説明

隔壁用ペーストおよび隔壁付きガラス基板製造方法

【課題】 リブ流れが起こりにくくなる隔壁用ペーストおよび隔壁付きガラス基板の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】 アルカリ含有ガラス粉末、アクリル重合体および有機溶剤を含有する隔壁用ペーストであって、アクリル重合体のアミン価をA、水酸基価をBとして、Aが4以上かつBが18以上、Aが34以上62以下、または、Aが62超かつBが4以上である隔壁用ペーストおよび該ペーストを用いた隔壁付きガラス基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)等の隔壁形成に用いられるペーストに関する。また本発明は、PDPの背面ガラス基板などの隔壁付きガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型の平板型カラー表示装置であるPDPまたはVFDのパネル構造の特徴のひとつとして、画素を区切るために画面全域に等間隔で形成される隔壁が挙げられる。たとえば、PDPでは、前面ガラス基板と背面ガラス基板が重ね合わされており、前面ガラス基板の表面には、通常、透明電極および該透明電極を被覆する誘電体層が形成されており、該誘電体層はMgO膜で被覆され、保護されている。一方、背面ガラス基板の表面には、通常、アドレス電極および該アドレス電極を被覆する絶縁被覆層が形成されており、該絶縁被覆層の上に隔壁が形成されている。隔壁は画面全域に等間隔で格子状に形成され、その格子間隔は典型的には200〜300μmである。また、隔壁の幅、高さは、典型的にはそれぞれ80μm、150μmである。
【0003】
PDPの隔壁は、たとえば、隔壁形状を保持するためのセラミックスフィラー、固着材であるガラス粉末、色調調整のための耐熱顔料等からなる無機粉末をビヒクルと混合して得られる隔壁用ペーストを用い、次のようにして形成される。
【0004】
すなわち、まず、表面にアドレス電極および該アドレス電極を被覆する絶縁被覆層が形成されたガラス基板の上の全面に隔壁用ペーストを塗布し、乾燥させる。次に、この乾燥された塗布層(以下、乾燥膜という。)の上にドライフィルムレジストをラミネートし、所望の隔壁パターンの露光マスクをセットして露光後、炭酸ナトリウム水溶液等を用いて現像し、乾燥膜の上に隔壁パターンを形成する。この隔壁パターンが形成された乾燥膜の不要部をサンドブラストによって切削し、未焼成隔壁を得た後、この未焼成隔壁の上に残っているドライフィルムを水酸化ナトリウム水溶液、エタノールアミン等によって除去後、500〜620℃で焼成しガラス基板上に隔壁を形成する。
【0005】
従来、隔壁用ペーストには、ガラス粉末としてはPbO−SiO2−B23系ガラスの粉末が、耐熱顔料としてはチタニア等の白色顔料またはCr−Cu複合酸化物等の黒色顔料が、セラミックフィラーとしてはアルミナ、ジルコン、ジルコニア等の粉末が、それぞれ使用されている。前記PbO−SiO2−B23系ガラスのモル%表示の代表的な組成は、B23 15%、SiO2 40%、PbO 35%、Al23 5%、TiO2 5%、である。ビヒクルは樹脂と有機溶剤を含み、樹脂としてはエチルセルロース等、有機溶剤としてはターピネオール等が使用されている(たとえば、特許文献1参照。)。また、隔壁形成時のサンドブラスト特性の向上やドライフィルムと乾燥膜との密着性向上等のために、主にPbO−SiO2−B23系ガラスのガラス粉末を用いた隔壁用ペーストにおいて、樹脂としてエチルセルロースとともにアクリル重合体を併用する提案もなされている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
ところで、これまで隔壁用ペーストに主に使用されてきたPbO−SiO2−B23系ガラスに代表される鉛含有ガラスは、隔壁形成用ガラスとして優れた性質を有しているが、近年、低鉛または無鉛系のガラスが望まれ、鉛含有ガラスに代替するガラスが種々提案されている。たとえば、PbOに替わってBi23を用いたビスマス含有ガラスや、ZnO−B23−SiO2系でアルカリ金属酸化物成分を有するアルカリ含有ガラス等が提案されている(例えば、特許文献3参照)。ただし、ビスマスは、資源としても少量な物質で、高価なことから、低ビスマスまたは無ビスマスであることも望まれる。
【0007】
【特許文献1】特開2001−106547号公報
【特許文献2】特開2003−54992号公報
【特許文献3】特開2001−130926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、現状、隔壁用ペーストに用いるガラス粉末には、低鉛化および低ビスマス化が要求されている。しかし、アルカリ含有無鉛ガラスに替えると、前記未焼成隔壁の上に残っているドライフィルムを水酸化ナトリウム水溶液、エタノールアミン等によって除去しようとするときに未焼成隔壁がガラス基板から剥離する現象(この現象をリブ流れという)が起り易いという問題があった。
本発明はこのようなリブ流れが起こりにくくなる隔壁用ペーストおよび隔壁付きガラス基板の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、下記構成の隔壁用ペーストおよび隔壁付きガラス基板製造方法が提供される。
(1)アルカリ含有ガラス粉末、アクリル重合体および有機溶剤を含有する隔壁用ペーストであって、アクリル重合体のアミン価をA、水酸基価をBとして、Aが4以上かつBが18以上、Aが34以上62以下、または、Aが62超かつBが4以上である隔壁用ペースト。
【0010】
(2)アクリル重合体のガラス転移温度が35℃以上である上記(1)に記載の隔壁用ペースト。
【0011】
(3)エチルセルロースを含有する上記(1)または(2)に記載の隔壁用ペースト。
【0012】
(4)隔壁付きガラス基板を製造する方法であって、ガラス基板上に上記(1)〜(3)のいずれかに記載の隔壁用ペーストを塗布した後に乾燥し、加工し、焼成して隔壁を形成する隔壁付きガラス基板製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アルカリ含有ガラス粉末を用いても前記リブ流れが起こりにくくなる隔壁用ペーストが得られる。
また、乾燥膜の上にラミネートされたドライフィルムレジストが前記露光後の現像において乾燥膜から剥離する現象を起こりにくくすること、すなわち耐現像性を向上させることも可能になる。
また、サンドブラストを高効率で行うことも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の隔壁用ペースト(以下、本発明のペーストという。)は、通常、アルカリ含有ガラス粉末を必須とし必要に応じてセラミックスフィラー、耐熱顔料等を含有する無機粉末と、アミン価(A)が4以上かつ水酸基価(B)が18以上、Aが34以上62以下、または、Aが62超かつBが4以上であるアクリル重合体(以下、このアクリル重合体を単にアクリル重合体という。)を必須とし必要に応じてエチルセルロース等も含む有機バインダとしての樹脂および当該樹脂を溶解する有機溶剤を含むビヒクルとを混練して製造される。
【0015】
なお、本発明でいうアミン価、水酸基価および後述する酸価は以下に示すようなものである。
アミン価はJIS K7237に規定されている試験方法によって求めたアクリル重合体の全アミン価(試料1g中に含まれる全塩基性窒素を中和するのに要する過塩素酸と、当量の水酸化カリウムのmg数)である。
水酸基価はJIS K0070に規定されている試験方法によって求めたアクリル重合体の水酸基価(試料1g中をアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数)である。
酸価はJIS K0070に規定されている試験方法によって求めたアクリル重合体の酸価(試料1g中に含有する酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数)である。
【0016】
本発明のペーストは、PDPやVFD等の隔壁形成に用いられ、通常、表面にアドレス電極および該アドレス電極を被覆する絶縁被覆層が形成されたガラス基板の上の全面に塗布し、乾燥後サンドブラスト法等により所望の形状に加工された後、焼成される。
【0017】
無機粉末中のアルカリ含有ガラス粉末の含有量は、70質量%以上であることが好ましい。より好ましくは80質量%以上である。また、同含有量は典型的には85質量%以下である。
【0018】
アルカリ含有ガラス粉末の軟化点TSは450〜650℃であることが好ましい。450℃未満では前記焼成時にガラスが流動しすぎ、所定の隔壁形状が得られないおそれがある。より好ましくは500℃以上である。650℃超では焼成時のガラス流動性が低下し、緻密な隔壁が得られないおそれがある。より好ましくは620℃以下、特に好ましくは600℃未満である。
【0019】
アルカリ含有ガラス粉末を焼成して得られる焼成体の50〜350℃における平均線熱膨張係数αは65×10-7〜90×10-7/℃であることが好ましい。この範囲外では、ガラス基板との膨張マッチングが困難となる場合がある。より好ましくは70×10-7〜80×10-7/℃である。なお、ガラス基板の前記平均線膨張係数は典型的には65×10-7〜85×10-7/℃である。
【0020】
アルカリ含有ガラス粉末とは、その成分としてR2O(Rは、アルカリ金属を表す。)を含有するガラスの粉末であり、R2Oを典型的には合計で1〜30モル%を含むガラス粉末である。
本発明のペーストにおけるアルカリ含有ガラス粉末は、下記酸化物基準のモル%表示で、本質的に、B23 0〜60%、SiO2 20〜65%、ZnO 0〜60%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜50%、Li2O+Na2O+K2O 1〜30%、Al23+TiO2+ZrO2 0〜13%、CuO+SnO2+CeO2 0〜5%、からなり、PbOまたはBi23を含有する場合はPbO+Bi23が10%以下であることが好ましい。ここで、たとえば「B23:0〜60%」とは、B2Oは必須ではないが60%まで含有してもよい、との意である。
【0021】
前記場合において、PbO+Bi23の含有量はより好ましくは5%以下であり、PbOおよび/またはBi23を実質的に含有しないのが最も好ましい。
【0022】
アルカリ含有ガラス粉末には、上記成分以外にも、その他の成分を本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。その場合、「その他の成分」の含有量の合計は5%以下であることが好ましい。
前記「その他の成分」として、La23等の希土類酸化物、P25、MnO、Fe23、CoO、NiO、GeO2、Y23、MoO3、Rh23、Ag2O、In23、TeO2、WO3、ReO2、V25、PdO等が例示される。
【0023】
セラミックスフィラーは必須ではないが必要に応じて含有してもよい。セラミックフィラーを含有する場合、その典型的な含有量は5〜25質量%である。セラミックスフィラーとして、アルミナ、ムライト、ジルコン、ジルコニア、コージェライト、チタン酸アルミニウム、β−スポジュメン、α−石英、石英ガラス、β−石英固溶体、β−ユークリプタイト等の粉末が例示される。
【0024】
耐熱顔料は必須ではないが必要に応じて含有してもよい。耐熱顔料を含有する場合、その典型的な含有量は0.5〜10質量%である。耐熱顔料として、チタニア等の白色顔料、Fe−Mn複酸化物系、Fe−Co−Cr複酸化物系、Fe−Mn−Al複酸化物系等の顔料が例示される。
【0025】
アクリル重合体は、Aが10〜46かつBが34〜78であるか、Aが34〜62かつBが18〜46であることが好ましい。なお、典型的にはAは150以下、Bは90以下である。
アクリル重合体の酸価は、好ましくは0〜7、より好ましくは0〜2である。
アクリル重合体のガラス転移温度(Tg)は35℃以上であることが好ましい。35℃未満ではサンドブラストを高効率で行うことが困難になるおそれがある。より好ましくは40℃以上である。アクリル重合体のTgは典型的には50℃以下である。
【0026】
アクリル重合体は、上記条件を満足すべく、以下のように重合のためのモノマーを選定し、公知の方法で重合することにより、調製することができる。
アクリル重合体は、モノマーの重合により形成された重合成分として、Aを0超とするための成分(以下、アミン化成分という。)またはBを0超とするための成分(以下、水酸化成分という。)を含有しなければならない。
重合によりアミン化成分を構成するモノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートが例示される。
重合により水酸化成分を構成するモノマーとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが例示される。
【0027】
アクリル重合体の重合成分は典型的には、アミン化成分または水酸化成分以外にTgが40℃超である成分(以下、高Tg成分という。)とTgが40℃以下である成分(以下、低Tg成分という。)を含有する。
【0028】
重合により高Tg成分を構成するモノマーとしては、メチルメタアクリレート(105℃)、エチルメタアクリレート(65℃)、i−ブチルメタアクリレート(53℃)、t−ブチルメタアクリレート(110℃)、シクロヘキシルメタアクリレート(66℃)およびメタアクリル酸(144℃)が、重合により低Tg成分を構成するモノマーとしては、n−ブチルメタアクリレート(20℃)およびエチルヘキシルメタアクリレート(−10℃)がそれぞれ例示される。なお、括弧内に各モノマーのTgを示す。ここで、モノマーのTgとは当該モノマーから得られるホモポリマーのTgである。
【0029】
また、アクリル重合体の調製の際のモノマーとして、シラン含有モノマーを含有してもよい。シラン含有モノマーとしては、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランおよび3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランが例示される。
【0030】
アクリル重合体を構成する全重合単位に対して、アミン化成分の含有割合は、1〜18モル%、水酸化成分の含有割合は0〜18モル%、高Tg成分の含有割合は16〜65モル%、低Tg成分の含有割合は25〜70モル%、シラン含有モノマーが構成する重合成分の含有割合は0〜3モル%がそれぞれ典型的である。
ここで重合単位とは、一つのモノマーが重合体中で形成する単位であり、上記各成分の含有割合とは、アクリル重合体を構成する全重合単位に対する、各成分を構成する重合単位の割合(モル%)である。
【0031】
アクリル重合体の質量平均分子量は典型的には40000〜60000である。
【0032】
本発明のペーストは前記アクリル重合体以外の樹脂を必要に応じて含有してもよい。たとえばポットライフを長くしたいすなわちペーストの保存安定性を高くしたい等の場合には質量平均分子量が典型的には50000〜200000であるエチルセルロースを含有することが好ましい。
【0033】
有機溶剤は、ターピネオール、エチレングリコールアルキルエーテル(例えばエチレングリコールモノエチルエーテル)、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル(例えばジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール))、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート(例えばジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート))、ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート、トリエチレングリコールアルキルエーテルアセテート、トリエチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールアルキルエーテル、トリプロピレングリコールアルキルエーテル(例えばトリプロピレングリコールn−ブチルエーテル)、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート、アセチルトリアルキルシトレート、トリアルキルシトレート、2,2,4−トリメチル−1,3ペンタジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3ペンタジオールジイソブチレート、フタル酸ジメチル(ジメチルフタレート)、フタル酸ジエチル(ジエチルフタレート)、およびフタル酸ジブチル(ジブチルフタレート)(ここでアルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシルまたは2−エチルヘキシルを表す)、からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。ターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3ペンタジオールモノイソブチレートおよびプロプレングリコールフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上であることがより好ましい。
【0034】
本発明のペーストは無機粉末、樹脂および有機溶剤から本質的になり、無機粉末を100質量部として樹脂を1〜5質量部、有機溶剤を35〜65質量部の割合で含有することが典型的である。
本発明のペーストの好ましい態様として、無機粉末を100質量部として前記アクリル重合体を1〜3質量部、エチルセルロースを1〜3質量部、ターピネオールを24〜40質量部含有するものが挙げられる。
【0035】
本発明のペーストは無機粉末、樹脂および有機溶剤以外の成分を本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。以下、このような成分について説明する。
【0036】
リブ流れをより抑制したい等の場合にはシランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤としては、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン3
−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、さらにはエポキシ、アミノ、ビニル、スチリルおよびウレイドが例示される。エポキシ、アミノ、ビニルまたはスチリルおよびウレイドとしてはより具体的にはたとえば、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
シランカップリング剤を含有する場合、その典型的な含有割合は無機粉末を100質量部として合計で0.1〜0.6質量部である。
【0037】
また、メチルラウレート、メチルステアレート、メチルオレエート、ブチルラウレート、ブチルステアレート、ブチルオレエート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ブチルジグリコールアジペート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、エチルヘキシルセバケート等の可塑剤を含有してもよい。この場合、その典型的な含有割合は無機粉末を100質量部として合計で0.1〜0.6質量部である。
【0038】
また、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の炭素数が3以上のオキシアルキレンを有するポリオキシアルキレン化合物を含有してもよい。この場合、その典型的な含有割合は無機粉末を100質量部として合計で0.1〜1質量部である。
【0039】
本発明のペーストを用いた隔壁付きガラス基板の製造方法は、基本的には、ガラス基板上に本発明のペーストを塗布した後に乾燥し、加工し、焼成して隔壁を形成するものである。隔壁付きガラス基板は、より具体的には、たとえば、以下のようにして製造することができる。
まず、表面にアドレス電極および該アドレス電極を被覆する絶縁被覆層が形成されたガラス基板の上の全面にペーストを塗布し、乾燥させる。次に、この乾燥された塗布層(乾燥膜)の上にドライフィルムレジストをラミネートし、所望の隔壁パターンの露光マスクをセットして露光後、炭酸ナトリウム水溶液等を用いて現像し、乾燥膜の上にドライフィルムレジストの隔壁パターンを形成する。この隔壁パターンが形成された乾燥膜の不要部をサンドブラストによって切削し、未焼成隔壁を得た後、この未焼成隔壁の上に残っているドライフィルムを水酸化ナトリウム水溶液、エタノールアミン等によって除去後、500〜620℃で焼成しガラス基板上に隔壁を形成する。
【0040】
以下に、隔壁付きガラス基板として背面ガラス基板を有するPDPの製造方法を説明する。
本発明のペーストを用いて、PDPは、交流方式であれば次のようにして製造される。
図1に示すように、前面ガラス基板1aの上に、電極2をパターニングして形成し、バス線(図示せず)を形成した後、電極を保護する透明誘電体層3を形成し、透明誘電体層3の上に通常MgOからなる保護膜を形成して、前面基板を製造する。
【0041】
一方、背面基板の作製では、まず、背面ガラス基板1bの上に、パターニングされたアドレス電極5を形成したのち、該アドレス電極を被覆する絶縁被覆層8を形成する。隔壁6は、前述した通り、本発明のペーストを絶縁被覆層8上に全面に塗布し乾燥させた後、サンドブラストにより所望の隔壁パターンに加工し、焼成して形成する。
【0042】
前記焼成が行われる温度は通常、500〜620℃である。500℃未満では焼成後の隔壁に前記樹脂が一部残留し、PDPまたはVFDにおいてパネルを封着する際またはパネル放電時にこれら残留樹脂がガスとなって放出されるおそれがある。620℃超ではガラス基板が変形するおそれがある。
【0043】
隔壁パターンを形成後、蛍光体層4を印刷・焼成して形成する。
【0044】
PDPは、前面ガラス基板1a、背面ガラス基板1bの周縁にシール材(図示せず)をディスペンサで塗布し、上記のように作製した前面基板と背面基板を、基板の電極が対向するように組み立ててパネル化し、焼成して、プラズマディスプレイの内部を排気して、放電空間7にNeやHe−Xeなどの放電ガスを封入して作製する。
なお、上記の例は交流方式について述べたが、本発明は直流方式にも適用できる。
【実施例】
【0045】
表1〜3に示すMMAからシラン含有モノマーまでの欄にモル%表示で示す割合で各モノマーを重合させアクリル重合体を作製した。
表1〜3における各モノマーの略号は以下のとおりである。
MMA: メチルメタアクリレート
n−BMA: n−ブチルメタクリレート
i−BMA: i−ブチルメタクリレート
DMAEMA: ジメチルアミノエチルメタクリレート
2−HEMA: 2−ヒドロキシエチルメタクリレート
シラン含有モノマー: 3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM503)
【0046】
MWおよびTgの欄にはそれぞれアクリル重合体の質量平均分子量を104で除した数値およびガラス転移温度(単位:℃)を示す。
また、アクリル重合体のアミン価、水酸基価および酸価を表1〜3に示す。
【0047】
一方、次のようにしてガラス粉末を作製した。すなわち、モル%表示の組成が、SiO2:33%、B23:19.5%、ZnO:18%、Al23:10%、BaO:2.5%、Li2O:9%、Na2O:7.5%、SnO2:0.5%、となるように原料を調合、混合して白金坩堝に入れ、これを1200〜1350℃に1時間保持して溶解した。次に、得られた溶融ガラスを流し出して薄板状ガラスに成形後ボールミルで粉砕して平均粒径が2.0μmであるガラス粉末を得た。
【0048】
このガラス粉末とアルミナ粉末とチタニア粉末とを質量比が92:7:1となるように調合、混合して無機粉末を作製した。
エチルセルロース、ターピネオール、DEGBEA、ブチルラウレート、POEPOP、DTMOSおよびDMLAの各成分を、表1〜3に質量部表示で示す割合で加え、85℃で4時間攪拌しビヒクルを作製した。なお、当該質量部表示は当該ビヒクルと混合されるべき無機粉末を100質量部とするものである。
【0049】
ここで、DEGBEAはジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ブチルラウレートは可塑剤でエチルセルロースを可塑化し耐現像性の向上を目的とするもの、P
OEPOPはポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(トリメチロールプロパン開始でプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドを付加重合したポリエーテルポリオール(竹本油脂社製パイオニンP−4515−T、質量平均分子量:5200、エチレンオキサイド比率:14%)、DTMOSはデシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製シランカップリング剤KBM3103C)、DMLAはジメチルラウリルアミン、である。
【0050】
このようにして得られたビヒクルと前記無機粉末とを混合し、三本ロールで混練後ずり速度4s-1での粘度が40Pa・sとなるように粘度調整してペーストを作製した。例1〜16は実施例、例17〜24は比較例である。
【0051】
これらペーストのポットライフ(単位:日)を次のようにして測定した。すなわち、ペーストを室温で容器に入れて保管し容器の底に粘度が高い成分が固着するまでの経過日数を測定した。結果を表1〜3に示す。なお、ポットライフは20日以上であることが好ましい。
【0052】
次に、例1〜24のペーストを大きさが10cm×10cmまたは5cm×7.5cmである旭硝子社製ガラス基板PD200に500μmのスペーサでブレードコートし、120℃に45分間保持して乾燥し、乾燥膜付きガラス基板を作製した。このガラス基板を目視観察した結果、例1〜24のいずれについても乾燥膜に亀裂は認められなかった。
【0053】
前記乾燥膜付きガラス基板またはこれを加工したものをサンプルとして用い、以下に述べるようにして耐現像性(単位:回)、リブ流れ耐性(単位:分)、ブラストレート(単位:μm)を測定した。結果を表1〜3に示す。
【0054】
耐現像性:ロール温度110℃、ロール圧0.4MPa、基板搬送速度0.4m/分の条件で前記乾燥膜付きガラス基板を1回ラミネ−タに通して東京応化工業社製のドライフィルムレジスト(DFR)をラミネートし、ドライフィルム付きガラス基板を作製した。
【0055】
このドライフィルム付きガラス基板に、線幅40、50、60、80、100、125、150、200μmの8種類のラインが各5本、計40本あるパターンの露光マスクをセットして200mJ/cm2の条件で露光した。
この露光されたガラス基板について、30℃の0.2質量%炭酸ナトリウム水溶液に0.5秒間隔で浸漬、取出しを繰り返す試験を行ない、光硬化した部分のドライフィルムが剥がれるまでの浸漬回数を測定した。この回数は、好ましくは130回以上、より好ましくは160回以上、特に好ましくは200回以上である。
【0056】
リブ流れ耐性:乾燥膜表面が切削されたガラス基板を40℃の2質量%水酸化ナトリウムに浸漬し、乾燥膜がガラス基板から剥離するまでの時間を測定した。リブ流れ耐性は20分以上であることが好ましい。
ブラストレート:乾燥膜付きガラス基板の乾燥膜の一部をマスキングし、エルフォテック社製サンドブラスト装置ELP−1TRを用いて、研磨剤供給エア圧:110kPa、圧送エア圧:90kPa、加工速度:150mm/分、供給ローラ回転数:10rpmの条件でサンドブラストを1回行った。マスキングされている部分とサンドブラストされた部分の段差(μm)を測定した。ブラストレートは50μm/回以上であることが好ましい。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】プラズマディスプレイの代表的な一例の概略断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1a:前面ガラス基板
1b:背面ガラス基板
2: 電極
3: 透明誘電体層
4: 蛍光体層
5: アドレス電極
6: 隔壁
7: 放電空間
8: 絶縁被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ含有ガラス粉末、アクリル重合体および有機溶剤を含有する隔壁用ペーストであって、アクリル重合体のアミン価をA、水酸基価をBとして、Aが4以上かつBが18以上、Aが34以上62以下、または、Aが62超かつBが4以上である隔壁用ペースト。
【請求項2】
アクリル重合体のガラス転移温度が35℃以上である請求項1に記載の隔壁用ペースト。
【請求項3】
エチルセルロースを含有する請求項1または2に記載の隔壁用ペースト。
【請求項4】
隔壁付きガラス基板を製造する方法であって、ガラス基板上に請求項1〜3のいずれかに記載の隔壁用ペーストを塗布した後に乾燥し、加工し、焼成して隔壁を形成する隔壁付きガラス基板製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−111658(P2006−111658A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297790(P2004−297790)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】