説明

雌端子

【課題】樹脂被覆エリアの管理が厳しくなく、簡単な設備で防水及び防食加工が施された雌端子を提供する。
【解決手段】雌端子11は、雄端子17を先端開口部15から受け入れる電気接続部13と、電気接続部13の先端開口部15と反対側に連設される電線接続部と、電気接続部13の内方に設けられて雄端子17のタブ状接触片19に接触するバネ部21と、電気接続部13の内方に充填され且つ電気接続部13の外方を覆うゲル状の絶縁性埋入体57と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雌端子に関する。
【背景技術】
【0002】
被覆電線は、先端の絶縁被覆を皮剥して導体を露出させ、その露出導体に圧着した端子を介して電気部品や機器に接続されることがある。端子に圧着後の導体をそのままにすると水分が伝って浸透し、毛細管現象によって被覆電線中に浸入する不都合がある。それを防止するために導体を含む端末接続部には様々な防水処理が施される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、図5に示すように、被覆電線501の端末接続部は、紡錘形状になるようにモールド樹脂503で被覆成形され、その部分の被覆電線501が屈曲等した場合に樹脂が剥がれ難い。成形金型505のモールド部507の一側を上下対向する弾性塞ぎ板509で閉塞し、端末接続部をモールド部507にセットして、モールド部507の一側から後方へ延出する部分の被覆電線501を上下から弾性塞ぎ板509で弾性挟持した状態にする。溶融状態のモールド樹脂503をモールド部内に射出して端末接続部のほぼ全体を被覆成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−167640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の被覆電線501の端末接続部は、成形金型505を使用して端末接続部のほぼ全体をモールド樹脂503で被覆成形する。そして、タブ状接触片(電気接触部)511にモールド樹脂503を漏出させないための樹脂侵入禁止エリア513を確保しなければならない。このため、樹脂被覆エリアの厳格な管理が必要であり、且つモールド樹脂503を射出するための成形金型505等大掛かりな設備が必要となった。
【0006】
また、従来の端末接続部は、裸線導体515とかしめ部517をモールド樹脂503によって覆うことで、水が毛細管現象によって裸線導体515を伝って被覆電線中に浸入するのを防止している。
ところが、従来のモールド樹脂503は、湿気硬化性の樹脂、具体的にはポリウレタンホットメルトを成形コンパウンドとして用いている。このため、タブ状接触片511に付着すれば削り取る作業が必要となり、被覆すれば相手雌端子との導通が図れなくなる。
【0007】
更に、モールド樹脂503によって覆われない銅やアルミニウムからなるタブ状接触片511は、浸入水や結露水等によって腐食の生ずる場合がある。例えばアルミニウムの表面が酸化することで形成される酸化被膜は、約100Å以下と極めて薄いものであるが、緻密で硬質、且つ絶縁性であるため電気抵抗が大きくなる。そこで、相手雌端子とタブ状接触片511との接触部に腐食が生じると、良好な導通状態を維持することが困難になる可能性があった。
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、樹脂被覆エリアの管理が厳しくなく、簡単な設備で防水及び防食加工が施された雌端子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 雄端子を先端開口部から受け入れる筒状の電気接続部と、前記電気接続部の前記先端開口部と反対側に連設される電線接続部と、前記電気接続部の内方に設けられて前記雄端子の電気接触部に接触するバネ部と、少なくとも前記電気接続部の内方に充填され且つ前記電気接続部の外方を覆うゲル状の絶縁性埋入体と、を備えることを特徴とする雌端子。
【0010】
上記(1)の構成の雌端子によれば、雄端子の電気接触部が電気接続部の先端開口部に進入すると、雄端子はゲル状の絶縁性埋入体に電気接触部が進入する。進入した雄端子の電気接触部には、外周面に絶縁性埋入体が密着して絶縁性埋入体との間に水の浸入する間隙を生じることがない。端子同士の嵌合が進み、絶縁性埋入体中を前進した電気接触部の先端部がバネ部と接触すると、バネ部の表面に付着していた絶縁性埋入体は電気接触部の先端部によって掻き取られる。これにより、電気接触部は、バネ部の表面に接触して電気的接続が損なわれない。これら雌端子と雄端子の接触部は絶縁性埋入体の中で封止状態となり、外部からの水や、湿気の侵入に伴って生じる結露水に晒されなくなる。このため、雌端子と雄端子の接触部からの被覆電線中に水が浸入するのを防止できると共に、長期間に渡って接触部を防食し、良好な導通状態を維持することが可能となる。絶縁性埋入体は、成形金型を使用せずに電気接続部に対して容易に付着充填が可能である。
【0011】
(2) 上記(1)の構成の雌端子であって、前記絶縁性埋入体が吸水性ゲルであることを特徴とする雌端子。
【0012】
上記(2)の構成の雌端子によれば、絶縁性埋入体が高分子の網目構造で構成され、吸水性を有している。このため、電気接続部内の充填が不十分であっても、少量の水分であればゲル内に水を吸収することが可能であり、接触部の浸水及び腐食がより効果的に防止される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る雌端子によれば、樹脂被覆エリアの管理が厳しくなく、簡単な設備で防止及び防食加工が施される。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る雌端子の側面図、(b)は(a)の縦断面図である。
【図2】図1に示した雌端子の絶縁性埋入体が設けられる前の雌端子本体の全体斜視図である。
【図3】図2に示した雌端子本体に絶縁性埋入体をジャブ漬けによって被覆充填している状況を説明する側面断面図である。
【図4】電気接続部に絶縁性埋入体が設けられた雌端子に雄端子の電気接触部が挿入された状態を示す縦断面図である。
【図5】従来端子の端末接続部が成形金型のモールド部にセットされた状態を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
本実施形態に係る雌端子11は、矩形筒状の電気接続部13の先端開口部15から挿入された雄端子17(図4参照)と電気的接続を行う雌端子本体27を備える。本第実施形態では雄端子17がタブ状接触片(電気接触部)19を有するタブタイプとなるが、例えば角ピンタイプや丸ピンタイプ等とすることもできる。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施形態の雌端子本体27は、導電性金属板からなる同一展開材料に叩き加工や曲げ加工等を施すことで、図例の各部が形成される。なお、本明細書中、雌端子本体27は、雄端子17の挿入側を前、その反対側を後として説明する。
雌端子本体27は、電気接続部13の後方に電線接続部30が連設される。電線接続部30は、導体圧着部29と、絶縁被覆圧着部31と、を有する。導体圧着部29は、被覆電線33から被覆35を除去した導体37を加締め固定する。絶縁被覆圧着部31は、被覆電線33を被覆35の上から加締め固定する。
【0018】
電気接続部13は、前端に雄端子17を受け入れる先端開口部15を有する。図1(b)に示すように、電気接続部13の内方には、基端を底壁39に接続するバネ部21が設けられる。バネ部21は断面略e字状に折り曲げられて先端部が自由端となり、電気接続部13に挿入された雄端子17の一方の面41に対向する。バネ部21は、先端開口部15から挿入された雄端子17のタブ状接触片19を電気接続部13の一つの内壁面である天壁43に向かって押圧する(図4参照)。
【0019】
底壁39の両側には側壁45が立設され、一方の側壁45は天壁43に連続し、他方の側壁45は天壁43に上から被せられる上板47に連続する。一方の側壁45には垂下片51が形成される。垂下片51は、コネクタハウジングの端子収容室53(図4参照)に雌端子本体27を挿入する際、案内溝54に係合して挿入案内される。
【0020】
図1(b)に示すように、バネ部21にはバネ側接触部23が設けられ、バネ側接触部23は雄端子17の一方の面41に接触する。本実施形態において、バネ側接触部23は、雄端子17の一方の面41に線接触するように筒体母線部が雄端子挿入方向に延びる略半円筒状突起として形成される。
【0021】
電気接続部13の内方には、筒側接触部25が天壁43に形成される。筒側接触部25は、バネ部21と対向して設けられる。この筒側接触部25は、雄端子17の他方の面55に線接触するように筒体母線部が雄端子挿入方向に延びる略半円筒状突起として形成される。
【0022】
本実施形態の雌端子11は、雌端子本体27の防水及び防食に対して、コネクタハウジングの端子収容室53の後方を封止する技術が併用される。即ち、端子収容室53は、後部が図示しないリアカバー、防水ゴム栓等の端子挿入側からの水の浸入を防ぐ方策がとられている。雌端子11は、その上で雌端子本体27の電気接続部13から、導体37と導体圧着部29に水が入らない構成を備える。
【0023】
すなわち、雌端子11は、電気接続部13にゲル状の絶縁性埋入体57を有する。絶縁性埋入体57は、電気接続部13の内方に充填され且つ電気接続部13の外方を覆って形成される。絶縁性埋入体57は、常温で一般のゼリー状の形態をとるため、従来樹脂より軟らかく、付着厚が大きいとしても雄端子17が挿入される際に容易に掻き取られる。
【0024】
本実施形態の絶縁性埋入体57は、吸水性ゲル59からなる。吸水性ゲル59は、架橋構造を持つ親水性のポリマーで、自重の10倍以上の吸水力を有し、加圧されても離水し難い。架橋構造を持つポリマーとしては、グラフト重合或いはカルボキシメチル化によるデンプン系及びセルロース系、ポリアクリル酸塩系、ポリビニルアルコール系、ポリアクリルアミド系、ポリオキシエチレン系等の合成ポリマー系が挙げられる。例えばポリアクリル酸ナトリウム系は、アクリル酸を部分中和させ、架橋性モノマーと共重合させて得られる。工業的にはモノマー水溶液を重合して得られたゲルを細分化する水溶液重合法で得られる。こうして合成された高吸水性ポリマーは、軽度に架橋した三次元網目構造を持ち、散在するカルボキシル基が水を含むとゲル中にナトリウムイオンを解離する。これにより、高吸水性ポリマーは、純水なら自重の100〜1000倍、生理食塩水なら20〜60倍を吸収して保持できる。
【0025】
雌端子本体27に、この絶縁性埋入体57を形成するには、図3に示すように、先ず、予め導体圧着部29に被覆電線33の導体37が圧着される。
次いで、鉛直方向に垂れ下げた被覆電線33の下端部63に接続された雌端子本体27の電気接続部13を、溶融状態の高吸水性ポリマー64の貯留された吸水性ポリマー槽65にジャブ漬けする。この際、電気接続部13だけでなく、電線接続部30を含む雌端子本体27全体を吸水性ポリマー槽65にジャブ漬けしてもよい。
次いで、高吸水性ポリマー64に浸した電気接続部13を引き上げることで、高吸水性ポリマー64が電気接続部13の内方に充填され、且つ高吸水性ポリマー64が電気接続部13の外周面を覆った絶縁性埋入体57として得られる。
【0026】
次に、上記構成を有する雌端子11の作用を説明する。
本実施形態の雌端子11では、雄端子17のタブ状接触片19が電気接続部13の先端開口部15に進入すると、タブ状接触片19はゲル状の絶縁性埋入体57にタブ先端(先端部)67が進入する。進入したタブ状接触片19には、外周面に絶縁性埋入体57が密着して絶縁性埋入体57との間に水の浸入する間隙の生ずることがない。
【0027】
端子同士の嵌合が進み、絶縁性埋入体57中を前進したタブ状接触片19のタブ先端67がバネ側接触部23と筒側接触部25とに接触すると、バネ側接触部23及び筒側接触部25の表面に付着していた絶縁性埋入体57はタブ先端67によって掻き取られる。これにより、タブ状接触片19は、一方の面41がバネ側接触部23に接触するとともに他方の面55が筒側接触部25に接触し、挟持状態となって電気的接続が損なわれない。
【0028】
これら雌端子11と雄端子17の接触部は絶縁性埋入体57の中で封止状態となり、外部からの水や、湿気の侵入に伴って生じる結露水に晒されなくなる。このため、雌端子11と雄端子17の接触部からの被覆電線33中に水が浸入するのを防止できると共に、長期間に渡って接触部を防食し、良好な導通状態を維持することが可能となる。絶縁性埋入体57は、成形金型を使用せずに雌端子本体27の電気接続部13に対して容易に付着充填が可能である。
【0029】
本実施形態の絶縁性埋入体57は、高分子の網目構造で構成された吸水性ゲル59からなり、吸水性を有している。このため、電気接続部13内の充填が不十分であっても、少量の水分であればゲル内に水を吸収することが可能であり、接触部の浸水及び腐食がより効果的に防止される。
【0030】
また、絶縁性埋入体57の形成にあたっては、雌端子本体27の電線接続部30に圧着された被覆電線33を持って、下端部63に接続された雌端子本体27が下側となるように、電気接続部13のみを高吸水性ポリマー64の中に没入して吸水性ポリマー槽65にジャブ漬けする。これにより、大掛かりな設備を必要とせずに、吸水性ゲル59の電気接続部13内方への充填と、電気接続部13の外表面への被覆35とを同時に施すことができる。
また、このジャブ漬けでは、電気接続部13の外表面も絶縁性埋入体57によって覆うことができるので、電気接続部13の外側に発生する腐食や、その腐食が電気接続部13の内側へ伝搬することを抑止でき、長期に渡って密閉性の高い防水及び防食作用が得られる。
【0031】
従って、本実施形態に係る雌端子11によれば、樹脂被覆エリアの管理が厳しくなく、簡単な設備で防水及び防食加工が施される。
なお、本発明の防食雌端子は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
例えば、上記実施形態においては、雄端子17のタブ状接触片19は、バネ部21のバネ側接触部23と天壁43の筒側接触部25とで挟持される構成としたが、電気接続部13の内方に対向して設けた一対のバネ部により挟持される構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0032】
11…雌端子
13…電気接続部
15…先端開口部
17…雄端子
19…タブ状接触片(電気接触部)
21…バネ部
23…バネ側接触部
25…筒側接触部
27…雌端子本体
29…導体圧着部
30…電線接続部
33…被覆電線
37…導体
41…一方の面
55…他方の面
57…絶縁性埋入体
59…吸水性ゲル
63…下端部
64…高吸水性ポリマー
67…タブ先端(先端部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄端子を先端開口部から受け入れる筒状の電気接続部と、
前記電気接続部の前記先端開口部と反対側に連設される電線接続部と、
前記電気接続部の内方に設けられて前記雄端子の電気接触部に接触するバネ部と、
少なくとも前記電気接続部の内方に充填され且つ前記電気接続部の外方を覆うゲル状の絶縁性埋入体と、
を備えることを特徴とする雌端子。
【請求項2】
請求項1記載の雌端子であって、
前記絶縁性埋入体が吸水性ゲルであることを特徴とする雌端子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−110027(P2013−110027A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255343(P2011−255343)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)