説明

集積型半導体レーザ素子

【課題】所望のスペクトル線幅および所望の光強度のレーザ光を出力できる集積型半導体レーザ素子を提供すること。
【解決手段】互いに異なる発振波長で単一モード発振する複数の分布帰還型の半導体レーザと、前記複数の半導体レーザからの出力光がそれぞれ入力される、該半導体レーザと同じ数の入力ポートを有し、該出力光を合流させて出力させることができる光合流器と、前記光合流器からの出力光を増幅する半導体光増幅器と、が集積され、前記半導体レーザの個数をN、前記各半導体レーザの共振器長および出力されるレーザ光のスペクトル線幅をそれぞれLdfb、Δν0とし、前記半導体光増幅器の増幅器長、増幅率、および出力される増幅されたレーザ光のスペクトル線幅をそれぞれLsoa、A、Δνとし、Δν/Δν0をRとすると、所定の関係式が成り立つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の半導体レーザを集積した集積型半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばDWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)光通信用の波長可変光源として、互いにレーザ発振波長が異なる複数の半導体レーザを集積した集積型半導体レーザ素子が開示されている(たとえば特許文献1参照)。この種の集積型半導体レーザ素子では、動作させる半導体レーザを切り替えて、出力するレーザ光の波長を変化させることによって波長可変レーザとして機能する。複数の半導体レーザには、光合流器、半導体光増幅器(Semiconductor Optical Amplifier:SOA)が順次接続されている。動作させる半導体レーザからのレーザ光は、光合流器を通過した後、SOAによって光増幅されて素子の出力端から出力される。
【0003】
上記のような集積型半導体レーザ素子は、例えばピグテイルファイバ付きのレーザモジュールに組み込まれて使用される。このようなレーザモジュールは、例えばDWDM光通信ネットワークシステムにおける長距離光伝送のために、外部変調器と組み合わせて、信号光源として使用される。
【0004】
ここで、伝送速度が40、100、400Gbpsのデジタルコヒーレント伝送用途の信号光源または局発光源として、高強度かつ狭線幅なレーザ光を出力できる波長可変レーザが必要である。たとえば、一般的な例として、DP-QPSK(Dual Polarization Quadrature Phase Shift Keying)方式の100Gbps伝送で用いられる光源としては、レーザモジュールのピグテイルファイバからの光出力強度が40mW以上、スペクトル線幅が500kHz以下であることが要求される。また別の例として、DP-16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)方式の400Gbps伝送では、レーザモジュールのピグテイルファイバからの光出力強度が40mW以上、スペクトル線幅が100kHz以下であることが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−317695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の集積型半導体レーザ素子において、狭線幅特性を実現するためには、一般的に半導体レーザの狭線幅化が行われる。このような半導体レーザとしては、単一モード発振の歩留まりの高い分布帰還型レーザ(Distributed Feedback Laser Diode: DFB−LD)が好適に用いられる。DFBレーザを狭線幅化するためには、レーザ素子内の回折格子の結合係数κおよびDFBレーザの共振器長(Ldfbとする)の値を大きくすることが行われている。しかしながら、κおよびLdfbの値を大きくすると、サイドモード抑圧比(Side-Mode Suppression Ratio:SMSR)が劣化し、単一モード発振確率が低下するという問題がある。そのため、κとLdfbとの積であるκLdfbを1.5程度以下に抑えることが好ましい。つまり好ましいDFBレーザの狭線幅化は、κLdfbを1.5程度に保ちつつ、Ldfbを大きくすることで実現できる。ただし、Ldfbの値を大きくすることで電流-光変換効率が低下してしまう。この電流-光変換効率の低下を補い、集積型半導体レーザ素子から所望の光出力強度を得るためには、DFBレーザの駆動電流を大きくする手段(第1の手段)、または半導体光増幅器の増幅率を大きくする手段(第2の手段)がある。
【0007】
第1の手段では、駆動電流を大きくすることによりレーザ共振器内で空間的なホールバーニングという現象が起こるため、スペクトル線幅が広くなることが知られている。
【0008】
一方、集積型半導体レーザ素子において、第2の手段では、半導体レーザから出力されたレーザ光のスペクトル線幅が、半導体増幅器によって増幅される際に広がる場合がある。この場合、集積型半導体レーザ素子から出力されるレーザ光のスペクトル線幅が所望の線幅よりも広くなるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、所望のスペクトル線幅および所望の光強度のレーザ光を出力できる集積型半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る集積型半導体レーザ素子は、互いに異なる発振波長で単一モード発振する複数の分布帰還型の半導体レーザと、前記複数の半導体レーザからの出力光がそれぞれ入力される、該半導体レーザと同じ数の入力ポートを有し、該出力光を合流させて出力させることができる光合流器と、前記光合流器からの出力光を増幅する半導体光増幅器と、が集積され、前記半導体レーザの個数をN、前記各半導体レーザの共振器長および出力されるレーザ光のスペクトル線幅をそれぞれLdfb、Δν0とし、前記半導体光増幅器の増幅器長、増幅率、および出力される増幅されたレーザ光のスペクトル線幅をそれぞれLsoa、A、Δνとし、Δν/Δν0をRとすると、以下の式(1)が成り立つことを特徴とする。
【数1】

【0011】
また、本発明に係る集積型半導体レーザ素子は、上記発明において、前記各半導体レーザは、当該各半導体レーザからの前記出力光のスペクトル線幅が250kHz以下になるように、当該各半導体レーザにおける回折格子の結合係数と共振器長との積の値が設定されており、かつRは2であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る集積型半導体レーザ素子は、上記発明において、前記各半導体レーザの共振器長が1200μm以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る集積型半導体レーザ素子は、上記発明において、前記各半導体レーザにおける回折格子の結合係数と共振器長との積が略1.5であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る集積型半導体レーザ素子は、上記発明において、前記半導体光増幅器からの出力光の強度が50mW以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所望のスペクトル線幅および所望の光強度のレーザ光を出力できる集積型半導体レーザ素子を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施の形態に係る集積型半導体レーザ素子の模式的な平面図である。
【図2】図2は、図1に示す集積型半導体レーザ素子のA−A線断面の一部を示す図である。
【図3】図3は、図1に示す集積型半導体レーザ素子のB−B線断面図である。
【図4】図4は、DFBレーザの共振器長Ldfbと、DFBレーザ単体のスペクトル線幅Δν0と、の関係の例を示す図である。
【図5】図5は、SOAの増幅率Aと、R=Δν/Δν0=2となるときのLsoa/Ldfbと、の関係を示す図である。
【図6】図6は、SOAからの光出力強度と、SOAからの光出力のスペクト線幅Δνと、の関係を示す図である。
【図7】図7は、図6に示す場合における、Lsoa/LdfbとΔν/Δν0との関係を示す図である。
【図8】図8は、DFBレーザにおけるκLdfbとSMSRとの関係を示す図である。
【図9】図9は、DFBレーザにおけるκLdfbとDFBレーザ単体のスペクトル線幅Δν0との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して本発明に係る集積型半導体レーザ素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各層の厚みと幅との関係、各層の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0018】
(実施の形態)
図1は、実施の形態に係る集積型半導体レーザ素子の模式的な平面図である。図1に示すように、本実施の形態に係る集積型半導体レーザ素子100は、それぞれがメサ構造を有する、N個のDFBレーザ11−1〜11−N(Nは2以上の整数)と、N個の光導波路12−1〜12−Nと、光合流器13と、半導体光増幅器(SOA)14とを一つの半導体基板上に集積し、埋め込み部15により埋め込んだ構造を有する。DFBレーザ11−1〜11−N間の埋め込み部15には、トレンチ溝16−1〜16−M(M=N―1)を設けている。
【0019】
DFBレーザ11−1〜11−Nは、各々が幅1.5μm〜3μmのストライプ状の埋め込み構造を有する端面発光型レーザであり、集積型半導体レーザ素子100の一端において幅方向にたとえば25μmピッチで形成されている。DFBレーザ11−1〜11−Nは、各DFBレーザに備えられた回折格子の間隔を互いに異ならせることにより、出力光が単一モード発振のレーザ光となり、そのレーザ発振波長が約1530nm〜1570nmの範囲で互いに相違するように構成されている。また、DFBレーザ11−1〜11−Nの各発振波長は、集積型半導体レーザ素子100の設定温度を変化させることにより微調整することができる。すなわち、集積型半導体レーザ素子100は、駆動するDFBレーザの切り替えと温度制御とにより、広い波長可変範囲を実現している。
【0020】
なお、温度調整によるDFBレーザ11−1〜11−Nのそれぞれのレーザ発振波長の微調整の範囲は、3nm程度以下とすることが好ましい。したがって、約1530nm〜1570nmの波長範囲をカバーするためには、DFBレーザ11−1〜11−Nの個数は12以上が好ましく、たとえば16である。ただし、Nの値は特に限定されない。また、DFBレーザ11−1〜11−Nの発振波長の範囲は、たとえば約1570nm〜1610nmとしてもよい。
【0021】
図1において、長さL1はDFBレーザ11−1〜11−Nの共振器長Ldfbを示している。共振器長については後に詳述する。
【0022】
図2は、図1に示す集積型半導体レーザ素子100のA−A線断面の一部を示す図である。図2に示すように、たとえばDFBレーザ11−2は、n型InP基板21上に、順次積層した、下部クラッドを兼ねるn型InPバッファ層22、組成を連続的に変化させた下部InGaAsP−SCH(Separate Confinement Heterostructure)層23、MQW(Multi-Quantum Well)構造の活性層24、上部InGaAsP−SCH層25、InPスペーサ層26、InGaAsPまたはAlGaInAsからなるグレーティング層27、およびp型InP層28を備えている。グレーティング層27には回折格子が形成されている。
【0023】
p型InP層28からn型InPバッファ層22の一部に到るまでの層はストライプ状のメサ構造を有している。このメサ構造は、p型InP埋め込み層32とn型InP電流ブロッキング層33により埋め込まれている。また、p型InP層28とn型InP電流ブロッキング層33との上には、p型InPクラッド層34、InGaAsコンタクト層35が順次積層している。また、各半導体層の外側表面はSiN保護膜38により保護されている。さらに、SiN保護膜38はInGaAsコンタクト層35上でその一部が開口している。この開口部にはp側電極39が形成されている。また、n型InP基板21上の裏面にはn側電極40が形成されている。
【0024】
活性層24は、交互に積層した複数の井戸層と障壁層とを有している。井戸層および障壁層は、GaInAsP系半導体材料、またはAlGaInAs系半導体材料からなる。活性層24の組成は、DFBレーザ11−1〜11−Nの発振波長に対応する帯域である、たとえば1530nm〜1570nmの中央近傍、すなわち1550nm近傍に利得ピークの波長を有するように設定されている。この組成の設定による半導体レーザの利得ピークの波長は、集積型半導体レーザ素子100の動作温度である10℃〜50℃におけるものである。また、活性層24の幅は、例えば1.4μm〜1.7μmである。他のDFBレーザ11−1、11−3〜11−Nについては、活性層の組成や厚さを含めて、DFBレーザ11−2と略同一の構造を有する。
【0025】
光合流器13は、N個の入力ポートと1つの出力ポートとを有するMMI(Multi-Mode Interferometer)型光カプラである。図3は、図1に示す集積型半導体レーザ素子のB−B線断面図である。図3に示すように、光合流器13は、DFBレーザ11−1〜11−Nと同様の埋め込みメサ構造を有するが、下部InGaAsP−SCH層23からp型InP層28までの積層構造を、InGaAsPコア層30とi型InP層31との積層構造に置き換えた構造を有している。また、光合流器13は、メサ幅がDFBレーザ11−1〜11−Nよりも幅広く形成されている。また、光合流器13においては、SiN保護膜38の開口部とp側電極39とは形成されていない。
【0026】
なお、光合流器13は、MMI型光カプラに限定されず、たとえばフレネルカプラのような他のN×1光カプラでもよい。
【0027】
光導波路12−1〜12−Nは、DFBレーザ11−1〜11−Nと光合流器13との間に形成されており、光合流器13と同様の埋め込みメサ構造を有しており、DFBレーザ11−1〜11−Nと光合流器13のN個の入力ポートとを光学的に接続している。
【0028】
SOA14は、光合流器13の1つの出力ポート13aに接続している。SOA14は、DFBレーザ11−1〜11−Nと同様の埋め込みメサ構造を有する。ただし、SOA14はDFBレーザ11−1〜11−Nとは異なりグレーティング層27を有さず、その代わりにp型InP層が形成されている。SOA14においても、活性層の幅は、例えば1.4μm〜1.7μmであるが、DFBレーザ11−1〜11−Nが出力するレーザ光を単一モードで導波できる幅であれば特に限定はされない。
【0029】
なお、図1において、長さL2はSOA14の長さ(増幅器長)Lsoaを示している。増幅器長については後に詳述する。
【0030】
つぎに、この集積型半導体レーザ素子100の動作を説明する。まず、DFBレーザ11−1〜11−Nの中から選択した1つのDFBレーザを駆動し、所望の波長の単一モードレーザ光を出力させる。トレンチ溝16−1〜16−MはDFBレーザ11−1〜11−N間を電気的に分離するのでDFBレーザ間の分離抵抗が大きくなり、DFBレーザ11−1〜11−Nの中の1つを選択して駆動することが容易にできる。
【0031】
つぎに、複数の光導波路12−1〜12−Nのうち、駆動するDFBレーザと光学的に接続している光導波路は、駆動するDFBレーザからのレーザ光を単一モードで導波する。光合流器13は、光導波路を導波したレーザ光を通過させて出力ポート13aから出力する。SOA14は、出力ポート13aから出力したレーザ光を増幅して、出力端14aから集積型半導体レーザ素子100の外部に出力する。SOA14は、駆動するDFBレーザからのレーザ光の光合流器13による光の損失を補うとともに、出力端14aから所望の強度の光出力を得るために用いられる。なお、光合流器13がN個の入力ポートと1個の出力ポートを有する場合、駆動するDFBレーザからのレーザ光の強度は、光合流器13によって約1/Nに減衰される。
【0032】
ここで、駆動するDFBレーザが出力するレーザ光のスペクトル線幅は、DFBレーザの共振器長Ldfbと、回折格子の結合係数κとに依存して変化する。具体的には、Ldfbを長くしたり、κを大きくしたりするとスペクトル線幅を狭くすることができる。
【0033】
図4は、DFBレーザの共振器長Ldfbと、DFBレーザ単体のスペクトル線幅Δν0と、の関係の例を示す図である。図4は、図2の構造を有するDFBレーザにおいて、出力するレーザ光の強度を20mWになるように駆動電流を設定した場合を示している。
【0034】
図4に示すように、出力するレーザ光の強度が同じであっても、Ldfbが長いほどスペクトル線幅Δν0は狭くなる。また、κLdfbが大きいほどスペクトル線幅Δν0は狭くなる。したがって、さまざまなLdfbの値に対して適切にκを調整することによって、所望のスペクトル線幅Δν0を得ることができる。ただし、κLdfbが大きいとDFBレーザが多モード発振する場合があるので、κLdfbは1.5程度にすることが好ましい。
【0035】
つぎに、SOA14の増幅器長LsoaとDFBレーザ11−1〜11−Nの共振器Ldfbとの関係について説明する。本実施の形態に係る集積型半導体レーザ素子100では、LsoaとLdfbとが、つぎの式(1)を満たすように設定されている。
【0036】
【数2】

【0037】
ここで、NはDFBレーザ11−1〜11−Nの個数、または光合流器13の入力ポートの個数である。AはSOA14の増幅率である。また、Δν0はDFBレーザ11−1〜11−Nから出力されるレーザ光のスペクトル線幅、ΔνはSOA14の出力端14aから出力される増幅されたレーザ光のスペクトル線幅、RはΔν/Δν0である。
【0038】
本発明者が、集積型半導体レーザ素子100のスペクトル線幅の特性について精査したところによれば、LsoaとLdfbとが式(1)を満たしていれば、DFBレーザ11−1〜11−Nから出力されるレーザ光のスペクトル線幅Δν0と、SOA14の出力端14aから出力される増幅されたレーザ光のスペクトル線幅Δνとの比Δν/Δν0が、所望の値以下となる。このとき、SOA14によるレーザ光のスペクトル線幅の広がりが、もともとのスペクトル線幅に対して所望値以下に抑制される。Rについては、1より大きい値であれば特に限定されないが、狭線幅のためには4以下が好ましく、たとえば2とすることが好ましい。
【0039】
以下、具体的に説明する。本発明者らは、はじめに、DFBレーザの共振器長を600μm、900μm、1200μm、または1500μmとし、出力するレーザ光の強度が20mWの場合にスペクトル線幅Δν0が250kHzとなるようにκを設定し、かつDFBレーザの個数およびSOAの増幅器長Lsoaが異なる集積型半導体レーザ素子を試作した。そして、SOAの駆動電流を変化させることによって増幅率Aを変化させながら、集積型半導体レーザ素子の動作時にSOAの出力端から出力される増幅されたレーザ光のスペクトル線幅Δνを調べた。
【0040】
図5は、SOAの増幅率Aと、R=Δν/Δν0=2となるときのLsoa/Ldfbと、の関係を示す図である。なお、図5では、Nが12または16の場合を示している。菱形の記号はNが12の場合のデータを示している。四角形の記号はNが16の場合のデータを示している。また、図5において、線L3、L4は、式(1)で等号が成り立つ場合においてそれぞれN=12、N=16とした場合を示す曲線である。
【0041】
図5に示すように、Nが12、16のいずれの場合も、Δν/Δν0=2となるときのLsoa/Ldfbと増幅率Aとの関係は、式(1)においてR=2とし、かつ等号が成り立つ場合で表されることが確認された。また、Rが1より大きくかつ2以外の値になる場合の、SOAの増幅率AとLsoa/Ldfbとの関係を調べたところ、いずれの場合も、Δν/Δν0=RとなるときのLsoa/Ldfbと増幅率Aとの関係は、式(1)において等号が成り立つ場合で表されることが確認された。したがって、式(1)にしたがってLsoa/Ldfbの関係を設定することによって、レーザ光のスペクトル線幅を所望の狭い値にすることが可能となる。
【0042】
なお、上記のように、DFBレーザが出力するレーザ光のスペクトル線幅Δν0が250kHz以下になるようにκLを設定すれば、式(1)でR=2としたときの関係を適用することによって、SOAの出力端から出力される増幅されたレーザ光のスペクトル線幅Δνを500kHz以下とすることができる。これによって、デジタルコヒーレント伝送用途の信号光源または、受信機で用いられる局発光源としての適用上好ましい集積型半導体レーザ素子を実現できる。
【0043】
つぎに、DFBレーザの共振器長Ldfbを600μm、900μm、1200μm、または1500μmとし、出力するレーザ光の強度が20mWの場合にスペクトル線幅Δν0が250kHzとなるようにκを設定し、かつDFBレーザの個数を12個に設定し、およびSOAの増幅器長Lsoaを1400μmに設定した集積型半導体レーザ素子についてその特性を説明する。
【0044】
図6は、SOAからの光出力強度と、SOAからの光出力のスペクト線幅Δνと、の関係を示す図である。図6に示すように、SOAからの光出力強度が高くなるにつれて、すなわちSOAの増幅率Aが大きくなるにつれて、スペクト線幅Δνが広がることがわかる。しかしながら、スペクトル線幅Δν0を同一の250kHzに設定したにも関わらず、DFBレーザの共振器長Ldfbが長い方が、SOAにおけるスペクト線幅Δνの広がりが抑制されることがわかる。
【0045】
図7は、図6に示す場合における、Lsoa/LdfbとΔν/Δν0との関係を示す図である。なお、SOAからの光出力強度は50mWとしている。SOAからの光出力強度が50mW以上の場合は、レーザモジュールを構成する際に、SOAからの光出力をピグテイルファイバに結合させるときの結合損失として1dB程度を想定しても、ピグテイルファイバからの光出力強度を約40mW以上とできる。これによって、デジタルコヒーレント伝送用途の信号光源としての適用上好ましい集積型半導体レーザ素子およびレーザモジュールを実現できる。
【0046】
Ldfbが600μm、900μm、1200μm、1500μmの場合、Lsoa/Ldfbはそれぞれ2.33、1.56、1.17、0.93である。図7の条件では、Ldfbが1200μmおよび1500μmの場合はR=2とした式(1)が満たされるので、図7に示すようにΔν/Δν0は2以下となり、Δν0は500kHz以下となる。一方、Ldfbが600μmおよび900μmの場合は、R=2とした式(1)が満たされないので、図7に示すようにΔν/Δν0は2より大きくなり、Δν0は500kHzよりも大きくなる。なお、データ点の近似直線が示すように、図7の条件では、Lsoa/Ldfbが約1.4以下の場合にΔν/Δν0が2以下となるので好ましい。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態に係るN個のDFBレーザ11−1〜11−Nを備える集積型半導体レーザ素子100では、必要なレーザ光の出力強度を得るために、必要なSOA14の増幅率Aが決定される。このとき、式(1)の関係を満たすようにLsoa/Ldfbを設定することによって、必要な出力強度において比Δν/Δν0が所望の値以下となるので、高強度かつ狭線幅なレーザ光を出力できる波長可変レーザを実現することができる。
【0048】
なお、DFBレーザ11−1〜11−Nの共振器長Ldfbが短い場合、狭線幅特性を得るためにκLdfbを大きく(つまりκを大きく)設定すると、単一モード発振する確率が低くなる。このため、集積型半導体レーザ素子100の歩留まりが低下し、コスト高となる。このような観点から、Ldfb≧1200μmであることが好ましい。また、Ldfbが大きい場合は、SOA14の増幅率Aを大きくしてもスペクトル線幅Δν0が大きくなりにくいのでこの点からも好ましい。また、図4に示すように、単一モード性の高いκLdfb=1.5の場合において、Ldfb>1500μmとしても、スペクトル線幅Δν0の低減の効果が十分には得られない。このような観点から、Ldfb≦1500μmにすることにより、集積型半導体レーザ素子100の面積を必要以上に大きくすることなく所望のスペクトル線幅を得ることができる。これにより、一枚のウェハから獲得できる集積型半導体レーザ素子の数量を大きくでき、製造コストを低減することができる。
【0049】
さらに、DFBレーザ11−1〜11−Nの共振器長が長くなると電流−光変換効率(W/A)が低下する。それによって所望のスペクトル線幅を得るためのDFBレーザ11−1〜11−Nの駆動電流が上昇し、消費電力が大きくなる可能性がある。この場合、DFBレーザ11−1〜11−Nのメサ幅(または活性層24の幅)を狭くすることによって、活性層24に注入される電流の電流密度を上げることができる。これによって、電流−光変換効率の低下が抑制されるので好ましい。活性層24の幅については、例えば上述したように1.7μm以下が好ましい。活性層24の幅を狭くすることによって、レーザ光の狭線幅化のために好適なだけでなく、SMSRを改善することもできる。ただし、活性層幅を狭くしすぎると、DFBレーザ素子の電気抵抗が増加するため、発熱により素子特性が劣化する場合がある。これを防止するためには、活性層幅は1.4μm以上が好ましい。
【0050】
また、上述したように、DFBレーザ11−1〜11−NにおいてκLdfbは1.5程度にすることが好ましいが、たとえば1.3〜1.65であることが好ましい。
【0051】
図8は、DFBレーザにおけるκLdfbとSMSRとの関係を示す図である。図8は、図2の構造を有するDFBレーザにおいて、出力するレーザ光の強度を20mWになるように駆動電流を設定した場合を示している。
【0052】
ここで、良好な単一モード発振特性のためには、SMSRについては、一般的に40dB以上であることが好ましい。図8に示すように、κLdfbが1.65より大きくなるとSMSRが低下するDFBレーザが発生し、単一モード発振の歩留まりが低下する。したがって、κLdfbは1.65以下が好ましい。
【0053】
図9は、DFBレーザにおけるκLdfbとDFBレーザ単体のスペクトル線幅Δν0との関係を示す図である。図9も、図2の構造を有するDFBレーザにおいて、出力するレーザ光の強度を20mWになるように駆動電流を設定した場合を示している。
【0054】
図9に示すように、Ldfbが1200μm、1500μmのいずれの場合も、κLdfbが1.3より小さくなるとΔν0が急激に広くなる。したがって、κLdfbは1.3以上が好ましい。以上より、κLdfbが1.3〜1.65であれば、良好な単一モード発振特性と狭線幅特性とを両立する上で好ましい。
【0055】
なお、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
11−1〜11−N DFBレーザ
12−1〜12−N 光導波路
13 光合流器
13a 出力ポート
14 SOA
14a 出力端
15 埋め込み部
16−1〜16−M トレンチ溝
21 基板
22 n型InPバッファ層
23 下部InGaAsP−SCH層
24 活性層
25 上部InGaAsP−SCH層
26 InPスペーサ層
27 グレーティング層
28 p型InP層
30 InGaAsPコア層
31 i型InP層
32 p型InP埋め込み層
33 n型InP電流ブロッキング層
34 p型InPクラッド層
35 InGaAsコンタクト層
38 SiN保護膜
39 p側電極
40 n側電極
100 集積型半導体レーザ素子
L1、L2 長さ
L3、L4 線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる発振波長で単一モード発振する複数の分布帰還型の半導体レーザと、
前記複数の半導体レーザからの出力光がそれぞれ入力される、該半導体レーザと同じ数の入力ポートを有し、該出力光を合流させて出力させることができる光合流器と、
前記光合流器からの出力光を増幅する半導体光増幅器と、
が集積され、前記半導体レーザの個数をN、前記各半導体レーザの共振器長および出力されるレーザ光のスペクトル線幅をそれぞれLdfb、Δν0とし、前記半導体光増幅器の増幅器長、増幅率、および出力される増幅されたレーザ光のスペクトル線幅をそれぞれLsoa、A、Δνとし、Δν/Δν0をRとすると、以下の式(1)が成り立つことを特徴とする集積型半導体レーザ素子。
【数1】

【請求項2】
前記各半導体レーザは、当該各半導体レーザからの前記出力光のスペクトル線幅が250kHz以下になるように、当該各半導体レーザにおける回折格子の結合係数と共振器長との積の値が設定されており、かつRは2であることを特徴とする請求項1に記載の集積型半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記各半導体レーザの共振器長が1200μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の集積型半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記各半導体レーザにおける回折格子の結合係数と共振器長との積が略1.5であることを特徴とする1〜3のいずれか一つに記載の集積型半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記半導体光増幅器からの出力光の強度が50mW以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の集積型半導体レーザ素子。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−102003(P2013−102003A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243924(P2011−243924)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【特許番号】特許第5100881号(P5100881)
【特許公報発行日】平成24年12月19日(2012.12.19)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】