説明

雌側端子金具

【課題】 弾性接触部材の弾性力を容易に測定可能な雌側端子金具を提供する。
【解決手段】 雌側端子金具1は、前部に角筒7を備え、後部にバレル部9を備えて構成されている。角筒7の底壁17には、ランス孔27が形成されている。ランス孔27の位置は、バネ部11Bに対して、その撓み方向と反対方向に対向した位置で、かつ、バネ部11Bの接触部11Aにほぼ対向する位置に設けられている。ランス孔27から板バネ11の弾性力測定治具29を略垂直に挿入すると、これがバネ部11Bの接触部11Aに略垂直に接触するようにされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雌側端子金具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な雌側端子金具100として、前部に相手側の雄側端子金具が挿入される角筒101を備え、その角筒101の内部に雄側端子金具に弾性的に接触可能な弾性接触片103を設けたものがある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−338334号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
雌側端子金具100と図示しない相手側の雄側端子金具との嵌合は、その雄側端子金具の先端側に細長く突出したタブが雌側端子金具100の角筒101内に嵌入することによって行われる。このとき、弾性接触片103の弾力によってタブが弾性接触片103と角筒101の天板101Aとの間で挟圧されることにより、雄雌両端子金具は確実に接触して電気的接続がなされるのである。
ここで、弾性接触片103の弾性力(接触力)が不十分であると、弾性接触片103が雄側端子金具を十分に挟圧することができず、このために、雄雌両端子の接続が不良となってしまう。従って、従来から弾性接触片の接触力については製品検査が行われている。
【0004】
この接触力を測定するには、角筒101の天板101Aを開いて弾性接触片103を外部に露出させた上で、測定用治具により弾性接触片103を撓ませて直接測定しなければならず、検査に多大な時間がかかるという問題点があった。
また、雌側端子金具本体と弾性接触片とが別体とされている場合には、雌側端子金具を分解して弾性接触片を取り出すと、弾性接触片が端子金具本体から外れてしまうため、組み付けられた状態、つまり製品状態での弾性力の測定は不可能であった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、弾性接触部材の弾性力を容易に測定可能な雌側端子金具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、導電性の金属板からなり前後方向に延びて相手側の雄側端子金具のタブを挿入可能な角筒部を一端に備え、前記角筒部の内部には前記タブに弾性的に接触可能な弾性接触部が備えられ、前記弾性接触部と、これと対向する前記角筒部の底壁との間が前記タブの進入空間とされており、前記底壁には、前記雄側端子金具に設けられた弾性変形可能なランスと係合可能なランス孔が貫通して形成され前記進入空間と連通する雌側端子金具において、前記ランス孔は、前記弾性接触部に対し、その撓み方向と反対方向に対向した位置に配され、かつ前記弾性接触部の弾性力測定用治具が挿入可能であることを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記弾性接触部は、前記タブの進入方向に沿って勾配を持つ湾曲形状とされ、前記ランス孔は前記弾性接触部にほぼ対向して配されていることを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のものにおいて、前記ランス孔の前縁には外側に隆起した隆起部が形成され、この隆起部が前記ランスと係止可能とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
<請求項1の発明>
本請求項の構成の発明によれば、角筒部の底壁には、雄側端子金具に設けられた弾性変形可能なランスと係合可能なランス孔が形成されている。そして、ランス孔は、弾性接触部に対し、その撓み方向と反対方向に対向した位置に配され、かつ弾性接触部の弾性力測定用治具が挿入可能とされている。
このような構成の雌側端子金具では、ランス孔から、弾性接触部の弾性力測定治具を挿入すると、これが弾性接触部に当接し、弾性力を容易に測定することができる。
また、ランス孔から弾性力測定治具を挿入して、弾性接触部の弾性力を測定できる構造であるから、弾性力測定用の検査孔を別途形成する必要がなく、雌側端子金具の構造を簡略化することできる。
【0009】
<請求項2の発明>
本請求項の構成の発明によれば、ランス孔は、湾曲形状とされた弾性接触部にほぼ対向して配されている。
よって、ランス孔から弾性力測定治具を挿入すると、弾性接触部に当接するから、弾性接触部における弾性力を的確に把握することができる。
【0010】
<請求項3の発明>
本請求項の構成の発明によれば、ランス孔の前縁には隆起部が形成されている。そして、雄側端子金具と雌側端子金具とが抜け止め状態に保持されると、ランスは、ランス孔の隆起部と係止するから、係止代が大きくなり抜け止め信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の一実施形態について図1から図9を参照して説明する。
雌側端子金具1は、前後方向に細長い形状をなしており、前部に相手側の雄側端子金具のタブ5を挿入可能な角筒部7を備え、後部に図示しない電線の端末を接続可能なバレル部9を備えて構成されている。さらに、角筒部7内部には、蓋材としての板バネ11が組み込まれ、タブ5は、図6に示されるように、板バネ11と角筒部7の底壁17から内側に突出した突起部(ビード)17Aとの間に挟持されるようになっている。
バレル部9には、電線の芯線をかしめるワイヤバレル9Aと、電線の被覆をかしめるインシュレーションバレル9Bとが前後に順次に設けられており、それぞれ雌側端子金具1の全長に亘って設けられた底壁の幅方向両端を上方へ折り立てるようにして断面略U字形に形成されている。
【0012】
板バネ11は、全体として湾曲形状とされ、角筒部7の内幅寸法とほぼ同等の幅寸法を持つ。詳細には、板バネ11は、底壁17側に向けて湾曲した(タブ5の進入方向に向かって勾配をもつ)バネ部11B(本発明の弾性接触部に相当)の両脇に翼状の保持部11Cが一体に形成されている。また、バネ部11Bのほぼ中央の頂部は、接触部11Aとされている。
各保持部11Cには左右両方向に突出する突片11Dが設けられている。この突片11Dが角筒部7のバネ保持部7Aに嵌合された状態で、板バネ11は角筒部7内に固定されている。バネ部11Bとこれに対向する後述の底壁17との間がタブ5の進入空間12とされている(図5参照)。
なお、板バネ11は、角筒部7の内側から天壁21間の開口部23を閉止し、雌側端子金具1内に異物が侵入することを防止している(図2参照)。
【0013】
角筒部7は、展開形状から板片15(図9参照)を幅方向に折り曲げることにより略角筒状に形成されており、前端には雄側端子金具のタブ5の挿入されるタブ挿入口7Bが開口している。
詳細には、角筒部7は、底壁17と一対の側壁19と天壁21とを備え、天壁21の幅方向中央付近には、雌側端子金具1の前後方向(長手方向)に角筒部7の全長に亘って開口する開口部23が設けられている。この開口部23は、図8に示すように、角筒部7の全幅W1の1/5以上の幅W2とされている。
なお、天壁21,21は、板バネ11の上側において、両側壁19,19から互いに対向するように張り出して板バネ11を係止させることにより、板バネ11の浮き上がりを規制可能としている。
【0014】
また、天壁21の開口部23の縁部の長手方向のほぼ中央位置には、角筒部7内部に向かって(板バネ11部に向かって)突出する一対の過度撓み規制部25が形成されている。この過度撓み規制部25は、図5に示されるように、板バネ11のバネ部11Bの接触部11A付近上方に位置し、雄側端子金具のタブ5が挿入されたときに、これによってバネ部11Bが上方に過度に撓まないように規制している。
【0015】
この過度撓み規制部25の突出寸法は、図6に示されるように雄側端子金具のタブ5が正規の位置で挿入された場合に、バネ部11Bの接触部11Aに当接しない程度に設定されている。つまり、雄側端子金具のタブ5が斜めに挿入される等して接触部11Aが大きく撓んだ場合に過度撓み規制部25の下面に当接するように設定されている。
【0016】
また、角筒部7の底壁17のほぼ中央位置には、略矩形状のランス孔27が貫通して形成され、進入空間12と連通している。ランス孔27の大きさは、後述する弾性力測定治具29が挿入可能な大きさとされている。
ランス孔27の位置は、バネ部11Bに対して、その撓み方向(図5において上方向)と反対方向(図5において下方向)に対向した位置で、かつ、バネ部11Bの接触部11Aにほぼ対向する位置に設けられており、図7に示すように、雌側端子金具1を上下反転させた状態で、ランス孔27から板バネ11の弾性力測定治具29を略垂直に挿入すると、これがバネ部11Bの接触部11Aに略垂直に接触するようにされている。従って、ランス孔27は、弾性力測定用(板バネ11の接圧測定用)の検査孔としてとしても機能する。
このように、弾性力測定治具29が接触部11Aと当接するから、接触部11Aの弾性力を的確に把握することができる。
【0017】
図6に示すように、ランス孔27には、雄側端子金具の撓み変形可能な樹脂製のランス31の係止突部31Aが弾性的に嵌合されるようになっている。ここで、雄側端子金具の樹脂ランス31について説明すると、ランス31は、後方側で支持され、前方側に片持ち状に突出していて図6の下側への弾性撓みが可能となっている。ランス31の上面には雌側端子金具1に係合される係止突部31Aが突出して形成されている。ランス31の係止突部31Aは、ランス31の基端側から緩やかな登り勾配をなし、その前端において略垂直に下る形状をしている。
【0018】
ランス孔27の前縁27Aをなす底壁17は、外側へ(図6において下側へ)向かって隆起する隆起部33とされている。雄側端子金具の挿入途中においては、隆起部33がランス31の係止突部31Aの傾斜面31Bに当接してこのランス31を押し下げ、これにより、ランス31は先端側を下げて弾性変形する。雄側端子金具が雌側端子金具1の正規挿入位置に達すると、係止突部31Aにランス孔27が整合するため、ランス31はその弾性復元力により上動してランス孔27に係止突部31Aを係合され、雄側端子金具が抜け止め状態に保持される。この際に、図6に示すように、隆起部33とランスの係止突部31Aとが当接するから、係止代が大きくとれ、抜け止め保持力が向上する。
【0019】
さて、ここで、本実施形態の雌側端子金具1 の製造方法について、簡単に説明すると、まず、導電性の金属板材35を図9に示した形状に打ち抜く。これは、雌側端子金具1の展開形状をなす板片15を複数個幅方向(図9の左右方向)に並べたものをその下端(図9の下側)において帯状のキャリア37を介して一体に連結したものである。続いて、各板片15を所定形状に折り曲げ加工しつつ(即ち、底壁17、側壁19、天壁21を順に折り曲げ加工しつつ)、板バネ11を組み付けた後、キャリア37を切り離して形成される。
【0020】
本実施形態の雌側端子金具1によれば、ランス孔27は、バネ部11Bに対し、その撓み方向と反対方向に対向した位置で、かつ、バネ部11Bの接触部11Aにほぼ対向する位置に配されている。そして、バネ部11Bの弾性力測定用治具が挿入可能とされている。
このような構成の雌側端子金具1では、ランス孔27から、バネ部11Bの弾性力測定治具29を挿入すると、これがバネ部の接点11Aに当接し、接点11Aの弾性力を容易に測定することができる。
また、ランス孔27から弾性力測定治具29を挿入して、バネ部11Bの弾性力を測定できる構造であるから、弾性力測定用29の検査孔を別途形成する必要がなく、雌側端子金具1の構造を簡略化することできる。
また、ランス孔27の前縁には隆起部33が形成されている。そして、雄側端子金具と雌側端子金具1とが抜け止め状態に保持されると、ランス31は、ランス孔27の隆起部33と係止するから、係止代が大きくなり抜け止め信頼性が向上する。
【0021】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
上記実施形態によれば、板バネ11は、角筒部7とは別体に構成されているが一体としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】雌側端子金具の斜視図
【図2】角筒部の拡大斜視図
【図3】板バネの斜視図
【図4】雌側端子金具の裏側からみた斜視図
【図5】雌側端子金具の断面図
【図6】雌側端子金具の断面図
【図7】雌側端子金具の断面図
【図8】雌側端子金具の正面図
【図9】雌側端子金具を製造する際の展開形状を示す平面図
【図10】従来の雌側端子金具を示す斜視図
【符号の説明】
【0023】
1…雌側端子金具
5…雄側端子金具のタブ
7…角筒部
11A…接触部
11B…バネ部(弾性接触部)
17…底壁
27…ランス孔
29…弾性力測定治具
31…ランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の金属板からなり前後方向に延びて相手側の雄側端子金具のタブを挿入可能な角筒部を一端に備え、前記角筒部の内部には前記タブに弾性的に接触可能な弾性接触部が備えられ、前記弾性接触部と、これと対向する前記角筒部の底壁との間が前記タブの進入空間とされており、前記底壁には、前記雄側端子金具に設けられた弾性変形可能なランスと係合可能なランス孔が貫通して形成され前記進入空間と連通する雌側端子金具において、
前記ランス孔は、前記弾性接触部に対し、その撓み方向と反対方向に対向した位置に配され、かつ前記弾性接触部の弾性力測定用治具が挿入可能であることを特徴とする雌側端子金具。
【請求項2】
前記弾性接触部は、前記タブの進入方向に沿って勾配を持つ湾曲形状とされ、前記ランス孔は前記弾性接触部にほぼ対向して配されていることを特徴とする請求項1に記載の雌側端子金具。
【請求項3】
前記ランス孔の前縁には外側に隆起した隆起部が形成され、この隆起部が前記ランスと係止可能とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の雌側端子金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−12741(P2006−12741A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192201(P2004−192201)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)