説明

集束イオンビームによる試料加工方法及び装置

【課題】高分子材料や有機材料等の熱に弱い材料の断面を、イオンビームの熱による影響を抑制し、かつ、短時間で加工可能な集束イオンビームによる高分子材料加工方法及び装置を実現する。
【解決手段】試料7から微小試料片を大電流イオンビームにより切り出す前に、微小試料18に熱影響を与えない小電流イオンビーム16により微小試料18の周囲に熱伝達抑制用の溝19を形成し、その後、形成した溝19の外周を大電流イオンビームにより微小試料片を切り出す。試料に熱影響を与えない小電流イオンビームにより微小試料片18を切り出すことも考えられるが、微小試料片18を切り出すまでに長時間を要する。試料7に熱影響を与えない小電流イオンビーム16による溝19の形成加工は、試料片の切り出し加工より短時間で終了可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡用の試料を集束イオンビームによって加工する試料加工方法、試料加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の特定断面についてのSEM観察やTEM観察には、高精度の断面形成加工技術や薄片試料加工技術が必須である。これを実現するために、集束イオンビーム(FIB)による加工法が定着している。
【0003】
集束イオンビーム装置による試料基板から微小試料を分離する方法としては、特許文献1や特許文献2に記載された技術がある。これらの技術では試料基板に集束イオンビーム装置で溝加工をし、微小試料の分離が可能である。
【0004】
また、特許文献3、4には、有機ガスを吹き付けながら、試料にイオンビームを照射し、アシストガスによる膜形成や導電性のパターンを生成して電気的接続を行う技術が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−52721号公報
【特許文献2】特開平11−108813号公報
【特許文献3】特開昭60−94728号公報
【特許文献4】特開昭61−245164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来技術における試料加工装置および方法では、半導体材料を加工する方法については配慮が見られるが、イオンビームの熱に弱く、この熱により変形又は変質しやすい高分子材料の加工方法については配慮されていない。
【0007】
このため、高分子材料や有機材料等の熱に弱い材料をイオンビームによる熱の影響を抑制して短時間で加工する方法や装置が望まれている。
【0008】
本発明の目的は、高分子材料や有機材料等の熱に弱い材料の断面を、イオンビームの熱による影響を抑制し、かつ、短時間で加工可能な集束イオンビームによる高分子材料加工方法及び装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は次のように構成される。
【0010】
集束イオンビームを照射して試料を加工する試料加工方法及び装置において、試料から取り出す試料片領域の周辺を集束イオンビームで溝加工し、形成された上記溝を含む試料片領域の周辺に、上記溝を形成した集束イオンビームより大きい電流の集束イオンビームを照射して上記試料から試料片を分離する。
【0011】
小電流の集束イオンビームにより試料片領域の周辺に形成された溝により、大電流の集束イオンビームからの熱の試料片への伝達が抑制される。さらに、上記溝の形成の際に、アシストガスを試料片に吹きつけ、または導電性プローブを試料片に接触させながら加工することで、前記試料片への伝熱が抑制される。
【発明の効果】
【0012】
イオンビームの熱による影響を抑制し、かつ、短時間で加工可能な集束イオンビームによる高分子材料加工方法及び装置を実現することができる。
【0013】
また、材料解析のスループットを向上することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、本発明が適用されるFIB装置1の概略構成図である。
【0016】
図1において、FIB装置1の鏡体部は、イオン銃2、コンデンサーレンズ3、絞り4、走査電極5、対物レンズ6を備えている。また、FIB装置1の試料室には、試料7を取り付けた試料ホルダ8の上方に、二次電子検出器9、試料7への保護膜の形成および試料台への試料7の固定のため、さらに、試料全体の導電性を保つためのデポジション銃10、FIB加工により作製した微小試料の運搬のため、および試料7の熱ダメージ、チャージアップ防止のための可動式導電性プローブ11が取り付けられている。
【0017】
二次電子検出器9には走査像表示装置12が接続されている。この走査像表示装置12は、走査電極制御部13を介して走査電極5に接続されている。また、可動式導電性プローブ11には、その位置制御のための可動式導電性プローブ制御装置14が接続されている。また、試料ホルダ8は、ホルダ制御部15に接続されている。また、FIB装置1は、絞り4を制御するための絞り制御部17を備えている。
【0018】
イオン銃2から放出されたイオンビーム16は、コンデンサーレンズ3と絞り4により収束され、対物レンズ6を通過し、試料7上に収束する。対物レンズ6上方の走査電極5は、走査電極制御部13の指示により、試料7に入射するイオンビーム16を偏向し走査させる。
【0019】
イオンビーム16が試料7に照射されると、試料7はスパッタされるとともに二次電子を発生する。発生した二次電子は、二次電子検出器9により検出され、走査像表示装置12に表示される。デポジション銃10より試料7方向に放出されたガスはイオンビーム16と反応し分解され、金属が試料7面上のイオンビーム16照射領域に堆積する。この堆積膜は、FIB加工前の試料7表面の保護膜の形成および微小試料片の試料台への固定、さらに、試料全体の導電性を保つために用いられる。
【0020】
図2は、本発明の第1の実施形態である集束イオンビームによる高分子材料加工方法における溝加工の説明模式図(図2の(a))および二次電子像(図2の(b))である。
【0021】
図2において、走査電極制御部13の制御に基き、高分子材料や有機材料等の熱に弱い試料7、例えば、ポリカーボネイト、ポリエチレンテレフタラート、ゴム等の試料の断面作製箇所18(試料片領域)の外形部位又はその近傍(周囲、周辺)に溝19を、例えば、0.1〜1nAで弱く、試料7に熱影響を与えないイオンビーム16で溝加工する。溝の深さは観察対象と同等、幅は最大イオンビーム径より太い程度に加工される。なお、イオンビーム16の強弱の調整は、イオンビーム絞り制御部17により行なわれる。イオンビーム絞り制御部17は、走査電極制御部13からの指令により、イオンビーム16の強弱を制御する。
【0022】
なお、溝19の深さは、切り出す観察対象である微片の厚みと同等であり、溝19の幅は、最大イオンビーム径より大となっている。
【0023】
次に、形成された溝の外周側、つまり、断面作製箇所18の周囲(溝19を含む試料領域の周辺)を大電流イオンビーム(例えば、30nA)で加工する。この場合、大電流イオンビームからの熱は、形成された溝により、その伝達が抑制され、溝の内周部には熱による損傷は受けず、微小試料片となるべき部位は大電流イオンビームからの熱熱による損傷は受けない。
【0024】
大電流イオンビームにより加工され、分離された微小試料片は、適切な取り出し部材により取り出され、走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡により観察される。
【0025】
以上のように、本発明の第1の実施形態によれば、試料7から微小試料片を大電流イオンビームにより切り出す前に、微小試料に熱影響を与えない小電流イオンビームにより微小試料の外形又は周囲に、熱伝達抑制用の溝を形成しておき、その後、形成した溝の外周部を大電流イオンビームにより微小試料片を切り出すように構成されている。
【0026】
したがって、高分子材料や有機材料等の熱に弱い材料の断面を、イオンビームの熱による影響を抑制し、かつ、短時間で加工可能な集束イオンビームによる高分子材料加工方法及び装置を実現することが可能となる。
【0027】
試料に熱影響を与えない小電流イオンビームにより微小試料片を切り出すことも考えられるが、微小試料片を切り出すまでに長時間を要する。
【0028】
試料に熱影響を与えない小電流イオンビームによる溝の形成加工は、試料片の切り出し加工より短時間で終了可能である。
【0029】
よって、本発明による微小試料片切り出し加工作業時間は、小電流イオンビームによる微小試料片切り出し加工作業時間より短くなる。
【0030】
なお、加工する溝の形状は、図2に示すような微小試料片を摘出するための形状に限らず、SEM断面観察用に一辺だけを溝加工してもよい。
【0031】
さらに、溝加工は集束イオンビーム加工装置で最終的に断面形成する場所を指定すれば自動で加工を行うことも出来る。
【0032】
また、図3に示すように、複数の四角形溝19a〜19dを組み合わせて、断面作製箇所18の周囲に溝を形成することも可能である。図3に示した方法を用いても図2で示した加工方法と同様の効果を得ることができる。
【0033】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態である集束イオンビームによる高分子材料加工方法における溝加工の説明模式図である。なお、FIB加工装置は、図1に示したものと同等となるので、図示及びその説明は省略する。
【0034】
図4において、本発明の第2の実施形態は、試料7の断面作製箇所18の断面近傍溝19をイオンビーム16で溝加工する際、デポジション銃10からアシストガス20を吹きつけながら加工する。アシストガス20は導電性ガスであるため、イオンビーム16を試料7に照射した際に発生する熱およびチャージアップを逃がし、断面作製箇所18に損傷は入らないようになっている。
【0035】
したがって、溝加工用のイオンビームは、第1の実施形態より大とすることができ、例えば、1〜3nAとすることができる。
【0036】
このため、第1の実施形態と比較して、短時間で溝加工を行なうことができる。
他の構成、動作は第1の実施形態と同様である。
【0037】
本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果を得ることができる他、上述したように、第1の実施形態より短時間で溝加工をい行なうことができるという効果がある。
【0038】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態である集束イオンビームによる高分子材料加工方法における溝加工の説明模式図である。なお、FIB加工装置は、図1に示したものと同等となるので、図示及びその説明は省略する。
【0039】
図5において、試料7の断面作製箇所18の断面近傍溝19をイオンビーム16で溝加工する際、可動式導電性プローブ11を試料7に接触させながら加工する。
【0040】
可動式導電性プローブ11は導電性であるため、この可動式導電性プローブ11を試料7に接触させておくと、イオンビーム16を試料7に照射した際に発生する熱およびチャージアップはプローブ11に伝達され、断面作製箇所18に損傷は入らないようになっているる。
【0041】
このため、溝加工用のイオンビームは、第1の実施形態より大とすることができ、例えば、0.5〜2nAとすることができる。
【0042】
このため、第1の実施形態と比較して、短時間で溝加工を行なうことができる。
他の構成、動作は第1の実施形態と同様である。
【0043】
本発明の第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果を得ることができる他、上述したように、第1の実施形態より短時間で溝加工をい行なうことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明が適用されるFIB装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態である集束イオンビームによる高分子材料加工方法における溝加工の説明模式図および二次電子像を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における他の溝加工方法説明図である。
【図4】本発明の第2の実施形態例である集束イオンビームによる高分子材料加工方法における溝加工の説明図である。
【図5】本発明の第3の実施形態例である集束イオンビームによる高分子材料加工方法における溝加工の説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1・・・FIB装置、2・・・イオン銃、3・・・コンデンサーレンズ、4・・・絞り、5・・・走査電極、6・・・対物レンズ、7・・・試料、8・・・試料ホルダ、9・・・二次電子検出器、10・・・デポジション銃、11・・・可動式導電性プローブ、12・・・走査像表示装置、13・・・走査電極制御部、14・・・可動式導電性プローブ制御装置、15・・・ホルダ制御部、16・・・イオンビーム、17・・・絞り制御部、18・・・断面作製箇所、19・・・断面近傍溝、20・・・アシストガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビームを照射して試料を加工する集束イオンビーム試料加工方法において、
試料から取り出す試料片領域の外形部位に集束イオンビームを照射して、溝を形成し、
形成された上記溝を含む試料片領域の外形部位の外周部に、上記溝を形成した集束イオンビームより大きい電流の集束イオンビームを照射して、
上記試料から試料片を分離する集束イオンビーム試料加工方法。
【請求項2】
請求項1記載の集束イオンビーム試料加工方法において、上記溝加工する集束イオンビームの幅は最大イオンビーム径より大であることを特徴とする集束イオンビーム試料加工方法。
【請求項3】
請求項1記載の集束イオンビーム試料加工方法において、上記集束イオンビームにより上記溝を形成する際に、アシストガスを上記試料に吹き付けることを特徴とする集束イオンビーム試料加工方法。
【請求項4】
請求項2記載の集束イオンビーム試料加工方法において、上記集束イオンビームにより上記溝を形成する際に、アシストガスを上記試料に吹き付けることを特徴とする集束イオンビーム試料加工方法。
【請求項5】
請求項1記載の集束イオンビーム試料加工方法において、上記集束イオンビームにより上記溝を形成する際に、導電性プローブを上記試料に接触させることを特徴とする集束イオンビーム試料加工方法。
【請求項6】
請求項2記載の集束イオンビーム試料加工方法において、上記集束イオンビームにより上記溝を形成する際に、導電性プローブを上記試料に接触させることを特徴とする集束イオンビーム試料加工方法。
【請求項7】
請求項1記載の集束イオンビーム試料加工方法において、上記試料の材料は、上記溝を形成した集束イオンビームより大きい電流の集束イオンビームからの伝熱により損傷を受ける材料であることを特徴とする集束イオンビーム試料加工方法。
【請求項8】
請求項7記載の集束イオンビーム試料加工方法において、上記試料の材料は、高分子材料又は有機材料であることを特徴とする集束イオンビーム試料加工方法。
【請求項9】
請求項8記載の集束イオンビーム試料加工方法において、上記高分子材料又は有機材料は、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタート、ゴムであることを特徴とする集束イオンビーム試料加工方法。
【請求項10】
集束イオンビーム試料加工装置において、
試料室内で試料が配置され、上記試料を移動する試料ステ−ジと、
集束イオンビームを上記試料ステージに配置された試料に照射する集束イオンビーム照射光学系と、
集束イオンビームの試料への走査を制御する走査制御部と、
上記集束イオンビームの照射によって試料から発生する二次粒子を検出する二次粒子検出器と、
上記集束イオンビームの照射部に形成するデポジション膜の原料ガスを供給するガス供給手段と、
可動式導電性プローブと、
上記走査制御部からの指令に基いて、集束イオンビームの大きさを制御する絞り制御部と、
を備え、上記走査制御部は、上記絞り制御部により集束イオンビームの大きさを所定値として、試料から取り出す試料片領域の周辺に集束イオンビームを照射させて溝を形成させ、形成された上記溝を含む試料片領域の周辺に、上記溝を形成した集束イオンビームより大きい電流の集束イオンビームを照射して、上記試料から試料片を分離することを特徴とする集束イオンビーム試料加工装置。
【請求項11】
請求項10記載の集束イオンビーム試料加工装置において、上記集束イオンビームにより上記溝を形成する際に、上記ガス供給手段からアシストガスを上記試料に吹き付けることを特徴とする集束イオンビーム試料加工装置。
【請求項12】
請求項10記載の集束イオンビーム試料加工装置において、上記集束イオンビームにより上記溝を形成する際に、導電性プローブを上記試料に接触させることを特徴とする集束イオンビーム試料加工装置。
【請求項13】
請求項10記載の集束イオンビーム試料加工装置において、上記試料の材料は、上記溝を形成した集束イオンビームより大きい電流の集束イオンビームからの伝熱により損傷を受ける材料であることを特徴とする集束イオンビーム試料加工装置。
【請求項14】
請求項13記載の集束イオンビーム試料加工装置において、上記試料の材料は、高分子材料又は有機材料であることを特徴とする集束イオンビーム試料加工装置。
【請求項15】
請求項14記載の集束イオンビーム試料加工装置において、上記高分子材料又は有機材料は、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタート、ゴムであることを特徴とする集束イオンビーム試料加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−162666(P2009−162666A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1669(P2008−1669)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】