説明

階調印字制御方法および印字ヘッド制御装置

【課題】 階調の再現性の低下を防止して印字品位を向上させることのできる階調印字制御方法および印字ヘッド制御装置を提供すること。
【解決手段】 1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間(t2)と、j階調分の階調変化に必要とされる第ニ印加時間(t2×4)を印加時間の単位とし、予備印加時間(t1)の前に第一印加時間のj−1単位に相当する印加許容時間を設け、予備印加時間(t1)の後に第ニ印加時間の整数倍に相当する印加許容時間を設ける。階調表現に必要な本印加時間を第一印加時間と第ニ印加時間の組み合わせに分割し、分割された本印加時間を予備印加時間の直前および直後に連続して設定することで、休止期間中のエネルギーの減衰を防止し、階調表現の再現性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱紙用のサーマルヘッド等の制御に用いて好適な階調印字制御方法および印字ヘッド制御装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型サーマルプリンタが発券するレシート内容について、利用明細表示の他にいろいろな広告および売り上げ向上に関するメッセージ等を表示することが多くなっている。このため、従来のように白/黒のみの2値印字での表現力では限界があり、モノクロでありながら表現力豊かな多階調印字(複数階調印字)の技術が要求され、より高印字品位が求められている。
【0003】
多階調印字のための技術としては、既に、特許文献1,特許文献2,特許文献3に開示されるような制御方式が提案されている。
【0004】
特許文献1で開示された技術は、表現したい階調数だけ同じドット(発熱素子)を重ねて印字するもので、例えば、n階調の印字データを最大n−1回重ねて印字することによりエネルギーを重畳させる方法であるが、この場合、1ドットの階調を表現するのにサーマルヘッドへのデータ転送回数が階調数に比例して長くなり印字速度を低下させる問題がある。
【0005】
また、特許文献2,特許文献3で開示された技術は、2進数の階調表現をそのまま印加データとしてサーマルヘッドに転送してエネルギーの印加時間に階調データの重み付けを行う方法であるが、階調データによっては、例えば、“0101”,“1001”,1010”等のように、ビット間に“0”が含まれるデータがあるため、その“0”の間だけサーマルヘッドへのエネルギーの印加が停止し、発熱素子が冷えることによって印字品位が低下する問題がある。
【0006】
例えば、純白から漆黒に至る階調を階調0〜階調15として規定した16階調表現の場合、特許文献2,特許文献3で開示されるような従来技術では、純白に相当する階調0の場合を除き、図7に示されるように、時系列上の最初の時点で最低発色エネルギーを印加し、これに続いて、階調1(=2)に相当する発色エネルギー,階調2(=2)に相当する発色エネルギー,階調4(=2)に相当する発色エネルギー,・・・を順に印加し、これらの組み合わせによって所望する階調表現を実現するようにしている。
従って、例えば、階調3を表現する場合では、最低発色エネルギーを印加した後、更に、階調1(=2)に相当する発色エネルギーと階調2(=2)に相当する発色エネルギーをこの順で印加してやる必要がある。
【0007】
しかし、実際には、このように連続してエネルギーが印加されるとは限らず、例えば、階調8を表現する場合では、階調データの値は“1000”となり、図8に示されるように、最低発色エネルギーを印加した後、“0001”(=2)と“0010”(=2)と“0100”(=2)に相当する時間帯でエネルギーの印加が休止され、その後で改めて“1000”(=2)に相当する発色エネルギーが印加されるといった現象が生じる。
このような場合、図9に示されるように、最初に最低発色エネルギーを印加しても、このエネルギーが図中の二点鎖線で示されるようにして休止期間中に減衰してしまい、休止期間後に改めて階調8に相当する“1000”(=2)に対応した発色エネルギーを印加しても、階調8に相当するエネルギーの蓄積ができず、階調表現が不足気味となって印字品位が低下するといった問題が生じる。
【0008】
【特許文献1】特開平11−115234号公報
【特許文献2】特開平4−220358号公報
【特許文献3】特開2004−255814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の不都合を改善し、印字ヘッドへのデータ転送時間を冗長することなく、どの階調データを印字する場合であっても、階調表現に必要とされるエネルギーの不足による再現性の低下を確実に防止して印字品位を向上させることのできる階調印字制御方法および印字ヘッド制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の階調印字制御方法は、印字ヘッドに対するエネルギーの印加時間を制御して階調を再現するようにした階調印字制御方法であり、前記目的を達成するため、特に、
前記印字ヘッドに、再現すべき階調に応じた必要印加時間でエネルギーを連続的に印加することを特徴とした構成を有する。
【0011】
このように、再現すべき階調に応じた必要印加時間でエネルギーを連続的に印加することにより、休止期間中におけるエネルギーの減衰の問題が解消される。
従って、例えば、図9中の実線で示されるように、エネルギー供給の休止期間中に生じるエネルギーの減衰の問題が解消され、階調データの構造に関わりなく、再現性の低下を確実に防止して印字品位を向上させることができる。
また、エネルギーを連続的に印加しているため、同じドット(発熱素子)を重ねて印字する場合に比べて印字ヘッドへのデータ転送回数が大幅に削減され、印字ヘッドへのデータ転送時間の冗長の問題も解消される。
【0012】
具体的には、印字ヘッドに最低発色エネルギーを供給するために必要とされる予備印加時間と実際の階調表現に必要とされる本印加時間とで必要印加時間を構成し、
予め決められた印加可能時間内に前記予備印加時間のための印加時間を予約しておき、前記本印加時間を前記予備印加時間のための印加時間の直前もしくは直後あるいは其の前後に連続して設定するようにすることが望ましい。
【0013】
何れの場合も、再現すべき階調に応じた必要印加時間でエネルギーを連続的に印字ヘッドに印加することができ、これにより、階調表現に必要とされるエネルギーの減衰の問題が解消されるので、階調データの構造に関わりなく、再現性の低下を防止して印字品位を向上させることができる。
また、エネルギーを連続的に印加する結果として、印字ヘッドへのデータ転送回数が大幅に削減されるので、印字ヘッドへのデータ転送時間の冗長の問題も解消される。
【0014】
より具体的には、例えば、1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間と、j階調分の階調変化に必要とされる第ニ印加時間を印加時間の単位とし(但し、jは2以上の整数)、
前記予備印加時間のための印加時間の前に前記第一印加時間のj−1単位に相当する印加許容時間を設けると共に、前記予備印加時間のための印加時間の後に前記第ニ印加時間の単位の整数倍に相当する印加許容時間を設け、
前記本印加時間を前記第一印加時間と前記第ニ印加時間の組み合わせに分割し、前記印加許容時間を利用して、前記分割された本印加時間を、前記予備印加時間のための印加時間の直前もしくは直後あるいは其の前後に連続して設定することにより必要印加時間を満たすようにすることができる。
【0015】
このような構成を適用した場合、1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間と、j階調分の階調変化に必要とされる第ニ印加時間を印加時間の単位としてエネルギーの印加を調整することができるので、表現すべき階調数が多い場合であっても頻繁にエネルギーの印加をオン/オフ制御する必要がなくなる。よって、印字ヘッドへのデータ転送回数が大幅に削減され、印字ヘッドへのデータ転送時間が短縮される。
【0016】
また、例えば、予備印加時間のための印加時間の前に前記第一印加時間の3単位に相当する印加許容時間を設けると共に、前記予備印加時間のための印加時間の後に4階調分の階調変化に相当する第ニ印加時間の3倍に相当する印加許容時間を設けるようにすれば、16段階の階調表現に対応することができる。
【0017】
この場合、階調1から階調3までの表現に際しては第一印加時間を刻み幅としてエネルギーの印加をオン/オフ制御するが、階調4を超える表現に際しては、4階調分の階調変化に相当する第ニ印加時間を刻み幅としてエネルギーの印加をオン/オフ制御することができるので、前述した通り、特に、表現すべき階調数が多い場合において、印字ヘッドへのデータ転送回数の削減すなわちデータ転送時間の短縮が効果的に達成される。
【0018】
本発明の印字ヘッド制御装置は、印字ヘッドに対するエネルギーの印加時間を制御して階調を再現するようにした印字ヘッド制御装置であり、前記と同様の目的を達成するため、特に、
前記印字ヘッドに、最低発色エネルギーを供給するために必要とされる予備印加時間と実際の階調表現に必要とされる本印加時間とを合わせた必要印加時間でエネルギーを連続的に印加することを特徴とした構成を有する。
【0019】
再現すべき階調に応じた必要印加時間でエネルギーを連続的に印加することで休止期間中におけるエネルギーの減衰の問題が解消されるため、階調表現に必要とされるエネルギーの不足が解消され、階調データの構造に関わりなく、再現性の低下を防止して印字品位を向上させることができる。
また、エネルギーを連続的に印加するため、同じドット(発熱素子)を重ねて印字する場合に比べて印字ヘッドへのデータ転送回数が大幅に削減され、印字ヘッドへのデータ転送時間の冗長の問題が解消される。
【0020】
この印字ヘッド制御装置には、前記予備印加時間と最長の本印加時間とを合わせた時間を印加可能時間とし、この印加可能時間を、時系列に沿って、1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間を刻み幅としたj−1個の切替タイミングと(但し、jは2以上の整数)、前記予備印加時間を刻み幅とした1つの切替タイミングと、j階調分の階調変化に必要とされる第ニ印加時間を刻み幅とした複数の切替タイミングでエネルギー印加のオン/オフ制御が可能なサーマル制御信号生成手段と、
与えられた印字データの階調を判定して必要印加時間を求める階調判定手段と、
前記本印加時間を前記第一印加時間と前記第ニ印加時間の組み合わせに分割し、該分割された本印加時間が前記予備印加時間の直前もしくは直後あるいは其の前後に連続するように前記各切替タイミングにおけるエネルギー印加のオン/オフを決定する転送データ生成手段とを設けることが望ましい。
【0021】
このような構成を適用した場合、階調判定手段が印字データの階調を判定して必要印加時間を求め、転送データ生成手段が、この必要印加時間に含まれる本印加時間を前記第一印加時間と前記第ニ印加時間の組み合わせに分割し、分割された本印加時間が前記予備印加時間の直前もしくは直後あるいは其の前後に連続するようにエネルギー印加のオン/オフの切替タイミングを決定する。
そして、サーマル制御信号生成手段が、1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間を刻み幅としたj−1個の切替タイミングと、前記予備印加時間を刻み幅とした1つの切替タイミングと、j階調分の階調変化に必要とされる第ニ印加時間を刻み幅とした複数の切替タイミングで時系列に沿って印字ヘッドに対するエネルギー印加のオン/オフを制御する。
このようにして、1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間と、j階調分の階調変化に必要とされる第ニ印加時間を印加時間の単位としてエネルギーの印加をオン/オフ制御することで、表現すべき階調数が多い場合であっても頻繁にエネルギーの印加をオン/オフ制御する必要がなくなり、印字ヘッドへのデータ転送回数の削減と印字ヘッドへのデータ転送時間の短縮が実現される。
従って、仮に、予備印加時間のための印加時間の前に前記第一印加時間の3単位に相当する印加許容時間を設け、前記予備印加時間のための印加時間の後に4階調分の階調変化に相当する第ニ印加時間の3倍に相当する印加許容時間を設けたとすれば、前記と同様、16段階の階調表現に対応することができるようになる。
【0022】
更に、前記必要印加時間には、黒補正のための印加時間を含ませるように構成することも可能である。
【0023】
黒補正のためのエネルギーを重畳して印加することにより漆黒の締りが改善される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の階調印字制御方法および印字ヘッド制御装置は、再現すべき階調に応じた必要印加時間で印字ヘッドにエネルギーを連続的に印加することにより不用意な休止期間をなくしてエネルギーの減衰を防止するようにしたので、階調表現に必要とされるエネルギーの不足が解消され、階調データの構造に関わりなく、再現性の低下を防止して印字品位を向上させることができる。
また、エネルギーを連続的に印加するため、同じドット(発熱素子)を重ねて印字する場合に比べて印字ヘッドへのデータ転送回数が大幅に削減され、印字ヘッドへのデータ転送時間も短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の階調印字制御方法を適用した一実施形態の印字ヘッド制御装置1の構成の概略を示した機能ブロック図である。
印字ヘッド制御装置1は、演算手段としてのマイクロプロセッサ2(以下、単にCPUと称する)と、パーソナルコンピュータ等を始めとする上位装置から送られた印字データを格納して階調印字データに編集するためのワークメモリ3と、印字ヘッドの一種であるサーマルヘッド4を全体的に制御するためのサーマル制御回路5によって構成される。
【0026】
サーマル制御回路5は、ワークメモリ3から転送される2ライン分の階調印字データを一時的に格納するための編集メモリ6と、編集メモリ6に対するデータの書き込みや読み出しを制御するための編集メモリ制御回路7、および、サーマルヘッド4の制御に必要とされるクロックの生成やデータラッチおよびエネルギーの印加タイミング等を制御するためのインターフェイス回路8と、インターフェイス回路8で生成されたタイミングに基づいて転送データを生成する印字データ変換回路9から構成される。
【0027】
より具体的には、インターフェイス回路8は、図2に示されるように、サーマルヘッド4へのデータ転送に際して利用されるクロックを生成するための転送クロック生成回路10と、この転送クロックに基づいてサーマルヘッド4へのデータの転送周期を制御するためのデータラッチ信号を生成したりエネルギーの最長印加可能時間を規制するストローブ信号を生成したりするためのサーマル制御信号生成回路(サーマル制御信号生成手段)11と、階調データに応じた必要印加時間に基づいてエネルギー印加のオン/オフのタイミングを決定する転送データ生成回路(転送データ生成手段)12を備え、また、印字データ変換回路9は、編集メモリ6から読み出されるデータの階調を判定してエネルギーの必要印加時間を求める階調判別回路(階調判定手段)13と、編集メモリ6の印字データを1ラインずつ読み出してサーマルヘッド4に転送するデータに変換するデータ変換回路14を備える。
【0028】
図3は、本発明における階調印字制御方法を16段階の階調表現に適用した場合のエネルギー印加時間の振り分けの一例について示した概念図である。
【0029】
この実施形態では、最低発色エネルギーを供給するために必要とされる予備印加時間と実際の階調表現に必要とされる最長の本印加時間に黒補正のための印加時間を加えて最長印加可能時間とし、前述のストローブ信号により、この最長印加可能時間の範囲内でサーマルヘッド4に対するエネルギーの印加時間つまり電圧の印加時間をオン/オフ制御できるようにしている。
【0030】
なお、ここで言う予備印加時間とは、感熱紙の不用意な発色を防止して階調0を純白の状態に維持するために設けられた温度不感帯を埋めるための発色エネルギーを印加するのに要する印加時間である。つまり、常温にある感熱紙に予備印加時間に相当する時間で発色エネルギーを印加することで感熱紙は階調0の臨界状態つまり発色の一歩手前の状態となり、更に、この状態から1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間に亘って発色エネルギーを供給することで、初めて感熱紙は階調0の純白状態から階調1の状態へと変化する。また、黒補正のための印加時間は、階調15に相当する発色を完全な漆黒状態とするための追加的な印加時間である。
従って、階調0を再現する際には予備印加時間は不要であり、発色を伴う階調1〜階調15の再現に際しては予備印加時間が必須となり、このうち、最大濃度の階調15の表現に際してのみ黒補正のための印加時間が必要となる。
【0031】
また、階調1〜階調15まではエネルギーの印加時間に応じて概ねリニアに発色が変化するので、階調1〜階調2への発色の変化,階調2〜階調3への発色の変化,階調3〜階調4への発色の変化、・・・は、何れも1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間のエネルギーの印加によって達成され得る。
【0032】
具体的には、本実施形態においては、予備印加時間と階調15の発色に必要とされる最長の本印加時間(黒補正のための印加時間を含む)を合わせた時間を印加可能時間とし、この印加可能時間を、時系列に沿って、1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間を刻み幅とした3つ(請求項3,請求項6のj−1に相当する値)の切替タイミングと、予備印加時間を刻み幅とした1つの切替タイミング、および、4階調分(請求項3,請求項6のjに相当する値)の階調変化に必要とされる第ニ印加時間を刻み幅とした3つの切替タイミング、さらに、黒補正のための印加時間を刻み幅とした1つの切替タイミングとをあわせて8つ、つまり、最初の電圧印加のための立ち上げに必要とされる切替を含めると全体で9つの切替タイミングにおいてエネルギー印加のオン/オフ制御が行えるようになっている。
【0033】
ここで、仮に、最低発色エネルギーを供給するために必要とされる予備印加時間をt1(μs)、また、1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間をt2(μs)、黒補正のための印加時間をt3(μs)とすれば、図4に示されるように、第一印加時間に相当する最初の3つの切替タイミングをt2(μs)の刻み幅で設定し、これに次いで、予備印加時間t1(μs)に相当する時間幅で次の切替タイミングを設定し、更に、第ニ印加時間に相当するt2×4(μs)の刻み幅で3つの切替タイミングを設定し、更に、そのt3(μs)後に黒補正のための印加時間に相当する最後の切替タイミングを設定することになる。
【0034】
このうち、第一印加時間と第ニ印加時間と予備印加時間の総和が実際の階調表現に必要とされる本印加時間であり、時系列上、3つ(請求項3,請求項6のj−1に相当する値)の第一印加時間が予備印加時間の前、また、4階調分(請求項3,請求項6のjに相当する値)の階調変化に相当する3つの第ニ印加時間が予備印加時間の後に予約されることになる。
従って、エネルギーの印加に関わるオン/オフ切替は16階調表現の場合でも最大で9回で済むことになり、特許文献1等で見られるように同じドット(発熱素子)を重ねて印字する場合に必要とされる切替回数15回に比べると遥かに少ない。
【0035】
また、図5は特許文献2,特許文献3等に見られる従来の切替タイミングを示した概念図である。この種の従来例では、最初の時点で最低発色エネルギーを得るための予備印加時間t1(μs)を印加し、これに続いて、階調1(=2)に相当する発色エネルギーを得るためのt2(μs)の印加時間,階調2(=2)に相当する発色エネルギーを得るためのt2×2(μs)の印加時間,階調4(=2)に相当する発色エネルギーを得るためのt2×4(μs)の印加時間,階調8(=2)に相当する発色エネルギーを得るためのt2×8(μs)の印加時間、更に、黒補正に相当する発色エネルギーを得るためのt3(μs)の印加時間を設定するようになっている。
従って、最大の濃度である階調15を得るために必要とされる最長の印加可能時間に関しては、従来例も本実施形態も共にt1(μs)+t2×15(μs)+t3(μs)となり両者は同一である。
【0036】
図6は編集メモリ6から読み出されるデータの階調を判定して必要印加時間を求める階調判別回路13の判定結果に基づいて転送データ生成回路12が選択するエネルギー印加のタイミングチャートについて示した概念図である。
転送データ生成回路12によって選択されるタイミングチャートは図6(a)〜図6(p)に示されるように全体として16通りあり、これらのタイミングチャートによって示されるエネルギー印加の切替タイミングは、予め、転送データ生成回路12内のROM等に記憶されている。
【0037】
このうち図6(a)のタイミングチャートは階調0(純白)の表現に対応するためのもので、ストローブ信号が送出される間、エネルギー印加のオン/オフ制御は行われず、サーマルヘッド4には階調表現のためのエネルギーである電圧は全く印加されない。
【0038】
図6(b)に示されるタイミングチャートは階調1の表現に対応するもので、最低発色エネルギーを得るために必要とされる予備印加時間t1(μs)に1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間t2(μs)を1単位分だけ加算した時間で連続的にエネルギーを印加すべく、予備印加時間t1(μs)の直前に1単位分の第一印加時間t2(μs)を設定している。
【0039】
これと同様、階調2の表現に対応するため、図6(c)のタイミングチャートに示されるように予備印加時間t1(μs)の直前に2単位分の第一印加時間t2×2(μs)を設定してt1(μs)+t2×2(μs)の期間に亘って連続的にエネルギーが印加されるようにし、また、階調3の表現に対応するため、図6(d)のタイミングチャートに示されるようにして予備印加時間t1(μs)の直前に3単位分の第一印加時間t2×3(μs)を設定して、t1(μs)+t2×3(μs)の期間に亘って連続的にエネルギーが印加されるようにする。
【0040】
更に、階調4の表現に対応する場合には、図6(e)のタイミングチャートに示されるように、予備印加時間t1(μs)の直後に1単位分の第ニ印加時間t2×4(μs)を設定して、t1(μs)+t2×4(μs)の期間に亘って連続的にエネルギーが印加されるようにする。
【0041】
また、階調5の表現に対応する場合には、図6(f)のタイミングチャートに示されるように、必要とされる本印加時間t2×5(μs)を第一印加時間t2(μs)と第ニ印加時間t2×4(μs)の組み合わせに分割し、予備印加時間t1(μs)の直前に1単位分の第一印加時間t2(μs)を設定し、更に、予備印加時間t1(μs)の直後に1単位分の第ニ印加時間t2×4(μs)を設定することでt1(μs)+t2×5(μs)の期間に亘って連続的にエネルギーが印加されるようにしている。
【0042】
以下、前記と同様、階調表現に必要とされる本印加時間を第一印加時間t2(μs)と第ニ印加時間t2×4(μs)の組み合わせに分割し、必要数の第一印加時間t2(μs)の組と必要数の第ニ印加時間t2×4(μs)の組を予備印加時間t1(μs)の直前直後に連続するようにして振り分けることで、図6(g)〜図6(p)に示される通り、階調6〜階調15の表現に必要とされるエネルギーを連続的に印加することができる。
【0043】
なお、階調15の表現を行う場合は黒補正のための印加時間t3(μs)が必要となるので、図6(p)に示されるように、予備印加時間t1(μs)の前に3単位分の第一印加時間t2(μs)を設定すると共に、予備印加時間t1(μs)の後に3単位分の第ニ印加時間t2×4(μs)を設定し、更に、其の後に黒補正のための印加時間t3(μs)を加えることで、全体としてのエネルギーの印加時間を、t1(μs)+t2×15(μs)+t3(μs)とし、この期間に亘って連続的にエネルギーを印加する。
【0044】
本実施形態においては、このように、編集メモリ6から読み出されるデータの階調を階調判別回路13によって判定し、階調の判定結果に基づいて転送データ生成回路12が図6(a)〜図6(p)に示されるようなタイミングチャートから表現すべき階調に応じたタイミングチャートを一つのみ選択し、選択したタイミングチャートに従って、サーマル制御信号生成回路11がサーマルヘッド4の各ドット(発熱素子)に対するエネルギー即ち電圧の印加時間をオン/オフ制御することで、階調表現に必要とされるエネルギーを連続的に印加するようにしている。
【0045】
このため、エネルギーの供給が一時的にせよ休止するといった現象は発生せず、エネルギーの減衰といった問題も起こらないので、階調の表現に必要とされるエネルギーを常に適切にサーマルヘッド4の各ドット(発熱素子)に印加することが可能となり、再現性の低下、特に、階調の濃度の低下といった問題を確実に防止することができる。
【0046】
例えば、図5に示されるような従来のタイミング制御で階調8を表現する場合、最低発色エネルギーを得るための予備印加時間t1(μs)に亘ってエネルギーを印加した直後にt2×(1+2+4)=t2×7(μs)の休止時間が生じ、この間に図9の二点鎖線で示されるようにしてエネルギーの減衰が生じ、エネルギーレベルが再び最低発色エネルギー以下の状態となってしまうので、その後で階調8の表現に相当するt2×8(μs)の期間でエネルギーを印加したとしても、実際に表現される階調は階調6〜階調7程度のものとなってしまうが、本実施形態では、図6(i)のタイミングチャートに示される通り、予備印加時間t1(μs)のエネルギー印加に引き続いて第ニ印加時間t2×4(μs)の2単位に相当するt2×8(μs)の時間で連続的にエネルギーが印加されるので、途中でエネルギーレベルが低下するといった弊害は解消され、図9の実線で示される通り、階調8の表現を確実に再現することができる。
【0047】
また、図5に示されるような従来のタイミング制御では、例えば、階調7の表現に際し、結果的に、予備印加時間t1(μs)に引き続いてt2×(1+2+4)=t2×7(μs)に亘って連続的にエネルギーが印加されるので、階調7の表現自体は絶対的な基準と照らして適切に行い得るが、前述した通り、階調8の表現で階調表現が大幅に低下する特性があるため、相対的に見ると、階調7と階調8との間の濃度差が圧縮されたかたちとなり(この他にも同様の理由で階調3と階調4との間で濃度差が圧縮される)、コントラストが低下するといった弊害が生じるが、本実施形態においては階調0〜階調15に至るどの階調についても絶対的な基準と照らして適切な表現を行うことができるため、この結果として、隣接する階調間の濃度差も常に適正なものとなり、視覚的なコントラスト効果を高めることができる。
【0048】
以上、予備印加時間t1(μs)の前に1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間t2(μs)の3単位分に相当する印加許容時間を設け、予備印加時間t1(μs)の後に4階調分の階調変化に相当する第ニ印加時間t2×4(μs)の3倍に相当する印加許容時間を設けて16階調表現に対応する場合について述べたが、例えば、予備印加時間t1(μs)の前に第一印加時間t2(μs)の4単位分に相当する印加許容時間を設け、予備印加時間t1(μs)の後に5階調分の階調変化に相当する第ニ印加時間t2×5(μs)の4倍に相当する印加許容時間を設けるようにすれば、全体として24階調の表現を実現することが可能であり、さらに、予備印加時間t1(μs)の前に第一印加時間t2(μs)の5単位分に相当する印加許容時間を設け、予備印加時間t1(μs)の後に6階調分の階調変化に相当する第ニ印加時間t2×6(μs)の5倍に相当する印加許容時間を設けるようにした場合では、全体として36階調の表現を実現することが可能となる。
このように、同様の技術思想に基づいて、階調表現の枠を任意に拡張することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の階調印字制御方法を適用した一実施形態の印字ヘッド制御装置の構成の概略を示したブロック図である。
【図2】同実施形態の印字ヘッド制御装置におけるインターフェイス回路と印字データ変換回路の具体的な構成について示した機能ブロック図である。
【図3】本発明の階調印字制御方法を16階調表現に適用した場合のエネルギー印加時間の振り分けの一例について示した概念図である。
【図4】同実施形態におけるエネルギー印加の切替タイミングの一例を示した概念図である。
【図5】従来技術におけるエネルギー印加の切替タイミングの一例を示した概念図である。
【図6】階調判別回路の判定結果に基づいて転送データ生成回路が選択するエネルギー印加のタイミングチャートについて示した概念図であり、図6(a)〜図6(q)の各タイミングチャートが、夫々、階調0(純白)〜階調15(漆黒)の表現に対応する。
【図7】従来の階調表現におけるエネルギーの印加タイミングと印加時間の関係を示した概念図である。
【図8】16階調表現における階調8を例にとって従来の階調表現におけるエネルギーの印加タイミングと印加時間の関係を示した概念図である。
【図9】16階調表現における階調8を例にとって従来技術の欠点と本発明の特徴を示した概念図である。
【符号の説明】
【0050】
1 印字ヘッド制御装置
2 マイクロプロセッサ
3 ワークメモリ
4 サーマルヘッド(印字ヘッド)
5 サーマル制御回路
6 編集メモリ
7 編集メモリ制御回路
8 インターフェイス回路
9 印字データ変換回路
10 転送クロック生成回路
11 サーマル制御信号生成回路(サーマル制御信号生成手段)
12 転送データ生成回路(転送データ生成手段)
13 階調判別回路(階調判定手段)
14 データ変換回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字ヘッドに対するエネルギーの印加時間を制御して階調を再現するようにした階調印字制御方法であって、
前記印字ヘッドに、再現すべき階調に応じた必要印加時間でエネルギーを連続的に印加することを特徴とした階調印字制御方法。
【請求項2】
前記必要印加時間を、前記印字ヘッドに最低発色エネルギーを供給するために必要とされる予備印加時間と実際の階調表現に必要とされる本印加時間とで構成し、
予め決められた印加可能時間内に前記予備印加時間のための印加時間を予約しておき、前記本印加時間を前記予備印加時間のための印加時間の直前もしくは直後あるいは其の前後に連続して設定することによって前記必要印加時間を満たすことを特徴とした請求項1記載の階調印字制御方法。
【請求項3】
1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間と、j階調分の階調変化に必要とされる第ニ印加時間を印加時間の単位とし(但し、jは2以上の整数)、
前記予備印加時間のための印加時間の前に前記第一印加時間のj−1単位に相当する印加許容時間を設けると共に、前記予備印加時間のための印加時間の後に前記第ニ印加時間の単位の整数倍に相当する印加許容時間を設け、
前記本印加時間を前記第一印加時間と前記第ニ印加時間の組み合わせに分割し、前記印加許容時間を利用して、前記分割された本印加時間を、前記予備印加時間のための印加時間の直前もしくは直後あるいは其の前後に連続して設定することにより前記必要印加時間を満たすことを特徴とした請求項2記載の階調印字制御方法。
【請求項4】
前記予備印加時間のための印加時間の前に前記第一印加時間の3単位に相当する印加許容時間を設けると共に、前記予備印加時間のための印加時間の後に4階調分の階調変化に相当する第ニ印加時間の3倍に相当する印加許容時間を設けて16階調表現に対応した請求項3記載の階調印字制御方法。
【請求項5】
印字ヘッドに対するエネルギーの印加時間を制御して階調を再現するようにした印字ヘッド制御装置であって、
前記印字ヘッドに、最低発色エネルギーを供給するために必要とされる予備印加時間と実際の階調表現に必要とされる本印加時間とを合わせた必要印加時間でエネルギーを連続的に印加することを特徴とした印字ヘッド制御装置。
【請求項6】
前記予備印加時間と最長の本印加時間とを合わせた時間を印加可能時間とし、この印加可能時間を、時系列に沿って、1階調分の階調変化に必要とされる第一印加時間を刻み幅としたj−1個の切替タイミングと(但し、jは2以上の整数)、前記予備印加時間を刻み幅とした1つの切替タイミングと、j階調分の階調変化に必要とされる第ニ印加時間を刻み幅とした複数の切替タイミングでエネルギー印加のオン/オフ制御が可能なサーマル制御信号生成手段と、
与えられた印字データの階調を判定して必要印加時間を求める階調判定手段と、
前記本印加時間を前記第一印加時間と前記第ニ印加時間の組み合わせに分割し、該分割された本印加時間が前記予備印加時間の直前もしくは直後あるいは其の前後に連続するように前記各切替タイミングにおけるエネルギー印加のオン/オフを決定する転送データ生成手段とを備えたことを特徴とした請求項5記載の印字ヘッド制御装置。
【請求項7】
前記必要印加時間が予備印加時間と最長の本印加時間に加え黒補正のための印加時間を含むことを特徴とした請求項5または請求項6記載の印字ヘッド制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−256284(P2006−256284A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80725(P2005−80725)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000168285)エヌイーシーコンピュータテクノ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】