説明

離型用シート

【課題】製造が容易で、被着体への離型層の移行がなく、また廃棄時の環境負荷が少ない離型用シートを提供する。
【解決手段】基材上に樹脂層が設けられた離型用シートであって、樹脂層が、酸変性成分1〜10質量%の酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ビニルエステルの重合体を完全または部分ケン化してなるポリビニルアルコール5〜1000質量部とを含有することを特徴とする離型用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
離型用シートは、工業的に広く用いられている。公知の離型用シートとして、例えば、粘着シート、粘着テープなどの粘着材料の粘着・接着面保護材料または工程材料;プリント配線板、フレキシブルプリント配線板、多層プリント配線板等の製造のための工程材料;液晶ディスプレー用部品である偏光板や位相差板の保護材料;シート状構造体の成形用途に用いられる材料などが挙げられる。以下、離型用シートが用いられる対象を、「被着体」と称する。
【0003】
離型用シートの構成としては、離型性を有する樹脂をフィルム化したもの、またはフィルムや紙などの基材の上に離型剤を含む離型層を積層したものが一般的である。
【0004】
離型性を有する樹脂は概して高価であるため、前者のような単体でフィルム化したものは高価になってしまうという問題がある。
【0005】
そのため、押出ラミネートまたはコーティングにより、安価な基材に離型層を積層したものが数多く提案されている。
【0006】
しかしながら、押出ラミネートでは、基材上に薄膜を形成するのが難しく、コストダウンの効果が低い。また、基材との密着性にも課題がある。
【0007】
コーティングによる積層は、離型層の薄膜化という点で効果的な処方であり、様々な方法が提案されている。
【0008】
例えば、溶剤系のコーティング剤を用いる方法としては、ビニル基含有ポリジメチルシロキサンを積層する方法(特許文献1)、フッ素化合物を積層する方法(特許文献2)が提案されている。
【0009】
一方、水系の離型用コーティング剤を用いる方法としては、ワックス類、低分子量のシリコーン化合物、フッ素系界面活性剤などを離型層として積層する方法が挙げられる。しかし、被着体を離型シートから剥離する際にこれらの離型剤が被着体に転写して、被着体の機能、例えば粘着性などを低下させるという問題がある。
【0010】
その対策として、コーティングにより、シリコーン樹脂を積層する方法(特許文献3、4)、フッ素含有樹脂を積層する方法(特許文献5)、特殊な組成のポリオレフィン樹脂を積層する方法(特許文献6、7)、ポリビニルアルコールを長鎖アルキル化合物と反応させて得られた離型剤と酸変性ポリオレフィン共重合体からなる樹脂層を積層する方法(特許文献8)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−182037号公報
【特許文献2】特開2007−002066号公報
【特許文献3】特開平07−196984号公報
【特許文献4】特開2005−125656号公報
【特許文献5】特開2004−114620号公報
【特許文献6】特開2007−031639号公報
【特許文献7】特開2002−265719号公報
【特許文献8】特開平09−104851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂層は、積層、硬化のために高温での処理が必要になってしまう。特許文献2に記載の樹脂は、高価なうえ、使用後の廃棄焼却処理において、燃焼しにくくかつ有毒ガスを発生する。またいずれも、離型剤を均一にコーティングするためには大量の有機溶剤を使用しなければならないという問題がある。
【0013】
特許文献3、4に記載された、水系のコーティング剤を使用する樹脂層は、基材との密着性に乏しく、しかも離型性等が不十分である。特許文献5に記載の方法には、特許文献2と同様の課題が残る。
【0014】
特許文献6、7の方法は、これらの問題を解決するために提案されたものである。しかし、特許文献6では実際の離型用シートとしての評価がなされていない。しかもコーティング剤に界面活性剤が含まれるため、被着体を汚染するおそれがある。一方、特許文献7で使用されている樹脂は、高価であり、しかも融点が高いために離型用シートとする際に高温での処理を必要とする。
【0015】
特許文献8の方法では、ポリビニルアルコールを長鎖アルキル化合物と予め反応させて離型剤とする工程が必要であるうえ、コーティング剤とするためには界面活性剤の添加が必須であるために被着体を汚染するおそれがある。
【0016】
本発明は、これらの問題点に鑑み、製造が容易で、被着体への離型層の移行がなく、また廃棄時の環境負荷が少ない離型用シートを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸変性ポリオレフィン樹脂に、ポリビニルアルコールを配合した樹脂の層は、離型性に優れ、かつ基材に積層することで離型用シートとして有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0018】
本発明の要旨は、下記の通りである。
【0019】
(1) 基材上に樹脂層が設けられた離型用シートであって、樹脂層が、酸変性成分1〜10質量%の酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ビニルエステルの重合体を完全または部分ケン化してなるポリビニルアルコール5〜1000質量部とを含有することを特徴とする離型用シート。
【0020】
(2)酸変性成分1〜10質量%の酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ビニルエステルの重合体を完全または部分ケン化してなるポリビニルアルコール5〜1000質量部とを含有する液状物を、基材上に塗工したのち乾燥することを特徴とする離型用シートの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の離型用シートは、濡れ性を有しながらも良好な離型性を備えている。しかも離型性を発現するにあたって、ワックス類や低分子量のシリコーン化合物、界面活性剤などの離型剤を必要としない。このため、剥離の際に被着体を汚染することがない。しかも、フッ素などハロゲン元素を含む離型剤を用いなくて済むので、廃棄時の環境への負荷も少ない。
【0022】
本発明の離型シートは、粘着材料や液晶ディスプレー用部品などの保護材料;プリント配線板を製造する際の工程材料;イオン交換膜やセラミックグリーンシートなどのシート状構造体を成形するときの用途などに好適に用いることができる。
【0023】
本発明の離型用シートの製造方法によれば、本発明の離型用シートを工業的に簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明の離型用シートは、基材と、この基材上に設けられた樹脂層とを有する。樹脂層は、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルアルコールとを含有する。
【0026】
樹脂層に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂は、その酸変性成分が酸変性ポリオレフィン樹脂の1〜10質量%であることが必要で、1〜7質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましく、2〜3質量%が特に好ましい。酸変性成分の量が1質量%未満の場合は、基材との十分な密着性が得られないことがあり、被着体を汚染する可能性がある。さらに、この樹脂を水性分散化するのが困難になる傾向がある。一方、10質量%を超える場合は、離型性が低下する傾向がある。
【0027】
酸変性成分としては、不飽和カルボン酸成分があげられる。不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、樹脂の分散安定性の面から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0028】
酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分は、特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが好ましい。これらの混合物であってもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。
【0029】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、基材との接着性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有していることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分を含む場合、その含有量は、0.5〜40質量%であることが好ましく、様々な熱可塑性樹脂フィルム基材との良好な接着性を持たせるために、この範囲は1〜20質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、基材フィルムとの接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがさらに好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。
【0030】
酸変性ポリオレフィンを構成する各成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されない。共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。
【0031】
酸変性ポリオレフィン樹脂の融点は、80〜150℃であることが好ましく、85〜130℃がより好ましく、90〜100℃がさらに好ましい。150℃を超えると樹脂層の形成に高温での処理が必要となり、80℃未満では離型性が著しく低下する。
【0032】
酸変性ポリオレフィン樹脂のビカット軟化点は、50〜130℃であることが好ましく、53〜110℃がより好ましく、55〜90℃がより好ましい。ビカット軟化点が50℃未満の場合は離型性が低下し、130℃を超える場合は樹脂層の形成に高温での処理が必要となる。
【0033】
酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートは、190℃、2160g荷重において1〜1000g/10分であることが好ましく、1〜500g/10分であることがより好ましく、2〜300g/10分であることがさらに好ましく、2〜200g/10分であることが特に好ましい。1g/10分未満のものは、樹脂の製造が困難なうえ、水性分散体とするのが困難である。1000g/10分を超えるものは、樹脂層の基材との密着性が低下して、被着体への樹脂層の移行が起こりやすくなる。
【0034】
本発明に用いることができる酸変性ポリオレフィン樹脂の商品名としては、アルケマ社製の無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂であるボンダインシリーズが挙げられる。具体的な商品名として、「LX−4110」、「HX−8210」、「HX−8290」、「AX−8390」などがある。
【0035】
本発明の離型用シートの樹脂層は、ポリビニルアルコールを含有する。
【0036】
本発明におけるポリビニルアルコールは、ビニルエステルの重合体を完全または部分ケン化したものである。ケン化方法としては、公知のアルカリケン化法や酸ケン化法を用いることができる。中でも、メタノール中で水酸化アルカリを使用して加アルコール分解する方法が好ましい。本発明におけるポリビニルアルコールは、後述のように、液状物として使用する場合のために、水溶性を有していることが好ましい。
【0037】
ビニルエステルとしては、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。中でも酢酸ビニルが工業的に最も好ましい。
【0038】
本発明の効果を損ねない範囲で、ビニルエステルに対し他のビニル化合物を共重合することも可能である。他のビニル化合物であるビニル系モノマーとしては、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸およびそのエステル、塩、無水物、アミド、ニトリル類や;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸およびその塩;炭素数2〜30のα−オレフィン類;アルキルビニルエーテル類;ビニルピロリドン類などが挙げられる。
【0039】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、特に限定されるものではないが、300〜2,000が好ましい。
【0040】
ポリビニルアルコールを用いる場合、その含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5〜1000質量部であることが必要で、10〜600質量部が好ましく、20〜400質量部がより好ましく、30〜200質量部が最も好ましい。5質量部未満では添加効果が乏しい。1000質量部を超えても添加効果の向上は乏しく、また、液状物としての使用の際には、液安定性が低下する場合がある。
【0041】
市販のポリビニルアルコールとしては、商品名を用いて説明すると、日本酢ビ・ポバール社の「J−ポバール」の、具体的な商品名「JC−05」、「VC−10」、「ASC−05X」、「UMR−10HH」;クラレ社の「クラレポバール」の具体的な商品名「PVA−103」、「PVA−105」や、「エクセバール」の具体的な商品名「AQ4104」、「HR3010」;電気化学工業社の「デンカ ポバール」の具体的な商品名「PC−1000」、「PC−2000」などが挙げられる。
【0042】
離型用シートの樹脂層は、シリコーン化合物、フッ素化合物、ワックス類、界面活性剤の合計の含有量が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部以下であることが好ましい。この量が少ないほど、樹脂層と基材との密着性が向上するとともに被着体の汚染が抑制される。そのため、0.5質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましく、含んでいないことが特に好ましい。
【0043】
ここにいうワックス類とは、数平均分子量が10,000以下の、植物ワックス、動物ワックス、鉱物ワックス、石油化学ワックス等を意味する。具体的には、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木蝋、ベリーワックス、ホホバワックス、シアバター、蜜蝋、セラックワックス、ラノリンワックス、鯨蝋、モンタンワックス、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、合成ポリエチレンワックス、合成ポリプロピレンワックス、合成エチレン−酢酸ビニル共重合体ワックス等が挙げられる。
【0044】
上記にいう界面活性剤とは、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性(非イオン性)界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、反応性界面活性剤等が挙げられる。一般に乳化重合に用いられるもののほか、乳化剤類も含まれる。
【0045】
例えば、アニオン性界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸およびその塩、アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体等のポリオキシエチレン構造を有する化合物や、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のソルビタン誘導体等が挙げられる。両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。反応性界面活性剤としては、アルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩、アリルアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩、アリルジアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩等の、反応性2重結合を有する化合物が挙げられる。
【0046】
離型用シートの基材としては、樹脂材料、紙、合成紙、布、金属材料、ガラス材料等で形成されたものが挙げられる。基材の厚みは、特に限定されるものではないが、通常は1〜1000μmであればよく、1〜500μmが好ましく、1〜100μmがより好ましく、1〜50μmが特に好ましい。
【0047】
基材に用いることができる樹脂材料としては、例えば熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)などのポリエステル樹脂;ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン樹脂;6−ナイロン、ポリ−m−キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)等のポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアクリルニトリル樹脂;ポリイミド樹脂;これらの樹脂の複層体(例えば、ナイロン6/MXD/ナイロン6、ナイロン6/エチレン−ビニルアルコール共重合体/ナイロン6)や混合体等が挙げられる。樹脂材料は延伸処理されていてもよい。樹脂材料は、公知の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などを含んでいてもよい。樹脂材料は、その他の材料と積層する場合の密着性を良くするために、表面に前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等を施したものでもよい。また、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよく、バリア層や易接着層、帯電防止層、紫外線吸収層、接着層などの他の層が積層されていてもよい。
【0048】
特に、基材として樹脂材料を用いる場合、樹脂材料は非常に帯電しやすいことから種々の障害を生じる場合があるため、帯電防止処理されていることが好ましい。帯電防止処理された基材であると、工程フィルムとして使用する場合に、剥離工程において発生する摩擦帯電や剥離帯電により帯びた静電気が大気中のゴミや塵、埃等を吸着することにより生じる製品の欠陥を防止できる。また、粘着剤の保護材料として使用した場合には、剥離帯電により発生した静電気により粘着面に塵や埃が付着して粘着力が低下することを防止できる。
【0049】
帯電防止処理された樹脂材料によって基材を形成した離型用シートは、その表面固有抵抗値が1010Ω/□以下であることが望ましい。表面固有抵抗値が、1010Ω/□よりも大きい場合は、帯電防止性が十分でないため、静電気を帯びやすい。その結果、大気中の塵や埃が付着することにより、製品に欠陥が生じたり、粘着剤の粘着力が低下したりする可能性がある。
【0050】
帯電防止処理された樹脂材料を得る方法としては、樹脂中に帯電防止材料を練りこむ方法、樹脂材料に帯電防止材料を含む層を積層する方法がある。帯電防止材料を含む層を積層する方法が、より低コストで帯電防止処理することができる。
【0051】
帯電防止処理に使用できる帯電防止材料としては、ポリアニリン系、ポリピロール系およびチオフェン系などの導電性高分子;カーボンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボン;酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、酸化スズドープインジウムなどの酸化スズ系超微粒子が挙げられる。基材を構成する樹脂材料に、これらの帯電防止材料を、単体もしくはバインダー樹脂と混合した組成物として、樹脂材料に練りこむ、または液状物として樹脂材料の表面に塗工することにより帯電防止処理することができる。なかでも、透明性に優れることから検査工程における異物の把握が容易になるという点で、酸化スズ系超微粒子の使用が好ましい。
【0052】
酸化スズ系超微粒子の製造方法は、特に限定されない。たとえば、金属スズやスズ化合物を加水分解または熱加水分解する方法や、スズイオンを含む酸性溶液をアルカリ加水分解する方法や、スズイオンを含む溶液をイオン交換膜やイオン交換樹脂によりイオン交換する方法など、何れの方法も用いることができる。
【0053】
上記の帯電防止材料の製造方法は特に限定されるものではなく、市販のものを使用することができ、例えば、ポリピロール分散液としては丸菱油化社製のPPY−12があり、導電性カーボン分散液としてはライオン社製のWS310Aなどがある。酸化スズ超微粒子水分散体として山中化学工業社製 EPS−6、ユニチカ社製 AS11T、AS20Iがある。アンチモンドープ酸化スズ系超微粒子水分散体として、石原産業社製 SN−100Dがある。酸化スズドープインジウム超微粒子として、シーアイ化成社製 ITOがある。
【0054】
帯電防止材料と混合するバインダーとしては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル、ウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブテジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂などが挙げられる。これらは、使用する基材に応じて適宜選択できる。これらの2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
帯電防止層の厚みは、十分な帯電防止性、強度および傷が付きにくい均一な厚さの被膜が得られる0.01〜100μmが好ましく、0.05〜20μmがより好ましく、0.1〜5μmがさらに好ましい。
【0056】
帯電防止処理は、樹脂材料に限定されるものではなく、後述する紙や合成紙、布やガラス材料などにも施されていても良い。
【0057】
基材として用いることができる紙としては、和紙、クラフト紙、ライナー紙、アート紙、コート紙、カートン紙、グラシン紙、セミグラシン紙等を挙げることができる。
【0058】
基材として用いることができる合成紙は、その構造は特に限定されず、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造としては、例えば基材層と表面層の2層構造、基材層の表裏面に表面層が存在する3層構造、基材層と表面層の間に他の樹脂フィルム層が存在する多層構造を例示することができる。各層は、無機や有機のフィラーを含有していてもよいし、含有していなくてもよい。微細なボイドを多数有する微多孔性合成紙も使用することができる。
【0059】
基材として用いることができる布としては、上述した合成樹脂からなる繊維や、木綿、絹、麻などの天然繊維からなる、不織布、織布、編布などが挙げられる。
【0060】
基材として用いることができる金属材料としては、アルミ箔や銅箔などの金属箔や、アルミ板や銅板などの金属板などが挙げられる。
【0061】
基材として用いることができるガラス材料としては、ガラス板やガラス繊維からなる布などが挙げられる。
【0062】
上記樹脂材料を用いた基材には、さらに、紙、合成紙、布、他の樹脂材料、金属材料等を、基材における樹脂層を設ける側とは反対側に積層してもよい。
【0063】
離型用シートにおける樹脂層の厚みは、0.01〜5μmの範囲とすることが好ましく、0.1〜2μmであることがより好ましく、0.2〜1μmであることがさらに好ましく、0.3〜0.7μmであることが特に好ましい。0.01μm未満では十分な離型性が得られず、5μmを超える場合は離型性が低下する場合がある。特に、帯電防止処理された樹脂材料上に樹脂層を形成した場合、樹脂層の厚みが5μmを超えると、十分な帯電防止性が得られず、剥離工程において帯電し、表面に大気中の塵や埃が付着することにより、製品の欠陥および粘着力の低下の原因となる可能性がある。
【0064】
樹脂層表面の濡れ張力は、30mN/m以上であることが好ましく、32mN/m以上であることがより好ましい。濡れ張力が30mN/m未満では、樹脂層上に別のコーティング剤や液状物を積層するのが困難になる場合がある。濡れ張力とは、Zismanによる臨界表面張力を意味する。これは、JIS K6768記載の方法で測定することができる。
【0065】
本発明の離型用シートを使用することによって、離型用シートの樹脂層と被着体としての粘着材料とを加熱圧着した後の、樹脂層と被着体としての粘着材料との間の剥離強度を、10N/50mm巾以下、好ましくは8N/50mm巾以下、より好ましくは7N/50mm巾以下とすることができる。剥離強度が10N/50mm巾を超えると、離型用シートとして使用することが難しい。
【0066】
本発明の離型用シートは、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルアルコールとを含有する液状物を、基材上に塗工したのち乾燥するという製造方法によって、工業的に簡便に得ることができる。
【0067】
酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルアルコールとを含む液状物を製造する方法は、各成分が液状媒体中に均一に混合される方法であれば、特に限定されない。たとえば、次のような方法が挙げられる。
【0068】
(i)酸変性ポリオレフィン樹脂の分散液または溶液に、ポリビニルアルコールの分散液または溶液を添加して混合する方法。
【0069】
(ii)酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルアルコールとの混合物を液状化する方法。
【0070】
上記(i)の方法の場合は、分散液または溶液を適宜混合すればよい。ポリビニルアルコールの分散液または溶液を用いる場合、その溶質濃度は特に制限されるものではない。しかし、取り扱いやすさの点から、5〜10質量%が好ましい。上記(ii)の手法の場合は、酸変性ポリオレフィン樹脂を液状化する際に、ポリビニルアルコールを添加すればよい。
【0071】
また、他の成分を添加する場合においても、(i)または(ii)の製法における任意の段階で添加を行うことができる。
【0072】
酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルアルコールとを含む液状物における溶媒は、基材上への液状物の塗工が可能であれば、特に限定されない。詳細には、水、有機溶剤、あるいは水と両親媒性有機溶剤とを含む水性媒体などが挙げられる。なかでも、環境上、水または水性媒体を使用することが好ましい。液状物がポリビニルアルコールを含む場合は、ポリビニルアルコールの溶解性から、媒体には、水または水性媒体を使用することが好ましい。
【0073】
有機溶剤としては、ジエチルケトン(3−ペンタノン)、メチルプロピルケトン(2−ペンタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、2−ヘキサノン、5−メチル−2−ヘキサノン、2−へプタノン、3−へプタノン、4−へプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、ベンゼン、ソルベッソ100、ソルベッソ150等の芳香族炭化水素類;ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、γ―ブチロラクトン、イソホロン等のエステル類;後述の両親媒性有機溶剤などが挙げられる。
【0074】
本発明において、水性媒体とは、水と両親媒性有機溶剤とを含み、水の含有量が2質量%以上である溶媒を意味する。両親媒性有機溶剤とは、20℃における有機溶剤に対する水の溶解性が5質量%以上である有機溶剤をいう〔20℃における有機溶剤に対する水の溶解性については、例えば「溶剤ハンドブック」(講談社サイエンティフィク、1990年第10版)等の文献に記載されている〕。具体的には、メタノール、エタノール(以下「EA」と略称する)、n−プロパノール(以下「NPA」と略称する)、イソプロパノール(以下「IPA」と略称する)等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル等のエステル類;そのほか、アンモニアを含む、ジエチルアミン、トリエチルアミン(以下「TEA」と略称する)、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン(以下「DMEA」と略称する)、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−ジエタノールアミン等の有機アミン化合物;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなどのラクタム類等を挙げることができる。
【0075】
酸変性ポリオレフィン樹脂を上記のような水性媒体に分散化する方法は、特に限定されないが、例えば、国際公開WO02/055598号に記載されたものが挙げられる。
【0076】
水性媒体中の酸変性ポリオレフィン樹脂の分散粒子径は、他の成分との混合時の安定性および混合後の保存安定性の点から、数平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましい。このような粒径はWO02/055598に記載の製法により達成可能である。
【0077】
本発明で使用される液状物における固形分含有率は、積層条件、目的とする厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではない。しかし、液状物の粘性を適度に保ち、かつ良好な樹脂層を形成させるためには、1〜60質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。
【0078】
液状物を基材に塗工する方法としては、公知の方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等を挙げることができる。これらの方法により液状物を基材の表面に均一に塗工し、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥処理又は乾燥のための加熱処理に供することにより、均一な樹脂層を基材に密着させて形成することができる。
【0079】
本発明の離型用シートは、様々な被着体に対して良好な離型性を有していることから、樹脂層を介して被着体に積層することで、積層体とすることができる。具体的には、粘着材料や液晶ディスプレー用部品などのための保護材料、プリント配線板のプレス工程材料、シート状構造体の成形工程材料などとして、好適に使用できる。
【0080】
粘着材料としては、粘着シート、接着シート、粘着テープ、接着テープなどが挙げられる。より具体的には、基材に粘着剤が積層されたものである。粘着剤の成分や基材は特に限定されない。しかし、粘着剤としては、アクリル系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤から選ばれた少なくとも1種類が挙げられる。粘着剤には、ロジン系、クマロン−インデン系、テルペン系、石油系、スチレン系、フェノール系、キシレン系などの粘着付与剤が含まれていてもよい。基材としては、上述の、紙、布、樹脂材料などが挙げられる。
【0081】
液晶ディスプレー用部品としては、偏光板、位相差偏光板、位相差板などが挙げられる。
【0082】
プリント配線板としては、片面プリント配線板、両面プリント配線板、フレキシブルプリント配線板、多層プリント配線板などが挙げられる。
【0083】
シート状構造体の例としては、パーフロロスルホン酸樹脂などの高分子電解質などからなるイオン交換膜;誘電体セラミックスやガラスなどからなるセラミックグリーンシートなどが挙げられる。これらは、溶媒でペースト状あるいはスラリー状とした原料を、離型用シート上へキャストすることで形成される。
【実施例】
【0084】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0085】
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂の構成
H−NMR分析装置(バリアン社製 GEMINI2000/300、300MHz)により求めた。オルトジクロロベンゼン(d)を溶媒とし、120℃で測定した。
【0086】
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂の融点
樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られた昇温曲線から融点を求めた。
【0087】
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂のビカット軟化点
JIS K7206に記載の方法で測定した。
【0088】
(4)酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)
JIS K6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
【0089】
(5)水性分散体の有機溶剤含有率
島津製作所社製、ガスクロマトグラフGC−8A[FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG−HT(5%)−Uniport HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n-ブタノール]を用い、水性分散体または水性分散体を水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤の含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
【0090】
(6)液状物の固形分濃度
液状物を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱することで、固形分濃度を求めた。
【0091】
(7)酸変性ポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、数平均粒子径を求めた。粒子径算出に用いた樹脂の屈折率は1.57とした。
【0092】
(8)樹脂層の厚み
液状物を基材フィルムにコーティングし、乾燥して樹脂層を積層したフィルム(以下「離型フィルム」という)の全体の厚さを接触式膜厚計により測定し、その測定値から基材フィルムの厚さを減じて、求めた。
【0093】
(9)樹脂層面の濡れ張力
JIS K6768に記載の測定法に準じて、表面張力が順を追って異なるように調整した標準液(エチレングリコールモノエチルエーテル/ホルムアミド)を処理面に塗布し、樹脂層面をぬらすと判定された標準液の表面張力によって示した。
【0094】
(10)剥離強度
得られた離型フィルムの樹脂層側に巾50mm、長さ150mmのポリエステル粘着テープ(日東電工社製、No.31B/アクリル系粘着剤)をゴムロールで圧着して、試料とした。試料を、金属板/ゴム板/試料/ゴム板/金属板の形で挟み、2kPa荷重、70℃の雰囲気で20時間放置し、その後30分以上冷却して常温に戻して、剥離強度測定用試料を得た。この剥離強度測定用試料の、粘着テープと離型フィルムとの剥離強度を、25℃の恒温室で、引張試験機(インテスコ社製、精密万能材料試験機、2020型)にて測定した。剥離角度は180度、剥離速度は300mm/分とした。
【0095】
(11)再粘着性
上記剥離強度試験により離型フィルム表面から剥離した巾50mmのポリエステル粘着テープを、二軸延伸ポリエステル樹脂フィルム(ユニチカ社製「エンブレットPET−12」、厚さ12μm)のコロナ処理面に貼付し、2kPa荷重のもと、室温で20時間放置した。その後、ポリエステル粘着テープとフィルムとの剥離強度(再粘着強度)を、25℃の恒温室で、引張試験機(インテスコ社製、精密万能材料試験機、2020型)にて測定した。剥離角度は180度、剥離速度は300mm/分とした。
【0096】
粘着テープの粘着剤表面が離型フィルムにより汚染された場合、粘着テープの再粘着性が低下し、粘着テープとしての性能を損なう。よって、再粘着強度は高い方が好ましい。
【0097】
(12)離型フィルムの帯電防止性
JIS−K6911に基づき、アドバンテスト社製のデジタル超高抵抗/微小電流計、R8340を用いて、樹脂層の表面抵抗値を、温度23℃、湿度65%雰囲気下で測定した。
【0098】
〔水性分散体E−1〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの「ボンダイン LX−4110」(アルケマ社製、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂)、90.0gのIPA(和光純薬社製)、3.0gのTEA(和光純薬社製)および147.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込んだ。そして、撹拌翼の回転速度を300rpmとし、系内温度を140〜145℃に保って、30分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)した。これによって、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1を得た。
【0099】
〔水性分散体E−2〕
酸変性ポリオレフィン樹脂として「ボンダイン HX−8210」(アルケマ社製、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂)を用い、水性分散体E−1の製造の際と同様の操作を行って、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−2を得た。
【0100】
〔水性分散体E−3〕
酸変性ポリオレフィン樹脂として「ボンダイン HX−8290」(アルケマ社製、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂)を用い、水性分散体E−1の製造の際と同様の操作を行って、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−3を得た。
【0101】
〔水性分散体E−4〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの「プリマコール5980I」(ダウケミカル社製、アクリル酸変性ポリオレフィン樹脂)、16.8gのTEA、および223.2gの蒸留水をガラス容器内に仕込んだ。そして、撹拌翼の回転速度を300rpmとし、系内温度を140〜145℃に保って、30分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)して、微白濁の水性分散体E−4を得た。この際、フィルター上に樹脂は殆ど残っていなかった。
【0102】
液状物E−1〜E−4の製造に使用した酸変性ポリオレフィン樹脂の組成を表1に示す。得られた液状物の組成を表2に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
表1に示すように、液状物E−1に用いた酸変性ポリオレフィン樹脂「ボンダインLX−4110」と、液状物E−2に用いた酸変性ポリオレフィン樹脂「ボンダインLX−8210」と、液状物E−3に用いた酸変性ポリオレフィン樹脂「ボンダインHX−8290」とは、いずれも酸変性成分が1〜10質量%の範囲で、本発明に適合するものであった。これに対し、液状物E−4に用いた酸変性ポリオレフィン樹脂「プリマコール5980I」とは、酸変性成分が10質量%を超えており、本発明に適合しないものであった。
【0106】
実施例1
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1の樹脂固形分100質量部に対して、30質量部のポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製「VC−10」、重合度1,000)を10質量%の水溶液として添加して、液状物を得た。この液状物を、二軸延伸ポリエステル樹脂フィルム(ユニチカ社製「エンブレットPET−12」、厚さ12μm)のコロナ処理面にマイヤーバーを用いてコートした。その後、150℃で90秒間乾燥させて、フィルム上に0.6μmの樹脂層を形成した離型フィルムを得た。
【0107】
なお、以下においては、ポリビニルアルコールを「PVA」と略称する。
【0108】
実施例2〜6
実施例1におけるPVA「VC−10」の添加量を、E−1の樹脂固形分100質量部に対して10質量部(実施例2)、100質量部(実施例3)、300質量部(実施例4)、600質量部(実施例5)、1000質量部(実施例6)となるように、PVA「VC−10」の10質量%水溶液を添加した。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、それぞれ離型フィルムを得た。
【0109】
実施例7
実施例1における酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1の代わりに、E−2を用いた。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、離型フィルムを得た。
【0110】
実施例8
実施例1におけるPVA「VC−10」の代わりに、エチレン変性PVA(クラレ社製、「エクセバール HR3010」、重合度1,000)を用いた。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、離型フィルムを得た。
【0111】
実施例1〜8で得られた各離型フィルムについて、その評価結果を表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
比較例1
二軸延伸ポリエステル樹脂フィルム(ユニチカ社製「エンブレットPET−12」、厚さ12μm)に樹脂層を形成しなかった。そして、同フィルムのコロナ処理面について、剥離強度、再粘着性の評価を行った。
【0114】
比較例2
実施例1に比べて、PVAの添加量が、酸変性ポリオレフィン100質量部に対して1100質量部となるように、PVA「VC−10」の10質量%水溶液を添加した。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、離型フィルムを得た。
【0115】
比較例3
液状物として、酸変性ポリオレフィンを含む水性分散体E−3のみを用いた。換言すると、酸変性ポリオレフィンは含むがポリビニルアルコールを含まない液状物を用いた。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、離型フィルムを得た。
【0116】
比較例4
液状物として、PVA「VC−10」の10質量%水溶液のみを用いた。換言すると、ポリビニルアルコールは含むが酸変性ポリオレフィンを含まない液状物を用いた。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、離型フィルムを得た。
【0117】
比較例5
実施例1における水性分散体E−1に代えて、酸変性成分を20質量%含む酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−4を用いた。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、離型フィルムを得た。
【0118】
比較例6
実施例1におけるPVA「VC−10」に代えて、ポリエチレングリコール(ナカライテスク社製、「ポリエチレングリコール ♯20,000」、分子量15,000〜25,000)の10質量%水溶液を、E−1の固形分100質量部に対して固形分量が30質量部となるように添加した。得られた液状物を用いて、実施例1と同様にしてフィルムにコートを行い、離型フィルムを得た。
【0119】
比較例7
ユニチカ社製のフッ素コートフィルム「FT」を用い、このフィルムには樹脂層を形成
しなかった。そして、同フィルムについて評価を行った。
【0120】
比較例1〜7についての評価結果を、表4に示す。
【0121】
【表4】

【0122】
実施例1〜8のように、酸変性成分の含有量が1〜10質量%である酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルアルコールとを含有した樹脂を積層した離型フィルムは、良好な濡れ性および離型性を示した。すなわち、濡れ張力は32mN/m以上であり、剥離強度は10N/50mm巾以下であった。また、再粘着性評価の結果、樹脂層による粘着面の汚染がないことが確認できた。
【0123】
これに対し、樹脂層を積層していない場合は、離型性は発現しなかった(比較例1)。本発明で規定する範囲を外れる組成比を用いた場合は、離型性は発現しなかった(比較例2〜4)。
【0124】
本発明で規定する変性ポリオレフィン以外の樹脂を用いた場合には、離型性は発現しなかった(比較例5)。
【0125】
本発明で規定する以外の添加剤を用いた場合には、離型性は発現しなかった(比較例6)。比較例6では、剥離強度を測るために装置にセットしようとした時点で、樹脂層と基材のPETフィルムとの界面で剥離してしまった。このため、剥離強度を測ることができなかった。すなわち、基材と樹脂層の密着性が十分でなかった。さらに、粘着テープに塗膜が貼り付いため、再粘着性を測定することもできなかった。
【0126】
比較例7で使用したフッ素コートフィルムは、離型性、再粘着性には優れていたが、濡れ張力に乏しいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に樹脂層が設けられた離型用シートであって、樹脂層が、酸変性成分1〜10質量%の酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ビニルエステルの重合体を完全または部分ケン化してなるポリビニルアルコール5〜1000質量部とを含有することを特徴とする離型用シート。
【請求項2】
樹脂層に含まれる、シリコーン化合物、フッ素化合物、ワックス類および界面活性剤の合計含有量が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部以下であることを特徴とする請求項1記載の離型用シート。
【請求項3】
アクリル系粘着剤を用いた粘着材料を樹脂層に貼り付けて測定したときの樹脂層と粘着剤との間の剥離強度が10N/50mm巾以下であることを特徴とする請求項1に記載の離型用シート。
【請求項4】
基材が、樹脂材料、紙、合成紙、布、金属材料、ガラス材料のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の離型用シート。
【請求項5】
粘着材料に対して使用されるものであることを特徴とする請求項1に記載の離型用シート。
【請求項6】
粘着材料が、アクリル系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤から選ばれる少なくとも1種類の粘着剤を積層したシートまたはテープであることを特徴とする請求項5に記載の離型用シート。
【請求項7】
プリント配線板、偏光版、位相差板のいずれかに対して使用されるものであることを特徴とする請求項1に記載の離型用シート。
【請求項8】
シート状構造体の成形に使用されるものであることを特徴とする請求項1に記載の離型用シート。
【請求項9】
基材が帯電防止処理された樹脂材料であることを特徴とする請求項1に記載の離型用シート。
【請求項10】
表面抵抗値が1010Ω/□以下であるとともに、アクリル系粘着剤を用いた粘着材料を樹脂層に貼り付けて測定したときの樹脂層と粘着剤との間の剥離強度が10N/50mm巾以下であることを特徴とする請求項9に記載の離型用シート。
【請求項11】
酸変性成分1〜10質量%の酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ビニルエステルの重合体を完全または部分ケン化してなるポリビニルアルコール5〜1000質量部とを含有する液状物を、基材上に塗工したのち乾燥することを特徴とする離型用シートの製造方法。
【請求項12】
含まれる液状媒体が水性媒体である液状物を用いることを特徴とする請求項11に記載の離型用シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−245786(P2012−245786A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−162189(P2012−162189)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【分割の表示】特願2009−528943(P2009−528943)の分割
【原出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】