説明

障害動植物の活動抑制のための照光器具およびその製造方法

【課題】 露地栽培やハウス栽培に適した、簡易に設置したり撤収したりすることが出来るような防虫等用の照光器具およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 半導体発光素子部と、この半導体発光素子部に電力を供給するための電線部と、から成る障害動植物の活動抑制を行い得る光を発する照光具を、植物を覆うためのネットまたはシートに取り付けて、障害動植物の活動抑制のための照光器具とした。このネットやシートを露地栽培植物の上に直接被せたり複数の支柱を立ててその間に渡したりハウスの柱に掛けるなどして張り、栽培植物を覆うようにするだけで使用出来るようになる。ネット状やシート状であるため広げて張るのが容易であり撤収も容易である。ネットやシートは半導体発光素子とその電線とを支えるベースとなるものであると共に、電線などに外からの引っ張り力が加えられるような時の守りともなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(Light Emitting Diode)などの半導体発光素子を用いた、露地栽培やハウス栽培で使用するための防虫等用の照光器具とその製造方法とに関する。なお半導体発光素子にはエレクトロルミネッセンス(EL:ElectroLuminescence)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)がある。本願では半導体発光素子をLED(Light Emitting Diode)(発光ダイオード)で代表して説明することとする。
【背景技術】
【0002】
近年、建物内で人工の光を栽培植物に当てて成長を促進させようとする研究開発が盛んである。例えば米国特許6921182は、オレンジ色の第一LED群と、赤色の第二LED群と、青色の第三LED群とを適切な割合と照光角度とで配列することで、植物成長を強化するための安価で高効率なLEDランプとしたものである。また米国抄録2001−47618は、基盤上に交互に配電した赤色LEDと青色LEDを光源にして、太陽と同様の連続する光を提供すると共に、発光に係る仕事量を制御することを可能にしたものである。LEDなどの半導体発光素子には、植物の種類に合わせて、各々の植物の生育に好都合な特定波長の光を選択的に用いたり、光の強さや照光時間等を制御したりすることを、容易に行わせ得ると言う特長がある。このようなLEDランプはLEDを集合させたパネルの形態や電球の形態で提供され、いわゆる植物工場の天井や壁面にしっかりと固定される。
【0003】
より良い栽培を助ける照光装置には、上述のような日照不足を補うためのものだけでなく、防虫・防鳥・防獣などの対策を行うためのものがある。例えばチャバネアオカメムシやオオタバコガやヨトウガなどの防除には、明適応に係る波長580nm近辺の黄色光〜波長520nm近辺の黄緑色光が効果的であることが知られている。特開2003−274838は、黄色光を嫌う夜蛾類の作物栽培場所への飛来を忌避させる目的で、黄色光源に黄色直管形蛍光灯を用いた防蛾灯を提案している。また特開2004−000093や特開2009−224148のように光源に半導体発光素子を用いた例がある。また白色光等を不規則にフラッシュさせることでイノシシやハクビシンなどの害獣を驚かす成果が得られることが知られている。なお緑白色光で藻類の生育抑制を行う研究(地方独立行政法人・山口県産業技術センター)もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−274838号(段落0015)
【特許文献2】特開2004−000093号
【特許文献3】特開2009−224148号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述したような防蛾灯は主として植物工場や大型のハウスに固定的に設備するものであり、露地栽培やハウス栽培のために必要な時には直ぐに容易に使用出来ると言うようなものではなく、適用柔軟性に欠けていた。露地やハウスで用いる器具としては、農作業の邪魔にならず、取り扱いが煩わしくなく、現状露地やハウスの担い手であるじいちゃんばあちゃんでも簡単に設置したり撤収したりすることが出来るものでなくてはならない。
【0006】
そこで本発明は、露地栽培やハウス栽培に適した、もっと簡易に設置したり撤収したりすることが出来るような、障害動植物の活動抑制のための照光器具およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決に先立ち当発明者は次のような知見を得た。当発明者は特願2009−192895によって、露地栽培やハウス栽培では日照不足を補うための設置が容易な専用の照光器具が必要であるが、このようなものはこれまで存在していなかったこと(これまでは露地物に育成用の光を照射しようなどと言う考えがなかったのである)を指摘して新たな照光器具を提案した。このものは露地栽培やハウス栽培に於ける日照不足を補うべく、複数個の半導体発光素子をこの半導体発光素子に電力を供給するための電線と共に、植物を覆うための農業用ネットに取り付けて照光器具としたものである。この発明が実に重要であることは日本経済新聞2010年1月25日号の記事“農業も「ソーラー産業」に育てよ”によっても裏付けられる。この記事ではソーラーエネルギー利用への転換の担い手の産業として農業や林業が位置付けられている。この特願2009−192895の発明は日照不足を補うものに限定されず、より広い意味での育成栽培のための照光装置、すなわちより良い栽培を助けるための防虫・防鳥・防獣などの対策用としても構成可能なのではないかと言う知見を当発明者は得たのである。
【0008】
上記課題は、半導体発光素子部と、この半導体発光素子部に電力を供給するための電線部と、から成る障害動植物の活動抑制を行い得る光を発する照光具を、植物を覆うためのネットまたはシートに取り付けて成る、障害動植物の活動抑制のための照光器具とすることにより達成される。
【0009】
例えば複数個のLEDとこれ等のLEDに電力を供給するための電線部とから成る照光具を、植物を覆うための農業用のネットやシート(以下ベースと称する)に取り付けるのである。LEDは障害動植物の活動抑制を行い得る黄色光などの光を発するものである。なお特開2010−115193のような蛍光放射性ネットや蛍光放射性シートを本発明の前記ベースに適用することにより、この蛍光放射性ネットや蛍光放射性シートが太陽光の一部を光合成のために好ましい波長の光に変換して植物に与えることが出来るようになり、この蛍光は日照不足解消に役立つため、正に一石二鳥である。なお本発明の必須要件ではないが、LEDへの供給電力には商用電源の利用が一般的である。風力発電や小規模水力発電などの、農家が自前で得られる電源を用いても良い。スマートグリッド(商標)が普及すれば晴れの地域の太陽光発電電力を雨の地域の本発明の照光器具に供給することが出来るようになろう。
【0010】
農業用のネットは防虫、防鳥、防風などの用途別に、またポリエチレン糸やステンレス線入り糸などの糸の素材別に、また糸の太さや、単糸か束糸か撚糸かなどの違いにより、ネットの目(網目)のサイズ、蛙又網などの結節網かラッセル網等の無結節網か、四角か六角かなど網目の形状、等々の違いによりその種類が豊富にある。本発明ではこのような合成繊維や天然繊維を素材とした柔軟な農業用ネットにLEDが設けられている。あるいは例えば軟質ビニール(PVC:ポリ塩化ビニル)シートの、網目としたい部位を除去して、残した部分で構成されるネットを本発明のネットとして使用する設計も可能である。また農業用のシートは、例えば保温用にトンネル支柱に張ったり、雨除けに植物の上方を覆ったり、雑草避けに耕作地に敷いたりするものである。本発明ではこのような農業用のシートにLEDが設けられている。柔軟なベースは広げて張るのが容易であり、あるいは植物に被せた時の形状が自由になる利点がある。またネットの場合、ネットで網目の余り細かくないものでは風通しが良いために強い風によっても壊されにくい利点がある。また遮光ネットのような目の詰まったものでなければ、その網目から太陽光を通して栽培植物に降り注がせることが出来る。このようなネットやシートを露地栽培植物の上に直接被せるようにしたり、イボ竹(登録商標)などのような竹を模した支柱の複数本を地面に挿すなどして立てて、その間に渡したり、ハウスの柱に掛けるなどして張り、栽培植物の上を覆うだけで使用することが出来るようになる。植物と植物との間に垂らすような設置も植物を覆うことに含まれる。忙しい農作業の中にあって設置も撤収も容易である。さっと拡げてさっと片付けられるからじいちゃんばあちゃんでも扱いが容易である。ベースとなるネットやシートとLEDとが一体化されていることで、ベースを巻いたり畳んだり、曲げたり絞ったり、延べたりする農作業に際し、LEDとの分離が少なくて扱いやすい。このベースからは障害動植物の活動を抑制したり侵入を忌避させたりするLED光が照射される。このベースはLEDを支えるものである。また前記電線部などに農機具が引っ掛かる際には、ベースが一緒に引っ掛かったり先に引っ掛かったりしてベースごと引っ張られるようになるため、ベースは電線部を守るように作用する。これは本発明の重要な効果の一である。なお本発明ではネットとシートの利点を活かすべくシートで被覆されたネットを用いる設計が可能である。すなわちシートで被覆されたネットに、半導体発光素子部と、この半導体発光素子部に電力を供給するための電線部と、から成る障害動植物の活動抑制を行い得る光を発する照光具を取り付けるのである。
【0011】
複数個のLEDは個々のLEDランプをビニール被覆線等の電線で繋げることで構成することが出来る。樹脂皮膜で覆われた導線を帯状に束ねたフラットコードと呼ばれる電線を用いることが出来る。あるいは表面実装(Surface Mount)によって配線を含んだLEDストリングやLEDマトリクスを構成することが可能である。その他の方式を採用しても良い。露地で用いるものに付いては防水性が付与されていることが望ましい。複数個のLEDは直列接続にする、直列接続されたグループの複数グループを並列接続にする、等々所要の接続方式を採用すれば良い。またLEDや電線を延長コネクタ等を用いて延設可能に構成することが出来る。このようなことは一般的な技術であるため詳しい説明を割愛する。防虫目的に用いられるLEDの発光色は黄色光〜黄緑色光の範囲である。この範囲内の色を単独で用いたり、組合わせて用いることが出来る。また防鳥目的・防獣目的に用いられるLEDには規則的なまたは不規則的なフラッシュ発光を行わせるようにする。鳥獣はフラッシュに驚いて近寄り難くなる。また藻類の生育抑制目的ならばLEDの発光色は緑白色光等である。なおこれ等のLED発光に加えて、植物の生育に適する波長の赤色や青色などの光を併せて発光させるような構成も可能である。またLEDの発光時間や発光パターンを制御し得るように構成することが出来る。直流点灯のほかに、パルス点灯とする場合がある。このあたりのことは既に開示されている技術や既存の技術が参考になるので、煩雑となるのを避けて更なる説明を省略する。このようなLEDの発光部とその電線部とを、ベースの全体にあるいは所要の部位に設けるのである。なお高出力LEDを用いる場合には放熱対策を施すと良い。
【0012】
複数個のLEDのベースへの取り付けには、LEDや電線部がベースに接触する部位に供給する接着剤、LEDや電線部をベースに沿わせた所に巻き付けて両者を固定するための粘着テープ、面ファスナ、針金、針金入りの軟質ビニール紐(ビニールタイ)、インシュロック(登録商標)などの結束バンド、目玉クリップなどのクリップ類、ネットフックなどのフック類、スパイラルチューブ等々を用いることが出来るが、これ等に限定されない。取り付け部品として特に着脱を自由に行い得る着脱手段を用いれば、電線部を含む複数個のLEDとネットやシートと前記取り付け部品とをセット販売にすることが出来る。この着脱手段の一例として、Ω形状の両端部に球体があるケーブル結束クリップを上げることが出来る。なお後述する被覆具に入ったLED(例えばテープLEDやチューブLED)を引っ張り力に強いものにすれば、これを以てネットを構成する糸の一部とする構成が可能である。なおこれまでに述べたことはLEDのみならず半導体発光素子に広く適用可能である。
【0013】
複数個の半導体発光素子を農業用のネットや農業用のシートに取り付けるには、次のような方法を提供し得る。半導体発光素子とこの半導体発光素子に電力を供給するための電線部とを、この半導体発光素子によって照光したい方向に透光性を有する長尺の被覆具に納め、これを植物を覆うためのネットまたはシートに取り付けるのである。例えば複数個のLEDとそのLEDに電力を供給するための電線部とを、少なくともLEDの発光方向に透光性を有する長尺の被覆具に納めて、(1)これを農業用ネットの網目を縫うように通すことでこのネットに取り付けるのである。被覆具は例えばテープやチューブなどの所要の形態のものを提供し得るが、これ等には網目に通しやすいと言う利点がある。露地で用いるものには防水性を付与しておくと良い。またこれ等の被覆具に入ったLEDには網目方向にフレキシブルなものもある。被覆具を通す網目を選ぶ際の自由度が高いために、被覆具を直線状に配置するだけでなく、曲線状に配置するなども可能である。現在前記テープLEDにはテープ厚が2ミリメートルと言うようなサイズのものが存在する。なお被覆具を通すことが出来ないような細かい網目のネットを使用する必要があるのであればこのネットにケーシングを通すための輪を設ければ良い。細かい網目のネットに太い網目のネット(こちらに被覆具を通すのである)を重ねるようにしても良い。あるいは(2)前記ネットを編む際に糸の間に編み込むようにして前記ネットに取り付けるのである。これには例えばアルミ箔テープを織り込んで作る遮熱ネットの製法が参考になる。なお(1)(2)のような長尺の被覆具に入れられたLEDではあるが、例えばLED4個と抵抗器1個とで1ユニットとして、ユニット毎に着脱自在となるように構成すれば、ユニット単位の延設や修理の際の交換が容易である。現在テープLEDにはこのような製品も販売されている。なおこれまでに述べたことはLEDのみならず半導体発光素子に広く適用可能である。
【0014】
また複数個のLEDを農業用のネットへ取り付けるには次のような方法も提供し得る。半導体発光素子とこの半導体発光素子に電力を供給するための電線部とを、植物を覆うためのネットに取り付けるのであるが、この際に(3)前記半導体発光素子に電力を供給するための電線部を前記ネットに巻き付けるようにして取り付けるか、または(4)前記電線部を網目状に形成して前記ネットに添わせて一体となるように取り付けるのである。(3)では例えば、LEDに電力を供給するための電線部を農業用のネットに巻き付けるようにして、複数個のLEDをネットに取り付けるのである。農業用のネットはベースとしてLEDと電線部とを支え、電線部などに外からの引っ張り力が加えられるような時の守りともなる。なお電線部を絡めて行く糸の部位に、補強のための張りロープを添設した農業用のネットを用いるようにしても良い。(4)では前記電線部を網目状に形成する際に、例えば農業用のネットの網目と同じサイズの網目にして、両者を網目を合わせるように重ね合わせて要所要所を接着するのである。なお前記電線部に成る網目のサイズは任意であるが、農業用のネットの網目よりも大きくしても良い。何れにせよ農業用のネットはベースとなってLEDと電線部とを支え、電線部に加わる外力から電線を保護することが出来る効果を奏する。
【0015】
一般的に半導体発光素子の発光には指向性がある。例えばLEDの発光には指向性がある。LEDには光制御された光を発する反射型のものもあるが、砲弾型のように前面の樹脂レンズに向けて発光する一般的なLEDではレンズを通らずレンズで制御されない光が存在する。またBINランクの低いものでは樹脂レンズの品質等により散乱光が発生する場合がある。本発明を防虫目的で実施する場合であってこのような光が農業用のネットや農業用のシートの周りの環境に直接的に漏れ出すことを低減させたいとするのであれば、LEDの背後に遮光手段を設けたものとすると良い。上述した本発明の製造方法では前記照光具の背後に遮光手段を設ける工程を含むようにしている。遮光手段は照光具側に設けてもベース側に設けても良い。上述した複数個のLEDをLEDの発光方向に透光性を有する長尺の被覆具に納めたものでは、この被覆具のLEDの背後に相当する部位を不透光に構成すれば、上述した遮光手段を実現することが出来る。なおベースに遮光型のベースを用いるのであれば、遮光型のベースそのものが前記遮光手段に相当すると見做すことが出来る。このような構成はLEDのみならず半導体発光素子に広く適用可能である。
【0016】
ところで露地やハウスに於いて、防虫目的で夜間に照光したいのであるが、この際に「暗い夜」を守るため環境への漏光を防ぐ必要を生ずる場合がある。このような要求に対しては照光器具の外側に、漏光を防ぐための農業用の遮光ネットやポリエチレン製の遮光フィルムなどの遮光手段を設けるようにすると良い。すなわち照光器具の上から遮光手段をただ掛けるようにするだけでも良いし、あるいは遮光手段を照光器具の外側に掛け外し自在に設けるようにしても良い。前者は言わば「べた掛け」であるが、後者に付いては、例えばトンネル支柱を用いて照光器具を張り、トンネル支柱の外側にトンネル状のリードパイプを添設し、このリードパイプに沿って遮光カーテンを手動で閉めたり開けたりすることが出来るように取り付けるのである。あるいはこの遮光カーテンの開閉をモータ駆動の開閉手段を設けることによって自動的に行い得る構成にすると便利である。更に照度計を設けてこの開閉手段の制御を行い得るように構成すれば、日没に合わせて遮光カーテンを閉じたり、日の出に合わせて遮光カーテンを開けたりすると言うような制御が可能になる。また特開2007−92245の遮光シートなども参考になる。また上述した本発明の遮光型のベースを用いたものを、半導体発光素子を取り付けた側が植物に向かうように張って、遮光手段とすることも可能である。
【発明の効果】
【0017】
半導体発光素子部と、この半導体発光素子部に電力を供給するための電線部と、から成る障害動植物の活動抑制を行い得る光を発する照光具を、植物を覆うためのネットまたはシートに取り付けて成る障害動植物の活動抑制のための照光器具は、本発明が初めて提案したものである。これにより露地栽培やハウス栽培に於いて、必要があればいつでも直ぐに、簡易に設置したり撤収したりすることが出来ると言う、本発明ならではの格段の効果を奏する。本発明の産業上の利益には計り知れないものがある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】 実施例1の照光器具とこれを製造している状態を表わす説明図である。
【図2】 この回路を表わす説明図である。
【図3】 使用状態の説明図である。
【図4】 実施例2の照光器具とこれを製造している状態を表わす説明図である。
【図5】 実施例3の照光器具とこれを製造している状態を表わす説明図である。
【図6】 実施例4の照光器具を表わす説明図である。
【図7】 実施例5の照光器具を表わす説明図である。
【図8】 実施例6の照光器具を表わす説明図である。
【図9】 実施例7の照光器具を表わす説明図である。
【図10】 実施例8の照光器具を表わす説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は広く半導体発光素子を用い得るものであるが、以下に説明する実施例ではこの内のLEDを用いた例を取り上げる。
【実施例1】
【0020】
図1で表すように、ポリエステル製の糸を束ねて成る経糸10と緯糸11とから農業用ネット1を形成する。この網目のサイズは20ミリメートル×25ミリメートルである。一方、遮光層20の上に表面実装によって配線を含んだLEDストリングを形成し、この表面を透光層21で覆って成るテープ状LEDランプ2を用意する。LEDストリングは図2で示したように、3個のLED30と1個の抵抗器31とを直列接続したものを1ユニットとして、プラス側の配線32とマイナス側の配線33とに接続したものである。この駆動電源は直流の12ボルトである。LEDストリングの複数ユニットが並列接続されてテープ状LEDランプ2が構成されている。各々のLED30は防虫目的の波長580nmの黄色光を発するものである。LED30から発せられた黄色光は透光層21から照光される。なおテープ状LEDランプ2に関して、遮光層20が不要であれば、代わりにここを透光層21などとしても良い。
【0021】
このテープ状LEDランプ2を、図1で示したように、農業用ネット1の経糸10と緯糸11とから成る網目を矢線の方向に縫うようにして農業用ネット1に取り付けることにより、本実施例の照光器具を得る。符号34,35は電源への接続端子を指している。
【0022】
本実施例の照光器具を使用している状態の説明図が図3であるが、ここでは農業用ネット1を直接的に果樹Tの上からすっぽりと被せている。この際にテープ状LEDランプ2の透光層21の側が果樹Tに向くように、すなわち遮光層20の側が外側を向くようにするのである。このようなべた掛け方式はキッチンガーデンや家庭の室内で行うプランター栽培などでも簡易に且つ容易に利用可能である。なお農業用ネット1に防鳥用ネットを用いれば、本実施例の照光器具は網目で鳥の侵入を阻止する目的にも使用出来る。
【0023】
なお図示しないが、本実施例の照光器具を果樹Tと果樹Tとの間に幕のように吊るして設置する使用法もある。またテープ状LEDランプ2に、透光層21が一側に向くものと他側に向くものとを一つの農業用ネット1に混在させると良い。なおこれも図示しないが頂部に滑車がある支柱を立てて、支柱間に滑車を利用して農業用ネット1を広げるような設置方法もある。なお特にべた掛けの場合には、葉焼けを防ぐためにLED30には光拡散型のものを使用する方がより好ましい。図3で果樹Tは本発明の要件ではない。
【実施例2】
【0024】
図4で表すように、ポリエステル製の糸を束ねて成る経糸13と緯糸14とから農業用ネット12を形成するのであるが、この際に黄色光を発するテープ状LEDランプ2を経糸13の束の間に織り込むようにして本実施例の照光器具を得る。テープ状LEDランプ2は上述した実施例1で使用したものである。
【0025】
テープ状LEDランプ2は経糸13の束の間に在るため、農業用ネット12とは実施例1の照光器具に比してより一体的なものとなっており、植物の葉やパイプの上などを滑らせる際により抵抗が少ない。なおテープ状LEDランプ2を農業用ネット12を編む際に糸の間に編み込むようにして取り付けるのではなく、編み終えた農業用ネットの糸の間に後から挿し通す製造方法に成るものも提供可能である。またテープ状LEDランプを、農業用ネットの網目を縫うように通したり(実施例1)、糸の束の間に織り込んだり(実施例2)するのではなく、農業用ネットに添わせて接着したり結束具などで固定することでも(図示せず)、本発明の照光器具を提供することが出来る。
【0026】
なお本実施例のテープ状LEDランプ2は黄色光を発するものであるが、上述した地方独立行政法人・山口県産業技術センターの研究を活かして本実施例の使用目的を藻類の生育抑制とするのであれば、LEDには発光色が緑白色のものを用いれば良い。
【実施例3】
【0027】
図5によれば、本実施例で使用する黄緑色を発するLEDランプ40には、電線41,42が接続されている。これ等の電線41,42を上述した農業用ネット1の緯糸11に絡めるようにして、LEDランプ40を、その発する黄緑色光が農業用ネット1の一側に向かうような姿勢で取り付けることにより本実施例の照光器具となる。電線41,42は電源に接続される。なおLEDランプ40は1箇所に付き1個を設けているが、1箇所に付き複数個を設ける設計も可能である。なお電線41,42を絡める緯糸11の部分に補強のための張りロープを添設する構成としても良い。
【0028】
また各々のLEDランプ40には、その背面側に、軟質PVC製の薄手で黒色の遮光板43が設けられている。この遮光板43は、図5で表したように、LEDランプ40よりも大きい面積を有している。符号10は農業用ネット1の経糸を指す。
【0029】
なお例えば、LEDランプの電線を何本も平行に並べて、隣り合う電線同士をほぼ等間隔の箇所で接着し、かつ一方の側に隣り合う電線と他方の側に隣り合う電線とでは接着箇所がずれるようにして、電線による網目状体を形成することが出来る。そこでこのような網目状体を有するLEDランプを農業用のネットに添わせて接着したり結束具などで固定することでも(図示せず)、LEDランプと農業用のネットとを一体化した本発明の照光器具を提供することが出来る。農業用のネットはLEDランプとその電線の網目状体とを支えると共に、外力から電線の網目状体を保護することが出来る。なお農業用のネットの代わりに農業用のシートを用いることも可能である(図示せず)。
【実施例4】
【0030】
上述の実施例3ではLEDランプの電線による網目状体を形成することに付いて説明した。図6で図示した本実施例では電線47,48を有するLEDランプ49の電線47,48による網目状体を形成したものに付いて、透明なシリコーン樹脂液に漬けて幾分厚めのシリコーン皮膜を形成させた。
【0031】
電線47,48が網目状体を形成していることによって、電線47,48の周りのシリコーン皮膜も網目状体となっている(シリコーン被覆ネット51:この全体は図示していない)。電線47,48抜きに見るとこのシリコーン被覆ネット51は網を構成しているため、電線47,48の守りとなっており、これによっても本発明を実施することが出来るのである。
【実施例5】
【0032】
図7で示すように、軟質PVCシートから網目50となる部位を切除して農業用ネット5を形成する。網目50と網目50との間の幅は25ミリメートルてある。太陽光を植物に当てるために軟質PVCシートには透明のものを用いている。この網目50と網目50との間に実施例1で用いた幅20ミリメートルのテープ状LEDランプ2をPVC樹脂接着剤にて固定して本実施例の照光器具と為す。この際に軟質PVCシートの外側にテープ状LEDランプ2の透光層21の側を合わせるようにして、すなわち軟質PVCシートの内側(植物に向かう側)からLEDランプ2の透光層21を透して見るようにして両者を接着するのである。なおこの接着に熱溶着を用いても良い。
【0033】
図7から見て取れるように、全体は殆どフラットであり引っ掛かりが少ないから、直接的に植物に被せる場合にも、植物の上に立設したパイプ等による枠体の上に被せる場合にも便利である。なお更に薄くするために、LEDランプ2の透光層21の役目を農業用ネット5そのものに持たせる構成としても良い。なお軟質PVCシートの外側面にではなく内側面にテープ状LEDランプ2を接着した構成とすることも可能である。
【0034】
ところで本実施例の農業用ネット5は、軟質PVCシートから網目50となる部位を切除することにより形成されているが、網目50を作ることなくそのまま使用することで(図示せず)、LEDランプと農業用のシートとを一体化した本発明の照光器具を提供することが出来る。なお農業用のシートとして、既に市販されているものであるが、太陽光スペクトル中の光合成を促す赤色帯の光を植物の光合成に必要とされる長波長域の光エネルギーに変換・増幅するための赤い蛍光染料で着色した、植物の育成を促進するシートを用いることが出来る。
【実施例6】
【0035】
図8で表した本実施例の農業用ネット1は、後述するチューブ状LEDランプ22を着脱自在に取り付けるための着脱手段である、LEDランプ取り付け具6を備えている。このLEDランプ取り付け具6は、パンの袋の口を閉じるためのバッククロージャに似ている。すなわちポリスチレン製の板材に農業用ネット1を通すためのネット通し孔60とチューブ状LEDランプ22を通すためのチューブ通し孔62とを有し、ネット通し孔60には外に通ずる切欠部61が、またチューブ通し孔62には外に通ずる切欠部63が形成されている。
【0036】
一方、本実施例で使用するチューブ状LEDランプ22は、透明なPVCチューブの中で複数個のいわゆる砲弾型の、図示しないフラッシュコントローラにより白色光をフラッシュ発光して鳥獣を驚かすための、LEDランプ44を電線45で接続して成るものである。なおチューブ内でLEDランプ44や電線45を押さえ付けて動かないようにするには、チューブに例えば熱収縮チューブを用いると良い。熱収縮チューブとしてはポリオレフィン製のものが比較的に透明度も高くて良い。
【0037】
農業用ネット1にはLEDランプ取り付け具6がそのネット通し孔60を以って取り付けられている。そこでチューブ通し孔62にチューブ状LEDランプ22を取り付けるのであるが、この際にLEDランプ44の発光方向が図8に表わした矢線の方向を向くようにするのである。なお農業用ネット1ではなく農業用シートを用いるのであれば、ネット通し孔60の代わりに例えばシートを挟むクリップやシートに接着する粘着材を設けるなどすれば良い。
【実施例7】
【0038】
本実施例のLEDランプ46は、図9で図示していない農業用ネットを着脱自在に取り付けるための着脱手段であるネット結束クリップ7を備えている。このネット結束クリップ7はナイロン66製の、Ω形状の両腕の各々の端部に球体70を有する形状のものである。この2つの球体70を以って両腕の部分を捻るようにすると、両腕の部分がクロスしてリングが形成される。この際に2つの球体70が干渉し合って両腕のクロスした状態が自然には解けなくなる。従って農業用ネットを前記リングの中に止めることが出来るのである。
【0039】
このようなネット結束クリップ7とLEDランプ46とを一体にすると共にLEDランプ46の2本の電線47,48を納めるための、取り付け具71がLEDランプ46に固定されている。なお図9に表わした矢線は赤色光をフラッシュ発光して害獣の侵入を忌避させるためのLEDランプ46の発光方向を示す。フラッシュコントローラは本発明の必須要件ではないため、本実施例でもその説明を省略する。なお対象が農業用シートであるならば、ネット結束クリップ7の代わりに、例えばシートを挟むクリップやシートに接着する粘着材を設けるなどすれば良い。
【実施例8】
【0040】
図10は本実施例の使用状態をモデル化して表わした説明図である。露地の両側にパイプの支柱8を立設し、この頂部に滑車80を設け、この滑車80に図示しないロープを掛け渡し、このロープに実施例1の農業用ネット1を張り渡す。この農業用ネット1は太陽光を良く通すものである。図10から見て取れるように、テープ状LEDランプ2は張り渡された農業用ネット1の内側に位置している。また農業用ネット1の天部からは両面にテープ状LEDランプ2を配設した農業用ネット1が垂下されて植物を覆う。
【0041】
この農業用ネット1の全体を覆うようにして2本のパイプのトンネル支柱81を、各々の長手方向が南に向かうようにしてその両端部を土中に挿して立設し、この2本のトンネル支柱81の間に遮光カーテン9を張り渡す。2本のトンネル支柱81は、その両端部の地表近くの部位同士および頂部から西側に寄った部位同士の、各々の3箇所に設けた継手を介して、図示しないパイプで繋がれている。遮光カーテン9の両側の端部には耳糸の輪90が設けられており、この各々の耳糸の輪90を各々の側のガイドとしてのトンネル支柱81に通して、遮光カーテン9を南北方向に開閉自在とする。なお耳糸の輪90には図示しない引きロープが南側に掛け渡されており、これを以って遮光カーテン9を閉めるのである。このようにして本実施例の遮光カーテン9で覆われた農業用ネット1を得る。なおトンネル支柱81の内側には遮光カーテン91を張った別のトンネル支柱が添設されている。この内の西側に位置する遮光カーテン91の一部を図10で網線で表わした。
【0042】
支柱8もトンネル支柱81も設営や撤収が容易である。日没後に農業用ネット1のテープ状LEDランプ2を点灯する時には、この全体を遮光カーテン9で覆って外部にLEDの光が漏れないようにする。この場合には遮光カーテン9はLEDの光が漏洩するのを阻止する遮光手段である。あるいは日中にあっても利用し得る。なお遮光カーテン9の開閉を、モータ駆動の開閉手段を設けることによって自動的に行い得る構成としたり、さらに照度計やタイマを設けてこの開閉手段の制御を照度や時間に従って行い得る構成としたりすることによって、省力化を実現することが出来る。なお遮光カーテン9はネット状のものであるが、フィルム(シート)状のものを用いることも可能である。
【その他の実施例】
【0043】
本発明は上述した実施例に限定されず、その思想の範囲内に於いて種々のバリエーションを与えることが出来る。例えば実施例5の軟質PVCシートから網目50となる部位を切除して成る農業用ネット5に、上述した表面実装によって配線を含んだLEDマトリクスを設けたものを提供することが出来る。また例えば実施例5の農業用ネットを透明なシリコンゴムを素材として形成し、このネットに開孔してこの開孔部にLEDランプを挿着し、そのリード線をこのネットの裏面に設けたフラットコードに接続して成るものが提供可能である。なお上述した実施例のLEDの代わりに例えばエレクトロルミネッセンスやレーザーダイオードを用いることが出来る。例えばテープ状LEDランプ2の代わりに、特開2000−075829号のELチューブが用いられる可能性がある。なお植物育成のための既に研究されている赤色や青色を発するLEDを併設するなどしても良い。これ等の工夫もまた栽培植物を育成するための一助となる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は池用ネットなどのように水面上で、あるいは生簀や海洋などの水中で用いることが出来る。水中や水中の動植物に、半導体発光素子から発する光を当てるためである。また特定微生物の繁殖を抑えて水質浄化を行うために用いられる可能性がある。本発明はこのように広範な用途を有して大きな産業上の利益をもたらすものとなっている。
【符号の説明】
【0045】
1:農業用ネット 10:経糸 11:緯糸 12:農業用ネット 13:経糸
14:緯糸 2:テープ状LEDランプ 20:遮光層 21:透光層
22:チューブ状LEDランプ 3:ユニット 30:LED 31:抵抗器
32:配線 33:配線 34:接続端子 35:接続端子 40:LEDランプ
41:電線 42:電線 43:遮光板 44:LEDランプ 45:電線
46:LEDランプ 47:電線 48:電線 49:LEDランプ
5:農業用ネット 50:網目 51:シリコーン被覆ネット
6:LEDランプ取り付け具 60:ネット通し孔 61:切欠部
62:チューブ通し孔 63:切欠部 7:ネット結束クリップ 70:球体
71:取り付け具 8:支柱 80:滑車 81:トンネル支柱
9:遮光カーテン 90:耳糸の輪 91:遮光カーテン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子部と、この半導体発光素子部に電力を供給するための電線部と、から成る障害動植物の活動抑制を行い得る光を発する照光具を、植物を覆うためのネットまたはシートに取り付けて成る、障害動植物の活動抑制のための照光器具。
【請求項2】
前記照光具が害虫を防除するための黄色光〜黄緑色光の範囲内の何れかの光を発するものである、請求項1に記載の障害動植物の活動抑制のための照光器具。
【請求項3】
前記照光具から発せられる光が前記ネットまたは前記シートの周りの環境に直接的には漏れ出すことがないようにするために、前記照光具の斜め後方に向かう光を遮るための遮光手段を備えている、請求項2に記載の障害動植物の活動抑制のための照光器具。
【請求項4】
前記照光具が鳥獣を防除するためのフラッシュ発光を行うものである、請求項1に記載の障害動植物の活動抑制のための照光器具。
【請求項5】
前記ネットまたは前記シートの側に、前記照光具を着脱自在に取り付けるための着脱手段を備えている、請求項1〜請求項4の何れか一に記載の障害動植物の活動抑制のための照光器具。
【請求項6】
半導体発光素子部と、この半導体発光素子部に電力を供給するための電線部と、から成る障害動植物の活動抑制を行い得る光を発する照光具、および植物を覆うためのネットまたはシート、を備えると共に、前記照光具の側に、前記照光具を前記ネットまたは前記シートに着脱自在に取り付けるための着脱手段を備えている、障害動植物の活動抑制のための照光器具。
【請求項7】
前記照光具から発せられる光が前記ネットまたは前記シートの周りの環境に直接的には漏れ出すことがないようにするために、前記照光具の斜め後方に向かう光を遮るための遮光手段を備えている、請求項6に記載の障害動植物の活動抑制のための照光器具。
【請求項8】
半導体発光素子部とこの半導体発光素子部に電力を供給するための電線部とを、前記半導体発光素子部によって照光したい方向に透光性を有する長尺の被覆具に納めて障害動植物の活動抑制を行い得る光を発する照光具と成し、前記照光具を植物を覆うためのネットまたはシートに取り付ける、障害動植物の活動抑制のための照光器具の製造方法。
【請求項9】
前記照光具を、前記ネットの網目を縫うように通して前記ネットに取り付けるか、または前記ネットを編む際に糸の間に編み込むようにして前記ネットに取り付ける、請求項8に記載の障害動植物の活動抑制のための照光器具の製造方法。
【請求項10】
半導体発光素子部とこの半導体発光素子部に電力を供給するための電線部と、から成る障害動植物の活動抑制を行い得る光を発する照光具を、植物を覆うためのネットに取り付けるのであるが、この際に前記電線部を前記ネットに巻き付けるようにして取り付けるか、または前記電線部を網目状に形成して前記ネットに添わせて一体となるように取り付ける、障害動植物の活動抑制のための照光器具の製造方法。
【請求項11】
前記半導体発光素子部の背後に遮光手段を設ける工程を含む、請求項8または請求項9または請求項10に記載の障害動植物の活動抑制のための照光器具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−170456(P2012−170456A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50773(P2011−50773)
【出願日】平成23年2月19日(2011.2.19)
【出願人】(390010283)
【Fターム(参考)】