説明

集電構造体及び電極構造体

目的は、電気導電性やイオン導電性が良い集電構造体及び電極構造体を得ることにあり、この構成は、集電用基板と、集電用基板上にバインダを使用することなく、形成された炭素材又は電極活物質とを備えている集電構造体又は電極構造体にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池やキャパシタなどの電気部品の集電構造体及び電極構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電池やキャパシタなどの電気部品の集電構造体及び電極構造体は、集電用基板や導電助剤や電極活物質の接着にバインダを使用するため、電気導電性、イオン導電性及び耐久性が良くなかった。
【0003】
本発明は、電気導電性やイオン導電性が良い集電構造体及び電極構造体を得ることにある。また、本発明は、耐久性が良い集電構造体及び電極構造体を得ることにある。また、本発明は、性能の良い電池やキャパシタを提供することにある。
【0004】
本発明は、集電用基板と、集電用基板上にバインダを使用することなく形成された炭素材と、を備えていることを特徴とする、集電構造体にある。また、本発明は、集電用基板と、集電用基板上に形成されたロッド状、又はスポンジ状、又はファイバ状の炭素材と、を備えていることを特徴とする、集電構造体にある。また、本発明は、上記いずれかに記載の集電用基板と、炭素材の表面に形成された電極活物質と、を備えていることを特徴とする、電極構造体にある。また、本発明は、集電用基板と、集電用基板上にバインダを使用することなく形成され電極活物質とを備えている、電極構造体にある。また、本発明は、集電用基板と、集電用基板上に形成されたロッド状、又はスポンジ状、又はファイバ状の電極活物質とを備えている、電極構造体にある。
発明の詳細な説明
【0005】
<1>電池やキャパシタなどの電気部品の電極
電池やキャパシタ(電気二重層キャパシタ、電気二重層コンデンサ)等の電気部品の電極は、イオンとの間で電気の受け渡しができるもの、又はイオンを引きつけることができるものである。電池の正電極の電極構造体には、集電構造体上にLiMnなどの電極活物質が使用され、負電極構造体の場合、グラファイトやハードカーボンなどの電極活物質が使用される。また、キャパシタの正負の電極構造体は、集電構造体上にリチウムなどのイオンを多量に付着できる高表面積の電極活物質が使用される。電極構造体の間に電解質物質とセパレータ(必要な場合)を配置し、二次電池やキャパシタを作製する。
【0006】
<2>集電用基板
集電用基板は、電池やキャパシタなどの電気部品の正極や負極の電極の一部であり、電気を出し入れし、電極を支持するものである。集電用基板は、アルミニウムや銅など電気を流すことができる導電材を使用でき、又は、金属や炭素(カーボン)材などの導電材を付着したセラミックスやガラス、また、ステンレスなどの保持材を使用できる。集電用基板は、例えば、アルミニウム薄膜や銅薄膜が使用できる。また、セラミックスやガラスの表面にグラファイトなどの炭素材を蒸着(deposit)で層や膜を形成したもの、又はアルミニウムや銅などの金属を形成したものが使用できる。本発明において、炭素材とは、炭素を主成分とする物質である。
【0007】
<3>集電構造体
集電構造体は、電気部品の正極や負極の電極の一部であって、電気を集めて電気部品の内部に流したり、外部に流すものである。集電構造体は、集電用基板上にグラファイトなどの炭素材からなる集電層を形成したものである。炭素材は、接着剤(バインダ)を使用することなく、集電用基板上に層や膜として形成され、又は、集電用基板上にロッド状、スポンジ状、又はファイバ状などのように、内部に空間を有する多孔質状の集電層として形成される。集電層は、水滴状、球状など炭素材を、集電用基板上に接着剤を使用しないで形成させる。形成とは、付着、固着、結合などの固定された状態を得ることで、例えば成長させて形成する。炭素材の形成方法は、種々の方法により行う。炭素材を層や膜として、又は、ロッド状、スポンジ状、又はファイバ状に、種々の条件により種々の形状に制御される。炭素材は、集電用基板上に接着剤を使用しないで付着、又は固着、又は形成する。負極用集電構造体には、金属材料のほかに、炭素材として、グラファイトの他に、ハードカーボン、ソフトカーボン、又はこれらの混合物が用いられる。なお、「炭素材からなる集電層」とは、主に炭素材を有する集電層であり、集電構造体として作用すれば、他の物質を有していても良い。
【0008】
ロッド状、スポンジ状、又はファイバ状とは、炭素材が基板上に空隙率が異なって形成された状態をいう。即ち、ロッド状、スポンジ状、又はファイバ状とは、炭素材が基板上に海底の海草や海藻のように空隙率を有している状態をいう。ロッド状は、太目の上方に突出した炭素材であり、例えば層としての密度は1.4g/cmであり、スポンジ状は、ロッド状より細く上方に突出した炭素材であり、例えば密度は0.75g/cmであり、ファイバ状は、更に細く、突出した炭素材であり、例えば密度は0.4g/cmである。一般の層や膜の密度は、例えば2.4g/cmである。これら密度の数値は、一例であり、任意に設定する。ロッド状は、棒状とも呼べ、スポンジ状は、鎖状とも呼べ、ファイバ状は、糸状とも呼べる。
【0009】
ロッド状、スポンジ状、又はファイバ状に突出した炭素材は、集電用基板に近い方の密度を高め(空隙率を低く)、上方では密度を低く(空隙率を高く)するとよい。このように空隙率を場所によって変えることにより、電極活物質や電解質の密度や集電用基板への侵入を容易にすることができ、電極として有効な構造とすることができる。
【0010】
<4>電極構造体
電極構造体は、集電用基板上に少なくとも電極活物質と導電材からなる電極層を形成したものである。電極構造体は、集電構造体のロッド状、スポンジ状、又はファイバ状(以下、分岐状又は枝状の状態も含む)など炭素材の表面に電極活物質を形成して、集電用基板上に多孔質の電極層を形成したものである。水滴状、球状など電極活物質を、集電構造体の表面上に接着剤(バインダ)を使用しないで形成させる。形成とは、付着、固着、結合などの固定された状態を得ることで、例えば成長させて形成する。炭素材の表面に形成される電極活物質は、特に平均粒径が2ミクロン(μm)以下が好ましく、更に、1ミクロン(μm)以下が好ましく、例えばサブミクロンが好ましい。平均粒径1〜2ミクロンが、粉砕加工の限界であり、その限界より小さな活物質を炭素材の表面に形成するとよい。電極活物質の平均粒径が小さいと、それだけ体積あたりの表面積が大きくなり、電極活物質からイオンの出入りがスムーズに行われるようになり、電極の特性が向上する。電極活物質を粉砕して塗布する場合、粉砕の限界の問題の他に、バインダを使用することになり、電極活物質の表面がバインダで覆われて、電極活物質からのイオンの出入りが制限され、電極の特性が悪化することになる。
【0011】
電極構造体は、また、集電用基板上にロッド状、スポンジ状、又はファイバ状(以下、分岐状又は枝状の状態も含む)など内部に空間のある多孔質状の電極活物質を形成し、そこに、導電材を形成する。形成方法は、種々の方法や条件により行う。水滴状、球状など電極活物質を、集電用基板上に接着剤(バインダ)を使用しないで形成する。
【0012】
集電用基板上に形成された電極活物質表面にグラファイトなどの導電材を形成して、電極構造体を作製する。導電材は、電極活物質表面に粒子状に、又はファイバ状に形成される。導電材は、集電用基板上にも粒子状に、又はファイバ状に形成される。導電材は、電極活物質で覆われていない集電用基板上に形成される。又は、集電用基板付近の電極活物質の表面に高密度に形成される。又は、導電材は、電極活物質で覆われていない集電用基板上に形成され、かつ、集電用基板付近の電極活物質の表面に高密度に形成される。これらの構成により、電気抵抗を低減することができる。
【0013】
このように、バインダを使用する必要がなく、空孔率を高めることができるため、比抵抗の小さな電極構造体を得ることができ、ハイレート(high rate)な電池を得ることができる。又は、イオン導電性や電気導電性の高い電極構造体を得ることができる。又は、バインダの経時変化の影響を受けないため、長寿命の電極構造体を得ることができる。又は、集電用基板として、セラミックやガラスを使用できるので、長寿命で耐久性の高い電極構造体を得ることができる。又は、温度変化による伸縮性の少ない電極構造体を得ることができる。又は、高温での処理が可能となり、電極構造体の製造を容易にでき、種々の構造の電極構造体を得ることができる。又は、耐食性に優れているので、不可燃性、無毒性などの電解質(電解物質)の選択の幅が広がる。電解質は、液体や固体などの種々の状態を取り得る。電解質は、電極構造内に入り込み、電極活物質と電解質と導電材が電気的にもイオン的にも高導電性の状態となる。
【0014】
ロッド状、スポンジ状、又はファイバ状などの導電材や電極活物質を集電用基板上に任意の形状で、任意の太さに、空隙のある電極層として形成するので、電気容量の大きな電池やキャパシタを製造することができる。このように構成することにより空隙率を任意に調整でき、例えば40%以上の空隙率も得ることができる。導電材は、ハードカーボンやソフトカーボンで形成できるので、電極構造体の電気的な特性を種々、変えることができる。
【0015】
電極構造体の構造において、電極活物質の表面に粒子状、又はファイバ状の導電材が形成してあるもの、電極活物質で覆われていない集電用基板に導電材が形成してあるもの、集電用基板付近の電極活物質に高密度に導電材が形成してあるもの、電極活物質間の空間に電解質物質が存在するものなどがある。
【0016】
なお、本発明において、「接着剤(バインダ)を使用することなく」の記載は、集電構造体や電極構造体の形成において、接着剤(バインダ)の接着力を実質的に利用することなく、炭素材、電極活物及び集電用基板が相互に付着、固着、結合など固定することを言う。又は、炭素材自身が相互に、又は電極活物質自身が相互に付着、固着、結合など固定することを言う。
【0017】
<5>電極活物質
電極活物質は、イオンを授受するものであり、電池の種類により多数の物質がある。例えば、リチウム電池の場合、正極活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiMnなどリチウム活物質がある。負極活物質としては、カーボン系材料、リチウム金属など金属がある。キャパシタの電極活物質としては、高表面積材料が使用できる。特に炭素材料を水蒸気賦活処理法、溶融KOH賦活処理法などにより賦活化した活性炭素が好適である。
【0018】
<6>燃料電池の電極構造
PAFCやPEFCなどの燃料電池の燃料極や空気極電極は、スポンジ状の多孔質物質、例えば多孔質カーボン構造体で形成できる。燃料電池の電極は、このような多孔質物質に白金などの触媒を胆持する。多孔質物質、例えば多孔質カーボンは、蒸着方法により、スポンジ状に形成でき、耐久性と強固な担持力を確保でき、燃料電池の耐久性を高めることもできる。また、白金などの触媒も、上記電極活物質の蒸着のように、粒状、点状など種々の形状に多孔質物質上に形成することができる。
【0019】
以下に、集電用基板上にロッド状、スポンジ状、ファイバ状を形成する方法を示す。
【0020】
<1>自己組織化による形成方法
炭素の自己組織化は、例えばナノテクノロジーで利用されており、接着剤(バインダ)を用いることなく、方向性を持つ相互作用によって、内部に空隙を有する構造を得ることができる。これにより、集電用基板上にロッド状、スポンジ状、又はファイバ状に、炭素(グラファイト)や電極活物質を内部に空隙を有するように形成することができる。
【0021】
<2>分子線エピタキシーによる形成方法
分子性エピタキシー法は、例えば分子線を加熱した基板に照射し、結晶成長させるもので、20ナノメータ程度の小さなサイズの構造を意図した形状に接着剤(バインダ)を用いることなく、人工的に作り上げることができる。この技術を使用することにより、集電用基板上にロッド状、スポンジ状、又はファイバ状の炭素(グラファイト)や電極活物質を内部に空隙を有するように形成することができる。
【0022】
<3>蒸着による形成方法
蒸着は、化学組成、及び、層構造、及び、その厚さ、水滴状、球状など粒状に、様々な基板に物質を形成することが可能である。また、蒸着は、高い蒸着率を提供することが可能である。1つの実施の形態に関する、薄膜を蒸着する方法には、実質的に真空化した処理チャンバに、少なくとも、選択した1つの気相成分を含む蒸気を種々の条件で供給する。前記蒸気は、加熱した基板上に凝縮され、成分の凝縮温度より低く、気相成分の昇華温度より高く、基板の温度を保持することによって、液相蒸着物を形成するものである。上記の状態のもとで、蒸気物質は、従来の熱スパッタリングにおけるような固体層としてでなく、基板表面の湿潤性によって、実質的に一定の厚さの液体層として、基板の上に蒸着される。従って、基板へ十分に付着し、および蒸着物の厚さの均一性を確実なものとする。冷却後、液体蒸着物は、凝固する。蒸着の条件を種々変えることにより、各種の形状の蒸着が可能となる。
【0023】
ここに使用されているように、用語「昇華温度」は、相蒸着物が、直接成分の一致する蒸気から得ることができる、最大温度を示す。そして、液体成分は、冷却され、所望の物質の固相層を形成する。
【0024】
本蒸着は、原物質を化学的に変えることなく蒸着を可能とする。1個の原物質でもって利用可能であるが、2個以上の相成分を提供することが可能である。2個以上の相成分とは、例えば、少なくとも2個の試薬原料を共同蒸発させて造った複数の相成分とか、それらが基板上に凝縮したものとかである。凝縮した試薬成分は、凝縮した後に、基板表面の液相に反応可能である。
【0025】
本蒸着は、金属、半導体、および非金属無機物質の薄膜を含む幅の広い様々な層を蒸着するのに適用可能である。電池用の固体電解質および電極を形成するのに役に立つ。加えて、燃料電池および他の電磁気活性(能動)装置に使用することが可能である
【0026】
本蒸着においては、少なくとも1つの蒸気を処理チャンバに供給する必要がある。固体の原材料を蒸発させて、蒸気を得ることが可能である。複数の成分を持つ共融(eutectic)電解質の組成等のような、より複雑な所望の組成物に関しては、固体において適切な分子比をもつ個々の成分は、加熱炉などの加熱装置に入れ、融解をすることが可能である。融解物は、撹拌することが望ましい。撹拌は、キャビテーション撹拌装置を用いて実施可能である。液体原料を固体表面上に分配し、冷却することによって、所望の共融組成を有する粒子を得ることが可能である。そして、好ましくは、前記粒子を100μm未満の大きさに粉砕して、蒸発に適した粉末を形成することが可能である。蒸気の原料に係わらず、蒸気は、加熱した基板上において、気相成分の凝縮温度より低い温度に、前記基板の温度を保持することによって、凝縮され、液相蒸着物を形成する。
【0027】
処理チェンバ壁は、その壁上での蒸着を回避するに充分な温度に保つことが好ましく、それは、リアクターチャンバ壁上で蒸発した物質の蒸着が、基板の上の蒸着率を低下させたり、蒸着層の微粒子混在物となることがあるためである。たとえば、処理チャンバ壁に蒸着される膜のフレークは、蒸着膜における微粒子混合となる可能性がある。従って、処理チャンバおよび基板の夫々の温度を調整することによって、処理チャンバ壁上でなく、基板上で液体を凝縮するように設定することが好ましい。従って、チャンバ壁の温度は、蒸気の凝縮温度よりも高温に維持されるのに対して、基板は、蒸気の凝縮温度よりも低温に維持される。
【0028】
形成される固体膜の結果として生ずる構造は、蒸着液の冷却率に依存する。粒子物質と物質の使用目的によって冷却率を選択する。冷却率が増大すると、一般に、蒸着層の構造は、結晶から、微結晶状態、非結晶−結晶状態、そして、非結晶状態へと変化する。ここで使用する非結晶という用語は、実質的に非結晶マトリックスに配置される、局在微結晶を有する構造を示すものである。
【0029】
一般に、微結晶および非結晶−結晶構造は、高度な均質性の化学組成と、イオン伝導率、電気化学活量等の充分な電気化学特性とを呈するものである。酸化モリブデンをベースにしたカソード物質および共融酸化物と硫化物系とをベースにした固体電解質の膜の電気化学特性は、夫々、微結晶および非結晶−結晶構造を有する場合に、前記の膜が、高い値のカソード固有のエネルギーおよび高い値の電解質伝導率を示した。厚くて多層の膜を蒸着するのに利用し、電解質膜に蒸着される電極膜を含む電池を作るための、このようにして電極および電解質物質を提供することが可能である。
【0030】
<4>蒸着装置
図6は、蒸気凝縮を利用して、物質を蒸着させるために採用される、一般的な蒸着システム100を開示するものである。蒸着システム100は、投与装置110と、調節可能な作業チャンバのボリュームを有する処理チャンバ120と、作業チャンバの他の部分から基板の分離を可能とするバルブ20とを含むことが可能である。蒸発/凝縮処理中の作業チャンバのボリュームの減少は、基板の蒸気の密度と蒸気の凝縮率とを増加させる可能性がある。蒸発/凝縮処理が完了した後に起こる、バルブを閉じた作業チャンバの容量の増加は、断熱膨張の結果として得た蒸着膜物質の温度を低下させる使用可能であり、膜物質の凝固率を増大させることが可能である。蒸発作用が、蒸気の供給に使用される場合、蒸発装置内の融成物のキャビテーション撹拌処理を、蒸気の組成を補正するシステムと合わせて使用することが可能である。例えば、重い要素と軽い要素とを一緒に蒸発する場合、蒸気を構成する夫々の要素は、その鋭敏さ(agility)および分圧が異なるので、蒸気組成を補正することが望ましい。1つ以上追加した蒸発または入口ガスシステムは、メイン蒸発装置と同時に利用して、1つ以上の成分を持つ蒸気を追加し、この成分の分圧を上昇させ、蒸気の組成を補正することが可能である。
【0031】
ある場合には、蒸気の電気抵抗は、その組成物の特質に依存する。この場合、高電圧(例えば、500V)で、2つの比電極間の電流を測定し、上述のように補正することによって、「原位置でin situ」蒸気の組成物を制御することが可能である。
【0032】
この方法は、金属基板、セラミック基板などの様々な基板の上の異なる物質の薄膜の製造を可能とし、そして、加熱槽内の分離(segregation)を実質的に回避し、高い均質性気体組成物の構成を提供するものである。
【0033】
真空凝縮方法が、少なくとも1つの固体の原物質を蒸発させる工程を含む場合、蒸着膜に関する、結果として生ずる厚さ、構造上の均質性、物理的および化学的特性は、主として次のパラメータに依存することが判った。パラメータとして、(1)蒸発装置の温度、(2)蒸発された物質の蒸気の温度、(3)蒸発された物質の蒸気の圧力および密度、(4)基板表面の温度および状態、(5)凝縮膜物質の蒸着率、(6)凝縮膜物質の冷却率がある。
【0034】
プロセスに影響を及ぼす可能性がある他の要因には、外形、処理チャンバの物質、蒸発装置の比出力密度(specific power density)等が挙げられる。これらのパラメータの夫々の影響は、図6に図示した装置等の蒸気凝縮を使用して、蒸着物を製造する装置を用いながら、個別に検討される。
【0035】
図6を再度参照すると、所望の膜物質成分は、一般に、投与装置内に粉末3として送られ、投与ニードル2を使用して、シュート4を介して、処理チャンバに送られる。投与ニードル2は、電磁レバー1によって制御することが可能である。
処理チャンバは、シールド7によって保護可能な抵抗加熱要素などの加熱装置6によって加熱される。アルゴンなどの不活性ガスは、基板12側に方向付可能なパイプ5を介して送ることが可能である。パイプ8を介する不活性ガスのための第2入口は、蒸着膜物質全体に任意のガスを流動するために設置することが可能である。予熱されたガスは、さらに、パイプ21を介してチャンバ内に送ることが可能である。
【0036】
基板は、ヒータ11にて加熱可能である。基板の温度は、サーモカップル13によってモニタ可能である。真空バルブ20は、反応器チャンバの真空化を可能とするために設置される。処理チャンバの外側区画15は、処理チャンバの容量の変更が可能となるように、膨張可能であり、また、収縮可能であることが好ましい。蒸発装置17は、蒸着される1つ以上の成分を融解して、蒸発することが可能である。
【0037】
蒸発装置の温度プロフィルは、原料の予備的乾燥およびアウトガスを確実とするように調節可能である。蒸気密度を上昇する場合、蒸発率は、減少可能である。この減少は、蒸発装置の対応温度の増大によって補正可能である。しかし、プロセス開始時の温度増大があまりにも急であると、巨視的な液滴を形成することにつながりかねない。一般的に、巨視的な液滴は、基板上の凝縮時における、基板への不十分な付着があったことを示す。しかし、これらの液滴は、ほぼ煙霧質サイズであるので、巨視的な液滴は、プロセスの最終段階に適用する場合に役立ち、既に形成された膜物質上での凝縮は、その膜物質の比面積を増大させることが出来る。一般に、増大した比膜面積は、カソード、あるいは、固体電解質の電気化学特性を高めるので、電池の適用に役に立つことが可能である。
【0038】
<5>蒸着処理
ほぼ900℃から1100℃の範囲の融解温度を有する大部分の共融酸化物、硫化物系およびホウ化物系を蒸発するのに適する蒸発装置のための典型的な温度プロフィルは、図7に示されている。図7に示される温度プロフィルは、3つの段階を含んでいる。最大2000℃の温度の第3の段階は、蒸発が発生する段階である。100℃〜150℃の第1の低い温度段階は、乾燥段階である。900−1100℃の中間段階は、除気段階である。最大2000℃の温度の第3段階は、蒸発が発生する段階である。
【0039】
蒸気の温度は、蒸気の原子および分子の運動エネルギーを決定する。ガスおよび温度のエネルギーに関する式E=3/2kTは、一般的に、蒸気でなく、良く理想気体の計算に利用されるので、一般的に云って、上記の蒸気原子または蒸気分子の運動エネルギーを推測するために用いられるべきではない。蒸気の温度上昇は、一般に、基板に現れる層の付着性を改善するものである。しかし、反応器の容量が一定に保持されるとすれば、蒸発中の蒸気温度を上昇させることが、その圧力および密度に影響を及ぼす。一般に、基板付近の蒸気の臨界温度に近い温度で、蒸着率を最大とし、そして、高均質な層を供給する。
【0040】
一般的に、蒸発装置および基板近くの蒸気温度には、相当の違いがある。この違いは、初期の物質の高い蒸発率および蒸気の低い熱伝導率のためである。物質の蒸発率が高いために、圧力および蒸気密度は、また、可変であり、一般に、温度よりもより低い範囲で変化する。従って、上述のシステムにおいて、蒸気の圧力、温度および蒸気密度は、システムの全部分において異なることとなる。その結果、相図を図示することはしない。
【0041】
しかし、ここに提案した蒸着の大略を考えれば、圧力および蒸気密度が、システムの容量内では一定であると考えることが可能である。この場合、その固相蒸着のない蒸気の凝縮については、図8に示される概略相図に基づいて説明することができる。図8に示されるように、蒸発装置近くの物質は、一定圧力Pにおいて、高い温度を示し、蒸発状態310に入る。一方、基板が蒸着される付近での温度は低い。基板温度に対応する位相は、圧力Pでは、安定した液体相320の領域に位置する。従って、本蒸着は、基板上に蒸気凝縮を発生させるものである。
【0042】
本蒸着において、蒸気密度および関連熱力学的パラメータは、開始物質の蒸発率および基板上での凝縮率によって決定される。加えて、基板上の蒸気凝縮は、(図表線(ダイヤグラムライン)に位置する)平衡値と比べると、一般に高い圧力で開始されることとなる。このような結果となるのは、凝縮状態に移動する際、蒸気が、必要な程度の過飽和に達する必要があるためである。独立した温度制御システムは、蒸発装置および基板の温度を制御するために設けられることが好ましい。温度制御システムは、コンピュータで管理調整することが好ましい。蒸発装置および基板用の独立した温度制御システムは、実質的に噴霧率には関係なく、作業チャンバにおける所望の温度分布を維持することを可能とする。
【0043】
ステンレススチール(Cr18Ni10Ti)などの様々な基板上の種々の物質の湿潤特性に関しての詳細な研究がなされた。大部分の共融カソード酸化物電極物質は、離散液滴というより、むしろ液層として、ステンレススチール(Cr18Ni10Ti)上に蒸着されることが分かり、その厚さは、選択した基板温度下での、液体の粘度および表面張力に依存するものである。
【0044】
液体蒸着の後で、強制冷却は、より迅速に、液体を凝固するために強制冷却を利用することが可能である。例えば、蒸着される液体を冷却するのに、不活性ガスの噴射を利用することが可能である。形成される固体の構造は、一般に、冷却率に依存するものである。冷却率が増大すると、結晶化度は、一般に、減少する。
【0045】
Mo、W、Li、Bの酸化物およびそれらの共融組成物などの、電池に使用する電極および固体電解質に関しては、一般的に、最大2K/sの冷却率で、結晶構造が形成される。ほぼ5K/sから7K/sへの冷却率の増大は、一般に、共融微粒子構造を形成へとつながる。固体電解質の共融システムにおける冷却率のさらなる増大は、電極物質の場合、非結晶−結晶構造および微結晶構造、あるいは、ほとんど非結晶構造の形成へとつながることになる。非結晶−結晶構造は、広幅の均質な非結晶ドメインを有する、極度に分散された結晶相で構成され、異なる種類の固溶体を含むことが可能である。
【0046】
本蒸着は、初期原料の構造と異なる層構造を形成する目的で利用することが可能である。例えば、電池用の固体電解質の蒸着を実現するためには、初期原料は、一般に、800℃から1000℃の範囲の融解温度を示す、共融組成物を利用する。本蒸着を使用して、まず、凝縮薄液体層物質が形成され、そして制御冷却下で凝固される。制御冷却は、アルゴン噴射などの強制ガスによって、実施することが可能である。基板温度および冷却率は、常温で強化イオン伝導率を持つ非結晶−結晶構造を形成するように、選択する。
【0047】
そのような構造は、電解質のイオン伝導率の500−1000重(倍)の増大を可能とし、これは非結晶マトリックス中に挿入された結晶相位間のインターフェイス上に空位が作られて生ずると考えられる。固体電解質の伝導率を増大する挿入された相位は、アルミニウム、酸化ケイ素、リチウムのハロゲン化物、銀および銅の機械的混合に関する種々の調査が報告されている。例えば、Wagner Jr.,J.B.in:C.A.C.Sequeiraと、A.Hooper,Sequeiraと、A.Hooper、固体状態電池、Matinus Nijhoff出版、Dordrecht,1985年、77頁。本蒸着は、ミクロ細孔および他のマクロ的な欠陥が最小限度であるために、この効果を高めることが可能である。加えて、結晶格子の最も密接した面の間の空位に沿って、イオン移動を追加することで、この効果を高めることが可能である。
【0048】
イオン移動の追加は、主に、固体電解質に空位(Vacancies)を生成することによって、成就されるものである。温度を上昇させることにより、空位の平衡濃縮を増大させることは、周知なことである。冷却ガスの噴射を行って、層を強制冷却している間に、幾つかの空位は、消滅(annihilate)されず、最終層に残存する。一般に、このことは、電解質層のイオン伝導率に好影響をもたらすものである。
【0049】
冷却処理は、所望の層の特性をベースに調節することが可能である。厚層を形成するために、強制ガス冷却(例えば、Ar)を行う場合、ガスを基板側に方向付けることが可能である。これにより、層の熱分解を防止することが可能である。所望の蒸着層が、非結晶−結晶構造を形成するために、高い冷却率を必要とする場合、冷却噴射は、蒸着層側に方向付けることが可能である。高い熱応力が展開すると判っている場合、前記噴射は、蒸着層の両側から方向付けることが可能である。
【0050】
蒸着に必要とされる時間を短縮するために、蒸着率を処理チャンバの容量を減少させることによって、増加されることが可能である。減少した処理チャンバ容量は、蒸気密度を増加し、蒸着率を増大することが可能である。
【0051】
同一物質、あるいは、異なる物質の多層蒸着は、サイクリック・マルチステップ・プロセスを使用することによって、達成することが可能である。例えば、蒸発装置は、所望の原料、蒸発される原料、および基板上に凝縮される蒸気で、充填することが可能である。次に、その基板層を凝固するために、0.1K/sから100K/sの割合で冷却することが可能である。次に、処理チャンバを真空にすることが可能である。次に、蒸発装置を同一の原料、あるいは、異なる原料で再充填することが可能であり、そして、上記の工程を繰り返す。この他、マルチプル蒸発装置が利用される場合、再充填の工程が必要なくなる。
【0052】
サイクリック処理を使用して、比較的厚い層(例えば、>20μm)を生成することが可能であり、非最適冷却処理から実質的結晶構造が得られる場合、ワンステップ蒸着と比べて、微晶質構造、あるいは、非結晶−結晶構造を持っている。比較的厚い層を生成することが可能であり、各サイクルでは薄層のみが急速に冷却されるサイクリック処理を使用して、微晶質、あるいは、非結晶−結晶を保持する。
【0053】
一般に、1つのステップの蒸着方法によって得られる比較的厚い層(例えば、>20μm)を効果的に冷却することには、本質的に困難が伴う。冷却は、実質的に層の厚さ全体の蒸着後に続くものである。殆どの電解質や電極物質を含む、多くの物質が、低い熱伝導率を示すために、非結晶−結晶構造の形成に必要な冷却率は、単に、層の薄い外側表面で得られる。層の内側における熱の除去は、効率が悪く、その結果、結晶(例えば、多結晶)構造が、一般に、物質全体に形成される。多層サイクリック蒸着処理を行う間、複数の冷却および蒸着ステップが使用され、夫々の薄層蒸着後に冷却が起こる。その結果、冷却は、従来の冷却プロセスと比べるといっそう効率がよい。
【0054】
冷却処理を行って得た蒸気凝縮が、夫々の層間における充分な付着性を持った複合層(例えば、カソード/固体電解質)を作り出す。インターバルデポジッション(区間蒸着)が1つ以上の層に対して利用された場合、充分な層内付着だけでなく層外付着も充分なものとなる。
【0055】
大量の物質が、融成物からの蒸発を使用して蒸着される場合、磁わい装置等を利用して、キャビテーションでその融成物を撹拌し、超音波放射線を結合し、物質の蒸発を促進することが推薦される。実施した実験においては、22KHzの周波数を利用した。
【0056】
蒸発プロセスが、主として融成物の表面から行われるので、融成物撹拌は、有用となり得る。大量の物質が蒸発される場合、液体中の対流は、最も高い蒸発率が融成物の表面上にある成分の不足を補正するのに充分な時間がない。
【0057】
複雑なマルチ成分電極および電解質の蒸着に関して、その成分が、固体状態において低い相互的な溶解度を示す場合、異なる蒸発温度を有する夫々の成分のための独立した蒸発装置が使用されることが好ましい。サイクリック蒸着に関して、処理チャンバの断熱圧縮、あるいは、断熱膨張は、夫々蒸着処理および冷却処理中に利用可能であり、前記の処理時間を加速し、蒸着層からの熱移動を高めることが可能である。
【0058】
蒸着層の付着性は、一般に、比基板表面の状態に依存する。蒸着の前に、基板表面を予備クリーニングすることによって、前記付着性を高めることが可能である。例えば、技術上周知である溶液洗浄、イオンビームおよびプラズマ処理を使用することが可能である。
【0059】
パルス蒸着は、改善された表面の平滑を有する層を生成するために、いくつかの場合に使用されることができる。パルス蒸着は、所望の層の厚さの部分を蒸着し、1周期の間蒸着処理を一時停止し、次に、別の層を蒸着する。パルス蒸着は、蒸発蒸気を処理チャンバから分離することが可能なシャッターを使用して実現することが可能である。例えば、前記シャッターは、蒸気が既定温度に達し、処理チャンバ壁および基板が所望の温度に達する時に、短時間開くことが可能なものである。前記シャッターが、適度に密閉した場合、圧力は、ヒータ近くで増大する。その結果、蒸着物質の流れは、基板に方向付けられることになる。
【0060】
本蒸着のある適用方法においては、存在しない、あるいは、初期の原材料にほんの少量だけ存在する層に、成分を加えることが好ましい。この場合、1つ以上のガスを、基板を冷却する以前の、所望の追加の成分を含有する蒸着処理中に、処理チャンバに送くることが可能である。前記ガスは、反応器チャンバの温度などの所望の温度に予熱されることが好ましい。
【0061】
最大ほぼ5μmの厚さを有するCu、Au、Pt、Al、Al−Li合金、あるいは、Li層などの薄い付加的金属層は、蒸着された層の表面上に蒸着することが可能である。この層は、蒸気凝縮処理から形成される層の特性を決定するのに使用することが可能である。このために、基板と付加的金属層との間の(ohm−cmの単位で表現される)電気抵抗は、蒸気凝縮処理で形成される層を介して、測定することが可能である。測定された抵抗値が、比伝導率および層の形状の大きさから計算される値より低い場合、高い有孔率を有する層が存在し、そして/または欠陥性の高い濃縮が存在することを示している(図8を参照)。本蒸着を利用したことによる低い電気抵抗は、固体電解質およびカソード物質への十分な付着のために起こり、蒸着金属が、有孔のマクロクラックおよび層の他の欠陥を通過するために結果として生ずるものと考えられる。これは、局部短絡を減少し、そして、一般に、層の電気抵抗を減少させるものである。
【0062】
以下に、集電構造体、電極構造体、電池の例を示す。
<1>集電構造体例
アルミニウムの集電用基板上にグラファイトの集電層を蒸着により形成した集電構造体の例を図9に示す。蒸着条件は、種々変えて行った。図10、図11、図12は、各々、集電用基板上にロッド状、スポンジ状、ファイバ状のグラファイトの集電層を蒸着により形成した集電構造体の例である。図10(B)〜図12(B)は、全て、2000倍の拡大写真(SEM写真)である。このように、高い空隙率のグラファイトを有する集電構造体を得ることができ、導電助剤の機能も得ることができる。
【0063】
<2>電極構造体例
集電用基板上に電極活物質を形成した電極活物質構造体の例を図1〜図2に示す。図1は、集電用基板上に蒸着により点状に電極活物質を形成し、図2は、ロッド状、スポンジ状、ファイバ状の電極活物質を形成した例である。蒸着条件は、種々変えて行った。図1(B)〜図2(B)は、スピネルLiMnの電極活物質(白い個所)を基板に形成したものであり、1万8000倍の拡大写真(SEM写真)である。図2は、高い空隙率の電極活物質を有する電極活物質構造体を得ることができる。
【0064】
ステンレス基板上に平らなグラファイト層を集電用基板に作製し、その上にロッド状、スポンジ状、ファイバ状の電極活物質を形成し、その面に粒子状の導電材を形成した電極層を有する電極構造体の模式図を図3に示し、ファイバ状のグラファイトを形成した電極構造体を図4に示す。図4(B)は、スピネルLiMnの電極活物質面と集電用基板面にファイバ状のグラファイトを形成して得られた電極構造体の例である。図4(B)は、4000倍の拡大写真(SEM写真)である。このように、接着剤を使用することなく、高い空隙率の電極構造体を得ることができる。これにより、液体や固体などの電解質物質が電極構造内に入り込み、電極活物質と電解質物質と導電材が電気的にもイオン的にも高導電性の状態となる。図5(A)には、電極活物質で覆われていない集電用基板上に導電材(基板面上の斜線の層部分)を形成した図を示し、図5(B)には、集電用基板付近の電極活物質の表面に高密度に導電材(基板面上で電極活物質の斜線部分)を形成した図を示す。
【0065】
集電構造体のロッド状、スポンジ状、ファイバ状のグラファイト面に粒状の電極活物質を蒸着により形成した電極構造体の模式図を各々図13(A)〜(C)に示す。図14(B)は、図14(A)のロッド状のグラファイト上にリチウムマンガン酸化物のスピネル構造の粒子を蒸着により形成して得られた電極構造体の例である。図14(B)は、2000倍の拡大写真(SEM写真)であり、粒状の物質がスピネル構造の粒子である。このように、蒸着により、接着剤(バインダ)を使用することなく、高い空隙率の電極層を有する電極構造体を得ることができる。これにより、電解質が十分に電極構造内に入り込み、電極活物質と電解質とグラファイトが電気的にもイオン的にも高導電性の状態となる。
【0066】
以上の基本的な集電構造又は電極構造体によって、電気導電性やイオン導電性を良くすることができ、又は、耐久性を良くすることができ、又は、集電用基板に炭素材を強固に接着することができ、又は、性能の良い電池やキャパシタを提供することができる。
【0067】
<3>リチウムイオン電池1
リチウムイオン電池1の正電極構造体として、スピネル型のLiMnと炭素材をAl合金の集電用基板に蒸着技術を使って図13のようにファイバ状につながるように形成した。この正電極構造体は、LiMnと炭素からなる直径16mm、厚さ約10μmの電極層を有する。この正電極構造体の断面構造を図17に示す。下側の黒い帯状部400がAlの集電用基板である。集電用基板上に炭素材からなる多孔質の集電層が形成され、その炭素材表面に粒状の電極活物質であるスピネル型のLiMnが付着した多孔質の電極層410が形成されている。図17には、集電用基板上に炭素材と電極活物質と空隙が示されている。負電極構造体は、Li合金を使用した。電解質は、LiPFを使用した。この正電極構造体と負電極構造体と電解質を市販の実験用電池パックに入れて電池を作製した。その電池の測定データを図15に示す。この図15から、100C以上の高い放電レートが得られることが分かる。従来のリチウム二次電池に比べ約20倍以上の電流を取り出すことが可能になる。
【0068】
<4>リチウムイオン電池2
リチウムイオン電池2の正電極構造体は、上記リチウムイオン電池1と同様のものを使用した。これを負電極構造体と電解質と共にビーカーの中に入れ、電池を作製した。負電極構造体は、Li合金を使用した。電解質は、溶液抵抗が19ΩのLiPFを使用した。そのデータを図16に示す。このデータは、サイクリック・ボルタンメトリ(CV)法と呼ばれる試験方法で電極の応答性について測定した。1mV/s〜20mV/sで電圧をかけた場合、充電の際に、なだらかなピークが表れており、この範囲であれば、充放電が可能であることを表している。例えば、20mV/sの場合、3.9V〜4.4Vの約0.5Vの間で充電が完了しているとすると、約25秒で充電することになる。これは、100Cを超えるレートに相当する。これに対して、50mV/s以上の場合、電解質の溶液抵抗における電圧ロスにより、マンガン酸スピネルの特有のダブルピークは消失しているが、200mV/sの場合、掃引速度が速いにも関わらず、充電側電流の傾きが50mV/sや100mV/sの傾きと同様であることから、活物質自体を十分に高速に応答させるに足る構造体が形成されていると判断される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】集電用基板上に電極活物質が形成された電極活物質構造体の図である。
【図2】集電用基板上に電極活物質が形成されたスポンジ状、ファイバ状の電極活物質構造体の図である。
【図3】集電用基板上に形成された電極活物質上に粒状のグラファイトが形成された電極構造体の模式図である。
【図4】集電用基板上に形成された電極活物質上にファイバ状のグラファイトが形成された電極構造体の図である。
【図5】グラファイトが集電用基板付近に形成され、更に電極活物質が形成された電極構造体の模式図である。
【図6】蒸着装置の模式図である。
【図7】固体電解質蒸着温度特性の図である。
【図8】蒸気の熱力学を説明する模式図である。
【図9】集電用基板上にグラファイト層が形成された集電構造体の図である。
【図10】ロッド状のグラファイトが形成された集電構造体の図である。
【図11】スポンジ状のグラファイトが形成された集電構造体の図である。
【図12】ファイバ状のグラファイトが形成された集電構造体の図である。
【図13】ロッド状、スポンジ状、ファイバ状のグラファイト面に電極活物質が形成された電極構造体の模式図である。
【図14】ロッド状のグラファイト面に電極活物質が形成された電極構造体の図である。
【図15】電池パック・セルの放電レートを示す図である。
【図16】電池ビーカー・セルの電極の応答性(縦軸:i/mA、横軸:E/Vvs1MLi/Li)を示す図である。
【図17】電極構造体のSEM写真の図である。
【符号の説明】
【0070】
1:電磁レバー、2:投与ニードル、3:粉末、4:シュート、5:パイプ、6:加熱装置、7:シールド、8:パイプ、11:ヒータ、12:基板、13:サーモカップル(熱電対)、14:シャッタ、15:処理チャンバの外側区画、17:蒸発装置、18:ヒータ、20:真空バルブ、21:パイプ、100:蒸着システム、110:投与装置、120:処理チャンバ、310:気相、320:液相、400:アルミ箔、410:多孔質電極層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電用基板と、
集電用基板上にバインダを使用することなく形成された炭素材と、を備えていることを特徴とする、集電構造体。
【請求項2】
集電用基板と、
集電用基板上に形成されたロッド状、又はスポンジ状、又はファイバ状の炭素材と、を備えていることを特徴とする、集電構造体。
【請求項3】
集電用基板と、
集電用基板上に形成された層状の炭素材と、
層状の炭素材上に形成されたロッド状、又はスポンジ状、又はファイバ状の炭素材と、を備えていることを特徴とする、集電構造体。
【請求項4】
請求項1に記載の集電用基板と、
炭素材の表面に形成された電極活物質と、を備えていることを特徴とする、電極構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の電極構造体において、
電極活物質は、平均粒径が2ミクロン以下であることを特徴とする、電極構造体。
【請求項6】
請求項4に記載の電極構造体を有することを特徴とする、電池。
【請求項7】
請求項4に記載の電極構造体を有することを特徴とする、キャパシタ。
【請求項8】
集電用基板と、
集電用基板上にバインダを使用することなく形成された電極活物質と、を備えていることを特徴とする、電極構造体。
【請求項9】
集電用基板と、
集電用基板上に形成されたロッド状、又はスポンジ状、又はファイバ状の電極活物質と、を備えていることを特徴とする、電極構造体。
【請求項10】
請求項8に記載の電極構造体において、
電極活物質の表面に導電材が形成してあることを特徴とする、電極構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【国際公開番号】WO2005/006469
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511587(P2005−511587)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010110
【国際出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000000147)伊藤忠商事株式会社 (43)
【出願人】(503255361)エナールワン バッテリー カンパニー (1)
【氏名又は名称原語表記】Ener1 Battery Company
【Fターム(参考)】