説明

障壁を透過する検体の移送を測定する方法および装置

本発明は、細胞壁を透過する検体の移送を測定する方法および装置を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連する優先出願/請求項]
本出願は、参照することにより本書に含まれる、2008年7月1日付けで出願された米国仮出願番号61/133697(Label Free Assay for Measuring Chemical Transport Across Cell Membranes)と、2009年2月20日付で出願された米国仮出願番号61/208115(Method and Apparatus for Measuring Transport Across Membranes)とにおける優先権を主張するものである。
【0002】
[政府権]
本発明は、国立衛生研究所に与えられた契約番号1R43GM080781−01の基で米国政府支援とともに作成された。政府は、本発明に対するいくつかの権利を有する。
【0003】
本発明は、細胞膜を透過する移送速度を測定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0004】
潜在的に重要な薬剤の識別は、細胞膜を透過するイオン移送におけるこれらの薬剤の効果の測定を頻繁に要求する。例えば、いくつかの薬剤が、イオン移動に関する心臓疾患者の再分極における遅延またはQT間隔延長に関連した致命的毒性を創出した。例えば、近年、複数の薬剤が、それらの細胞膜移送システム上のそれらの薬剤の効果のために市場から回収された。
【0005】
イオンチャネルは、細胞膜を横断するイオン移送を可能にする、遍在する孔形成タンパク質である。イオンチャネルは、細胞内コンパートメントの間および/またはイオン選択性を変化させながら細胞外膜を横断する、特定のイオン種(例えば、Na、K、Ca2+、Cl)の移動を促進する。イオンチャネルは、電圧勾配、リガンドおよび機械力などの外的要因に応答する動的な構造体である。製薬業界は、イオンチャネル機能を修正する治療法を開発した。例には、ナトリウム・チャネル阻害薬カルバマゼピン、降圧剤ジヒドロピリジン系カルシウム・チャネル遮断薬(Norvasc(登録商標))およびスルホニル尿素カリウム・チャネル開口薬(Amaryl(登録商標)などの抗てんかん薬が含まれる。最近の薬剤向けイオンチャネルの年間総売上は約200億ドルである。
【0006】
イオンチャネルは、薬剤開発において困難な分子標的である。その難しさは、適切な高スループットスクリーニング分析フォーマットの不足、イオンチャネル生物物理学の複雑性、および薬剤の潜在的な結合部位および結合様式の範囲から生じる。
【0007】
細胞膜を透過するイオン移送速度を測定する、より簡単な方法の需要が残る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、細胞膜を透過するイオン移送速度を測定する方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
簡潔に言えば、本発明は、細胞からの検体の移送を測定する方法を備える。方法は、検体が取り込まれる1つ以上の細胞を用意するステップを備える。次いで、検体は、細胞から少なくとも部分的に取り出される。次いで、検体は、蛍光X線を使用して測定される。
【0010】
また、本発明は、細胞への検体の移送を測定することを備える。この方法は、1つ以上の細胞を用意するステップと、細胞内の検体の量を増加させるステップと、蛍光X線を使用して検体を測定するステップとを備える。
【0011】
また、本発明は、細胞壁を横断する化学物質の移送を測定する装置を備える。装置は、流入口、流出口、および、溶液の交換中にチャンバー内に細胞を保持する手段を備える。チャンバーはまた、少なくとも1つのX線に対して半透明な箇所を有する。また、装置は、チャンバーのX線に対して半透明な箇所を通して細胞を分析するために配向された蛍光X線分光計を備える。
【0012】
本発明の付加的な目的、利点、新しい特徴は、以下の説明の一部において明記され、また、ある程度下記のテストで当業者には明らかになる、または本発明の実施によって理解される場合があるだろう。本発明の目的および利点は、特に添付の請求項の範囲において明確にされた手段とその組み合わせとによって、明確に理解され、実現されてもよい。
【0013】
本明細書に組み込まれ、その一部を形成する添付図は、本発明の実施形態を図示し、説明とともに本発明の原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明方法のフローチャートを示す。
【図2】本発明方法の別のフローチャートを示す。
【図3】本発明装置の概略図を示す。
【図4】本発明装置の別の概略図を示す。
【図5】水中でのX線の1/e減衰深さの曲線を示す。
【図6】ルビジウム流出速度データセットを示す。
【図7】阻害剤濃度に対するルビジウム流出速度のプロットを示す。
【図8】本発明装置の概略図を示す。
【図9】本発明装置の概略図を示す。
【図10】本発明装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
簡潔に言えば、本発明は、細胞膜を透過する化学物質の有効移送速度を測定するための蛍光X線(XRF)の使用に関する。
【0016】
本発明方法の一実施形態は、図1に示される。この実施形態は、検体が詰め込まれている細胞を用意するステップを備える。次いで、細胞は、細胞から検体を取り出す条件にさらされる。検体は、蛍光X線で測定される。好ましくは、取り出された検体が、細胞に入射する蛍光X線の励起ビームの領域と、水中の検体の少なくとも1つの特性信号の1/e減衰深さの5倍の深さとで画定される体積から実質的に取り除かれている。
【0017】
本発明方法の別の実施形態が図2に示される。この実施形態は、次に検体が取り込まれる細胞を用意するステップと、蛍光X線を使用して検体を測定するステップとを備える。好ましくは、細胞に取り込められる前に、検体が、細胞に入射する蛍光X線の励起ビームの領域と、水中の検体の少なくとも1つの特性信号の1/e減衰深さの5倍の深さとで画定される体積内で実質的に激減する。
【0018】
本発明の方法の両実施形態では、類似した部品およびステップの特性は同一である。
【0019】
好ましくは、細胞は、好ましくはイオンチャネルを発現する、生きた生体細胞である。細胞は、組織の一部であってもよいこと、または、細胞という用語が、ミトコンドリアのような膜組織を有する細胞成分、または、小胞体、ミセル、または同類のような制限された検体移送を可能にする他の細胞成分を指す場合があることが理解されるべきである。より好ましくは、細胞は、イオンチャネルを過剰に発現する。一般的に、細胞は、検体、水分、タンパク質、DNAおよび他の生物化学物質のような材料体積を閉じ込める細胞膜や細胞壁などの物的障壁によって実質的に結合されるべきである。物的障壁は、障壁が異なる刺激にさらされる際に、障壁が検体を異なる速度で通過させてもよいという特徴を有する。例えば、障壁は、イオンチャネルまたは他の膜タンパク質を備える細胞膜であってもよく、イオンチャネルは、阻害剤または活性剤の存在下でイオンを異なる速度で通過させる。好ましい細胞は付着性である。本発明に適合する細胞株の一例は、hERG CHO−Kl細胞株であり、CreaCell社(38700 La Tranche、avenue du Grand Sablon、5、Biopolis、フランス)より入手可能である。
【0020】
検体は好ましくは、10より大きい原子番号を有する化学元素、より好ましくは、亜鉛、カドミウム、タリウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、塩素、臭素およびヨウ素のリストから選択される化学元素を備える。より好ましくは、検体は、2.5KeV以上のエネルギーを有する、少なくとも1つの特有の蛍光X線エミッション信号を有する化学元素を備える。好ましくは、細胞に入射する蛍光X線の励起ビームの領域と、水中の検体の少なくとも1つの特性信号の1/e減衰深さの5倍の深さとで画定される体積内の細胞集団が少なくとも10ピコグラムの検体を含むように、細胞は所定量の検体を組み込む。1KeV〜20KeVのX線エネルギーの1/e深さが図5に示されている。より好ましくは、細胞に入射する蛍光X線の励起ビームの領域と、水中の検体の少なくとも1つの特性信号の1/e減衰深さの5倍の深さとで画定される体積内の細胞集団が、10ナノモル〜5モル濃度の検体を含むように、細胞が一定量の検体を備える、組み込む、または取り入れる。
【0021】
細胞は好ましくは、静止させられる。本文における、静止させられる、とは、蛍光X線測定の初期において蛍光X線励起ビームの経路内にある少なくとも1%の細胞に相当する一定量の細胞が、蛍光X線測定の測定時間より時間帯に亘って蛍光X線励起ビームの経路内において保持されることを意味する。より好ましくは、本文における、静止させられる、とは、蛍光X線測定の初期において蛍光X線励起ビームの経路内にある少なくとも1%の細胞に相当する一定量の細胞が、少なくとも10秒間、蛍光X線励起ビームの経路内において保持されることを意味する。
【0022】
細胞を静止させる方法例は次のようなものを含む。細胞は、細胞を保持し、かつ第1溶液および第2溶液を通過させるフィルターによって静止させられてもよい。好ましくは、細胞は、フォーム、シート、フィルム、膜、棚(scaffold)、ゲル、付着因子、付着細胞株、組織、差動拡散速度、流体力、あるいは分化した細胞または他の細胞が結合できる表面などの固体の支持体への付着によって静止させられてもよい。細胞は、分化した細胞集団の組織に付着、またその一部になってもよい。フォームが使用される場合、オープン細胞フォーム(open cell foam)が好ましく、特に網状のオープン細胞フォームが最も好ましい。
【0023】
検体は、細胞が支持される任意の溶液を取り除くことによって便利に取り出され、そして第2溶液が追加される。第2溶液は、例えば、第1溶液を注ぎ出す、または細胞を第1溶液からフィルタリングし、続いて第2溶液を追加することによって、第1溶液が取り除かれた後で追加されてもよい。その代わりに、第2溶液が、第1溶液に追加されてもよく、それにより第2溶液によって第1溶液が置き換えられる。第2溶液は、1つ以上の刺激を検体に放出するための便利な方法である。刺激は好ましくは、物的障壁を横断するように検体を誘導する化学物質、検体が物的障壁を横断することを阻害する化学物質、検体が実質的に激減する溶媒、イオンチャネルの活動を誘導する化学物質、およびイオンチャネルの活動を阻害する化学物質のリストから少なくとも1つの材料を備え、このイオンチャネルの活動の阻害は、例えば、阻害剤がイオンチャネルに結合するように直接的、または、例えば、薬剤がヘルパータンパク質または一要因または同類物に結合することによってイオンチャネルの活動を阻害するように間接的であってもよく、本発明が機能するために阻害のメカニズムは重要ではない。第1溶液は、第2溶液によって第1溶液を置き換えるまたは希釈することによって便利に取り除かれてもよい。また、第1溶液は、流し出す、移す、または第1溶液の第2溶液への実質的な置き換えのあるなしにかかわらず、第1溶液のかなりの部分を物理的に移動することによって取り除かれてもよい。細胞が第2溶液にさらされる場合、第2溶液は、好ましくは、第1溶液とは異なる組成を有する。第2溶液は、好ましくは、ルビジウムイオンのカリウムイオンへの置き換えのような検体を置き換える化学物質、高濃度のカリウムのようなチャネルの活動を誘導する化学物質、および、アステミゾール、シサプリド、またはテルフェナジンのようなイオンチャネルの活動を修正する化学物質の中から1つ以上の化学物質を備える。組成における溶液の違いの例は、1つ以上の溶質の性質または濃度、あるいは溶媒の混合物を含む溶媒の性質であってもよい。好ましくは第1溶液と第2溶液との違いは、第2溶液において検体が実質的に激減することである。本文では、「実質的に激減する」とは、第2溶液中の検体の濃度が、細胞が初めに第2溶液に位置した際の細胞中の検体の濃度より少なくとも10分の1より小さくなることを意味する。より好ましくは、「実質的に激減する」とは、第2溶液中の検体の濃度が、細胞が初めに第2溶液に位置した際の細胞中の検体の濃度より少なくとも100分の1より小さくなることを意味する。
【0024】
細胞は、蛍光X線によって分析される。本発明で便利に使用される場合がある蛍光X線分光計の例は、マイクロフォーカスX線管、ポリ毛細管X線フォーカシング光学系、リチウム・ドリフト・シリコン半導体検出器、処理電子機器、および製造元供給のオペレーティングソフトを装備する、エネルギー分散型の蛍光X線分光計EDAX Eagle XPLである。蛍光X線分光計は、好ましくは、可動ステージ、より好ましくは、少なくとも2軸可動ステージ、もっとも好ましくは少なくとも3軸可動ステージを備える。好適なX線源は、多色X線を放射し、それに対して、測定された炭化水素サンプルからのX線管のスペクトル、または測定された散乱X線のスペクトルが、少なくとも0.5KeV離れた少なくとも2つの異なるエネルギーを有するX線を備える。
【0025】
検体は、好ましくは、検体が細胞と一緒に位置する間に測定され、それは リアルタイムまたは略リアルタイム測定と、容易に解析される検体流出測定とを可能にするからであるが、検体は、検体が細胞から取り出されて、細胞が溶解した後に測定されてもよい。または、細胞内に取り込まれた検体と細胞にさらされてきた検体の量との違いが測定されてもよい。細胞を溶解するまたは細胞を乾燥することなどによるマトリクスの除去または削減は、優れた測定制限を創出することができる。
【0026】
本発明方法のこの実施形態は、容易に多重化されてもよい。
【0027】
多重測定は、所定時間帯に亘って、または、異なる第1溶液と第2溶液とによって得られる可能性がある。多重測定が、動力学的パラペータを計算できるように、また、IC50などの阻害定数を計算できるようにする。
【0028】
本発明の装置の実施形態が図3に示される。装置2は、チャンバー6内の細胞12を分析するために配向される蛍光X線分光計4を備える。チャンバー6は、流入口8および流出口10を備える。チャンバー6は、細胞12を保持するためのフィルター、あるいは、細胞が付着する表面または細胞12を保持するため別の手段のいずれかをさらに備える。フォームが使用される場合、フォームは、好ましくは開細胞または部分的に網状になったフォームである。細胞12を保持する手段は好ましくは、細胞12を潤沢に包囲する溶液の交換中に、細胞12を保持するのに十分なものである。細胞12を保持する手段は、好ましくは、接着細胞が付着する可能性がある1つ以上の表面である。チャンバー6の少なくとも一部は、X線に対して半透明または透明である必要がある。チャンバー6は、分離したユニットであってもよく、細胞を保持する導管の一部であってもよい。
【0029】
細胞12は、検体、水分、タンパク質、DNA、および他の生物化学物質などの一定量の構成要素をすっかり包み込む細胞膜や細胞壁などの物的障壁を有するべきである。物的障壁は、物的障壁が異なる刺激にさらされる際に、異なる速度で検体を通過させる場合があるという特性がある。例えば、物的障壁は、複数のイオンチャネルを有する細胞膜であってもよく、複数のイオンチャネルは、阻害剤または活性剤の存在下において異なる速度でイオンを通過させる。好適な細胞は、付着性である。
【0030】
蛍光X線分光計4は、X線励振源およびX線検出器を備える。本発明で便利に使用される場合がある蛍光X線分光計の例は、マイクロフォーカスX線管、ポリ毛細管X線フォーカシング光学系、リチウム・ドリフト・シリコン半導体検出器、処理電子機器、および製造元供給のオペレーティングソフトを装備する、エネルギー分散型の蛍光X線分光計EDAX Eagle XPLと、コリメートX線管およびSi(Li)検出器、処理電子機器、および製造元供給のオペレーティングソフトを有するKevex Omicronモデル952−102とがある。蛍光X線分光計は好ましくは、可動ステージ、より好ましくは、少なくとも2軸可動ステージ、もっとも好ましくは少なくとも3軸可動ステージを備える。好適なX線源は、多色X線を放射し、それに対して、測定された炭化水素サンプルからのX線管のスペクトル、または測定された散乱X線のスペクトルが、少なくとも0.5KeV離れた少なくとも2つの異なるエネルギーを有するX線を備える。
【0031】
X線に対して半透明または透明なチャンバー6の一部は、X線に対して半透明な箇所が、X線に対して半透明な箇所の1ミクロン以内位置する検体の一部によって放射され、かつX線に対して半透明な箇所およびX線に対して半透明な箇所へ垂直に入射する最高エネルギーの蛍光X線信号の少なくとも0.1%を通過させる特性を有する。
【0032】
チャンバー6は好ましくは、検体をろ過せず、より好ましくは、検体を具備せず、もっとも好ましくは、蛍光X線を使用して測定された検体内の素子と同一の素子を具備しない。チャンバー6は好ましくは、少なくとも、第1溶液または第2溶液に接触するチャンバー6の表面が細胞に対して毒性ではないように生物学的に適合している。本文において、細胞に対して毒性ではない、とはチャンバー6の表面が、30分以内に細胞の50%より多くを殺さないことを意味する。また、チャンバー6は任意で、チャンバーの少なくとも1つの内側面に細胞を付着させる。
【0033】
細胞12を保持する手段は、フィルター(すなわち、細胞を保持し、溶液を通過させるコンポーネント)、または細胞が付着する表面のいずれかであってよい。フィルターの一例は、再生セルロースフィルターである。好ましくは、細胞12を保持する手段は、付着性細胞が付着する可能性がある表面である。細胞が付着する可能性がある表面が使用された場合、表面の例は、ポリスチレン、ポリカーボネート、およびポリウレタンであり、それらの表面の例は、シート、フィルムフォーム、および他の形状である。表面は任意で、例えば、1型コラーゲン処理、ポリエルリジン処理、またはエッチング処理によって細胞付着を促進するために化学処理される。細胞12を保持する手段は好ましくは、細胞に入射する蛍光X線の励起ビームの領域と、水中の検体の少なくとも1つの特性信号の1/e減衰深さの5倍の深さとで画定される体積内の細胞12が少なくとも10ピコグラムの検体を含むように配置される。1KeV〜20KeVのX線エネルギーの1/e深さが図5に示されている。より好ましくは、細胞12を保持する方法が、細胞に入射する蛍光X線の励起ビームの領域と、水中の検体の少なくとも1つの特性信号の1/e減衰深さの5倍の深さとで画定される体積内の細胞12が少なくとも10ナノモル〜5モル濃度の検体を含むように配置される。
【0034】
任意に、かつ好ましくは、装置2は、チャンバーに入る溶液を修正するためのフロー制御をさらに備える。このフロー制御は、異なる溶質または溶媒の濃度の勾配を有する溶液をうまく提供するポンプを備える可能性がある。
【0035】
本発明装置のこの実施形態は、例えば、装置2の複数のコピーを1つのプラスチックのブロックにエッチングまたはイングレービングすることにより、または複数の個別装置2を一緒に取り付けることによって容易に多重化されてもよい。
【0036】
本発明装置の別の実施形態が図4に示される。装置102は、チャンバー106内の細胞を分析するために配置された蛍光X線分光計104を備える。蛍光X線分光計104は、チャンバー106の開口を通じて細胞を測定しているように示されているが、蛍光X線分光計104は、蛍光X線分光計が細胞を測定できるいかなる方向に配置されてもよく、例えば、その表面がX線を透過させれば、チャンバー106の底面を通して細胞を測定することが許容される。また、チャンバー106は任意で、細胞112を保持するフィルターおよび/または細胞が付着できる表面のいずれかを備え、細胞保持器具114として概略的に示されている。細胞保持器具114は、フォーム、構造化表面、ゲル、組織サンプル、または細胞112を保持する他の手段であってもよい。あるいは、例えば、フィルターを通した重力、遠心分離、減圧、または、溶液から細胞を分離する他の手段を使用して細胞を定着させてもよい。チャンバー106の少なくとも一部がX線に対して半透明または透明である必要があり、この半透明または透明なチャンバー106の部分は、チャンバー106における開口部であってもよい。チャンバー106は、分離したユニットであってもよく、チャンバーは、チャンバー106の複数のコピーを含む多重ユニットの一部であってもよい。
【0037】
チャンバー106、X線励起ビームおよびX腺検出器の配向によって、細胞集団の少なくとも一部がX線励起ビーム経路とX線検出器の視野領域との交差によって画定される体積を占める必要がある。好ましくは、チャンバー106、X線励起ビームおよびX腺検出器の配向によって、少なくとも100ピコグラムの検体を備える細胞集団の少なくとも一部がX線励起ビーム経路とX線検出器の視野領域との交差によって画定される体積を占める必要がある。より好ましくは、チャンバー106、X線励起ビームおよびX腺検出器の配向によって、少なくとも100ピコグラムの検体を備える細胞集団の少なくとも一部がX線励起ビーム経路とX線検出器の視野領域との交差によって画定される体積を占める必要があり、かつ、細胞と蛍光X線検出器との間の任意の障壁が、検体によって障壁に対して垂直に照射された最高エネルギーの蛍光X線信号を減衰させ、その蛍光X線信号の約99.9%より少ない数が障壁の5ミクロン以内に位置する、もしくは、検体からの最高エネルギーの蛍光X線信号の少なくとも0.1%を通過させる。
【0038】
蛍光X線分光計104は、X線励振源およびX線検出器を備える。本発明で便利に使用される場合がある蛍光X線分光計の例は、マイクロフォーカスX線管、ポリ毛細管X線フォーカシング光学系、リチウム・ドリフト・シリコン半導体検出器、処理電子機器、および製造元供給のオペレーティングソフトを装備する、エネルギー分散型の蛍光X線分光計EDAX Eagle XPLと、コリメートX線管およびSi(Li)検出器、処理電子機器、および製造元供給のオペレーティングソフトを有するKevex Omicronモデル952−102とがある。蛍光X線分光計は、好ましくは、可動ステージ、より好ましくは、少なくとも2軸可動ステージ、もっとも好ましくは少なくとも3軸可動ステージを備える。好適なX線源は、多色X線を放射し、それに対して、測定された炭化水素サンプルからのX線管のスペクトル、または測定された散乱X線のスペクトルが、少なくとも0.5KeV離れた少なくとも2つの異なるエネルギーを有するX線を備える。
【0039】
本発明装置の実施形態は、例えば、装置102の複数のコピーを1つのプラスチックのブロックにエッチングまたはイングレービングすることにより、または複数の個別装置102を一緒に取り付けることによって容易に多重化されてもよい。
【0040】
[事例1]
CreaCell(38700 La Tranche、avenue du Grand Sablon、5、Biopolis、フランス)から得られるチャイニーズハムスター卵巣細胞(hERG CHO−Kl)を示すヒト遅延整流性カリウムイオンチャネルは、F−12栄養素混合物(HAM(Invitrogen社から入手可能、品番21765−029)、10%のFoetal Bovine Serum(FBS)、antibiotic−antimycotic(10,000単位のペニシリン、10,000ugのストレプトマイシン、25ugのアンフォテリシンB/mL(Invitrogen社から入手可能、品番15240−062)、および、1.2mg/mlのジェネティシン(Invitrogen社から入手可能、品番10131−027)からなる培養基において5%の二酸化炭素において37℃でT150フラスコの中で培養される。細胞が約80%の密集度に達する際、細胞は、(トリプシン−EDTAを使用して)トリプシン処理され、かつ(血球計を使用して)カウントされた。細胞は、300ミクロリットルの培養基内に0.1×10セルの濃度において培養基内で再懸濁された。300ミクロリットルの細胞懸濁液は、48−ウェルプレート(48−well plate)においてcmのPUF毎に子牛の皮(Sigma社品番C8919から入手可能)からの10ミクログラムの1型コラーゲンで前処理されたポリウレタンフォーム(PUF)(30ppi、部分的に網状、McMaster−Carr品番86225K11から直径1/4インチのディスクに切られたもの)に移送された。個別PUFは、個別PUFが60mmの直径のシャーレーに移され、培養基で覆われ、約80%の密集度まで5%の二酸化炭素において37℃でインキュベートされる間の約24時間の間、5%の二酸化炭素において37℃でインキュベートされた。次いで、個別PUFは、155.4mMの塩化ナトリウム、2mMの塩化カルシウム、0.8mMのリン酸水素ナトリウム、1mMの塩化マグネシウム、5mMのブドウ糖、および25mMのHEPES緩衝液を含む、0.22umのフィルター処理された7.4pHの水性緩衝液からなるRb/K緩衝液で3回洗い流された。
【0041】
PUFには、水溶性緩衝液であって、150mMの塩化ナトリウム、2mMの塩化カルシウム、0.8mMのリン酸水素ナトリウム、1mMの塩化マグネシウム、5mMのブドウ糖、および25mMのHEPES緩衝液を含む、0.22umのフィルター処理された7.4pHの水溶性緩衝液からなる8mLのRb取り込み緩衝液の中で5%の二酸化炭素における37℃での3時間のインキュベーションを介してRbイオンが取り込まれた。PUFは、図6に示すように、ジメチル・スルホキシド(DMSO)の中で変化する濃度のテルフィナジンにおいて、5%の二酸化炭素において37度で30分間インキュベートすることによってチャネル阻害剤で処理された。次いで、個別PUFは、155.4mMの塩化ナトリウム、2mMの塩化カルシウム、0.8mMのリン酸水素ナトリウム、1mMの塩化マグネシウム、5mMのブドウ糖、および25mMのHEPES緩衝液を含む、0.22umのフィルター処理された7.4pHの水性緩衝液からなるRb/K緩衝液で3回洗い流された。
【0042】
次いで、3つの個別PUFは、反転され、図8に示すように装置202に重ねられた。図8は装置202を示す。チャンバー206、チャンバー206に液体を入れることを可能にする流入口208、およびチャンバー206から液体を出すことを可能にする流出口210を備える。細胞が取り込まれたフォーム204は、上述のようにルビジウムが取り込まれたCHO−Kl細胞が取り込まれた3つのPUFフォームのセットを備えた。細胞が取り込まれたフォーム204は、チャンバー206内に配置された。Ultralene(登録商標)シート(X線に対して半透明な窓212)およびOリング(保持リング214)は、チャンバー206をシールするために使用された。図8は、蛍光X線分光計または流体制御システムを示さない。図9は、細胞が組み込まれたフォーム204、蛍光X線に対して半透明な窓212、および保持リング214を除いた装置202の概略図を示す。図10は、装置202を備える装置302の概略図を示す。装置302は、装置202において細胞を分析するために配置される、X線管302およびX線検出器304を備える。また、装置302は、流入管308を装置202に結合する流入接続具306、および、装置202へ流入管308を通して流入タンク312から液体をくみ上げるポンプ310を備える流入の流動状態を示す。また、装置302は、流出管316に装置202を接続する流出接続具314を備える流出の流動状態を備える。流出管316は液体が装置202から退出し、流出タンク328に達することを可能にする。
【0043】
次いで、流入ラインは、50mMの塩化カリウム、150mMの塩化ナトリウム、2mMの塩化カルシウム、0.8mMのリン酸二水素ナトリウム、1mMの塩化マグネシウム、5mMのブドウ糖、および25mMのHEPES緩衝液を含む0.22umのフィルター処理された7.4pHの水性緩衝液からなる50mMKのフロー緩衝液で清浄される。次いで、流入ラインは、フロー装置流入口に接続される。静的な課栄光X線読み取りは、フロー緩衝液ポンプが起動した後、25kVおよび0.1mAで駆動されるRhX線管、リチウム泳動シリコン検出器、1mmコリメーターを装備する蛍光X線分光計を使用して行われる。連続する蛍光X線読み取りは、一定時間帯に亘るフロー状況化において行われる。その結果、変化する阻害剤濃度の完全な流量データセットが集められ、図6に示すようにプロットされる。ルビジウムの流出速度は、図6に示される流出データの各セットをフィッティングすることによって示されている。次いで、ルビジウム信号の損失を示す流出速度は、図7に示すように、IC50を取得するために足されたテルフェナジンの濃度に対してプロットされている。
【0044】
本発明の原理およびその実用的応用を最良に説明し、それにより他の当業者が、予期される特定の使用に適合するように、種々の実施形態において、かつ種々の変更とともに本発明を最良に使用することができるように実施形態を選択し、説明した。本発明の範囲は、以下に添付する請求項の範囲によって定義されることを意図する。
【符号の説明】
【0045】
2 102 202 302 装置
4 104 304 蛍光X線分光計
6 106 206 チャンバー
8 208 流入口
10 210 流出口
12 細胞
114 細胞保持器具
204 細胞が取り込まれたフォーム
212 X線に対して半透明な窓
214 保持リング
306 流入接続具
308 流入管
310 ポンプ
312 流入タンク
314 流出接続具
328 流出タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体が取り込まれている1つ以上の細胞を用意するステップと、
前記細胞から前記検体の少なくとも一部を取り出すステップと、
蛍光X線を使用して前記検体を測定するステップと、
を備えることを特徴とする細胞からの検体の移送を測定する方法。
【請求項2】
前記1つ以上の細胞が、物的障壁によって実質的に境界された被包化体積を備え、
前記被包化体積は、前記検体を備えることが可能であり、前記検体は、前記物的障壁を横断することが可能であり、該横断の速度 は1つ以上の刺激によって調整されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検体が、約2.5KeVより大きいエネルギーを有する特有の蛍光X線信号を有する要素を備えることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が、前記細胞に入射する前記蛍光X線の励起ビームの領域と、水中の前記検体の少なくとも1つの前記特性信号の1/e減衰深さの5倍の深さとで画定される体積内の細胞集団が、少なくとも10ピコグラムの前記検体を含むように、所定量の前記検体を組み込んでいることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記蛍光X線測定の開始時に前記蛍光X縁の励起ビームのビーム経路内に存在する少なくとも1%の前記細胞に相当するする前記細胞の量が、前記蛍光X線測定の測定時間より長い時間帯に亘って前記蛍光X線のビームの経路内において保持されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、棚、ゲル、フォーム、付着因子、付着細胞株、組織、差動拡散速度、または流体力から選択される1つ以上の機構によって前記ビーム経路内において保持されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記刺激は、前記物的障壁を横断するように前記検体を誘導する化学物質、前記検体が前記物的障壁を横断することを阻害する化学物質、前記検体が実質的に激減する溶媒、イオンチャネルの活動を誘導する化学物質、および、前記イオンチャネルの活動を阻害する化学物資のリストから選択された少なくとも1つの材料を備えることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
1つ以上の細胞を用意するステップと、
前記細胞内の検体の量を増加させるステップと、
蛍光X線を使用して前記検体を測定するステップと、
を備えることを特徴とする細胞の中への検体の移送を測定する方法。
【請求項9】
前記1つ以上の細胞が、物的障壁によって実質的に境界された被包化体積を備え、
前記被包化体積は、前記検体を備えることが可能であり、前記検体は、前記物的障壁を横断することが可能であり、該横断の速度は、1つ以上の刺激によって調整されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記検体が、約2.5KeVより大きいエネルギーを有する特有の蛍光X線信号を有する要素を備えることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、前記細胞に入射する前記蛍光X線の励起ビームの領域と、水中の前記検体の少なくとも1つの前記特性信号の1/e減衰深さの5倍の深さとで画定される体積内の細胞集団が、少なくとも10ピコグラムの前記検体を含むように、所定量の前記検体を組み込んでいることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光X線測定の開始時に前記蛍光X縁のビーム経路内に存在する少なくとも1%の前記細胞に相当する前記細胞の量が、前記蛍光X線測定の測定時間より長い時間帯に亘って前記蛍光X線の励起ビームのビーム経路内において保持されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が、棚、ゲル、フォーム、付着因子、付着細胞株、組織、差動拡散速度、または流体力から選択される1つ以上の機構によって前記ビーム経路内において保持されることを特徴する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記刺激は、前記物的障壁を横断するように前記検体を誘導する化学物質、前記検体が前記物的障壁を横断することを阻害する化学物質、前記検体が実質的に激減する溶媒、イオンチャネルの活動を誘導する化学物質、および、前記イオンチャネルの活動を阻害する化学物質のリストから選択された少なくとも1つの材料を備えることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
細胞壁を横断する化学物質の移送を測定する装置であって、
流入口、流出口、および、前記細胞を実質的に包囲する溶液の交換中に前記細胞を保持する手段を備え、少なくとも一箇所においてX線に対して半透明であるチャンバーと、
前記チャンバーの前記X腺に対して半透明な箇所を通して前記細胞を分析するように配向されている蛍光X線分光計と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項16】
1つ以上の細胞をさらに備え、前記細胞は物的障壁によって実質的に境界された被包化体積を備えており、
前記被包化体積は、検体を備えることが可能であり、前記物的障壁は、1つ以上の刺激によって調整される速度で前記検体を通過させることが可能であることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記X線に対して半透明な箇所は、前記X線に対して半透明な箇所に垂直に入射し、かつ前記X線に対して半透明な箇所から1ミクロン以内に位置する前記検体の一部によって照射される、最高エネルギーの蛍光X線信号の少なくとも0.1%を通過させることを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記細胞が、細胞に入射する蛍光X線の励起ビームの領域と、水中の検体の少なくとも1つの特性信号の1/e減衰深さの5倍の深さとで画定される体積内の細胞集団が少なくとも10ピコグラムの前記検体を含むように、所定量の前記検体を組み込むことができることを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項19】
フロー制御をさらに備え、前記フロー制御が前記チャンバー内に入る前記溶液を修正できることを特徴とする請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記溶媒の交換中に前記細胞を保持する手段が、前記細胞が付着する1つ以上の表面を備えることを特徴とする請求項19に記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2011−527015(P2011−527015A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516855(P2011−516855)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/049444
【国際公開番号】WO2010/003017
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(510041348)カルデラ・ファーマシューティカルズ・インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】