説明

雑穀酒種の製造方法および当該雑穀酒種を用いた雑穀パン

【課題】この発明は、雑穀が持つ存在感や風味が活かされ、かつ、酒種の特徴であるしっとり感や酒種特有の風味を合わせ持つ雑穀酒種の製造方法を確立することを目的とする。
【解決手段】酒種発酵の原料を米あるいは大麦、きび、あわ、大豆、小豆等の穀物類・豆類を単品あるいは複数品を選択し、これに蒸気、蒸煮等の加熱調理を施した後、米麹、麦麹等の麹を加えて発酵させた発酵生産物、好ましくは糖度20%以上(Brix%)となるように発酵させた発酵生産物(以下、糖化雑穀と呼ぶ)を得る第一工程と、第一工程で調製した糖化雑穀に、米あるいは大麦、きび、あわ、大豆、小豆等の穀物類・豆類を混合し、加熱調理を施して雑穀酒種を得る第二工程の2つの製造工程を経て製造することを特徴とする雑穀酒種製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はパン類に使用する酒種として雑穀を使用した雑穀酒種の製造方法および当該雑穀酒種を用いた雑穀パンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
パン類の製造は酵母による発酵作用によるものであり、パン生地中の糖を分解することで発生する炭酸ガスとアルコールのうち、炭酸ガスによってパン生地が膨らまされ、その後の焼成工程を経てふっくらとボリュームのあるパンが焼き上がる。
一般的に製パンで使用される酵母は、生イーストやドライイーストなどの製パンに特化したパン酵母が用いられることが多いが、パン酵母以外では、果物や穀物などに生育している野生酵母を増殖させてパン生地を発酵させる方法もあり、特徴的な風味・呈味を有したパンとしてリテールベーカリー等で使用されている。
日本特有の製造方法として、パン酵母の代わりに清酒酵母(黄麹)を利用したものもある。これは、米麹と米の混合物に清酒酵母を添加して発酵させる(酒種)パン製造方法であり、しっとりとソフトな食感と酒種特有の豊かな風味を特徴とされている。
【0003】
このようなパン酵母の代わりに酒種を使用した先行技術として特開2006−340653号公報(特許文献1参照)記載の発明がある。
これは、パン生地の混捏工程で原料粉として少なくとも小麦粉及び難消化性澱粉を添加するパンの製造方法において、前記混捏工程として中種混捏工程及びその後の本捏工程を備えた中種法を採用するとともに、前記中種混捏工程で前記難消化性澱粉の全部を添加し、前記本捏工程で酒種を添加し、前記中種混捏工程でイースト醗酵性糖類を添加するものである。
【0004】
これとは別に、健康志向や栄養機能性の観点から、米あるいは小麦などの主要穀物以外の穀物、すなわち雑穀類が見直され、様々な小麦粉二次加工品への使用もなされている。そして、雑穀が配合されたパン商品も、各メーカーから様々なものが上市されているが、雑穀をパンに配合する場合、製パン性が低下して作業性が悪いこと、食味においては雑穀特有の酸味・えぐみがあること、食感においてはパサツキ・重い食感になる等、雑穀類を配合することによる難点も少なくない。
他方、パンに雑穀を使用する利点として、健康的なイメージ、栄養機能性の付与はもちろん、外観の差別化、香ばしい風味、様々な食感を楽しむことができる、など食の多様化に貢献できると考えられる。
【0005】
そこで、雑穀を使用することによる食味、食感上の欠点(パサツキ・重い食感になる等)を改善するため、日本古来の製造方法であり、しっとりとソフトな食感を特徴とする酒種との組み合わせを考えた。
但し、常法通りの酒種製造方法のうち、単に原料を米から雑穀へ置換えるだけでは、酒種パンの特徴であるしっとりとした食感や特有の風味を持つ酒種パンの製造は可能であるものの、雑穀を使用することによる利点、すなわち外観の存在感や雑穀特有の香ばしい風味等が消えてしまう新たなマイナス点が出現することが明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−340653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、雑穀が持つ存在感や風味が活かされ、かつ、酒種の特徴であるしっとり感や酒種特有の風味を合わせ持つ雑穀酒種の製造方法および当該雑穀酒種を用いた雑穀パンを確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわちこの発明の雑穀酒種の製造方法は、酒種発酵の原料を米あるいは大麦、きび、あわ、大豆、小豆等の穀物類・豆類を単品あるいは複数品を選択し、これに蒸気、蒸煮等による加熱調理を施した後、米麹、麦麹等の麹を加えて発酵させた発酵生産物、好ましくは糖度20%以上(Brix%)となるように発酵させた発酵生産物(以下、糖化雑穀と呼ぶ)を得る第一工程と、第一工程で調製した糖化雑穀に、米あるいは大麦、きび、あわ、大豆、小豆等の穀物類・豆類を混合し、加熱処理を施して雑穀酒種を得る第二工程の2つの製造工程を経て製造することを特徴とするものである。
前記第二工程における穀物類・豆類の加熱調理は、糖化雑穀への混合前に行っても構わない。
このようにして得た雑穀酒種は、雑穀パンを得るために使用される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により作成した雑穀酒種を製パンに使用することで、雑穀が有する特徴である素材感と風味、酒種が有する特徴であるしっとりとした食感、特有の風味を合わせもつ、しっとりと風味のある雑穀酒種パンの製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】糖化雑穀の発酵開始から発酵終了時点の糖度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下この発明の雑穀酒種の製造方法および当該雑穀酒種を用いた雑穀パンの実施の形態について、図面および実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
以下の実施例を挙げて本発明の雑穀酒種の製造方法をさらに詳しく説明する。
(第一工程)
(1)表1の配合にて調整した白米雑穀混合物(以下「原料穀物」と呼ぶ)に5倍量程度の水を加えて浸漬させた後、粥状になるまで加熱し、最終重量が対原料穀物で4倍量になるよう加水を行い調整した(粥状原料穀物)。

【表1】


(2)粥状原料穀物を60℃以下になるまで冷却し、乾燥米麹を表2の割合で混合して55℃で一晩発酵させた(糖化雑穀)。発酵開始から発酵終了時点の糖度変化は図1のように変化しており、本発明における発酵終了時の糖度は20%以上(Brix%)が好ましい。

【表2】

【0013】
(第二工程)
(3)レトルトパウチ用包材に九穀ブレンド(株式会社はくばく製品、大麦・もちきび・黒米・黒豆・小豆・緑豆・もちあわ・アマランサス・ごまの計9種類の雑穀・豆類のミックス製品)および水を表3の配合比で計量充填し、第一工程にて完成した糖化穀物を表3の配合比になるように計量充填した。口封後、常法に従ってレトルト殺菌を行ない(120℃、F値=8以上)、酒種雑穀(九穀、レトルトパウチ製品)を完成させた。

【表3】

【0014】
[実施例1]で得られた雑穀酒種を使用し、常法に従ってパンを焼成し、評価した(比較対照品は白パン)。試作配合は表4の通りである。

【表4】

【0015】
[方法]
家庭用ホームベーカリ(MK精工株式会社製、HBH91)のメニュー1(食パン)により焼成した。結果を表5に示す。

【表5】

【実施例2】
【0016】
(第一工程)
(4)表6の配合にて調製した白米雑穀混合物(以下「原料穀物」と呼ぶ)に5倍量程度の水を加えて浸漬させた後、粥状になるまで加熱し、最終重量が対原料穀物で4倍量になるよう加水を行い調整した(粥状原料穀物)。

【表6】

【0017】
(第二工程)
(5)5種類の雑穀(大麦40%、もちきび33%、もちあわ12%、アマランサス10%、ごま5%)をブレンドした五穀ブレンドを浸漬させた後、蒸し機にて10分間蒸煮処理を施した。
(6)第一工程で得られた糖化雑穀を80℃程度まで加熱し、5分間保持した。冷却後、蒸煮した五穀ブレンドを表7の配合比で混合し、雑穀酒種(五穀)とした。

【表7】

【0018】
[実施例2]で得られた雑穀酒種を使用し、常法に従ってパンを焼成し、評価した(比較対照品は白パン)。試作配合は表8の通りである。

【表8】

【0019】
[方法]
常法に従い、ストレート法にて製パンを行い、食パンを焼成した。結果を表9に示す。

【表9】

【0020】
第二工程において、[実施例1]では糖化雑穀に雑穀ミックス(九穀ブレンド)を混合した後に加熱処理(レトルト殺菌)を、[実施例2]においては、糖化雑穀および雑穀ミックス(五穀ブレンド)を別々に加熱処理した後に、混合している。加熱の目的は、糖化雑穀中に残存している酵素の失活による製品の安定化と後添加雑穀を可食状態に調理することを目的としており、本発明においては混合前後どちらで加熱処理を施しても同等の品質が得れることを確認している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒種発酵の原料を米あるいは大麦、きび、あわ、大豆、小豆等の穀物類・豆類を単品あるいは複数品を選択し、これに蒸気、蒸煮等の加熱調理を施した後、米麹、麦麹等の麹を加えて発酵させた発酵生産物、好ましくは糖度20%以上(Brix%)となるように発酵させた発酵生産物(以下、糖化雑穀と呼ぶ)を得る第一工程と、第一工程で調製した糖化雑穀に、米あるいは大麦、きび、あわ、大豆、小豆等の穀物類・豆類を混合し、加熱調理を施して雑穀酒種を得る第二工程の2つの製造工程を経て製造することを特徴とする雑穀酒種製造方法。
【請求項2】
前記第二工程における穀物類・豆類の加熱調理は、糖化雑穀への混合の前もしくは後のいずれかで行うことを特徴とする請求項1に記載の雑穀酒種製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に基いて得た雑穀酒種を使用して雑穀パンを得ることを特徴とする雑穀酒種を用いた雑穀パン

【図1】
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【公開番号】特開2011−92165(P2011−92165A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252469(P2009−252469)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(592211688)株式会社はくばく (9)
【Fターム(参考)】