説明

集電体、電極および二次電池

【課題】電極材料と活物質層との間の接触抵抗の低抵抗化を実現する二次電池用の電極材料を提供する。
【解決手段】集電体(電極材料)1は、金属箔からなる基材1aと、導電物質1bとを備え、導電物質1bは、基材1aの表面に島状または薄膜状に配置される。ここで、導電物質1bは、BET比表面積が300m/g以下、より好ましくは200m/g以下のカーボンブラックを含み、基材1aの表面におけるカーボンブラックの単位面積当たりの付着量が400mg/m以下となるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の電極に用いられる電極材料、その電極材料を用いた電極およびその電極を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池用電極の基材として用いられるアルミニウム箔や銅箔などの金属箔上に炭素系導電物質を塗布した集電体に関する研究は、これまでも様々な研究機関で行われている。また、特許出願も多数なされており、例えば、特許文献1〜特許文献4を挙げることができる。
【0003】
特許文献1および特許文献2には、アルミニウム箔や銅箔などの基材の表面に導電物質である炭素微粒子(導電物質)と皮膜形成用化合物とからなる皮膜を形成した集電体が記載されている。また、特許文献3には、炭素粉末(導電物質)と結着剤とからなる導電層を活物質との間に設けた集電体が記載されている。また、特許文献4には、カーボンを導電剤とする導電性塗料層を表面に設けた集電体が記載されている。これらは、集電体とその上に形成される活物質層との間の接触抵抗を低減し、電池の高速充放電特性、サイクル特性の向上を図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−226969号公報
【特許文献2】特開2010−135338号公報
【特許文献3】特開平9−97625号公報
【特許文献4】特開2001−351612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、集電体と活物質層との間の接触抵抗の更なる低減が求められている。
そこで、本発明は、二次電池の電極として用いた場合に、活物質層との接触抵抗の更なる低減が可能な電極材料を提供し、内部抵抗を低減した二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決するために、本発明に係る電極材料は、金属箔からなる基材と、この基材の少なくとも一方の表面に設けた導電物質とを備えた電極材料であって、導電物質はBET比表面積が300m/g以下のカーボンブラックを含有し、基材の表面におけるカーボンブラックの単位面積当たりの付着量が400mg/m以下であるように構成した。
【0007】
かかる構成によれば、少量のカーボンブラックを用いることで、二次電池の電極として用いる場合に、電極材料と活物質層との間の接触抵抗が低抵抗化される。
【0008】
また、本発明に係る電極材料は、カーボンブラックのBET比表面積が200m/g以下とすることが好ましい。
【0009】
かかる構成によれば、少量のカーボンブラックを用いることで、二次電池の電極として用いる場合に、電極材料と活物質層との間の接触抵抗がより低抵抗化される。
【0010】
本発明に係る二次電池用の電極は、前記した電極材料を用いる二次電池用の電極であって、この電極材料の、導電物質を設けた表面に活物質層を設けて構成した。
【0011】
かかる構成によれば、基材の表面に配置された導電物質により、集電体である電極材料と活物質層との間の接触抵抗が低抵抗化される。
【0012】
本発明に係る二次電池は、正電極および負電極を有する二次電池であって、正電極または負電極の少なくとも一方は、本発明に係る電極を用いて構成した。
【0013】
かかる構成によれば、二次電池の電極は、集電体である電極材料と活物質層との間の接触抵抗が低抵抗化されているため、二次電池として、その内部抵抗が低抵抗化される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電極材料によれば、二次電池の電極材料として用いた場合に、電極材料に設けられたかかるBET比表面積のカーボンブラックにより電極材料と活物質層との間の接触抵抗を低抵抗化するため、接触抵抗の大きな低減効果を得ることができる。
本発明に係る電極によれば、電極材料と活物質層との間の接触抵抗を低減することができる。
また、本発明に係る二次電池によれば、内部抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る集電体の構造を説明するための模式的断面図である。
【図2】本発明に係る集電体を用いた電極の構造を説明するための模式的断面図である。
【図3】本発明に係る電極を用いた二次電池の構造を説明するための模式的断面図である。
【図4】本発明に係る集電体の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電極材料(以下、集電体という)の実施の形態について、詳細に説明する。
[集電体の構造]
本実施形態に係る集電体の構造について、図1を参照して説明する。
図1に示した例では、本実施形態に係る集電体(電極材料)1は、金属箔からなる基材1aと、基材1aの表面に配置された導電物質1bとからなる。また、導電物質1bは、基材1aの両面に配置されている。なお、導電物質1bは、基材1aの表面に島状ではなく、薄膜状に一様に配置されてもよい。また、導電物質1bは、基材1aの片面に配置するようにしてもよい。
ここで、基材1aの表面の導電物質1bを配置した任意の領域において、導電物質1bは、面積が0.1mmの正方形の視野(約300μm四方の視野)にて観察した際に、基材1aの表面に島状または薄膜状に配置されていることが好ましい。
【0017】
なお、本願明細書において、「島状」とは、基材1aの表面の少なくとも一部が導電物質1bによって被覆されずに露出するように導電物質1bが配置されている状態をいう。例えば、図1に示すように複数の導電物質1bの凝集体が互いに孤立して配置されてもよく、凝集体同士が接合して網目状に配置されていてもよいものとする。
【0018】
また、導電物質1bが島状または薄膜状の何れの状態で基材1aの表面に配置される場合でも、導電物質1b中には、「JIS Z 8830:2001 気体吸着法による粉体(固体)の比表面積測定方法」にて測定したBET比表面積が300m/g以下のカーボンブラックが、400mg/m以下となる炭素付着量で含まれることが好ましい。これによって、同量の炭素付着量で、BET比表面積が300m/gを超えるカーボンブラックを用いた場合と比較して、接触抵抗を低減することができる。また、BET比表面積が200m/g以下のカーボンブラックを用いることが更に好ましい。これによって、顕著な接触抵抗の低減効果を得ることができる。なお、BET比表面積の下限値は特に規定しないが、カーボンブラックを導電物質中に理想的に分散させるため、20m/g以上とすることが好ましい。
【0019】
本実施形態に係る集電体1は、例えば、リチウムイオン二次電池の電極の集電体として好適に用いることができる。
少量の炭素量で大きな接触抵抗の低減効果を得ることができるため、導電物質1bの量、すなわち導電物質1bの厚さを薄くすることができ、結果としてこの集電体1を用いた電極10(図2参照)の厚さも薄くすることができる。
集電体1を用いた電極については、後記する。
【0020】
カーボンブラックによる導電性発現は、導電パス(カーボンブラックの粒子同士の繋がり)の形成しやすさに関係するといわれている。一般に導電パスは、カーボンブラックのBET比表面積が大きいほど形成されやすいと考えられているが、鋭意研究の結果、導電物質1bが基材1aの表面に少量(具体的には、400mg/m以下)付着している場合(例えば、島状または薄膜状に形成されている場合)の接触抵抗の低減効果の発現には、逆にBET比表面積が小さなカーボンブラックを用いることが有効であることを見出した。
【0021】
BET比表面積が300m/g以下のカーボンブラックを用いることによって、他の炭素と比較して接触抵抗が低減されるメカニズムは現在のところ解明されていないが、次のように推測される。BET比表面積が小さい粒子を用いることで、カーボンブラックの粒子同士が凝集体を作りにくくなるため、形成される凝集体の大きさが細かなものとなり、凝集体の数としては多くなる。そのため、集電体1の基材1aである金属箔と導電物質1bであるカーボンブラックとの接触点が増え、結果として導電パスが増えて接触抵抗が低減されると推測される。このBET比表面積が300m/g以下のカーボンブラックを用いることによる接触抵抗の低減効果は、導電物質1bが島状または薄膜状に基材1a上に塗工されている場合に特に効果的に発現するものである。
続いて、各構成要素について説明する。
【0022】
(基材)
基材1aは、二次電池用の電極の集電体1として一般的に用いられるアルミニウム(Al)や銅(Cu)などの金属を用いることができる。二次電池用の電極の集電体1として使用する際は、基材1aは一般的に厚さが5〜50μm程度の箔状で使用される。
なお、基材1aは特定の組成のAlやCuなどに限定されるものではなく、電極に用いられる場合に、その電極の使用環境に適した各種の純金属やその合金を用いることができる。
【0023】
(導電物質)
導電物質1bは、基材1aの表面に島状または薄膜状に形成され、基材1aとともに構成する集電体1と活物質層2(図2参照)との間の接触抵抗を低減するものである。
導電物質1bは、本来の導電物質であるカーボンブラックのほかに、樹脂などが含まれ、これらの混合体として基材1aの表面に固着している。
【0024】
導電物質1bに含まれるカーボンブラックは、前記したように、BET比表面積が300m/g以下のカーボンブラックを用いることが好ましく、BET比表面積が200m/g以下のカーボンブラックを用いることが更に好ましい。
【0025】
導電物質1bに含まれるカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、バルカンXC−72(Cabot社製)などを含む、各種のカーボンブラックを用いることができる。
【0026】
また、導電物質1b中に含まれるカーボンブラックの基材1aの表面における付着量(炭素付着量)は、前記したBET比表面積を小さくすることによる効果を発揮するために、400mg/m以下とすることが好ましい。
また、炭素付着量は、1mg/m以上とすることが望ましく、20mg/m以上とすることが好ましい。更に好ましくは、40mg/m以上である。基材1aと導電物質1bとの間の接触点が十分に確保でき、接触抵抗の低減効果を得ることができる。
【0027】
(電極)
次に、図2を参照して、本実施形態に係る集電体1を用いたリチウムイオン二次電池の電極の構成について説明する。
【0028】
図2に示した電極10は、本実施形態に係る図1に示した集電体1と、集電体1の表面(両面)に積層された活物質層2とから構成される。リチウムイオン二次電池の正電極を構成する場合は、集電体1としては、AlやAl合金等の金属を用いることができる。また、正極活物質としては、公知の材料、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn等のリチウム含有酸化物を使用することができる。正極の活物質層2の製造方法も特に限定されるものではなく、公知の方法、例えば、粉末状の前記したリチウム含有酸化物に、バインダーの他、必要に応じて導電材、溶剤等を添加して十分混練した後、集電体1に塗布し、乾燥し、プレスして製造することができる。なお、活物質層2は、導電物質1bが設けられた片面に積層するようにしてもよい。
【0029】
また、リチウムイオン二次電池の負電極を構成する場合は、集電体1としては、Cu、Cu合金、ニッケル(Ni)、Ni合金、ステンレス等の金属を用いることができる。また、負極活物質としては、例えば、黒鉛系炭素材料を用いることができ、正電極の活物質層2の製造方法と同様にして、製造することができる。
【0030】
(二次電池)
次に、図3を参照(適宜図2参照)して、本実施形態に係る集電体1を使用した電極10を用いたリチウムイオン二次電池の構成について説明する。
【0031】
図3に示したリチウムイオン二次電池(二次電池)20は、本実施形態に係る集電体1を使用した電極10である正電極11および負電極12と、セパレータ13と、電解液14とを含んで構成される。正電極11と負電極12とは、セパレータ13によって分離されており、正電極11と負電極12とセパレータ13との間は、電解液14が充填されている。また、リチウムイオン二次電池20の全体は容器(不図示)に収納され、正電極11および負電極12は、それぞれ金属製のタブ(不図示)が溶接され、電極端子(不図示)と電気的に接続される。
【0032】
正電極11および負電極12は、本実施形態に係る集電体1の表面に、それぞれ前記した正極活物質および負極活物質を含む活物質層2が形成されている。
また、セパレータ13および電解液14は、それぞれ公知の材料を用いて構成することができる。セパレータ13としては、例えば、厚さ20〜30μmのポリエチレン系のマイクロポーラスフィルムを用いることができる。また、電解液14としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどの有機溶剤にLiPF、LiBFなどの電解質を溶解させた非水系電解液を用いることができる。
【0033】
次に、図4を参照(適宜図1参照)して、本実施形態に係る集電体1の製造方法について説明する。
[製造方法]
図4に示したように、本実施形態における集電体1の製造方法は、塗布工程S1と、乾燥工程S2とがこの順で含まれる。
【0034】
集電体1は、金属箔からなる基材1aの表面に、導電物質1bを含有する溶液(スラリー)を塗布する塗布工程S1と、溶液を乾燥する乾燥工程S2とを含む製造方法によって製造することができる。
【0035】
(塗布工程)
まず、塗布工程S1について説明する。
導電物質1bは、基材1aの表面に島状に配置されても、薄膜状に配置されてもよい。導電物質1bを島状の構造に凝集させるには、基材1aに塗布する溶液中の導電物質1bの濃度を調節することが有効である。これは、導電物質1bの濃度を調節すると、溶液の粘度が変化するため、塗工性および乾燥後の導電物質1bの分布に変化が生じるからである。
【0036】
導電物質1bとしてカーボンブラックを用いた場合、溶液のカーボンブラックの濃度が0.1〜7質量%となる状態が好ましい。カーボンブラックの濃度を7質量%以下とすることにより、溶液の粘度が上昇し過ぎず、カーボンブラックの粒子同士の凝集が大きくなり過ぎないため、理想的な島状の構造を得ることができる。また濃度を0.1質量%以上とすることにより、島状の構造が形成されるとともに、導電物質1bであるカーボンブラックと基材1aである金属箔との接触点が十分にあり、集電体1と活物質層2(図2参照)との間の接触抵抗を低減する効果を得ることができる。
【0037】
更には、BET比表面積が300m/g以下、更に好ましくは200m/g以下のカーボンブラックを用いることによって、これ以外の炭素を用いた場合と比較して、優れた接触抵抗の低減効果を得ることができる。
【0038】
このような範囲のBET比表面積のカーボンブラックを用いることにより、前記したようにカーボンブラックの細かな凝集体ができ、カーボンブラックを基材1aの表面に細かな島状ないし薄膜状に分散させることができる。
【0039】
溶液の溶媒としては、例えば、水、トルエン、N-メチルピロリドンなどの、水系、有機溶媒系の各種溶媒を用いることができる。また、一般的に用いられている増粘剤やフッ素系樹脂など、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、ポリプロピレンなどの各種樹脂を添加してもよい。
【0040】
導電物質1bを含む溶液の基材1aの表面への塗布には、一般に用いられているバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ディップコーター、スプレーコーターなど各種コータによる塗布方法を用いることができる。なお、導電物質1bは基材1aの両面または片面に塗布される。
【0041】
(乾燥工程)
乾燥工程S2は、塗布工程S1の後に、溶媒を蒸散させるための工程である。乾燥工程S2は、室温にて乾燥させるようにしてもよいし、必要に応じて熱処理炉などを用いた加熱乾燥を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0042】
次に、本実施形態の集電体について、本発明の要件を満たす実施例と、本発明の要件を満たさない比較例とを比較して説明する。
【0043】
以下の方法により、試料を作製した。
(基材)
基材として、1000系のAl合金製の、厚さ15μmのAl箔、または99.99%の純銅製の、厚さ20μmのCu箔を使用した。
なお、後記する表1および表2において、各試料がAl箔とCu箔の何れを用いたかを、それぞれ「Al」または「Cu」で基材の欄に示した。
【0044】
(導電物質)
導電物質として、各種カーボンブラック(東海カーボン社製のカーボンブラック(表1の試料No.1〜No.4)および他の市販のカーボンブラック(表1の試料No.5〜No.9))を用いた。また、表1の試料No.10では、導電物質としてグラファイトを用いた。
【0045】
(塗布工程)
塗布工程においては、導電物質を含む溶液の溶媒として水を用い、CMC(カルボキシルメチルセルロース;和光純薬工業株式会社製)樹脂を1質量%の濃度で添加した。また、溶液の塗布は、バーコーター(番手No.5)を用いて行った。
【0046】
(乾燥工程)
導電物質を含有する溶液を基材であるAl箔またはCu箔の表面(片面)に塗布した後、室温にて基材を保持し乾燥を行った。
【0047】
<評価方法>
(電池の内部抵抗の評価)
基材としてAl箔を用いた場合には、Al箔を集電体として用いた電池セルを作製し、その内部抵抗を測定することによって接触抵抗の低抵抗化の効果を評価した。
導電物質(炭素)が形成された試料上に、活物質層を形成し、リチウムイオン二次電池用の正電極を作製した。ここで、活物質であるLiCoOと、導電助剤となるアセチレンブラック、バインダーとなるPVdF(ポリフッ化ビニリデン)と、溶媒となるNMP(N-メチルピロリドン)とを所定の割合で混合してスラリーとしたものを、試料の導電物質を形成した面に塗布し、120℃の大気中で乾燥させることにより、厚さ約25μmの活物質層を形成した。
【0048】
前記した試料調整と同様の方法により、厚さ約15μmのCu箔上に、グラファイトを活物質とするスラリーを塗布・乾燥してリチウムイオン二次電池用の負電極を作製し、前記した正電極と組み合わせることによって、電池の内部抵抗測定用の電池セルを作製した。
【0049】
作製した電池セルについて、所定のコンディショニング(調整)充放電処理を行った後に、4.2Vの充電状態から、放電レート(Cレート)を変化させた各電流で放電したときの放電曲線を測定した。そして、各放電曲線における容量1mAhを放電したときの電流値と電圧値との関係をプロットし、プロットして得られた直線の傾きに基づいて電池セルの内部抵抗を算出した。
【0050】
また、導電物質を有さない厚さ15μmのAl箔の基材のみを集電体として用いて、他の試料と同様に正電極を作製し、この正電極を用いて同様に電池セルを作製した。この電池セルについて、他の試料を用いた電池セルと同様に、放電曲線を測定し、内部抵抗を算出した。そして、この基材のみの集電体を用いて作製した電池セルの内部抵抗と比較して、内部抵抗が低減するものを内部抵抗、すなわち、接触抵抗の低減効果があると判定した。なお、基材であるAl箔のみを集電体として用いて作製した電池セルの内部抵抗は45Ωであった。
【0051】
(接触抵抗の評価)
基材としてCu箔を使用した場合には、以下のようにして接触抵抗の測定を行い、接触抵抗の低抵抗化の効果を評価した。
試料の両面を2枚のカーボンクロスで挟み、更にその外側を接触面積1cmの2枚の銅電極で挟み、この銅電極に1kgf(9.8N)の荷重をかけて加圧した。そして、直流電流電源を用いて7.4mAの電流を通電し、カーボンクロス間に加わる電圧を電圧計で測定した。接触抵抗は、前記した電流値、接触面積および測定した電圧から算出して求めた。同様の測定を基材のみを用いて行い、基材のみの場合と比較して接触抵抗が低減するものを接触抵抗の低減効果があると判定した。なお、何ら表面処理を施さない、基材であるCu箔のみの場合の接触抵抗は、約100[mΩ・cm(ミリオーム平方センチメートル)]であった。
【0052】
(炭素付着量の測定)
導電物質中に含まれる炭素(カーボンブラック)の量は、次の手順で測定した。基材の片面に導電物質が塗工された試料(70mm×30mm)の質量(W1)を測定し、その後、水または有機溶媒を含ませたキムワイプ(日本製紙クレシア社製のワイピングクロス)にて導電物質を拭き取り、再度質量(W2)を測定した。両者の差(W1−W2)により求められる質量変化を導電物質の質量(W3)とした。
【0053】
次に、導電物質が塗工された試料の表面を、光学顕微鏡にて500倍の倍率で観察した画像をコンピュータに取り込み、全視野中に含まれる炭素の割合(被覆率)を画像解析にて算出した。得られた炭素の割合(被覆率)と導電物質の質量(W3)との積を、導電物質中に含まれる炭素の質量とした。
【0054】
なお、炭素の割合(被覆率)とは、導電物質が付着した領域における炭素が付着した領域の割合のことである。炭素の割合を算出するのは、導電物質である炭素を含む塗工溶液を基材の表面に塗布して形成された導電物質中(質量W1中)には樹脂などの物質が含まれているので、本来の導電物質である炭素の付着量を正確に測定するためである。
【0055】
そして、炭素の質量を試料の面積(70mm×30mm)で除することにより、炭素付着量(mg/m)を算出した。
【0056】
表1に、Al箔を基材として作製した試料の作製条件、特性評価結果および良否の判定結果の一覧を示す。なお、表1において、判定結果が「◎」は効果の大きいもの、「○」は効果の見られるもの、「×」は効果が小さいものまたは効果の見られないものを示す。また、表1において、範囲外の数値に下線を付して示した。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すように、No.1〜No.4は、溶液中の導電物質である炭素のBET比表面積が200m/g以下のカーボンブラックを用いて、かつカーボンブラック(炭素)付着量が400mg/m以下の場合を示す。No.1〜No.4は、何れも内部抵抗が35Ω未満であり、BET比表面積が300m/gを超える場合(No.9参照)と比較して、著しい内部抵抗(すなわち、接触抵抗)の低減効果が確認される。
【0059】
No.5およびNo.6は、BET比表面積が300m/g以下のカーボンブラックを用いて、かつカーボンブラック(炭素)付着量が400mg/m以下の場合を示す。No.5およびNo.6は、何れも内部抵抗が40Ω以下であり、BET比表面積が300m/gを超える場合(No.9参照)と比較して、内部抵抗(すなわち、接触抵抗)の低減効果が確認される。
【0060】
No.7およびNo.8は、BET比表面積が300m/g以下のカーボンブラックを用いたが、カーボンブラック(炭素)付着量が400mg/mを超える場合を示す。集電体として基材であるAl箔のみを用いた場合の内部抵抗(45Ω)よりは内部抵抗(すなわち、接触抵抗)の低減効果が確認されるが、炭素付着量が多いため、導電物質そのものの抵抗の影響が大きくなり、炭素付着量が400mg/m以下の場合(No.4およびNo.6参照)と比較して、内部抵抗(すなわち、接触抵抗)の低減効果は小さい。
【0061】
No.9は、BET比表面積が300m/gを超えるカーボンブラックを用いた場合を示す。集電体として基材であるAl箔のみを用いた場合の内部抵抗(45Ω)よりは内部抵抗(すなわち、接触抵抗)の低減効果が確認されるが、No.1〜No.6の場合と比較して、高い内部抵抗(すなわち、接触抵抗)を示していることがわかる。
【0062】
No.10は、BET比表面積は300m/g以下であるが、炭素種が異なる場合を示す。炭素種が異なるため、集電体として基材であるAl箔のみを用いた場合と比較して、内部抵抗(すなわち、接触抵抗)の低減効果が確認されなかった。
【0063】
表2に、Cu箔を基材として作製した試料の作製条件、特性評価結果および良否の判定結果の一覧を示す。なお、表2において、判定結果が「◎」は効果の大きいもの、「○」は効果の見られるもの、「×」は効果が小さいものまたは効果の見られないものを示す。また、表1において、範囲外の数値に下線を付して示した。
【0064】
【表2】

【0065】
表2に示すように、No.11およびNo.12は、溶液中の導電物質である炭素のBET比表面積が200m/g以下のカーボンブラックを用い、カーボンブラック(炭素)付着量が400mg/m以下の場合を示す。何れも接触抵抗が50mΩ・cm以下であり、BET比表面積が300m/gを超える場合(No.16参照)と比較して、接触抵抗の著しい低減効果が確認される。
【0066】
No.13およびNo.14は、BET比表面積が300m/g以下のカーボンブラックを用い、カーボンブラック(炭素)付着量が400mg/m以下の場合を示す。No.13およびNo.14は、何れも接触抵抗が80mΩ・cm以下であり、BET比表面積が300m/gを超える場合(No.16参照)と比較して、接触抵抗の低減効果が確認される。
【0067】
No.16は、BET比表面積が300m/gを超えるカーボンブラックを用いた場合を示す。集電体として基材であるCu箔のみを用いた場合(No.15)の接触抵抗に比べて若干低抵抗化しているが、No.11〜No.14の場合と比較して高い接触抵抗を示していることがわかる。
【0068】
No.17は、BET比表面積は300m/g以下のカーボンブラックを用いたが、カーボンブラック(炭素)付着量が400mg/mを超える場合を示す。集電体として基材であるCu箔のみを用いた場合(No.15)の接触抵抗に比べて若干低抵抗化しているが、No.11〜No.14の場合と比較して高い接触抵抗を示していることがわかる。
【符号の説明】
【0069】
1 集電体(電極材料)
1a 基材
1b 導電物質
2 活物質層
10 電極
11 正電極(電極)
12 負電極(電極)
13 セパレータ
14 電解液
20 リチウムイオン二次電池(二次電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔からなる基材と、この基材の少なくとも一方の表面に設けた導電物質とを備えた電極材料であって、前記導電物質にはBET比表面積が300m/g以下のカーボンブラックを含有し、前記基材の表面における前記カーボンブラックの単位面積当たりの付着量が400mg/m以下であることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
前記カーボンブラックのBET比表面積が200m/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電極材料を用いた二次電池用の電極であって、前記電極材料の前記導電物質を設けた表面に活物質層を設けることを特徴とする電極。
【請求項4】
正電極および負電極を有する二次電池であって、前記正電極または前記負電極の少なくとも一方は、請求項3に記載の電極であることを特徴とする二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−110097(P2013−110097A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−192850(P2012−192850)
【出願日】平成24年9月3日(2012.9.3)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】