説明

離席検知システム

【課題】 椅子における着座に伴う人の動きや椅子のフレームの微小な変形を非接触で測定して着座の有無を判定し、荷重を受けずトラブルや劣化が生じにくい離席検知システムを提供する。
【解決手段】 椅子に座った人に向けて、センサ部11から電磁波を送信し、人で反射した反射波を同じセンサ部11で受信すると、このセンサ部11からの信号を入力される判定処理部12が、人の着座や椅子から離れる等の動きに伴う反射面91の存否やセンサ部11と反射面91との間隔変化に応じて変わる信号の、所定の閾値を超える変化から椅子に人が着座しているか否かを判定し、離れた箇所の管理者等に、人が椅子から離れた状態を通知可能となることから、椅子に座っている人に対し非接触で着座の有無を検出でき、また検出のために荷重を受けて動くような可動部分も存在せず、検出機構のトラブルや劣化が生じにくく、長期にわたり離席検出性能を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子に座った人が椅子から離れる状況を検知可能とする離席検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療施設や介護・福祉施設等において、看護や介護の対象者が、通常は車椅子に座った状態で移動するものの、椅子から立上がる身体機能を失っていない場合、看護や介護の担当者が対象者の側を離れるなど対象者への対応ができない間に、対象者が誤って椅子から離れて転倒し、怪我をする危険がある他、対象者が認知症患者の場合、椅子を離れて徘徊するなどの事例があり、対象者の車椅子からの離席あるいはその予兆を自動的に検知して担当者に報知し、転倒を未然に防いだり、徘徊等にすぐに対応できるようにすることが求められている。
【0003】
こうした車椅子上の人が車椅子から離れた状態又は離れようとする状態を検知する装置は従来から多数提案されており、そうした装置の例として、車椅子の座面部分に人の着座状態を検知するセンサやスイッチを配設し、座面部分への着座の有無から離席を検知するタイプの装置が、特開2002−126007号公報や特開2005−81053号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−126007号公報
【特許文献2】特開2005−81053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の検知装置は前記各特許文献に示される構成とされ、人からの荷重を直接センサやスイッチで受けて人の着座を検知することで、離席検出を確実に行えるものの、センサやスイッチが直接荷重を受ける構造であるため、車椅子が使用される間、センサやスイッチ部分が人から繰返し荷重を受けることで劣化、損傷しやすい上、外部の電子回路と電気的に接続するケーブルのセンサやスイッチとの連結部分には特にストレスが加わることとなり、ケーブルに断線等のトラブルが生じやすいという課題も有していた。また、こうしたセンサやスイッチは使用中にずれる場合があり、その際は人が着座状態であるにもかかわらず、着座を検知していない状態となるなど誤作動して、間違った検出結果を報知し、かえって管理負担を増大させてしまう危険性を有するという課題を有していた。
【0006】
さらに、センサやスイッチで荷重を受けて着座を検知する仕組みであることで、椅子の座部に人の代りに荷物等が載せられた場合も、人の着座状態と見なしてしまい、実際には人が椅子から離れているのにまだ着座していると誤判断する危険性もあるという課題を有していた。
【0007】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、椅子における人の着座に伴う人の動きや椅子のフレームの微小な変形を非接触で測定して着座の有無を判定し、荷重を受けずトラブルや劣化が生じにくく、長期にわたり機能を維持できる離席検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る離席検知システムは、椅子の所定箇所又は椅子外の構造物に配設され、着座状態では人が存在する椅子上の部位に向けて電磁波を送信すると共に、人が着座状態の場合に人の反射面で反射して戻る反射波を受信して、人の着座した状態と椅子から離れた状態とで変化する信号を出力するセンサ部と、当該センサ部からの信号を入力され、当該信号が所定の閾値を挟んで変化する状態から、椅子に人が着座した状態と椅子から人が離れた状態とをそれぞれ判定する判定処理部とを備えるものである。
【0009】
このように本発明によれば、椅子に座った人に向けて、この椅子の所定箇所又は椅子外の部位に配設したセンサ部から電磁波を送信し、人で反射した反射波を同じセンサ部で受信すると、このセンサ部からの信号を入力される判定処理部が、人の着座や椅子から離れる等の動きに伴う反射面の存否やセンサ部と反射面との間隔変化に応じて変わる信号の、所定の閾値を超える変化から椅子に人が着座しているか否かを判定し、離れた箇所の管理者等に椅子に座っていた人が椅子から離れた状態を通知可能となることにより、椅子に座っている人に対し非接触で着座の有無を検出でき、また検出のために荷重を受けて動くような可動部分も存在せず、検出機構のトラブルや劣化が生じにくく、長期にわたり離席検出性能を維持できる。
【0010】
また、本発明に係る離席検知システムは、椅子に人が着座することに伴って微小な変形を生じる椅子の所定箇所に対し、ほぼ静止状態を維持する椅子外の構造物に配設され、前記椅子の所定箇所に向けて送信した送信波が椅子の所定箇所における反射面で反射して戻った反射波を受信して、前記椅子の所定箇所の変形に伴う反射面との間隔の変化に対応して変化する信号を出力するセンサ部と、当該センサ部からの信号を入力され、当該信号が所定の閾値を挟んで変化する状態から、椅子に人が着座した状態と椅子から人が離れた状態とをそれぞれ判定する判定処理部とを備えるものである。
【0011】
このように本発明によれば、椅子に人が着座するのに伴い変形が生じる椅子の所定箇所に向けて、この椅子の所定箇所に対して静止しているか静止していると見なせる部位に配設したセンサ部から所定の送信波を送信し、椅子の所定箇所で反射した反射波を同じセンサ部で受信すると、このセンサ部からの信号を入力される判定処理部が、椅子の所定箇所の変形によるセンサ部と反射面との間隔変化に応じて変わる信号の、所定の閾値を超える変化から椅子に人が着座しているか否かを判定し、離れた箇所の管理者等に椅子に座っていた人が椅子から離れた状態を通知可能となることにより、椅子に座っている人に対し非接触で着座の有無を検出でき、また検出のために荷重を受けて動くような可動部分も存在せず、検出機構のトラブルや劣化が生じにくく、長期にわたり離席検出性能を維持できる。さらに、椅子所定箇所の変形に応じて変化するセンサ部からの信号を継続的に入力されることで、判定処理部で信号変化を監視すれば、椅子に人が着座して活動している状態を捉えることができ、離席検出以外への応用も図れる。
【0012】
また、本発明に係る離席検知システムは、椅子に人が着座することに伴って微小な変形を生じる椅子の所定箇所に配設され、当該所定箇所に対しほぼ静止状態を維持する椅子外の構造物に向けて送信した送信波が椅子外構造物における反射面で反射して戻った反射波を受信して、前記所定箇所の変形に伴う反射面との間隔の変化に対応して変化する信号を出力するセンサ部と、当該センサ部からの信号を入力され、当該信号が所定の閾値を挟んで変化する状態から、椅子に人が着座した状態と椅子から人が離れた状態とをそれぞれ判定する判定処理部とを備えるものである。
【0013】
このように本発明によれば、椅子に人が着座するのに伴い変形が生じる椅子の所定箇所にセンサ部を配設し、このセンサ部から静止しているか静止していると見なせる部位に向けて所定の送信波を送信し、反射面で反射した反射波を同じセンサ部で受信すると、このセンサ部からの信号を入力される判定処理部が、椅子所定箇所の変形に伴って変化する信号の、所定の閾値を超えた変化から椅子に人が着座しているか否かを判定し、離れた箇所の管理者等に椅子に座っていた人が椅子から離れた状態を通知可能となることにより、椅子に座っている人に対し非接触で着座の有無を検出でき、また検出のために荷重を受けて動くような可動部分も存在せず、検出機構のトラブルや劣化が生じにくく、長期にわたり離席検出性能を維持できる。さらに、椅子所定箇所の変形に応じて変化するセンサ部からの信号を継続的に入力されることで、判定処理部で信号変化を監視すれば、椅子に人が着座して活動している状態を捉えることができ、離席検出以外への応用も図れる。
【0014】
また、本発明に係る離席検知システムは必要に応じて、前記判定処理部が、人が着座する状態と椅子から離れた状態とを判定するための閾値を、前記センサ部と着座状態の人との間隔に合せて調整するものである。
【0015】
このように本発明によれば、椅子に人が着座している状態での人とセンサ部との間隔が、人の椅子への座り方の差異に伴って変化するのに対応させて、センサ部から出力される信号について、判定処理部で着座していないと判定する閾値を椅子に座る人とセンサ部との間隔に合せて変化させ、椅子に座った人に合った椅子への着座状態と椅子から離れた状態の検出感度を得ることにより、椅子を利用する人が変っても、閾値の調整を経て高精度な離席状態の判定が行え、椅子利用者の座り方の相違に基づく誤った離席検出を防止できる。
【0016】
また、本発明に係る離席検知システムは必要に応じて、前記判定処理部が、人が着座する状態と椅子から離れた状態とを判定するための閾値を、椅子に座る人の体重に合せて調整するものである。
【0017】
このように本発明によれば、椅子に人が着座している状態での椅子所定箇所の変形量が、人の体重の差異に伴って変化するのに対応させて、センサ部から出力される信号について、判定処理部で着座していないと判定する閾値を椅子に座る人の体重に合せて変化させ、椅子に座った人に合った椅子への着座状態と椅子から離れた状態の検出感度を得ることにより、椅子を利用する人が変っても、閾値の調整を経て高精度な人の着座の有無の判定が行え、椅子利用者の体重の相違に基づく誤った離席検出を防止できる。
【0018】
また、本発明に係る離席検知システムは必要に応じて、前記センサ部が、人が着座している状態での人の動きに応じて変化する信号を出力し、前記判定処理部が、前記センサ部からの信号の経時変化を監視し、信号に所定時間変化がない状態を、人が椅子から離れた状態を含む異常状態と判定するものである。
【0019】
このように本発明によれば、椅子に座っている人の動きが反映されるセンサ部からの信号を判定処理部で継続的に監視し、信号が所定時間 (例えば1〜数秒など)変化しない場合には、判定処理部は椅子に座っていた人が椅子を離れてその動きを識別できなくなったか、呼吸等を含め全く動いていない異常状態と判定し、離れた箇所の管理者等にこうした状態を通知可能とすることにより、人は椅子にじっと座った状態でも呼吸等に伴う何らかの動きを生じることを利用して、椅子上で人が動かなくなった状態を確実に検知し、離席等に対し早期に対策をとることができ、異常状態のまま放置する事態を防止できる。
【0020】
また、本発明に係る離席検知システムは必要に応じて、人が実際に椅子から離れた場合における、離席の直前での人の動きに応じた前記センサ部からの信号に生じる変化を、椅子から離れた行動と関連付けた行動情報としてあらかじめ所定の記録手段に記録し、前記判定処理部が、人が着座している状態でセンサ部からの信号を前記行動情報と照合して、当該行動情報に信号の変化が合致している場合には、椅子に座った人の離席が予想されると判定するものである。
【0021】
このように本発明によれば、椅子に座っていた人の離席直前における椅子から離れようとする動きに対応するセンサ部からの信号の変化状態を、椅子から離れた行動と関連付けて記録し、この記録された行動情報にセンサ部からの信号の変化が合致すると、判定処理部が人の離席が予想される状態であると判定し、離れた箇所の管理者等にこうした状態を通知可能となることにより、椅子に座っている人の動きが離席の前兆か否かを適切に判別して離席の予想が行え、離席を予想した時点で管理者等への通知を実行すれば、離席の前に何らかの対策が可能となり、より迅速な対応で離席に伴う転倒等の事故や徘徊を確実に防止できる。
【0022】
また、本発明に係る離席検知システムは必要に応じて、前記判定処理部が、人が着座する状態と椅子から離れた状態の判定結果を、判定時刻と共に所定の記録手段に記録して蓄積し、椅子に座る人の離席パターン情報とするものである。
【0023】
このように本発明によれば、判定処理部における椅子に人が着座している状態と椅子から離れた状態の判定結果をその判定時刻と合せて記録、蓄積し、離席パターン情報として椅子に座る人の行動の把握に利用可能とすることにより、人が平常状態で行うパターン化された椅子から離れる行動、すなわち、ほぼ一定の時刻や時間間隔で行われる離席行動を把握でき、これと徘徊等の突発的な離席行動とを区別して取扱えることとなり、人の離席行動のうち徘徊につながる危険性の高いものに対して十分な対応が可能になると共に、徘徊に該当しない行動を適切に識別して管理者の管理負担を軽減できる。
【0024】
また、本発明に係る離席検知システムは必要に応じて、前記センサ部が、マイクロ波帯域の電磁波を送信し、前記反射面で反射した反射波を受信して、センサ部と反射面との間隔変化に伴って変化する反射波の位相に応じて振幅の変化する信号を出力するものとされてなり、送信波の位相が90°ずれている二つの前記センサ部の組合せを一又は複数組配設するものである。
【0025】
このように本発明によれば、人の呼吸等に伴う動き量や着座に伴う椅子所定箇所の変形量よりわずかに大きい1/8波長となる周波数帯域を含むマイクロ波帯域の電磁波がセンサ部から送信され、反射面で反射した反射波をセンサ部が受信する中で、電磁波の1/8波長より小さい範囲でのセンサ部と反射面との間隔変化が生じると、センサ部から反射面を経て再びセンサ部に達する電磁波の行程が電磁波の1/4波長より小さい範囲で変化するのに対応して、受信される反射波の位相がずれ量を特定可能な範囲(例えば、90°以内)でずれ、この反射波のずれた位相に対応してセンサ部が信号の振幅を変化させて出力することに加え、送信波の位相を90°ずらした二つのセンサ部を一組とし、各センサ部で受信する反射波に基づき出力される信号振幅を、位相を90°ずらした分異ならせることにより、反射面に対しての各センサ部の位置を適宜決定して配設し、実際の使用時における反射面位置の相対変化に伴って、一方のセンサ部で受信する反射波の信号振幅が仮に最大値近くでほとんど変化しない状態であったとしても、位相をずらした他方のセンサ部では反射波の信号振幅の大きく変化する状態が得られることとなり、この振幅の変化からセンサ部と反射面との間隔変化を容易に検知でき、椅子に座っている人の椅子から離れる動きをセンサ部からの信号振幅の変化として確実に捉えられ、センサ部位置を適宜設定しても、いずれかのセンサ部から常に信号の変化を適切に取得でき、初期設定の手間をかけずに、離席をはじめとする椅子に座っている人の動きを高い精度で検出できる。
【0026】
また、本発明に係る離席検知システムは必要に応じて、前記センサ部が、前記反射面との間に介在して電磁波が伝播する一又は複数の媒質の性質に応じて、電磁波の送信部及び/又は受信部の指向性を調整可能とされるものである。
【0027】
このように本発明によれば、センサ部の送信する電磁波の伝播する媒質の状態に応じて、センサ部の送信及び又は受信する電磁波の指向性を調整し、送信した電磁波が反射面で反射してセンサ部に到達するまでの行程を最適化したものとすることにより、センサ部と反射面との中間の媒質が電磁波を透過させにくいものの場合には、指向性を狭くして限定された向きへの透過性を高め、反射波のセンサ部への到達を確保し、また媒質が電磁波を透過させやすいものの場合には、指向性を広くして反射波を得られる範囲を広げるなど、媒質に合わせた指向性の設定で反射波のセンサ部への到達確率を高めて、センサ部から出力する信号が椅子に座っている人の動きに対応して変化する状態を確実に得られ、判定処理部で信号を用いて正確な判定が行え、離席をはじめとする椅子に座っている人の動きをより精度よく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る離席検知システムのブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る離席検知システムを用いる車椅子の正面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る離席検知システムを用いる車椅子の側面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る離席検知システムを用いる車椅子における人が浅く腰掛けた状態の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る離席検知システムにおけるセンサ部からの信号の振幅変化状態説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る離席検知システムにおける他のセンサ部を用いる場合のブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る離席検知システムにおける二つのセンサ部配設状態説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る離席検知システムのブロック図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る離席検知システムを用いる車椅子の側面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る離席検知システムにおける二つのセンサ部配置状態説明図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る離席検知システムのブロック図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る離席検知システムを用いる車椅子の正面図である。
【図13】本発明の離席検知システムにおける背もたれ部後側のセンサ部からの信号の変化を示すグラフである。
【図14】本発明の離席検知システムにおけるフレームのセンサ部からの信号の変化を示すグラフである。
【図15】本発明の離席検知システムにおける床面のセンサ部からの信号の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る離席検知システムを前記図1ないし図6に基づいて説明する。
前記各図において本実施形態に係る離席検知システム1は、車椅子60の背もたれ部61に配設されるセンサ部11と、このセンサ部11からの信号を入力されて、車椅子60に人が着座した状態と車椅子60から離れた状態とを判別する判定処理部12と、この判定処理部12で車椅子60から人が離れた状態であると判定された場合に、所定の管理者に離席を通知する報知手段13とを備える構成である。
【0030】
前記センサ部11は、車椅子60の背もたれ部61の後側位置(図2、図3参照)に着脱自在に配設され、着座状態では人が存在する車椅子60の背もたれ部61前方で且つ座部62上方の部位に向けて、背もたれ部61を介してマイクロ波帯域の電磁波を送信すると共に、この電磁波が背もたれ部61で反射して戻る反射波を受信し、また人の着座状態の場合には人90の背中である反射面91で反射して戻る反射波も受信し、反射面91の存否や人90の動きに伴って人90の着座した状態と車椅子60から離れた状態とで変化する信号を出力する構成である。
【0031】
このセンサ部11は、車椅子60に座る人が自ら静止している状態でも生じる呼吸等に伴う動きの量(数百μm〜数mm程度)より1/8波長がわずかに大きくなる電磁波(例えば周波数約24GHz、波長約12mm)を送信しており、人の反射面82aで反射した反射波を受信すると、センサ部11と反射面91との間隔変化に伴って変化する反射波の位相に応じて、振幅の変化する信号を出力する。
【0032】
詳細には、このセンサ部11は、図1に示すように、人90に向けて電磁波を送信する送信アンテナ部11aと、この送信アンテナ部11aから送信される電磁波を発生させる発振部11bと、反射波を受信する受信アンテナ部11cと、発振部11bで発生したマイクロ波を送信波と参照波成分に分離するカプラー11dと、受信アンテナ部11cで受信した反射波とカプラー11dを経た参照波とから差周波数(中間周波数)の信号を得るミキサ部11eとを備える構成である。中間周波数の信号では、反射波と参照波との干渉(ホモダイン干渉)により、反射波の位相ずれ量に応じた振幅(位相ずれ量Δφに対し、振幅はcosΔφ又はsinΔφに比例した値となる)が生じることとなる。
【0033】
センサ部11は、送信波の1/8波長より小さい範囲での反射面91の移動に伴って反射波の位相がずれる場合に、この位相ずれに対応して、出力される信号の振幅の大きさが変化するものであればよく、例えば送信される電磁波の1/8波長が人90の微動の範囲(数ミリ以下)に相当するマイクロ波帯域のドップラセンサ等をそのまま流用することができる。
【0034】
また、センサ部11としては、中間周波数の信号を一つのみ出力するものの他に、いわゆるIQ出力としてsin成分とcos成分の二つの信号を出力するもの(図6参照)を用いることもでき、二つの信号のうち反射波の位相ずれ量に応じた振幅が適切に現れる方を選択して利用でき、人の動きに応じた人の反射面位置の変化に伴って、一方の信号の振幅が仮に最大値近くでほとんど変化しない状態であったとしても、他方の信号では振幅の大きく変化する状態が得られることで、椅子に座る人の動きをいずれかの信号の振幅変化として確実に捉えられ、センサ部の位置を適宜設定しても、常に人の動きに応じた信号の変化を取得でき、離席を含む人の動きを高い精度で検出できる。さらに、判定処理部で二つの信号の解析を行えば、人の微小な動きに対応する微小な位相ずれも求めることができ、特に、sin成分とcos成分からtan成分を求め、このtan成分から位相ずれ量を算出できるため、送信波の1/8波長を大きく超えるような反射面の移動を生じるような人の動きについても適切に把握できる。この二つの信号を出力する場合についても、IQ出力タイプのマイクロ波帯域のドップラセンサ等をそのまま流用することができる。
【0035】
なお、センサ部11から出力される中間周波数の信号の振幅は、送信波の位相やセンサ部11と反射面91の間隔により種々の変化を示し、人90が車椅子60に座ろうとしたり車椅子60から離れようとしたりして動く過渡的な状況では激しい振幅変化が生じる。一方、人が車椅子60に完全に座っている状態では、動きが少なくなる分、振幅変化の度合が小さくなり、車椅子60から離れた状態の振幅値を基準として、これより正側か負側に大きくずれた振幅値があまり変化せずに、人が座っている間中継続してあらわれることとなる(図5参照)。この人90が座っている状態での略一定の振幅値の、車椅子60から離れた状態の振幅値に対するずれの正負は、送信波の位相やセンサ部11と反射面91の間隔により決る。
【0036】
こうしたセンサ部11として、ドップラセンサのような干渉で位相変化を振幅変化に変換して出力するものを用いているが、これに限られるものではなく、直接変位(距離)を信号強度に変換できるものを用いてもよい。また、位相変化を信号の振幅の変化として出力するものに限らず、信号の周波数を変化させて出力するものとし、これに対応した判定処理部を用いる構成とすることもできる。
【0037】
センサ部11は、車椅子60の背もたれ部61の後側に取付けられる(図3参照)ことで車椅子60に座った人90が誤って接触することもなく、こうした接触が原因となる破損等のトラブルを回避できることに加え、離席検出のための可動部分は存在せず、且つ検出に際し車椅子60に座った人に対し非接触状態を保つことから、離席検出性能の劣化が生じにくく、性能を長期にわたって維持できる。
【0038】
なお、センサ部11の上面には、上方から水等の液体がかかっても各アンテナ部をはじめとするセンサ部11の動作に悪影響を与えないようにする、シート状やフィルム状等のカバーを配設する構成とすることもできる。こうしたカバーとしては、送受信される電磁波の減衰量が小さく、且つ疎水性の高いフッ素樹脂等のフィルム材を用いるのが好ましい。
【0039】
前記判定処理部12は、センサ部11からの信号を入力され、この信号が所定の閾値を挟んで変化する状態(図5参照)から、車椅子60に人が着座した状態と車椅子60から人が離れた状態とを判別するものである。
【0040】
詳細には、判定処理部12は、人の動きに伴うセンサ部11と反射面91との間隔の変化に対応して変化する信号の振幅を監視し、車椅子60に人が座った状態と車椅子60から人が離れた状態とで大きく異なる振幅値に基づいて設定された閾値を用いて、この閾値を超える信号振幅の変化から車椅子60における人90の着座の有無を判定し、人が離れた状態と判定した場合は報知手段13を作動させて、この車椅子60から離れた箇所の管理者等に人90の離れた状態を通知可能とする仕組みである。
【0041】
この判定処理部12では、車椅子60に人が座った状態でのセンサ部11と反射面91との間隔が、人の座部62への座り方(座部に浅く腰掛けるか、深く腰掛けるか)により変化するのに対応させて、センサ部11から入力される信号について、車椅子60に人が座った状態と車椅子60から離れた状態を判別するための閾値を、車椅子60上の人の座り方に合せて調整している。例えば、車椅子60の座部81に深く腰掛ける(センサ部との間隔が小さくなる)人の場合(図3参照)には、閾値も人90が車椅子60から離れた状態における信号の振幅値との差が大きくなるようにし、逆に、車椅子60の座部81に浅く腰掛ける(センサ部との間隔が大きくなる)人の場合(図4参照)には、閾値も人90が車椅子60から離れた状態における信号の振幅値との差が小さくなるようにして、車椅子60への人の座り方に合った離席検出感度を得ている。これにより、車椅子60を利用する人が変っても、閾値の調整を経て高精度な着座の有無の判定が行え、椅子利用者の変化の前後で座り方が異なることに基づく誤った離席検出を防止できる。
【0042】
この判定処理部12は、そのハードウェア構成として、CPUやメモリ、入出力インターフェース等を備えるコンピュータとなっており、メモリ等に格納されるプログラムにより、コンピュータを判定処理部12として動作させる仕組みである。この判定処理部12をなすコンピュータは、CPUやメモリ、ROM等を一体的に形成されたマイクロコンピュータとしてもかまわない。
【0043】
前記報知手段13は、判定処理部12での人が車椅子60から離れた状態の判定を受けて、この人の離れた状態を車椅子60から離れた箇所の管理者等に報知するものであり、光や画像表示、警報音、音声等を出力して報知対象者の視覚や聴覚等に訴えて状態変化の通知を行う公知の装置であり、詳細な説明を省略する。
【0044】
次に、本実施形態に係る離席検知システムの動作について説明する。前提として、センサ部11は、車椅子60に人が座っていない状態で背もたれ部61の後側に取付けられているものとする。
【0045】
システムが起動すると、センサ部11が、発振部11bで発生させたマイクロ波帯域の連続する正弦波である電磁波を、送信アンテナ部11aから背もたれ部61越しに背もたれ部61前方で且つ座部62上方の人90が位置することとなる空間に向けて送信する。人90が車椅子60から離れて着座していない状態では、背もたれ部61を透過した電磁波は、そのほとんどがセンサ部11に到達できず、センサ部11で受信される電磁波は、背もたれ部61で反射される分を含むごく一部に限られ、また受信状態の変化もほとんどない。
【0046】
車椅子60に介護対象者等の人90が座ると、センサ部11の送信アンテナ部11aから送信され、背もたれ部61を透過した電磁波は、人90の背中の反射面91に達し、この反射面91で反射した反射波がセンサ部11の受信アンテナ部11cで受信される。
【0047】
センサ部11では、受信アンテナ部11cで受信した反射波と、発振部11bで発生しカプラー11dを経た、送信波と同じマイクロ波(参照波)とから、ミキサ部11eで中間周波数の信号が得られる。ここで得られた信号は、反射波と参照波との干渉により、反射波の位相のずれに応じて振幅の変化する信号となる。人が座っている状態では、人が車椅子60から離れていた状態に対し、人90の反射面91が存在してこの反射面91からの反射波がセンサ部11で受信されることから、人が座っている状態の信号は、人が車椅子60から離れていた状態の信号に対し、大きく異なるものとなり、こうしてセンサ部11で得られた振幅の変化した信号が判定処理部12へ出力される。
【0048】
判定処理部12では、センサ部11から入力された信号の振幅が、閾値を超えて人の着座した状態と見なせる範囲にあることから、車椅子60に人が着座した状態と判定し、そのままセンサ部11からの信号の監視を継続する。
【0049】
その後、車椅子60に座っていた人90が車椅子60を離れると、人90が背もたれ部61の前方から存在しなくなり、背中の反射面91が無くなることで、電磁波の反射状態が変り、センサ部11で反射波と参照波から得られる中間周波数の信号振幅も人90が座っていた状態から大きく変化する。ただし、背もたれ部61に取付けられたセンサ部11に対し、反射面の位置変化もなくなることで、センサ部11で受信される背もたれ部61からの反射波の位相は、ずれ量の変化がほとんどなく、センサ部11で得られる信号の振幅変化はほとんど見られず、この振幅がほぼ一定の信号が判定処理部12へ出力されるようになる。
【0050】
判定処理部12では、センサ部11から入力された信号の振幅が、車椅子60に人90が着座した状態と見なせる範囲から閾値を超えて人90が車椅子60から離れた状態と見なせる範囲に変化することを受けて、車椅子60から人が離れた状態と判定し、報知手段13を作動させる。こうして、報知手段13が、車椅子60から人の離れた状態を、この車椅子60から離れた箇所の管理者等に光や警報音等で通知することで、管理者等は人90の車椅子60から離れた状態を認識して何らかの対応が可能となる。
【0051】
なお、車椅子60に人90が座っている状態では、人90が仮に静止していても、呼吸等に伴ってわずかな動きが生じており、背もたれ部61に取付けられたセンサ部11に対し、人90の背中の反射面91が位置変化してセンサ部11と反射面91との間隔が変化する。センサ部11から送信される電磁波の周波数は、人90の呼吸等に伴うわずかな動き量がこの電磁波の1/8波長より小さい範囲に収るように設定されており、電磁波の1/8波長より小さい範囲で人が動き、センサ部11と反射面91の間隔変化が生じると、センサ部11から反射面91に至り再びセンサ部11に達する電磁波の行程が1/4波長より小さい範囲で変化して、受信される反射波の位相がずれ量を特定可能な範囲(90°以内)でずれるなど、人のわずかな動きでも反射波の位相のずれが確実に生じることとなる。
【0052】
この反射波と参照波から得られる中間周波数の信号は、反射波の位相のずれに応じて振幅の変化する信号となっていることで、信号の振幅の変化は、センサ部11と反射面91の間隔変化、すなわち人の動きをあらわすものとなる。人90が座っている状態の信号は、このような人の動きに伴う変化により、人90が車椅子60から離れた状態の信号に対し、変化に富んだものとなり、明らかな差異を示す。
【0053】
判定処理部12は、このように車椅子60に人90が座っている状態では、人のわずかな動きによって、センサ部11からの信号が絶えず振幅の変化するものとなることを利用して、センサ部11から入力された信号に、時間の経過に伴って振幅の変化が生じているか監視し、信号に変化が生じている場合は車椅子60に人90が着座した状態と判定する一方、所定の時間(例えば、1ないし数秒間)信号に変化のない場合には、人90が車椅子から離れた状態と判定する処理を実行することもでき、これを信号の振幅と閾値との比較によって人90が車椅子60に着座した状態と車椅子60から離れた状態とをそれぞれ判定する手法と組合わせれば、こうした着座の有無の判定精度をさらに向上させることができる。
【0054】
また、判定処理部12で、人90が座っている状態で変化する信号を継続的に監視し、人90が車椅子60に着座した状態と車椅子60から離れた状態とを判定するのと並行して、信号の経時変化を人の動き情報として所定時間(例えば、1日)単位で検証し、人が車椅子60に座っていても正常な活動状態であれば何らかの動きを生じることに基づいて、信号に所定時間変化がない場合には、判定処理部12が車椅子60に座っている人に動きの見られない異常状態と判定し、報知手段13を作動させるようにすることもできる。
【0055】
この場合、離席検出の場合と同様に、報知手段13が、車椅子60上の人の異常状態を離れた箇所の管理者に光や警報音等で通知することで、管理者は車椅子60上の人が体調の異常等により動かなくなった状態を確実に知って、早期に何らかの対応をとることができ、人が全く動かない異常状態のまま誰にも知られず車椅子60に放置される事態を防止できる。
【0056】
このように、本実施形態に係る離席検知システムは、車椅子60に座った人90に向けて、この車椅子60の背もたれ部61に配設したセンサ部11から電磁波を送信し、人90で反射した反射波を同じセンサ部11で受信すると、このセンサ部11からの信号を入力される判定処理部12が、人の着座や車椅子60から離れる等の動きに伴う反射面の存否やセンサ部11と反射面との間隔変化に応じて変わる信号の、所定の閾値を超える変化から車椅子60に人が着座しているか否かを判定し、離れた箇所の管理者等に車椅子60に座っていた人が車椅子60から離れた状態を通知可能となることから、車椅子60に座っている人に対し非接触で着座の有無を検出でき、また検出のために荷重を受けて動くような可動部分も存在せず、検出機構のトラブルや劣化が生じにくい上、車椅子60の背もたれ部61にセンサ部11が取付けられることで、車椅子60上の人が誤ってセンサ部11に接触することもなく、こうした接触が原因となる破損等のトラブルも回避でき、長期にわたり離席検出性能を維持できる。
【0057】
なお、前記実施形態に係る離席検知システムにおいて、センサ部11は使用にあたり特に調整等を行わずに、車椅子60の背もたれ部61に取付けて用いる構成としているが、これに限らず、椅子に座る人とセンサ部との間に介在して電磁波が伝播する媒質の一つとなる背もたれ部の、電磁波の透過させやすさに応じて、センサ部における送信アンテナ部や受信アンテナ部の指向性を調整可能とする構成とすることもでき、例えば、背もたれ部が電磁波を透過させにくいものの場合には、指向性を狭くして限定された向きへの透過性を高め、反射波のセンサ部への到達を確保し、また背もたれ部が電磁波を透過させやすいものの場合には、指向性を広くして反射波を得られる範囲を広げるなど、媒質としての背もたれ部の状態に合わせた指向性の設定で反射波のセンサ部への到達確率を高めて、センサ部から出力する信号が椅子に座っている人の動きに対応して変化する状態を確実に得られ、判定処理部で信号を用いて正確な判定が行え、離席をはじめとする椅子に座っている人の動きをより精度よく検出できる。
【0058】
また、前記実施形態に係る離席検知システムにおいては、センサ部11を一つ用いる構成としているが、これに限らず、図7に示すように、位相ずれに対応して信号の振幅を変化させて出力する前記実施形態同様のセンサ部15、16を、送信波の位相を90°ずらした二つを一組として、背もたれ部61後側における人の着座状態で反射波の位相ずれがほぼ同様となるような箇所にそれぞれ配設し、各センサ部15、16で受信する反射波に基づき出力される信号振幅を、位相を90°ずらした分異ならせる構成とすることもでき、実際の使用時における人の動きに応じた人の反射面位置の変化に伴って、一方のセンサ部15からの信号振幅が仮に最大値近くでほとんど変化しない状態であったとしても、位相を90°ずらした他方のセンサ部16では信号振幅の大きく変化する状態が得られることとなり、この振幅の変化からセンサ部16と人の反射面91との間隔変化を容易に検知でき、椅子に座る人の動きをセンサ部15、16からの信号振幅の変化として確実に捉えられ、各センサ部15、16の位置を適宜設定しても、いずれかのセンサ部から常に人の動きに応じた信号の変化を取得でき、初期設定の手間をかけずに、離席をはじめとする椅子上における人の動きを高い精度で検出できる。
【0059】
また、前記実施形態に係る離席検知システムにおいて、判定処理部12では、人90が車椅子60に着座した状態と車椅子60から離れた状態とを判別するのみとしているが、これに限らず、判定処理部が、椅子に着座した状態と椅子から離れた状態の判別結果を、時間経過と共に所定の記録手段に記録して蓄積し、椅子に座る人の離席パターン情報として取扱う構成とすることもでき、離席パターン情報の解析で、人が平常状態で行うパターン化された離席行動、すなわち、ほぼ一定の時刻や時間間隔で行われる問題のない離席行動を把握でき、これと徘徊等の突発的な離席行動とを区別して取扱えることとなり、センサ部からの信号変化をこうした離席パターン情報も参照して評価するようにすれば、人の離席行動のうち徘徊につながる危険性の高いものに対して十分な対応が可能になると共に、徘徊に該当しない行動を適切に識別して管理者の管理負担を軽減できる。
【0060】
(本発明の第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る離席検知システムを前記図8及び図9に基づいて説明する。
前記各図において本実施形態に係る離席検知システム2は、前記第1の実施形態同様、センサ部21と、判定処理部22と、報知手段23とを備える一方、異なる点として、センサ部21が人の着座状態で変形を生じる車椅子60のフレーム63に配設され、車椅子60外の床面80に向けて送信した送信波が床面80における反射面81で反射して戻った反射波を受信して、フレーム63の変形に伴うセンサ部21と床面80との間隔変化に対応して変化する信号を判定処理部22へ出力することに加え、人が車椅子60から離れる直前の動きに対応したセンサ部21からの信号に生じる変化を離席と関連付けた行動情報としてあらかじめ記録する記録手段24を備え、判定処理部22が、センサ部21からの信号を行動情報と照合して、人の離席が予想されるかを判定する構成を有するものである。
【0061】
なお、離席検知システム2におけるセンサ部21の配設箇所や記録手段24、また判定処理部22の処理内容に係る点以外の各部の構成は、前記第1の実施形態と同様のものであり、説明を省略する。
【0062】
前記センサ部21は、車椅子60に人90が着座することに伴って微小な変形を生じる前記所定箇所としてのフレーム63に配設され(図9参照)、このフレーム63に対し車椅子60に人90が着座したことに伴う絶対的位置変化が小さくほぼ静止状態を維持する床面80に向けてマイクロ波帯域の電磁波を送信し、送信波としての電磁波が床面80の反射面81で反射して戻った反射波を受信して、フレーム63の変形に伴う床面80との間隔の変化に対応して変化する信号を出力する構成である。センサ部21がフレーム63に配設される関係上、センサ部21は下向きとされ、下方の床面80に対し電磁波を送受信することとなる。
【0063】
このセンサ部21は、車椅子60に人が着座した状態でのフレーム63の変形量(数ミリ程度)より1/8波長がわずかに大きくなる電磁波(例えば周波数約10GHz、波長約3cm)を送信し、床面80の反射面81で反射した反射波を受信して、センサ部11と床面80の反射面81との間隔変化に伴って変化する反射波の位相に応じて、振幅の変化する信号を出力するものである。このセンサ部21の詳細構成は前記第1の実施形態と同様であり、説明を省略する。
【0064】
センサ部21のフレーム63への取付けの際には、センサ部21と床面80との間隔が重要となり、まずセンサ部21に反射波が適切に到来可能な間隔が設定される。例えば、車椅子60に人が着座した状態でのフレーム63の変形量が数ミリで、センサ部21からの送信波の周波数が約10GHzの場合、対向配置されるセンサ部21と床面80の間隔は約2.5cmとされる。この大まかな間隔の設定後、センサ部21の取付位置はさらに送信波や反射波の進行方向へ微調整されることとなる。これは、センサ部21からの信号の振幅が最大値付近となった状態(反射波と参照波との位相のずれがほぼ0の状態)が初期値になると、フレーム63の変形に伴うセンサ部21と床面80との間隔変化により反射波の位相が変化しても、これに基づく振幅変化が極わずかなものにとどまり、振幅変化がセンサ部21と床面80との間隔変化に正確に対応したものとならないことによる。
【0065】
センサ部21取付位置の微調整は、車椅子60に人が載っていない状態とした上で、センサ部21と床面80との間隔を細かく調整し、センサ部21からの信号振幅のほぼ0となった状態(反射波と参照波との位相のずれがほぼ90°の状態)が得られたら、センサ部21の位置を固定する。こうしてセンサ部21の位置を、センサ部21からの信号振幅がほぼ0となる位置に固定することで、この状態からのセンサ部21と床面80との間隔変化により反射波の位相が変化すると、反射波の振幅がほぼ0から大きく変化し、この振幅の変化からセンサ部21と床面80との間隔変化を容易且つ正確に検知でき、車椅子60に座った人90の動きに伴うフレーム変形量の変化をセンサ部21からの信号振幅の変化として確実に捉えられる。このようにセンサ部21の位置を最適化することで、センサ部の数が少なくても、着座に伴うフレーム変形を確実にセンサ部21からの信号の変化として取得でき、車椅子60における人の動きの検出精度を確保できる。
【0066】
センサ部21が、車椅子60下部にあるフレーム63に取付けられる(図9参照)ことで、前記第1の実施形態同様、車椅子60に座った人が誤って接触することもなく、また人目につきにくく人が故意に触ることも避けられ、人が原因となる破損等のトラブルを回避できることに加え、離席検出のための可動部分は存在せず、且つ検出に際し車椅子60に座っている人90に対し非接触状態を保持することから、離席検出性能の劣化が生じにくく、性能を長期にわたって維持できる。
【0067】
前記判定処理部22は、センサ部21からの信号を入力され、これらの信号が所定の閾値を挟んで変化する状態から、車椅子60に人が着座した状態と車椅子60から人が離れた状態とを判別すると共に、あらかじめ記録手段24にデータベース化された行動情報とセンサ部21から入力された信号とを照合して、この入力された信号の変化が、行動情報としての離席直前での人の動きに応じた信号変化に合致する場合には、車椅子60に座っている人の離席が予想されると判定して、報知手段23を作動させ、離れた箇所の管理者等に人が車椅子60から離れようとしている状態を通知可能とするものである。なお、判定処理部22におけるセンサ部21からの信号に基づく車椅子60における人の着座状態の判定に係る処理は、前記第1の実施形態の場合と同様である。
【0068】
また、判定処理部22では、車椅子60に人が着座した状態でのフレーム63の変形量が、人の体重の差異に伴って変化するのに対応させて、センサ部21から入力される信号について、人が車椅子60に着座した状態と車椅子60から離れた状態とを判別するための閾値を、車椅子60に座る人の体重に合せて調整している。例えば、体重が重く、車椅子60に人が着座した状態でのフレーム63の変形が大きい場合には、閾値も離席状態における信号の振幅値との差が大きくなるようにし、逆に体重が軽く、着座状態でのフレーム63の変形が小さい場合には、閾値も離席状態における信号の振幅値との差が小さくなるようにして、車椅子60に座る人に合った離席状態の検出感度を得ている。これにより、車椅子60を利用する人が変っても、閾値の調整を経て高精度な着座状態の判定が行え、椅子利用者の変化の前後で体重が異なることに基づく誤った離席検出を防止できる。
【0069】
前記記録手段24は、車椅子60に座っていた人が実際に車椅子60から離れた場合における、離席の直前での人の動きに応じたセンサ部21からの信号に生じる変化を、人の車椅子60から離れた行動と関連付けた行動情報として、車椅子60の使用に先立ってあらかじめ記録され、一種のデータベースを構築して判定処理部22から参照されるものである。
【0070】
この記録手段24は、判定処理部22をなすコンピュータのメモリや外部記憶装置であり、判定処理部22として動作するコンピュータにおいて情報を記録され、且つ記録された情報を読出される中で、前記位置情報や行動情報を参照可能に提供し、また、椅子上の人の位置の判定結果を随時記録される。判定処理部22をなすコンピュータがマイクロコンピュータとされる場合、この記録手段24がその一部をなすようにしてもかまわない。
【0071】
次に、本実施形態に係る離席検知システムの動作について説明する。前提として、センサ部21は、車椅子60に人が載っていない状態で、センサ部21と床面80との間隔をセンサ部21からの信号の振幅がほぼ0となるようにしてフレーム63に取付けられているものとする。
【0072】
システムが起動すると、センサ部21が、発振部21bで発生させたマイクロ波帯域の連続する正弦波である電磁波を送信アンテナ部21aから床面80の反射面に対し送信すると共に、この送信波が反射面で反射した反射波を受信アンテナ部21cで受信する。
【0073】
車椅子60に介護対象者等の人が座ると、人の重みによりフレーム63が変形し、これに取付けられたセンサ部21が下降し、このセンサ部21に対し、ほとんど動かない床面80の反射面81が相対位置変化して、センサ部21と床面80との間隔が狭く変化する。フレーム63の変形が電磁波の1/8波長より小さい範囲に収るように電磁波の周波数は設定されているので、センサ部21と床面80の間隔の変化は電磁波の1/8波長より小さい範囲にとどまり、この間隔変化の2倍となるセンサ部11と反射面間での電磁波の行程変化も1/4波長より小さい範囲となり、センサ部21で受信される反射波の位相は、ずれ量を特定可能な範囲(90°以内)でずれる。
【0074】
センサ部21では、前記第1の実施形態同様、反射波とカプラー21dを経た参照波からミキサ部21eで中間周波数の振幅の変化する信号が得られ、これが判定処理部22へ出力される。
【0075】
判定処理部22では、センサ部21から入力された信号の振幅が、閾値を超えて人の着座した状態と見なせる範囲にあることから、車椅子60に人が着座した状態と判定し、そのままセンサ部21からの信号の監視を継続する。
【0076】
車椅子60に人90が着座している状態で、車椅子60上の人90がわずかにでも動けば、フレーム63の変形状態が変化し、センサ部21からの信号も変化するが、判定処理部22では、センサ部21からの信号振幅の変化と、記録手段24に記録された行動情報とを照合し、センサ部21からの信号の変化が、行動情報としての車椅子60から離れる直前の人の動き、例えば立上がろうとして座部62に加わる体重の重心を移動させるような動きに対応した信号変化の情報に合致した場合には、判定処理部22は人の車椅子60からの離席が予想される状態と判定し、報知手段23を作動させる。こうして、報知手段23が、人の離席が予想される状態を車椅子60から離れた箇所の管理者等に通知することで、管理者等は人が車椅子60から離れようとしている状態を認識して、予防的な対応が可能となり、徘徊や転倒、転落の防止が図れる。
【0077】
その後、車椅子60に座っていた人が車椅子60を離れると、人の重みが加わらなくなることでフレーム63の変形が減少して、センサ部21が上昇し、フレーム63に取付けられたセンサ部21に対し、ほとんど動かない床面80の反射面81が相対位置変化することとなり、センサ部21と床面80との間隔が広く変化する。この場合も、センサ部21と床面80の間隔の変化は電磁波の1/8波長より小さい範囲にとどまっており、センサ部21で受信される反射波の位相はずれ量を特定可能な範囲(90°以内)でずれる。センサ部21では、上記同様に反射波と参照波から中間周波数の振幅の変化する信号が得られ、これが判定処理部22へ出力される。
【0078】
判定処理部22では、センサ部21から入力された信号の振幅が、人の着座状態と見なせる範囲から閾値を超えて車椅子60から離れた状態と見なせる範囲に変化したことを受けて、車椅子60から人90が離れた状態と判定し、報知手段23を作動させる。こうして、報知手段23が、車椅子60から人90が離れた状態をこの車椅子60から離れた箇所の管理者等に通知することで、管理者等は人の離席状態を認識して何らかの対応が可能となる。
【0079】
このように、本実施形態に係る離席検知システムは、車椅子60への人の着座に伴い変形が生じる車椅子60のフレーム63にセンサ部21を配設し、このセンサ部21から静止していると見なせる床面80に向けて電磁波を送信し、反射面81で反射した反射波を同じセンサ部21で受信すると、このセンサ部21からの信号を入力される判定処理部22が、フレーム63の変形に伴って変化する信号の、所定の閾値を超えた変化から車椅子60への人90の着座の有無を判定し、離れた箇所の管理者等に人90が車椅子60を離れた状態を通知可能となることから、人に対し非接触で離席を検出でき、また離席検出のために荷重を受けて動くような可動部分も存在せず、検出機構のトラブルや劣化が生じにくい上、車椅子60下部にあるフレーム63にセンサ部21が取付けられることで、車椅子60に座った人が誤って接触することもなく、また人目につきにくく人が故意に触ることも避けられ、人が原因となる破損等のトラブルも回避でき、長期にわたり離席検出性能を維持できる。
【0080】
また、車椅子60に座っていた人の離席直前における車椅子60から離れようとする動きに対応するセンサ部21からの信号の変化状態を、車椅子60から離れた行動と関連付けて行動情報として記録手段24に記録し、この記録された行動情報にセンサ部21からの信号変化が合致すると、判定処理部22が人の離席が予想される状態であると判定し、離れた箇所の管理者等にこうした状態を通知可能となることから、車椅子60に座っている人の動きが離席の前兆か否かを適切に判別して離席の予想が行え、離席を予想した時点で管理者等への通知を実行すれば、離席の前に何らかの対策が可能となり、より迅速な対応で離席に伴う転倒等の事故や徘徊を確実に防止できる。
【0081】
なお、前記実施形態に係る離席検知システムにおいては、センサ部21から送信する電磁波を、車椅子60に人が着座した状態でのフレーム63の数ミリ程度の変形に合せたマイクロ波帯域として用いる構成としているが、これに限らず、センサ部と反射面との間隔変化をもたらす椅子の所定箇所の変形しやすさに応じて、電磁波の周波数を調整する構成とすることもでき、例えば、椅子に人が着座した状態での椅子所定箇所の変形が極めて小さくしか生じない場合には、センサ部と反射面との間隔変化も小さくなるのに合せて、送信する電磁波の周波数を高め、電磁波の1/8波長より小さい範囲でセンサ部と反射面の間隔変化が生じるようにすることで、前記実施形態同様に適切に離席検出が行える。
【0082】
また、前記実施形態に係る離席検知システムにおいて、センサ部21は送信した電磁波を床面80の反射面で反射させ、反射波を受信するものとしているが、これに限らず、センサ部と反射面との間隔変化に対応して、出力する信号を変化させるものであれば、電磁波の代りに超音波を送受信するセンサ部を用いる構成とすることもできる。
【0083】
また、前記実施形態に係る離席検知システムにおいては、センサ部21のフレーム63への取付に際し、フレーム63に対するセンサ部21の位置を厳密に設定する構成としているが、これに限らず、図10に示すように、位相ずれに対応して信号の振幅を変化させて出力するセンサ部27、28を、送信波の位相を90°ずらした二つを一組として、車椅子60に人が座った状態でのフレーム63の変形による反射波の位相ずれがほぼ同様となるような箇所にそれぞれ配設し、各センサ部27、28で受信する反射波に基づき出力される信号振幅を、位相を90°ずらした分異ならせる構成とすることもでき、実際の使用時における床面等の反射面位置の相対変化に伴って、一方のセンサ部27からの信号振幅が仮に最大値近くでほとんど変化しない状態であったとしても、位相を90°ずらした他方のセンサ部28では信号振幅の大きく変化する状態が得られることとなり、この振幅の変化からセンサ部28と反射面との間隔変化、すなわちフレームの変形量変化を容易に検知でき、車椅子60に座った人の動きに伴う変形量変化をセンサ部27、28からの信号振幅の変化として確実に捉えられ、各センサ部27、28の位置を適宜設定しても、いずれかのセンサ部から常に変形量変化に応じた信号の変化を取得でき、初期設定の手間をかけずに、離席をはじめとする車椅子60における人の動きを高い精度で検出できる。
【0084】
(本発明の第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る離席検知システムを前記図11及び図12に基づいて説明する。
前記各図において本実施形態に係る離席検知システム3は、前記第1の実施形態同様、センサ部31と、判定処理部32と、報知手段33とを備える一方、異なる点として、センサ部31が、車椅子60下方の床面80に配設され、人の着座状態で変形を生じる車椅子60の座部62に向けて電磁波を送信し、送信した電磁波が座部62や座部62上側の人90における各反射面で反射して戻った反射波を受信して、人90の動きや座部62の変形等に伴って人90の着座した状態と車椅子60から離れた状態とで変化する信号を出力する構成である。なお、離席検知システム3におけるセンサ部31の配設箇所に係る点以外の各部の構成は、前記第1の実施形態と同様のものであり、説明を省略する。
【0085】
前記センサ部31は、車椅子60に人90が着座することに伴って微小な変形を生じる前記所定箇所としての座部62に対し、車椅子60に人90が着座したことに伴う絶対的位置変化が小さくほぼ静止状態を維持する床面80に配設され、上方の座部62に向けてマイクロ波帯域の電磁波を送信し、この電磁波が座部62下側の反射面62aで反射して戻った反射波を受信し、着座状態での座部62の変形に伴うセンサ部31と反射面62aとの間隔の変化に対応して変化する信号を判定処理部32へ出力する構成である。また、センサ部31は、人90の完全な着座状態や、人90が車椅子60を離れようとしたり着座しようとする途中の各場合には、座部62を透過した電磁波が人90の臀部から腿部にかけての表面である反射面92で反射して戻った反射波も受信して、この人90での反射の有無や人90の動きに伴っても判定処理部32へ出力する信号を変化させる構成である。
【0086】
このセンサ部31は、車椅子60に人が着座した状態での座部62の変形量(数ミリ程度)より1/8波長がわずかに大きくなる電磁波(例えば周波数約10GHz、波長約3cm)を送信しており、座部62の反射面62aで反射した反射波を受信すると、センサ部31と反射面62aとの間隔変化に伴って変化する反射波の位相に応じて、振幅の変化する信号を出力する。このセンサ部31の詳細構成は前記第1の実施形態と同様であり、説明を省略する。
【0087】
センサ部31が、車椅子60下方の床面80に取付けられる(図12参照)ことで、前記第1の実施形態同様、車椅子60に座った人が誤って接触することもなく、また人目につきにくく人が故意に触ることも避けられ、人が原因となる破損等のトラブルを回避できることに加え、離席検出のための可動部分は存在せず、且つ検出に際し車椅子60に座っている人90に対し非接触状態を保持することから、離席検出性能の劣化が生じにくく、性能を長期にわたって維持できる。
【0088】
次に、本実施形態に係る離席検知システムの動作について説明する。前提として、センサ部31は、車椅子60に人が座っていない状態で、センサ部31と反射面62aの間隔をセンサ部31からの信号の振幅がほぼ0となるようにして床面80に取付けられており、また、車椅子60は移動しないものとする。
【0089】
システムが起動すると、センサ部31が、発振部31bで発生させたマイクロ波帯域の連続する正弦波である電磁波を送信アンテナ部31aから座部62の反射面62aに向け送信する。電磁波の一部は、座部62を透過して座部62上方の人90が位置することとなる空間に達するが、人90が車椅子60から離れて着座していない状態では、座部62を透過した電磁波のほとんどはセンサ部31に到達できない。一方、送信された電磁波のうち反射面62aで反射した反射波はセンサ部31の受信アンテナ部31cで受信される。この人90が車椅子60から離れて着座していない間は、センサ部31における反射波の受信状態の変化はほとんどない。
【0090】
車椅子60に介護対象者等の人90が着座しようとすると、座部62の上方において人が座ろうと動く状態となっていることから、センサ部31から送信されて座部62を透過した電磁波は、人90に達し、人90の反射面92で反射した反射波がセンサ部31の受信アンテナ部31cで受信される。
【0091】
そして、車椅子60に人90が完全に着座すると、人の重みにより座部62が変形し、ほとんど動かない床面80に取付けられたセンサ部31に対し、座部62の反射面62aが位置変化してセンサ部31と反射面62aとの間隔が狭く変化する。座部62の変形が電磁波の1/8波長より小さい範囲に収るように電磁波の周波数は設定されているので、人90がほとんど動かない着座状態でのセンサ部31と反射面62aの間隔の変化は電磁波の1/8波長より小さい範囲にとどまり、センサ部31で受信される反射波の位相は、ずれ量を特定可能な範囲(90°以内)でずれる。
【0092】
センサ部31では、前記第1の実施形態同様、ミキサ部31eで反射波とカプラー31dを経た参照波とから中間周波数の振幅の変化する信号が得られ、これが判定処理部32へ出力される。
【0093】
判定処理部32では、センサ部31から入力された信号が、人90が着座しようとする状態に対応してその振幅を激しく変化させる期間を経た後、人90が完全に着座している状態に対応して、閾値を超えて人の着座した状態と見なせる範囲にある、ほとんど変化のない振幅値を示すことから、車椅子60に人が着座した状態と判定し、そのままセンサ部31からの信号の監視を継続する。
【0094】
その後、車椅子60に座っていた人が車椅子60を離れた場合には、人の重みが加わらなくなる座部62の変形が減少し、センサ部31に対し、座部62の反射面62aが位置変化してセンサ部31と反射面62aとの間隔が広く変化する。また、人90が座部62の上方から存在しなくなり、人90の反射面92がセンサ部31の上方から無くなることで、座部62を透過した電磁波の反射がほとんど無い状態となる。センサ部31では、人90の反射面92の消失と座部62の反射面62aからの位相のずれた反射波の受信に伴って、振幅の変化した信号が判定処理部32へ出力される。ただし、センサ部31に対する反射面62aの位置変化もなくなることで、センサ部31で受信される反射面62aからの反射波の位相は、ずれ量の変化がほとんどなく、これ以降はセンサ部31から出力される信号の振幅変化はほとんど見られなくなる。
【0095】
判定処理部32では、センサ部31から入力された信号の振幅が、閾値を超えて人90が車椅子60から離れた状態と見なせる範囲に変化したことを受けて、車椅子60から人が離れた状態と判定し、報知手段33を作動させる。こうして、報知手段33が人の車椅子60から離れた状態を、この車椅子60から離れた箇所の管理者等に通知することで、管理者等は人の車椅子60から離れた状態を認識して何らかの対応が可能となる。
【0096】
このように、本実施形態に係る離席検知システムにおいては、車椅子60に人が着座するのに伴い変形が生じる座部62に向けて、この座部62に対して静止していると見なせる床面80に配設したセンサ部31から電磁波を送信し、座部62や車椅子60に座る人90で反射した反射波を同じセンサ部31で受信すると、このセンサ部31からの信号を入力される判定処理部32が、座部62の変形によるセンサ部31と反射面との間隔変化、あるいは人の着座や車椅子60から離れる等の動きに伴う人90の反射面の存否やセンサ部31と人90との間隔変化、に応じて変わる信号の、所定の閾値を超える変化から車椅子60に人が着座しているか否かを判定し、離れた箇所の管理者等に車椅子60に座っていた人が車椅子60から離れた状態を通知可能となることから、車椅子60に座っている人に対し非接触で着座の有無を検出でき、また検出のために荷重を受けて動くような可動部分も存在せず、検出機構のトラブルや劣化が生じにくく、長期にわたり離席検出性能を維持できる。
【0097】
なお、前記第1ないし第3の各実施形態に係る離席検知システムにおいては、車椅子80やその近傍の床面にセンサ部を配設し、センサ部からの信号に基づいて人90が車椅子80から離れた状態と判定した場合には、離れた箇所の管理者等にこの車椅子80から離れた状態を通知可能にする構成としているが、この他、車椅子以外の移動しない一般的な椅子に本システムを適用することもでき、椅子やその近傍にセンサ部を配設して、この椅子から人が離れた状態を判定した場合に、管理者等に人90が椅子から離れた状態を通知可能にすることで、前記各実施形態同様、望ましくない離席に対する適切な対応を促せる。
【0098】
また、前記第1ないし第3の各実施形態に係る離席検知システムにおいては、判定処理部で離席状態又は離席が予想される状態を判定すると、報知手段を作動させて管理者等に通知し、離席への対応を促す構成としているが、これに限らず、椅子近傍で人手を介さずに動作する離席抑止装置や、介護用ロボット等の自律動作する介護支援装置を用いる場合には、判定処理部の判定結果を各装置の制御部に直接送信して離席に対応する動作を行わせる構成とすることもでき、離席に対し迅速な対応を実現できる。
【実施例】
【0099】
本発明の離席検知システムで、実際に人が車椅子に着座した状態と車椅子から離れた状態におけるセンサ部からの信号の変化を、センサ部の位置と反射面を変えてそれぞれ測定し、各場合で人が車椅子に着座した状態と車椅子から離れた状態の判定に係る処理を、判定処理部でそれぞれ適切に行える程度に、センサ部での信号の変化が得られるか否かについて評価した。
【0100】
はじめに、車椅子に人が着座した状態と人が車椅子から離れた状態のそれぞれについて、車椅子の背もたれ部に設置したセンサ部からの信号の振幅を測定し、人が車椅子に着座した状態と車椅子から離れた状態とを識別可能となる変化が信号に生じるかどうかを評価した。センサ部の取付けは、前記第1の実施形態同様、車椅子の背もたれ部後側に対して行い、背もたれ部の前方に向けて電磁波を送信するよう設定する。センサ部から送信する電磁波の周波数は約24GHzとし、人の車椅子から離れた状態でセンサ部からの信号の振幅がほぼ0となるようにしている。このセンサ部から判定処理部に入力される信号を測定する。
【0101】
測定は、人が車椅子から離れている状態から車椅子に深く座り、続いて座る位置を中間に変えた状態に移行し、さらに車椅子に浅く座った状態となった後、車椅子から離れるという一連の行動に合せて実行し、センサ部からの信号の変化を取得した。得られたセンサ部からの信号振幅の時間経過に伴う変化のグラフを、図13に示す。グラフの縦軸の値は、信号の振幅[V]、横軸は経過した時間[s]である。
【0102】
図13より、センサ部からの信号において、人が車椅子に着座した状態と車椅子から離れた状態とでは大きな差異が生じており、閾値を適切な値(例えば、0.02V)に設定することで着座の有無の判定が確実に行えることがわかる。また、人の車椅子への座り方についても、人が座り方を変えるごとに信号振幅の異なる値が得られており、センサ部と人との位置関係が変化するこうした座り方に対応して、判定のための閾値を設定するのが好ましいことがわかる。
【0103】
この他、センサ部からの信号において、人が着座した状態でも信号の変化が現れ、特に、人が着座しようとしたり座り方を変えたりするような人が大きく動く状態に対応して、信号の振幅が車椅子から離れた状態の振幅値を超えて上下に大きく変化する部分も現れており、人の動きで反射波が影響を受けていることは明白であり、人の車椅子上での動きを、この信号が変化する状態から判別できる可能性を示している。
【0104】
次に、前記同様の車椅子に人が着座した状態と人が車椅子から離れた状態のそれぞれを、センサ部の取付位置を車椅子のフレームに変更した場合で、センサ部からの信号の振幅を測定し、評価した。センサ部の取付けは、前記第2の実施形態同様、車椅子のフレームに対して行い、電磁波を送信し反射させる反射面を車椅子下方の床面に設定する。センサ部から送信する電磁波の周波数は約10GHzとし、またセンサ部と床面の反射面との間隔は約25mmとして、人の車椅子から離れた状態でセンサ部からの信号の振幅がほぼ0となるようにしている。このセンサ部から判定処理部に入力される信号を測定する。
【0105】
測定は、人が車椅子から離れている状態から車椅子に深く座り、続いて車椅子に浅く座った状態となった後、車椅子から離れるという一連の行動に合せて実行し、センサ部からの信号の変化を取得した。得られたセンサ部からの信号振幅の時間経過に伴う変化のグラフを、図14に示す。グラフの縦軸の値は、信号の振幅[V]、横軸は経過した時間[s]である。
【0106】
図14より、センサ部からの信号において、人が車椅子に着座した状態と車椅子から離れた状態とでは明確な差異が生じており、閾値を適切な値(例えば、−0.1V)に設定することで着座の有無の判定が確実に行えることがわかる。また、人の車椅子への座り方についても、人が座り方を変えるごとに信号振幅の異なる値が得られており、車椅子に加わる人の体重の重心位置が変化するこうした座り方に対応して、フレームにおけるセンサ部の取付位置での変形状態が変化していることを示している。
【0107】
続いて、前記同様の車椅子に人が着座した状態と人が車椅子から離れた状態のそれぞれを、センサ部の取付位置を車椅子の下方の床面に変更した場合で、センサ部からの信号の振幅を測定し、評価した。センサ部の取付けは、前記第3の実施形態同様、車椅子下方の床面に対して行い、車椅子の座部に向けて電磁波を送信するよう設定する。センサ部から送信する電磁波の周波数は約10GHzとし、人の車椅子から離れた状態でセンサ部からの信号の振幅がほぼ0となるようにしている。このセンサ部から判定処理部に入力される信号を測定する。
【0108】
測定は、人が車椅子から離れている状態から車椅子に深く座り、続いて車椅子に浅く座った状態となった後、車椅子から離れるという一連の行動に合せて実行し、センサ部からの信号の変化を取得した。得られたセンサ部からの信号振幅の時間経過に伴う変化のグラフを、図15に示す。グラフの縦軸の値は、信号の振幅[V]、横軸は経過した時間[s]である。
【0109】
図15より、センサ部からの信号において、人が車椅子に着座した状態と車椅子から離れた状態とでは前記同様明確な差異が生じており、閾値を適切な値(例えば、−0.03V)に設定することで着座の有無の判定が確実に行えることがわかる。また、人の車椅子への座り方についても、人が座り方を変えるごとに信号振幅の異なる値が得られており、電磁波の反射面となる座部の変形状態の差異をもたらすこうした座り方に対応して、床面側のセンサ部と座部の反射面との間隔が変化していることを示している。
【0110】
この他、センサ部からの信号において、人が着座しようとしたり座り方を変えたりするような人が大きく動く状態に対応して、信号の振幅が車椅子から離れた状態の振幅値を超えて上下に大きく変化する部分も現れており、人の動きやこれに伴う座部の動きで反射波が影響を受けていることは明白であり、人が車椅子上で動く過渡的な状況を、信号が激しく変化する状態から判別できる可能性を示している。
【0111】
以上から、センサ部からの信号を用いれば、人が車椅子に着座した状態と車椅子から人が離れた状態とを判定して、離席の検出が行えることは明らかである。また、センサ部の配設位置を適切に設定すれば、信号から車椅子に対する人の座り方の差異を識別したり、車椅子上での人の動きを識別したりすることも可能であるといえる。
【符号の説明】
【0112】
1、2、3 離席検知システム
11、15、16 センサ部
11a、21a、31a 送信アンテナ部
11b、21b、31b 発振部
11c、21c、31c 受信アンテナ部
11d、21d、31d カプラー
11e、21e、31e ミキサ部
12、22、32 判定処理部
13、23、33 報知手段
21、27、28 センサ部
31 センサ部
34 記録手段
60 車椅子
61 背もたれ部
62 座部
62a 反射面
63 フレーム
80 床面
81 反射面
90 人
91、92 反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子の所定箇所又は椅子外の構造物に配設され、着座状態では人が存在する椅子上の部位に向けて電磁波を送信すると共に、人が着座状態の場合に人の反射面で反射して戻る反射波を受信して、人の着座した状態と椅子から離れた状態とで変化する信号を出力するセンサ部と、
当該センサ部からの信号を入力され、当該信号が所定の閾値を挟んで変化する状態から、椅子に人が着座した状態と椅子から人が離れた状態とをそれぞれ判定する判定処理部とを備えることを
特徴とする離席検知システム。
【請求項2】
椅子に人が着座することに伴って微小な変形を生じる椅子の所定箇所に対し、ほぼ静止状態を維持する椅子外の構造物に配設され、前記椅子の所定箇所に向けて送信した送信波が椅子の所定箇所における反射面で反射して戻った反射波を受信して、前記椅子の所定箇所の変形に伴う反射面との間隔の変化に対応して変化する信号を出力するセンサ部と、
当該センサ部からの信号を入力され、当該信号が所定の閾値を挟んで変化する状態から、椅子に人が着座した状態と椅子から人が離れた状態とをそれぞれ判定する判定処理部とを備えることを
特徴とする離席検知システム。
【請求項3】
椅子に人が着座することに伴って微小な変形を生じる椅子の所定箇所に配設され、当該所定箇所に対しほぼ静止状態を維持する椅子外の構造物に向けて送信した送信波が椅子外構造物における反射面で反射して戻った反射波を受信して、前記所定箇所の変形に伴う反射面との間隔の変化に対応して変化する信号を出力するセンサ部と、
当該センサ部からの信号を入力され、当該信号が所定の閾値を挟んで変化する状態から、椅子に人が着座した状態と椅子から人が離れた状態とをそれぞれ判定する判定処理部とを備えることを
特徴とする離席検知システム。
【請求項4】
前記請求項1に記載の離席検知システムにおいて、
前記判定処理部が、人が着座する状態と椅子から離れた状態とを判定するための閾値を、前記センサ部と着座状態の人との間隔に合せて調整することを
特徴とする離席検知システム。
【請求項5】
前記請求項2又は3に記載の離席検知システムにおいて、
前記判定処理部が、人が着座する状態と椅子から離れた状態とを判定するための閾値を、椅子に座る人の体重に合せて調整することを
特徴とする離席検知システム。
【請求項6】
前記請求項1ないし5のいずれかに記載の離席検知システムにおいて、
前記センサ部が、人が着座している状態での人の動きに応じて変化する信号を出力し、
前記判定処理部が、前記センサ部からの信号の経時変化を監視し、信号に所定時間変化がない状態を、人が椅子から離れた状態を含む異常状態と判定することを
特徴とする離席検知システム。
【請求項7】
前記請求項6に記載の離席検知システムにおいて、
人が実際に椅子から離れた場合における、離席の直前での人の動きに応じた前記センサ部からの信号に生じる変化を、椅子から離れた行動と関連付けた行動情報としてあらかじめ所定の記録手段に記録し、
前記判定処理部が、人が着座している状態でセンサ部からの信号を前記行動情報と照合して、当該行動情報に信号の変化が合致している場合には、椅子に座った人の離席が予想されると判定することを
特徴とする離席検知システム。
【請求項8】
前記請求項1ないし7のいずれかに記載の離席検知システムにおいて、
前記判定処理部が、人が着座する状態と椅子から離れた状態の判定結果を、判定時刻と共に所定の記録手段に記録して蓄積し、椅子に座る人の離席パターン情報とすることを
特徴とする離席検知システム。
【請求項9】
前記請求項1ないし8のいずれかに記載の離席検知システムにおいて、
前記センサ部が、マイクロ波帯域の電磁波を送信し、前記反射面で反射した反射波を受信して、センサ部と反射面との間隔変化に伴って変化する反射波の位相に応じて振幅の変化する信号を出力するものとされてなり、
送信波の位相が90°ずれている二つの前記センサ部の組合せを一又は複数組配設することを
特徴とする離席検知システム。
【請求項10】
前記請求項1ないし9のいずれかに記載の離席検知システムにおいて、
前記センサ部が、前記反射面との間に介在して電磁波が伝播する一又は複数の媒質の性質に応じて、電磁波の送信部及び/又は受信部の指向性を調整可能とされることを
特徴とする離席検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−133262(P2011−133262A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290941(P2009−290941)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000164461)九州日立マクセル株式会社 (338)
【Fターム(参考)】