説明

集塵排気システム

【課題】集塵機を外部(ハザード区域外)又は内部(ハザード区域内)に設置する従来の集塵排気システムでは、外部環境へのハザード物質の放出や汚染の恐れや、製造室内の人体に対しての悪影響等、数々の問題点がある。
【解決手段】そこで、本発明では、このような問題点を解決するために、製造室1内に設置された製造装置6からの含塵空気を集塵処理する集塵機7を、製造室に隣接したメンテナンス用空間部2に設置すると共に、集塵機に隣接してチャンバー10を形成し、このチャンバー内に集塵機の排気口23を配置すると共に、その近傍に、外部への排気ダクト26に連なる吸込ユニット24を配置し、吸込ユニットにはHEPAフィルター28を設けた集塵排気システムを提案している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製剤工場、研究所等の製造室における集塵排気システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
製剤工場、研究所等のように、製造室(クリーンルーム)内に設置した製造装置により医薬品を製造する施設において、抗生物質や制癌剤など健常者にとっては有害となるハザード物質(粉体)を含む空気を外部環境へ排出する際には、集塵機により、ハザード物質を安全レベルまで濾過した後に排気することとしている。しかしながら、集塵機によりハザード物質の捕集、排気を行う際には、濾過後の空気の処理、排出方法、捕集物質の回収、取り扱い方法、フィルターの交換方法等において安全管理の面で多くの問題があり、適切な処理方法が求められている。
【0003】
このような施設における従来の集塵排気システムでは、図4に示すように集塵機を外部(ハザード区域外)に設置する場合と、図5に示すように集塵機を内部(ハザード区域内)に設置する場合とがある。
【0004】
これらの図において、符号101は製造室(クリーンルーム)、102は製造室101に隣接しているメンテナンス用空間部、103は廊下、104は外気処理ユニット、105はHEPAフィルター付き吹出口、106はHEPAフィルター付き排気吸込口、107は排気ファン、108は製造室101内に設置した製造装置を夫々示すものである。
【0005】
図4において、符号109は製造室101の外部(ハザード区域外)に設置した集塵機であり、集塵フード110を介して排気ファン111により吸引した含塵空気は、集塵ダクト112を経て集塵機109に至り、そこで集塵処理された後、密封交換型HEPAフィルター113を経て外部環境に放出される。
【0006】
また、図5において、符号114は製造室101の内部(ハザード区域内)に設置した室内設置用小型集塵機であり、集塵フード115を介して吸引した含塵空気は、個別集塵機114において集塵処理された後、HEPAフィルター116を経て製造室101内に放出している。
【0007】
尚、クリーンルームにおける集塵装置の従来技術としては、特許文献1や特許文献2に示すようなものがある。
【特許文献1】特開平5−52716号公報
【特許文献2】特開平11−156135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上述した従来の集塵排気システムでは、以下に示すような問題点がある。
まず、集塵機を外部(ハザード区域外)に設置する場合では、下記の問題点がある。
1.集塵機の排気口から外部環境にハザード物質を放出する恐れがあるため、排気口にHEPAフィルターを設置して対処しているが、このフィルターを交換する際に、通常の交換方法では漏洩の危険が避けられないため、このフィルターは上述したとおり密封交換型HEPAフィルター113としており、このため、高価であると共に、操作性が悪く、手間が掛かる。
2.集塵機により捕集したハザード物質を回収する際や、濾布を交換する際に外部環境に漏洩する恐れがあるため、この対策として、密封回収・交換型を採用しており、このため、高価であると共に、操作性が悪く、手間が掛かる。
3.集塵機が外部に設置されているため、製造室101内から集塵機109に至る集塵ダクト112が破損した場合には、ハザード物質が飛散することになる。また集塵ダクト112が長くなるため、ダクト内にハザード物質が残る可能性が高くなり、堆積したハザード物質が製造室内に逆流し、取り扱い物質が変わった際には交差汚染の原因となる。
4.製造室内の室圧を安定させるためには集塵機を常時稼動させる必要があり、省エネルギーに反することになる。
【0009】
次に、集塵機を内部(ハザード区域内)に設置する場合では、下記の問題点がある。
1.外部環境への影響を避けるため、除塵後の空気は、直接に外部に排気せず、図5に示すように、一旦、製造室内に放出するようにしているので、ハザード物質が製造室101全体に拡散して濃度が高まる恐れがあり、人体(作業員)への悪影響が懸念される。
2.このために集塵機114の下流側にHEPAフィルター116を設置しているが、外部環境対策として上述したとおり排気吸引口106にもHEPAフィルターを設置するため、2個所のHEPAフィルターの維持・管理が必要となる。
3.通常の室内設置用小型集塵機では、捕集したハザード物質を貯留する容器としてパン型が採用されているが、これを引き出して回収する際、ハザード物質が周りにこぼれたり、室内に飛散する等の不具合が生じる。
4.また集塵機を室内に設置するため、他の製造装置や機器類との取り合い、設置スペースの確保などの問題が生じる。
5.製造室内の室圧を安定させるためには集塵機を常時稼動させる必要があり、省エネルギーに反することになる。
そこで本発明では、このような問題点を解決した集塵排気システムを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために本発明では、製造室内に設置された製造装置からの含塵空気を集塵処理する集塵機を、製造室に隣接したメンテナンス用空間部に設置すると共に、集塵機に隣接してチャンバーを形成し、このチャンバー内に集塵機の排気口を配置すると共に、その近傍に、外部への排気ダクトに連なる吸込ユニットを配置し、吸込ユニットにはフィルターを設けた集塵排気システムを提案するものである。
【0011】
また本発明では、上記の構成において、チャンバーは、集塵機の側板と製造室の壁を区画要素とし、製造室の壁に点検扉を設け、この点検扉に開閉可能な吸込口を取り付けた構成を提案する。
【0012】
また本発明では、以上の構成において、集塵機は、製造室側から保守可能に構成した構成を提案する。
【0013】
また本発明では、以上の構成において、集塵機には下部にホッパー型ダストコレクターを配置し、下端に透明な捕集袋を気密的に装着可能に構成することを提案する。
【発明の効果】
【0014】
以上の本発明では、製造室内に設置された製造装置からの含塵空気は、集塵機において集塵処理された後、メンテナンス用空間部に、集塵機に隣接して形成されたチャンバー内に排気口から放出された後、吸込ユニットに吸引され、HEPAフィルターにより更に浄化された後に排気ダクトを流れて外部環境に排出される。
【0015】
集塵機及びHEPAフィルターは、製造室に隣接したメンテナンス用空間部に設置しているので、HEPAフィルターの交換、集塵機の濾布の交換及び捕集したハザード物質の回収をハザード区域内において行うことができる。
【0016】
従って集塵機を外部に設置する場合における、密封交換型HEPAフィルターや密封回収・交換型の集塵機は不要となり、またハザード物質に汚染された集塵ダクトが外部に存在しないため、破損したとしても外部環境が汚染されることはない。
【0017】
また集塵機を外部に設置する場合と比較して集塵ダクトの長さを短くすることができるので、ダクト内にハザード物質が残る可能性が低くなり、堆積したハザード物質が製造室内に逆流し、取り扱い物質が変わった際に交差汚染の原因となる可能性も低い。
【0018】
集塵機を停止して排気口からの風量が0となった場合には、チャンバーの点検扉に形成された吸込口を開として、集塵機の排気量と同等の風量を製造室内からチャンバー内に吸引することにより、製造室内からの排気量を常時一定に維持することができ、従って製造室内の室圧を集塵機のON−OFFに左右されることなく安定させることができる。
【0019】
含塵空気は、集塵機において集塵処理された後、集塵機に隣接して形成されたチャンバー内に排気口から放出された後、吸込ユニットに吸引されるので、集塵機からの排気が製造室内に拡散することがなく、人体への悪影響を防ぐことができ、またHEPAフィルターを吸込ユニットの一個所にのみ設ければ良いので、維持・管理が軽減される。
【0020】
集塵機は、例えば壁埋込型(ビルトイン型)に構成してメンテナンス用空間部に設置しているので、製造装置や機器類との取り合いや設置スペースの確保等の問題が生じない。
【0021】
集塵機には下部にホッパー型ダストコレクターを配置し、下端に透明な捕集袋を気密的に装着可能に構成し、これを外部から視認可能に構成すれば、ハザード物質の粉体が捕集袋に一杯になった際には、捕集袋をホッパー型ダストコレクターの下端から外して廃棄処分することができ、ハザード物質の回収を安全に容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態を図1〜図3を参照して説明する。
図1は本発明に係る集塵排気システムの構成及び動作を説明する系統図的説明図であり、図2は要部の説明的平面図、図3は要部の説明的正面図である。
これらの図において、符号1は製造室(クリーンルーム)、2は製造室1に隣接しているメンテナンス用空間部、3は廊下、4は外気処理ユニット、5はHEPAフィルター付き吹出口、6は製造室1に設置されている製造装置である。
【0023】
製造室1の側方に隣接するメンテナンス用空間部2には集塵機7を設置している。この集塵機7は壁埋込型(ビルトイン型)に構成したもので、製造室1側から保守可能に構成している。
【0024】
そしてメンテナンス用空間部2内には、集塵機7に隣接して、集塵機7の側板8と、製造室1の壁9を区画要素とするチャンバー10を形成している。即ち、チャンバー10は、集塵機7の側板8と、製造室1の壁9と、メンテナンス用空間部2の壁11、12と、床13、天井14の6面で区画されて形成され、製造室1の壁9には点検扉15が設けられている。そして点検扉15には開閉可能な吸込口16が取り付けられている。点検扉15と、それに取り付けられている開閉可能な吸込口16の具体的構成は適宜である。
【0025】
符号17は製造装置6の近傍に設置した集塵フードであり、この集塵フード17から集塵機7に集塵ダクト18を延設し、集塵機7の集塵ダクト接続口19に接続されている。
【0026】
図3に示すように集塵機7には、上部からファン20、濾布21、ホッパー型ダストコレクター22が設けられており、集塵機7の排気口23をチャンバー10内に配置している。
【0027】
そしてチャンバー10には、上記排気口23の近傍、この場合、対向位置に吸込ユニット24を配置している。吸込ユニット24は気密ダンパー25を介して排気ダクト26に接続されて、排気ファン27に連なっている。そして吸込ユニット24には、HEPAフィルター28が取り付けられている。
【0028】
以上の構成において、吸込ユニット24からは排気ファン27の運転により排気ダクト26を介して、常時一定の風量の空気が吸引、排気されており、チャンバー10内は負圧に維持されている。
【0029】
一方、製造室1内に設置された製造装置6からの含塵空気は、集塵フード17から集塵ダクト7を通って集塵機7に至り、そこで集塵処理、即ち濾布で濾過された後、排気口23からチャンバー10内に放出される。
【0030】
排気口23からチャンバー10内に放出された空気は、チャンバー10内で拡散する間もなく吸込ユニット24に吸引され、HEPAフィルター28により更に浄化された後に、排気ダクト26を流れて外部環境に排出される。
【0031】
集塵機7を停止して排気口23からの風量が0となった場合には、チャンバー10の点検扉15に形成された吸込口16を開として、集塵機7の排気量と同等の風量を製造室1内からチャンバー10内に吸引することにより、製造室1内からの排気量を常時一定に維持することができ、従って製造室1内の室圧を集塵機7のON−OFFに左右されることなく安定させることができる。
【0032】
集塵機7及びHEPAフィルター28は、製造室1に隣接したメンテナンス用空間部2に設置しているので、HEPAフィルター28の交換、集塵機7の濾布21の交換及びホッパー型ダストコレクター22に捕集したハザード物質の回収を、製造室1側から、即ち、ハザード区域内において行うことができる。
【0033】
従って集塵機7を外部に設置する場合における、上述した密封交換型HEPAフィルターや密封回収・交換型の集塵機は不要となり、またハザード物質に汚染された集塵ダクトが外部に存在しないため、破損したとしても外部環境が汚染されることはない。
【0034】
また集塵機7を外部に設置する場合と比較して集塵ダクト18の長さを短くすることができるので、集塵ダクト18内にハザード物質が残る可能性が低くなり、堆積したハザード物質が製造室1内に逆流し、取り扱い物質が変わった際に交差汚染の原因となる可能性も低い。
【0035】
製造装置6からの含塵空気は、集塵機7において集塵処理、即ち濾布21により濾過された後、チャンバー10内に放出され、拡散されることなく、吸込ユニット24に吸引されるので、集塵機7からの排気が製造室1内に拡散することがなく、人体への悪影響を防ぐことができる。またHEPAフィルター28は、吸込ユニット24の一個所にのみ設ければ良いので、コストが低減し、維持・管理が軽減される。
【0036】
集塵機7は、例えば壁埋込型(ビルトイン型)に構成してメンテナンス用空間部2に設置しているので、製造室1内の製造装置6や機器類との取り合いや設置スペースの確保等の問題が生じない。
【0037】
集塵機7には下部にホッパー型ダストコレクター22を配置し、下端に透明な捕集袋(図示省略)を気密的に装着可能に構成し、これを外部から視認可能に構成すれば、ハザード物質の粉体が捕集袋に一杯になった際には、捕集袋をホッパー型ダストコレクター22の下端から外して廃棄処分することができ、ハザード物質の回収を安全に容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は以上の通りであるので、集塵機を外部(ハザード区域外)又は内部(ハザード区域内)に設置する従来の集塵排気システムの問題点を解決して、上述した数々の効果を奏するものであり、従って、製剤工場、研究所等において、ハザード物質を取り扱う施設には勿論のこと、一般の製剤ライン等のように、ハザード物質を取り扱わない施設においても利用することができ、利用可能性が極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る集塵排気システムの構成及び動作を説明する系統図的説明図である。
【図2】本発明に係る集塵排気システムの要部の説明的平面図である。
【図3】本発明に係る集塵排気システムの要部の説明的正面図である。
【図4】従来の集塵排気システムの一例を説明する系統図的説明図である。
【図5】従来の集塵排気システムの他例を説明する系統図的説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 製造室(クリーンルーム)
2 メンテナンス用空間部
3 廊下
4 外気処理ユニット
5 HEPAフィルター付き吹出口
6 製造装置
7 集塵機
8 側板
9、11、12 壁
10 チャンバー
13 床
14 天井
15 点検扉
16 吸込口
17 集塵フード
18 集塵ダクト
19 集塵ダクト接続口
20 ファン
21 濾布
22 ホッパー型ダストコレクター
23 排気口
24 吸込ユニット
25 気密ダンパー
26 排気ダクト
27 排気ファン
28 HEPAフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造室内に設置された製造装置からの含塵空気を集塵処理する集塵機を、製造室に隣接したメンテナンス用空間部に設置すると共に、集塵機に隣接してチャンバーを形成し、このチャンバー内に集塵機の排気口を配置すると共に、その近傍に、外部への排気ダクトに連なる吸込ユニットを配置し、吸込ユニットにはHEPAフィルターを設けたことを特徴とする集塵排気システム。
【請求項2】
チャンバーは、集塵機の側板と製造室の壁を区画要素とし、製造室の壁に点検扉を設け、この点検扉に開閉可能な吸込口を取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の集塵排気システム。
【請求項3】
集塵機は、製造室側から保守可能に構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の集塵排気システム。
【請求項4】
集塵機には下部にホッパー型ダストコレクターを配置し、下端に透明な捕集袋を気密的に装着可能に構成したことを特徴とする請求項1〜3までのいずれか1項に記載の集塵排気システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−82696(P2008−82696A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223184(P2007−223184)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】