説明

隔年結実の抑制

天然代謝産物を使用して多年生作物の隔年結実を抑制する組成物および方法を説明する。特に、本開示内容では、オーキシン輸送阻害物質の存在下または非存在下において天然代謝産物を供給して、結実数の多い年の翌春の着花度(花の個数)を増加させ、これにより、結実数の少ないと予測される翌年の果実の収量を増加させて、累積果実収量を増加させている。また、本開示内容では、天然代謝産物を、成長促進タイプの植物成長調整剤とホルモン生合成阻害タイプ、輸送阻害タイプ、または機能阻害タイプの植物成長調整剤との1つ以上と組み合わせて供給している。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本発明は、米国特許法35条119(e)項の下、米国特許出願No.61/290,470号(出願日:2009年12月28日)に基づく優先権を主張するものであり、参照により、上記米国特許出願の内容を含むものである。
【0002】
〔技術分野〕
天然代謝産物を使用して多年生作物の隔年結実を抑制する組成物および方法について説明する。特に、本開示内容では、オーキシン輸送阻害物質の存在下または非存在下において天然代謝産物を与えて、結実数の多い年の翌春の着花度(花の個数)を増加させて、結実数が減少すると予測される年の生産量を増加させることで、累積生産量を増加する。さらに、本開示内容では、天然代謝産物を成長促進タイプの植物成長調整剤と、ホルモン生合成阻害タイプの植物成長調整剤、輸送阻害タイプの植物成長調整剤、または機能阻害タイプの植物成長調整剤との1つ以上と組み合わせて使用する。
【0003】
〔背景技術〕
隔年結実(隔年結果または結実ムラとも称する)とは、結実数の多い年と結実の少ない年とを交互に繰り返す、多年生作物の傾向である。結実数の多い年では、サイズの小さい果実が大量に生産されるため、果実の市場価値が低下する。一方、結実数の少ない年では、果実のサイズが大きくなるものの、生産量が低いため、生産コストを差し引いた後に生産者の手に残る収入は僅かとなる。隔年結実は、果実価格の不安定性を招来し、生産者の年間収入を不安定にし、市場シェアの喪失リスクに繋がる。結実数の少ない年の生産量の減少は、付加価値品産業の発展または持続性を危うくするものである。
【0004】
隔年結実は多種の植物に共通して起きる現象であり、落葉樹と常緑樹の両方に起き、多年生の果物および穀果においても起きる。こうした隔年結実は、全領域、一区画分の樹木、個々の樹木、または、樹木または枝の一部に生じる。上記課題は、リンゴ類、アプリコット類、アボカド類、シトラス類、特に、マンダリン類、桃類、ペカン類、ピスタチオ類、プラム類など、市場価値のある作物においては、深刻な経済的爪痕を残すものである。およそ一年毎に、結実数の減少の影響により、生産者の収入が果樹園から見込まれる潜在所得を下回る。したがって、隔年結実を抑制することが繰り返し必要とされてきた。
【0005】
隔年結実は、着花の減少、過度の落花または落果を引き起こして、結実数の低下へと繋がる気候条件(例えば、開花期間または実止まり期間における凍結損傷、低気温条件の不足、低気温または高気温)によって引き起こされる。そして、こうした結実数の少ない年の後には結実数の多い年が続く。なお、結実数の多い年は、通常は結実数の少ない年の翌年であるが、樹木が回復するのにどの程度の期間が必要かに応じて変化する。反対に、作物の開花および実止まりに最適であり、間伐の効果が薄れる天候条件では、結実数の多い年が起きるが、こうした結実数の多い年の後には結実数の少ない年が訪れる。隔年結実は、一旦引き起こされると、最終的に着花度に影響する果樹の内因性要素に対して結実が及ぼす効果を介して同調する。よって、結実が多くなると、その翌年の春季大増殖が減少する。一方、結実が減少すると、その翌年の春季大増殖が増加する。隔年結実は天候条件によって引き起こされるので、隔年結実の矯正方策は繰り返し必要とされる。
【0006】
果実は、隔年結実を引き起こす重要な要因であり、樹木に実る果実の数は、翌年の着花度に影響を及ぼす重要な要因である。多種の多年生果実類や穀果類では、1つの樹木に大量の果実が実ると、夏と秋に発育する栄養シュートの数が減少し、その成長も短いものになるので、翌春に花部を形成するシュートおよびその節の数が減少する(Verreynne, Ph.D. Thesis, University of California Riverside, 2005年; and Verreynne and Lovatt, J Amer Soc Hort Sci,134:299−307,2009年)。また、春に大量の果実が樹木に実っている場合、春に萌芽する芽を阻害することになり、春に成長する花シュートおよび花の数を更に減少させることになる。作物の中には、春の開花を過ぎるまで果実が熟さないため、収穫できないものがある。一方、他の作物では、樹木に実る果実が春に熟すと、隔年結実の程度が不必要に増大するものがある(Verreynne, Ph.D. Thesis, University of California, Riverside,2005年;Verreynne and Lovatt,J Amer Soc Hort Sci, 134:299−307,2009年)。
【0007】
隔年結実を抑制する現行の対策では、結実数の多い年の生産量を減少させることが必要である。生産量の減少は、刈り込み又は手摘みにより開花を阻害するか、又は、花又は熟していない果実を化学的に除去することで、実現することができる。そのため、上記技術においては、隔年結実を抑制する組成物および方法であって、多大な労力を必要とせず安全であり、結実数の多い年の生産量を減少させない組成物および方法が必要とされている。
【0008】
〔発明の概要〕
天然代謝産物を使用して多年生作物の隔年結実を抑制する組成物および方法を説明する。特に、本開示内容では、オーキシン輸送阻害物質(植物成長調整剤または天然フラボノイド)の存在下または非存在下において天然代謝産物(アデノシン等)を供給して、結実数の多い年の翌春の着花度(花の個数)を増大させて、結実数が減少すると予測される翌年の生産量を増加し、累積作物生産量を増加する。また、本開示内容では、天然代謝産物を、成長促進性の植物成長調整剤と、ホルモン生合成阻害性、輸送阻害性、または機能阻害性の植物成長調整剤との1つ以上と組み合わせて供給する。
【0009】
本開示内容は、多年生作物の隔年結実を抑制する方法であって、効果的な量の精製天然化合物を含む組成物を多年生作物に投与して、上記多年生作物の隔年結実を抑制する工程を含み、上記天然化合物は、アデノシンと、アデノシンリン酸と、イノシンと、イノシンリン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される方法である。また、他の実施形態では、上記天然化合物が9−ベータ−D−アデノシンを含む。また、幾つかの好適な実施形態では、上記天然化合物は、アデノシン一リン酸と、アデノシン二リン酸と、アデノシン三リン酸と、イノシンと、イノシン一リン酸と、イノシン二リン酸と、イノシン三リン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンとからなる一群から選択される1つまたは複数を含む。また、幾つかの特に好適な実施形態では、上記組成物は、6−ベンジルアミノプリンと、ゼアチンと、ゼアチンリボシドと、キネチンと、イソペンテニルアデニンと、イソペンテニルアデノシンと、1−(2−クロロ−4−ピリジニル)−3−フェニル尿素と、ジベレリン酸と、6−ベンジルアデニンと、6−ベンジルアデノシンと、2,3,5−トリヨード安息香酸と、DPX1840と、9−ヒドロキシフルオレン−9−カルボン酸と、ナプタラム(N−1−ナフチルフタラミン酸)と、フルリドン(1−メチル−3−フェニル−5−[3−トリフルロメチル(フェニル)]−4−(1H)−ピリジノン)と、アバミンと、1−ブタノールと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される植物成長調整剤を更に含む。また、幾つかの好適な実施形態では、上記植物成長調整剤が2,3,5−トリヨード安息香酸である。また、追加の実施形態では、上記組成物が、ナリンゲニンと、ケルセチンと、フォルモノネチンと、ゲニステインと、これらの組み合わせとからなる一群から選択されるフラボノイド又はイソフラボノイドを更に含む。また、他の実施形態では、上記組成物が、窒素と、カリウムと、マグネシウムと、リンと、カルシウムと、硫黄と、鉄と、ホウ素と、塩素と、マンガンと、亜鉛と、銅と、モリブデンと、ニッケルと、シリコンと、セレンと、コバルトと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される肥料を更に含む。また、好適な実施形態では、上記多年生作物が、アプリコットと、アボカドと、シトラス(オレンジ、檸檬、グレープフルーツ、タンジェリン、ライム、およびシトロン)と、桃と、西洋ナシと、ペカンと、ピスタチオと、プラムとからなる一群から選択される。本開示内容は、葉面散布法と、注水法と、樹幹注入法とからなる一群から選択される手法を用いて、上記組成物を投与する。幾つかの実施形態では、上記隔年結実の抑制が、上記組成物が投与されていない果樹と比較して、着果数の多い年の翌春の100節当たりの花芽シュート数を増加させることを含み、結実数の多い年の上記組成物が投与されていない果樹と比較して、結実数の多い年の翌年の果実収量を増加させること、および、結実数の多い年の上記組成物が投与されていない果樹と比較して、2年間の累積果実収量を増加すること、の何れか1つ以上を含む。幾つかの好適な実施形態では、上記組成物を、栄養シュートの夏の発育の開始時期であって、春の萌芽期よりも早い時期に投与する。例えば、カリフォルニア州の天候または同様の天候では、幾つかの実施形態において、上記組成物を以下の要領で1〜2回投与する:すなわち、6月にのみ投与、6月と12月に投与、6月と1月に投与、または、6月と2月に投与する。また、幾つかの実施形態では、上記組成物を下記の要領で1〜2回投与する:すなわち、7月に投与、7月と1月とに投与、7月と2月とに投与する。幾つかの実施形態では、果実の皮が一番厚い時期に、上記組成物をシトラスの樹に投与する。また、幾つかの好適な実施形態では、上記組成物を結実数の少ない年の収穫期の90日以上前に投与し、好ましくは結実数の少ない年の収穫期の4ヶ月、5ヶ月、または6ヶ月前に投与する。
【0010】
さらに、本開示内容では、作物の隔年結実の抑制に効果的な組成物であって、(i)精製天然化合物と、(ii)オーキシン輸送阻害物質とを含み、上記天然化合物は、アデノシンと、アデノシンリン酸と、イノシンと、イノシンリン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される、組成物を供給する。他の実施形態では、上記精製天然化合物は、ウリジンと、ウリジン一リン酸と、ウリジン二リン酸と、ウリジン三リン酸とウラシルとからなる一群から選択される。幾つかの好適な実施形態では、上記天然化合物が9−beta−D−アデノシンを含む。また、幾つかの好適な実施形態では、上記天然化合物は、アデノシン一リン酸と、アデノシン二リン酸と、アデノシン三リン酸と、イノシンと、イノシン一リン酸と、イノシン二リン酸と、イノシン三リン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンとからなる一群から選択される1つまたは複数を含む。また、幾つかの実施形態では、上記オーキシン輸送阻害物質が、2,3,5−トリヨード安息香酸と、DPX1840と、9−ヒドロキシフルオレン−9−カルボン酸と、ナプタラム(N−1−ナフチルフタラミン酸)と、これらの組み合わせとからなる一群から選択される植物成長調整剤である。また、幾つかの好適な実施形態では、上記植物成長調整剤が、2,3,5−トリヨード安息香酸である。また、他の実施形態では、上記オーキシン輸送阻害物質が、ナリンゲニンと、ケルセチンと、フォルモノネチンと、ゲニステインと、これらの組み合わせとからなる一群から選択されるフラボノイド又はイソフラボノイドである。また、他の実施形態では、上記組成物が肥料を更に含んでいる。上記肥料については、相関のある阻害を克服後の栄養シュートの発育と、春の発芽の阻害が克服された後の花芽シュートの発達、花の発達、および実止まりとの一方または両方を支持するのに効果的な量を供給する。幾つかの実施形態では、上記肥料が、窒素と、カリウムと、マグネシウムと、リンと、カルシウムと、硫黄と、鉄と、ホウ素と、塩素と、マンガンと、亜鉛と、銅と、モリブデンと、ニッケルと、セレンと、シリコンと、コバルトと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される。また、幾つかの実施形態では、上記肥料が低ビウレット尿素である。また、好適な実施形態では、低ビウレット尿素については、シュートの発達および花の発達を支持し、且つ葉や芽による化合物の摂取を向上するのに効果的な量を供給する。また、他の実施形態では、上記肥料は八ホウ酸二ナトリウム四水和物である。好適な実施形態では、上記八ホウ酸二ナトリウム四水和物(例えば、SOLUBOR(登録商標)U.S.Borax社)については、春の発芽を増加させて、アボカド類、桃類、ピスタチオ類などの種子作物の花粉発芽、花粉管伸長、受粉および実止まりを増加させるのに効果的な量を供給する。
【0011】
さらに、本開示内容は、作物の隔年結実の抑制に効果的な組成物であって、(i)精製天然化合物と、(ii)植物成長調整剤とを含み、上記天然化合物は、アデノシンと、アデノシンリン酸と、イノシンと、イノシンリン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと, キサンチンと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される、組成物を供給する。他の実施形態では、上記精製天然化合物は、ウリジンと、ウリジン一リン酸と、ウリジン二リン酸と、ウリジン三リン酸とウラシルとからなる一群から選択される。また、幾つかの好適な実施形態では、上記天然化合物が9−ベータ−D−アデノシンを含む。また、幾つかの好適な実施形態では、上記天然化合物が、アデノシン一リン酸と、アデノシン二リン酸と、アデノシン三リン酸と、イノシンと、イノシン一リン酸と、イノシン二リン酸と、イノシン三リン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンとからなる一群から選択される1つ又は複数を含む。また、幾つかの実施形態では、上記植物成長調整剤が、6−ベンジルアミノプリンと、ゼアチンと、ゼアチンリボシドと、キネチンと、イソペンテニルアデニンと、イソペンテニルアデノシンと、1−(2−クロロ−4−ピリジニル)−3−フェニル尿素と、ジベレリン酸と、6−ベンジルアデニンと、6−ベンジルアデノシンとからなる一群から選択される成長促進剤である。また、幾つかの実施形態では、上記植物成長調整剤が、発芽に対する相乗効果を実現するのに効果的な量で供給される。また、他の実施形態では、上記植物成長調整剤が、フルリドンと、アバミンと、1−ブタノールとからなる群から選択される、アブシジン酸生合成またはアブシジン酸機能の阻害物質である。また、本開示内容によれば、窒素と、カリウムと、マグネシウムと、リンと、カルシウムと、硫黄と、鉄と、ホウ素と、塩素と、マンガンと、亜鉛と、銅と、モリブデンと、ニッケルと、セレンと、シリコンと、コバルトと、これらの組み合わせとからなる群から選択される肥料を更に含む組成物を供給する。
【0012】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、一年間の間に起きるネーブルオレンジの開花、実止まり、果実形成を示すタイムラインである。ネーブルオレンジの果樹では、11月下旬から翌年の1月にかけて、栄養成長から繁殖(花)成長へと移行し、12月中旬から翌年の1月中旬にかけて、開花(決定性)への不可逆的関与が生じる。そして、開花および落花が2月から5月中旬または6月中旬にかけて起きる。実止まりは、2月から7月の間に行われる。落果は、4月から8月の間に起きる。ここで、果実形成は、3段階に分かれて展開される。2月から7月の間に生じる第1ステージでは、果実のサイズがゆっくりと大きくなる。上記第1ステージの終わりには、果実の皮の厚さが最大になる。南はIrvine(カリフォルニア州)から北はMadera(カリフォルニア州)まで、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、およびマンダリンオレンジの上記第1ステージの終わりが、概ね6月10日から7月26日にかけて行われるのが実験的に示された。なお、上記第1ステージの終わりは、皮の薄い品種のもの(すなわち、マンダリンオレンジ<バレンシアオレンジ<ネーブルオレンジ)ほど上記期間の早い段階において到来した。また、同一の品種では、結実数の少ない年と比較して、結実数の多い年の方が、上記第1ステージの終わりが早い時期に到来した。次に、6月から11月の間に生じる第2ステージでは、果実のサイズが急激に大きくなる。そして、11月から翌年の1月の間に生じる第3ステージは、果実のサイズの増大率が再度低くなる成熟段階である。上記第1段階および第2段階(それぞれ、早期落果期間および6月の落果期間)は、果実の保持および生産量の増加における臨界期間である。上記第1段階の終わりから上記第2段階までは、果実のサイズ増加にとっての臨界期間である。収穫前の期間は、9月から12月の間であり、収穫期は12月から翌年の6月までである。図1は、Riverside(カリフォルニア州)に栽培される‘Troyer’シトレンジの根茎に継ぎ木した、樹齢25年の“Washington”ネーブルオレンジを基にして作成した図である。
【0013】
図2は、約1.5年スパンの間に起きる、カリフォルニア州にて栽培されている“Hass”アボカドの開花、実止まり、果実形成を示すタイムラインである。カリフォルニアの“Hass”アボカドは、7月の終わりから8月の初めの間に、増殖成長から繁殖成長(花序開始)へ移行する。そして、開花は11月から翌年の1月の間に始まり、3月から5月の間続く。したがって、受粉および受精は、3月から6月の間に起きる。実止まりは、3月から6月の中旬および7月の初旬に間に起きる。初期の落果は、3月から6月中旬および7月初旬の間に起き、6月の落果は、6月中旬から7月初旬および8月の間に起きる。果実形成は、3段階に分かれて行われる。まず、4月から6月中旬および7月初旬に生じる第1段階では、果実のサイズがゆっくりと大きくなる。次に、6月中旬または7月初旬から11月の間に起きる第2段階では、果実のサイズが急激に大きくなる。そして第3段階では、上記果実は、細胞分裂を続け、乾物および油分を成熟の一部として蓄積し、こうした、乾物および油分の蓄積は翌年に収穫されるまで続く(なお、乾物含量が20.8%のものが、成熟していると法的に認められる)。果実の保持およびサイズの増大にとっての臨界期間は、3月から8月の間に起きる。果実のサイズ増大にとっての臨界期は、6月中旬および7月初旬から11月の間と、3月下旬および4月上旬から翌年の収穫期の間に発生する。収穫は、2月から秋の間に行われ、主な収穫は、5月から7月の間に行われる。図2は、San Diego‐Riverside間の環境の変化を示す。
【0014】
〔定義〕
本開示内容を完全に理解できるよう、以下の定義を供給する。
【0015】
本明細書における“隔年結実の抑制”とは、結実数の多い年の翌春の花芽シュートの数および花の数を増加させることである。これにより、結実数の多い年の翌年の生産量(結実数が減少すると予測される年の生産量)を増加させる。その結果、結実数の多い年と結実数の少ない年との累積生産量を、上記組成物を投与していない樹木または果樹園の累積生産量および結実数の多い年に実る結実を減少(隔年結実を抑制する現行の標準的な技法)させている樹木または果樹園の累積生産量と比較して、増大させている。本開示内容は、結実数の多い年における果実の高生産量の効果を克服し、発芽を刺激して、以下の2段階において着花を増加させる:なお、投与の結果として得られる着花度を制御するように、各工程を単独または組み合わせて使用してもよい。上記2段階ステップは、(1)発芽抑制を克服し、夏のシュート発育量を増加させて、節の数を増加させて、増加させた上記節の花芽の数を増加させて、春の花シュートの数を増加させる工程と、(2)上記夏(および春)の若いシュートにおける春の花芽の発芽を刺激する工程とを含む。生産量は花の数に比例するため、これにより、上記組成物を投与していない樹木と比較して、生産量を増加させることができる。また、隔年結実の抑制は、上記組成物を投与していない対照個体との比較における、連続する2年の累積生産量の測定可能な増加として列挙することもできる。
【0016】
本明細書における“作物生産量”は、花、果実、種子の成長を意味する。したがって、作物生産量の増加とは、植物の生殖器官のサイズおよび量の一方または両方の増加を意味する。なお、植物の生殖器官として、果実、種子/木の実、および花が挙げられるが、これに限定されない。本明細書における“サイズ”は、生殖器官の重さ、長さ、面積、寸法、周囲、体積を意味し、本明細書における“量”は、生殖器官の数を意味する。サイズの増大は、果実のサイズ(例えば、寸法、周囲、体積、重さ)の増大を含む。好適な実施形態では、作物生産量の増大は、非処理の対照植物の各値と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、75%、85%、95%、100%、150%、200%の果実生産(例えば、1作物当たりの果実の数(総数、サイズの大きな果実のみの数、市場価値のある果実のみの数))、1作物当たりの果実の重さ(総重量、サイズの大きな果実のみの重量、市場価値のある果実のみの重量)、または、1作物当たりの果実の総生産量)の純増加である。作物生産量は、通常、作物当たりの果実の総キログラム数、作物当たりの果実の平均キログラム数、作物当たりの果実の総数、作物当たりの果実の平均数、果実当たりの平均直径(単位:mm)、または、果実当たりの平均重量(単位:g)で表される。
【0017】
本明細書における“総生産量”とは、サイズに植物器官の数量を掛けた積である。好適な実施形態では、上記総生産量の増加は、未処理の対照植物体と比較して、栄養発育と生殖発育の一方または両方の総生産量の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、75%、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、または500%の純増加を意味する。
【0018】
本明細書における“投与”は、上記組成物(例えば、栄養補給剤、植物成長調整剤、肥料、または、これらを組み合わせたもの)を作物植物体に与える種々の方法を意味する。投与方法としては、樹幹注入法(枝注入法を含む)、樹幹塗布法(枝塗布を含む)、葉面散布法、注水法、土壌注入法(または、土壌散布法)などが挙げられるが、これに限定されない。
【0019】
樹幹注入法では、上記組成物を上記植物体に直接投与する。当該技術分野において公知のように、樹幹注入法は、様々な害虫・病気問題および栄養不足の問題を環境負荷の少ない方法で処理する方法である。樹木のなかには、噴射法による上記組成物の投与が現実的ではないものがある。例えば、高すぎる果樹や、家屋、公園、水路等のような環境変化に敏感な場所に栽培されている果樹、これら環境変化に敏感な場所に近接して栽培されている果樹などである。また、土壌系の投与方法では根系にアクセスできない果樹もある。このようなケースでは、樹幹注入が最良の方法であり、唯一の選択肢である。植物に栄養を補給する技術である葉面散布法は、液状の組成物を上記植物の林冠部に直接塗布することを含む。通常、葉面散布法では、植物の葉に対して散布を行うが、芽、花房、シュート、および果実などの他の器官に対して散布を行ってもよい。一方、注水法、土壌塗布法、土壌注入法、土壌散布法では、上記組成物(液状の上記組成物または可溶性の固形状の上記組成物)が植物の根から摂取されるように、上記組成物を土壌に直接投与する。
【0020】
本明細書における“効果的な量”とは、所望の効果を得るために必要な物質の量を意味する。例えば、アデノシンの効果的な量は、適切な作物に投与された場合に、その作物の隔年結実を抑制するような量である。一般的に、樹幹注入法により作物にアデノシンを投与する場合、樹幹注入により投与されるアデノシンの効果的な量は、1回または2回の投与で、1本の樹木当たり100mgから2gの範囲であり、好ましくは、約500mgから約1gの範囲である。一般的に、葉面散布法により作物に投与されるアデノシンの効果的な量は、1エーカー当たり、100ガロンから500ガロンの水に対して25mg/Lから100m/Lであり、好ましくは、25mg/Lから50mg/Lの範囲である。
【0021】
一般的に、樹幹注入法により2,3,5−トリヨード安息香酸(TIBA)を作物に投与する場合、一回の樹幹注入により投与される2,3,5−トリヨード安息香酸(TIBA)の効果的な量は、1回または2回の投与で、1本の樹木当たり100mgから1gの範囲であり、好ましくは、500mgから1gの範囲である。一般的に、葉面散布法によりTIBAを作物に投与する場合、上記TIBAの効果的な量は、エーカー毎に散布される100ガロンから500ガロンの水に対して25mg/Lから100mg/Lの範囲であり、好ましくは、エーカー毎に散布される200ガロンから250ガロンの水に対して25mg/Lから50mg/Lの割合の範囲である。
【0022】
本明細書における“天然代謝産物”は、自然界に存在し、代謝作用に関与する物質(例えば、代謝作用による生成物質または代謝作用に必要な生成物質)を意味する。幾つかの実施形態では、上記天然代謝産物はアデノシンである。同様に、本明細書における“天然化合物”は、自然界に存在する物質を意味し、単離化合物は、生物学的または化学的に生成される化合物である。簡単な説明のため、本明細書において“天然代謝産物”と“天然化合物”とは、交換可能に使用するものとする。幾つかの好適な実施形態では、上記天然化合物は、プリンヌクレオシド(例えば、アデノシン、イノシン)、プリンヌクレオシドの一リン酸塩、二リン酸塩、および三リン酸塩の何れか(例えば、AMP、ADP、ATP、IMP、IDP、ITP)、または、プリン塩基(例えば、アデニン、ヒポキサンチン、キサンチン)である。好適な実施形態では、上記天然代謝産物はアデノシンを含む。好適な実施形態では、上記プリンヌクレオシドはD立体異性体(例えば、9−ベータ−D−アデノシン、9−ベータ−D−イノシン)含むものであるか、主にD立体異性体(例えば、9−ベータ−D−アデノシン、9−ベータ−D−イノシン)からなるものである。
【0023】
本明細書において使用されるように、“精製”とは、自然環境から摘出された(例えば、単離または分離)代謝産物(例えば、アデノシン等)を意味する。“精製” 化合物は、本来これら化合物が結びついている他の成分から、少なくとも50%遊離されており、好ましくは少なくとも75%遊離されており、より好ましくは少なくとも90%遊離されており、最も好ましくは少なくとも95%(例えば、95%、96%、97%、98%、または99%)遊離されている。
【0024】
本明細書において“栄養補給剤”は、植物の通常の成長に必要な基礎代謝産物であって、植物によって簡単に使用可能な状態の基礎代謝産物を1種類以上含む組成物を意味する。幾つかの好適な実施形態では、上記栄養補給剤は、上記天然代謝産物であるアデノシンを含み、幾つかの好適な実施形態では、この天然代謝産物であるアデノシンは9−ベータ−D−アデノシンである。他の好適な実施形態では、上記栄養補給剤は、ピリミジンヌクレオシド、塩基、またはヌクレオチドと組み合わせた上記天然代謝産物アデノシンと、アミノ酸と、有機酸と、抗酸化物質と、糖類およびビタミン類と、酵素補助因子とを含む。
【0025】
本明細書における“植物成長調整剤”は、天然由来の植物ホルモンに類似する合成化学合物であって、植物ホルモンの効果を再現するように使用される合成化合物を意味する。上記天然由来の植物ホルモンは、通常、オーキシン、ジベレリン(GA)、サイトカイニン、エチレン、およびアブシジン酸(ABA)の5つの何れかに分類される。植物成長調整剤としては、2,3,5−トリヨード安息香酸(TIBA);9−ヒドロキシフルオレン−9−カルボン酸(HFCA);2−(4−クロロフェノキシ)−2−メチルプロピオン酸(クロフィブリン酸);4−クロロフェノキシ酢酸(4−CPA);2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D);2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5−T);3,5,6−トリクロロ−2−ピリジルオキシ酢酸(3,5,6−TPA);4−(2,4−ジクロロフェノキシ)酪酸(2,4−DB);トリス[2−(2,4−ジクロロフェノキシ)エチル]亜リン酸塩(2,4−DEP);2−(2,4−ジクロロフェノキシ)プロピオン酸(ジクロルプロップ);2−(2,4,5−トリクロロフェノキシ)プロピオン酸(フェノプロップ);1−ナフタレン酢酸(NAA);インドール−3−酪酸(IBA);インドール−3−酢酸(IAA);4−クロロインドール−3−酢酸(4−CI−IAA);2−フェニル酢酸(PAA);2−メトキシ−3,6−ジクロロ安息香酸(ジカンバ);4−アミノ−3,5,6−トリクロロピコリン酸(トルドンまたはピクロラム);α−(p−クロロフェノキシ)イソ酪酸(PCIB);1−ナフトール;(2−ナフチルオキシ)酢酸;ナフテン酸カリウム;ナフテン酸ナトリウム;N−(3−メチルブト−2−エニル)−1H−プリン−6−アミン(2iP);N−ベンジル−1H−プリン−6−アミン(ベンジルアデニン);N−フルフリル−1H−プリン−6−アミン(キネチン);(E)−2−メチル−4−(9H−プリン−6−イルアミノ)ブト−2−エン−1−オール(ゼアチンおよびそのリポシド);6−ベンジルアミノプリン(6BAおよびそのリポシド);イソペンテニルアデニンおよびそのリポシド;1−(2−クロロ−4−ピリジニル)−3−フェニル尿素(CPPU);ホルクロルフェニュロンおよび他のジフェニル尿素系合成サイトカイニン;シス,トランスアブシジン酸;S−(+)−アブシジン酸;(S)−5−(1−ヒドロキシ−2,6,6−トリメチル−4−オキソ−1−シクロへクス−2−エニル)−3−メチル−ペンタ−(2Z,4E)−ジエン酸;およびジベレリン酸(GA, GA, GA, GA4+7, GA, GA4,7,9, GA)、フルリドン(1−メチルー3−フェニル−5−[3−トリフルロメチル(フェニル)]−4−(1H)−ピリジノン)、アミノエトキシビニルグリシン、エスレル、およびエテフォンとが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本明細書における“オーキシン輸送モジュレータ”は、植物体の一部から他部へのオーキシンの移動を調節して、植物成長に影響を及ぼす化合物を意味する。オーキシン輸送モジュレータは、オーキシンの運動を抑制するオーキシン輸送阻害物質を含む。合成オーキシン輸送阻害物質としては、例えば、除草剤2,3,5−トリヨード安息香酸(TIBA)と、DPX1840と、9−ヒドロキシフルオレン−9−カルボン酸と、ナプタラム(N−1−ナフチルフタラミン酸)とが挙げられるが、これらに限定されない。他の実施形態では、本開示内容は天然のオーキシン輸送阻害物質を提供する。天然由来のオーキシン輸送阻害物質は、イソフラボノイド類フォルモネチンおよびゲニステインと、フラボノイド類ケルセチンおよびナリンゲニンとを含む。
【0027】
本明細書における“肥料”は、果実の成長を含む植物の成長に必須の17種類の栄養素の1種類以上と、植物成長にとって有益であると認められる幾つかの要素とを意味する。肥料については、植物の根から摂取できるように、液状または固形状のものを作物の土壌に添加してもよいし(例えば、土壌投与法または注水投与法)、葉、花、果実、シュート、および芽から吸収できるように、樹木の林冠部に塗布してもよい。肥料は、有機肥料(すなわち、腐敗植物または腐敗動物質からなる肥料)でもよく、無機肥料でもよい(すなわち、1種類または複数種類の薬品およびミネラルからなる肥料)。肥料は、様々な割合で、窒素、リン、カリウム、カルシウム、硫黄、マグネシウム、ホウ素、塩素、マンガン、鉄、亜鉛、銅、モリブデン、およびニッケルなどの必須要素を含んでよい。さらに、肥料は、コバルト、シリコン、セレニウム、クロミウムなどの有益な要素を含んでよい。好ましい窒素肥料の一例として尿素(例えば、低ビウレット尿素)が挙げられる。これは、尿素が、植物体の組織による化合物の摂取を促進する能力を持つためである。
【0028】
本明細書における “生物刺激物”は、肥料または農薬の何れでもない化合物または組成物であって、植物体に対して使用された場合に上記植物体の健康および成長を促進する化合物または組成物を意味する。“生物刺激物”なる用語は、アミノ酸類と、有機酸類と、核酸類と、ヌクレオチド類と、ヌクレオシド類および塩基類と、糖類と、ビタミン類と、酵素補助因子と、フミン酸と、フルボ酸と、ケルプ(海草)と、堆肥茶とを含む。
【0029】
本明細書における“林冠部”とは、植物体の幹以外の部位であって、土壌より上にある何れかまたは全ての部位を意味する。よって、上記林冠部は、枝と、葉と、花房と、花と、芽と、果実とからなるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書における“作物”は、通常、穀草類と、マメ科植物類と、飼料作物類と、茎葉菜類と、根菜類と、果菜類および種子菜類と、果実作物および殻果作物と、喫飲料作物と、油、脂肪、およびロウ作物と、香辛料と、香料および香味料と、鑑賞植物、森林作物、および繊維作物とを意味する。
【0031】
本明細書における“作物”は、多年生植物類、越年生植物類、または一年生植物類を意味する。多年生植物体は、2年以上生きる作物である。一方、一年生植物体は、一年間の間に発芽し、開花し、枯れる作物であり、越年生植物は、2年間のうちにその生涯を終える作物である。本開示内容の実施形態では、多年生作物について説明する。
【0032】
多年生作物類としては、葡萄類、苺類、胡桃類、ピスタチオ類、シトラス(ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、マンダリン(タンジェリン)オレンジ、グレープフルーツ、パメロ、檸檬、ライム、タンジェロ、金柑)、アボカド類、野苺類、桃類、プラム類、ネクタリン類、チェリー類、プラム類、アプリコット類、桃類、西洋梨類、ぺカン類、リンゴ類、マンゴー類、およびアーモンド類が挙げられるが、これに限定されない。“多年生作物”なる用語は、トウ作物類(例えば、ラズベリー類)および、鑑賞植物(例えば、薔薇類)を含む。
【0033】
〔詳細な説明〕
ある作物において、結実の多い年(on−crop、on−year)の後に結実の減少する年(off−crop, off−year)が続く場合に、隔年結実が起きる。このような現象について定量化したものを以下の表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
本開示内容は、多年生作物の隔年結実に対する解決方法を提供するものであり、このような解決方法は、オーキシン輸送モジュレータ(阻害因子)の存在下または非存在下における天然化合物の使用を具現するものである。幾つかの実施形態では、上記天然化合物が、肥料と植物成長調整剤(例えば、成長促進タイプ、および/または、生合成阻害タイプ、輸送阻害タイプ、および機能阻害タイプ)との1つ以上と共に使用される。ここで、“天然化合物”および“天然代謝産物”なる用語は互換可能に使用される。幾つかの実施形態では、上記天然代謝産物が、アデノシンと、アデノシンリン酸(AMP、ADP、ATP)イノシンと、イノシンリン酸(IMP、IDP、ITP)アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンとの1つ以上を含有する。幾つかの好適な実施形態では、上記天然代謝産物がアデノシンを含有する。幾つかの好適な実施形態では、アデノシンが、D立体異性体(例えば、9−ベータ−D−アデノシン)を含有するか、または、主にD立体異性体(例えば、9−ベータ−D−アデノシン)から構成される。以下、9−ベータ−D−アデノシンを含む方法および組成物の例を詳細に説明する。しかし、本開示内容はこれに限定されない。隔年結実を抑制する他の適当な組成物および方法は、アデノシン以外にまたはアデノシンに代えて、アデノシンリン酸と、イノシンと、イノシンリン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンとを含む。
【0036】
アデノシンは、DNA,RNA,およびATP(全ての生体細胞および生体に共通するエネルギー通貨(energy currency))など、全ての生体細胞および生体に共通して重要な構成要素の天然代謝産物前駆体として唯一のものであり、植物内のサイトカイニンの天然代謝産物前駆体としても唯一のものである。よって、結実が多くなることで、夏にはオーキシン含有量の増加およびサイトカイニン含有量の減少が引き起こされる結果、萌芽が阻害され、春にはアブシジン酸含有量の増加およびサイトカイニン含有量の減少と利用可能な炭水化物量の減少とが引き起こされる結果、萌芽が阻害されるが、アデノシンは、結実の多い年に実る大量の結実によってもたらされる、これら萌芽に対する悪影響を克服するのに適している。
【0037】
<A.結実数の増加・減少サイクルのホルモン基準>
Ojai(カリフォルニア州)の‘Pixie’マンダリンオレンジ(温州ミカン)の研究結果では、結実の多い年に未成熟の果実が大量に成長した場合、夏の栄養シュートまたは秋の栄養シュートへと成長する芽の発芽が阻害され、その結果、翌春に花芽および花部を形成するシュート及びその節(部位)の双方の数が減少する(Verreynne, Ph.D. Thesis,University of California,Riverside,2005年; Verreynne and Lovatt,J Amer Soc Hort Sci,134:299−307,2009年)という有力な証拠が得られた。より詳細な研究では、未成熟の果実の除去が翌春の着花度、栄養シュート数、および不活性化する芽の数に及ぼす影響を定量化し、この研究により、夏の若いシュートが優れた着花にとって重要であることが確認された。さらに、果実除去を含む研究により、春を通じて果樹に残された結実の多い年の成長中の未成熟果実と成熟果実(マンダリンオレンジ品種、ネーブルオレンジ品種、およびバレンシアオレンジ品種などの後期収穫の柑橘品種にみられるように)とが、春の発芽を抑制することで、隔年結実の大きな原因となるという証拠が得られた。
【0038】
(成長中の未熟果実による夏のシュートの生育阻害)
夏のシュートの生育の阻害は、芽の中に高濃度のホルモンインドール−3−酢酸(IAA)およびオーキシンと低濃度のサイトカイニンイソペンテニルアデノシン(IPA)とを伴う相互抑制に因るものである(Verreynne,Ph.D.Thesis,University of California,Riverside,2005年)。上記果実はIAAを排出し、排出されたIAAは夏の若いシュートの芽の中に蓄積する。結実数の多い年では、芽の中のIAA濃度が高く、多くの芽に影響が出る。一方、根で作製され、樹木の木質部の若枝(林冠部)へと移動するサイトカイニンは、果実へと運ばれ、夏の若いシュートの芽には届かない。結実数の多い年では、上記サイトカイニンを転用する果実が多く実る。その結果、高オーキシン・低サイトカイニン比率となり、萌芽が相互的に抑制され、夏(及び秋)の栄養シュート数が減少し、花芽の発育が抑制されるので、翌春の着花が抑制される。7月に果実を取り除くことで、IAA源が排除され、サイトカイニンが上記芽へ供給される。その結果、夏の若いシュートおよび秋のシュートが生育し、花芽が発育するので、翌春に形成される花序および花の数が増加し、多くの果実が実り、生産量が増加する。果実の浸出液を分析した結果、IAA源が果実であることが確認された。結実数の多い年の個体樹木から全ての果実を7月中に取り除いた場合、8月までに、シュート内のIAA濃度が452ng/gDWから179ng/gDW(P=0.0091)へと減少し、シュート内のIPA濃度が50ng/gDWから118ng/gDW(p=0.0537)へと増加して結実数の少ない年の個体樹木のシュート内のIPA濃度と同等になり、発育したSFシュート数が増加し、翌春の着花度が増加した。なお、結実数の少ない年における、低果実数による効果は、上記のように果実を取り除くことで得られる効果と同様のものである。
【0039】
(結実数の多い年の樹に実る熟果が、春の間年落果せず樹になり続けることによる、隔年結実への影響)
‘Pixie’マンダリンのような晩熟性の品種では、ほぼ熟している果実が春季に樹に実っている場合には、春季の萌芽が抑制されてしまう。この場合、萌芽の抑制の原因は、IAAが蓄積されること、果実により排出されたアブシジン酸(ABA)が蓄積されること、および、上記芽に到達するサイトカイニン(IPA)の量が減少することである。上記のように果実を取り除くことによって、果実がIAA源およびABA源であり、IPAが上記芽へ到達できない原因であることが確認された。結実数の多い年の個体樹木から12月中に果実を取り除いた場合、翌年の1月までに、芽中のIAA濃度が減少し、IPA濃度が増加して、春の着花を有意に増加させた。また、結実数の多い年の個体樹木から2月中に果実を取り除いた場合、3月上旬までに、ABA:IPA比率が、結実数の少ない年の個体樹木のABA:IPA比率と同等にまで減少した。他の品種においても、熟した果実を果樹から取り除かない場合、春季の萌芽が抑制されてしまった。本開示内容を構築していくなかで究明されたように、低サイトカイニンに対するIAAおよびABAの比率が高い場合、萌芽だけではなく、花成経路遺伝子の発現にも影響が及ぶ。本明細書に開示する技術を使用して上記芽中のIAA濃度の減少および/またはサイトカイニン濃度の増加させた場合、上記IAA:サイトカイニン比率および上記ABA:サイトカイニン比率を低下させれば、着花度(花芽シュートおよび花の数)は増加する。よって、上記技術は、花遺伝子の発現の制御と発芽の増加とに対する好ましい効果も持つ。
【0040】
(結論)
果実除去を含む上記実験の結果、果実が悪影響を及ぼす時期と、上記果実の悪影響に対する矯正処置を行うべき時期とを同定した。上記実験において採取された上記芽についてホルモン濃度の変化を分析したところ、萌芽抑制におけるホルモンの役割が判明した。新たな夏の栄養シュートおよび秋の栄養シュートの萌芽の抑制は、インドール−3−酢酸(オーキシン)が上記果実から排出され、芽中に蓄積されることで、低サイトカイニンに対するオーキシンの比率(相互抑制)を増大させることに起因する。同様に、春の萌芽の抑制は、低サイトカイニン濃度に対するIAA濃度およびアブシジン酸濃度が芽において増大することに起因する。よって、サイトカイニンに対するIAAおよびアブシジン酸の比率が増大することにより引き起こされる春の萌芽の抑制と、これと相互して、サイトカイニンに対するインドール−3−酢酸の比率が増大することにより引き起こされる抑制との一方または両方を解決する本開示内容の方法および組成物は、多年生作物の隔年結実を抑制するのに好適である。どちらの場合においても、上記実験により得られた結果は、結実数が増加することによって翌年の花の発育に必要な作物内の炭水化物貯蔵(エネルギー)が使い果たされる結果として隔年結実が引き起こされるという長年支持されてきたパラダイムと、著しく対比するものである。
【0041】
(シトラス以外の品種への推定)
アボカド(Persea americana cv.Hass)の研究結果により、‘Pixie’マンダリンの隔年結実の一因となる2つのホルモン系機構が、‘Hass’アボカドの隔年結実の一因でもあるという有力な証拠が得られた(Lovatt,2008 年 Production Research Report of the California Avocado Commission, www.avocado.org/growers/symposiumcontent.php?research=m2)。さらに、ピスタチオ(Pistacia vera cv.Kerman)においても、結実数が増加すると、翌年の花芽を実らせる夏の栄養シュートの数および/または長さが減少する。その結果、翌年の花芽の数が減少する可能性が高くなる。初期のホルモン分析の結果では、夏のシュート発育の抑制は、これに相互抑制(低サイトカイニン濃度に対する高オーキシン濃度)する原因に因ることが示唆されている。よって、ピスタチオの樹は、夏の栄養シュートの萌芽を増加させるとともに、夏の栄養シュートの長さを増大させることで、花芽が形成する節(部位)の数を増加させて、翌春の着花を増加させ、その結果、結実数の減少する年の生産量を増加させる技術から恩恵を受ける。ピスタチオは9月に収穫されるため、隔年結実を抑制する晩冬の処置は必要でなくともよいが、晩冬の処置を行って、夏の間の胚発生(nut fill)期間中に花芽において発展する低サイトカイニンに対するIAAおよびアブシジン酸の比率の増大を抑制することで、春季の萌芽を増進してもよい(Lovatt and Ferguson,Calif.Pistachio Industry Annual Rep.Crop:114−115,2002年)。
【0042】
<B. 隔年結実を抑制する方法>
本開示内容では、オーキシン輸送阻害物質の存在下または非存在下において天然化合物(アデノシン等)を使用して、結実数が増加することによる影響を抑制することが具現されている。結実数が増加することによる影響の抑制は、(i)オーキシンの蓄積とサイトカイニン濃度(相関抑制)の低下とにより引き起こされる夏のシュートの萌芽の抑制を克服すること、および(ii)IAAおよびアブシジン酸の蓄積とサイトカイニン濃度の低下とにより引き起こされる春の花芽の萌芽の抑制を克服すること、のうちの一方または両方を行うことにより達成される。
【0043】
本開示内容では、効果的な量のアデノシン(等)を含む組成物を作物に投与して、多年生作物の隔年結実を抑制する方法を提供する。幾つかの好適な実施形態では、初夏および晩冬または早春に、アデノシンを単独またはオーキシン輸送阻害物質と共に投与して、夏の萌芽の抑制および春の萌芽の抑制をそれぞれ克服する。幾つかの実施形態では、上記オーキシン輸送阻害物質は、2,3,5−トリヨード安息香酸(TIBA)などの植物成長調整剤(PCR)である。また、他の実施形態では、TIBAなどのオーキシン輸送阻害物質を単独で投与する。
【0044】
他の実施形態では、本開示内容は、6−ベンジルアデニン(6−BA)とTIBAとを使用する。また、他の実施形態では、本開示内容は、イソペンテニルアデニン(IPA)またはイソペンチルアデノシン(IPAdo)とTIBAとを使用する。他の好適な実施形態では、ケルセチンやナリンゲニンなどの天然由来のオーキシン輸送阻害物質と共にアデシンを投与する。他の実施形態では、本開示内容は、アデノシン等をPGRの成長促進タイプ(例えば、6−BA、IPA、IPAdo、ジベレリン酸)と組み合わせて使用して、隔年結実を克服する相乗効果を得る。他の実施形態では、本開示内容は、アデノシン等をアブシジン酸生合成(例えば、フリオリドン)またはアブシジン酸機能の阻害物質と組み合わせて使用する。また、さらに他の実施形態では、本開示内容は、低ビウレット尿素(または他の肥料)を更に使用して、増加したシュート生育を支持し、葉および芽による化合物の摂取を向上させる。
【0045】
複数の理由から、本開示内容は商業的可能性を有する。第1に、本開示内容は、多くの商業的に重要な果実類および殻果類の隔年結実の問題に対して解決策を提供する。第2に、現在の隔年結実の抑制方法では、結実数の多い年の生産量を減少する必要があるので、本開示内容は、現在の隔年結実の抑制方法と比較して優れている。第3に、本開示内容は、天然由来の遍在代謝産物(アデノシン等)の新たな用途を提供する。アデノシン(またはアデニン)は、植物サイトカイニンの前駆体である一方、DNA合成、RNA合成,およびATP合成の前駆体でもあるので、PGRではなく栄養補給剤として適宜分類してもよい。このように、本開示内容は、成長促進剤へのアクセスが限られている有機栽培生産者用の処方および方法をも提供する。
【0046】
これまでの研究者によって、AMPを綿実へ投与することは、種子発芽を増加させる上で効果的であることが見出された(U.S.Patent No.4,209,316)。一方、本開示内容では、種子発芽を活性化させた結果として、作物生産量を増加させるわけではない。さらに、好ましい実施形態では、本開示内容は、AMPに代えてアデノシンを投与する。
【0047】
1−トリコンタノールまたは9−ベータ−L−アデノシンの使用が収穫植物部位の質を向上させることが報告されている(U.S.Patent No.5,217,738)。ある例では、1−トリコンタノールまたは9−ベータ−L−アデノシンを使用した場合、収穫された果実または野菜において、酸に対する糖類の比率の増大が生じた。さらなる報告では、9−ベータ−L−アデノシンを実生に投与して、乾燥重量を増加させたり、果実または野菜の収穫から60日以内に9−ベータ−L−アデノシンを植物に投与して、硬度または保存性を向上させている(U.S.Patent No.5,009,698およびU.S.Patent No.5,234,898)。一方、本開示内容では、翌春の着花を増加させることを目的として、作物における生物季節学上の特定の段階において、天然代謝産物(アデノシン等、好ましくは9−ベータ−D−アデノシン)を含む組成物を多年生作物に投与しており、係る用途は果実または野菜の収穫及び果実または野菜の収穫後の品質とは無関係である。さらに、本開示内容は、隔年結実を抑制することにより、想定される不作年および複数の生育時期に渡って果実及び殻果の生産量(個数と質量の一方または両方)を増加させることを含む。好適な実施形態では、本開示内容は、上記天然代謝産物を投与して、萌芽の特定の生理的過程に対する阻害効果を抑制すること、および/または、植物発育上(植物の生物季節学上)の規定段階において上記天然代謝産物を投与することを含む。したがって、本開示内容に係る上記組成物および方法は、上に述べた特許から有意に異なるものである。
【0048】
<C.隔年結実を抑制するための組成物>
本開示内容によれば、隔年結実を抑制する組成物であって、(i)アデノシン(等)と(ii)オーキシン輸送阻害物質とを含む組成物が提供される。幾つかの実施形態では、上記オーキシン輸送阻害物質は、植物成長調整剤である(PGR)。一方、他の実施形態では、上記オーキシン輸送阻害物質は、フラボノイド又はイソフラボノイドである。また、本開示内容によれば、隔年結実を抑制する組成物であって、(i)アデノシン(等)と(ii)PGRとを含む組成物が提供される。幾つかの実施形態では、上記PGRは、植物の成長を促進させるか、または、アブシジン酸の合成、輸送、または機能を阻害する。幾つかの実施形態では、上記組成物は肥料を含む。いくつかの実施形態では、隔年結実の抑制は、隔年結実の起きている果樹園で栽培される市場価値のある果実のサイズを大きくし、且つ生産量を増加させることを含む。
【0049】
現在のところ、カリフォルニア州のマンダリンオレンジに使用されるPGRとしては、実止まり(若い果実の保持)を増加させるジベレリン酸(GA3)と、果実サイズを増大させる2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)との2種類のみが登録されている(University of California Pest Management Guidelines,www.ipm.ucdavis.edu/PMG/r107900111.html)。さらに、上記PGRは、他のシトラスに使用して、収穫前の落果を減少させる用途(2,4−D)と、他のシトラスに使用して、外皮の老化を防止する用途(GA)とに登録されており、ナフタレン酢酸は、未結のシトラスに対する用途に登録されている。最近の研究(Chao and Lovatt,Final Report to the Citrus Research Board,2007年)の結果により、GAの有効性は隔年結実により左右されるという証拠が得られた。結実数の少ない年(1果樹当たりの結実数が約550個)においては、1果樹当たりの果実の総個数(1果樹当たりの全収量(単位:kg)ではない)を首尾よく増加させ、1果樹当たりに実る商業価値のある大きなサイズ(“large”、“jumbo”、および“mammoth”の梱包箱サイズ)の果実の収量(単位:kg)および個数を増加させるために、GAを早期(60%の開花率から開始)に、頻繁(4回)に、高濃度(15 または 25 mg GA/L)で、使用することが有益である。一方、結実数の多い年(1果樹当たりの結実数が約1,200個)では、GAを使用しないほうがよい。研究では、結実数の多い年において、GAを使用した処理を行った場合、全果実の収量および商業的価値のある大きなサイズの果実(“large”、“jumbo”、および“mammoth”の梱包箱サイズ)収量が低下するか、または、上記処理による効果は得られなかったかのいずれかであった。2,4−Dを使用してマンダリンの果実サイズを大きくする場合、マンダリンとマンダリン交配種とにおいて果実の瑞々しさが失われる虞があるので、注意が必要である。これは、果汁量が少なくなりがちな‘Nules’クレメンタイン、または、グラニュレーションをおこしがちである果樹園にとって特に問題である(UC Pest Management Guidelines, www.ipm.ucdavis.edu/PMG/r107900311.html)。
【0050】
ピスタチオ(pistacia vera cv. Kerman)への使用に登録されているのは上記サイトカイニン6−ベンジルアデニン(6−BA)(MAXCEL(登録商標)、Valent BioSciences社)のみである。これは、ピスタチオの隔年結実を抑制するために開発された技術の成果である(Lovatt and Ferguson, Calif.Pistachio Industry Annual Rep.Crop:114−115,2002年)。ピスタチオに関して、ある年の果実の生産数が翌年の着花および収量に影響を及ぼすメカニズムが、今から30年より前に究明された(Crane and Nelson,Hort Science,6:489−490,1971年)。隔年結実は、豊作年の花芽の過剰な落蕾が6月に胚(核)発育が開始するのと同時に始まり、7月の胚の急成長期間に強まることよって、翌年の開花の減少および不作が引き起こされることに起因する。このメカニズムは、その究明以来、ピスタチオの隔年結実の研究の焦点であった。豊作にあたる果樹(翌年に実を付ける芽を持つシュートの基部の1房当たりの果実の個数が70より多い)から採取された花芽内のホルモン濃度を定量化した。花芽の落蕾時期に、上記芽のABA濃度が増加する一方、上記サイトカイニン濃度が減少した。1エーカー当たり2.8 kgNの割合で使用される低ビウレット尿素(46% N,0.25% ビウレット)と共に、1回の投与につき28g/エーカーの割合で、葉面塗布法により投与した6−BAの有効性を胚発育(6月上旬)の開始時期とその30日後(7月上旬)とに検査したところ、結実数の多い年の花芽の落芽を減少させて、結実数が減少すると予測される翌年の果実の収量を増加させていた。この6-BAと尿素とを使用した方策により、結実数の多い年の複数年において、花芽の保持率が1.6倍から3.3倍の範囲で増加された(p≦0.05)。その結果、翌年(結実数の少ない年)のスプリットナッツの収量(乾燥重量)が2.2倍に増加され(p=0.03)、各果樹の5年間のスプリットナッツの累積収量(乾燥重量)が128.31 lbs(対照個体)から165.35 lbsに増加され(p=0.02)、1エーカー当たり118本栽培している果樹に実るスプリットナッツの5年間の累積純増加が(乾燥重量)4,370 lbsとなった。これは有意な向上をもたらすものであったが、結実数の少ない年の収量を結実数の多い年の収量の近くまで増加させはしなかった。
【0051】
アボカドへの使用に現在登録されているPGRは1種のみであり、これは剪定後のシュート発育を抑制するために使用されるナフタレン酢酸(NAA)である。そして、PGRとしての2,4-Dの継続登録が審査中である(Federal Register,Vol. 73,No.248,2008年)。仮に2,4−Dの登録が取り消された場合、マンダリンオレンジ、マンダリンオレンジとの交配種、ネーブルオレンジ、およびバレンシアオレンジのサイズを増大させ、且つ収穫期前の落果を防ぐような新たなPGRが必須となる。本開示内容は、アボカドの隔年結実を抑制する組成物を必要とする当該技術分野の要求に答えるものであり、且つ、マンダリンオレンジに使用されるGAおよび2,4−Dの代替物を必要とする当該技術分野の要求に答えるものである。さらに、本開示内容は、ピスタチオの隔年結実を抑制する技術を補足するものである。
【0052】
シトラスとアボカドの隔年結実の研究後、ピスタチオの隔年結実の調査は、春の最初の萌芽に続く、夏の栄養シュートの発育量に焦点を当てている。例えばピスタチオでは、結実が多くなると、翌年用の作物用の花芽を付ける夏の栄養シュートの数および/長さが減少するので、上記翌年の作物用の花芽の数が減少する。その結果、上記6-BAと尿素とを使用した処理が花芽保持率を優位に増加させたにも関わらず、上記結実数の多い年に萌芽したシュートは数が少なく、短かったため、上記処理により保持された芽の数は少なく、この芽の数を超えて収量を増加させることができなかった。したがって、上記結実数の多い年の収量にまで、収量を増加させることができなかった。事前のホルモン分析では、ピスタチオの場合、ピスタチオ果実(発生中の胚)が翌春の着花に対する悪影響を及ぼす時期に、ピスタチオ芽中のインドール-3-酢酸濃度が上昇し、ゼアチンリボシド濃度およびイソペンテニルアデニン濃度が低下することが判明した。この結果は、相互抑制により引き起こされるピスタチオの夏のシュートの発育の阻害(低サイトカイニン濃度に対する高オーキシン濃度)と一致するものであり、本開示内容に係る上記組成物がピスタチオの隔年結実を抑制するのに適していることを示している。
【0053】
本開示内容は、標準的なシトラス、アボカド、およびピスタチオ産業の標準的技法に適合するものである。PGR、生物刺激剤、栄養補給剤、および肥料は連邦環境保護庁および州当局によって変動する規則を受けるものであるが、本明細書に記載する化合物は容易に利用可能である。6−BAはピスタチオおよびリンゴへの残留許容量の要件を既に免除されていたが、アデノシン(アデニン)についても、同様に、これらの作物等への残存耐性は免除される見込みである。さらに、アデノシンを前駆体とするAMPは、GRAS(Generally Recognized As Safe(安全食品認定))化合物として分類される。
【0054】
本開示内容に係る天然代謝産物(アデノシン等)は、pH安定剤と、酸化防止剤と、抗菌剤(または、貯蔵寿命を延ばすための他の化合物)とを1つ以上使用して処方されるものであってもよい。また、上記天然代謝産物は、担体、または必要に応じて他の補助剤と混合して処方することで、例えば、ドライブレンド、顆粒、水和剤、乳濁液、または水溶液等の農業において一般的に使用される標準的なタイプの調合剤を形成してもよい。
【0055】
好ましい固体担体として、クレイ、タルク、カオリン、ベントナイト、石こう、炭酸カルシウム、珪藻土、シリカ、合成ケイ酸カルシウム、珪藻土、ドロマイト、粉末状マグネシア、フラー土、およびギプス等が挙げられる。固体組成物は分散性粉末または粒子状であってもよく、上記天然代謝産物に加えて、液体中の粉末または粒子の分散を促進するための界面活性剤を含んでいてもよい。
【0056】
液体組成物は、溶液、分散液、または、上記天然代謝産物(アデノシン等)と1種類以上の界面活性剤(湿潤剤、分散剤、乳化剤、または懸濁化剤等)とを含有する乳濁液の何れかを含む。上記化合物を葉面散布剤として使用する使用場面では、界面活性剤を使用するのが好ましい。界面活性剤がスプレー液滴の表面張力を低下させるので、葉面散布された材料が水滴を形成するのではなく、広がって葉の表面を覆うようすることができる。これにより、葉面塗布された材料の植物体内への吸収を容易にする。また、界面活性剤は、葉の表面上または他の組織の表面上のワックスの粘度および結晶構造を直接変化させることによって、植物による材料の摂取に影響を及ぼすことができる(Tue and Randall et al.,Chapter 8−Adjuvants.In: Tu et al.[Eds.] Weed Control Methods Handbook: Tools and Techniques For Use In Natural Areas,The Nature Conservancy p.219,2001年)。
【0057】
通常、この構成要素の目的と一致するように、任意の種類の界面活性剤を使用してもよい。例えば、上記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、または両性イオン性界面活性剤を含有することができる。上記界面活性剤は、上述したような本開示内容に係る上記組成物内に存在してもよいし、植物への投与の最中に導入してもよい。このような場合、上記投与を自動または手動のどちらで行うかに関わり無く、上記界面活性剤を本開示内容に係る上記組成物と予め組み合わせてよい、または、上記界面活性剤と本開示内容に係る上記組成物とを独立して共投与してもよい。本開示内容に係る組成物に有用な陽イオン界面活性剤は、アミンエトキシレートと、アミンオキシドと、モノアルキルアミンおよびジアルキルアミンと、イミダゾリニウム誘導体と、アルキルベンジルジメチルハロゲン化アンモニウムとを含むが、これに限定されない。本開示内容に有用な非イオン性界面活性剤は、通常、ポリエーテル(ポリアルキレンオキシド、ポリオキシアルキレン、またはポリアルキレングリコールとしても知られている)化合物である。さらに詳細には、上記ポリエーテル化合物は、通常、ポリオキシプロピレン化合物またはポリオキシエチレングリコール化合物である。本開示内容にとって有用な陰イオン界面活性剤は、例えば、アルキルカルボン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩と、パラフィンスルホン酸塩および第2級n−アルカンスルホン酸塩と、スルホコハク酸塩エステルと、硫酸化直鎖アルコールとを含む。本開示内容に有用な両性イオン性界面活性剤または両性界面活性剤としては、アルファ−N−アルキルアミノプロピオン酸、n−アルキル−アルファーイミノジプロピオン酸、イミダゾリンカルボン酸塩、アミンオキシド、スルホベタイン、およびスルタインが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
上記界面活性剤は、上記組成物内において任意の有用な量で存在すればよく、好適な実施形態では、上記組成物内に存在する上記界面活性剤の量は約0.1%から約25%であり、より好ましくは約0.1%から約10%であり、さらに好ましくは約0.5%から約
5%である。上記組成物内に存在する界面活性剤により上記天然代謝産物の分解が促進され、上記植物による分解された上記天然代謝産物の摂取が促進され、および/または、所望の反応を誘発させる効果が得られる場合、上記界面活性剤は、本開示内容に係る上記組成物内において有用な量で存在しているといえる。好ましい実施形態では、上記界面活性剤は、上記組成物内に約0.5%から約5%の量で存在するポリソルベートである。特に好ましい実施形態では、上記界面活性剤は、上記組成物内に約0.5%から約5%の量で存在するポリソルベート20(ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート)である。
【0059】
本開示内容の組成物は懸濁化剤を含んでいてもよい。例えば、好適な懸濁化剤としては、ポリビニルピロリドンおよびカルボキシメチルセルロースナトリウム等の親水コロイドと、アカシアゴムおよびトラガカントゴム等の植物ゴムとが挙げられる。
【0060】
水溶液、分散液、または乳濁液は、必要に応じて、界面活性剤、固着剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤のうちの1つ以上を含む液体または有機溶媒中に上記天然代謝産物(アデノシン等)を分解することで調整してもよい。例えば、好適な有機溶剤としては、アルコール、炭化水素、油類およびスルホキシドが挙げられる。アルコールを使用する実施形態では、メタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、およびジアセトンアルコールが好ましい。油類を使用する実施形態では、石油類が好ましい。スルホキシド類の中では、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0061】
水溶液、分散液、または乳濁液の状態で使用される上記組成物は、通常、上記天然代謝産物(アデノシン等)を高比率で含む濃縮物として供給され、上記濃縮物は、使用前に、液体によって希釈される。このような濃縮物は、通常、長期間の保存に耐えられるものであることが求められるとともに、長期間の保存後でも液体によって希釈可能であり、希釈されることで、従来のスプレー装置により塗布するのに十分な時間均質性を保つことのできる水性調整剤を形成できるものであることが求められている。一般的に、濃縮物は、従来、上記天然代謝産物(アデノシン等)を10〜60重量パーセント含むことが可能であった。
【0062】
〔実験〕
以下に実施例を説明する。下記の実施例は、本開示内容の好適な実施形態および好適な様態のうちの一部を示し、更に説明するものであるが、本開示内容の範囲を限定するものではない。
【0063】
(略称)
本開示内容の理解を確実にするために、以下の略称を使用する:ABA(アブシジン酸);Ado(アデノシン);Ade(アデニン);6−BA(6−ベンジルアミノプリン、6−ベンジルアデニン);2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸);2,4,5−T(2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸);GA(ジベレリン);、GA(ジベレリン酸);IAA(インドール−3−酢酸);IBA(インドール−3−酪酸);IPA(イソペンテニルアデニン);NAA(1−ナフタレン酢酸);TIBA(2,3,5‐トリヨード安息香酸);PGR(植物成長調整剤);およびVeg(栄養性)。
【0064】
(統計分析)
特に断りのない限り、以下に示すデータの全ては100節当たりのシュート数の平均値である。また、分散の解析を利用して、栄養シュートおよび花芽シュートの発育における処理効果と、マンダリンの葉無しの花芽シュートおよび葉有りの花芽シュートの結果による着花度における処理効果と、アボカドの有限花序の花芽シュートおよび無限花序の花芽シュートの結果による着花度における処理効果と、大増殖期のマンダリンの栄養シュートおよび大増殖期のアボカドの栄養シュートにおける処理効果と、マンダリンの収量における処理効果とを、SAS統計モデル(SAS Inst社 Cary(ニューヨーク州))の一般線形モデル手順を使用して検査した。そして、Fisher‘s protected LSD法またはDunnett’s two−tailed T−test法を使用して、平均値を分離した(p=0.05)。
【0065】
〔実施例1〕
(マンダリンの樹の隔年結実を抑制するための、樹幹注入法によるアデノシン投与)
本実施例では、上記オーキシン輸送阻害物質TIBAを含む組成物中のアデノシンを‘Nules’ クレメンタインマンダリンの樹へ樹幹注入することにより実現される、隔年結実の抑制を説明する。結実数の多い年の‘Nules’ クレメンタインマンダリンの樹に対して、表1−1に示す以下の化合物を単独で又はTIBAと組み合わせて樹幹注入した:TIBA(2,3,5−トリヨード安息香酸)(Sigma Chemical社);6−BA(6−ベンジルアデニン)(Sigma Chemical社);GA(PROGIBB(登録商標)40%、Valent BioSciences社);Ado(9−ベータ−D−アデノシン)(Sigma Chemical社、カタログ番号A9251)。各投与時期に、1果樹当たり1gの割合で50mlから60mlの蒸留水に溶解させた各材料を、1樹木につきプラスチック注射器を2本使用して投与した。投与の時期は、(1)相互抑制を解決して夏のシュート発育を活性化するように(7月)、および(2)春季の萌芽の抑制を解決するように(1月)、選んだ。したがって、果樹への投与を7月のみに行うか、または、7月と翌年の1月に行った。また、各シュートから頂端の3つの節を取り除いて、側芽を上記節の支配から開放させて、夏の栄養シュートの発育を促進する処理を行った。上記処理には、結実数の多い年の未処理の対照果樹と不作年に当たる未処理の対照果樹とが含まれる。実験の設計は、各処理につき5つの個体果樹の複製を使用した13通りの処理による完全乱塊法であった。各果樹に対して4つの象限領域を想定し、各象限領域において、結実有りの枝(長さ)12インチ)の3本にタグ付けし、結実無しの枝(長さ:12インチ)の1本にタグ付けをした(不作年の対照果樹に関しては、各象限領域において、結実無しの枝の3本にタグ付けをし、結実有りの枝の1本にタグ付けをした)。新たな栄養シュートの個数と長さを9月末および12月末に測定した。これにより、上記処理によって、夏のシュートを形成する芽の萌芽阻害をどの程度抑制できたか、および秋のシュートを形成する芽の萌芽阻害をどの程度抑制できたかを測定した。春の開花時期に、タグ付けされた各枝における夏および秋に萌芽した花芽シュート(葉を含む花芽シュートおよび葉を含まない花芽シュート)の個数、栄養シュートの個数、および不活性となった芽の個数を数え、それ以前の春に萌芽していた花芽シュート(葉を含む花芽シュートおよび葉を含まない花芽シュート)の個数、栄養シュートの個数、および不活性となった芽の個数を数えた。
【0066】
【表2】

【0067】
アデノシンおよびPGRを7月に樹幹注入した結果得られた効果と、アデノシンおよびPGRを7月と1月に樹幹注入した結果得られた効果と、頂端部の節を3つ取り除いた結果得られた、結実の多い年の‘Nules’クレメンタインマンダリンオレンジの春季大増殖に対する効果とを表1−1に纏めた。アデノシンとTIBAとを2回注入した場合(7月に1回目の注入を行い、翌年の1月に2回目の注入を行う)、隔年結実が抑制され、夏のシュートおよび秋のシュートの花芽シュート数が、結実の多い年の果樹のものと比較して有意に増加し、結実の少ない年の果樹の夏のシュートおよび秋のシュートの花芽シュート数と同等になることが、表1−1のデータより示された。さらに、花芽シュートのうち、特に有意に数が増加した花芽シュートは、“leafy”花芽シュートとして知られるタイプのものであり、“leafless”花芽シュートと比較して、収穫期まで落果することのない果実を実止まりする可能性が高い。また、アデノシンとTIBAとを2回注入する処理を行った場合、前年以前の春に萌芽したシュートの花芽シュート数も、他の処理を行った場合と比較して大きく増加し、結実の少ない年の対照果樹のものをも上回った。
【0068】
〔実施例2〕
(アデノシンの樹幹注入によるアボカド果樹の隔年結実抑制)
本実施例では、アデノシンと植物成長調整剤とを‘Hass’アボカド果樹に樹幹注入することにより達成される、‘Hass’アボカド果樹の隔年結実の抑制を説明する。Irvine(カリフォルニア州)に所在する商業的果樹園にて栽培されている‘Hass’アボカドの樹のうち、結実の多い年の樹の幹に、以下の(1)から(5)に示す処理剤を1g/樹の割合で1月中旬に注入した;(1)9−ベータ−D−アデノシン(Sigma Chemical社、カタログ番号A9251)と、(2)6-BA(Sigma Chemical社)と、(3)GA3(PROGIBB(登録商標)40% Valent BioSciences社)と、(4)TIBA(Sigma Chemical社)と、(5)TIBAおよびアデノシン。1果樹当たり1gの割合で50mlから60mlの蒸留水に溶解させた各材料を、1樹木につきプラスチック注射器を2本使用して投与した。各処理を施す対象として、同じ果樹の複製個体を5つずつ用意し、そのうちの1個体ずつを結実の多い年の未処理の対照果樹(6)とした。各果樹に対して4つの象限領域を想定し、各象限領域において、結実有りの枝(長さ:12インチ)の1本にタグ付けし、結実無しの枝(長さ:12インチ)の1本にタグ付けをした。春季大増殖期に、タグ付けされた各枝の花芽シュート(無限花序の花芽シュートおよび有限花序の花芽シュート)の数、栄養シュートの数、および不活性となった芽の数を数えた。
【0069】
【表3】

【0070】
結実の多い‘Hass’アボカドの樹にアデノシンと植物成長調整剤(PGR)とを1月に樹幹注入した結果得られた、春季大増殖への効果を表2−1にまとめる。上記表のデータが示すように、アデノシンとTIBAとを組み合わせて同時に上記‘Hass’アボカドの樹に樹幹注入した場合、春の萌芽を阻害する果実の効果が克服された。さらに、花芽シュートの数が、対照個体(結実の多い‘Hass’アボカドの樹であって、アデノシンとTIBAを樹幹注入されていない個体)と比較して有意に増加した。また、有限花序の花芽シュート(花序)は、通常、結実の少ない個体の春季大増殖では数が少ないか、萌芽しない。しかし、上記樹幹注入を行った場合、有限花序の花芽シュート(花序)の数が有意に増加した。さらに、上記樹幹注入を行うことで、実を付けている枝の花芽シュートの数が有意に増加される。その結果、果実による萌芽阻害効果が芽に直接作用するような枝の花芽シュートの数が、実を付けず、そのため果実による萌芽阻害効果が低いと考えられる枝の花芽シュートの数と同程度にまで増加された。なお、アデノシンを単独で使用した場合と、アデノシンとTIBAとを組み合わせて使用した場合とを比較すると、100節当たりの花芽シュートの総数を増加させるという点では、双方のケースで得られる有効性は同じであった。また、このようにして増加させた100節当たりの花芽シュートの総数は、上記対照個体の100節当たりの花芽シュートの総数から有意に異なるものではなかった。アデノシンを7月と1月に投与する場合、花芽シュートの総数は、上記対照個体の花芽シュートの総数と比較して有意に増加されると予期される。標準的な収穫期を通じて樹に生り続ける実止まりの数については、表2−1の最終列に示す。各種の樹幹注入処理で被検体として使用したのは、5つの個体を複製したものに過ぎず、得られた結果は、5%レベルでは統計的に有意ではないが、得られた結果は、好ましい結果を示唆するものである(1樹当たりの産出量の変動率が高いため、樹幹注入処理の‘Hass’アボカドの産出量に対する効果が統計的に有意であると立証するためには、最低でも20個体の複製を被検体として使用することが必要である)。
【0071】
〔実施例3〕
(商業的価値のある大きなサイズの果実の生産量を増加させるために、隔年結実を起こすマンダリンオレンジの樹に対して行われる葉面散布法によるアデノシンの投与)
本実施例では、隔年結実を起こすクレメンタインマンダリンオレンジの樹の林冠部にアデノシンを投与して実現される、商業的価値のある大きなサイズの果樹の生産量の増加について説明する。本実施例では、隔年結実を抑制した果樹の林冠部へアデノシンを噴きつけることによって夏の栄養シュートの発育を活性化させた場合、商業的価値のある果実はサイズが増大し、且つ生産量が増加するので、結実数の増加に伴って頻繁に現れるサイズの小さい果実の問題が防止される証拠を提供する。果実の皮が最も厚くなると、果実形成の細胞分裂段階が終わりを迎えたことが示されるので、Sigma Chemical社のアデノシン (9−beta−D−アデノシン) (カタログ番号A9251)(1エーカー当たり、250ガロンの水に対して25mg/Lの割合)を‘Fina Sodea’クレメンタインマンダリンの樹に投与する。以下の表3−1に示すように、アデノシンを投与すると、直径が57.16mmから69.85mmのサイズ(“large”サイズおよび“jumbo”サイズの梱包箱)の果実の3年間の累積収量を有意に増加させることができ、且つ、全収量を減少させることなく(1果樹当たりの平均キログラム数[xサイズの個数])(p ≦0.05)、“large”サイズ、“jumbo”サイズ、および“mammoth”サイズの梱包箱に相当するサイズの商業的価値のあるマンダリン果実の合計の3年間の累積収量を増加できた。以下の表3−2に示すように、アデノシンを投与することで、各樹に実る直径57.16 mmから69.85 mm(“large”および“jumbo”の梱包箱サイズ)のサイズの大きな果実の3年間の累積収量(個数)を有意に増加させ、且つ、全収量(1樹当たりに実る果実の平均個数)を減少させることなく、“large”、 “jumbo”、“mammoth”それぞれの梱包箱サイズであって商業的価値のあるマンダリン果実の3年間の合計累積収量を有意に増加させた(p≦0.05)。
【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
これらのデータは、アデノシンを投与して夏のシュートの発育を活性化(果皮の最大厚さ)させた場合の生産利益を明らかにするものである。商業的価値のある大きなサイズ(直径57.16mm−76.20mm)の3年間の累積収量を4,735 lbs/200 果樹/エーカーという統計的に有意な水準にまで純増加させた。一方で、全収量は減少しなかった;上記アデノシンを投与した果樹は、収量において6,799 lbs 果実/200 果樹/エーカーの数値純増加(有意でない)を得た。また、反復測定解析を使用して3年間の研究の平均を求めた場合、これらのデータは有意でもあったので、各年においてアデノシンの投与は好ましい効果をもたらしたものと認められる。このタイプの解析法を使用して、1つの果樹園において複数年に渡って得られる平均効果を示す。果実のサイズを大きくし、且つ商業的価値のある果実の収量を増加させるために、アデノシンを投与することは、未処理の対照および標準的な採用可能な方法に勝るとも劣らない:(1)100ガロンの水につき1-8 流体ozの割合で用意したGA(PROGIBB 4%, Valent BioSciences社)を、対象範囲を良くカバーするのに十分な量(ガロン)の水に使用する;50%の落花後からマンダリンおよびマンダリン交配種の落花後3週間に1回または2回投与する;(2)100ガロンの水につき0.67ozの割合で用意した2,4−D(CITRUSFIX(登録商標) AmVac社)(3.34 lbs 2,4−D イソプロピルエステル/ガロン)を、1エーカー当たり500ガロンの水に供給して、マンダリンおよびマンダリン交配種の75%の落花後21日から35日に投与した;(3)果皮の最大厚さの時点で1%の低ビウレット尿素を投与。PROGIBB(登録商標)を使用する場合には、所望以上の実止まりとなり、最終的な果実サイズの縮小に繋がる可能性があることに注意する必要がある。さらに、ストレス下において果樹の落葉を引き起こす可能性もある。一方、アデノシンは、このような注意を必要とせず、商業的価値のある果実の収量を増加させる有効性は、GA程には結実(隔年結実)に対して敏感ではない。同様に、CITRUSFIX(登録商標)を使用する場合にも、特に乾燥および粒状化の傾向のある‘Nules’および他の品種においては果実の瑞々しさが失われる可能性があることに注意を払う必要がある。さらに、CITRUSFIX(登録商標)は樹齢6年未満の果樹に対しては使用不可であり、葉の発育期の最中には使用不可である。一方、アデノシンでは、こうした注意を払う必要がない。アデノシンはマンダリン果実の個数に対して悪影響を与えることもなく、アデノシンを使用した場合、3年間の研究のひとつでは、酸性を低減させ、酸に対する可溶性固形物(糖類)の総比率を増加させるという所望の効果が得られた。
【0076】
本開示内容をその精神と範囲から逸脱することなく様々に変更できることは、当業者にとって明らかであろう。また、本開示内容を特定の好適な実施形態に関連させて説明したが、特許請求される本開示内容がこのような特定の実施形態に不当に限定されることはない。実際、本開示内容を実現する上述の様態を当業者に明らかな範囲で様々に変更したものについても、請求の範囲に含めるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、一年間の間に起きるネーブルオレンジの開花、実止まり、果実形成を示すタイムラインである。ネーブルオレンジの果樹では、11月下旬から翌年の1月にかけて、栄養成長から繁殖(花)成長へと移行し、12月中旬から翌年の1月中旬にかけて、開花(決定性)への不可逆的関与が生じる。そして、開花および落花が2月から5月中旬または6月中旬にかけて起きる。実止まりは、2月から7月の間に行われる。落果は、4月から8月の間に起きる。ここで、果実形成は、3段階に分かれて展開される。2月から7月の間に生じる第1ステージでは、果実のサイズがゆっくりと大きくなる。上記第1ステージの終わりには、果実の皮の厚さが最大になる。南はIrvine(カリフォルニア州)から北はMadera(カリフォルニア州)まで、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、およびマンダリンオレンジの上記第1ステージの終わりが、概ね6月10日から7月26日にかけて行われるのが実験的に示された。なお、上記第1ステージの終わりは、皮の薄い品種のもの(すなわち、マンダリンオレンジ<バレンシアオレンジ<ネーブルオレンジ)ほど上記期間の早い段階において到来した。また、同一の品種では、結実数の少ない年と比較して、結実数の多い年の方が、上記第1ステージの終わりが早い時期に到来した。次に、6月から11月の間に生じる第2ステージでは、果実のサイズが急激に大きくなる。そして、11月から翌年の1月の間に生じる第3ステージは、果実のサイズの増大率が再度低くなる成熟段階である。上記第1段階および第2段階(それぞれ、早期落果期間および6月の落果期間)は、果実の保持および生産量の増加における臨界期間である。上記第1段階の終わりから上記第2段階までは、果実のサイズ増加にとっての臨界期間である。収穫前の期間は、9月から12月の間であり、収穫期は12月から翌年の6月までである。図1は、Riverside(カリフォルニア州)に栽培される‘Troyer’シトレンジの根茎に継ぎ木した、樹齢25年の“Washington”ネーブルオレンジを基にして作成した図である。
【図2】図2は、約1.5年スパンの間に起きる、カリフォルニア州にて栽培されている“Hass”アボカドの開花、実止まり、果実形成を示すタイムラインである。カリフォルニアの“Hass”アボカドは、7月の終わりから8月の初めの間に、増殖成長から繁殖成長(花序開始)へ移行する。そして、開花は11月から翌年の1月の間に始まり、3月から5月の間続く。したがって、受粉および受精は、3月から6月の間に起きる。実止まりは、3月から6月の中旬および7月の初旬に間に起きる。初期の落果は、3月から6月中旬および7月初旬の間に起き、6月の落果は、6月中旬から7月初旬および8月の間に起きる。果実形成は、3段階に分かれて行われる。まず、4月から6月中旬および7月初旬に生じる第1段階では、果実のサイズがゆっくりと大きくなる。次に、6月中旬または7月初旬から11月の間に起きる第2段階では、果実のサイズが急激に大きくなる。そして第3段階では、上記果実は、細胞分裂を続け、乾物および油分を成熟の一部として蓄積し、こうした、乾物および油分の蓄積は翌年に収穫されるまで続く(なお、乾物含量が20.8%のものが、成熟していると法的に認められる)。果実の保持およびサイズの増大にとっての臨界期間は、3月から8月の間に起きる。果実のサイズ増大にとっての臨界期は、6月中旬および7月初旬から11月の間と、3月下旬および4月上旬から翌年の収穫期の間に発生する。収穫は、2月から秋の間に行われ、主な収穫は、5月から7月の間に行われる。図2は、San Diego‐Riverside間の環境の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多年生作物の隔年結実を抑制する方法であって、
効果的な量の精製天然化合物を含む組成物を多年生作物に投与して、上記多年生作物の隔年結実を抑制する工程を含み、
上記天然化合物は、アデノシンと、アデノシンリン酸と、イノシン、イノシンリン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される方法。
【請求項2】
上記天然化合物が9−beta−D−アデノシンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記天然化合物は、アデノシン一リン酸と、アデノシン二リン酸と、アデノシン三リン酸と、イノシンと、イノシン一リン酸と、イノシン二リン酸と、イノシン三リン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンとからなる一群から選択される1つまたは複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記組成物は、6−ベンジルアミノプリンと、ゼアチンと、ゼアチンリボシドと、キネチンと、イソペンテニルアデニンと、イソペンテニルアデノシンと、1−(2−クロロ−4−ピリジニル)−3−フェニル尿素と、ジベレリン酸と、6−ベンジルアデニンと、6−ベンジルアデノシンと、2,3,5−トリヨード安息香酸と、DPX1840と、9−ヒドロキシフルオレン−9−カルボン酸と、ナプタラム(N−1−ナフチルフタラミン酸)と、フルリドン(1−メチル−3−フェニル−5−[3−トリフルロメチル(フェニル)]−4−(1H)−ピリジノン)と、アバミンと、1−ブタノールと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される植物成長調整剤を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
上記植物成長調整剤が2,3,5−トリヨード安息香酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記組成物が、ナリンゲニンと、ケルセチンと、フォルモノネチンと、ゲニステインと、これらの組み合わせとからなる一群から選択されるフラボノイド又はイソフラボノイドを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
上記組成物が、窒素と、カリウムと、マグネシウムと、リンと、カルシウムと、硫黄と、鉄と、ホウ素と、塩素と、マンガンと、亜鉛と、銅と、モリブデンと、ニッケルと、シリコンと、セレンと、コバルトと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される肥料を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
上記多年生作物が、アプリコットと、アボカドと、シトラスと、桃と、西洋ナシと、ペカンと、ピスタチオと、プラムとからなる一群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
上記多年生作物が、アボカドと、シトラスと、ピスタチオとからなる一群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記組成物を、発育シュートの夏の発育の開始時期であって、春の萌芽期よりも早い時期に投与する、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
葉面散布法と、注水法と、樹幹注入法とからなる一群から選択される手法を用いて、上記組成物を投与する、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
上記隔年結実の抑制が、上記組成物が投与されていない果樹と比較して、着果数の多い年の翌春の100節当たりの花芽シュート数を増加させることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
上記隔年結実の抑制が、上記組成物が投与されていない果樹と比較して、着果数の多い年の翌年の果実収量を増加することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
上記隔年結実の抑制が、上記組成物が投与されていない果樹と比較して、2年間の累計果実収量を増加させることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
作物の隔年結実の抑制に効果的な組成物であって、
(i)精製天然化合物と、(ii)オーキシン輸送阻害物質とを含み、
上記精製天然化合物は、アデノシンと、アデノシンリン酸と、イノシンと、イノシンリン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される、組成物。
【請求項16】
上記天然化合物が9−ベータ−D−アデノシンを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
上記天然化合物が、アデノシン一リン酸と、アデノシン二リン酸と、アデノシン三リン酸と、イノシンと、イノシン一リン酸と、イノシン二リン酸と、イノシン三リン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンとからなる一群から選択される1つ又は複数を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
上記オーキシン輸送阻害物質が、2,3,5−トリヨード安息香酸と、DPX1840と、9−ヒドロキシフルオレン−9−カルボン酸と、ナプタラム(N−1−ナフチルフタラミン酸)と、これらの組み合わせとからなる一群から選択される植物成長調整剤である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
上記植物成長調整剤が、2,3,5−トリヨード安息香酸である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
上記オーキシン輸送阻害物質が、ナリンゲニンと、ケルセチンと、フォルモノネチンと、ゲニステインと、これらの組み合わせとからなる一群から選択されるフラボノイド又はイソフラボノイドである、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
肥料を更に含んでいる請求項16に記載の組成物。
【請求項22】
上記肥料が、窒素と、カリウムと、マグネシウムと、リンと、カルシウムと、硫黄と、鉄と、ホウ素と、塩素と、マンガンと、亜鉛と、銅と、モリブデンと、ニッケルと、セレンと、シリコンと、コバルトと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
上記肥料が低ビウレット尿素である、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
上記肥料が八ホウ酸二ナトリウム四水和物である、請求項21に記載の組成物。
【請求項25】
作物の隔年結実の抑制に効果的な組成物であって、
(i)精製天然化合物と、(ii)植物成長調整剤とを含み、
上記精製天然化合物は、アデノシンと、アデノシンリン酸と、イノシンと、イノシンリン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される、組成物。
【請求項26】
上記天然化合物が9−ベータ−D−アデノシンを含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
上記天然化合物が、アデノシン一リン酸と、アデノシン二リン酸と、アデノシン三リン酸と、イノシンと、イノシン一リン酸と、イノシン二リン酸と、イノシン三リン酸と、アデニンと、ヒポキサンチンと、キサンチンとからなる一群から選択される1つ又は2つを含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項28】
上記植物成長調整剤が、6−ベンジルアミノプリンと、ゼアチンと、ゼアチンリボシドと、キネチンと、イソペンテニルアデニンと、イソペンテニルアデノシンと、1−(2−クロロ−4−ピリジニル)−3−フェニル尿素と、ジベレリン酸と、6−ベンジルアデニンと、6−ベンジルアデノシンとからなる一群から選択される成長促進剤である、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
上記植物成長調整剤が、フルリドンと、アバミンと、1−ブタノールとからなる一群から選択されるアブシジン酸の生合成または機能を阻害する阻害物質である、請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
窒素と、カリウムと、マグネシウムと、リンと、カルシウムと、硫黄と、鉄と、ホウ素と、塩素と、マンガンと、亜鉛と、銅と、モリブデンと、ニッケルと、セレンと、シリコンと、コバルトと、これらの組み合わせとからなる一群から選択される肥料を更に含む、請求項26に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−515501(P2013−515501A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547247(P2012−547247)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/062268
【国際公開番号】WO2011/090727
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(301043487)ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア (15)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
【Fターム(参考)】