説明

集塵エレメント用部材及び集塵エレメント

【課題】優れた難燃性と高い集塵効率とを両立可能な集塵エレメント用部材及びこの部材で構成される集塵エレメントを提供する。
【解決手段】本発明の集塵エレメント用導電部材は、熱可塑性樹脂と、導電剤と、難燃剤とで構成されている。また、本発明の集塵エレメント用電圧印加部材は、熱可塑性樹脂と、半導電性成分と、難燃剤とで構成されている。これらの集塵エレメント用部材及びこの部材で構成される集塵エレメントは、難燃性と集塵効率とを高いレベルで両立できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集塵エレメント用部材及びこの部材で構成される集塵エレメントに関し、特に、難燃性、集塵効率を高いレベルで両立可能な集塵エレメント用部材及びこの部材で構成される集塵エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
電気集塵機の集塵エレメントは、コロナ放電により気体中に浮遊している塵埃などの粒子を帯電させるイオン化部と、帯電した粒子(帯電粒子)を電気的相互作用により電極に引きよせて捕集するコレクタ部とで構成される。このような集塵エレメントでは、帯電粒子が、電極間を移動したり、電極に捕集される際に、電極間に過剰の電流が流れてスパーク(火花)が発生し、塵埃などの帯電粒子の捕集性(集塵効率)が低下することが知られている。そのため、半絶縁性の電極を採用し、電極間での電荷移動量を低減させ、スパークの発生を防止している。しかし、半絶縁性の電極では、スパークの発生は防止されているが、コレクタ部における電荷移動量が低減されているため、集塵効率の増大に制限があり、高い集塵効率が期待できない。
【0003】
電極間でのスパークの発生を防止しつつ、高い集塵効率を確保するために、電極を構成する電極部材の選択がなされている。例えば、特開2000−202324号公報(特許文献1)には、前記イオン化部に相当する塵埃帯電部や前記コレクタ部に相当する集塵部を構成する各1対の電極の何れか一方を、有機組成物で形成した電気集塵装置の集塵エレメントが開示されている。また、この文献には、前記有機組成物が、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの結晶性樹脂に、カーボンブラックやカーボンファイバーなどで構成される導電粒子を分散させて形成されていることも記載されている。この文献の集塵エレメントでは、過剰に電流が流れた際に、有機組成物が自己発熱する現象を利用し電極間に流れる電流の大きさを抑制し、スパークの発生を防止している。さらに、このような現象により、安定にコロナ放電させることができ、高い集塵効率が確保されている。しかし、この文献の集塵エレメントでは、難燃性が不十分であり、難燃性を必要とされる用途であっても有用であるとは言い難い。
【特許文献1】特開2000−202324号公報(特許請求の範囲、段落番号[0029])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、優れた難燃性と高い集塵効率とを両立可能な集塵エレメント用部材及びこの部材で構成される集塵エレメントを提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、成形性、耐薬品性に優れる集塵エレメント用部材及びこの部材で構成される集塵エレメントを提供することにある。
【0006】
本発明のさらに他の目的は、高い難燃性及び集塵効率を有し、かつ有毒な臭気ガスの発生を防止可能な集塵エレメント用部材及びこの部材で構成される集塵エレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、難燃剤を含有する部材では難燃性が向上するという知見に基づいて、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、難燃剤及び導電剤を含有する樹脂組成物で構成された導電部材と、難燃剤及び半導電性成分を含有する樹脂組成物で構成された電圧印加部材とを組み合わせて集塵エレメントを形成すると、優れた難燃性に加えて高い集塵効率が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の集塵エレメント用導電部材(又は集塵部材、集塵電極)は、熱可塑性樹脂と、導電剤と、難燃剤とで構成されている。熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂であってもよい。導電剤は、導電性繊維と導電性粒子とで構成されていてもよく、例えば、導電剤は、炭素繊維と導電性カーボンブラックとで構成されていてもよい。導電性カーボンブラックの割合は、炭素繊維1重量部に対して0.5〜5重量部(例えば、0.7〜4重量部)程度である。難燃剤は、リン系難燃剤が使用されてもよく、難燃剤の割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して30〜100重量部程度である。
【0009】
また、本発明の集塵エレメント用電圧印加部材(又は高電圧電極)は、熱可塑性樹脂と、半導電性成分と、難燃剤とで構成されている。熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂であってもよい。また、半導電性成分は、10〜10Ω・cmの体積固有抵抗値を有する半導電性樹脂であってもよい。難燃剤は、リン系難燃剤であってもよく、難燃剤の割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して30〜75重量部程度である。なお、前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂である場合、無機充填剤を含んでいてもよい。
【0010】
本発明には、前記導電部材と電圧が印加可能な前記電圧印加部材とを組み合わせた集塵エレメントであって、前記導電部材と前記電圧印加部材とが対向して配設され、かつ前記導電部材と前記電圧印加部材との間に被処理気体が流通可能な流路が形成されている集塵エレメントも含まれる。なお、本発明では、前記導電部材及び前記電圧印加部材のうち、少なくとも一方を用いて集塵エレメントを形成してもよい。即ち、前記導電部材及び前記電圧印加部材のうち、少なくとも一方と、他の汎用されている部材とを組み合わせて集塵エレメントを形成してもよい。
【0011】
本明細書において、導電部材と電圧印加部材とを、単に、部材と称する場合がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の集塵エレメント用部材及びこの部材で構成される集塵エレメントでは、難燃剤を含み、難燃性を向上できるのに加え、高い集塵効率を得ることができる。また、特定の熱可塑性樹脂と難燃剤とを組み合わせると、優れた成形性を有するため、複雑な形状にも成形でき、集塵効率を高めることができるとともに、耐薬品性にも優れるため、洗剤や有機溶剤などを用いて繰り返し洗浄することができる。さらに、特定の難燃剤を用いると、有毒な臭気ガスの発生も防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に必要に応じて添付図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の導電部材(又は集塵部材、集塵電極)及び電圧印加部材(又は高電圧電極)は、組み合わせて用いられ、集塵エレメントを構成する。
【0015】
[導電部材]
本発明の集塵エレメント用導電部材(集塵エレメントの導電部材)は、熱可塑性樹脂と、導電剤と、難燃剤とで構成されている。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、メチルペンテン樹脂などのα−C2−20鎖状オレフィン系樹脂;環状オレフィン系樹脂など)、ポリスチレン系樹脂[例えば、ポリスチレン(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、スチレン−メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合体(MBS樹脂)など]、塩化ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体など)、酢酸ビニル系樹脂[例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)など]、ポリビニルアルコール系樹脂[例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH樹脂)など]、アクリル系樹脂[例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)など]、ポリアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂[例えば、ポリアルキレンアリレート(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)など)など]、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド6−6、ポリアミド6−10、ポリアミド6−12など)などが挙げられる。また、前記熱可塑性樹脂は、例えば、熱可塑型ポリイミド系樹脂、(変性)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)、ポリフェニレンスルフィド系樹脂(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などであってもよく、さらに、前記熱可塑性樹脂の構成成分を含む熱可塑性エラストマーも含まれる。これらの樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0017】
これらの樹脂のうち、好ましい樹脂としては、成形性の点から、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などが例示できる。中でも、耐薬品性などに優れるオレフィン系樹脂(特に、ポリプロピレン系樹脂)が好ましい。ポリプロピレン系樹脂を用いると、タバコのヤニなどの強固に付着し除去し難い汚れであっても、簡便に除去することができ、洗浄性にも優れる。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンと他の共重合性単量体との共重合体であってもよい。他の共重合性単量体としては、例えば、オレフィン系単量体(例えば、エチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−C2−20鎖状オレフィン、環状オレフィンなど)、ビニルエステル系単量体(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、(メタ)アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレートなど]、ジエン系単量体(例えば、ブタジエンなど)などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0019】
より詳細には、ポリプロピレン系樹脂としては、単独重合体であるポリプロピレンの他、共重合体として、例えば、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体などのプロピレン含有量が80重量%以上のプロピレン−α2−20鎖状オレフィン共重合体などが挙げられる。プロピレンと他の共重合性単量体との共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。これらの共重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらのポリプロピレン系樹脂のうち、ポリプロピレン、プロピレン−α2−6鎖状オレフィン共重合体が好ましく、さらに好ましいポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体である。これらのポリプロピレン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。ポリプロピレン系樹脂は結晶性であってもよく、非結晶性であってもよい。
【0020】
導電部材に導電性を付与するための導電剤は、導電性を有していればよく、慣用の導電剤、例えば、金属類、炭素類などであってもよい。導電剤の形状は、例えば、繊維状、粉末状、粒子状、板状、鱗片状などであってもよい。これらの導電剤のうち、繊維状(導電性繊維)、粒子状(導電性粒子)などが好ましい。また、複数の形状の組合せ(特に、繊維と粒子との混合物)であってもよい。
【0021】
前記導電性繊維としては、例えば、金属繊維、炭素繊維、金属をメッキ又は蒸着した有機又は無機繊維などが挙げられる。これらの導電性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。耐蝕性(耐酸性)に優れる点から、通常、炭素繊維が使用される。炭素繊維には、ピッチ系炭素繊維、フェノール樹脂系炭素繊維、再生セルロース系炭素繊維(例えば、レーヨン系炭素繊維、ポリノジック系炭素繊維など)、セルロース系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ポリビニルアルコール系炭素繊維などが含まれる。これらの炭素繊維は単独で又は二種以上で組み合わせて使用してもよい。これらの炭素繊維のうち、汎用性の点から、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が好適に使用される。なお、導電性繊維の平均繊維長は、例えば、1〜300mm、好ましくは2〜100mm、さらに好ましくは3〜50mm程度であってもよい。また、導電性繊維の平均繊維径は、例えば、0.5〜50μm、好ましくは1〜30μm、さらに好ましくは3〜20μm、特に5〜10μm程度であってもよい。なお、熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂である場合、導電性充填剤として導電性繊維及び/又は粒子、特に導電性繊維(炭素繊維など)を用いると、導電部材に導電性を付与できるとともに、導電部材の寸法安定性、剛性を向上することができる。
【0022】
前記導電性粒子としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ステンレスなどの金属種で構成される金属単体、アルミニウム合金などの金属合金、金属炭化物及び金属酸化物などの金属粒子;グラファイト、導電性カーボンブラックなどの炭素粒子、金属をメッキ又は蒸着した有機又は無機粒子などが挙げられる。これらの導電性粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの導電性粒子のうち、耐蝕性(耐酸性)、流動性に優れる点から、通常、導電性カーボンブラックが使用される。導電性カーボンブラックは、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどであってもよい。これらの導電性カーボンブラックは、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。なお、導電性粒子の平均粒子径は、例えば、1nm〜500μm、好ましくは5nm〜100μm、さらに好ましくは10nm〜10μm、特に20nm〜1μm(例えば、25〜500nm)程度であってもよい。
【0023】
なお、前記導電性繊維及び導電性粒子には、炭素類で被覆した繊維状フィラー(例えば、ガラス繊維、炭素繊維など)及び粒子状フィラー(例えば、シリカ、マイカ、タルクなど)なども含まれる。
【0024】
導電剤の割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、1〜200重量部、好ましくは5〜150重量部、さらに好ましくは10〜100重量部、特に15〜80重量部(例えば、20〜50重量部)程度である。
【0025】
なお、本発明では、少なくとも1種の導電剤を含んでいればよいが、効率よく導電性を付与するために、複数の導電剤を組み合わせるのが好ましい。特に、前記導電性繊維及び前記導電性粒子を組み合わせてもよい。前記導電性繊維と前記導電性粒子とを組み合わせると、粒子が繊維の間に充填されるためか、均一な導電性が得られる。前記導電性繊維と前記導電性粒子との組み合わせとしては、特に、炭素繊維と導電性カーボンブラックとの組み合わせが好適である。導電性カーボンブラックの割合は、炭素繊維1重量部に対して0.5〜5重量部、好ましくは0.55〜4.5重量部、さらに好ましくは0.6〜4重量部、特に0.65〜3.5重量部(例えば、0.7〜3重量部)程度である。
【0026】
難燃性を付与するための難燃剤は、通常用いられる難燃剤であってもよい。難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤[例えば、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(テトラブロモフタルイミド)エタン、ビス(ペンタブロモフェニル)エタンなどの臭素系難燃剤、パーフルオロアルカンスルホン酸金属塩、トリハロベンゼンスルホン酸金属塩などのハロゲン含有有機酸金属塩系難燃剤など]、非ハロゲン系難燃剤であってもよい。環境性の点から、非ハロゲン系難燃剤を使用するのが好ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、例えば、ハロゲン非含有有機酸金属塩系難燃剤[ジフェニルスルホン−ジスルホン酸金属塩、ジフェニルスルホンスルホン酸金属塩などの有機カルボン酸又は有機スルホン酸のアルカリ金属(Na、Kなど)塩、アルカリ土類金属塩など]、リン系難燃剤、トリアジン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、金属酸化物、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど)などが使用できる。これらの難燃剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの難燃剤のうち、難燃性が高く、有毒な臭気の発生を抑制するためには、リン系難燃剤が好ましい。リン系難燃剤は、他の難燃剤と組み合わせて用いてもよい。
【0027】
リン系難燃剤には、有機リン系難燃剤、無機リン系難燃剤(赤リン系難燃剤、例えば、赤リン、赤リン表面を熱硬化樹脂及び/又は無機化合物で被覆した安定化赤リンなど)などが含まれる。リン系難燃剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0028】
これらのリン系難燃剤のうち、有機リン系難燃剤が好ましい。有機リン系難燃剤としては、例えば、芳香族リン酸エステル類;ジアミン及び/又はトリアジン誘導体及び(ポリ又はピロ)リン酸で構成されるリン酸アミン塩類が挙げられる。これらの有機リン系難燃剤は単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
芳香族リン酸エステルは、縮合リン酸エステルであってもよい。芳香族リン酸エステルとしては、例えば、(a)トリ(アリール)ホスフェート及びトリ(アルキル置換アリール)ホスフェート[例えば、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリス(トリル)ホスフェート、トリス(キシレニル)ホスフェートなど]、(b)アリーレンビス(アリール)ホスフェート及びアリーレンビス(アルキル置換アリール)ホスフェート[例えば、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェート)など]、(c)ビスフェノールビス(アリール)ホスフェート及びビスフェノールビス(アルキル置換アリール)ホスフェート[例えば、4,4’−ビフェノールビス(ジフェニルホスフェート)、4,4’−ビフェノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)のビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)のビス(ジキシレニルホスフェート)など]などが例示できる。芳香族リン酸エステル類には、ハロゲン化芳香族リン酸エステル類を含んでいてもよい。ハロゲン化芳香族リン酸エステル類としては、前記芳香族リン酸エステル類のハロゲン化物、例えば、トリス(4−ブロモフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジブロモフェニル)ホスフェート、トリス(2,4,6−トリブロモフェニル)ホスフェートなどが例示できる。また、ジアミン及び/又はトリアジン誘導体及び(ポリ又はピロ)リン酸で構成されるリン酸アミン塩類としては、通常用いられるジアミン及び/又はトリアジン誘導体及び(ポリ又はピロ)リン酸を適宜組み合わせて構成することができる。例えば、リン酸アミン塩類には、ジアミンがピペラジン類(例えば、ピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンなど)などの複素環式アミン類であり、トリアジン誘導体がメラミン類(例えば、メラミン、縮合メラミン、メラム、メレムなど)であるリン酸アミン塩類(例えば、リン酸メラミン、リン酸メラミンピペラジンなど)も含まれる。このようなリン酸アミン塩類としては、例えば、特開2003−26935号公報を参照でき、例えば、(株)アデカから商品名「アデカスタブFP2200」として入手できる。これらの有機リン系難燃剤のうち、耐熱性、難燃性に優れる点から、リン酸メラミン、リン酸メラミンピペラジンなどのリン酸アミン塩類が好適に使用される。
【0030】
難燃剤の割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して10〜200重量部、好ましくは12〜150重量部、さらに好ましくは15〜100重量部、特に25〜75重量部程度であってもよい。本発明では、難燃剤の割合が、例えば、熱可塑性樹脂100重量部に対して30〜100重量部であってもよい。また、難燃剤の割合は、導電剤1重量部に対して0.1〜3重量部、好ましくは0.2〜2.5重量部、さらに好ましくは0.3〜2重量部、特に0.5〜1.5重量部程度であってもよい。
【0031】
難燃剤は、必要に応じて慣用の難燃助剤と組み合わせて用いてもよい。ハロゲン系難燃剤と組み合わせるのに好適な難燃助剤は、アンチモン含有化合物である。アンチモン含有化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどの酸化アンチモン;アンチモン酸ナトリウムなどのアンチモン酸金属塩などが挙げられる。これらのアンチモン含有化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。好ましい難燃助剤は、酸化アンチモン(特に三酸化アンチモン)である。難燃助剤の割合は、難燃剤1重量部に対し、例えば、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部、さらに好ましくは0.07〜1重量部(特に、0.1〜0.5重量部)程度であってもよい。
【0032】
さらに、本発明の集塵エレメント用導電部材には、必要に応じて慣用の添加剤が含まれていてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、安定剤(熱安定化剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、酸化防止剤など)、架橋剤、カップリング剤、離型剤、可塑剤、滑剤、ワックス、硬化剤、粘度調節剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、防曇剤、芳香剤、着色剤(染料、顔料など)、バイオサイド(殺菌剤、静菌剤、抗かび剤、防腐剤、防虫剤など)、充填剤(シリカ、マイカ、タルク、炭酸カルシウムなどの粉末状充填剤、ガラス繊維、パルプなどの繊維状充填剤など)などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、必要に応じて前記導電部材に、帯電防止剤を適量添加すると、導電部材の導電性(電気抵抗性)の程度を容易に調整することができる。前記帯電防止剤の割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、例えば、0.1〜30重量部、好ましくは0.2〜25重量部、さらに好ましくは0.5〜20重量部程度であってもよい。
【0033】
本発明の導電部材は導電性に優れ、その体積固有抵抗値は、JIS K 7194に準拠した方法において、例えば、10Ω・cm以下(例えば、1〜10Ω・cm程度)、好ましくは10Ω・cm以下(例えば、1〜10Ω・cm程度)、さらに好ましくは10Ω・cm以下(例えば、10〜10Ω・cm程度)である。
【0034】
[電圧印加部材]
本発明の集塵エレメント用電圧印加部材(集塵エレメントの電圧印加部材)は、熱可塑性樹脂と、半導電性成分と、難燃剤とで構成されている。
【0035】
熱可塑性樹脂は、導電部材の項に例示の熱可塑性樹脂が使用できる。好ましい樹脂としては、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などが例示できる。中でも、成形性、耐薬品性、易洗浄性などに優れるオレフィン系樹脂(特にポリプロピレン系樹脂)が好ましい。ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン、プロピレン−α2−6鎖状オレフィン共重合体が好ましく、特に、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体が好ましい。これらの熱可塑性樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。なお、前記導電部材を構成する熱可塑性樹脂と、電圧印加部材を構成する熱可塑性樹脂とは、異なっていてもよいが、通常、同一のものが使用される。
【0036】
電圧印加部材に半導電性(又は帯電防止性)を付与するための半導電性成分は、半導電性(又は帯電防止性)を有していればよく、ゲルマニウム、ケイ素、セレンなどの元素で構成される半導電性無機成分であってもよく、半導電性有機成分であってもよい。前記半導電性有機成分には、界面活性剤型帯電防止剤(ノニオン性、カチオン性、アニオン性、両性界面活性剤型帯電防止剤など)などのいわゆる半導電性低分子型帯電防止剤、半導電性を有する樹脂(又は高分子)などが含まれる。半導電性を有する樹脂を用いると、少量であっても優れた半導電性(又は帯電防止性)を発揮でき、優れた半導電性(又は帯電防止性)を持続できると共に、半導電性(又は帯電防止性)が低下しても回復させることができる。そのため、樹脂本来の特性(例えば、成形性など)を保持することが可能であり、集塵効率の低下を防止できる。
【0037】
半導電性を有する樹脂は、高分子量(例えば、数平均分子量1000以上)であってもよい。半導電性を有する樹脂としては、熱可塑性樹脂が汎用され、特に、JIS K 7194に準拠した体積固有抵抗値が、10〜10Ω・cm、好ましくは10〜10Ω・cm(特に、10〜10Ω・cm)程度である半導電性の熱可塑性樹脂(又は半導電性高分子)が好適に使用される。このような半導電性の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオキシエチレン基などの親水性ブロックを有する樹脂、例えば、ポリエチレングリコールなどであってもよく、好適には、高分子型帯電防止剤が挙げられる。高分子型帯電防止剤としては、オレフィン系ブロック及び/又はポリアミド系ブロックと、親水性ブロックとのブロック共重合体が例示できる。このようなブロック共重合体で構成された高分子型帯電防止剤について、例えば、特開2006−182439号公報を参照できる。
【0038】
前記オレフィン系ブロックを構成するオレフィン系単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどのC2−6オレフィンが例示できる。これらのオレフィンのうち、エチレン及びプロピレンから選択された少なくとも一種が好ましく、特に、少なくともプロピレンを含むのが好ましい。オレフィン系単量体のうち、プロピレンの割合は80モル%以上(特に90モル%以上)が好ましい。ポリオレフィンブロックにおいて、オレフィン系単量体(C2−6オレフィン、特にエチレン及び/又はプロピレン)の含有量は、80モル%以上(特に90モル%以上)程度である。ポリオレフィンブロックの数平均分子量は、2000〜50000、好ましくは3000〜40000、さらに好ましくは5000〜30000程度である。
【0039】
前記ポリアミド系ブロックは、ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミンなどのC4−20脂肪族ジアミンなど)とジカルボン酸(例えば、アジピン酸やセバシン酸、ドデカン二酸などのC4−20脂肪族ジカルボン酸など)との縮合によって得られるブロック、アミノカルボン酸(例えば、6−アミノヘキサン酸、12−アミノドデカン酸などのC4−20アミノカルボン酸など)の縮合によって得られるブロック、ラクタム(カプロラクタムなどのC4−20ラクタムなど)の開環重合によって得られるブロック、これらの成分から得られる共重合ブロックのいずれであってもよい。ポリアミド系ブロックは、通常、アルキレン鎖を有しており、アルキレン鎖の炭素数は、例えば、6〜18、好ましくは6〜16、さらに好ましくは6〜12程度である。ポリアミド系ブロックは、例えば、6−アミノヘキサン酸、12−アミノドデカン酸などのC6−12アミノカルボン酸の縮合によって得られたアルキレン骨格を有するポリアミドブロックであってもよい。ポリアミド系ブロックの割合は、全ブロック共重合体中、例えば、20〜70重量%、好ましくは25〜50重量%程度である。
【0040】
親水性ブロックとしては、例えば、ポリエーテル系ポリマー(又はノニオン性ポリマー)、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマーなどが例示できる。親水性ブロックを構成する親水性単量体としては、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのC2−6アルキレンオキシド)、特にエチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシドなどが好ましい。好ましい親水性ブロックとしては、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドなどのポリC2−4アルキレンオキシド)が好ましい。アルキレンオキシドの重合度は1〜300(例えば、5〜200)、好ましくは10〜150、さらに好ましくは10〜100(例えば、20〜80)程度である。
【0041】
前記オレフィン系ブロックと、親水性ブロックとは、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、イミド結合などを介して結合されている。これらの結合は、例えば、ポリオレフィンを変性剤で変性した後、親水性ブロックを導入することにより形成できる。例えば、ポリオレフィンを変性剤で変性して活性水素原子を導入した後、アルキレンオキシドなどの親水性単量体を付加重合することによって導入される。このような変性剤としては、例えば、不飽和カルボン酸又はその無水物((無水)マレイン酸など)、ラクタム又はアミノカルボン酸(カプロラクタムなど)、酸素又はオゾン、ヒドロキシルアミン(2−アミノエタノールなど)、ジアミン(エチレンジアミンなど)、あるいはこれらの混合物などが例示できる。このようにして得られる高分子型帯電防止剤は、例えば、三洋化成工業(株)から商品名「ペレスタット300」として入手できる。
【0042】
前記ポリアミドブロックと、親水性ブロックとは、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、イミド結合などを介して結合されている。これらの結合は、例えば、両末端に官能基を有するポリアミドとポリエーテル系ポリマーとをグリシジルエーテル化合物(例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテルなど)などで結合することによって形成できる。このようにして得られる高分子型帯電防止剤は、例えば、チバスペシャルティケミカルズ(株)から商品名「イルガスタットP16」「イルガスタットP18」として、三洋化成工業(株)から商品名「ペレスタットNC6321」として入手できる。
【0043】
高分子型帯電防止剤の数平均分子量は、1000以上(例えば、1000〜100000)、好ましくは2000〜60000、さらに好ましくは2000〜50000(特に3000〜20000)程度である。
【0044】
このような高分子型帯電防止剤は、単独でも高い帯電防止性を有しているが、さらに金属塩類と組み合わせて用いてもよい。金属塩類と高分子型帯電防止剤とを組み合わせると、金属塩類から解離した金属イオンが、高分子型帯電防止剤の親水性ブロックに対して作用してイオン伝導性を発現することにより、高分子型帯電防止剤の持続性などをさらに向上できる。なお、このようなイオン伝導性を付与可能な金属塩類は、例えば、特開2003−277622号公報や特開2004−175945号公報などに記載されている金属塩類などを使用できる。
【0045】
金属塩類としては、通常、アルカリ金属塩類、アルカリ土類金属塩類が使用され、例えば、過塩素酸アルカリ金属塩(過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウムなど)、過塩素酸アルカリ土類金属塩(過塩素酸マグネシウムなど)、トリフルオロメタンスルホン酸アルカリ金属塩(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウムなど)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアルカリ金属塩[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウムなど]、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドのアルカリ金属塩[トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドナトリウム]などが挙げられる。これらの金属塩類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属塩類の中でも、リチウム塩類、特に、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムなどのフッ素原子及びスルホニル基又はスルホン酸基を有するリチウム金属塩が好ましい。
【0046】
金属塩類の割合は、高分子型帯電防止剤100重量部に対し、例えば、0.01〜30重量部、好ましくは0.05〜20重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部程度である。
【0047】
高分子型帯電防止剤と金属塩類とを組み合わせたイオン伝導性高分子型帯電防止剤は、例えば、三光化学工業(株)から商品名「サンコノール(登録商標)TBX−310」として入手できる。
【0048】
半導電性成分の割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば、1〜50重量部、好ましくは3〜40重量部、さらに好ましくは5〜30重量部(特に10〜30重量部)程度であってもよい。特に、半導電性成分がイオン伝導性高分子型帯電防止剤の場合には、半導電性成分の割合(高分子型帯電防止剤及び金属塩類の合計量)は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば、1〜30重量部、好ましくは3〜20重量部、さらに好ましくは5〜15重量部程度であってもよい。
【0049】
なお、半導電性成分として、このような高分子型帯電防止剤を用いると、前記高分子型帯電防止剤の添加量に応じて電気抵抗値を調整でき、安定に半導電性が得られる。
【0050】
難燃剤は、導電部材の項に例示の難燃剤が使用できる。前記の通り、好ましい難燃剤はリン系難燃剤である。リン系難燃剤は、他の難燃剤と組み合わせて用いてもよい。なお、電圧印加部材を構成する難燃剤は、前記導電部材を構成する難燃剤と同一であってもよく、異なっていてもよいが、通常、同一の難燃剤が使用される。難燃剤の割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して20〜75重量部、好ましくは25〜70重量部、さらに好ましくは30〜65重量部、特に35〜60重量部程度であってもよい。また、難燃剤の割合は、半導電性成分1重量部に対して1〜10重量部、好ましくは1.2〜7.5重量部、さらに好ましくは1.5〜7重量部程度であってもよい。なお、本発明において、集塵エレメント用部材を構成する難燃剤の量は、熱可塑性樹脂、導電剤、半導電性成分などの他の構成成分の難燃性に応じて適宜選択できる。
【0051】
難燃剤は、前記導電部材と同様に、必要に応じて難燃助剤と組み合わせて使用してもよい。また、本発明の集塵エレメント用電圧印加部材にも、必要に応じて慣用の添加剤が含まれていてもよい。なお、前記添加剤のうち、充填剤(特に、無機充填剤)を電圧印加部材に添加すると、電圧印加部材の寸法安定性、剛性を向上することができる。好ましい充填剤は、シリカ、マイカ、タルクなどの粉末状充填剤、ガラス繊維などの繊維状充填剤などであってもよい。特に、充填剤として、ガラス繊維などの無機繊維を添加すると、電圧印加部材の寸法安定性、剛性をさらに向上することができる。前記充填剤の割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、1〜100重量部、好ましくは5〜70重量部、さらに好ましくは10〜50重量部程度であってもよい。
【0052】
本発明の電圧印加部材は、半導電性(又は帯電防止性)に優れ、その体積固有抵抗値は、JIS K 7194に準拠した方法において、例えば、10〜1013Ω・cm、好ましくは10〜1013Ω・cm、さらに好ましくは10〜1013Ω・cm(例えば、10〜1013Ω・cm)程度である。
【0053】
本発明の導電部材及び電圧印加部材は、慣用の成形法により、所望の形状に成形できる。成形法としては、例えば、射出成形(又はトランスファ成形)などが挙げられる。本発明の導電部材及び電圧印加部材では、成形性に優れる熱可塑性樹脂を用いるため、一次成形後、さらに二次成形してもよい。二次成形法は、慣用の成形法、例えば、曲げ加工、圧空成形(押出圧空成形、熱板圧空成形、真空圧空成形など)、真空成形、自由吹込成形(フリーブロー)、マッチドモールド成形、熱板成形などの熱成形などであってもよい。一次成形及び二次成形を組み合わせると、複雑な形状の成形体であっても容易に得ることができる。例えば、熱可塑性樹脂組成物を慣用の方法(例えば、押出成形、カレンダ加工など)により、シート状(又はフィルム状)に成形(一次成形)後、二次成形してもよい。
【0054】
なお、本発明では、シート状(又はフィルム状)に薄く成形しても、高い難燃性を有している。例えば、厚さ1mm又は1.5mmであっても、V−0(UL94燃焼性試験規格による)という高い難燃性を示す。
【0055】
本発明では、前記の成形方法で得られる前記導電部材と前記電圧印加部材とを組み合わせて集塵エレメントを形成してもよい。先述の通り、集塵エレメントは、通常、イオン化部とコレクタ部とで構成される。イオン化部では、コロナ放電により気体中に浮遊している塵埃などの粒子を帯電させ、コレクタ部では、帯電した粒子(帯電粒子)を電気的作用により吸引して捕集する。
【0056】
図1は、本発明の集塵エレメントの一例を示す概略断面模式図である。図中の矢印は、粒子の流れを示す。この例の集塵エレメントでは、イオン化部1は、互いに対向する対向電極部2と、これらの対向電極部の間に配されたイオン化線3とで構成され、イオン化部の下流域に配されるコレクタ部4は、前記導電部材で構成された導電電極部5と、前記電圧印加部材で構成された電圧印加電極部6との組合せで形成されている。
【0057】
より詳細には、コレクタ部4は、前記導電部材で構成され、かつ互いに所定間隔をおいて対向する複数の導電電極部5と、前記電圧印加部材で構成され、かつ互いに所定間隔をおいて対向する複数の電圧印加電極部6との組合せで形成されている。コレクタ部4において、前記導電電極部5と前記電圧印加電極部6とは、所定間隔をおいて交互に対向して組み合わされている。換言すれば、前記導電電極部5と電圧印加電極部6とを、断面櫛歯状に組み合わせている。前記導電電極部5と電圧印加電極部6との間隔は、例えば、0.1〜50mm、好ましくは、0.3〜20mm、さらに好ましくは0.5〜10mm程度であってもよい。
【0058】
前記の通り、この例の集塵エレメントでは、導電電極部5と電圧印加電極部6とが、所定間隔(等間隔)をおいて交互に対向して組み合わされ、導電電極部5と電圧印加電極部6との間を被処理気体が流通可能な流路が形成され、電圧を印加可能としている。そのため、このような集塵エレメントでは、コレクタ部4の下流側に配設される送風機(送風ファン)などにより吸引された大気中の塵埃などの粒子は、まず、イオン化部1に導かれ、対向電極部2と、対向電極部2の間に備えられたイオン化線3との作用(コロナ放電)により、帯電される。イオン化部1を経た帯電粒子は、後続するコレクタ部4に導かれ、導電電極部5と電圧印加電極部6とで生じる静電的相互作用により、帯電粒子と異極の電極部に吸引され、捕集される。例えば、電圧印加電極部6に正の電圧を印加し、電圧印加電極部6を正に帯電させ、塵埃粒子が、イオン化部1において、イオン化線3を有する対向電極部2の作用により正に帯電する場合、コレクタ部4において、前記電圧印加作用により、正に帯電した塵埃粒子は、負に帯電している導電電極部5に捕集される。
【0059】
本発明において、集塵エレメント用部材及びこれらを構成する電極部の大きさや形状は、特に制限されず、所望の集塵エレメントの大きさ、形状及び集塵効率に応じて適宜選択できる。すなわち、電極部は、例えば、同一又は異なって四角板(又は四角形プレート)状(例えば、矩形板状、台形板状など)であってもよく、他の多角板(又は多角形プレート)状(例えば、三角板状など)などであってもよい。例えば、電極部が、四角板(又は四角形プレート)状(特に、矩形板状)である場合、用途に応じて適宜選択すればよく、例えば、一辺の長さは、同一又は異なって、3〜100cm、好ましくは4〜50cm、さらに好ましくは5〜30cm程度であってもよい。また、電極部の厚みは、0.1〜5mm、好ましくは0.3〜3mm、さらに好ましくは0.5〜2mm程度であってもよい。また、前記電極部は、他の電極部又は他の部材と装着又は固定するための1又は複数の固定部又は締結部を有していてもよい。集塵エレメント用部材及びこれらを構成する電極部の形状は、特に制限されず、例えば、特開2001−062339号公報に記載の形状であってもよい。なお、集塵エレメント用部材を構成する電極部が少数である場合、前記電極部の大きさ又は表面積などを大きくすると、集塵効率の低減を防止できる。
【0060】
また、前記集塵エレメント用部材の組み合わせも、前記の例に限られず、導電部材と電圧印加部材とが、対向して配設され、かつ両部材の間に被処理気体が流通可能な流路が形成されて組み合わされている限り、他の形態、他の組み合わせであってもよい。前記他の形態として、例えば、導電部材と電圧印加部材とは、各電極部が、隣接する電極部に接触しない限り、不規則に間隔をおいて配設されてもよいが、通常、規則的に所定間隔をおいて配設される場合が多い。また、前記他の組み合わせとして、例えば、前記導電部材及び前記電圧印加部材のうちの一方と、他の汎用されている部材とを組み合わせて集塵エレメントを形成してもよい。より具体的には、前記電圧印加部材を用いる場合、組み合わせて集塵エレメントを形成するための導電部材としては、前記導電部材に限られず、導電部材は、例えば、鉄、銅、アルミニウムなどの金属で構成される金属単体、ステンレス、アルミニウム合金などの金属合金で構成されていてもよく、前記金属又は合金でメッキされた被メッキ材で構成されていてもよい。また、前記導電部材を用いる場合、組み合わせて集塵エレメントを形成するための電圧印加部材としては、前記電圧印加部材に限られず、電圧印加部材は、例えば、ゲルマニウム、ケイ素、セレンなどの元素で構成され、かつ10〜10Ω・cm程度の体積固有抵抗値を有する無機半導体などで構成されていてもよい。
【0061】
なお、コレクタ部の上流域に配されるイオン化部は、前記の例に限られず、他の形態のイオン化部であってもよい。また、イオン化部は、コレクタ部と独立して配されていてもよく、従属して配されていてもよい。例えば、イオン化部を構成する対向電極部は、コレクタ部を構成する導電電極部が上流方向に延びた形態で形成されていてもよい。なお、粒子を帯電させるためのイオン化線は、各流路の上流側に1本又は複数本設けてもよいが、通常、1〜5本、好ましくは1〜3本程度であってもよい。
【0062】
本発明の導電部材及び電圧印加部材では、成形性に優れる熱可塑性樹脂(特に、ポリプロピレンなど)を用いるため、複数の電極部を有する複雑な形状の集塵エレメント用部材を容易に成形できるとともに、各電極部を、薄く成形することが可能であるため、集塵エレメントにおいて、帯電粒子を捕集可能な単位体積あたりの電極表面積を増大させることができる。そのため、高い集塵効率を維持しつつ、集塵エレメントの小型化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の集塵エレメント用部材及びこの部材で構成される集塵エレメントは、優れた難燃性と高い集塵効率とを両立することができるため、難燃性を要求される用途、例えば、空気調和機、空気清浄機、電気掃除機などに利用できる。また、廃棄物焼却炉、溶融炉などに備える集塵機にも利用できる。さらに、例えば、レーザー加工(例えば、板金など)、樹脂加工分野において、高温粉塵、発火のおそれがある微細粉塵(例えば、アルミニウム、マグネシウムなど)などを集塵するための集塵機などにも有用である。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた集塵エレメント用部材及び集塵エレメントにおける各評価項目の評価方法は以下の通りである。
【0065】
[難燃性]
UL94燃焼性試験規格に準拠し、試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ1.5mm)を用いて燃焼試験を行った。
【0066】
[集塵効率]
集塵効率は、集塵操作によって気体から分離捕集された塵埃粒子の捕集割合を示す。すなわち、集塵操作前の気体の単位体積中に含まれる捕集されるべき塵埃粒子の重量をD、集塵操作後の気体の単位体積中に含まれる捕集されるべき塵埃粒子の重量をD’とした場合、集塵効率(%)は、[(D−D’)/D×100]で表される。
【0067】
[臭気の有無]
臭気の有無は、集塵エレメントをポリ袋に入れ、10分放置した後、ポリ袋の臭気を嗅ぐことにより判断した。
【0068】
さらに、実施例及び比較例に用いる導電部材の組成を表1に、電圧印加部材の組成を表2に示す。実施例及び比較例に用いる導電部材及び電圧印加部材における各成分の略号の内容は以下の通りである。なお、表1において、導電性カーボンブラックの欄の値は、実際に含まれる導電性カーボンブラックの量を表す。
【0069】
[導電部材及び電圧印加部材における各成分]
PP1:ポリプロピレン[サンアロマー(株)製、PM900A]
PP2:ポリプロピレン[サンアロマー(株)製、PM472W]
PP3:ポリプロピレン[サンアロマー(株)製、PM870A]
PA1:PA樹脂[宇部ナイロン(株)製、UB1011]
PA2:PA樹脂[宇部ナイロン(株)製、UB1020]
ABS:ABS樹脂(スチレン45質量%、アクリロニトリル15質量%、ポリブタジエン40質量%)[テクノポリマー(株)製、DP611]
AS:AS樹脂(スチレン75質量%、アクリロニトリル25質量%)[ダイセルポリマー(株)製、030SF]
炭素繊維:東邦テナックス(株)製、ベスファイト HTA−C6−UEL1(登録商標)
導電性カーボンブラック:東洋インキ製造(株)製、P−1388(カーボンブラック濃度:40重量%)
ハロゲン系難燃剤:ビス(ペンタブロモジフェニル)エタン[アルベマール(株)製、SAYTEX8010]
リン系難燃剤:リン酸アミン塩[(株)アデカ製、アデカスタブFP2200]
難燃助剤:三酸化アンチモン
半導電性成分1:ポリエーテルポリオレフィンブロックコポリマー及びリチウム塩化合物[三光化学工業(株)製、サンコノール(登録商標)TBX−310]
半導電性成分2:ポリエーテルエステルアミド[三洋化成工業(株)製、ペレスタットNC6321]
半導電性成分3:ポリエーテルポリオレフィンブロックコポリマー[三洋化成工業(株)製、ペレスタット300]
GF:ガラス繊維[日本電気硝子(株)製、GFT480]
マイカ:クラレトレーディング(株)製、200D(重量平均粒径90μm)
【0070】
[集塵エレメント用部材に関する実施例及び比較例]
[実施例1]
表1に示す4種の組成物を各々、溶融混練し、押出成形した後、射出成形により、集塵エレメント用導電部材1(A−1乃至A−4)を得た。得られた導電部材について、難燃性試験を行った。
【0071】
結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1から明らかなように、熱可塑性樹脂、導電剤及び難燃剤で構成される集塵エレメント用導電部材は、優れた難燃性を示した。
【0074】
[実施例2及び比較例1]
表2に示す10種の組成物を実施例1と同様に成形し、集塵エレメント用電圧印加部材4(B−1乃至B−10)を得た。得られた電圧印加部材について、実施例1と同様に難燃性試験を行った。
【0075】
結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2から明らかなように、熱可塑性樹脂、半導電性成分及び難燃剤で構成される集塵エレメント用電圧印加部材では優れた難燃性を示した。
【0078】
[集塵エレメントに関する実施例及び比較例]
[実施例3〜21及び比較例2]
実施例1で得られる4種の導電部材と、実施例2及び比較例1で得られる10種の電圧印加部材とを、表3に示すように組み合わせて集塵エレメントを形成した。得られた集塵エレメントについて、集塵効率を測定するとともに、臭気の有無を判断した。
【0079】
結果を表3に示す。なお、実施例5,6,8,9,11,12及び比較例2の集塵エレメントでは、臭気が認められなかった。
【0080】
【表3】

【0081】
表3から明らかなように、熱可塑性樹脂、導電剤及び難燃剤で構成される集塵エレメント用導電部材と、熱可塑性樹脂、半導電性成分及び難燃剤で構成される集塵エレメント用電圧印加部材とを組み合わせて形成された集塵エレメントでは、難燃性と集塵効率とを高いレベルで両立できた。さらに、難燃剤として、非ハロゲン系難燃剤(特にリン系難燃剤)を用いると、臭気の発生をも防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、本発明の集塵エレメントの一例を示す概略断面模式図である。
【符号の説明】
【0083】
1…イオン化部
2…対向電極部
3…イオン化線
4…コレクタ部
5…導電電極部
6…電圧印加電極部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、導電剤と、難燃剤とで構成されている集塵エレメント用導電部材。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂である請求項1記載の導電部材。
【請求項3】
導電剤が、導電性繊維と導電性粒子とで構成され、導電性粒子の割合が、導電性繊維1重量部に対して0.5〜5重量部である請求項1記載の導電部材。
【請求項4】
導電剤が炭素繊維及び導電性カーボンブラックであり、導電性カーボンブラックの割合が、炭素繊維1重量部に対して0.7〜4重量部である請求項3記載の導電部材。
【請求項5】
難燃剤が、リン系難燃剤であり、難燃剤の割合が、熱可塑性樹脂100重量部に対して30〜100重量部である請求項1記載の導電部材。
【請求項6】
熱可塑性樹脂と、半導電性成分と、難燃剤とで構成されている集塵エレメント用電圧印加部材。
【請求項7】
熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂である請求項6記載の電圧印加部材。
【請求項8】
半導電性成分が、10〜10Ω・cmの体積固有抵抗値を有する半導電性樹脂である請求項6記載の電圧印加部材。
【請求項9】
難燃剤が、リン系難燃剤であり、難燃剤の割合が、熱可塑性樹脂100重量部に対して30〜75重量部である請求項6記載の電圧印加部材。
【請求項10】
さらに、無機充填剤を含む請求項7記載の電圧印加部材。
【請求項11】
電圧が印加可能な請求項1記載の導電部材と請求項6記載の電圧印加部材とを組み合わせた集塵エレメントであって、前記導電部材と前記電圧印加部材とが対向して配設され、かつ前記導電部材と前記電圧印加部材との間に被処理気体が流通可能な流路が形成されている集塵エレメント。

【図1】
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【公開番号】特開2008−284515(P2008−284515A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134140(P2007−134140)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】