説明

障害物認識装置

【課題】車両の進行方向の速度変化と共に車両の進行方向と垂直な左右方向の速度変化も判断することで、障害物検出率の向上を図った障害物認識装置を提供する。
【解決手段】レーダを介して検出した物標について、物標の情報と車両の走行情報とに基づき、車両の進行方向に関する絶対速度及び車両の左右方向に関する絶対速度の両方を判断する。両方の絶対速度が所定の基準値以下であると判断された場合、すなわち物標が路面を移動していないと判断された場合に限り、レーダ検出によって得られる情報とカメラ等によって撮像される画像情報とをフュージョンした情報を用いて物標の立体物判断を行う。いずれかの絶対速度が所定の基準値を超える場合には、レーダ検出によって得られる情報のみによって物標の立体物判断を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害物認識装置に関し、より特定的には、車両に搭載され、車両の周囲にある障害物を認識する障害物認識装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物標との衝突回避や自動走行等の車両運転支援を実現するために、車両の走行に障害となる物標(障害物)を認識する装置が開発されている。この障害物認識装置では、車両の周囲に存在する様々な物標の情報を正確に取得して、物標が障害物か否かを判断する。近年では、障害物と障害物ではない物標(非障害物)とを分離及び識別する性能をさらに向上させるため、レーダセンサ等によって得られた速度、距離、及び方向等の物標情報と、画像センサ等によって撮影された画像情報とを用いて、物標が障害物となり得るか否かの判断、具体的には物標が立体物であるか否かの判断(以下、立体物判断と記す)を行っている。例えば、特許文献1及び特許文献2を参照。
【0003】
このレーダセンサ等によって得られた物標情報と画像センサ等によって撮影された画像情報とを用いて物標の立体物判断を行う従来の技術では、物標情報のうち車両の進行方向に関する速度変化を判断して、物標が静止物か移動物かをまず判断する。そして、従来の技術では、物標が移動物であると判断されれば物標情報のみで立体物判断が行われ、物標が静止物であると判断されれば物標情報と画像情報とを統合的に処理(以下、フュージョン処理と称する)した情報で立体物判断が行われる。
【0004】
このように、従来の技術では、静止物である物標に対して物標情報と画像情報とをフュージョンした情報で立体物判断を行うことで、障害物と非障害物とを分離及び識別する性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−345251号公報
【特許文献2】特開2007−132748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、物標が静止物か移動物かの判断を、レーダセンサ等によって得られる物標情報のうち車両の進行方向に関する速度変化だけに基づいて行っている。このため、車両の進行方向に速度変化がない物標であれば、車両の進行方向と垂直な左右方向にも速度変化がない物標、例えば路面に設けられた金属段差(例えば、工事道路に敷かれた鉄板)等だけでなく、この車両の左右方向には速度変化がある物標、例えば道路を直角に横断する歩行者も、移動物ではなく静止物として誤って判断されてしまうおそれがある。
【0007】
この移動物である歩行者は、本来なら物標情報のみで立体物判断が行われることが、検出率向上のためにも望ましい。しかしながら、上記従来の技術では、誤って静止物として判断された歩行者は、物標情報と画像情報とをフュージョンした情報で立体物判断が行われる。このため、歩行者が、レーダセンサ等で立体物と判断されているにもかかわらず、画像センサ等によって立体物ではないと判断されてしまうことによって、障害物として除外されてしまう場合が十分に考えられ、結果的には障害物の検出率低下を招いている。
【0008】
それ故に、本発明の目的は、レーダによって得られた物標情報と車両の走行情報とに基づいて物標が路面を移動しているか否かを判断することで、障害物検出率の向上を図った障害物認識装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車両周囲の障害物を認識する障害物認識装置に向けられている。そして、上記目的を達成するために、本発明の障害物認識装置は、レーダを介して車両周囲に存在する物標を検出し、物標の情報を取得するレーダ検出手段と、物標を含んだ車両周囲の画像を撮影する撮像手段と、物標の情報と車両の走行情報とに基づいて、物標が路面を移動しているか否かを判断する判断手段と、物標が路面を移動していないと判断された場合は、レーダ検出手段で得られる情報と撮像手段で得られる画像とに基づいて物標の障害物判断を行い、物標が路面を移動していると判断された場合は、レーダ検出手段で得られる情報だけに基づいて物標の障害物判断を行う立体物判断手段とを備えている。
かかる構成により、物標が路面を移動していない物標に限って、レーダ検出で得られる情報と撮像手段で得られる画像とをフュージョンした情報で物標の障害物判断を行うことができる。
【0010】
判断手段が行う第1の判断手法として、車両の進行方向に関する物標の絶対速度と進行方向に対して垂直となる車両の左右方向に関する物標の絶対速度との両方に基づいて、又はこの2つの方向に関する物標の絶対速度を合成した絶対速度に基づいて、物標が路面を移動しているか否かを判断する手法が考えられる。この第1の判断手法では、判断手段が、車両の進行方向に関する物標の絶対速度及び車両の左右方向に関する物標の絶対速度が共に所定の基準値以下であれば、又はこの2つの方向に関する物標の絶対速度を合成した絶対速度が所定の基準値以下であれば、物標が路面を移動していないと判断することが好ましい。
この第1の判断手法により、例えば道路を直角に横断する歩行者を移動する物標として正しく判断することができるため、従来のように移動物に対して不必要なフュージョン処理が適用される場面を回避できる。
【0011】
ここで、判断手段が、車両の走行情報に基づいて車両が直線走行をしているか否かをさらに判断し、立体物判断手段が、判断手段において車両が直線走行をしていないと判断されれば、レーダ検出手段で得られる情報だけに基づいて物標の障害物判断を行うようにしてもよい。
このようにすれば、物標が移動物か静止物かを正確に判断し易い車両が直線走行をしている場合にだけ上述した判断処理を行えるので、障害物の検出率を向上させることができる。
【0012】
また、判断手段が行う第2の判断手法として、車両の進行方向に関する物標の相対位置と進行方向に対して垂直となる車両の左右方向に関する物標の相対位置との両方に基づいて、物標が路面を移動しているか否かを判断する手法が考えられる。この第2の判断手法では、判断手段が、車両の進行方向に関する物標の相対位置の単位時間当たりの移動量及び車両の左右方向に関する物標の相対位置の単位時間当たりの移動量が共に所定の基準値以下であれば、物標が路面を移動していないと判断することが好ましい。
この第2の判断手法により、例えば道路を直角に横断する歩行者を移動する物標として正しく判断することができるため、従来のように移動物に対して不必要なフュージョン処理が適用される場面を回避できる。
【0013】
ここで、判断手段が、車両の走行状態に応じた物標の移動量を推定し、推定した移動量を用いて車両の進行方向及び車両の左右方向に関する物標の相対位置をそれぞれ補正してもよい。
このようにすれば、上記第1の判断手法では、処理対象から除外していた車両が直線走行をしていない場合でも、物標が移動物か静止物かを正確に判断することができるので、障害物の検出率をさらに向上させることができる。
【0014】
また、上記目的を達成するために、上述した本発明の障害物認識装置の各構成が行うそれぞれの処理は、一連の処理手順を与える障害物認識方法として捉えることができる。この障害物認識方法は、一連の処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムの形式で提供される。このプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体を介してコンピュータの記憶装置(ROM、RAM、ハードディスク等)に導入されてもよいし、記録媒体上から直接実行されてもよい。この記録媒体は、ROMやRAMやフラッシュメモリ等の半導体メモリ、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクメモリ、CD−ROMやDVDやBD等の光ディスクメモリ、及びメモリカード等をいい、電話回線や搬送路等の通信媒体も含まれる。
【発明の効果】
【0015】
上述した本発明の障害物認識装置によれば、車両の進行方向に関する物標の速度変化と共に車両の進行方向と垂直な左右方向に関する物標の速度変化も判断するので、移動物に対して不必要なフュージョン処理が適用される場面を回避でき、障害物の検出率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1及び第2の実施形態に係る障害物認識装置の概略構成を示す図
【図2】第1の実施形態に係る障害物認識装置が実行する処理の手順を説明するフローチャート
【図3】車両進行方向及び車両左右方向に関する物標の絶対速度と立体物判断に用いられる情報との関係を示す図
【図4】第2の実施形態に係る障害物認識装置が実行する処理の手順を説明するフローチャート
【図5】車両進行方向及び車両左右方向に関する物標の相対位置差分と立体物判断に用いられる情報との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る障害物認識装置の概略構成を示す図である。図1において、第1の実施形態に係る障害物認識装置は、車両情報取得部10と、レーダ検出部20と、撮像部30と、車両・物標状態判断部40と、立体物判断部50とを備えている。
【0018】
まず、第1の実施形態に係る障害物認識装置の各構成を簡単に説明する。
車両情報取得部10は、車速センサ、ステアリングセンサ、及びジャイロセンサ等を含み、障害物認識装置が搭載されている車両(以下、単に車両と記す)の走行速度Vh、操舵角、ヨー角、及びヨーレート等の車両の走行状態に関する情報(以下、車両走行情報と記す)を取得する。この車両走行情報は、車両・物標状態判断部40に出力される。
【0019】
レーダ検出部20は、レーザレーダ、マイクロ波レーダ、ミリ波レーダ、又は超音波レーダ等を含み、車両の周囲に向けて発信した電磁波等のレーダ波が車両の周囲に存在する物標に当たって戻ってくる反射波を受信することによって、物標を検出する。そして、レーダ検出部20は、車両から検出された物標までの相対距離、車両と検出された物標との相対速度、及び検出された物標が存在する方向等の情報(以下、レーダ物標情報と記す)を取得する。このレーダ物標情報は、車両・物標状態判断部40及び立体物判断部50に出力される。
【0020】
撮像部30は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor) 又はCCD(Charge Coupled Device) 等の画像センサを備えたカメラを含み、カメラで撮像された車両前方の画像の情報(以下、画像物標情報と記す)を取得する。この画像物標情報は、立体物判断部50に出力される。
【0021】
車両・物標状態判断部40は、車両情報取得部10から与えられる車両走行情報に基づいて、車両が直線走行中であるか否かを判断する。また、車両・物標状態判断部40は、レーダ検出部20から与えられるレーダ物標情報及び車両走行情報に基づいて、レーダ検出部20によって検出された物標が路面を移動しているか否か、すなわち物標が静止物か移動物かを判断する。この判断は、車両の進行方向(以下、車両進行方向と記す)に関する速度変化及び車両の進行方向と垂直な方向(以下、車両左右方向と記す)に関する速度変化の両方に基づいて行われる。この物標が静止物か移動物かの判断結果は、立体物判断部50に出力される。
【0022】
立体物判断部50は、車両・物標状態判断部40から与えられる車両状態の判断結果及び物標状態の判断結果に基づいて、最適な情報を用いた物標の立体物判断を行う。具体的には、立体物判断部50は、車両が直線走行中である場合に、物標が移動物であると判断されればレーダ物標情報のみを用いて物標の立体物判断を行い、物標が静止物であると判断されればレーダ物標情報と画像物標情報とをフュージョンした情報で立体物判断を行う。この物標の立体物判断に関する結果は、障害物衝突回避装置や自動走行制御装置等(図示せず)に出力されて有効に利用される。
【0023】
次に、上記構成による第1の実施形態に係る障害物認識装置で行われる特定の物標を障害物として認識する手法を、図2及び図3をさらに参照して詳細に説明する。
図2は、第1の実施形態に係る障害物認識装置が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。図3は、車両進行方向及び車両左右方向に関する物標の絶対速度と立体物判断に用いられる情報との関係を示す図である。
【0024】
図2に示すフロー処理は、レーダ検出部20が車両前方に存在する物標を検出することで開始される。
レーダ検出部20は、車両前方に存在する物標を検出すると、検出された物標のレーダ物標情報(相対距離、相対速度、及び方向等)を所定の時間ΔTの間隔で逐次取得する(ステップS101)。次に、レーダ検出部20が、このレーダ物標情報に基づいて、車両に対する物標の相対位置(X,Y)を演算する(ステップS102)。一方、車両情報取得部10は、レーダ検出部20が物標を検出した時点における車両走行情報(車両の走行速度Vh、操舵角、ヨー角、及びヨーレート等)を取得する(ステップS103)。
【0025】
車両・物標状態判断部40は、車両情報取得部10が取得した車両走行情報から車両が直線走行をしている状態であるか否かを判断する(ステップS104)。この判断は、例えば、操舵角やヨーレートがゼロ又はゼロ近傍であるか否かによって行われる。
【0026】
次に、車両・物標状態判断部40は、ステップS104において車両が直線走行をしていると判断した場合(ステップS105:Yes)、レーダ検出部20で演算された物標の相対位置の変化から、車両に対する物標の車両左右方向に関する相対速度Vrx及び車両進行方向に関する相対速度Vryを演算する(ステップS106)。すなわち、次式[1]及び[2]に示すように、現時点における物標の相対位置(X,Y)と現時点から時間ΔT前の物標の相対位置(X-1,Y-1)との差分から、物標の車両左右方向に関する相対速度Vrx及び車両進行方向に関する相対速度Vryをそれぞれ演算する。
Vrx=(X−X-1)/ΔT … [1]
Vry=(Y−Y-1)/ΔT … [2]
【0027】
なお、上述した現時点における相対位置(X,Y)と時間ΔT前の相対位置(X-1,Y-1)との差分だけで相対速度を求めた場合は、得られる相対速度のばらつきが大きくなる。そこで、相対速度のばらつきを小さく抑えるために、複数求めた差分を平均化処理やフィルタリング処理して相対速度を求めてもよい。
【0028】
一方、車両・物標状態判断部40は、ステップS104において車両が直線走行をしていないと判断した場合(ステップS105:No)、レーダ物標情報のみを用いて物標の立体物判断を行うように立体物判断部50へ指示する(ステップS112)。このような処理を行う理由は、車両が直線走行をしていない場合には物標が移動物か静止物かを正確に判断できないためである。
【0029】
次に、物標の相対速度Vrx及びVryが求まると、車両・物標状態判断部40は、車両走行情報及びこの相対速度Vrx及びVryから、車両の走行速度Vhを考慮した物標の車両左右方向に関する絶対速度Vx及び車両進行方向に関する絶対速度Vyを演算する(ステップS107)。この絶対速度Vx及びVyは、次式[3]及び[4]で求められる。
Vx=Vrx … [3]
Vy=Vh+Vry … [4]
【0030】
そして、車両・物標状態判断部40は、物標の絶対速度Vx及びVyに基づいて、物標が静止物であるか移動物であるかを判断する(ステップS108)。この判断は、次式[5]で示すように、車両左右方向に関する絶対速度Vxが予め定めた基準値ΔVxよりも小さく、かつ、車両進行方向に関する絶対速度Vyが予め定めた基準値ΔVyよりも小さいか否かで行われ、この条件を満足する場合に物標が静止物であると判断する。つまり、路面に固定等されて動かない物標は、車両左右方向にも車両進行方向にも動いていな物標であるという認識に従って、物標の状態判断を行っている。
|Vx|<ΔVx かつ |Vy|<ΔVy … [5]
【0031】
車両・物標状態判断部40は、ステップS108において物標が静止物であると判断した場合(ステップS109:Yes)、レーダ物標情報と画像物標情報とをフュージョンした情報を用いて物標の立体物判断を行うように、立体物判断部50へ指示する。
一方、車両・物標状態判断部40は、ステップS108において物標が静止物でないと判断した場合(ステップS109:No)、レーダ物標情報のみを用いて物標の立体物判断を行うように、立体物判断部50へ指示する。
【0032】
図3は、第1の実施形態に係る車両・物標状態判断部40が立体物判断部50へ指示する内容を、物標の絶対速度に応じて示した図である。この図3で理解できるように、本発明では、絶対速度に基づいて車両左右方向にも車両進行方向にも動いていない静止物であると判断した物標に限り、レーダ物標情報と画像物標情報とをフュージョンした情報で立体物判断を行うように制御している。
【0033】
立体物判断部50は、車両・物標状態判断部40からレーダ物標情報と画像物標情報とをフュージョンする指示を受けて、レーダ検出部20で検出した物標の位置を中心とした所定の範囲で撮像部30が撮像した画像物標情報を処理する(ステップS110)。そして、立体物判断部50は、レーダ物標情報と処理後の画像物標情報とをフュージョンし、フュージョンした情報を用いて物標の立体物判断を行う(ステップS111)。
一方、立体物判断部50は、車両・物標状態判断部40からレーダ物標情報のみを用いるという指示を受けると、レーダ物標情報だけの情報を用いて物標の立体物判断を行う(ステップS112)。
【0034】
上述したステップS101〜S112を経て行われた立体物判断の結果、つまり障害物認定の結果は、障害物との衝突判断や前方を走行する車両との車間距離の判断等、車両の様々な制御に役立てられる(ステップS113)。
【0035】
以上のように、本発明の第1の実施形態に係る障害物認識装置によれば、車両左右方向にも車両進行方向にも動いていない物標にだけ、レーダ物標情報と画像物標情報とをフュージョンした情報で立体物判断を行う。これにより、車両左右方向には速度変化がある物標、例えば道路を直角に横断する歩行者を移動する物標として正しく判断することができる。従って、移動する物標に対して不必要なフュージョン処理が適用される場面を回避できるので、装置として障害物の検出率を向上させることができる。
【0036】
なお、上記ステップS108では、物標が静止物であるか否かを、車両左右方向に関する絶対速度Vx及び車両進行方向に関する絶対速度Vyがそれぞれ予め定めた基準値ΔVx及びΔVyよりも小さいか否か、で判断する一例を示した。しかし、この例以外にも、車両左右方向に関する絶対速度Vxと車両進行方向に関する絶対速度Vyとを合成した絶対速度を求め、この合成した絶対速度が予め定めた基準値よりも小さいか否かで、物標が静止物であるか否かを判断してもよい。
【0037】
<第2の実施形態>
上述の第1の実施形態では、路面に固定等されていて静止している物標をレーダで検出したときであっても、車両が直線走行をしていない場合には、レーダ物標情報のみを用いた立体物判断しか行われない。
そこで、本第2の実施形態では、車両が直線走行をしているか否かにかかわらず、物標の車両左右方向に関する速度変化及び車両進行方向に関する速度変化を判断して、物標の最適な立体物判断を行う手法を説明する。
【0038】
本発明の第2の実施形態に係る障害物認識装置の構成は、図1に示した第1の実施形態に係る障害物認識装置の構成と同じである。第2の実施形態に係る障害物認識装置では、車両・物標状態判断部40で実行される処理が異なる。
以下、この車両・物標状態判断部40で実行される処理を中心に、第2の実施形態に係る障害物認識装置を説明する。
【0039】
上述したように、車両情報取得部10は、車両走行情報を取得する。また、レーダ検出部20は、レーダで物標を検出して、検出した物標のレーダ物標情報を取得する。また、撮像部30は、車両前方の画像物標情報を取得する。
【0040】
車両・物標状態判断部40は、レーダ検出部20から与えられるレーダ物標情報及び車両情報取得部10から与えられる車両走行情報に基づいて、レーダ検出部20によって検出された物標が路面を移動しているか否か、すなわち物標が静止物か移動物かを判断する。この判断は、レーダ検出部20によって検出された物標が路面に静止している物標であると仮定し、物標が存在するであろうと推測された現時点における物標の位置と実測による現時点における物標の位置との差分に基づいて行われる。この物標が静止物か移動物かの判断結果は、立体物判断部50に出力される。
【0041】
次に、上記構成による第2の実施形態に係る障害物認識装置で行われる特定の物標を障害物として認識する手法を、図4及び図5をさらに参照して詳細に説明する。
図4は、第2の実施形態に係る障害物認識装置が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。なお、図4において、図2で説明したステップと同じ処理を行うステップについては、同一のステップ番号を付している。図5は、車両進行方向及び車両左右方向に関する物標の相対位置差分と立体物判断に用いられる情報との関係を示す図である。
【0042】
図4に示すフロー処理は、レーダ検出部20が車両前方に存在する物標を検出することで開始される。
レーダ検出部20は、車両前方に存在する物標を検出すると、検出された物標のレーダ物標情報を所定の時間ΔTの間隔で逐次取得する(ステップS101)。次に、レーダ検出部20が、このレーダ物標情報に基づいて、車両から見た物標の相対位置(X,Y)を演算する(ステップS102)。一方、車両情報取得部10は、レーダ検出部20が物標を検出した時点における車両走行情報を取得する(ステップS103)。
【0043】
車両・物標状態判断部40は、現時点から時間ΔT前にレーダ検出部20で演算された物標の相対位置(X-1,Y-1)と、車両情報取得部10から得られる時間ΔT前から現時点までの車両走行情報とに基づいて、物標が静止物であると仮定した場合に物標が現時点で存在しているであろう物標の相対位置(Xr,Yr)を推定する(ステップS204)。この推定は、例えば次の方法で行われる。
【0044】
1.車両の走行速度Vhとヨーレートとから、車両が走行するカーブの半径Rを算出する。
2.上記算出されたカーブの半径Rと車両の走行速度Vhとに基づいて、時間ΔT前の物標の位置から現時点における物標の位置までの相対的な位置変化量(車両の移動量に比例)を算出し、算出した相対的な位置変化量に従って時間ΔT前の相対位置(X-1,Y-1)を補正する。
3.時間ΔT前から現時点までに変化した車両のヨー角に基づいて、上記補正された時間ΔT前の相対位置(X-1,Y-1)をさらに回転方向に補正し、推定される現時点での物標の相対位置(Xr,Yr)を求める。
【0045】
そして、車両・物標状態判断部40は、現時点に関して、推定された物標の相対位置(Xr,Yr)と、レーダ検出部20で取得された実際の物標の相対位置(X,Y)とに基づいて、物標が静止物であるか移動物であるかを判断する(ステップS205)。この判断は、次式[6]で示すように、車両左右方向に関する相対位置の差分(時間ΔT当たりの移動量)が予め定めた基準値ΔXよりも小さく、かつ、車両進行方向に関する相対位置の差分(同上)が予め定めた基準値ΔYよりも小さいか否かで行われ、この条件を満足する場合に物標が静止物であると判断する。つまり、レーダ検出された物標が静止物ならば、推定された物標の相対位置(Xr,Yr)と実際の物標の相対位置(X,Y)とが一致するという認識に従って、物標の状態判断を行っている。
|X−Xr|<ΔX かつ |Y−Yr|<ΔY … [6]
【0046】
車両・物標状態判断部40は、ステップS205において物標が静止物であると判断した場合(ステップS206:Yes)、レーダ物標情報と画像物標情報とをフュージョンした情報を用いて物標の立体物判断を行うように、立体物判断部50へ指示する。
一方、車両・物標状態判断部40は、ステップS205において物標が静止物でないと判断した場合(ステップS206:No)、レーダ物標情報のみを用いて物標の立体物判断を行うように、立体物判断部50へ指示する。
【0047】
図5は、第2の実施形態に係る車両・物標状態判断部40が立体物判断部50へ指示する内容を、物標の相対位置差分に応じて示した図である。この図5で理解できるように、本発明では、相対位置差分に基づいて車両左右方向にも車両進行方向にも動いていない静止物であると判断した物標に限り、レーダ物標情報と画像物標情報とをフュージョンした情報で立体物判断を行うように制御している。
【0048】
立体物判断部50は、車両・物標状態判断部40からレーダ物標情報と画像物標情報とをフュージョンする指示を受けて、レーダ検出部20で検出した物標の位置を中心とした所定の範囲で撮像部30が撮像した画像物標情報を処理する(ステップS110)。そして、立体物判断部50は、レーダ物標情報と処理後の画像物標情報とをフュージョンし、フュージョンした情報を用いて物標の立体物判断を行う(ステップS111)。
一方、立体物判断部50は、車両・物標状態判断部40からレーダ物標情報のみを用いるという指示を受けると、レーダ物標情報だけの情報を用いて物標の立体物判断を行う(ステップS112)。
【0049】
上述したステップS101〜S103、S204〜S206、S110〜S112を経て行われた立体物判断の結果、つまり障害物認定の結果は、障害物との衝突判断や前方を走行する車両との車間距離の判断等、車両の様々な制御に役立てられる(ステップS113)。
【0050】
以上のように、本発明の第2の実施形態に係る障害物認識装置によれば、車両が直線走行をしているか否かにかかわらず、常に車両左右方向にも車両進行方向にも動いていない物標にだけ、レーダ物標情報と画像物標情報とをフュージョンした情報で立体物判断を行う。これにより、車両が回転している途中で車両左右方向に速度変化がある物標を検出したとしても、この物標を移動物として正確に判断することができる。従って、上記第1の実施形態と比べて、装置として障害物の検出率をさらに向上させることが可能となる。
【0051】
なお、上述した第1及び第2の実施形態では、レーダ検出部20が車両進行方向(前方)に向けてレーダ波を発信する位置に設けられ、撮像部30が車両進行方向の画像を撮影する位置に設けられる場合を説明している。しかしながら、レーダ検出部20及び撮像部30は、レーダ波発信方向と画像撮影方向との指向性を合わせれば、車両の後方や側方の位置等に設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の障害物認識装置は、障害物を認識して衝突回避や自動走行等の車両運転支援を実行する車両等に利用可能であり、特に障害物の検出率を向上させたい場合等に有用である。
【符号の説明】
【0053】
10 車両情報取得部
20 レーダ検出部
30 撮像部
40 車両・物標状態判断部
50 立体物判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両周囲の障害物を認識する障害物認識装置であって、
レーダを介して車両周囲に存在する物標を検出し、当該物標の情報を取得するレーダ検出手段と、
前記物標を含んだ車両周囲の画像を撮影する撮像手段と、
前記物標の情報と車両の走行情報とに基づいて、前記物標が路面を移動しているか否かを判断する判断手段と、
前記物標が路面を移動していないと判断された場合は、前記レーダ検出手段で得られる情報と前記撮像手段で得られる画像とに基づいて前記物標の障害物判断を行い、前記物標が路面を移動していると判断された場合は、前記レーダ検出手段で得られる情報だけに基づいて前記物標の障害物判断を行う立体物判断手段とを備える、障害物認識装置。
【請求項2】
前記判断手段は、車両の進行方向に関する前記物標の絶対速度と当該進行方向に対して垂直となる車両の左右方向に関する前記物標の絶対速度との両方に基づいて、又は当該2つの方向に関する前記物標の絶対速度を合成した絶対速度に基づいて、前記物標が路面を移動しているか否かを判断することを特徴とする、請求項1に記載の障害物認識装置。
【請求項3】
前記判断手段は、車両の進行方向に関する前記物標の絶対速度及び車両の左右方向に関する前記物標の絶対速度が共に所定の基準値以下であれば、又は当該2つの方向に関する前記物標の絶対速度を合成した絶対速度が所定の基準値以下であれば、前記物標が路面を移動していないと判断することを特徴とする、請求項2に記載の障害物認識装置。
【請求項4】
前記判断手段は、前記車両の走行情報に基づいて車両が直線走行をしているか否かをさらに判断し、
前記立体物判断手段は、前記判断手段において車両が直線走行をしていないと判断されれば、前記レーダ検出手段で得られる情報だけに基づいて前記物標の障害物判断を行うことを特徴とする、請求項1に記載の障害物認識装置。
【請求項5】
前記判断手段は、車両の進行方向に関する前記物標の相対位置と当該進行方向に対して垂直となる車両の左右方向に関する前記物標の相対位置との両方に基づいて、前記物標が路面を移動しているか否かを判断することを特徴とする、請求項1に記載の障害物認識装置。
【請求項6】
前記判断手段は、車両の進行方向に関する前記物標の相対位置の単位時間当たりの移動量及び車両の左右方向に関する前記物標の相対位置の単位時間当たりの移動量が共に所定の基準値以下であれば、前記物標が路面を移動していないと判断することを特徴とする、請求項5に記載の障害物認識装置。
【請求項7】
前記判断手段は、車両の走行状態に応じた前記物標の移動量を推定し、当該推定した移動量を用いて車両の進行方向及び車両の左右方向に関する前記物標の相対位置をそれぞれ補正することを特徴とする、請求項5に記載の障害物認識装置。
【請求項8】
車両周囲の障害物を認識する障害物認識方法であって、
レーダを介して車両周囲に存在する物標を検出し、当該物標の情報を取得するステップと、
前記物標を含んだ車両周囲の画像を撮影するステップと、
前記物標の情報と車両の走行情報とに基づいて、前記物標が路面を移動しているか否かを判断するステップと、
前記物標が路面を移動していないと判断された場合は、前記レーダ検出手段で得られる情報と前記撮像手段で得られる画像とに基づいて前記物標の障害物判断を行い、前記物標が路面を移動していると判断された場合は、前記レーダ検出手段で得られる情報だけに基づいて前記物標の障害物判断を行うステップとを備える、障害物認識方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−103858(P2012−103858A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251072(P2010−251072)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】