重受け部、垂辺部が前記腕部、凸部が前記押し駒となっていることを特徴とする請求項1に記載の検査具。
【請求項3】
前記変動寸法計測具は、前記腕部の変動によって変動する変動体と固定体を備え、変動体は移動可能に固定体に磁着されており、固定体は変動体の変動寸法を計測する目盛を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の検査具。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の検査具を用いて、階段下地の踏み面と段鼻と蹴上げ面に亘って柔軟な階段被覆材が被覆、貼着された階段被覆構造の段鼻部分の劣化状態を検査する検査方法であって、
検査具本体の押し駒を階段被覆材の段鼻被覆部の表面に載置し、検査具本体の荷重受け部に検査用の荷重を載荷して段鼻被覆部の表面を押し駒で押し、そのときの検査具本体の腕部の変動寸法を変動寸法計測具で計測することを特徴とする検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−7233(P2013−7233A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141637(P2011−141637)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【出願人】(511156449)タキロンマテックス株式会社 (1)