説明

隔離エリア入退管理システム

【課題】アスベスト等の取り扱う作業を伴う隔離エリアに対して入退した作業者の作業記録を確実に管理する。
【解決手段】指静脈の画像データを取得する指静脈センサと、隔離エリアへの入域が許可された作業者の識別情報と、該作業者の指静脈画像データが関連付けられて記憶された入域者データ記憶手段と、作業の管理記録情報を記憶する管理データ記憶手段と、入域者データ記憶手段を参照して、隔離エリアに対する入退時に指静脈センサによって取得した作業者の指静脈画像データから、隔離エリアに対して入退した作業者の識別情報を特定する入退者特定手段と、作業を記録しておくための作業記録情報を入力する情報入力手段と、入退者特定手段によって特定した作業者の識別情報と情報入力手段により入力された作業記録情報とを関係付けて管理データ記憶手段に記憶する情報保存手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指静脈画像を用いた隔離エリア入退管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アスベスト(石綿)による健康被害が社会的な問題になって以来、建築物解体・改修工事に伴うアスベスト除去作業での作業者へのアスベストのばく露には細心の注意が払われている。作業者を将来的にフォローするため、労働安全衛生法石綿障害防止規則では雇用主が「アスベスト除去作業者の作業記録は当該従事者が離職後40年間記録を残す」ことを定めている。これは従事者がアスベストを原因とした疾病を発生した際のばく露履歴を確認するためである。
【0003】
このような作業記録を作成するためには、アスベスト除去作業等を行うエリアに入った作業者を確実に特定して作業記録を作成する必要があるが、作業計画時の作業者と実際に作業を行った作業者が異なることがあり、確実な作業記録を残すのが困難な場合がある。
【0004】
一方、先行技術として、携帯端末に指静脈画像を取得するセンサを設け、取得した指静脈情報と登録指静脈情報を照合した結果に基づいてゲートの開閉を制御するゲートの入退出管理システムが知られている(例えば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開2007−293396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、作業者の離職後40年間記録を残すためには、次のような問題がある。すなわち、作業記録を報告書などの紙の記録で40年以上保管することは現実的ではなく、作業者の雇用会社が倒産してしまった場合などに作業記録が紛失してしまう可能性があるという問題がある。また、作業記録が確実に作業従事者を特定していないことがあり、計画時の名簿をそのまま保管している例などもあり、現状では確実に作業記録を残す手段がないという問題もある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、アスベスト等の取り扱う作業を伴う隔離エリアに対して入退した作業者の作業記録を確実に管理することが可能な隔離エリア入退管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、隔離エリア内における作業を行うために前記隔離エリアに対して入退した作業者の作業記録を管理する隔離エリア入退管理システムであって、指静脈の画像データを取得する指静脈センサと、前記隔離エリアへの入域が許可された作業者の識別情報と、該作業者の指静脈画像データが関連付けられて記憶された入域者データ記憶手段と、前記作業の管理記録情報を記憶する管理データ記憶手段と、前記入域者データ記憶手段を参照して、前記隔離エリアに対する入退時に前記指静脈センサによって取得した前記作業者の指静脈画像データから、前記隔離エリアに対して入退した前記作業者の識別情報を特定する入退者特定手段と、前記作業を記録しておくための作業記録情報を入力する情報入力手段と、前記入退者特定手段によって特定した前記作業者の識別情報と前記情報入力手段により入力された前記作業記録情報とを関係付けて前記管理データ記憶手段に記憶する情報保存手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、入域者データ記憶手段を参照して、隔離エリアに対する入退時に指静脈センサによって取得した作業者の指静脈画像データから、隔離エリアに対して入退した作業者の識別情報を特定するとともに、作業を記録しておくための作業記録情報を入力して、特定した作業者の識別情報と入力された作業記録情報とを関係付けて管理データ記憶手段に記憶するようにしたため、作業記録を電子データとして保管することができるとともに、作業記録の入力を簡易で確実に行うことができる。これにより、アスベスト等の取り扱う作業を伴う隔離エリアに対して入退した作業者の作業記録を確実に管理することが可能となり、40年間作業記録を保管しておくことも容易になるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態による隔離エリア入退管理システムを図面を参照して説明する。図1は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、符号10は、アスベストの除去作業等を行う隔離エリアへの作業者の入退を管理する入退管理システムであり、パソコン等で構成する。符号11は、インターネット等の通信ネットワークである。符号12は、複数の入退管理システム10から管理データを収集して管理する管理サーバである。符号13は、ネットワーク11に接続することができない入退管理システム10の管理データをオフラインで入力するデータ入力部である。符号14は、管理サーバ12によって収集した作業記録等の管理データを保管しておく管理データベースである。符号15は、アスベストの除去作業等を行う隔離エリアであり、入退するための出入り口にゲート16が設けられている。
【0010】
符号1は、入退管理システム10の処理動作を統括して制御する制御部である。符号2は、キーボードやマウス等から構成する入力部である。符号3は、液晶のディスプレイ装置等から構成する表示部である。符号4は、ゲート16近傍に設置され、隔離エリア15に対して入退する作業者が入力操作を行う操作部である。操作部4は、入力部2を兼用するようにしてもよい。符号5は、隔離エリア15へ入ることが許可されている作業者の指静脈画像データを取得する指静脈センサである。符号6は、紙に記録された作業記録等を読み取り、電子データに変換するスキャナである。符号7は、隔離エリア15への入域(エリアに入ること)が許可された作業者の識別情報と、この作業者の指静脈画像データとが予め関連付けられて記憶された入域者データ記憶部である。符号8は、作業記録等の管理データを記憶する管理データ記憶部である。
【0011】
ここで、図2を参照して、図1に示す入域者データ記憶部7のテーブル構造を説明する。図2は、図1に示す入域者データ記憶部7のテーブル構造を示す図である。入域者データ記憶部7は、図2に示すように、作業者を識別するための作業者情報(作業者識別番号)と、この作業者の指静脈画像データのファイル名が関係付けられている。図2においては、作業者情報として、識別するための作業者識別番号のみが記憶されている例を示しているが、これに加えて作業者の氏名、生年月日、性別、本籍地等の作業者を特定することができる情報が記憶されていてもよい。図2に示す入域者データ記憶部7には、作業管理者が、隔離エリア15に入ることを許可する作業者の作業者情報と、予め指静脈センサ5によって読み取った指静脈画像データとを関係付けて登録しておくものである。
【0012】
次に、図3を参照して、図1に示す管理データ記憶部8のテーブル構造を説明する。図3は、図1に示す管理データ記憶部8のテーブル構造を示す図である。管理データ記憶部8は、図3に示すように、工事作業を特定するための工事名称毎に、隔離エリア15に対する作業者の入域時刻、退域時刻、作業者を識別する作業者情報、作業の目的の情報が記憶される(作業実績テーブル81)ともに、入力部2やスキャナ6から入力された作業記録データを工事名称で関係付けた(リンクした)情報(作業記録テーブル82)が記憶される。管理データ記憶部8に記憶される情報は、工事作業の進行に伴い、作業日毎に入力されて記憶される情報である。
【0013】
次に、図1を参照して、図1に示す入退管理システム10の動作を説明する。隔離エリア15内において、アスベストの除去作業等に従事する作業者は、ゲート16を通過するときに、操作部4を操作して、「入域」または「退域」の区分を選択する。制御部1は、ここで入力された「入域」または「退域」の区分の情報を読み取り、内部に保持する。そして、作業者は、指を指静脈センサ5にかざす。制御部1は、指静脈センサ5においてかざされた指の静脈画像データを読み取り、内部に保持する。制御部1は、読み取った指静脈画像データを予め登録されている指静脈画像データと照合して、一致するものを探索する。そして、制御部1は、入域者データ記憶部7を参照して、読み取った指静脈画像データと一致した指静脈画像データが格納されているデータファイル名に関係付けられている作業者情報を特定する。作業者情報を特定できた場合、予め登録されている作業者と見なし、「入域」または「退域」の区分情報が、「入域」を示す情報であった場合、表示部3に作業種類の入力指示メッセージを表示する。作業者は、操作部4を操作して、予め用意されている作業種類の選択肢の中から作業種類を選択する。制御部1は、この操作内容を読み取り、作業種類の情報を特定する。作業種類の選択肢は、「除去」、「準備」、「片付け」のいずれかが選択可能である。
【0014】
次に、制御部1は、特定した作業者情報と、内部に保持している「入域」または「退域」の区分の情報と、内部のタイマから取得した日時情報と、必要に応じて作業種類の情報とを関係付けて、管理データ記憶部8に記憶する。例えば、「入域」が選択され、作業種類が「除去」が選択された場合、制御部1は、管理データ記憶部8に「入域時刻」として、「2008/03/01、13:30:25」が、「作業者情報」として「830025」が、「作業種類」として「除去」がそれぞれ記憶されることになる。また、「退域」が選択され、読み取った指静脈画像データが、既に入域している作業者のものと一致した場合は、「退域時刻」として、「2008/03/01、15:21:30」が記憶されることになる。
【0015】
なお、「入域」時に読み取った指静脈画像データが入域者データ記憶部7に登録されていなかった場合と、「退域」時に読み取った指静脈画像データが既に「入域」済みでない(入域時刻が記憶されていない)場合、制御部1は、表示部3に警報の情報を表示するようにしてもよい。
【0016】
また、ゲート16は、制御部1によって開閉制御されるようにしてもよい。この場合、制御部1は、読み取った指静脈画像データが予め登録されている場合にのみゲート16を開くようにする。これにより、登録されていない作業者が隔離エリア15に入ってしまうことを防止することができる。
【0017】
一方、作業管理者は、入力部2から作業記録データを入力して、40年間保管するべき作業記録情報を管理データ記憶部8へ記憶する。管理データ記憶部8へ記憶する保管データは、最小限の保管データとするため次の4項目とする。
(1)建材中のアスベスト分析結果
(2)環境測定分析結果(工事中のアスベスト紛じん濃度測定結果)
(3)工事完了報告書(自治体及び監督署の受付印がある届出書類、元請け担当者名含む施工管理体制表、完了時の工程表など)
(4)作業員(実作業者)名簿(図3に示す作業実績テーブル81に相当する情報)
【0018】
上記の(1)、(2)、(3)は、紙に印刷されたものが既にある場合は、新たにデータ入力を行うのではなく、スキャナ6によって紙に印刷された情報を読み取って電子データとして管理データ記憶部8へ保管する。また、上記の保管データを作成するために、作業管理者は、次に示す情報を所定のタイミングで入力する。
(a)現揚名(都道府県・市町村名まで)・・・ 工事開始時
(b)従事者氏名・・・ 工事開始時
(c)生年月日・・・ 工事開始時
(d)作業日・・・ 作業日ごと
(e)ばく露事故の有無・・・ 作業日ごと
(f)直近健康診断受診日・・・ 受入教育時(受診予定1ケ月前警告)
(g)特別教育等受講日・・・受入教育時
(h)作業種類(準備、除去、片付け)とその作業レベル(1〜3)・・・作業ごと
【0019】
これらの情報は、作業記録データとして、作業記録テーブル82に記憶されて保管される。また、作業員名簿データには生年月日・直近健康診断受診日・特別教育等受講日などの従事者情報と作業レベル(1〜3)・作業種類(準備、除去、片付け)・ばく露事故の有無等の日々の情報を入力して作成する。この処理動作によって、管理データ記憶部8には、工事作業の開始から終了までの作業記録のデータが保存されることになる。
【0020】
工事が終了した時点で、作業管理者は、入力部2を操作して、管理データ記憶部8に記憶されている情報を、ネットワーク11を介して、管理サーバ12へ送信する。管理サーバ12をこの情報を受信して、受信した情報を管理データベース14に記憶する。また、入退管理システム10と管理サーバ12がネットワーク11を介して接続されていない場合、作業管理者は、管理データ記憶部8に記憶されている情報を、光磁気ディスク、CD−ROM等の可搬記録媒体に記録し、この可搬記録媒体に記録された情報をデータ入力部13を介して、管理サーバ12内に入力する。管理サーバ12は、データ入力部13から入力された情報を同様に管理データベース14へ記憶し保管する。
なお、管理データベース14を備える管理サーバ12は、専門の業者が管理することが望ましい。このようにすることにより、工事を請け負った業者が万が一倒産してしまっても作業記録データを紛失してしまうことを防止することができる。
【0021】
このように、入域者データ記憶部7を参照して、隔離エリア15に対する入退時に指静脈センサ5によって取得した作業者の指静脈画像データから、隔離エリア15に対して入退した作業者の識別情報を特定するとともに、作業を記録しておくための作業記録情報を入力して、特定した作業者の識別情報と入力された作業記録情報とを関係付けて管理データ記憶部8に記憶するようにしたため、作業記録の電子データとして保管することができるとともに、作業記録の入力を簡易で確実に行うことができる。これにより、アスベスト等の取り扱う作業を伴う隔離エリアに対して入退した作業者の作業記録を確実に管理することが可能となり、40年間作業記録を保管しておくことも容易になる。
【0022】
また、個人の特定方法には個人認証カードを用いる方法や暗証番号を用いる方法等があるが、いずれの場合も忘れてしまったり、他人に貸与することが可能なため、確実に個人を特定することができない。そのため、本発明による個人の特定方法は、指静脈の画像データを用いるようにした。これにより、隔離エリア15に対して入退した作業者を確実に特定することが可能になり、保管される作業記録の信憑性を高めることが可能となる。
【0023】
なお、図1における処理部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより隔離エリア入退管理処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0024】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す入域者データ記憶部7のテーブル構造を示す説明図である。
【図3】図1に示す管理データ記憶部8のテーブル構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1・・・制御部、2・・・入力部、3・・・表示部、4・・・操作部、5・・・指静脈センサ、6・・・スキャナ、7・・・入域者データ記憶部、8・・・管理データ記憶部、10・・・入退管理システム、11・・・ネットワーク、12・・・管理サーバ、13・・・データ入力部、14・・・管理データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔離エリア内における作業を行うために前記隔離エリアに対して入退した作業者の作業記録を管理する隔離エリア入退管理システムであって、
指静脈の画像データを取得する指静脈センサと、
前記隔離エリアへの入域が許可された作業者の識別情報と、該作業者の指静脈画像データが関連付けられて記憶された入域者データ記憶手段と、
前記作業の管理記録情報を記憶する管理データ記憶手段と、
前記入域者データ記憶手段を参照して、前記隔離エリアに対する入退時に前記指静脈センサによって取得した前記作業者の指静脈画像データから、前記隔離エリアに対して入退した前記作業者の識別情報を特定する入退者特定手段と、
前記作業を記録しておくための作業記録情報を入力する情報入力手段と、
前記入退者特定手段によって特定した前記作業者の識別情報と前記情報入力手段により入力された前記作業記録情報とを関係付けて前記管理データ記憶手段に記憶する情報保存手段と
を備えたことを特徴とする隔離エリア入退管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−9488(P2010−9488A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170847(P2008−170847)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】