説明

集電体、集電体の製造方法、電極および二次電池

【課題】タブ溶接性に優れ、活物質層との接触抵抗の低抵抗化を実現する島状に配した導電物質かつこの島状の導電物質の密着性がよい電極材料を提供する。
【解決手段】集電体(電極材料)1は、金属箔からなる基材1aと、カーボンを含む導電物質1bとを備え、300μm四方の視野にて観察した際に、導電物質1bが基材1aの表面に島状に配置されているとともに、導電物質1bによる基材1aの表面の被覆率が1〜80%とした。更に、導電物質1bの島状構造は、導電物質1aと、疎水性樹脂の水系エマルジョンと、水溶性樹脂とを含むスラリーを基材1aに塗布することにより形成され、島状構造は、導電物質1aとこれらの樹脂との混合体として基材1aに固着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の電極に用いられる電極材料、その製造方法、その電極材料を用いた電極、およびその電極を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池用電極の基材として用いられるアルミニウム箔や銅箔などの金属箔上に炭素系導電物質を塗布した集電体に関する研究は、これまでも様々な研究機関で行われている。また、特許出願も多数なされており、例えば、特許文献1〜特許文献4を挙げることができる。
【0003】
特許文献1および特許文献2には、アルミニウム箔や銅箔などの基材の表面に導電物質である炭素微粒子と皮膜形成用化合物とからなる皮膜を形成した集電体が記載されている。また、特許文献3には、炭素粉末(導電物質)と結着剤とからなる導電層を活物質との間に設けた集電体が記載されている。また、特許文献4には、カーボンを導電剤(導電物質)とする導電性塗料層を表面に設けた集電体が記載されている。これらは、集電体とその上に形成される活物質層との間の接触抵抗を低減することで、これらの集電体を用いた電池の内部抵抗を低減し、電池の高速充放電特性、サイクル特性の向上を図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−226969号公報
【特許文献2】特開2010−135338号公報
【特許文献3】特開平9−97625号公報
【特許文献4】特開2001−351612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、図6を参照して、特許文献1〜特許文献4に記載された、従来技術における集電体の構成について、まとめて説明する。なお、図6は、従来技術における集電体の構成を説明するための模式的断面図である。図6に示すように、従来技術における集電体3は、金属箔からなる基材3aの表面に導電物質層3bが均一に形成される。すなわち、基材3aの表面全体が導電物質層3bによって被覆されている。
【0006】
図6に示すように、基材3aの表面に導電物質層3bが均一に形成されると、集電体3を用いて電池を作製するために、集電体3と電池の端子とを電気的に接続するための金属製のタブ(不図示)などを集電体3の表面に溶接する際に、導電物質層3bが溶接の障害となって溶接性が悪化するという問題があった。
【0007】
このような問題を解決するために、本願の出願人は、導電物質が基材の表面に島状に配置されるように構成した電極材料(集電体)についての発明をした。これによって、接触抵抗の低減と溶接性とを両立することができる。
【0008】
ここで、基材表面に島状に配置(以下、適宜に島状構造という)された導電物質と基材との密着性の更なる向上が、以下の理由により、望まれている。基材表面に導電物質が島状に配置された集電体を用いて電極を作製する際に、この導電物質の島状構造の上に、活物質層が更に塗工・圧着されることとなり、活物質層と基材との密着性は確保される。しかし、この導電物質の島状構造と基材との密着性が弱いと、導電物質の島状構造の形成工程後から活物質層の塗工工程の間に、集電体のハンドリングや活物質層の塗工機械に配されたローラなどによる集電体の表面への接触により、導電物質の島状構造が剥離しやすくなる。そして、導電物質の島状構造の剥離により、接触抵抗の低抵抗化の効果が低減することが考えられる。
【0009】
本発明は前記した問題に鑑み創案されたものであり、タブ溶接性に優れ、活物質層との間の接触抵抗の低抵抗化を実現し、かつ島状に配置した導電物質の基材に対する密着性が良好な電極材料およびその製造方法、この電極材料を用いた電極、ならびにこの電極を用いて内部抵抗の低抵抗化を実現する二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するために、本発明に係る電極材料は、金属箔からなる基材と、この基材の少なくとも一方の表面に設けた導電物質とを備えた電極材料であって、300μm四方の視野にて観察した際に、導電物質が基材の表面に島状に配置され、導電物質が、疎水性樹脂と水溶性樹脂とともに基材の表面に固着するように構成した。
【0011】
かかる構成によれば、炭素などの導電物質による金属箔からなる基材の表面は、導電物質によって被覆されていない部分がある。好ましくは、導電物質による被覆率を80%以下とすることで、導電物質によって被覆されていない部分が20%以上となる。このため、この電極材料を、例えば、リチウムイオン二次電池の電極の集電体として用いる場合であって、集電体と電池の端子と接続するための金属製のタブを溶接することが容易となる。また、導電物質を基材の表面に、好ましくは被覆率が1%以上となるように設けることにより、この電極材料を、例えば、リチウムイオン二次電池の電極の集電体として用いる場合、集電体と、集電体上に積層される活物質層との間の接触抵抗が低減される。また、疎水性樹脂により導電物質と基材との密着性が向上し、水溶性樹脂により製造工程において導電物質を含有するスラリーの基材への塗工性が向上する。これによって、島状構造は、導電物質とこれらの樹脂との混合体として金属箔である基材に対し密着性よく島状構造に配置される。
【0012】
また、本発明に係る電極材料は、基材の表面に付着した導電物質と水溶性樹脂と疎水性樹脂とを合計した付着量が、0.01〜0.50g/mの範囲であることが好ましい。ここで、導電物質は基材の片面に設けてもよく、基材の両面に設けてもよいが、前記した付着量の範囲は、導電物質を設けたそれぞれの面における好ましい範囲を示す。
【0013】
かかる構成によれば、付着量を前記した範囲とすることで導電物質が基材の表面に島状に配置され、付着量を0.50g/m以下とすることで、適度に基材が露出した被覆率となるため、金属製のタブなどが良好に溶接される。また、付着量を0.01g/m以上とすることで、この電極材料を、例えば、リチウムイオン二次電池の電極の集電体として用いる場合、集電体と、集電体上に積層される活物質層との間の接触抵抗が低減される。
【0014】
本発明に係る電極材料の製造方法は、導電物質と、水溶性樹脂と、疎水性樹脂の水系エマルジョン溶液と、を含有するスラリーを基材の表面に塗布する塗布工程と、スラリーを乾燥させる乾燥工程とをこの順で含み、スラリーを基材の表面に塗布する前ないし塗布した後に、導電物質が溶液中で凝集するようにした。
【0015】
かかる方法によれば、疎水性樹脂の水系エマルジョン溶液を用いるため、疎水性樹脂がスラリー中で均一に分散される。また、スラリーに水溶性樹脂を混合するため、塗布工程において、水溶性樹脂を含有するスラリーの濡れ性が向上し、スラリーが基材の表面で弾かれて水玉状となることなく良好に塗布される。また、基材の表面に塗布する導電物質を含有するスラリーについて、塗布する前ないし塗布した後に導電物質が凝集するようにしたため、基材の表面に塗布されたスラリー中の導電物質は基板の表面に島状に配置される。そして、乾燥工程においてスラリーを乾燥させることによって、導電物質が疎水性樹脂および水溶性樹脂とともに基板の表面に固着する。
【0016】
また、本発明に係る電極材料の製造方法は、塗布工程について、導電物質として炭素の含有量が0.1〜7質量%のスラリーを基材の表面に塗布するようにすることが好ましい。
【0017】
かかる方法によれば、基材に塗布する前ないし塗布した後のスラリー中で、導電物質が好適に凝集し、導電物質が基材の表面に島状に配置される。
【0018】
また、本発明に係る電極材料の製造方法は、塗布工程において、スラリーにおける水溶性樹脂の含有量が0.25質量%以上であり、疎水性樹脂の含有量が0.01質量%以上であり、かつ、スラリーにおける水溶性樹脂の含有量および疎水性樹脂の含有量の合計が11質量%以下とすることが好ましい。
【0019】
かかる方法によれば、この含有量の範囲の水溶性樹脂により、スラリーの基材に対する濡れ性が好適に向上し、良好にスラリーが基材に塗布される。また、この含有量の範囲の疎水性樹脂により、島状構造を基材に良好な密着性で固着させる。また、全樹脂の含有量を11質量%以下とすることにより、接触抵抗の低減効果を得ることができる。
【0020】
本発明に係る二次電池用の電極は、前記した電極材料を用いる二次電池用の電極であって、この電極材料の導電物質を設けた表面に活物質層を設けて構成した。
【0021】
かかる構成によれば、基材の表面に島状に配置された導電物質により、集電体である電極材料と活物質層との間の接触抵抗が低抵抗化される。
【0022】
本発明に係る二次電池は、正電極および負電極を有する二次電池であって、正電極または負電極の少なくとも一方は、本発明による電極を用いて構成した。
【0023】
かかる構成によれば、二次電池の電極は、集電体である電極材料と活物質層との間の接触抵抗が低抵抗化されているため、二次電池として、その内部抵抗が低抵抗化される。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る電極材料によれば、導電物質を基材である金属箔の表面に島状に配置し、導電物質の付着量を制限したため、タブなどの溶接性を確保しつつ、電極材料の活物質層との間の接触抵抗を低減することができる。また疎水性樹脂と水溶性樹脂をバインダーとして、この島状構造を基材である金属箔に密着させ、電極材料のハンドリング中や活物質層の塗工前の製造工程で形成された島状構造の剥離を抑制することができるため、島状構造による接触抵抗の低減効果が損なわれることがない。
【0025】
本発明に係る電極材料の製造方法によれば、基材の表面に導電物質の島状構造を密着性よく形成できるため、タブなどの溶接性が良好で、活物質層との間の接触抵抗を低減できる電極材料を安定した品質で製造することができる。また、水系の溶液を用いるため、製造工程における溶媒蒸気などによる環境負荷を低減することができる。
【0026】
また、本発明に係る電極材料の製造方法によれば、導電物質として好適な濃度でカーボンを用いるため、好適な島状構造が形成される電極材料を製造することができる。
【0027】
更にまた、本発明に係る電極材料の製造方法によれば、好適な濃度で樹脂を用いるため、良好な品質の電極材料を製造することができる。
【0028】
本発明に係る電極によれば、電極材料と活物質層との間の接触抵抗を低減することができる。
また、本発明に係る二次電池によれば、内部抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る集電体の構造を説明するための模式的断面図である。
【図2】本発明に係る集電体を用いた電極の構造を説明するための模式的断面図である。
【図3】本発明に係る電極を用いた二次電池の構造を説明するための模式的断面図である。
【図4】本発明に係る集電体の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例に係る集電体の試料の表面の走査型電子顕微鏡による写真である。
【図6】従来技術に係る集電体の構造を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る電極材料(以下、集電体という)の実施の形態について、詳細に説明する。
[集電体の構造]
本実施形態に係る集電体の構造について、図1を参照して説明する。
本実施形態に係る集電体(電極材料)1は、金属箔からなる基材1aと、基材1aの表面に島状に配置された導電物質1bとからなる。また、導電物質1bは、基材1aの両面に配置されている。なお、導電物質1bは、基材1aの片面に配置してもよい。
【0031】
なお、本願明細書において、「島状」とは、基材1aの表面の少なくとも一部が導電物質1aによって被覆されずに露出するように導電物質1bが配置されている状態をいう。例えば、図1に示すように複数の導電物質1bの凝集体が互いに孤立して配置されてもよく、凝集体同士が接合して網目状に配置されていてもよいものとする。
【0032】
本実施形態に係る集電体1は、例えば、リチウムイオン二次電池の電極の集電体として好適に用いることができる。集電体1を用いた電極については、後記する。
【0033】
集電体1は、基材1aの表面の導電物質1bを配置した任意の領域において、300μm四方の視野(すなわち、面積が約0.1mmの正方形の視野)で観察した際に、基材1aの表面に導電物質1bが島状に配置された構造とすることで、集電体1を電池の電極として用いる場合に、集電体1と電池の端子とを電気的に接続する金属製のタブ(不図示)を溶接する際の、タブ溶接性を向上することができる。
【0034】
また、基材1aの導電物質1bによる基材1aの表面の被覆率は、基材1aの表面の導電物質1bを配置した任意の領域において、300μm四方の視野で観察した際に、1〜80%であることが好ましい。導電物質1bによる被覆率が1%以上であると、集電体1と、二次電池の電極として用いる場合に集電体1の表面に積層される活物質層2(図2参照)との間の接触抵抗をいっそう低減することができる。また、基材1aの表面の導電物質1bによる被覆率を80%以下とすることで、いっそう良好なタブ溶接性を確保することができる。
【0035】
導電物質1bは、少なくとも前記した観察面積の単位で均等に基材1aの表面に配置されることが好ましい。十分小さい面積の領域内で導電物質1bが島状となるように配置したため、実用上均一な接触抵抗およびタブ溶接性が得られる。
【0036】
ここで、基材1aの導電物質1bによる表面の被覆率は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、作製した試料の表面を撮影し、撮影した視野中に含まれる炭素による基材表面の被覆面積を画像処理により算出して求めることができる。
【0037】
また、導電物質1bの基材1aの表面における単位面積当たりの付着量は、導電物質1bと、バインダーである不図示の水溶性樹脂および疎水性樹脂とを合計した付着量として、0.01〜0.50g/mの範囲とすることが好ましい。また、当該付着量は、0.03g/m以上がより好ましく、0.05g/m以上が更に好ましい。また、当該付着量は、0.40g/m以下がより好ましく、0.30g/m以下が更に好ましい。なお、導電物質1bを基材1aの両面に設ける場合は、それぞれの面において、この付着量の範囲とすることが好ましい。
【0038】
この範囲の付着量とすることで、導電物質1bが基材1aの表面に島状に配置される。また、付着量を、好ましくは0.50g/m以下、より好ましくは0.40g/m以下、更に好ましくは0.30g/m以下とすることで、基材1aの表面が適度に露出した被覆率となるため、良好なタブの溶接性が得られる。また、付着量を、好ましくは0.01g/m以上、より好ましくは0.03g/m以上、更に好ましくは0.05g/m以上とすることで、集電体1と、二次電池の電極として用いる場合に集電体1の表面に積層される活物質層2(図2参照)との間の接触抵抗を低減することができる
【0039】
ここで、導電物質1bの基材1aの表面における単位面積当たりの付着量は、次のようにして求めることができる。まず、導電物質1bを含有する溶液を基材1aに塗布して乾燥した試料について、質量を測定する。次に、試料表面を水およびアルコールで拭き取り、導電物質1bを除去した後の質量を測定する。そして、その質量差を試料の面積で除することで導電物質1bの基材1aの表面における単位面積当たりの付着量を算出することができる。
【0040】
(基材)
基材1aは、二次電池用の電極材料として一般的に用いられるアルミニウム(Al)や銅(Cu)などの金属を用いることができる。二次電池用電極材料として使用する際は、基材1aは一般的に厚さが5〜50μm程度の箔状で使用される。本実施形態に係る集電体の製造方法において、圧延工程を実施する場合は、板状または厚肉の箔状の基材1aに導電物質1bを含む溶液を塗布して乾燥した後、圧延を施し薄肉化するようにしてもよい。
なお、基材1aは特定の組成のAlやCuなどに限定されるものではなく、電極に用いられる場合に、その電極の使用環境に適した各種の純金属やその合金を用いることができる。
【0041】
(導電物質)
導電物質1bは、300μm四方の視野で観察した際に、基材1aの表面の1〜80%を被覆するように島状に配置され、基材1aとともに構成する集電体1と活物質層(図2参照)との間の接触抵抗を低減するものである。
導電物質1bとしては、炭素系の導電材料(炭素)を用いることができる。炭素系の導電材料としては、天然または人造の結晶性グラファイト、膨張化黒鉛、人造黒鉛、熱分解黒鉛またはアセチレンブラックなどの各種のカーボンブラックを用いることができる。
【0042】
また、導電物質1bからなる島状構造は、後記するバインダー(不図示)によって、基材1aの表面と良好な密着性が確保されている。
【0043】
(バインダー)
バインダー(不図示)は、導電物質1bからなる島状構造と基材1aの表面との密着性を向上させるための疎水性樹脂と、この疎水性樹脂および導電物質1bを含む溶液を基材1aの表面に塗布する際の塗布性を向上させるための水溶性樹脂とから構成される。
これによって、基材1aと導電物質1bの島状構造との密着性がよく、この島状構造が基材1aの表面に一様に分布して形成される。
【0044】
疎水性樹脂は、水溶性樹脂と混合する必要があるため、水系エマルジョンを形成できる樹脂であることが好ましい。このような疎水性樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル樹脂などから1種または2種以上混合して使用することができる。
【0045】
また、水溶性樹脂としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースとその塩類(ナトリウム塩、アンモニウム塩)、ポリビニルアルコールなどから1種または2種以上混合して使用することができる。
【0046】
(電極)
次に、図2を参照して、本実施形態に係る集電体1を用いたリチウムイオン二次電池の電極の構成について説明する。
【0047】
図2に示した電極10は、本実施形態に係る集電体1と、集電体1の表面(両面)に積層された活物質層2とから構成される。リチウムイオン二次電池の正電極を構成する場合は、集電体1としては、AlやAl合金等の金属を用いることができる。また、正極活物質としては、公知の材料、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn等のリチウム含有酸化物を使用することができる。正極の活物質層2の製造方法も特に限定されるものではなく、公知の方法、例えば、粉末状の前記したリチウム含有酸化物に、バインダーの他、必要に応じて導電材、溶剤等を添加して十分混練した後、集電体1に塗布し、乾燥し、プレスして製造することができる。なお、活物質層2は、導電物質1bが設けられた片面に積層するようにしてもよい。
【0048】
また、リチウムイオン二次電池の負電極を構成する場合は、集電体1としては、Cu、Cu合金、ニッケル(Ni)、Ni合金、ステンレス等の金属を用いることができる。また、負極活物質としては、例えば、黒鉛系炭素材料を用いることができ、正電極の活物質層2の製造方法と同様にして、製造することができる。
【0049】
(二次電池)
次に、図3を参照(適宜図2参照)して、本実施形態に係る集電体1を使用した電極10を用いたリチウムイオン二次電池の構成について説明する。
【0050】
図3に示したリチウムイオン二次電池(二次電池)20は、本実施形態に係る集電体1を使用した電極10である正電極11および負電極12と、セパレータ13と、電解液14とを含んで構成される。正電極11と負電極12とは、セパレータ13によって分離されており、正電極11および負電極12とセパレータ13との間は、電解液14が充填されている。また、リチウムイオン二次電池20の全体は容器(不図示)に収納され、正電極11および負電極12は、それぞれ金属製のタブ(不図示)が溶接され、電極端子(不図示)と電気的に接続される。
【0051】
正電極11および負電極12は、本実施形態に係る集電体1の表面に、それぞれ前記した正極活物質および負極活物質を含む活物質層2が形成されている。
また、セパレータ13および電解液14は、それぞれ公知の材料を用いて構成することができる。セパレータ13としては、例えば、厚さ20〜30μmのポリエチレン系のマイクロポーラスフィルムを用いることができる。また、電解液14としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどの有機溶剤にLiPF、LiBFなどの電解質を溶解させた非水系電解液を用いることができる。
【0052】
次に、図4を参照(適宜図1参照)して、本実施形態に係る集電体1の製造方法について説明する。
[製造方法]
図4に示したように、本実施形態における集電体1の製造方法は、塗布工程S1と、乾燥工程S2とがこの順で含まれる。
【0053】
集電体1は、導電物質1bと、疎水性樹脂の水系エマルジョンと、水溶性樹脂と、を含有するスラリーを、金属箔からなる基材1aの表面に塗布し、基材1aの表面に塗布する前ないし塗布した後で、導電物質1bをスラリー中で凝集させる塗布工程S1と、スラリーを乾燥させる乾燥工程S2とを含む製造方法によって作製することができる。
【0054】
ここで、スラリーを調合した直後にはスラリー中で均一に分散していた導電物質1bが、時間の経過とともに凝集する。すなわち、調合したスラリーを基材1aの表面に塗布する前ないし塗布した後に導電物質1bは凝集する。そして、基材1aの表面に塗布したスラリー中では、導電物質1bが島状に凝集された状態を形成することになる。その後、スラリーを乾燥させて基材1aの表面に導電物質1bを島状に固着させるものである。このとき、疎水性樹脂が、基材1aと、基材1aと接触する導電物質1bの粒子との隙間に充填され、導電物質1bの島状構造を基材1aの表面に密着性よく強固に固着させることができる。すなわち、この島状構造は、導電物質1bと、疎水性樹脂と、後記する水溶性樹脂との混合体として基材1aの表面に固着するものである。
以下、塗布工程について詳細に説明する。
【0055】
(塗布工程)
まず、塗布工程S1について説明する。
導電物質1bを理想的な島状の構造に凝集させるには、スラリーに含まれる導電物質1bの粒径および濃度、ならびにバインダーである疎水性樹脂および水溶性樹脂の濃度を調節することが有効である。これら導電物質1bの粒径および濃度、ならびにバインダーの濃度を調節すると、スラリーの粘度が変化するため、塗工性および、乾燥後の導電物質1bの分布に変化が生じる。導電物質1bとして炭素を用いた場合、平均粒径が0.01〜1μmの炭素を用いることが好ましい。また炭素が、スラリー中に0.1〜7質量%含まれる状態が好ましい。平均粒径を0.01μm以上、および濃度(含有量)を7質量%以下とすることにより、スラリーの粘度が上昇し過ぎず、炭素粒子同士の凝集が大きくなり過ぎないため、理想的な島状の構造を得ることができる。また、導電物質1bである炭素の平均粒径を1μm以下、および炭素の濃度を0.1質量%以上とすることにより、島状の構造が形成されるとともに、導電物質1bである炭素と基材1aである金属箔との接触点が十分にあり、集電体1と活物質層2(図2参照)との間の接触抵抗を低減する効果を得ることができる。
【0056】
また、疎水性樹脂を用いることで、導電物質1bの島状構造を密着性よく、金属箔である基材1aに配置することができる。このため、電極を作製する際には、活物質層2(図2参照)の塗布工程までの間で導電物質1bの島状構造が剥離することを防止できる。
なお、疎水性樹脂の濃度は、0.01質量%以上、かつ11質量%程度以下とすることが好ましく、0.10質量%以上とすることがより好ましく、0.25質量%以上とすることが更に好ましい。
【0057】
更に、水系エマルジョンとして疎水性樹脂を水に分散させることで、疎水性樹脂と水溶性樹脂とを混合することができる。
【0058】
疎水性樹脂(水系エマルジョン樹脂)としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル樹脂などから1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0059】
なお、導電物質1bを分散させた疎水性樹脂の水系エマルジョン溶液であるスラリーは、前記した疎水性樹脂の濃度範囲では、基材1aの表面の撥水性のために弾かれ、いわゆる水はじきの状態となり、水玉状となるという塗工性の問題がある。また、スラリーが基材1aの表面で弾かれ、水玉状とならないように塗工するには、前記した濃度範囲を超えて、疎水性樹脂の濃度を高くして十分にスラリーの粘度を高くする必要がある。しかし、疎水性樹脂の濃度が高過ぎると接触抵抗(すなわち、二次電池の内部抵抗)が高くなり、接触抵抗についての特性を満足することができなくなる。
【0060】
そこで、本実施形態では、水溶性樹脂を、疎水性樹脂の水系エマルジョン溶液に混ぜることで、金属箔である基材1aに対する濡れ性を向上させることとした。これによって、水玉状とならずに、基材1aへの塗工溶液の塗工が可能となり、かつ導電物質1bの島状構造を密着性よく基材1aに固着させることができる。
【0061】
水溶性樹脂としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースとその塩類(ナトリウム塩、アンモニウム塩)、ポリビニルアルコールなどから1種または2種以上混合して使用することができる。
なお、水溶性樹脂の濃度は、0.25質量%以上、かつ11質量%程度以下とすることが好ましい。
【0062】
更に、導電物質1bの島状構造を基材1aの表面に良好に密着させるのに必要十分な量の樹脂として、疎水性樹脂と水溶性樹脂とを合わせた全樹脂濃度は、0.5〜11質量%とすることが好ましい。0.5質量%以上とすることにより、良好な塗工性と密着性とを得ることができ、11質量%以下とすることにより、良好な接触抵抗(二次電池の内部抵抗)の低減効果を得ることができる。
【0063】
また、導電物質1bとしては、炭素系材料を用いることができる。具体的には、天然または人造の結晶性グラファイト、膨張化黒鉛、人造黒鉛、熱分解黒鉛や各種のカーボンブラックを用いることができる。
【0064】
導電物質1bを含む溶液の基材1aの表面への塗布には、一般に用いられているバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、リバースグラビアコーター、ディップコーター、スプレーコーターなど各種コータによる塗布方法を用いることができる。なお、導電物質1bは基材1aの両面または片面に塗布される。
【0065】
(乾燥工程)
乾燥工程S2は、塗布工程S1の後に、溶媒を蒸散させるための工程である。乾燥工程S2は、室温にて乾燥させるようにしてもよいし、必要に応じて熱処理炉などを用いた加熱乾燥を行うようにしてもよい。
【0066】
また、乾燥温度は、水系エマルジョン溶液の溶媒である水が蒸発しやすく(下限理由)、基材1aである金属箔の強度を下げない温度(上限理由)として、100℃〜170℃とすることが好ましく、140℃〜170℃とすることが更に好ましい。特に140℃以上とすることにより、疎水性樹脂が熱で軟化し、基材1aと疎水性樹脂との密着性が向上する。その結果、基材1aと導電物質1bとの密着性をより向上させることができる。
【0067】
また、乾燥時間は、特に限定するものではないが、100℃〜170℃で乾燥する場合は、0.1分〜5分とすることが好ましい。0.1分以上とすることで、十分に溶媒を蒸発させることができ、5分以下とすることにより、基材1aである金属箔の強度低下を防ぐことができる。
【0068】
(圧着・圧延工程)
更に密着性・接触抵抗を向上させるため、乾燥工程S2の後で、必要に応じて圧着や圧延をおこなうようにしてもよい。なお、圧着や圧延の方法としては、各種圧延機やロールプレス機を用いることができる。
【実施例】
【0069】
次に、本実施形態の集電体について、本発明の要件を満たす実施例と、本発明の要件を満たさない比較例とを比較して説明する。
【0070】
以下の方法により、試料を作製した。
(基材)
基材として、1000系のAl合金製の、厚さ15μmのAl箔、または99.99%の純銅製の、厚さ20μmのCu箔を使用した。
なお、後記する表1〜表3において、各試料がAl箔とCu箔の何れを用いたかを、それぞれ「Al」または「Cu」で基材の欄に示した。
【0071】
(疎水性樹脂)
疎水性樹脂として、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)を用いた水系エマルジョン溶液を調整し、調整した水系エマルジョン溶液を純水で希釈して使用した。また、比較のため、疎水性樹脂を使用しない試料も作製した。
【0072】
(水溶性樹脂)
水溶性樹脂としてカルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム塩を用いた。また、比較のため、水溶性樹脂を使用しない試料も作製した。
【0073】
(導電物質)
導電物質として、平均粒径が0.06μmのカーボンブラック(東海カーボン社製のトーカブラック#4300)を用いた。
【0074】
(塗布工程)
塗工においては、溶媒を純水とし、各試料について表1〜表3に示したカーボンブラック(導電物質)の濃度、疎水性樹脂の種類と濃度、および水溶性樹脂の濃度で作製した溶液(スラリー)を、バーコーターを用いて基材の表面に塗工した。
なお、溶接性評価用の試料には、基材の両面にカーボンブラックを含有する前記スラリーを塗工し、他の項目評価用の試料には、基材の片面にスラリーを塗工した。
【0075】
また、試料No.1〜No.11については、導電物質を含有する溶液の塗工に、番手No.2のバーコーターを用いた。また、試料No.12〜No.23については、スラリー配合を変える他に、適宜使用するバーコーターの番手No.を変えて、導電物質の基材における単位面積当たりの付着量を変化させた。これらの試料は、塗布工程で用いたバーコーターの番手No.(試料No.12、No.13およびNo.21は番手No.2、試料No.14およびNo.18〜No.20は番手No.3、試料No.15〜No.17は番手No.5、試料No.22およびNo.23は番手No.10を使用)が異なる以外は、他の試料と同様に作製した。
【0076】
(乾燥工程)
カーボンブラックを含有するスラリーを基材の表面に塗布した後、オーブン中に150℃で1分間保持して乾燥を行った。
【0077】
<評価方法>
(塗工性評価)
塗工性評価は前記した塗布工程において、塗工したスラリーが基材上で水はじきのため水玉状となったものを不良(×)、水はじきがなく、塗工したスラリーが基材の表面を均一に覆うことができたものを良好(○)とした。
【0078】
(密着性評価)
粘着力が2N/40mm、幅40mm、長さ120mm、厚さ0.08mmの粘着テープを貼り付けたローラ(直径90mm、幅50mm、質量700g)を、試料の表面で100mm転がし、剥離したカーボンブラックの面積を見積もった。カーボンブラックの剥離が全く無いときを優良(○)、20%以下の剥離が観察されたときを良好(△)、それ以上の剥離が観察されたときを不良(×)とした。
【0079】
(被覆率の評価)
導電物質(炭素)の被覆率は、日立製作所製の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)SU−70を用いて作製した試料の表面を倍率300倍にて撮影し、撮影した視野中に含まれる炭素による基材表面の被覆面積を画像処理により算出して求めた。
【0080】
(溶接性の評価1)
基材としてAl箔を使用した場合の溶接性の評価は、厚さ15μmのAl箔の両面に、カーボンブラック(導電物質)が形成された試料を10枚重ね、その上下(両端)に30μm厚のアルミ箔、及び250μmのアルミ板を配し、一定圧力を加えた状態で溶接を行い、8枚以上溶接されたものを良好、7枚以下しか溶接されなかったものを不良と判定した。なお、溶接には、ソノボンド社製の超音波溶接機MH2026/CLF2500を用い、圧力0.28MPa、出力400W、エネルギー20Jの条件で、通電時間70μ秒にて溶接を行った。
【0081】
(溶接性の評価2)
基材としてCu箔を使用した場合の溶接性の評価は、厚さ20μmのCu箔の両面に、カーボンブラック(導電物質)が形成された試料を10枚重ね、一定圧力を加えた状態で溶接を行い、8枚以上溶接されたものを良好、7枚以下しか溶接されなかったものを不良と判定した。なお、溶接には、Yokodai.jp社製のスポット溶接機HSW−02Aを用い、電圧25V、通電時間500μ秒にて溶接を行った。
【0082】
(電池の内部抵抗の評価)
カーボンブラック(導電物質)が形成された試料の両面に、コバルト酸リチウム、アセチレンブラックおよびPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を混合したスラリーを、片面当たり厚さ25μmで塗工し、正電極を作製した。また、負電極として、Al箔の両面にグラファイトを片面当たり厚さ35μmにて塗工したものを用いた。
【0083】
これらの正電極、負電極を用いて、宝泉株式会社製のHSフラットセルを用いて電池セルを作製した。この電池セルについて、充放電レートが0.2Cの電流で、3サイクルのコンディショニング充放電処理を行った後に、0.2C〜10Cの複数の電流値にて放電試験を実施した。放電試験によって得られた各電流値の放電曲線において、容量1mAhを放電したときの電流値と電圧値との関係をプロットし、プロットして得られた直線の傾きに基づいて内部抵抗を算出した。
【0084】
また、導電物質を有さない厚さ15μmのAl箔の基材のみを集電体として用いて、他の試料と同様に正電極を作製し、この正電極を用いて同様に電池セルを作製した。この電池セルについて、他の試料を用いた電池セルと同様に放電曲線を測定し、内部抵抗を算出した。そして、この基材のみの集電体を用いて作製した電池セルの内部抵抗と比較して、内部抵抗が低減するものを、内部抵抗の低減効果があると判定した。なお、基材であるAl箔のみを集電体として用いて作製した電池セルの内部抵抗は45Ωであった。
【0085】
(接触抵抗の評価)
基材としてCu箔を使用した場合の接触抵抗(抵抗低減効果)については、以下のようにして測定を行った。
試料の両面を2枚のカーボンクロスで挟み、更にその外側を接触面積1cmの2枚の銅電極で挟み、この銅電極に1kgf(9.8N)の荷重をかけて加圧する。そして、直流電流電源を用いて7.4mAの電流を通電し、カーボンクロス間に加わる電圧を電圧計で測定した。接触抵抗は、前記した電流値、接触面積および測定した電圧から算出して求めた。同様の測定を基材のみを用いて行い、基材のみの場合と比較して接触抵抗が低減するものを接触抵抗の低減効果があると判定した。なお、何ら表面処理を施さない、基材であるCu箔のみの場合の接触抵抗は、約100[mΩ・cm(ミリオーム平方センチメートル)]であった。
【0086】
(付着量の評価)
導電物質の基材における単位面積当たりの付着量は、以下の手順により測定した。なお、本実施例において、基材における単位面積当たりの導電物質の付着量とは、基材の片面の単位面積当たりの付着量であり、導電物質であるカーボンブラックと、バインダーである水溶性樹脂および疎水性樹脂とを合計した付着量である。
まず、導電物質を含有する溶液を基材に塗布して乾燥した試料の質量を測定する。次に、試料の表面を水で拭き取り、乾燥させた。続いて、同じ試料の表面をアルコールで拭き取り、箔上に付着している親水性樹脂、親油性樹脂および導電物質を除去した。樹脂および導電物質を除去したあとの試料の質量を測定した。導電物質除去前と導電物質除去後の試料の質量差を、基材の面積で除することによって、導電物質の基材上における単位面積当たりの付着量を算出した。
なお、本実施例においては、基材(すなわち試料)は、50mm角の大きさ(すなわち、面積が2500mm)のAl箔またはCu箔を用いた。
【0087】
表1および表2に、Al箔を基材として作製した試料の特性評価結果および良否の判定結果の一覧を示す。
なお、表1および表2において、判定結果が「○」は良好を、「×」は不良を示す。また、表1および表2において、不良と判定された数値に下線を付して示した。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
表1に示したように、試料No.1〜No.7は、すべての評価(塗工性、密着性、内部抵抗、溶接性および被覆率)が良好で、SEMを用いた観察により、カーボンブラック(導電物質)が島状に配置されていることを確認した。なお、図5に示したSEM(走査型電子顕微鏡)写真は、No.1の試料表面を撮影したものであり、図5において、右下部に示す1目盛りは、10μmである。
【0091】
試料No.8は、カーボンブラック(導電物質)を用いない、基材であるAl箔のみの集電体を使用した電極を用いて電池セルを作製した場合の比較例である。電池セルの内部抵抗は45Ωであった。
【0092】
試料No.9は、スラリー中のカーボンブラック(導電物質)の濃度が14質量%と高い場合である。このため、カーボンブラックの被覆率が100%と高く、島状構造を持たないため、溶接性が優れなかった。
【0093】
試料No.10は、疎水性樹脂を使用せず、水溶性樹脂のみを使用した場合の結果である。被覆率は36%と1〜80%の範囲内であり、塗工性、内部抵抗の低減効果および溶接性は良好であるが、疎水性樹脂を使用しなかったため、十分な密着性が得られなかった。
【0094】
試料No.11は、水溶性樹脂を使用せず、疎水性樹脂のみを使用した場合の結果である。水溶性樹脂を使用しなかったため、基材の表面に良好にカーボンブラックを含むスラリーを塗工することができなかった。
【0095】
表2に示したように、試料No.12〜No.22は、すべての評価(塗工性、密着性、内部抵抗、溶接性(1)および被覆率)が良好である。導電物質の付着量を0.01g/m以上とすることで、電池の内部抵抗が、導電物質を有さないAl箔を用いた場合の内部抵抗(45Ω)の90%以下となり、接触抵抗が優位に低下することが確認できる。
【0096】
試料No.23は、スラリー中のカーボンブラック(導電物質)の濃度が10質量%と高い場合である。このため、基材表面の導電物質は付着量が多くて島状構造とならず、溶接性(1)が優れなかった。
【0097】
表3に、Cu箔を基材として作製した試料の特性評価結果および良否の判定結果の一覧を示す。なお、表3において、判定結果が「○」は良好を、「×」は不良を示す。また、表3において、不良と判定された数値に下線を付して示した。
【0098】
【表3】

【0099】
表3に示したように、試料No.24〜No.28は、すべての評価(塗工性、密着性、内部抵抗、溶接性(2)および被覆率)が良好で、SEMを用いた観察により、カーボンブラック(導電物質)が島状に配置されていることを確認した。
【0100】
試料No.29は、カーボンブラック(導電物質)を用いない、基材であるCu箔のみの集電体を使用した電極を用いて電池セルを作製した場合の比較例である。接触抵抗は108mΩ・cmであった。
【0101】
試料No.30は、スラリー中のカーボンブラック(導電物質)の濃度が10質量%と高い場合である。このため、カーボンブラックの被覆率が100%と高く、島状構造を持たないため、溶接性(2)が優れなかった。
【0102】
試料No.31は、水溶性樹脂を使用せず、疎水性樹脂のみを使用した場合の結果である。水溶性樹脂を使用しなかったため、基材の表面に良好にカーボンブラックを含むスラリーを塗工することができなかった。
【0103】
試料No.32は、疎水性樹脂を使用せず、親水性樹脂のみを使用した場合の結果である。被覆率は45%と、1〜80%の範囲内であり、塗工性・接触抵抗の低減効果および溶接性(2)は良好であるが、疎水性樹脂を使用しなかったために充分な密着性が得られなかった。
【符号の説明】
【0104】
1 集電体(電極材料)
1a 基材
1b 導電物質
2 活物質層
10 電極
11 正電極(電極)
12 負電極(電極)
13 セパレータ
14 電解液
20 リチウムイオン二次電池(二次電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔からなる基材と、この基材の少なくとも一方の表面に設けた導電物質とを備えた電極材料であって、
300μm四方の視野にて観察した際に、前記導電物質が前記基材の表面に島状に配置され、前記導電物質が、疎水性樹脂および水溶性樹脂とともに前記基材の表面に固着していることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
前記導電物質と前記水溶性樹脂と前記疎水性樹脂とを合計した前記基材の表面における単位面積当たりの付着量が、0.01〜0.50g/mであることを特徴とする請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電極材料の製造方法であって、
前記基材の表面に、前記導電物質と、前記水溶性樹脂と、前記疎水性樹脂の水系エマルジョン溶液と、を含有するスラリーを塗布する塗布工程と、前記スラリーを乾燥させる乾燥工程とをこの順で含み、前記スラリーを前記基材に塗布する前ないし塗布した後に、前記導電物質を前記スラリー中で凝集させることを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項4】
前記導電物質は炭素を含有し、前記スラリーにおける前記炭素の含有量が0.1〜7質量%であることを特徴とする請求項3に記載の電極材料の製造方法。
【請求項5】
前記スラリーは、前記水溶性樹脂の含有量が0.25質量%以上であり、前記疎水性樹脂の含有量が0.01質量%以上であり、かつ、前記水溶性樹脂の含有量および前記疎水性樹脂の含有量の合計が11質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載の電極材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の電極材料を用いる二次電池用の電極であって、前記電極材料の前記導電物質を設けた表面に活物質層を設けることを特徴とする電極。
【請求項7】
正電極および負電極を有する二次電池であって、前記正電極または前記負電極の少なくとも一方は、請求項6に記載の電極であることを特徴とする二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−110098(P2013−110098A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−194663(P2012−194663)
【出願日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】