説明

集束イオンビーム装置

【課題】イオン源のイオン種切り替えを容易に行い、用途に合わせて適切なイオン種を用いること。
【解決手段】ガス種毎に、チップの設定温度と、イオン源ガスのガス圧力と、引出電極に印加する引出電圧と、コントラストの設定値と、ブライトネスの設定値と、を記憶する記憶部302と、ガス種を選択し入力する入力部106と、入力したガス種に対応する設定温度と、ガス圧力と、引出電圧と、コントラストの設定値と、ブライトネスの設定値と、を記憶部302から読み出し、それぞれヒーター1bと、ガス制御部104と、電圧制御部27と、観察像の調整部303を設定する制御部301と、を備えている集束イオンビーム装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電界電離型イオン源を備えた集束イオンビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、集束イオンビーム装置のイオン源として液体金属ガリウムが用いられている。集束イオンビーム装置は、ガリウムを用いることで安定したビームを照射することができるため、リソグラフィーに用いるマスクの欠陥修正や透過電子顕微鏡の試料作製などに用いられている。しかし、イオンビーム照射後の試料にガリウムが残留してしまうことが問題となっている。
【0003】
また、非金属イオン種を用いた装置として、微細なチップにイオン源ガスを供給して、チップ先端に形成された強力な電界により、チップに吸着したイオン源ガス種をイオン化し、イオンビームを引き出す電界電離型イオン源を用いた集束イオンビーム装置も開発されている(特許文献1参照)。このように構成された装置によれば、非金属のガスイオンをイオン源に用いるのでビーム照射後に試料に金属が残留する問題は起こらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−192669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の集束イオンビーム装置では、イオン源のイオン種を切り替えることが容易ではなかったため、単一のイオン種を用いていた。そのため、加工と観察の両方で同じイオン種を用いなければならなかった。
【0006】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、イオン源のイオン種切り替えを容易に行い、用途に合わせて適切なイオン種を用いることができる集束イオンビーム装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明に係る集束イオンビーム装置は、針状のチップと、チップを加熱し、チップ温度を調整するヒーターと、チップに複数のガス種のイオン源ガスを供給するイオン源ガス供給部と、チップからイオンを引き出す引出電極と、イオンを集束するレンズ系と、レンズ系で集束したイオンビームを照射する試料を載置する試料ステージと、試料から放出した二次荷電粒子を検出する検出器と、検出器の検出信号から試料の観察像を形成する像形成部と、観察像を表示する表示部と、観察像のコントラストとブライトネスを調整する調整部とを有する集束イオンビーム装置において、ガス種毎に、チップの設定温度と、イオン源ガスのガス圧力と、引出電極に印加する引出電圧と、コントラストの設定値と、ブライトネスの設定値と、を記憶する記憶部と、ガス種を選択し入力する入力部と、入力したガス種に対応するチップの設定温度と、ガス圧力と、引出電圧と、コントラストの設定値と、ブライトネスの設定値と、を記憶部から読み出し、それぞれヒーターと、イオン源ガス供給部と、引出電極と、調整部を設定する制御部と、を有する。これにより、ガス種毎に、チップの設定温度と、イオン源ガスのガス圧力と、引出電極に印加する引出電圧と、コントラストの設定値と、ブライトネスの設定値を事前に設定し、ガス種を切り替えた場合に、切り替えたガス種に対応したチップの設定温度と、イオン源ガスのガス圧力と、引出電極に印加する引出電圧と、コントラストの設定値と、ブライトネスの設定値を制御部で読み出し、制御部からヒーターと、イオン源ガス供給部と、引出電極と、調整部にそれぞれの設定値を設定することができる。
【0008】
また、本発明に係る集束イオンビーム装置は、記憶部がガス種毎にブランキング電極に電圧印加するタイミングの設定値を記憶し、制御部がガス種に対応するタイミングの設定値をブランキング電極に設定する。これにより、ガス種毎に、適切なブランキング電極に電圧印加するタイミングを記憶部に記憶し、ガス種を切り替えた場合に、タイミングの設定値を制御部が読み出し、制御部からブランキング電極に設定することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る集束イオンビーム装置によれば、イオン種切り替えを容易に行うことができるので、用途に合わせて適切なイオン種を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る集束イオンビーム装置の構成図である。
【図2】本発明に係る集束イオンビーム装置のイオン源の構成図である。
【図3】本発明に係る集束イオンビーム装置のシステム制御系の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る集束イオンビーム装置の実施形態について説明する。
本実施形態の集束イオンビーム装置は、図1に示すように、針状のチップ1と、チップ1にガスを供給するイオン源用ガスノズル2、102と第一のイオン源用ガス供給源3と第二のイオン源用ガス供給源103とガス供給を制御するガス制御部104からなるガス供給部と、チップ1との間で電圧を印加し、チップ1の表面に吸着したガスをイオン化してイオンを引き出す引出電極4と、イオンを試料13に向けて加速させるカソード電極5からなるイオン銃部19を備えている。そして、試料13にイオンビーム11を集束させる集束レンズ電極6と対物レンズ電極8からなるレンズ系を備えている。また、集束レンズ電極6と対物レンズ電極8の間に開口部7aを有するアパーチャ7を備えている。また、アパーチャ7は開口径の異なる開口部を備えている(図示せず)。異なる大きさの開口径を選択し、ビーム軸上に設置することで、通過するイオンビーム11のビーム量を調整することができる。そして、イオン銃部19を装置の外側からレンズ系に対して相対的に移動可能な調整機構20を備える。
【0012】
また、イオン銃部19より試料13側に位置し、イオン銃部19から放出されたイオンビーム11の照射方向を調整するガンアライメント電極9を有している。また、試料13にイオンビーム11を照射しない場合、イオンビーム11を試料13に到達させないようにイオンビーム11を偏向するブランキング電極105を有している。そして、試料室15の内部は真空状態になっており、試料13を載置し移動可能な試料ステージ12と試料13にデポジションやエッチングガスを供給するガス銃18と、試料13から発生する二次荷電粒子を検出する検出器14を備えている。ここで、図示していないが、試料室15とイオン銃19の真空を仕切るバルブを備えている。また、集束イオンビーム装置を制御するシステム制御部16を備え、検出器14で検出した検出信号とイオンビームの走査信号より観察像を形成する像形成部304をシステム制御部16内に有しており、形成した観察像を表示部17に表示する。また、ガス種などのビーム照射条件を入力する入力部106を備える。
【0013】
(1)電界電離型イオン源
電界電離型イオン源は、図2に示すように、イオン発生室21と、チップ1と、引出電極4と、冷却装置24とを備えている。
【0014】
イオン発生室21の壁部に冷却装置24が配設されており、冷却装置24のイオン発生室21に臨む面に針状のチップ1が装着されている。チップ1はチップ1を支持するブロック1cに備え付けられたヒーター1bに電流を流すことによりチップを加熱し、チップ温度を調整する機構を備えている。また、チップ1の温度を検出するセンサー(図示せず)も備えている。冷却装置24は、内部に収容された液体窒素、液体ヘリウム等の冷媒によってチップ1を冷却するものである。また冷却装置24としてGM型、パルスチューブ型等のクローズドサイクル式冷凍機、ガスフロー型の冷凍機を使用しても良い。さらに温調機能を備えてイオン種に応じて最適な温度に調整可能とする。そして、イオン発生室21の開口端近傍に、チップ1の先端1aと対向する位置に開口部を有する引出電極4が配設されている。
【0015】
イオン発生室21は、図示略の排気装置を用いて内部が所望の高真空状態に保持されるようになっている。図示していないが、試料室15とイオン銃20の真空度の差を作るためのオリフィスを複数個備えている。このオリフィスにより、試料室へのイオン化ガスの流入、また試料室に導入するガスのイオン銃室への流入を防いでいる。イオン発生室21には、イオン源用ガスノズル2またはイオン源用ガスノズル102を介して第一のイオン源用ガス供給源3または第二のイオン源用ガス供給源103が接続されており、どちらか、または両方のイオン源用ガスノズルからイオン発生室21内に微量のガス(例えば、Arガス)を供給するようになっている。ガス制御部104はバルブ112とバルブ122の開閉制御を行い、ガス供給を制御する。また、バルブ112とバルブ122で流量調整することも可能である。
【0016】
なお、イオン源用ガス供給源3から供給されるガスは、Arガスに限られるものではなく、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)等のガスであってもよい。また、イオン源用ガス供給源3から複数種のガスを供給可能に構成し、用途に応じてガス種を切り替えたり、1種類以上を混合したりすることができるようにしてもよい。
【0017】
チップ1は、タングステンやモリブデンからなる針状の基材に、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、金等の貴金属を被覆したものからなる部材であり、その先端1aは原子レベルで尖鋭化されたピラミッド状になっている。別にチップ1は、タングステンやモリブデンからなる針状の基材を図示しない窒素ガスや酸素ガスを導入することにより、その先端1aを原子レベルで尖鋭化したものを使用しても良い。またチップ1は、イオン源の動作時には冷却装置24によって100K程度以下の低温に保持される。チップ1と引出電極4との間には、電圧供給部27によって引出電圧が印加されるようになっている。
【0018】
チップ1と引出電極4との間に電圧が印加されると、鋭く尖った先端1aにおいて非常に大きな電界が形成されるとともに、分極してチップ1に引き寄せられたガス分子25が、先端1aのうちでも電界の高い位置で電子をトンネリングにより失ってガスイオンとなる。そして、このガスイオンが正電位に保持されているチップ1と反発して引出電極4側へ飛び出し、引出電極4の開口部からレンズ系へ射出されたイオン11aがイオンビーム11を構成する。ここで、引出電極4とチップ1の先端の中心位置は10ミクロンメートル以内であることが好ましい。またチップ1と引出電極4の間に、チップ1に対して負電位を与える抑制電極を設けても良い。
【0019】
チップ1の先端1aは極めて尖鋭な形状であり、ガスイオンはこの先端1a上方の限られた領域でイオン化されるため、イオンビーム11のエネルギー分布幅は極めて狭く、例えば、プラズマ型ガスイオン源や液体金属イオン源と比較して、ビーム径が小さくかつ高輝度のイオンビームを得ることができる。
【0020】
なお、チップ1への印加電圧が大きすぎると、ガスイオンとともにチップ1の構成元素(タングステンや白金)が引出電極4側へ飛散するため、動作時(イオンビーム放射時)にチップ1に印加する電圧は、チップ1自身の構成元素が飛び出さない程度の電圧に維持される。
【0021】
一方、このようにチップ1の構成元素を操作できることを利用して、先端1aの形状を調整することができる。例えば、先端1aの最先端に位置する元素を故意に取り除いてガスをイオン化する領域を広げ、イオンビーム径を大きくすることができる。
【0022】
またチップ1は、加熱することで表面の貴金属元素を飛び出させることなく再配置させることができるため、使用により鈍った先端1aの尖鋭形状を回復することもできる。
【0023】
(2)イオン銃部
図1に示すように、イオン銃部19は、上記電界電離型イオン源と引出電極4を通過したイオン11aを試料13に向けて加速させるカソード電極5とを備えている。そして、イオン銃部19は調整機構20と接続されている。調整機構20は真空外部からイオン銃部19をレンズ系に対して相対的に移動する。これによりレンズ系に入射するイオンビーム11の位置を調整することができる。
【0024】
(3)レンズ系
レンズ系は、チップ1側から試料13側に向けて順に、イオンビーム11を集束する集束レンズ電極6と、イオンビーム11を絞り込むアパーチャ7と、イオンビーム11の光軸を調整するアライナ(図示せず)と、イオンビーム11の非点を調整するスティグマ(図示せず)と、イオンビーム11を試料13に対して集束する対物レンズ電極8と、試料上でイオンビーム11を走査する偏向器(図示せず)とを備えて構成される。
【0025】
このような構成の集束イオンビーム装置では、ソースサイズ1nm以下、イオンビームのエネルギー広がりも1eV以下にできるため、ビーム径を1nm以下に絞ることができる。図示していないがイオンの原子番号を選別するためのExB等のマスフィルターを備えていても良い。
【0026】
(4)ガス銃
ガス銃18は、試料13表面にデポジション膜の原料ガス(例えば、フェナントレン、ナフタレンなどのカーボン系ガス、プラチナやタングステンなどの金属を含有する金属化合物ガスなど)を原料容器からノズルを通して供給する構成になっている。
【0027】
また、エッチング加工を行う場合は、エッチングガス(例えば、フッ化キセノン、塩素、ヨウ素、三フッ化塩素、一酸化フッ素、水など)を原料容器からノズルを通して供給することができる。
【0028】
(5)イオン源用ガス切り替え制御
イオン源用のガスを切り替えるとき、イオンビーム照射、像観察に関する条件を適切に切り替える必要がある。引出電圧については、ガス種により電界電離強度が異なるため、最大電流密度が得られる引出電圧が異なる。チップ温度については、ガス種によりチップの最適動作温度が異なる。ガス圧力については、ガス種により放電開始圧力が異なるため、最大電流密度が得られるガス圧が異なる。ブランキングのタイミングについては、ガス種によって質量が異なるため、チップから試料に到達するまでのイオンの飛行時間が異なる。従って、ブランキング電極に電圧印加するタイミングが異なる。また、観察像のコントラストとブライトネスについては、照射するイオン種によって試料から放出される二次電子の発生効率が異なるため、像観察に適当なコントラストとブライトネスの設定値は異なる。
【0029】
そこで、引出電圧、チップ温度、ガス圧力、ブランキングのタイミング、観察像のコントラストとブライトネスの設定値を、ガス種を切り替える際に切り替える。図3に示すように、入力部106からガス種毎の設定値をシステム制御部16内の制御部301に入力する。入力した設定値は記憶部302に記憶される。ガス種を切り替える際に、制御部301で記憶部302に記憶された設定値を読み出す。そして、読み出した設定値を制御部301から、ガス制御部104、ヒーター1b、電圧制御部27、ブランキング電極105、観察像のコントラストとブライトネスを調整する調整部303に送る。このようにガス種毎にあらかじめ最大電流密度が得られ、像観察可能な設定値を記憶させ、ガス切り替えの際に設定値を切り替えることで、ガス種毎にビーム照射と観察に最適な条件を自動的に設定することができる。
【0030】
<実施例>
ガス種としてヘリウムからアルゴンに切り替える実施例について説明する。
(1)事前設定
イオンビームの電流量はチップ温度がガスの沸点付近まで冷却すると著しく増加し、沸点以下に冷却すると減少する。従って、イオンビーム電流量を大きくとるためにはガスの沸点付近にチップ温度を制御することが好ましい。ヘリウム、アルゴンの沸点をそれぞれのガスにおけるチップ温度として記憶部302に記憶する。
【0031】
ここで、イオンビームの電流量はイオン発生室21のガス圧力に比例して増加する。しかし、ガス圧力が高くなるとチップ1が放電し、破損する可能性も増大する。ヘリウム、アルゴンのそれぞれの放電開始圧力を記憶部302に記憶させ、イオン発生室21のガス圧力が放電開始圧力を越えた場合は、引出電圧の印加を停止する信号を制御部301から電圧制御部27に送り電圧印加を停止する。
【0032】
ガスの質量mに対して、チップ1から試料13に到達するまでのイオンビーム11の飛行時間はm1/2に比例する。従って、ガス種によってブランキング電極9に電圧を印加するタイミングを変更する必要がある。ここで、ブランキング電極は、次のような働きをする。イオンビーム照射時間を設定した場合、制御部301は、設定したイオンビーム照射時間の期間のみイオンビーム11を試料13に照射し、照射時間を越えたときは、ブランキング電極9に電圧を印加してイオンビーム11を偏向し、試料13に到達することを防ぐ。そして、イオンビーム照射時間の期間のみイオンビーム11を試料13に照射する場合、ブランキング電極9に電圧を印加するタイミングは、ブランキング電極9と試料13の間の距離を飛行するイオンビーム11の飛行時間を考慮しなければならない。つまり、ブランキング電圧を印加しても、ブランキング電極9と試料13の間を飛行中のイオンビーム11は試料13に照射されてしまうためである。よって、イオンビーム照射を開始してブランキング電圧を印加するまでの時間は、(イオンビーム照射時間)−(ブランキング電極9と試料13との間をイオンビームが飛行する時間)となる。これより、ヘリウム、アルゴンのそれぞれのブランキングのタイミングを記憶部302に記憶し、ガスを切り替えた際に制御部301は記憶部302から読み出し、読み出したブランキングのタイミングでブランキング電極9に電圧を印加する指示を送る。
【0033】
(2)ヘリウムガスの条件設定
まず、チップ1の先端にピラミッド構造を形成する。これは、チップ1を700℃で5分間アニールすることにより行う。次に、チップ1の温度を記憶部302に記憶したヘリウムの沸点温度にする。チップ1の温度はセンサーで検出される。チップ1は冷却装置24により冷却されているので、制御部301からヒーター1bに指示を出し、ヒーター1bを加熱することで、チップ1の温度がヘリウムの沸点温度となるように調整する。そして、ヘリウムガスをイオン発生室21の真空度が10-3Paになるように制御部301からガス制御部104に指示を出す。ガス制御部104は、第一のイオン源用ガス供給源3からバルブ112を制御し、イオン源用ガスノズル102を介してヘリウムガスをイオン発生室21に供給する。そして、イオンビーム11を放出させてFIM像を観察する。引出電圧を徐々に増加させるにつれ、チップ1の先端が一つの原子でできたシングルのパターン、三つの原子でできたトリマーのパターン、さらに三回対称のピラミッドの稜線パターンと変化していくことをFIM像で確認する。これによりチップ1の先端にピラミッド構造が形成できたことを確認した。ここで、上記の変化が確認できない場合は、再度チップ1をアニールし、FIM像で確認する。次に、先端にピラミッド構造が形成されたことを確認できた場合、チップ1の先端がシングルになったときの引出電圧とトリマーになったときの引出電圧をそれぞれ記憶しておく。そして、再度チップ1をアニールし、ピラミッド構造を形成する。次に、引出電圧を、シングルになったときの引出電圧からトリマーになったときの引出電圧まで徐々に増加させ、そのときに放出されたイオンビーム11の電流量を測定する。そして、シングルで最大のイオンビーム電流量になったときの引出電圧をヘリウムガス用の引出電圧として記憶部302に記憶する。
【0034】
次に、引出電圧をヘリウムガス用の引出電圧に設定し、ヘリウムガスを放電開始圧力付近になるまで徐々に追加導入する。このときのイオンビーム11の電流量を測定し、最大になったときのガス圧力をヘリウムガス用のガス圧力として記憶部302に記憶する。
【0035】
次に、イオンビーム11を試料13に走査照射し、試料13から発生する二次電子を検出器14で検出し、像形成部304で観察像を形成し、表示部304に表示する。表示された観察像を確認しながら、観察に適当なコントラストとブライトネスになるように調整する。このとき調整したコントラストとブライトネスの設定値をヘリウムガス用のコントラストとブライトネスの設定値として記憶部302に記憶する。
【0036】
以上によりヘリウムガス用の引出電圧、チップ温度、ガス圧力、コントラストとブライトネスの設定値を記憶部302に設定することができた。
【0037】
(3)アルゴンガスの条件設定
次に、引出電圧を0Vにする。次にイオン発生室21のヘリウムガスを排気する。そしてチップ1の温度を記憶部302に記憶したアルゴンの沸点温度となるように制御部301からヒーター1bに指示を出し、調整する。そして、アルゴンガスをイオン発生室21の真空度が10-3Paになるように制御部301からガス制御部104に指示を出す。ガス制御部104は、第二のイオン源用ガス供給源103からバルブ122を制御し、イオン源用ガスノズル2を介してアルゴンガスをイオン発生室21に供給する。次にアルゴンガス用の引出電圧を設定する。ガスがイオン化するのに必要な電界電離強度はガス種毎で決まっており、アルゴンガス用の引出電圧は、(ヘリウムガス用の引出電圧)・(アルゴンの電界電離強度)/(ヘリウムの電界電離強度)と表される。この関係式より求めたアルゴンガス用の引出電圧を記憶部302に記憶する。実際に上記関係式で求めたアルゴンガス用の引出電圧に設定した後、その引出電圧付近で引出電圧を変化させて、イオンビーム11の電流量を測定することで、最大の電流量が得られた引出電圧をアルゴンガス用の引出電圧として再度設定することも可能である。
【0038】
次に、引出電圧をアルゴンガス用の引出電圧に設定し、アルゴンガスを放電開始圧力付近になるまで徐々に追加導入する。このときのイオンビーム11の電流量を測定し、最大になったときのガス圧力をアルゴンガス用のガス圧力として記憶部302に記憶する。
【0039】
次にイオンビーム11を試料13に走査照射し、試料13から発生する二次電子を検出器14で検出し、像形成部304で観察像を形成し、表示部304に表示する。表示された観察像を確認しながら、観察に適当なコントラストとブライトネスになるように調整する。このとき調整したコントラストとブライトネスの設定値をアルゴンガス用のコントラストとブライトネスの設定値として記憶部302に記憶する。
【0040】
以上によりアルゴンガス用の引出電圧、チップ温度、ガス圧力、コントラストとブライトネスの設定値を記憶部302に設定することができた。
【0041】
また、イオン発生室21に設置した真空ゲージ(図示せず)は、ガス種によって検出感度が異なる。そこで、ガス種により真空ゲージの示す真空度の換算するために、換算値をガス種毎に記憶部302に記憶させる。ガス種を切り替える際に制御部301は記憶部302から換算値を読み出し、真空度を換算して表示部17に表示する。
【0042】
(4)ガス切り替え
制御部301は記憶部302からヘリウムガス用の設定条件を読み出し、ガス制御部104、ヒーター1b、電圧制御部27、ブランキング電極105、観察像のコントラストとブライトネスを調整する調整部303に送り設定する。これによりチップ1からヘリウムイオンビームを試料13に照射し、試料13の観察を実施する。つぎに、入力部106からガス種をアルゴンに切り替える指示を制御部301に送る。制御部301は記憶部302からアルゴンガス用の設定条件を読み出し、ガス制御部104、ヒーター1b、電圧制御部27、ブランキング電極105、観察像のコントラストとブライトネスを調整する調整部303に送り設定する。引出電圧を0Vにして、イオン発生室21のヘリウムガスを排気し、アルゴンガスを導入する。この間ヒーター1bは加熱した状態にしておく。これによりチップ1に不純物が吸着することを防ぐことができる。そして、チップ1からアルゴンイオンビームを試料13に照射し、試料13の加工を実施する。
【0043】
このように、事前にガス種に対応した設定条件を記憶し、ガス種毎に設定、実行することでチップを放電させることなく、スムーズにガス種を切り替え、最適な条件でイオンビームを試料に照射することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…チップ
1a…先端
1b…ヒーター
2、102…イオン源用ガスノズル
3…第一のイオン源用ガス供給源
4…引出電極
5…カソード電極
6…集束レンズ電極
7…アパーチャ
7a…開口部
8…対物レンズ電極
9…ガンアライメント
11…イオンビーム
12…試料ステージ
13…試料
14…検出器
15…試料室
16…システム制御部
17…表示部
18…ガス銃
19…イオン銃部
20…調整機構
21…イオン発生室
24…冷却装置
25…ガス分子
27…電圧供給部
103…第二のイオン源用ガス供給源
104…ガス制御部
105…ブランキング電極
106…入力部
112、122…バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針状のチップと、チップを加熱し、チップ温度を調整するヒーターと、チップに複数のガス種のイオン源ガスを供給するイオン源ガス供給部と、チップからイオンを引き出す引出電極と、イオンを集束するレンズ系と、レンズ系で集束したイオンビームを照射する試料を載置する試料ステージと、試料から放出した二次荷電粒子を検出する検出器と、検出器の検出信号から試料の観察像を形成する像形成部と、観察像を表示する表示部と、観察像のコントラストとブライトネスを調整する調整部とを有する集束イオンビーム装置において、
前記ガス種毎に、前記チップの設定温度と、前記イオン源ガスのガス圧力と、前記引出電極に印加する引出電圧と、前記コントラストの設定値と、前記ブライトネスの設定値と、を記憶する記憶部と、
前記ガス種を選択し入力する入力部と、
入力した前記ガス種に対応する前記設定温度と、前記ガス圧力と、前記引出電圧と、前記コントラストの設定値と、前記ブライトネスの設定値と、を前記記憶部から読み出し、それぞれ前記ヒーターと、前記イオン源ガス供給部と、前記引出電極と、前記調整部を設定する制御部と、を有する集束イオンビーム装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記ガス種毎にブランキング電極に電圧印加するタイミングの設定値を記憶し、
前記制御部は、前記ガス種に対応する前記タイミングの設定値を前記ブランキング電極に設定する請求項1に記載の集束イオンビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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