説明

集束イオンビームを用いる微細部位解析装置および集束イオンビームを用いる微細部位解析方法

【課題】試料表面の分析部位における元素の挙動を解析するに際し、試料表面の分析部位の温度を簡便に素早く、精度良く測定する。
【解決手段】集束イオンビームを用いる微細部位解析装置において、イオン種がGaのGa集束イオンビーム3の前照射によって試料4の表面に注入されたGaを、試料4の表面温度の測定のための参照元素とし、分析時の試料4の表面の微細部位の温度を決定する。予め適当な試料4の表面温度毎にGa集束イオンビーム3を一定量試料4に前照射することにより試料4から放出された2次Gaイオンの収量を測定して、試料4の表面温度に対する2次Gaイオンの収量の関係を得る。この関係を一度調べれば、複数の試料4の分析時に、2次Gaイオンの収量を測定することで、試料4の表面の微細部位における温度を決定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビームを用いる微細部位解析装置および集束イオンビームを用いる微細部位解析方法に関し、特に、試料の表面温度を変化させながら試料の微細部位を解析するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
材料の微細部位における元素組成や量などを測定することは、材料の特性を評価する上で重要であり、特に材料製造プロセスにおいては様々な温度域での元素の挙動を知ることが重要である。材料の微細部位の解析を行うためには、例えば、集束イオンビームを用いた2次イオン質量分析法(FIB-SIMS)、透過電子顕微鏡、電子線マイクロアナライザ、オージェ電子分光法(AES)、光電子分光法等を用いることができる。この様な分析手法を用いて高温時の材料中の元素の挙動を知るために、従来は、例えば所望の温度まで加熱した後、急速冷却したものを分析試料としていた。あるいは、真空容器内で試料台の温度を参照しながら試料を加熱し、十分な温度平衡が得られた後、その場でAESによる分析を行うことによって、試料の元素の組成を調べていた(特許文献1を参照)。
【0003】
しかしながら、急速冷却による試料の作製では、微細部位の結晶構造の変化速度や母材中の添加元素の拡散係数によっては、必ずしも所望の温度での状態を反映しない場合があった。また、試料台の温度の測定のみでは試料の表面が温度平衡に達するまで長時間必要であり、さらに温度平衡に達するまでの試料の表面温度を正確に測定することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−308112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような実情に鑑みてなされたものであり、試料表面の分析部位における元素の挙動を解析するに際し、試料表面の分析部位の温度を簡便に素早く、精度良く測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置は、試料が置かれる試料台と、前記試料台に置かれた試料に対して集束イオンビームを照射する集束イオンビーム照射装置と、前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームが照射されることによって当該試料の表面から放出された2次イオンを質量分析する分析装置と、前記試料の表面が作る平面に対して検出面が水平になるように配置された2次電子検出器と、前記試料台、前記集束イオンビーム照射装置、前記分析装置、および前記2次電子検出器が内部に設置される真空容器と、前記試料を加熱する試料加熱器と、前記試料の表面温度と、前記2次イオンの収量との関係を示す温度変換情報を予め記憶する記憶手段と、前記質量分析のために前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームが照射されることによって当該試料の表面から放出された2次イオンの収量の測定値と、前記温度変換情報とに基づいて、当該試料の表面の分析部位の温度を決定する決定手段と、を具備し、前記分析装置は、前記試料加熱器により試料を常温以上に加熱しているときに、当該試料の表面から放出された2次イオンを質量分析することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置の他の態様例では、前記温度変換情報は、前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームを前照射することによって当該試料の表面から放出された2次イオンの収量と、そのときの当該試料の温度とに基づいて得られた情報であり、前記集束イオンビーム照射装置は、前記前照射したときと同じ条件で集束イオンビームを試料に対して全照射し、前記決定手段は、前記全照射によって試料の表面から放出された2次イオンの収量の測定値と、前記温度変換情報とに基づいて、当該試料の表面の分析部位の温度を決定することを特徴とする。
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置の他の態様例では、前記前照射は、照射フルエンスが5.0×1015個/cm2以下の条件で集束イオンビームを連続照射することにより行われることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置の他の態様例では、前記集束イオンビームが照射されることによって試料の表面から放出された2次イオンの収量が、当該試料の表面の分析部位の温度と比例関係を有することを特徴とする。
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置の他の態様例では、前記集束イオンビームのイオン種は、Gaイオンであり、当該集束イオンビームは、試料の表面においてビーム直径が50nm以下となるように集束されることを特徴とする。
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置の他の態様例では、前記真空容器は、その内部を、10-6Pa以下の真空度に保持することを特徴とする。
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置の他の態様例では、前記試料加熱器により加熱される試料の最高温度が1000℃であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置の他の態様例では、前記試料加熱器は、抵抗加熱器を備えることを特徴とする。
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置の他の態様例では、前記抵抗加熱器は、前記試料台に設置されていることを特徴とする。
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置の他の態様例では、前記試料台における試料を固定するための冶具は、材質が窒化硼素であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法は、試料台に置かれた試料に対して集束イオンビームを集束イオンビーム照射装置により照射する集束イオンビーム照射工程と、前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームが照射されることによって当該試料の表面から放出された2次イオンを分析装置により質量分析する分析工程と、前記試料の表面が作る平面に対して検出面が水平になるように配置された2次電子検出器によって、前記集束イオンビーム照射装置により照射された集束イオンビームが試料の表面を衝撃するときに放出される2次電子を検出する2次電子検出工程と、前記試料台、前記集束イオンビーム照射装置、前記分析装置、および前記2次電子検出器を真空容器の内部に設置して、当該真空容器の内部を所定の真空度に保つ真空工程と、前記試料を試料加熱器により加熱する試料加熱工程と、前記2次イオンの収量と、前記試料の表面温度と、前記2次イオンの収量との関係を示す温度変換情報を予め記憶する記憶工程と、前記質量分析のために前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームが照射されることによって当該試料の表面から放出された2次イオンの収量の測定値と、前記温度変換情報とに基づいて、当該試料の表面の分析部位の温度を決定する決定工程と、を具備し、前記分析工程は、前記試料加熱器により試料を常温以上に加熱しているときに、当該試料の表面から放出された2次イオンを質量分析することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法の他の態様例では、前記温度変換情報は、前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームを前照射することによって当該試料の表面から放出された2次イオンの収量と、そのときの当該試料の温度とに基づいて得られた情報であり、前記集束イオンビーム照射工程は、前記前照射したときと同じ条件で集束イオンビームを試料に対して全照射し、前記決定工程は、前記全照射によって試料の表面から放出された2次イオンの収量の測定値と、前記温度変換情報とに基づいて、当該試料の表面の分析部位の温度を決定することを特徴とする。
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法の他の態様例では、前記前照射は、照射フルエンスが5.0×1015個/cm2以下の条件で集束イオンビームを連続照射することにより行われることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法の他の態様例では、前記集束イオンビームが照射されることによって試料の表面から放出された2次イオンの収量が、当該試料の表面の分析部位の温度と比例関係を有することを特徴とする。
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法の他の態様例では、前記集束イオンビームのイオン種は、Gaイオンであり、当該集束イオンビームは、試料の表面においてビーム直径が50nm以下となるように集束されることを特徴とする。
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法の他の態様例では、前記真空工程は、前記真空容器の内部を、10-6Pa以下の真空度に保持することを特徴とする。
また、本発明の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法の他の態様例では、前記試料加熱器により加熱される試料の最高温度が1000℃であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料の表面温度と、2次イオンの収量との関係を示す温度変換情報を予め記憶しておき、質量分析時に2次イオンの収量を測定し、測定した2次イオンの収量と温度変換情報とに基づいて、試料の表面の分析部位の温度を決定するようにした。したがって、温度変換情報を一度作成しておけば、高価で高精度な温度測定機器がなくとも、安価で簡便に素早く、精度よく、質量分析時の試料の表面温度を測定できる。これにより、急速冷却や温度平衡状態に達するまでの元素挙動の不確かさは解消され、母材の温度に対するより正確な元素の挙動を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】微細部位解析装置の全体構成の一例を示す図である。
【図2】試料(FeにAlを6.1原子%添加した2元合金多結晶試料)の表面温度と2次Gaイオンの収量との関係の一例を示す図である。
【図3】計算した試料の表面温度と熱電対による試料4表面温度との関係の一例を示す図である。
【図4】試料(細粒鋼試料)の表面温度と、2次Feイオン及び2次Alイオンとの関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態の微細部位解析装置の全体構成の一例の概略を概念的に示す図である。図1に示す通り、微細部位解析装置は、主に、集束イオンビーム照射装置2と、試料台5と、XYZステージ6と、試料加熱器7と、分析装置8と、2次電子検出器9と、これら全体を覆う真空容器(図示省略)とを備えて構成される。なお、試料台5の上には試料4が置かれるので、試料台5は、水平に保たれることが好ましい。真空容器内は10-6Pa以下の真空度に保たれることが好ましい。
【0017】
集束イオンビーム照射装置2から照射される集束イオンビームは、イオン種がGaであるGaイオンビームが好ましく、試料4の表面でビーム直径が50nm以下となるように集束されることが望ましい。すなわち、Gaは現在最も収束性の高いイオン源であり、微細部の解析に最も適している。また、Gaは液体金属であり、Fe中の固溶度も小さく、拡散速度が大きいため、試料温度における表面偏析が即座に平衡に達する。そのため、試料温度の目安に最適である。
【0018】
XYZステージ6は、試料台5をXYZの3軸方向に平行移動させるモーター等からなるものであり、試料4の位置を補正するためのものである。これら計3軸の調整はコンピュータ制御されることが好ましい。また、加熱時でもXYZステージ6が低温に保たれるよう、XYZステージ6に対して、冷却水等による積極的な冷却が行われる。
【0019】
分析装置8は、集束イオンビーム照射装置2により照射された集束イオンビーム3が試料4の表面を衝撃するときに放出される2次イオン10を分析するために用いられる一般的な質量分析装置である。分析装置8としては、具体的には、四重極型2次イオン質量分析装置、飛行時間型2次イオン質量分析装置等、種々の装置が挙げられる。
【0020】
2次電子検出器9は、集束イオンビーム照射装置2により照射された集束イオンビーム3が試料4の表面を衝撃するときに放出される2次電子11を検出し、2次電子像として試料4の表面を観測するために用いられる一般的な2次電子検出器である。2次電子検出器9としては、具体的には、シンチレータと光電子増倍管とを組み合わせた検出器等が挙げられる。ここで、高温になった試料4の表面からの輻射光が極力2次電子検出器9の視野に入らないように、試料4から2次電子検出器9の検出面までの最短距離を175mm以上とし、且つ、2次電子検出器9の検出面が試料4の表面が作る平面に対して水平となるようにする。
【0021】
試料加熱器7は、一般的に入手可能なものが利用でき、例えば窒化硼素でコーティングされた抵抗加熱器である。この試料加熱器7を用いて、常温から1000℃の範囲で試料4を所望の温度に加熱する。そして、本実施形態の微細部位解析装置では、試料加熱器7は板状になっており、その上に試料4を設置する。試料加熱器7の温度は、試料加熱器7の下面に設置した熱電対12で測定し、温度制御を行う。
【0022】
試料4の表面の分析部位(微細部位)の温度の測定では、集束イオンビーム3の前照射によって試料4の表面に注入された集束イオンを温度測定のための参照イオンとして用いる。最初に、あらかじめ適当な「試料4の表面温度」毎に集束イオンビーム3を、入射エネルギーが30keV、照射フルエンスが5.0×1015個/cm2以下の条件で一定量連続照射することにより前照射を行い、その直後に2次イオン10の収量を分析装置8で測定して、試料4の表面温度に対する2次イオンの収量の関係(変換関数)を得る。この変換関数は、例えば分析装置8が備えるコンピュータシステム内に記憶される。
【0023】
照射フルエンスを5.0×1015個/cm2以下とするのは、以下の理由による。高真空中の測定とはいえ、加熱された鉄の表面は、吸着水、残留酸素等の影響で酸化される。そのため、5×1015個/cm2以下のGaを照射して、表面の酸化膜を除去するとともに、Gaが十分に試料4に注入されるようにする。このような条件を満たす範囲で集束イオンビーム3の照射フルエンスが適宜選択される。
一方、5.0×1015個/cm2を超える照射フルエンスの収束イオンビーム3を照射すると、Gaによる試料表面の粗度の増大効果が出てしまうため、質量分析の再現性が得にくくなる。質量分析時には、変換関数を求めたときと同じ条件で集束イオンビーム3を全照射し、その直後に、質量分析と同時に、参照元素である2次イオン10の収量も測定し、試料4の表面温度を決定する。試料4の表面温度は、例えば分析装置8によって決定することができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
本実施例では、FeにAlを6.1原子%添加した2元合金多結晶試料を試料4として使用し、2次イオン10として2次Gaイオンの収量を試料4の表面温度に変換するための変換関数を作成した。そして、その妥当性が示された。
【0025】
まず、試料加熱器7として抵抗加熱器が設置された試料台5に試料4を載せ、窒化硼素製の試料固定冶具で試料4を試料台5に固定する。室温の状態で、試料4の高さ、分析装置8の各部印加電圧等、分析条件の最適化を行った。分析条件の最適化に使用した集束イオンビーム3は、入射エネルギーが30keV、電流値が1nAの、パルス化したGaイオンビームである(パルスモード)。パルス周波数は10kHz、パルス幅は200nsに設定した。集束イオンビーム3の照射により放出される2次イオン10を質量分析する分析装置8は、全長1.3mのリフレクトロン型飛行時間質量分析装置である。本実施例において、分析装置8への引込み電圧が−3kVの時、Gaの飛行時間はおよそ36μsである。
【0026】
次に、従来の方法と同様に、あらかじめ熱電対12で測定して求めておいた試料4の表面温度と抵抗加熱器の下面温度との関係を参考にして、試料4の表面の温度を590℃に設定し、十分温度平衡に達するまで2時間程度、その状態を保持する。温度平衡に達したところで、前述した条件の集束イオンビーム3を使用して前照射を行った。集束イオンビーム3の視野を100μm四方に設定し、連続照射で照射フルエンスが3.6×1015個/cm2に達するまで1分間(min)前照射を行った。その後、パルスモードで照射し、2次Gaイオンの収量の測定を行った。同様の操作を試料4の表面の温度が660℃および735℃の場合について行い、試料4の表面温度と2次Gaイオンの収量との関係を座標にプロットした。図2は、その結果を示す図である。図2において、プロットした点21〜23に基づき、最小二乗法により直線を引き、各試料表面温度に対する2次Gaイオンの収量の対応関係(変換関数24)を得た。この結果から、590℃以上での試料4の表面温度Tと2次Gaイオンの収量Xとの関係(変換関数24)は、以下の(1)式のように一次関数で表すことができる。
T=aX+b ・・・(1)
図2に示す例では、直線の傾きaは−6.17×10-2℃/カウント、切片b(2次Gaイオンの収量Xが0となる試料4の表面温度)は800℃と決定できた。なお、「カウント」とは1次イオン一個当たりに発生する2次イオンの数を表す。
【0027】
その後、求められた変換関数24が分析視野中の表面状態(結晶方位分布や結晶粒径の違い)に依存しないこと示すために、新しい未加熱のFe−Al2元合金多結晶試料(FeにAlを6.1原子%添加)に試料4を入れ換え、熱電対12による従来の方法で試料4の温度を測りながら、590℃以上の各温度におけるGaイオンビーム前照射後の2次Gaイオンの収量の測定を行った。図2で得られた変換関数24を用いて、2次Gaイオンの収量から試料4の表面温度を計算し、計算した試料4の表面温度と熱電対12による試料4表面温度との関係を座標にプロットした。図3は、その結果を示す図である。図3において、これらのプロットした点31〜38は、横軸をX、縦軸をYとして、Y=Xの直線39の近傍に位置し、2次Gaイオンの収量から計算した温度は試料4の表面状態に依存せず、熱電対12による実測で得られた温度と±3℃以内で一致していることが確認できた。すなわち、前照射によって試料4の表面に注入されたGaは、母材の格子間に補足されていないため表面結合エネルギーが小さく、試料4の表面状態に依存しない。よって、2次Gaイオンの収量は温度によってのみ決定される「分析部位からのGaの拡散速度」の違いに依存するため、試料4の表面温度を測定することができる。
【0028】
(実施例2)
本実施例では、細粒鋼試料を試料4として用いて高温下でのFIB-SIMS測定を行い、FeとAlの2次イオンの収量の温度依存性を調べた。
まず、較正用の細粒鋼試料を用いて、実施例1と同様の手順で求めた傾きaは−8.06×10-2℃/カウント、切片bは710℃であった。
【0029】
次に、分析用の細粒鋼試料を用いて、高温下でのFIB-SIMS測定を行った。図4に示すように、試料4の表面温度を上げていくと、鋼の変態温度前後の700℃から750℃の間で、鋼の変態に伴うFeとAlの表面濃度の変化の様子が観察できた。すなわち、D4の温度を上げていく過程では、相変態温度域41(グレーで表示している領域)で鋼がbcc構造からfcc構造へ変化することによって鋼の表面の状態が変化するため、2次Feイオンの収量は増加する(グラフ42を参照)。その後、試料4の温度を下げると、2次Feイオンの収量は減少し、ほぼbcc構造のときに得られた値にもどった(グラフ42を参照)。一方、鋼中のAlは、試料4の温度を上げていく過程で表面への拡散によって徐々に増加するが、相変態後の鋼の構造変化に起因するAlの固溶限界濃度の低下によって急激に減少し、その後、試料4の温度を下げると増加した(グラフ43を参照)。ここで、横軸の試料4の表面温度は本実施形態の手法で決定した温度であり、各温度において昇温から測定終了までに要した時間は15分(min)である。
【0030】
以上のように本実施形態では、試料4の表面温度の測定に分析部位から放出される2次Gaイオンを用いているため、手早く簡便に精度良く分析時の試料4の表面温度を測定することが可能となる。すなわち、試料4の表面温度の測定のための参照元素であるGa(2次Gaイオンの収量)を、試料4の表面の元素の挙動の分析のときに測定するため、2次Gaイオンの収量と試料4の表面温度との相関関係を一度調べれば、高価で高精度な温度測定機器がなくとも、安価で簡便に素早く、精度よく、分析したその時の試料4の表面温度が測定できる。これにより、急速冷却や温度平衡状態に達するまでの元素の挙動の不確かさは解消され、母材の温度に対するより正確な元素挙動を知ることができる。
【0031】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々の形で実施することができる。
【符号の説明】
【0032】
2 集束イオンビーム照射装置
3 集束イオンビーム
4 試料
5 試料台
6 XYZステージ
7 試料加熱器
8 分析装置
9 2次電子検出器
10 2次イオン
11 2次電子
12 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が置かれる試料台と、
前記試料台に置かれた試料に対して集束イオンビームを照射する集束イオンビーム照射装置と、
前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームが照射されることによって当該試料の表面から放出された2次イオンを質量分析する分析装置と、
前記試料の表面が作る平面に対して検出面が水平になるように配置された2次電子検出器と、
前記試料台、前記集束イオンビーム照射装置、前記分析装置、および前記2次電子検出器が内部に設置される真空容器と、
前記試料を加熱する試料加熱器と、
前記試料の表面温度と、前記2次イオンの収量との関係を示す温度変換情報を予め記憶する記憶手段と、
前記質量分析のために前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームが照射されることによって当該試料の表面から放出された2次イオンの収量の測定値と、前記温度変換情報とに基づいて、当該試料の表面の分析部位の温度を決定する決定手段と、
を具備し、
前記分析装置は、前記試料加熱器により試料を常温以上に加熱しているときに、当該試料の表面から放出された2次イオンを質量分析することを特徴とする集束イオンビームを用いる微細部位解析装置。
【請求項2】
前記温度変換情報は、前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームを前照射することによって当該試料の表面から放出された2次イオンの収量と、そのときの当該試料の温度とに基づいて得られた情報であり、
前記集束イオンビーム照射装置は、前記前照射したときと同じ条件で集束イオンビームを試料に対して全照射し、
前記決定手段は、前記全照射によって試料の表面から放出された2次イオンの収量の測定値と、前記温度変換情報とに基づいて、当該試料の表面の分析部位の温度を決定することを特徴とする請求項1に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置。
【請求項3】
前記前照射は、照射フルエンスが5.0×1015個/cm2以下の条件で集束イオンビームを連続照射することにより行われることを特徴とする請求項2に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置。
【請求項4】
前記集束イオンビームが照射されることによって試料の表面から放出された2次イオンの収量が、当該試料の表面の分析部位の温度と比例関係を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置。
【請求項5】
前記集束イオンビームのイオン種は、Gaイオンであり、当該集束イオンビームは、試料の表面においてビーム直径が50nm以下となるように集束されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置。
【請求項6】
前記真空容器は、その内部を、10-6Pa以下の真空度に保持することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置。
【請求項7】
前記試料加熱器により加熱される試料の最高温度が1000℃であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置。
【請求項8】
前記試料加熱器は、抵抗加熱器を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置。
【請求項9】
前記抵抗加熱器は、前記試料台に設置されていることを特徴とする請求項8に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置。
【請求項10】
前記試料台における試料を固定するための冶具は、材質が窒化硼素であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析装置。
【請求項11】
試料台に置かれた試料に対して集束イオンビームを集束イオンビーム照射装置により照射する集束イオンビーム照射工程と、
前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームが照射されることによって当該試料の表面から放出された2次イオンを分析装置により質量分析する分析工程と、
前記試料の表面が作る平面に対して検出面が水平になるように配置された2次電子検出器によって、前記集束イオンビーム照射装置により照射された集束イオンビームが試料の表面を衝撃するときに放出される2次電子を検出する2次電子検出工程と、
前記試料台、前記集束イオンビーム照射装置、前記分析装置、および前記2次電子検出器を真空容器の内部に設置して、当該真空容器の内部を所定の真空度に保つ真空工程と、
前記試料を試料加熱器により加熱する試料加熱工程と、
前記試料の表面温度と、前記2次イオンの収量との関係を示す温度変換情報を予め記憶する記憶工程と、
前記質量分析のために前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームが照射されることによって当該試料の表面から放出された2次イオンの収量の測定値と、前記温度変換情報とに基づいて、当該試料の表面の分析部位の温度を決定する決定工程と、
を具備し、
前記分析工程は、前記試料加熱器により試料を常温以上に加熱しているときに、当該試料の表面から放出された2次イオンを質量分析することを特徴とする集束イオンビームを用いる微細部位解析方法。
【請求項12】
前記温度変換情報は、前記集束イオンビーム照射装置から試料に集束イオンビームを前照射することによって当該試料の表面から放出された2次イオンの収量と、そのときの当該試料の温度とに基づいて得られた情報であり、
前記集束イオンビーム照射工程は、前記前照射したときと同じ条件で集束イオンビームを試料に対して全照射し、
前記決定工程は、前記全照射によって試料の表面から放出された2次イオンの収量の測定値と、前記温度変換情報とに基づいて、当該試料の表面の分析部位の温度を決定することを特徴とする請求項11に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法。
【請求項13】
前記前照射は、照射フルエンスが5.0×1015個/cm2以下の条件で集束イオンビームを連続照射することにより行われることを特徴とする請求項12に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法。
【請求項14】
前記集束イオンビームが照射されることによって試料の表面から放出された2次イオンの収量が、当該試料の表面の分析部位の温度と比例関係を有することを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法。
【請求項15】
前記集束イオンビームのイオン種は、Gaイオンであり、当該集束イオンビームは、試料の表面においてビーム直径が50nm以下となるように集束されることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法。
【請求項16】
前記真空工程は、前記真空容器の内部を、10-6Pa以下の真空度に保持することを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法。
【請求項17】
前記試料加熱器により加熱される試料の最高温度が1000℃であることを特徴とする請求項11〜16のいずれか1項に記載の集束イオンビームを用いる微細部位解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−13619(P2012−13619A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152290(P2010−152290)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】