説明

離型フィルム

【課題】 オリゴマー析出量が極めて少なく、特にアクリル系粘着テープとの剥離力で30〜60mN/cm程度の剥離力領域が必要とされる場合、経時での剥離変動(重剥離化)が極力小さい離型フィルムを提供する。
【解決手段】 アルミニウム、チタン、およびジルコニウムから選ばれる金属元素を含む2種類以上の有機化合物と、有機珪素化合物とを含有する塗布層を有するポリエステルフィルムの当該塗布層上に離型層を有する離型フィルムであり、アクリル系粘着テープと離型層との剥離力が30〜60mN/cmであり、当該離型フィルム40cmを、水酸化カリウム5重量%を溶解した1−ブタノール溶液3mlが入ったバイアル瓶(20mL)に浸漬し、当該バイアル瓶を50℃で1時間熱処理した後に発生する水素ガス量が40ppm以下であることを特徴とする粘着剤層保護用離型フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤層保護用として、オリゴマー析出量が極めて少なく、経時での剥離変動が極力小さい離型フィルムに関するものであり、特にアクリル系粘着テープとの剥離力で30〜60mN/cm程度の剥離力領域が必要とされる場合に好適であり、例えば、液晶ディスプレイ(以下、LCDと略記する)に用いられる偏光板、位相差板等のLCD構成部材製造用、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略記する)構成部材製造用、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する)構成部材製造用等、各種ディスプレイ構成部材製造用のほか、各種粘着剤層保護用途に好適な離型フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルフィルムを基材とする離型フィルムが、LCD用偏光板、位相差板製造用、PDP構成部材製造用、有機EL構成部材製造用等、各種ディスプレイ構成部材製造用等、各種光学用途等に使用されている。離型フィルム使用上の問題点として、粘着剤層塗布後、経時での剥離変動(重剥離化)が各種不具合を生じることが挙げられる。
【0003】
近年、IT(Information Technology)分野の躍進に伴い、LCD、PDP、有機EL等の表示部材製造時に使用される離型フィルムの品質向上と共に粘着剤層保護用途において、重剥離化に伴う各種不具合が顕在化する状況にある。
【0004】
上述の各種用途に対応するために、離型性に優れるだけでなく、経時での剥離変動を極力小さくすることが望まれる状況にある。
【0005】
例えば、LCD用偏光板の製造工程を一例に挙げると、当該製造工程は、粘着剤層を介して離型フィルムと偏光板が貼り合わされてロール状に巻き取られる工程を含んでいるが、生産性向上に伴い、使用する粘着剤層の組成変更等の理由により、離型層の設計変更が必要とされる場合がある。例えば、アクリル系粘着テープによる剥離力が30〜60mN/cm程度の剥離力領域が必要とされる場合において、当該剥離力領域を有する離型フィルムを設計する場合、剥離コントロール剤を併用することにより、目標の剥離力領域に到達させるべく、配合量を振って調整する手法が挙げられる。しかしながら、当該手法は初期の粘着テープによる剥離力は目標レベルに到達する反面、粘着剤層を塗布した、いわゆる転写法により、粘着剤層を離型層上に形成した後、経時での剥離変動が大きく、重剥離化する傾向にあった。さらに経時での剥離変動の大きさは所定の間、長期間にわたり、離型フィルム上に粘着剤層を塗布し、未処理のフィルムと貼り合わせた状態で放置した後でないと評価結果が判明しないという不便さがある。そのため、今日、技術革新がめざましいFPD分野等に対応使用する場合、必ずしも満足できるフィルムが提供できていない。 上述のとおり、例えば、アクリル系粘着テープによる剥離力で30〜60mN/cm程度の剥離力領域を満足しながら、経時での剥離変動(重剥離化)を極力抑えるという、相反する特性を両立させることが必要とされる状況にある。
【0006】
また、近年、IT(Information Technology)分野の躍進に伴い、LCD、PDP、有機EL等の表示部材製造時に使用される離型フィルムの品質向上と共にオリゴマーの析出に伴う各種不具合が顕在化する状況にある。
【0007】
上述の各種用途に対応するために、離型性に優れるだけでなく、フィルム表面の異物を極力少なくすることが望まれる。すなわち、特に光を透過して見る、いわゆる視認性を重視する用途でもあるため、通常のフィルム用途では全く問題とならないフィルム表面の異物ですら重大な問題となるからである。
【0008】
例えば、LCD用偏光板の製造工程を一例に挙げると、当該製造工程は、粘着剤層を介して離型フィルムと偏光板が貼り合わされてロール状に巻き取られる工程を含んでいるが、オリゴマーは粘着剤塗布後の乾燥工程を経て析出するものと考えられる。離型層表面に析出するオリゴマーは、貼り合わせている相手方粘着剤層表面へ転着し、オリゴマーの付着した粘着剤層付きの偏光板をガラス基板と貼り合わせてLCDを製造した場合、得られるLCDの輝度が低下する等の不具合を生じる場合がある。
【0009】
近年、LCDの視認性向上を目的として表示画面の輝度をより高くする傾向があり、上記不具合が深刻な問題となってきている。
【0010】
一方、生産性向上に伴う製造コストの低減を図ることを目的として、製造工程の高速化に伴い、特に乾燥工程における乾燥温度をより高く設定する傾向があり、上述のオリゴマーがより析出しやすい状況になっている。
【0011】
LCD用偏光板の表示能力、色相、コントラスト、異物混入などの光学的評価を伴う検査工程においては、目視あるいは拡大鏡使用による欠陥品の流出防止対策が講じられているが、結晶化したオリゴマーが付着した離型フィルムを使用した場合、異物混入により不良品と判定され、製品歩留まりが低下する等の不具合を生じるという問題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−194768号公報
【特許文献2】特開平9−323392号公報
【特許文献3】特開昭52−32030号公報
【特許文献4】特開平9−59041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、オリゴマー析出量が極めて少なく、特にアクリル系粘着テープとの剥離力で30〜60mN/cm程度の剥離力領域が必要とされる場合、経時での剥離変動(重剥離化)が極力小さい離型フィルムを提供するにあり、例えば、LCD用偏光板、位相差板等の液晶構成部材製造用、PDP構成部材製造用、有機EL構成部材製造用等、各種ディスプレイ構成部材製造用のほか、各種粘着剤層保護用途に好適な離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記実状に鑑み、鋭意検討した結果、特定の構成からなる離型フィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は、アルミニウム、チタン、およびジルコニウムから選ばれる金属元素を含む2種類以上の有機化合物と、有機珪素化合物とを含有する塗布層を有するポリエステルフィルムの当該塗布層上に離型層を有する離型フィルムであり、アクリル系粘着テープと離型層との剥離力が30〜60mN/cmであり、当該離型フィルム40cmを、水酸化カリウム5重量%を溶解した1−ブタノール溶液3mlが入ったバイアル瓶(20mL)に浸漬し、当該バイアル瓶を50℃で1時間熱処理した後に発生する水素ガス量が40ppm以下であることを特徴とする粘着剤層保護用離型フィルムに存する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の離型フィルムによれば、オリゴマー析出量が少なく、経時での剥離変動(重剥離化)が極力小さい離型フィルムを提供することが可能となり、例えば、LCD用偏光板、位相差板等の液晶構成部材製造用、PDP構成部材製造用、有機EL構成部材製造用等、各種ディスプレイ構成部材製造用のほか、各種粘着剤層保護用途に好適な離型フィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明における離型フィルムを構成するポリエステルフィルムは単層構成であっても積層構成であってもよく、例えば、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を超えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
【0018】
本発明においてポリエステルフィルムに使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。何れにしても本発明でいうポリエステルとは、通常60モル%以上、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエチレンテレフタレート等であるポリエステルを指す。
【0019】
本発明において、ポリエステル層中には、易滑性付与を主たる目的として粒子を配合することが好ましい。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されている耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0020】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常0.01〜3μm、好ましくは0.01〜1μmの範囲である。平均粒径が0.01μm未満の場合には、粒子が凝集しやすく、分散性が不十分な場合があり、一方、3μmを超える場合には、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、後工程において離型層を塗設させる場合等に不具合が生じる場合がある。
【0021】
さらに、ポリエステル層中の粒子含有量は、通常0.001〜5重量%、好ましくは0.005〜3重量%の範囲である。粒子含有量が0.001重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、5重量%を超えて添加する場合にはフィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0022】
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応を進めてもよい。
【0023】
また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0024】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0025】
本発明の離型フィルムを構成するポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常5〜250μm、好ましくは5〜188μmの範囲である。
【0026】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
【0027】
まず、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜 110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常 3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の 温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0028】
また、本発明におけるポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法で、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来から公知の延伸方式を採用することができる。
【0029】
さらに上述のポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施すことができる。塗布延伸法によりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に塗布層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0030】
次に本発明における離型フィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層に関しては上述の塗布延伸法(インラインコーティング)を用いてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、いわゆるオフラインコーティングを採用してもよく、何れの手法を採用してもよい。
【0031】
本発明は、アルミニウム、チタン、およびジルコニウムから選ばれる金属元素を含む有機化合物を少なくとも2種類以上塗布層中に含有することを必須の要件とするものである。当該化合物を2種類以上併用することによって、湿熱処理後に剥離力の上昇を抑えることができる。
【0032】
アルミニウム元素を有する有機化合物の具体例としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネ−ト)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウム−ジ−n−ブトキシド−モノエチルアセトアセテート、アルミニウム−ジ−イソ−プロポキシド−モノメチルアセトアセテート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が例示される。
【0033】
塗布層に含まれるアルミニウム化合物の量は、通常0.001〜70重量%、好ましくは5〜35重量%であり、さらに好ましくは5〜15重量%の範囲である。アルミニウム化合物の量が0.001重量%以下であると、塗布層の硬化反応が迅速に進まず、塗布層の上に離型層を形成した後の離型面の塗膜密着性が悪化することがある。また、アルミニウム化合物の量が70重量%以上であると、塗布層の硬化反応に関与せずに、塗布層中に残存したアルミニウム化合物が離型層の硬化を妨げ、離型面の塗膜密着性が悪化することがある。
【0034】
チタン元素を有する有機化合物の具体例としては、例えば、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート等のチタンオルソエステル類;チタンアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート、ポリチタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、チタンエチルアセトアセテート等のチタンキレート類等が挙げられる。
【0035】
塗布層に含まれるチタン化合物の量は、通常0.001〜70重量%、好ましくは5〜30重量%であり、さらに好ましくは5〜15重量%の範囲である。チタン化合物の量が0.001重量%以下であると、塗布層の硬化反応が迅速に進まず、塗布層の上に離型層を形成した後の離型面の塗膜密着性が悪化することがある。また、チタン化合物の量が70重量%以上であると、塗布層の硬化反応に関与せずに、塗布層中に残存したチタン化合物が離型層の硬化を妨げ、離型面の塗膜密着性が悪化することがある。
【0036】
ジルコニウム元素を有する有機化合物の具体例としては、例えば、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムモノアセチルアセトナート、ジルコニウムビスアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0037】
塗布層に含まれるジルコニウム化合物の量は、通常0.001〜70重量%、好ましくは5〜30重量%であり、さらに好ましくは5〜15重量%の範囲である。ジルコニウム化合物の量が0.001重量%以下であると、塗布層の硬化反応が迅速に進まず、塗布層の上に離型層を形成した後の離型面の塗膜密着性が悪化することがある。また、ジルコニウム化合物の量が70重量%以上であると、塗布層の硬化反応に関与せずに、塗布層中に残存したジルコニウム化合物が離型層の硬化を妨げ、離型面の塗膜密着性が悪化することがある。
【0038】
特にオリゴマー析出防止性能が良好となる点で、アルミニウム、ジルコニウムから選ばれる金属元素を含む有機化合物に関して、好ましくはキレート構造を有する有機化合物が好ましい。なお、「架橋剤ハンドブック」(山下晋三、金子東助 編者(株)大成社 平成2年版)にも具体的に記載されている。
【0039】
本発明の離型フィルムを構成する塗布層は、オリゴマー析出防止性を良好とすると共に、経時での離型層とポリエステルフィルムとの塗膜密着性を良好とするために有機珪素化合物を併用することを必須の要件とするものであり、下記一般式(1)で表される有機珪素化合物を使用することが好ましい。
【0040】
Si(X)(Y)(R …(1)
[上記式中、Xはエポキシ基、メルカプト基、(メタ)アクリロイル基、アルケニル基、ハロアルキル基およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種を有する有機基、Rは一価炭化水素基であり、かつ炭素数1〜10のものであり、Yは加水分解性基であり、dは1または2の整数、eは2または3の整数、fは0または1の整数であり、d+e+f=4である]
前記一般式(1)で表される有機珪素化合物は、加水分解・縮合反応によりシロキサン結合を形成しうる加水分解性基Yを2個有するもの(D単位源)あるいは3個有するもの(T単位源)を使用することができる。
【0041】
一般式(1)において、一価炭化水素基Rは、炭素数が1〜10のもので、特にメチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。
【0042】
一般式(1)において、加水分解性基Yとしては、従来公知のものが使用可能で、以下のものを例示できる。メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソプロペノキシ基、アセトキシ基、ブタノキシム基およびアミノ基等。これらの加水分解性基は、単独あるいは複数種を使用してもよい。メトキシ基あるいはエトキシ基を適用すると、コーティング材に良好な保存安定性を付与でき、また適当な加水分解性があるため、特に好ましい。
【0043】
本発明において、塗布層中に含有する有機珪素化合物としては、具体的にはビニルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、5−ヘキセニルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を例示することができる。
【0044】
さらに塗布層の固着性、滑り性改良を目的として、無機系粒子を含有してもよく、具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、バリウム塩等が挙げられる。
【0045】
また、必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、有機系高分子粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤発泡剤、染料等が含有されてもよい。
【0046】
本発明の要旨を越えない範囲において、分散性改良、造膜性改良等を目的として、使用する有機溶剤は一種類のみでもよく、適宜、二種類以上を使用してもよい。
【0047】
本発明における離型フィルムを構成するポリエステルフィルム上に設けられる塗布層の塗布量(乾燥後)は、通常0.005〜1g/m、好ましくは0.005〜0.5g/mの範囲である。塗布量(乾燥後)が0.005g/m未満の場合には、塗布厚みの均一性が不十分な場合があり、熱処理後、塗布層表面から析出するオリゴマー量が多くなる場合がある。一方、1g/mを超えて塗布する場合には、滑り性低下等の不具合を生じる場合がある。
【0048】
本発明において、塗布層を設ける方法はリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。塗工方式に関しては「コーティング方式」槇書店 原崎勇次著1979年発行に記載例がある。
【0049】
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布層を形成する際の硬化条件に関しては、特に限定されるわけではなく、例えば、オフラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、60〜200℃で3〜40秒間、好ましくは80〜180℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。また、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。
【0050】
次に本発明における離型層の形成について説明する。
【0051】
本発明における離型フィルムを構成する離型層とは、離型性を有する層のことを指し、具体的にはアクリル系粘着テープと離型層との剥離力(F)が30〜90mN/cmである必要があり、好ましくは30〜60mN/cmの範囲である。
【0052】
本発明における離型フィルムを構成する離型層は、上述の塗布延伸法(インラインコーティング)等のフィルム製造工程内において、ポリエステルフィルム上に設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、いわゆるオフラインコーティングを採用しても良く、何れの手法を採用してもよい。塗布延伸法(インラインコーティング)については以下に限定するものではないが、例えば、逐次二軸延伸においては特に1段目の延伸が終了して、2段目の延伸前にコーティング処理を施すことができる。塗布延伸法によりポリエステルフィルム上に離型層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に離型層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0053】
また、本発明における離型フィルムを構成する離型層は離型性を良好とするために硬化型シリコーン樹脂を含有するのが好ましい。硬化型シリコーン樹脂を主成分とするタイプでもよいし、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂等の有機樹脂とのグラフト重合等による変性シリコーンタイプ等を使用してもよい。
【0054】
硬化型シリコーン樹脂の種類としては付加型・縮合型・紫外線硬化型・電子線硬化型・無溶剤型等、何れの硬化反応タイプでも用いることができる。具体例を挙げると、信越化学工業(株)製KS−774、KS−775、KS−778、KS−779H、KS−847H、KS−856、X−62−2422、X−62−2461、X−62−1387、KNS−3051、X−62−1496、KNS320A、KNS316、X−62−1574A/B、X−62−7052、X−62−7028A/B、X−62−7619、X−62−7213、東レ・ダウコーニング(株)製SRX357、SRX211、SD7220、LTC750A、LTC760A、SP7259、BY24−468C、SP7248S、BY24−452DKQ3−202、DKQ3−203、DKQ3−204、DKQ3−205、DKQ3−210、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製YSR−3022、TPR−6700、TPR−6720、TPR−6721、TPR6500、TPR6501、UV9300、UV9425、XS56−A2775、XS56−A2982、UV9430、TPR6600、TPR6604、TPR6605、東レ・ダウコーニング(株)製等が例示される。さらに離型層の剥離性等を調整するために剥離コントロール剤を併用してもよい。
【0055】
剥離コントロール剤の具体例として、信越化学工業製KS3800,東レ・ダウコーニング社SD7292、BY24−4980等が挙げられる。
【0056】
本発明において、ポリエステルフィルムに離型層を設ける方法として、リバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。塗工方式に関しては「コーティング方式」槇書店 原崎勇次著 1979年発行に記載例がある。
【0057】
本発明において、ポリエステルフィルム上に離型層を形成する際の硬化条件に関しては特に限定されるわけではなく、オフラインコーティングにより離型層を設ける場合、通常、120〜200℃で3〜40秒間、好ましくは100〜180℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。また、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。なお、活性エネルギー線照射による硬化のためのエネルギー源としては、公知の装置,エネルギー源を用いることができる。離型層の塗工量は塗工性の面から、通常0.005〜1g/m、好ましくは0.005〜0.5g/m、さらに好ましくは0.01〜0.2g/m範囲である。塗工量が0.005g/m未満の場合、塗工性の面より安定性に欠け、均一な塗膜を得るのが困難になる場合がある。一方、1g/mを超えて厚塗りにする場合には離型層自体の塗膜密着性、硬化性等が低下する場合がある。
【0058】
本発明の離型フィルムにおいて、経時での剥離安定性を確保するために、バイアル瓶(20mL)中に水酸化カリウム5重量%を溶解した1−ブタノール溶液3mlを添加し、さらに離型フィルム(40cm)を浸漬し、当該バイアル瓶(20mL)を50℃で1時間熱処理した後、離型フィルムから発生する水素(H)ガス量を40ppm以下に抑える必要があり、好ましくは30ppm以下である。離型フィルムから発生する水素(H)ガス量が40ppmを超える場合、粘着剤層と離型フィルムの離型層とが貼り合わされた状態で長期間放置した際、経時での剥離変動が大きく、本来剥離する必要がある場面において、剥離困難になる等の不具合を生じるようになる。
【0059】
本発明における離型フィルムにおいて、前記水素(H)ガス発生量を40ppm以下に抑制するための具体的手法として、例えば、離型層の剥離調整を目的として、官能基量の少ないシリコーン樹脂を使用する、剥離コントロール剤を併用する場合には架橋剤由来のSi−H基量が少ないタイプのものを選択する等の手法が例示される。
【0060】
従来、当業者においては剥離力を重剥離化させる手法として、汎用的に使用されるのは架橋剤由来のSi−H基を増量する目的で、架橋剤量を多量に添加する手法等が挙げられる。しかしながら、当該手法は架橋剤由来のSi−H基量が経時で吸湿等の影響により減少するに伴い、剥離変動が大きくなる傾向にある。そのため、粘着剤塗布後、長期間、離型フィルムの離型層と粘着剤層とが貼り合わされた状態で保管した場合、離型フィルムを剥離させる際に重剥離化する等の不具合を生じるようになる。
【0061】
本発明における離型フィルムに関して、離型層が設けられていない面には、本発明の要旨を越えない範囲において、接着層、帯電防止層、オリゴマー析出防止層等の塗布層を設けてもよい。また、離型フィルムを構成するポリエステルフィルムには、あらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0062】
本発明において塗布層上に離型層を設ける場合、塗布層を設けた後にフィルムを一旦巻き取り、改めて離型層を設けてもよく、また、塗布層を設けた後、連続して、離型層を塗布層上に設けてもよく、いずれの方法を採用してもよい。
【0063】
本発明の離型フィルムを熱処理(180℃、10分間)した後、離型層表面からジメチルホルムアミドにより抽出されるオリゴマー量(OL)は、2.0mg/m以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.0mg/m以下、特に好ましくは0.3mg/m以下である。OLが2.0mg/mを超える場合、例えば、液晶構成部材製造時、粘着剤層保護用途に使用した場合、粘着剤の透明性低下、粘着剤層の粘着力低下、あるいは光学的評価を伴う検査工程において支障を来たす等の不具合を生じることがある。
【0064】
本発明における離型フィルムにおいては、OLが上記範囲を満足するために塗布層中に含有されるアルミニウム元素量として0.2kcps以上、さらには0.5kcps以上、特に0.8kcps以上であることが好ましい。アルミニウム元素量が0.2kcps未満の場合、所望するオリゴマー封止性能が得られない場合がある。チタン元素量として0.1kcps以上、さらには0.2kcps以上であることが好ましい。チタン元素量が0.1kcps未満の場合、所望するオリゴマー封止性能が得られない場合がある。ジルコニウム量として0.001kcps以上、さらには0.02kcps以上、特に0.04以上であることが好ましい。ジルコニウム元素量が0.001kcps未満の場合、所望するオリゴマー封止性能が得られない場合がある。
【0065】
また、塗布層中に含有されるアルミニウム、チタン、ジルコニウムの金属元素量の合計量は0.1kcps以上、さらには0.2kcps以上、特に0.8kcps以上であることが好ましい。金属元素量の合計量が0.1kcps未満の場合、所望するオリゴマー封止性能が得られない場合がある。本発明の離型フィルムは、特定の金属元素を有する有機化合物を2種類以上使用することで金属化合物の添加量が少なくても、高度なオリゴマー封止性能が得られる。
【0066】
本発明において「オリゴマー」とは、熱処理後、結晶化してフィルム表面に析出する低分子量物のうちの環状三量体と定義する。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
【0068】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0069】
(2)平均粒径(d50:μm)の測定
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均粒径とした。
【0070】
(3)離型フィルムの剥離力(F)測定
試料フィルムの離型層表面に両面粘着テープ(日東電工製「No.502」)の片面を貼り付けた後、50mm×300mmのサイズにカットし、室温にて1時間放置後の剥離力を測定する。剥離力は引張試験機((株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」)を使用し、引張速度300mm/分の条件下、180°剥離を行った。
その後、下記判定基準により、剥離状況に関して、判定を行なった。
《判定基準》
○:30〜60mN/cmの範囲であり、剥離状況は良好(実用上、問題ないレベル)
×:30mN/cm未満あるいは60mN/cmを超え、剥離状況は不良(実用上、問題あるレベル)
【0071】
(4)熱処理後、離型フィルムから発生する水素(H)ガス量の定量
あらかじめ、試料フィルム40cm分を切り出し、秤量する。測定に使用する分量を5mm角に再度切り出し、ガスクロマトグラフィー専用の20mlバイアル瓶に試料フィルムを充填する(38μmの離型フィルムでは約0.213gに相当する)。次に水酸化カリウム5重量%を溶解したブタノール溶液(ブタノール19gに水酸化カリウム1gを添加して作製)3mlをピペッターで分取し、試料フィルム全量が水酸化カリウム5重量%ブタノール溶液に浸漬するように添加する。その後、クリンパーを用いて、バイアル瓶を密栓し、ヒーティングブロック(型式:HF21、ヤマト科学製)を用いて、50℃、1時間熱処理する。その後、下記ガスクロマトグラフィー測定装置を用いて、試料フィルムから発生する水素(H)ガス量を定量分析し、下記判定基準により判定を行った。
【0072】
《ガスクロマトグラフィー測定条件》
装置:EAGanalyzer(SENSORTEC Co,Ltd)
測定条件:
pressure Gauge Low:0.05MPa
High:0.05MPa
カラム温度:50℃
カラム流量:30.0sccm
シリンジ注入量:1cc
測定時間:5min
【0073】
《判定基準》
◎:30ppm以下(実用可能なレベルであり、特に良好)
○:40ppm以下(実用可能なレベル)
×:40ppmを越える(実用困難なレベル)
【0074】
(5)離型フィルムの剥離力変化量(ΔF)評価
<剥離力(F1)の測定方法>
あらかじめ試料フィルムに下記粘着剤組成から構成される粘着剤層を塗布量が2milになるようにベーカー式アプリケータを用いて塗布、熱風式循環炉により、150℃、3分間熱処理し、未処理のPETフィルム188μmと試料フィルム付き粘着層の粘着層とを2kgゴムローラーで貼り合わせた。次に貼り合わせた試料フィルムを室温(23℃±2℃、50%RH±5%RH)にて24時間放置した。その後、試料フィルムを50mm×300mmのサイズにカットし、室温にて1時間放置後の剥離力を測定する。剥離力は引張試験機((株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」)を使用し、引張速度300mm/分の条件下、180°剥離を行った。
【0075】
<剥離力(F2)の測定方法>
あらかじめ試料フィルムに下記粘着剤組成から構成される粘着剤層を塗布量(乾燥前)が2milになるようにベーカー式アプリケータを用いて塗布、熱風式循環炉により、150℃、3分間熱処理し、未処理のPETフィルム188μmと試料フィルム付き粘着層の粘着層とを2kgゴムローラーで貼り合わせた。次に貼り合わせた試料フィルムを恒温槽内で80℃×50%RHの雰囲気下、4日間放置した。その後、試料フィルムを50mm×300mmのサイズにカットし、室温にて1時間放置後の剥離力を測定する。剥離力は引張試験機((株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」)を使用し、引張速度300mm/分の条件下、180°剥離を行った。
【0076】
《粘着剤組成》
主剤:AT352(サイデン化学製) 100部
硬化剤:AL(サイデン化学製) 0.25部
添加剤:X−301−375SK(サイデン化学製) 0.25部
添加剤:X−301−352S(サイデン化学製) 0.4部
トルエン 40部
【0077】
上記で得られた各剥離力値(F1,F2)を用いて、剥離力の変化量(ΔF)を求めた後、下記判定基準により、判定を行なった。
ΔF(%)=(F2―F1)
《判定基準》
○:ΔFが20mN/cm以下(実用可能なレベル)
×:ΔFが30mN/cmを超える(実用困難なレベル)
【0078】
(6)離型フィルムの塗膜密着性初期評価(実用特性代用評価)
塗工直後の試料フィルムの離型面を触手により5回擦り、離型層の脱落程度を下記判定基準により判定を行った。
《判定基準》
○:塗膜の脱落が見られない(実用可能なレベル)
△:塗膜が白くなるが脱落はしていない(実用可能なレベル〉
×:塗膜の脱落が確認された(実用困難なレベル)
【0079】
(7)離型フィルムの塗膜密着性促進評価(実用特性代用評価)
試料フィルムを恒温恒湿槽中、80℃、90%RH雰囲気下、2週間放置した後に試料フィルムを取り出した。その後、試料フィルムの離型面をMEK(メチルエチルケトン)を染み込ませた脱脂綿で100回擦った後、触手により5回擦り、離型層の脱落程度を下記判定基準により判定を行った。
《判定基準》
○:塗膜の脱落が見られない(実用可能なレベル)
△:塗膜が白くなるが脱落はしていない(実用可能なレベル〉
×:塗膜の脱落が確認された(実用困難なレベル)
【0080】
(8)クロスニコル下での目視検査性評価(実用特性代用評価)
偏光板検査を考慮に入れて、フィルム上に離型剤を塗布しドライヤー温度120℃、ライン速度30m/分の条件で得た離型フィルムの幅方向が、偏光フィルムの配向軸と平行となるように、粘着剤を介して離型フィルムを偏光フィルムに密着させ偏光板とし、密着させた離型フィルム上に配向軸がフィルム幅方向と直交するように検査用の偏光板を重ね合わせ、偏光板側より白色光を照射し、検査用の偏光板より目視にて観察し、クロスニコル下での目視検査性を下記基準に従い評価した。なお、測定の際には、得られたフィルムの幅方向に対し中央部と両端部の計3ヶ所から、それぞれA4サイズのサンプルを切り出して実施した。
「判定基準」
○:光干渉性なく検査可能
△:光干渉はあるが検査可能
×:光干渉があり検査不能
○および△のものが実使用上問題のないレベルである。
【0081】
(9)総合評価
実施例および比較例において製造した離型フィルムを用いて、水素(H)ガス発生量、剥離力(F)、剥離力変化量(ΔF)評価、離型フィルムの塗膜密着性初期評価、離型フィルムの塗膜密着性促進評価、クロスニコル下での目視検査性評価の各評価項目につき、下記判定基準により総合評価を行った。
(判定基準)
○:水素(H)ガス発生量、剥離力(F)、剥離力変化量(ΔF)評価、離型フィルムの塗膜密着性初期評価、離型フィルムの塗膜密着性促進評価、クロスニコル下での目視検査性評価の全てが○(実用上、問題ないレベル)
△:水素(H)ガス発生量、剥離力(F)、剥離力変化量(ΔF)評価、離型フィルムの塗膜密着性初期評価、離型フィルムの塗膜密着性促進評価、クロスニコル下での目視検査性評価のうち、少なくとも一つが△(実用上、問題になる場合があるレベル)
×:水素(H)ガス発生量、剥離力(F)、剥離力変化量(ΔF)評価、離型フィルムの塗膜密着性初期評価、離型フィルムの塗膜密着性促進評価、クロスニコル下での目視検査性評価のうち、少なくとも一つが×(実用上、問題になる場合があるレベル)
【0082】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
〈ポリエステルの製造〉
製造例1(ポリエチレンテレフタレートA1)
ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール60部および酢酸マグネシウム・4水塩0.09部を反応器にとり、加熱昇温すると共にメタノールを留去し、エステル交換反応を行い、反応開始から4時間を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了した。次いで、エチレングリコールスラリーエチルアシッドフォスフェート0.04部、三酸化アンチモン0.03部、平均粒径1.5μmのシリカ粒子を0.01部添加した後、100分で温度を280℃、圧力を15mmHgに達せしめ、以後も徐々に圧力を減じ、最終的に0.3mmHgとした。4時間後、系内を常圧に戻し、固有粘度0.61のポリエチレンテレフタレートA1を得た。
【0083】
実施例1:
製造例1で製造したポリエチレンテレフタレートA1を180℃で4時間、不活性ガス雰囲気中で乾燥し、溶融押出機により290℃で溶融し、口金から押出し静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して未延伸シートを得た。得られた未延伸シートにまず、95℃で延伸倍率をMD方向に3.6倍延伸し、テンターに導き、TD方向に4.3倍の逐次二軸延伸を行った。その後、230℃にて3秒間熱固定し、厚さ38μmのPETフィルムを得た。次に下記塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.05g/mになるようにリバースグラビアコート方式により塗布した後、120℃、30秒間熱処理した。塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
【0084】
(化合物例)
・アルミニウム元素を有する有機化合物:(A1)
アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)
・チタン元素を有する有機化合物:(A2)
チタンテトラアセチルアセトネート
・ジルコニウム元素を有する有機化合物:(A3)
ジルコニウムテトラアセチルアセトネート
・ジルコニウム元素を有する有機化合物:(A4)
ジルコニウムアセテート
・チタン元素を有する有機化合物:(A5)
チタンラクテート
・有機珪素化合物:(B1)
2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
・有機珪素化合物:(B2)
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0085】
《塗布剤組成》
アルミニウム元素を有する有機化合物(A1):32重量%
有機珪素化合物(B1):63重量%
ジルコニウム元素を有する有機化合物:(A3):5重量%
上記塗布剤をトルエン/MEK混合溶媒(混合比率は1:4)にて希釈し、4重量%と した。
【0086】
その後、塗布層上に下記離型剤組成からなる離型剤を塗布量(乾燥後)が0.1g/mになるようにリバースグラビアコート方式により塗設し、150℃、30秒間熱処理した後に離型フィルムを得た。
《離型剤組成》化合物例
硬化型シリコーン樹脂(a1):(X−62−5039:信越化学工業製)
硬化型シリコーン樹脂(a2):(KS−847H:信越化学工業製)
剥離コントロール剤(b1):(KS−3800:信越化学工業製)
剥離コントロール剤(b2):(SD7292:東レ・ダウコーニング製)
剥離コントロール剤(b3):(BY24−4980:東レ・ダウコーニング製)
硬化剤(c1)(PL−5000:信越化学工業製)
硬化剤(c2)(PL−50T:信越化学工業製)
【0087】
(配合条件)
a1:75重量%
a2:0重量%
b1:0重量%
b2:0重量%
b3:20重量%
c1:5重量%
c2:0重量%
上記離型剤をMEK/トルエン混合溶媒(混合比率は1:1)で希釈し、濃度2重量%の塗布液を作成した。
【0088】
実施例2〜15および比較例1〜10:
実施例1において、塗布剤組成を下記表1に示す塗布剤組成に変更し、離型剤組成を下記表2に示す離型剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、離型フィルムを得た。上記実施例および比較例で得られた各離型フィルムの特性を表3、4に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の離型フィルムは、例えば、LCD、PDP、有機EL等、表示部材製造用等の光学用途のほか、各種粘着剤層保護用として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、チタン、およびジルコニウムから選ばれる金属元素を含む2種類以上の有機化合物と、有機珪素化合物とを含有する塗布層を有するポリエステルフィルムの当該塗布層上に離型層を有する離型フィルムであり、アクリル系粘着テープと離型層との剥離力が30〜60mN/cmであり、当該離型フィルム40cmを、水酸化カリウム5重量%を溶解した1−ブタノール溶液3mlが入ったバイアル瓶(20mL)に浸漬し、当該バイアル瓶を50℃で1時間熱処理した後に発生する水素ガス量が40ppm以下であることを特徴とする粘着剤層保護用離型フィルム。

【公開番号】特開2013−10280(P2013−10280A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145048(P2011−145048)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】