説明

隠しスライドファスナー

【課題】蝶棒の箱体への挿入操作性を向上させると共に、挿入後にテープ面に直交する向きの力が加わっても蝶棒が容易に箱体から外れず、ファスナーテープを横断する方向の引張力にも蝶棒が箱体内で転動することのない開離嵌挿具付隠しスライドファスナーを提供。
【解決手段】左右のファスナーテープTに成形された箱体と箱体に固着された箱棒2及び前記箱体に挿入可能な蝶棒3を有する開離嵌挿具付隠しスライドファスナーで、前記箱体は、前記蝶棒の箱体挿脱部32aを挿脱する蝶棒挿脱空間部7と、前記蝶棒の係脱部32bを係脱する被係脱部9とを備え、前記箱体の前記蝶棒挿脱空間部と前記被係脱部とが隔壁8を介して離隔され、前記隔壁は、その箱棒側の端部に、前記蝶棒の前記側壁部を全長にわたって案内する切欠き部8aを有する。前記蝶棒の前記箱体挿脱部と前記係脱部とのテープ折曲端縁側が少なくとも前記係脱部の全長にわたり側壁部により連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対のファスナーテープの対向側側縁を長さ方向に沿ってU字状に折り曲げ、その折り曲げ側端に沿って多数のファスナーエレメントを取り付けたファスナーストリンガーを有する隠しスライドファスナーに関し、特に前記一対のファスナーストリンガーの各長さ方向一端部に成形一体化された熱可塑性合成樹脂材料からなる箱棒と、蝶棒と、前記箱棒と一体化され蝶棒が挿脱可能な箱体とを有する開離嵌挿具の構造に特徴を備えた隠しスライドファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
通常のスライドファスナーは、左右一対のファスナーテープの対向側側縁に沿って多数のファスナーエレメントが取り付けられた一対のファスナーストリンガーがスライダーに通され、スライダーの摺動操作により左右のファスナーエレメントを噛合させたり、噛合を解除したりして開閉する。このときスライダーの摺動限を規定するため、スライドファスナーの長さ方向の両端部にそれぞれ止部が形成されている。
【0003】
これに対して、隠しスライドファスナーは、左右一対のファスナーテープの対向側縁を長さ方向に沿って断面U字状に折り曲げて、その形状が固定して、そのU字状の折り返し部分の外面に沿って多数のファスナーエレメントが所定のピッチで取り付けられてファスナーストリンガーを構成している。そのファスナーストリンガーの長さ方向の両端部には、上記通常のスライドファスナーと同様に、止部が形成されている。
【0004】
一般の止部には、常に左右のファスナーストリンガーの端部を分離状態におく上止部と、常に左右のファスナーストリンガーの端部を連結状態におく下止部とがある。開離嵌挿具は下止部の一種であり、スライドファスナーの開放時に蝶棒を箱体から抜き出しスライダーからも抜き取ると左右のファスナーストリンガーを完全に分離させることができ、蝶棒をスライダーを介して箱体に挿入して、左右のファスナーストリンガーが箱棒及び箱体を介して連結され、スライダーを摺動させることにより分離した左右のファスナーストリンガーの対向するファスナーエレメントを噛合させてスライドファスナーを閉じる。
【0005】
隠しスライドファスナーの開離嵌挿具は、通常のスライドファスナーにおける開離嵌挿具とは異なる特有の構成を有している。これは、隠しスライドファスナーにおけるファスナーストリンガーの上記テープ折曲げ構造と、その折曲げ構造に適合するためのスライダーの構造とに起因する。隠しスライドファスナーのスライダーは、製品表面に露呈する上翼板がなく、製品裏面側に配される下翼板の左右端縁から製品表面側に立ち上がり、互いに接近する方向に直角に折り曲がる左右の断面L字型のフランジを有し、更にその下翼板の一端部中央から製品表面側に立ち上がり、先端に引手取付部を有する柱部を備えている。前記下翼板と断面L字型の前記フランジとの間に形成されるY字状の空間部がエレメント案内通路となる。
【0006】
隠しスライドファスナーにおけるスライダーの摺動操作時には、ファスナーエレメント列が前記スライダーのY字状のエレメント案内通路に案内されると同時に、ファスナーテープのU字状折曲げ部のテープ本体側をスライダーのフランジと柱部との間の間隙から外部へ引き出した状態で案内しなければならない。すなわち、開離嵌挿具の連結時には一方のファスナーストリンガーの端部に取り付けられた蝶棒を、スライダーの断面L字型フランジと下翼板との間に形成される空間部に挿通させたのち、他方のファスナーストリンガーの端部に取り付けられた箱体の蝶棒挿入空間部に挿入する必要がある。このとき、蝶棒が単なる単一の棒状体から構成されている場合には挿入は簡単であるが、ファスナーテープにスライドファスナーのエレメント列を横断する方向の力(横引き力)がかかると、例えば特開2003−180411号公報(特許文献1)にも記載されているとおり、蝶棒が箱体の内部で転がってしまいやすい。
【0007】
前記特許文献1では、横引き力が加わったときでも蝶棒が箱体内で転がらないように、箱体の蝶棒挿入空間部へと挿入される本来の箱体挿脱部と、同箱体挿脱部との間で前記スライダーのフランジを挟んで係脱する係脱部との二つの部分で構成するようにしている。一方、箱体にも前記蝶棒の箱体挿脱部が挿入される蝶棒挿入空間部と係脱部が係着する係脱部との間に壁部を形成して、蝶棒の箱体挿脱部が箱体の蝶棒挿入空間に挿入されたとき、前記壁部を箱体挿脱部と係脱部との間で挟み込むように、前記箱体挿脱部と係脱部を離間させて構成するとともに、蝶棒と箱棒に連続するエレメント取付け側とは反対のテープ表面に、それぞれ横格子状の補強部を蝶棒と箱棒との成形と同時に成形一体化している。こうした構成により、蝶棒が箱体に挿入係着されたのちに、スライドファスナーに横引き力が加わっても、蝶棒が箱体内で転がるようなことがなくなるとしている。
【特許文献1】特開2003−180411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記特許文献1に記載された隠しスライドファスナーは、確かに箱体の前壁部に蝶棒の箱体挿脱部と係脱部とが跨がった状態で蝶棒が箱体に差し込まれるため、上述のような横引き力に対しても箱体内で転がることがなくなる。
【0009】
しかしながら、同特許文献1に記載された隠しスライドファスナーでは、前記箱体挿脱部と係脱部とが完全に分離しているため、箱体挿脱部をスライダーの下翼板と断面L字型のフランジとの間の空間に挿通させるとき、誤って箱体挿脱部と係脱部との間でスライダーの下翼板を挟み込みやすく、そのまま強く押し込もうとすると箱体挿脱部と係脱部との分岐部において裂けるようにして破断しかねない。また蝶棒を箱体の蝶棒挿入空間に差し込もうとするときも、係脱部が箱体の壁部に引っ掛かって、係脱部を箱体の被係着部まで円滑に差し込むことができないばかりでなく、これを無理して押し込もうとすると係脱部が破損しかねない。
【0010】
更にまた、蝶棒が箱体挿脱部と係脱部とが基部から完全に分離されているため、例えば上述のように強い突き上げ力が加わった場合、係脱部が弾性的に変形して箱体から外れ、左右のファスナーストリンガーの噛合状態が外れて分離しやすい。
【0011】
本発明は、こうした課題を解決すべくなされたものであり、その具体的な目的は隠しスライドファスナーに特有な構造をもつ開離嵌挿具にあって、蝶棒を箱体に円滑に且つ確実に挿入することができ、しかも横引き力や突き上げ力が働いても簡単には変形や破損がしにくい開離嵌挿具を備えた隠しスライドファスナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的は、本発明の基本構成である一対のファスナーテープTの対向側側縁部を長さ方向に沿ってU字状に折り曲げ、その折曲端縁に沿って多数のファスナーエレメントを取り付けたファスナーストリンガーの各ファスナーテープの長さ方向一端部からそれぞれ延出して各ファスナーテープに成形一体化された蝶棒、箱棒及び同箱棒に固着される箱体を有する開離嵌挿具を備えた隠しスライドファスナーであって、前記箱体は、前記蝶棒の一部が挿脱される挿脱空間部と、前記蝶棒の他部が係脱される被係脱部とを備え、前記蝶棒の前記一部は、前記箱体の前記挿脱空間部に挿脱される箱体挿脱部であり、前記蝶棒の前記他部は、前記箱体挿脱部と離間間隙を有して平行に配され、前記箱体の前記被係脱部と係脱する係脱部であり、前記箱体の前記挿脱空間部と前記被係脱部とが隔壁を介して離隔して配され、前記蝶棒の前記箱体挿脱部と前記係脱部とのテープ折り返し端縁側が係脱部の全長にわたって側壁部により連結され、前記箱体の前記隔壁における前記箱棒側の端部に、前記蝶棒の前記側壁部を全長にわたって案内する切欠き部を有してなることを特徴とする隠しスライドファスナーにより効果的に達成される。
【0013】
好ましい態様によれば、前記蝶棒における前記箱体挿脱部と前記係脱部との間の前記離間間隙の寸法が、前記箱体における前記隔壁の壁厚より大きく設定され、更には前記隔壁の前記切欠き部側の側縁を前記側壁部と対面するように設定することが望ましい。
【発明の作用効果】
【0014】
本発明によれば、蝶棒の箱体挿脱部と係脱部とが側壁部によって少なくとも係脱部の全長にわたって連結されており、一方の箱体も蝶棒の箱体挿脱部が挿脱される挿脱空間部と被係脱部とを離隔させる隔壁の箱棒側端部に、前記側壁部を全長にわたって案内する切欠き部が形成されていることにより、蝶棒をスライダーを介して箱体に挿入するとき、上記特許文献1とは異なり蝶棒の箱体挿脱部と係脱部との間でスライダーの下翼板を挟み込むことがなく、また蝶棒の側壁部が箱体の前記切欠き部に確実に案内されて、蝶棒の箱体挿脱部及び係脱部が箱体の隔壁に引っ掛かったりせず、確実に且つ極めて円滑に蝶棒を箱体に挿入させることが可能となる。
【0015】
更に、蝶棒を箱体に挿入したのちも、蝶棒の箱体挿脱部と係脱部とが少なくとも係脱部の延出長さに等しい長さをもつ側壁部によって連結されているため、箱体挿脱部と係脱部と前記側壁部によって補強され、例えば箱体挿脱部と係脱部とを切り離すような力が加わっても簡単には破壊せず、或いは変形しないため、蝶棒が箱体から外れにくくなり、耐久性が一段と向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の隠しスライドファスナーの代表的な実施の形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0017】
本発明の隠しスライドファスナーの開離嵌挿具は、図1に示すように、箱体1、箱棒2、蝶棒3の3部材から構成されている。図示実施形態によれば、箱棒2及び蝶棒3は、ポリアミド、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性合成樹脂を用いて左右一対のファスナーテープの各一端に射出成形により一体化される。また本実施形態によれば、前記箱体1と箱棒2とが一体に成形されるが、例えば上記特許文献1に記載されているように、一対のファスナーストリンガーの各一端に箱棒及び蝶棒を一体に成形するとともに、箱棒挿入空間と蝶棒挿入空間とをもつ箱体を箱棒とは別に単独に成形したのち、箱棒を同箱体の箱棒挿入空間に挿入し、同箱棒挿入空間の図示せぬ被係着部に抜出し不能に係着固定するように構成することもできる。
【0018】
左右一対のファスナーテープTは、その対向側縁部が長さ方向に沿ってU字状に折り曲げ固定され、全体としてJ字状を呈している。このファスナーテープTの折曲縁部4の折曲縁片4aの表面に沿って多数のファスナーエレメントEが縫製により取り付けられている。このファスナーエレメントEは合成樹脂製モノフィラメントをコイル状に又はジグザグ状に成形される。ファスナーエレメントEは、相手方のファスナーエレメントEと噛合/離脱する噛合頭部と、同噛合頭部から一方向に延びる一対の脚部と、隣接するエレメント間の脚部同士を連結する連結部とからなり、連続状のファスナーエレメント列ERを形成する。このコイル状のファスナーエレメント列ERには繊維製の編組物からなる芯紐5が挿通され、芯紐5に図示せぬ縫製糸を刺通させて、縫製糸がファスナーエレメントEを跨ぐように縫製してファスナーテープTに縫着される。縫着された状態では、ファスナーエレメントEの噛合頭部は折曲縁部4から外側に突出している。
【0019】
図示例にあって前記箱棒2は略角柱状を呈しており、一方のファスナーテープTの折曲縁部4に取り付けたファスナーエレメントEに連接してファスナーテープTの一端からテープ長さ方向に突出させた状態て成形一体化される。このとき、ファスナーテープTの折曲縁部4のファスナーエレメントEが取り付けられていないテープ本体4b側の表面には、ファスナーテープの開離嵌挿具取付端部を補強するため、上記特許文献1に記載された開離嵌挿具と同様に、箱棒2の側面から一体に延びる横格子状の補強部6が成形一体化されている。
【0020】
箱体1は、図1に示すように、前記箱棒2における蝶棒3と対向する面を内壁面2aとする立方状の箱形を呈している。この箱体1は上面が開口して内部に蝶棒3の一部が挿脱される蝶棒挿脱空間部7を形成している。蝶棒挿脱空間部7を囲む壁部のうち、前面側(図1の手前側)に配される隔壁8は、箱棒2の前記内壁面2a側の端部に所要の幅をもって上端から下端まで連続して切り欠かれた切欠き部8aを有している。前記切欠き部8aによって、隔壁8にはファスナーテープTの長手方向に沿う縁部が形成される。この切欠き部8aの幅は、蝶棒3の後述する側壁部32cの肉厚よりも大きな寸法とされ、またその切欠き深さは、前記蝶棒3の一部が蝶棒挿脱空間7に所定の位置まで挿入された状態において、前記蝶棒3の前記側壁部32cが入り込むように設定されている。
【0021】
更に、前記隔壁8の前記蝶棒挿脱空間部7とは反対側の壁面には、前記蝶棒3の他部が係脱される斜め立上り部分9aと水平部分9bとからなる横J字型の被係脱部9が前方に突出して一体成形されている。因みに、前記切欠き部8aの下端面位置と前記被係脱部9の水平部分9bの上面位置とは同一平面上にある。したがって、前記切欠き部8aの切り欠き深さは、箱体1の上面から前記水平部分9bの上面位置までとなる。また、前記隔壁8の切欠き部8a側の側縁は、被係脱部9よりも箱棒2側に位置し、後述する蝶棒3の係脱部32bが前期被係脱部9に係合した状態で、その側縁は係脱部32bと箱体挿脱部32aとの間に位置する。
【0022】
上記蝶棒3は、図1〜図3に示すように、ファスナーテープTのファスナーエレメントEに連接して一体成形によりファスナーテープTの一端に取り付けられている。本発明にあって、蝶棒3は箱体1の上記特徴的構成と組み合わされる特徴的な構成を備えている。本実施形態にあっては、図3に示すとおり、蝶棒3の基部31がファスナーテープTの端部に成形一体化され、その蝶棒本体32はファスナーテープ端部のJ字状折曲縁部4の折り曲げ形状に倣った略横U字断面に成形され、ファスナーテープ端からテープ長さ方向に沿って外部へと延設されている。ファスナーテープ端の折曲縁部4は、横U字断面に形成された前記蝶棒3の内面に沿って蝶棒3に埋設一体化されている。
【0023】
ファスナーテープTの端部から延出する前記蝶棒本体32は、箱体1の上記蝶棒挿脱空間部7に挿脱する箱体挿脱部32a、箱体1の上記被係脱部9に係脱する係脱部32b、及び離間して平行に配された前記箱体挿脱部32aと前記係脱部32bとのエレメント取付縁部側の側端を連結する側壁部32bとを有している。前記箱体挿脱部32aと前記係脱部32bとの内面間距離Dは、箱体挿脱部32aと前記係脱部32bとが箱体1の上記隔壁8を挟着することができる寸法に設定される。つまり、内面管距離Dは隔壁8の壁厚よりも大きく設定されている。前記係脱部32bと前記箱体挿脱部32aとは同じ長さ、つまり下端位置が同じである。
【0024】
前記箱体挿脱部32a及び前記係脱部32bは、図3に示すとおり角柱状を呈しており、その基部31から先端に向けてファスナーテープTの本体側に僅かに傾斜して延出しており、前記係脱部32bのテープ本体側の側面は箱体挿脱部32a及び前記係脱部32bの全体の傾斜角度よりも傾斜角度を大きく設定している。箱体挿脱部32aの断面形状は箱体1の前記蝶棒挿脱空間部7に挿脱可能な略正方形に近く、前記係脱部32bの断面形状は偏平な矩形状を呈している。この係脱部32bは、図4に示すように箱体1に挿入時に、その箱棒2とは反対側の側面に上記被係脱部9の箱棒側の傾斜側面が当接して互いに係止する。そのため、上記被係脱部9の傾め立上り部分7aの前記係脱部32bとの係止面である箱棒側の傾斜側面の傾斜角度を、前記係脱部32bのテープ本体係脱側面の傾斜角度と等しく設定されている。また、前記係脱部32bは先端に向かうに従って薄くなる斜面状を呈している。
【0025】
蝶棒3の前記側壁部32cは、少なくとも前記係脱部32bの全長と等しい長さを有しており、その肉厚は箱体1の上記隔壁8に形成された切欠き部8aに挿入可能な寸法に設定されている。前記側壁部32cと前記係脱部32bとの長さが全長にわたって等しくされているため、図2に示すように、側壁部32cは係脱部32bの先端まで形成されることになる。したがって、前記切欠き部8aは蝶棒3の箱体挿入時に前記側壁部32cを全長にわたって案内する。また、ファスナーテープ端部の折曲縁部4のテープ本体側の表面には、図2に示すように、ファスナーテープTの蝶棒取付端部を補強するため、蝶棒3の前記係脱部32bから横格子状の補強部6が一体に成形されている。蝶棒3と補強部6とは同時に成形され、図1に示すように一体である。
【0026】
以上の構成を備えた開離嵌挿具付き隠しスライドファスナーの開離嵌挿具を連結するにあたっては、図6及び図7に示すように、蝶棒3の箱体挿脱部32aを、スライダーSの下翼板10と、左右側縁からL字型に立ち上がる一対のフランジ11のうち、箱棒2が挿通されていない側のフランジ11との間に形成された案内空間に差し込むとともに、蝶棒3の係脱部32bがフランジ11の外側表面上に位置するようにして、箱体挿脱部32aと前記係脱部32bとで前記フランジ11を挟み込むように蝶棒3をスライダーSに挿通させる。
【0027】
このスライダーSに蝶棒3を挿通させたのち、蝶棒3の箱体挿脱部32aを箱体1の蝶棒挿脱空間部7に挿入すると同時に、前記箱体挿脱部32aと前記係脱部32bとが箱体1の隔壁8を跨ぐように、係脱部32bが箱体1の被係脱部9に係止するまで蝶棒3を押し込む。蝶棒3をスライダーSの内部を挿通させた後に、箱体1の蝶棒挿入孔6に差し込む。本実施形態にあっては、図6に示すように、箱体1の上面を傾斜面12に形成しているので、箱体1の上面に当接するスライダーSが傾き、挿入操作が容易にできる。特に本発明では、蝶棒3の前記箱体挿脱部32aと係脱部32bとを連結する側壁部32cを、少なくとも係脱部32bの全長にわたり設けているため、蝶棒3をスライダーSに挿通させるとき、前記側壁部32cの存在によって箱体挿脱部32aと係脱部32bとがスライダーSの下翼板を噛み込ませることがない。その結果、スライダーSに対する挿入操作が更に容易となり、また従来のように箱体挿脱部32aと係脱部32bとを裂くように破断させることもなくなる。
【0028】
また本発明にあっては、蝶棒3に上記側壁部32cを設けるとともに、箱体1の隔壁8の端部に前記側壁部32cを全長にわたって案内する切欠き部8aを形成している。そのため、従来のように、箱体挿脱部32aと係脱部32bとの間でスライダーSの下翼板10を挟み込んだりすることがなく、箱体1に対する蝶棒3の挿入に際しての操作性を損ねたり係脱部32aを破損することもなくなる。また更に、箱体1への蝶棒3の挿入が終ると、図4に示すように、蝶棒3の係脱部32bの傾斜面と箱体1の被係脱部9の傾斜側面とが自動的に当接して互いが係止され、箱体1と蝶棒3との間にガタツキがなくなる。
【0029】
更に加えて、箱体1への蝶棒3の挿入が終ったあとに、箱体1と蝶棒3との間にファスナーテープ面に直交する大きな力(突き上げ力)が加わったとしても、前記側壁部32cの存在のため、箱体挿脱部32aと係脱部32bとが離間する方向に変形することがなくなり、蝶棒3の箱体1に対する安定した挿入形態が維持され、蝶棒3が箱体1から外れることもない。このため、図5に示すように、隔壁8の端縁は蝶棒3の側壁部32cと全長にわたり対面するようにしている。また、前記側壁部32cの存在は、開離嵌挿具に横方向の外力が加わったとしても、図5からも理解できるように、箱体挿脱部32aが蝶棒挿脱空間6で転がることを完全に防止する。
【0030】
図8は、蝶棒3の変形例を示している。
この変形例によれば、蝶棒3の箱体挿脱部32aの長さを係脱部32bの長さよりも長くしており、同時にその側壁部32cを係脱部32bの長さに等しく形成して、係脱部32bの全長にわたって箱体挿脱部32aとの間を連結している。この例にあっても、前記側壁部32cの存在によって、上記実施形態と同様に、スライダーSの下翼板10を箱体挿脱部32aと係脱部32bとにより噛み込むことがなく、また箱体挿脱部32aや係脱部32bが箱体1の隔壁8に引っ掛かったりすることがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】隠しスライドファスナーの開離嵌挿具取付端部の分解斜視図である。
【図2】同開離嵌挿具取付端部における箱棒側の正面図である。
【図3】図2のIII-III 線に沿った矢視図である。
【図4】箱体に蝶棒を挿入したときの係脱部側から見た正面図である。
【図5】図4のIV-IV 線に沿った矢視断面図である。
【図6】開離嵌挿具の蝶棒挿入時の様子を示す正面図である。
【図7】図6におけるVII-VII 線に沿った矢視図である。
【図8】蝶棒の変形例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 箱体
2 箱棒
2a 内壁面
3 蝶棒
31 基部
32a 箱体挿脱部
32b 係脱部
32c 側壁部
4 折曲縁部
4a 折曲縁片
4b テープ本体
5 芯紐
6 補強部
7 蝶棒挿脱空間部
8 隔壁
8a 切欠き部
9 被係脱部
9a 傾め立上り部分
9b 水平部分
T ファスナーテープ
S スライダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のファスナーテープTの対向側側縁部を長さ方向に沿ってU字状に折り曲げ、その折曲縁部(4) に沿って多数のファスナーエレメント(E) を取り付けたファスナーストリンガーの各ファスナーテープ(T) の長さ方向一端部からそれぞれ延出して各ファスナーテープ(T) に成形一体化された箱体(1) 、同箱体(1) に固着された箱棒(2) 、及び前記箱体(1) に挿入可能な蝶棒(3) を有する開離嵌挿具を備えた隠しスライドファスナーであって、 前記箱体(1) は、前記蝶棒(3) の一部が挿脱される蝶棒挿脱空間部(7) と、前記蝶棒(3) の他部が係脱される被係脱部(9) とを備え、
前記蝶棒(3) の前記一部は、前記箱体(1) の前記蝶棒挿脱空間部(7) に挿脱される箱体挿脱部(32a) であり、
前記蝶棒(3) の前記他部は、前記箱体挿脱部(32a) と離間間隙を有して平行に配され、前記箱体(1) の前記被係脱部(9) と係脱する係脱部(32b) であり、
前記箱体(1) の前記蝶棒挿脱空間部(7) と前記被係脱部(9) とが隔壁(8) を介して離隔して配され、
前記蝶棒(3) の前記箱体挿脱部(32a) と前記係脱部(32b) とのテープ折曲端縁側が少なくとも前記係脱部(32b) の全長にわたり側壁部(32c) により連結され、
前記箱体(1) の前記隔壁(8) における前記箱棒側の端部に、前記蝶棒(3) の前記側壁部(32c) を全長にわたって案内する切欠き部(8a)を有してなる、
ことを特徴とする隠しスライドファスナー。
【請求項2】
前記蝶棒(3) における前記箱体挿脱部(32a) と前記係脱部(32b) との間の前記離間間隙の寸法(D) が、前記箱体(1) における前記隔壁(8) の壁厚より大きく設定されてなる請求項1記載の隠しスライドファスナー。
【請求項3】
前記蝶棒(3) における前記箱体挿脱部(32a) と前記係脱部(32b) との間に前記箱体(1) の前記隔壁(8) が入り込み、前記隔壁(8) の前記切欠き部(8a)側の側縁が前記側壁部(32c) に対面してなることを特徴とする請求項1記載の隠しスライドファスナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−220842(P2008−220842A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67224(P2007−67224)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】