説明

難分解性タンパク質を分解する方法

下記の特性を有し、難分解性タンパク質分解活性を有する酵素を有効成分として含有する、難分解性タンパク質分解剤を開示する:
(a)作用及び基質特異性:難分解性タンパク質のペプチド結合を加水分解する。
(b)分子量:31,000(ゲル濃度12%の均一ゲルを用いるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)
(c)等電点:pI9.3(ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動による)
(d)至適pH:pH9.0〜10.0である。
(e)作用至適温度:60〜70℃である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)の分解剤及び前記難分解性タンパク質を分解する方法に関する。
【背景技術】
ヒツジ若しくはマウスのスクレイピー、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病〔Creutzfeldt−Jakob disease(CJD)〕、又はウシの牛海綿状脳症〔Bovine.Spongiform Encephalopathy(BSE);俗称=狂牛病〕等の疾病は、いずれも起立・歩行困難などの神経症状を示し、病原性プリオンタンパク質が関与していると考えられている。現在では、ヒトが病原性プリオンタンパク質に汚染された牛肉を食したため、感染し、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病〔variant Creutzfeldt−Jakob disease(vCJD)〕として発症する可能性が指摘されている。そのため、特にBSEは安全な食肉の供給という観点からも極めて深刻な疾病である。
これらの疾病は、体外より体内へ移行した病原性のプリオンタンパク質が、通常脳内に存在する正常型プリオンタンパク質の立体構造を変化させるため〔「ネイチャー(Nature)」,(英国),1994年,第370巻,p.471(非特許文献1)〕、発症すると考えられている。そのため、病原性プリオンタンパク質感染によるこれら疾病の発症を防ぐには、原因となる病原性プリオンタンパク質を発病しない程度にまで分解し、無毒化する必要がある。
しかしながら、病原性プリオンタンパク質は、通常の滅菌処理(例えば、煮沸など)においても極めて安定なタンパク質であり、それら滅菌処理によってその感染力が低下することは殆どないとされている。また、病原体はタンパク質ではあるが、プロテアーゼで分解しようとしても、従来のプロテアーゼでは完全に分解することが困難であった。そのため、病原性プリオンタンパク質を効果的に分解させ、感染による発症を低減させる方法が待ち望まれていた。
病原性プリオンタンパク質のような難分解性タンパク質の分解の方法としては、例えば、特開平6−46871号公報(特許文献1)において、従来のプロテアーゼでは難分解性であるケラチン含有タンパク質を分解する酵素として、プロテアーゼの1種であるバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)PWD−1菌株由来のケラチナーゼを用いる方法が提案されている。しかし、前記公報では、前記ケラチナーゼは、ケラチン含有タンパク質(例えば、獣毛、人毛、又は鳥羽毛など)の分解のために用いるとされており、病原性プリオンタンパク質に対して効果があるか否かは言及されていない。
なお、バチルス・リケニフォルミスPWD−1菌株由来のケラチナーゼのDNAは既に取得されている〔特表平10−500863号公報(特許文献2)〕。
また、難分解性の病原性プリオンタンパク質の分解に、バチルス・リケニフォルミスPWD−1菌株由来の前記ケラチナーゼを用いることが提案されている[米国特許第6,613,505号明細書(特許文献3)]。しかし、前記特許明細書に記載の方法においては、病原性プリオンタンパク質を低減若しくは分解するためには、前処理として加熱処理を行った後、酵素による処理を行うという2段階の処理が必要であった。この場合、加熱処理を行う設備が必要であるため、これらを持たない施設にとって前記特許明細書に記載の方法を行うことは容易ではなかった。また、2段処理を行わねばならないため、作業性がよくないという問題があった。
更に、国際公開第02/053723号パンフレット(特許文献4)においては、病原性プリオンタンパク質の分解に、熱耐性のプロテアーゼを用いることが提案されている。しかし、前記国際公開パンフレット中の実施例に記載されているバチルス・サーモプロテオリティクス・ロッコ(Bacillus thermoproteolytics Rokko)菌株由来のプロテアーゼを用いて病原性プリオンタンパク質を分解する場合、前記酵素単独では分解が充分ではなく、ドデシル硫酸ナトリウムが反応混液に存在して初めて、充分に分解が可能であると記載されている。また、前記酵素の活性化のためには中性塩が必要であり、更に金属イオン要求性の性質を有するため、キレート作用のある物質と共存した場合、活性が著しく低下するなどの問題があった。
(非特許文献1)「ネイチャー(Nature)」,(英国),1994年,第370巻,p.471
(特許文献1)特開平6−46871号公報
(特許文献2)特表平10−500863号公報
(特許文献3)米国特許第6,613,505号明細書
(特許文献4)国際公開第02/053723号パンフレット
【発明の開示】
従って、本発明の課題は、公知のプロテアーゼに比べて高い難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を示し、しかも、安価に生産することができる酵素、並びにその酵素を有効成分とする難分解性タンパク質分解剤及び病原性プリオンタンパク質無毒化剤を提供し、それらを用いた難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)の分解方法及び病原性プリオンタンパク質を無毒化する方法を提供することにある。
本発明者は、今般、バチルス属に属する微生物から、難分解性タンパク質を分解することが報告されている公知の酵素に比べ、極めて高い難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有する酵素を見出した。
本発明に使用する前記酵素は、病原性プリオンタンパク質の分解に使用することが既に報告された酵素、例えば、米国特許第6,613,505号明細書で報告されているバチルス・リケニフォルミスPWD−1菌株から調製した酵素(ケラチナーゼ)、及び国際公開第02/053723号パンフレットで報告されているバチルス・サーモプロテオリティクス・ロッコ菌株から調製した酵素を用いて比較した結果、いずれにおいても後述する実施例で示されたように遥かに優れた特性を有していた。
特に、バチルス・リケニフォルミスPWD−1菌株から調製した酵素と比較すれば、本発明に使用する酵素は、遙かに高い病原性プリオンタンパク質分解活性を有することが見出された(実施例7及び8参照)。更に驚くべきことに、前記特許明細書に記載の加熱処理を行なうことなく処理することができることを見出すことができた(実施例7及び8参照)。
また、バチルス・サーモプロテオリティクス・ロッコ菌株から調製した酵素を用いて比較した結果、本発明に使用する酵素は、遙かに高い病原性プリオンタンパク質分解活性を有することが見出された(実施例9〜11参照)。更に驚くべきことに、ドデシル硫酸ナトリウムの存在の有無にかかわらず、本発明に使用する酵素は、優れた病原性プリオンタンパク質分解活性を有することが見出された(実施例9〜11参照)。
また、本発明は、見出された酵素を有効成分とする難分解性タンパク質分解剤及び病原性プリオンタンパク質無毒化剤を提供し、更にそれらを用いた難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)の分解方法及び病原性プリオンタンパク質を無毒化する方法を見出した。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]下記の特性を有し、難分解性タンパク質分解活性を有する酵素を有効成分として含有する、難分解性タンパク質分解剤:
(a)作用及び基質特異性:難分解性タンパク質のペプチド結合を加水分解する。
(b)分子量:31,000(ゲル濃度12%の均一ゲルを用いるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)
(c)等電点:pI9.3(ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動による)
(d)至適pH:pH9.0〜10.0である。
(e)作用至適温度:60〜70℃である。
[2]前記酵素が、下記の(g)の特性を更に有する、前記[1]の難分解性タンパク質分解剤:
(g)難分解性タンパク質分解活性として2単位/g以上の活性(ケラチンアズール分解活性を指標として)を示す。
[3]前記酵素が、下記の(h)の特性を更に有する、[1]又は[2]の難分解性タンパク質分解剤:
(h)バチルス属に属する微生物由来である。
[4]下記からなる群より選択される酵素を有効成分として含有する、難分解性タンパク質分解剤:
(X)配列番号2で表わされるアミノ酸配列を含む、酵素、
(Y)配列番号2で表わされるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、難分解性タンパク質分解活性を有する、改変酵素、及び
(Z)配列番号2で表わされるアミノ酸配列と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、しかも、難分解性タンパク質分解活性を有する、相同酵素。
[5]難分解性タンパク質が病原性プリオンタンパク質である、[1]〜[4]の難分解性タンパク質分解剤。
[6][1]〜[5]の酵素又は難分解性タンパク質分解剤と、難分解性タンパク質とを接触させる工程を含む、難分解性タンパク質を分解する方法。
[7][1]〜[5]の酵素の、難分解性タンパク質分解剤を製造するための使用。
[8][1]〜[5]の酵素を有効成分として含有する、病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物に対する病原性プリオンタンパク質無毒化剤。
[9]病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物と、[1]〜[5]の酵素又は[8]の病原性プリオンタンパク質無毒化剤とを接触させる工程を含む、病原性プリオンタンパク質を無毒化する方法。
[10]病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物を予め加熱処理することなく、前記処理対象物と、[1]〜[5]の酵素又は[8]の病原性プリオンタンパク質無毒化剤とを接触させる工程を含む、病原性プリオンタンパク質を無毒化する方法。
[11]病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物を予め90℃以上の加熱処理をすることなく、前記処理対象物と、[1]〜[5]の酵素又は[8]の病原性プリオンタンパク質無毒化剤とを接触させる工程を含む、病原性プリオンタンパク質を無毒化する方法。
[12][1]〜[5]の酵素の、病原性プリオンタンパク質無毒化剤を製造するための使用。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に使用する精製酵素の37℃における至適pH及び安定pH範囲を示すグラフである。
図2は、本発明に使用する精製酵素のpH9.0における至適温度範囲を示すグラフである。
図3は、本発明に使用する精製酵素による、マウス由来の病原性プリオンタンパク質の分解を示す図面である。
図4は、本発明に使用する酵素組成物Aによる、マウス由来の病原性プリオンタンパク質の分解を示す図面である。
図5は、本発明に使用する酵素組成物Aによる、ヒツジ由来の病原性プリオンタンパク質の分解を示す図面である。
図6は、本発明に使用する酵素組成物Aによる、マウス由来の病原性プリオンタンパク質の分解を示す図面である。
図7は、本発明に使用する酵素組成物A’、又は比較用サモアーゼによる、ハムスター由来の病原性プリオンタンパク質(Sc237株)の分解を示す図面である。
図8は、SDS存在下における本発明に使用する酵素組成物A’、又は比較用サモアーゼによる、ハムスター由来の病原性プリオンタンパク質(Sc237株)の分解を示す図面である。
図9は、本発明に使用する酵素組成物A’、又は比較用サモアーゼによる、ポリスチレン上に固着したハムスター由来の病原性プリオンタンパク質(Sc237株)の分解を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に使用する酵素は、難分解性タンパク質の分解活性、すなわち、難分解性タンパク質のペプチド結合を加水分解する活性を有する。
本明細書において、「難分解性タンパク質」とは、一般的なプロテアーゼ(例えば、プロテイナーゼK又はトリプシン等)により容易に分解されないタンパク質を意味し、より具体的には、37℃の条件下で濃度1μg/mLのプロテイナーゼKと1時間反応させても完全には分解されないタンパク質を意味する。前記難分解性タンパク質としては、例えば、病原性プリオンタンパク質、ケラチン、コラーゲン、又はエラスチン等を挙げることができる。
本明細書において、「病原性プリオンタンパク質」とは、スクレイピー、CJD、又はBSEなどの発症に関与するタンパク質であって、具体的には、通常脳内に存在する正常型プリオンタンパク質の立体構造が変化したプリオンタンパク質を意味する。その由来としては、例えば、ヒト、ハムスター、マウス、ウシ、又はヒツジなどを挙げることができる。
正常型プリオンタンパク質と病原性プリオンタンパク質は、アミノ酸配列は同一であるが、タンパク質の立体構造が異なる。具体的には、正常型プリオンタンパク質は、プリオンタンパク質中のポリペプチドがらせん状の形になったα−ヘリックス含有率が高く、ポリペプチドが平らなシートの形になったβ−シートが少ない。それに対し、病原性プリオンタンパク質はβ−シートの含有率が高い(Pan,PNAS,90,10962,1993)。また、前記動物由来の各プリオンタンパク質はアミノ酸配列の相同性が高く、正常型プリオンタンパク質の立体構造変化により、難分解性化を示す病原性プリオンタンパク質へ変化する特質も同じである。
前記疾病の病原体と考えられている病原性プリオンタンパク質は、煮沸などの通常の滅菌処理においても極めて安定なタンパク質であり、その感染力が滅菌処理によって低下することは殆どない。また、体内における半減期も、正常型プリオンタンパク質は分解され易く、約2時間であるのに対し、病原性プリオンタンパク質は24時間以上を必要とし、非常に分解されにくいタンパク質である。実際に、市販のプロテイナーゼKなどの従来のプロテアーゼにより分解性を評価すると、正常型プリオンタンパク質は、容易に分解され、感受性であるのに対し、病原性プリオンタンパク質は、分解性が低い難分解性であり、抵抗性であることが示されている(Prusiner,Science,252,1515,1991)。この分解の受けやすさの違いは、先述した立体構造の違いが原因であるとされている。
正常プリオンタンパク質と病原性プリオンタンパク質の判別方法としては、例えば、先述したプロテアーゼによる分解性の違いを利用する方法を挙げることができる。すなわち、病原性プリオンタンパク質に感染の恐れのある動物由来の組織をすりつぶして均質化した懸濁液を調製し、一般的なプロテアーゼ(例えば、プロテイナーゼKなど)により処理した後、ウェスタンブロッティング法(Burnette,Anal.Biochem.,112,195,1981)により、プリオンタンパク質の存在を検出する。その際、何も検出されない場合は、正常型プリオンタンパク質のみが存在していたことになるが、プロテアーゼ抵抗性を示すタンパク質バンドが検出された場合は、病原性プリオンタンパク質が存在していたことになる。
本明細書において、「難分解性タンパク質分解活性」とは、難分解性タンパク質のペプチド結合を加水分解する活性を意味する。本明細書では、「難分解性タンパク質分解活性」の単位として2種類の単位を使用する。第1の単位は、pH8.0及び60℃の条件下で、終濃度0.5%ケラチン粉末[人毛由来;ナカライテスク(株)]懸濁液に酵素を1時間作用させ、この測定系において1分間当たりに1μmolのグリシンに相当する分解物を生成する酵素量を、「1単位」として定義する。第2の単位は、pH8.0及び37℃の条件下で、終濃度0.8%ケラチンアズール(Sigma社)懸濁液に酵素を16時間作用させ、この測定系において1分間当たりに反応混液の上清へ遊離した色素量を、595nmの吸光度で測定した時の0.001の吸光度変化量を、「1単位」として定義する。
なお、ケラチンアズールは、例えば、羊毛由来のケラチンにアゾ色素が結合した化合物であり、ケラチンのペプチド結合を切断して遊離したアゾ色素結合アミノ酸又はアゾ色素結合ペプチドを分光学的に定量可能なことから、難分解性タンパク質の1つであるケラチンの分解活性(すなわち、ケラチナーゼ活性)を測定するための基質として常用されている化合物である。
また、本明細書において、「病原性プリオンタンパク質分解活性」とは、病原性プリオンタンパク質のペプチド結合を加水分解する活性を意味する。「病原性プリオンタンパク質分解活性」は、例えば、1%のスクレイピー感染マウスの脳組織懸濁液に含まれる病原性プリオンタンパク質の分解を指標として、その活性の程度(強弱)を判定することができる。
より具体的には、病原性プリオンタンパク質に感染したマウス由来の脳組織をすりつぶして均質化した懸濁液を調製し、判定しようとする酵素又は酵素組成物により処理する。その処理物に含まれるタンパク質を電気泳動により分離し、ウェスタンブロッティング法でプリオンタンパク質の存在を検出する。その際、何も検出されない場合は、判定しようとする酵素又は酵素組成物が非常に強い病原性プリオンタンパク質分解活性を有することを示す。また同様に、プロテアーゼ抵抗性を示すタンパク質バンドが検出された場合、そのタンパク質バンドが薄い場合は、ある程度の病原性プリオンタンパク質分解活性があることを、そのタンパク質バンドが濃い場合は、病原性プリオンタンパク質分解活性が弱いことを示す。
難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有するタンパク質
本発明に使用する酵素としては、例えば、以下の理化学的性質を有する酵素を用いることができる。
(a)作用及び基質特異性
タンパク質のペプチド結合、特に難分解性タンパク質(例えば、病原性プリオンタンパク質など)のペプチド結合を加水分解する。基質特異性に関しては、病原性プリオンタンパク質の他に、カゼイン、コラーゲン、エラスチン、及びケラチンに対して高い分解活性を有する。
(b)分子量
12%均一ゲル(すなわち、ポリアクリルアミドの濃度が12%である均一ゲル)を用いたSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量は約31,000である。
また、15%均一ゲル(すなわち、ポリアクリルアミドの濃度が15%である均一ゲル;例えば、アトー社製)を用いたSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量は約26,000である。
(c)等電点
ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動による等電点(pI)は約9.3である。
(d)至適pH及び安定pH
ケラチンアズール分解活性を指標として評価した至適pHは、約9.0〜10.0である。pH約7.0〜12.0の範囲において安定な活性を有し、pH約8.0〜10.5において高い活性を有している。
(e)作用至適温度
ケラチンアズール分解活性を指標として評価した作用至適温度は、約60〜70℃である。
(f)失活pH
ケラチンアズール分解活性を指標とした評価では、pH約5以下で失活した。
本発明に使用する酵素のこれらの性質を、難分解性タンパク質分解活性を有する公知のプロテアーゼ(バチルス・リケニフォルミスPWD−1菌株由来のケラチナーゼ)と比較した結果を、表1に示す。

本発明の別の態様では、配列番号2で表わされるアミノ酸配列を含む酵素、並びにその改変酵素又はその相同酵素を用いることができる。
「配列番号2で表わされるアミノ酸配列を含む酵素」には、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる酵素、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有する融合酵素、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと、融合用パートナーとの融合ポリペプチドであって、しかも、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有する融合酵素、あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端にプレ配列(シグナル配列)又はその一部が付加されたアミノ酸配列からなる酵素などが含まれる。更には、配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端にプレ配列が付加されたアミノ酸配列に、更に、適当なマーカー配列及び/又は融合用パートナーが付加された融合酵素も、「配列番号2で表わされるアミノ酸配列を含む酵素」に含まれる。
前記プレ配列としては、天然のプレ配列又は人工的に設計されたプレ配列を用いることができる。前記天然のプレ配列としては、バチルス・リケニフォルミス由来のプレ配列(特には、バチルス・リケニフォルミス由来の難分解性タンパク質分解酵素のプレ配列)を用いることができるだけでなく、バチルス・リケニフォルミス以外の生物に由来するプレ配列を用いることもできる。
前記マーカー配列としては、例えば、ポリペプチドの発現の確認、細胞内局在の確認、あるいは、精製等を容易に行なうための配列を用いることができ、例えば、FLAGタグ、ヘキサ−ヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、又はmycエピトープなどを用いることができる。
また、前記融合用パートナーとしては、例えば、精製用ポリペプチド[例えば、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)の全部又は一部]、検出用ポリペプチド[例えば、ヘムアグルチニン又はβ−ガラクトシダーゼαペプチド(LacZ α)の全部又は一部]、又は発現用ポリペプチド(例えば、シグナル配列)などを用いることができる。
更に、前記融合ポリペプチドにおいては、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと前記マーカー配列又は融合用パートナーとの間に、限定分解するタンパク質分解酵素(例えば、トロンビン又はファクターXa)で切断することができるアミノ酸配列を適宜導入することもできる。
本明細書における「改変酵素」とは、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個(例えば、1個又は数個)のアミノ酸が欠失、置換、又はは付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有するタンパク質である。ここで、「欠失、置換、又は付加」などの改変に係るアミノ酸の数は、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜10個、更に好ましくは1〜6個である。
また、前記改変酵素には、配列番号2で表わされるアミノ酸配列において、1又は複数個(例えば、1個又は数個)のアミノ酸残基が、保存的置換されたアミノ酸配列を含み、しかも、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有するタンパク質を包含する。ここで、「保存的置換」とは、タンパク質の活性を実質的に改変しないように1又は複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸で置き換えることを意味する。例えば、或る疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、或る極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような保存的置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。
具体的には、非極性(疎水性)アミノ酸としては、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、又はメチオニン等が挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、例えば、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、又はシステイン等が挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、例えば、アルギニン、ヒスチジン、又はリジン等が挙げられる。また、負電荷(酸性)アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸等が挙げられる。
本発明における「相同タンパク質」とは、配列番号2で表されるアミノ酸配列と85%以上(好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上)の相同性を有するアミノ酸配列を含み、しかも、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有するタンパク質である。ここで示した相同性の数値は、当業者に公知の相同性検索プログラムであるBLAST法(Basic local alingment search tool;Altschul,S.F.ら,J.Mol.Biol.,215,403−410,1990;National Center for Biotechnology Informationより入手)を用いて算出される数値である。
配列番号2で表わされるアミノ酸配列を含む酵素、又はその改変酵素若しくはその相同酵素は、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有するが、ケラチンアズール分解活性を指標として、2単位/g以上(より好ましくは2〜500単位/g、更に好ましくは10〜500単位/g、特に好ましくは20〜500単位/g)の難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有することが好ましい。ケラチン粉末分解活性を指標とした場合には、1単位/g以上(より好ましくは1〜5000単位/g、更に好ましくは5〜3000単位/g)の難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有することが好ましい。
本発明に使用する酵素は、これまで説明した各種理化学的性質を示す酵素であるか、あるいは、配列番号2で表わされるアミノ酸配列を含む酵素、又はその改変酵素若しくはその相同酵素である限り、その起源は特に限定されるものではなく、例えば、動物、植物、又は微生物由来の酵素であることができる。その由来としては、バチルス属に属する微生物により生産された酵素が好ましく、具体的には、バチルス・リケニフォルミスにより生産された酵素がより好ましく、バチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)により生産された酵素が特に好ましい。また、これらはその変異株であってもよい。
微生物の寄託
バチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(あて名:〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に平成14(2002年)年10月16日より国内寄託されたものであり、平成15年(2003年)9月16日から国際寄託に移管されている。国際受託番号(国際受託番号に続く[]内は国内受託番号)は、FERM BP−08487[FERM P−19068]である。
本発明に使用する酵素の具体例として、サチライシン類(subtilisins)が挙げられ、特にサチライシンDY(subtilisin DY)(国際公開第98/30682号パンフレット)が好ましい。
本発明に使用する酵素は、例えば、実施例1に記載のように微生物から単離及び精製することにより得ることができる。また、後述のように遺伝子組換え技術により本発明に使用するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを適当な宿主において発現させ、生産されたタンパク質を単離及び精製することによっても得ることができる。
本発明に使用する酵素を生産する微生物から、本発明に使用する酵素を取得するためには、その微生物に適した条件で培養を行ない、本発明に使用する酵素を含む培養上清、菌体、又は培養物(broth)から公知のタンパク質精製方法を用いることにより、本発明に使用する酵素を調製することができる。以下、本発明に使用する酵素を生産する微生物として、バチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)を例にとって、微生物の培養及びタンパク質の精製の手順を説明する。
1%ポリペプトン、0.2%イーストエクストラクト、及び0.1%硫酸マグネシウム・七水塩(pH7.0)からなる培地を常法により加熱滅菌した後、この培地にバチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)を接種し、37〜50℃で通気及び攪拌しながら24〜72時間培養する。得られた培養液を遠心分離機にて遠心分離(約3000G)し、本発明に使用する酵素を含んだ培養上清を得る。次いで、必要に応じて、分画分子量5,000〜30,000の限外濾過膜にて2〜50倍まで濃縮し、本発明に使用する酵素を含んだ培養上清濃縮液を得る。
前記培養上清又は培養上清濃縮液は、本発明に使用する酵素の他に、多くの夾雑物を含むため、例えば、以下の手順により本発明に使用する酵素を精製することができる。
前記培養上清又は培養上清濃縮液を、孔径約0.45μmの精密濾過膜を用いて除菌濾過する。この除菌濾過液に終濃度1mol/Lとなるように硫酸アンモニウムを添加すると同時に、終濃度50mmol/L及びpH8.5となるように緩衝剤(トリス−塩酸緩衝液)で調製する。次いで、疎水クロマトグラフィーを行なうために、フェニル・セファロースカラムに前記調製液を吸着させ、トリス−塩酸緩衝液中に硫酸アンモニウムを1mol/L〜0mol/Lの濃度で含むリニアグラジェント溶出を行ない、本発明に使用する酵素を含む画分を分取する。この画分を分画分子量5,000〜10,000の限外濾過膜にて20〜30倍まで濃縮した後、ゲルろ過クロマトグラフィーを行なって更に精製する。ゲルろ過クロマトグラフィーには、例えば、スーパーデックス75(ファルマシア社製)ゲルを用いることができる。このゲルに前記濃縮液を、0.1mol/L塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(0.025mol/L,pH7.0)を溶離液として通過させ、本発明に使用する酵素を分取する。以上の精製操作により、電気泳動的にほぼ1本のバンドにまで精製することが可能である。
難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
本発明で用いる酵素をコードするポリヌクレオチドは、例えば、以下の手順により取得することができる。タンパク質のアミノ酸配列が与えられれば、それをコードする塩基配列は容易に定まり、よって、本発明に使用する酵素をコードする種々の塩基配列を選択することができる。なお、本明細書において、用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれ、DNAが好ましい。
本発明で用いる酵素をコードするポリヌクレオチドは、典型的には、下記からなる群より選択されるものである:
(i)配列番号1で表わされる塩基配列を含むポリヌクレオチド(好ましくは、配列番号1で表わされる塩基配列からなるポリヌクレオチド)、
(ii)配列番号1で表わされる塩基配列において、1又は複数個(例えば、1個又は数個)の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列を含み、しかも、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、あるいは、
(iii)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
前記(ii)のポリヌクレオチドにおいて、欠失、置換、又は付加されてもよい塩基の数は、具体的には1〜50個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜18個、更に好ましくは1〜9個である。
ここで、前記(iii)における「ストリンジェントな条件下」とは、配列番号1で表される塩基配列を含むプローブと、相同タンパク質をコードするポリヌクレオチドとがハイブリダイズする一方で、このプローブが、バチルス・リケニフォルミスPWD−1菌株由来のケラチナーゼ(米国特許第6,613,505号明細書)、あるいは、バチルス・サーモプロテオリティクス・ロッコ菌株由来のプロテアーゼ[例えば、サモアーゼ(Thermoase)]とはハイブリダイズしない程度に制御された条件を意味する。
より具体的には、例えば、プローブとして標識化した配列番号1で表される塩基配列の全長を有するものを用い、ECLダイレクトDNA/RNAラベリング検出システム(アマシャム社製)の添付の操作方法に従って、42℃で1時間のプレハイブリダイゼーションの後、前記プローブを添加し、42℃で15時間のハイブリダイゼーションを行った後、0.4%SDS及び6mol/L尿素添加0.4倍以下の濃度のSSC(1倍濃度のSSC;15mmol/Lクエン酸三ナトリウム、150mmol/L塩化ナトリウム)で42℃にて20分間の洗浄を2回繰り返し、次に5倍濃度のSSCで室温にて10分間の洗浄を2回行うような条件が挙げられる。
本発明で用いる酵素をコードするポリヌクレオチドは、天然由来のものであっても、全合成したものであってもよく、また、天然由来のものの一部を利用して合成を行ったものであってもよい。前記ポリヌクレオチドの典型的な取得方法としては、バチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)のゲノミックライブラリーから、遺伝子工学の分野で慣用されている方法、例えば、部分アミノ酸配列の情報を基にして作製した適当なDNAプローブを用いて、スクリーニングを行う方法などが挙げられる。
発現ベクター及び形質転換された微生物
本発明で用いる配列番号2で表わされるアミノ酸配列を含む酵素、又はその改変酵素若しくは相同酵素は、前記酵素をコードする塩基配列を宿主微生物内で複製可能で、かつ、その塩基配列がコードするタンパク質を発現可能な状態で含んでなる発現ベクターにより調製することができる。前記発現ベクターは、自己複製ベクター、すなわち、染色体外の独立体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しない、例えば、プラスミドを基本に構築することができる。また、前記発現ベクターは、宿主微生物に導入されたとき、その宿主微生物のゲノム中に組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。前記発現ベクター構築の手順及び方法は、遺伝子工学の分野で慣用されているものを用いることができる。
前記発現ベクターは、これを実際に宿主微生物に導入して所望の活性を有するタンパク質を発現させるために、本発明で用いる酵素をコードするポリヌクレオチドの他に、その発現を制御する塩基配列や形質転換体を選択するための遺伝子マーカー等を含んでいるのが望ましい。発現を制御する塩基配列としては、プロモーター、ターミネーター、又はシグナルペプチドをコードする塩基配列等がこれに含まれる。プロモーターは宿主微生物において転写活性を示すものであれば特に限定されず、宿主微生物と同種若しくは異種のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の発現を制御する塩基配列として得ることができる。また、前記遺伝子マーカーは、形質転換体の選択の方法に応じて適宜選択されてよいが、例えば、薬剤耐性をコードする遺伝子、又は栄養要求性を相補する遺伝子を利用することができる。
本発明で用いる酵素は、前記発現ベクターによって形質転換された微生物により調製することができる。この宿主−ベクター系は特に限定されず、例えば、大腸菌、放線菌、酵母、又は糸状菌などを用いた系、あるいは、それらを用いた他のタンパク質との融合タンパク質発現系などを用いることができる。また、この発現ベクターによる微生物の形質転換も、この分野で慣用されている方法に従い実施することができる。
更に、この形質転換体を適当な培地で培養し、その宿主細胞又は培養物から前記の本発明に使用する酵素を単離して得ることができる。形質転換体の培養及びその条件は、使用する微生物について慣用されている条件のそれと本質的に同等であってよい。また、形質転換体を培養した後、目的の酵素を回収する方法は、この分野で慣用されているものを用いることができる。
また、本発明に使用される酵素の最も好適な製造方法として、バチルス属に属する微生物を用いる方法が好ましく、具体的には、バチルス・リケニフォルミスを用いる方法がより好ましく、バチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)はその変異株を用いる方法が特に好ましい。
酵素組成物並びに難分解性タンパク質分解剤及び病原性プリオンタンパク質無毒化剤
本発明に使用する酵素剤は、上述の理化学的性質を有する酵素、微生物を培養することにより得られるその酵素、配列番号2で表わされるアミノ酸配列を含む酵素又はその改変酵素若しくは相同酵素、又は前記宿主細胞を培養することにより得られる酵素(以下、これらの一つ又はそれ以上の酵素を「本発明に使用する酵素」と称する)のいずれか一つ又はそれ以上を含む。
本発明に使用する酵素組成物は、本発明に使用する酵素を有効成分として含有する限り、特に限定されるものではなく、酵素組成物を調製するのに一般的に用いることのできる担体及び/又は希釈剤、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、塩化ナトリウム、又はソルビトール等)、界面活性剤、又は防腐剤などと共に混合し、製造することができる。また、本発明に使用する酵素組成物は、所望により、適当な形状、例えば、粉末又は液体状等に適宜調製することができる。
酵素組成物中の酵素含量は、その使用目的に応じて充分な酵素活性が発揮可能である限り、特に限定されるものではないが、例えば、0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜80重量%の量で含有することができる。
また、難分解性タンパク質分解活性として、2単位/g以上(より好ましくは2〜500単位/g、更に好ましくは10〜500単位/g、特に好ましくは20〜500単位/g)の活性(ケラチンアズール分解活性を指標として)を示す量で、あるいは、1単位/g以上(より好ましくは1〜5000単位/g、更に好ましくは5〜3000単位/g)の活性(ケラチン粉末分解活性を指標として)を示す量で、本発明に使用する酵素を含有することが好ましい。この酵素量は、スクレイピー感染マウスの1%脳組織懸濁液1mL中に含まれる病原性プリオンタンパク質を分解するのに充分な量である。
本発明に使用する酵素組成物は、本発明に使用する酵素に加え、更に本発明に使用する酵素以外の酵素、例えば、プロテアーゼ(例えば、ケラチナーゼ)、リパーゼ、セルラーゼ、又はキシラナーゼの少なくとも1つを含むことができる。本発明に使用する酵素以外の酵素を併用することにより、本発明に使用する酵素を単独で含む酵素組成物に比べて、病原性プリオンタンパク質の分解効率をより一層向上させることが期待される。
本発明に使用する酵素は、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)を分解する活性を有する。従って、本発明に使用する酵素、又はそれを含有する本発明に使用する酵素組成物は、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解剤の有効成分として、あるいは、病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物に対する病原性プリオンタンパク質無毒化剤の有効成分として有用である。
本発明の分解剤又は無毒化剤は、有効成分である本発明に使用する酵素を単独で含有することもできるし、あるいは、有効成分である本発明に使用する酵素と一緒に、適当な担体及び/又は希釈剤を含有することもできる。前記担体又は希釈剤としては、有効成分である本発明に使用する酵素の酵素活性を抑制又は阻害することがない限り、タンパク質分解剤又は無毒化剤の担体又は希釈剤として一般的に用いられている担体又は希釈剤、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、又はソルビトール等)、界面活性剤、又は防腐剤を用いることができる。
本発明の分解剤又は無毒化剤の形状としては、特に限定はされないが、本剤を水に投入した場合に発泡しながら速やかに溶解する発泡製剤が好ましい。発泡製剤の配合及び製法は、特に限定はされず、既知の方法を用いることができる。例えば、重曹又は過炭酸ナトリウム等にクエン酸、リンゴ酸、又はコハク酸等の酸を配合したもの、あるいは、それらの配合原料に更に無水ケイ酸等の流動化剤又は他の結合剤を配合したものを用いることができる。
難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)を分解する方法
本発明に使用する酵素又は酵素組成物を、それ単独で、あるいは、本発明の分解剤又は無毒化剤の形で用いることにより、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)を分解することができるし、あるいは、病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物において、病原性プリオンタンパク質を無毒化することができる。
すなわち、本発明に使用する酵素又は酵素組成物を用いる、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)を分解する方法、そして、本発明に使用する酵素又は酵素組成物を用いる、病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物における病原性プリオンタンパク質を無毒化する方法も、本発明に含まれる。
本発明の分解方法は、本発明に使用する酵素又は酵素組成物と、難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)又はそれを含む可能性のある分解処理対象物とを接触させる工程を少なくとも含む。また、本発明の無毒化方法は、本発明に使用する酵素又は酵素組成物と、病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある無毒化処理対象物とを接触させる工程を少なくとも含む。
前記分解処理対象物又は無毒化処理対象物(以下、併せて、単に「処理対象物」と称する)としては、例えば、病原性プリオンタンパク質を含有する可能性のある飼料(例えば、肉骨粉又は堆肥など)、病原性プリオンタンパク質が表面に付着している可能性のある器具(例えば、屠殺器具、検査用具、又は手術用具など)、あるいは、病原性プリオンタンパク質が存在する可能性のある場所(例えば、屠殺場、BSE発生牛舎、又は感染実験施設など)を挙げることができる。
前記処理対象物は、本発明に使用する酵素と接触させる前に、加熱処理(例えば、約100℃以上、好ましくは95℃以上、より好ましくは90℃以上、特に好ましくは80℃以上)を実施することなく用いることもできるし、あるいは、加熱処理を実施した後、用いることもできる。本発明方法では、加熱処理を実施しなくても充分な分解又は無毒化を達成することができるため、本発明に使用する酵素と接触させる前に、処理対象物を加熱処理(例えば、約100℃以上、95℃以上、90℃以上、80℃以上)することなく用いるのが好ましい。加熱処理を実施しない場合、特別な加熱処理設備が不要であり、しかも、作業手順を簡略化することができるからである。
本発明に使用する酵素又は酵素組成物と処理対象物とを接触させる方法としては、処理対象物に含まれる可能性のある難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)を、本発明に使用する酵素の難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性により、分解することが可能な方法である限り、特に限定されるものではなく、処理対象物に応じて適宜選択することができる。
例えば、処理対象物が、病原性プリオンタンパク質を含有する可能性のある飼料である場合には、例えば、本発明に使用する酵素又は酵素組成物と飼料とを均一に混合するか、あるいは、本発明に使用する酵素を含有する水溶液を飼料に散布することにより接触させることができる。
また、処理対象物が、病原性プリオンタンパク質が表面に付着している可能性のある器具である場合には、例えば、本発明に使用する酵素を含有する水溶液中に前記器具を浸漬させる方法、本発明に使用する酵素を含有する水溶液を前記器具に散布する方法、あるいは、本発明に使用する酵素を含有する水溶液を含有する洗浄用用具(例えば、布、スポンジ、又はブラシなど)で前記器具の表面を拭く方法などを挙げることができる。
また、処理対象物が、病原性プリオンタンパク質が存在する可能性のある場所である場合には、例えば、本発明に使用する酵素を含有する水溶液を散布する方法などを挙げることができる。
本発明方法において、本発明に使用する酵素又は酵素組成物と処理対象物とを接触させる場合には、本発明に使用する酵素がその難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)分解活性を充分に発揮することができる条件下で接触させることが好ましい。例えば、pHとしては、7〜12の範囲で接触させることが好ましい。また、温度としては、好ましくは20〜80℃、より好ましくは40〜80℃の範囲で接触させることができる。
また、その使用量も、処理対象物に含まれる難分解性タンパク質(特には、病原性プリオンタンパク質)の量に応じて適宜決定することができる。例えば、スクレイピー感染マウスの1%脳組織懸濁液1mL中に含まれる病原性プリオンタンパク質を分解するためには、本発明に使用する酵素量として0.5〜10μgを用いるか、あるいは、難分解性タンパク質分解活性として、2単位/g以上(より好ましくは2〜500単位/g、更に好ましくは10〜500単位/g、特に好ましくは20〜500単位/g)の活性(ケラチンアズール分解活性を指標として)又は1単位/g以上(より好ましくは1〜5000単位/g、更に好ましくは5〜3000単位/g)の活性(ケラチン粉末分解活性を指標として)を有する本発明に使用する酵素組成物を用いることが好ましい。本発明に使用する酵素量として0.5μg未満、あるいは、本発明に使用する酵素組成物に含まれる難分解性タンパク質分解活性が2単位/g未満(ケラチンアズール分解活性を指標として)又は1単位/g未満(ケラチン粉末分解活性を指標として)の場合には、前記含量の病原性プリオンタンパク質を完全に分解することが困難となる場合がある。また、前記含量の病原性プリオンタンパク質を完全に分解する目的で、酵素10μgを超える量で、あるいは、難分解性タンパク質分解活性が500単位/gを超える量(ケラチンアズール分解活性を指標として)又は5000単位/gを超える量(ケラチン粉末分解活性を指標として)である酵素組成物を用いることは、生産コストを勘案すれば、現実的ではない。
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1:精製酵素の調製
本実施例では、本発明に使用する精製酵素を得るために、下記の手順により培養及び精製を行なった。
まず、培地A[1%ポリペプトン(和光純薬工業社製)、0.2%イーストエクストラクト(ディフコ社製)、及び0.1%硫酸マグネシウム・七水塩(和光純薬工業社製)(pH7.0)]を常法により加熱滅菌した後、この培地A(200ml)にバチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)を接種し、37℃で通気及び攪拌しながら72時間培養した。得られた培養液を遠心分離機にて遠心分離(3000G,20分間)し、本発明に使用する酵素を含んだ培養上清を得た。
次に、分画分子量5,000の限外濾過膜にて20倍まで濃縮し、本発明に使用する酵素を含んだ培養上清濃縮液を得た。この培養上清濃縮液を孔径0.45μmの精密濾過膜を用いて除菌濾過した。この除菌濾過液に終濃度1mol/Lとなるように硫酸アンモニウムを添加し、更に、終濃度50mmol/L及びpH8.5となるように緩衝剤(トリス−塩酸緩衝液)で調製した。次いで、疎水クロマトグラフィーを行なうために、フェニル・セファロースカラムに前記調製液を吸着させ、トリス−塩酸緩衝液中に硫酸アンモニウムを1mol/L〜0mol/Lの濃度で含むリニアグラジェント溶出を行ない、本発明に使用する酵素を含む画分を分取した。この画分を分画分子量5,000の限外濾過膜にて20倍まで濃縮した後、ゲルろ過クロマトグラフィーを行なった。ゲルろ過クロマトグラフィーには、スーパーデックス75(ファルマシア社製)ゲルを用いた。このゲルに前記濃縮液を、0.1mol/L塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(0.025mol/L,pH7.0)を溶離液として通過させ、本発明に使用する酵素を分取した。以上の精製操作により、本発明に使用する精製酵素(20μg)を取得した。
実施例2:酵素の理化学的性質の確認
(1)作用及び基質特異性
実施例1で得た精製酵素の各種基質(カゼイン、コラーゲン、エラスチン、及びケラチン)に対する活性を調べた。結果を表2に示す。
表2に示すように、いずれの基質に対しても高い分解活性を示したが、特にケラチンに高い分解活性を示した。なお、表2における分解活性とは、基質濃度0.5%、pH9.0、及び60℃の条件下において、1分間に1μmol/Lのグリシンに相当するニンヒドリン発色力を有する酵素量を1単位(U)として比較したものである。

(2)分子量
実施例1で得た精製酵素の分子量を決定するため、12%均一ゲル(テフコ社製)を用いるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行なった。その結果、病原性プリオンタンパク質分解酵素の分子量は約31,000と算出された。
また、別のゲル(15%均一ゲル;アトー社製)を用いて、実施例1で得た精製酵素のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行なったところ、病原性プリオンタンパク質分解酵素の分子量は約26,000と算出された。なお、本試験に用いた標準マーカーは、プロテインスタンダード(バイオ・ラド社製)を用いた。
(3)等電点
実施例1で得た精製酵素の等電点(pI)を決定するため、LKB両性等電点電気泳動装置を用いてポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動を行なった。その結果、病原性プリオンタンパク質分解酵素の等電点は9.3と算出された。なお、この試験に用いた標準サンプルの等電点は、表3のとおりである。

(4)至適pH及び安定pH
実施例1で得た精製酵素の37℃における至適pHについて、ケラチンアズール(Sigma社)分解活性を指標として測定した結果、図1に示すように、pH9.0〜10.0であった。また、37℃における安定pHは、図1に示すように、pH7.0〜12.0、好ましくは8.0〜10.5であった。
(5)至適温度
実施例1で得た精製酵素の至適温度について、ケラチンアズール分解活性を指標として、至適pHであるpH9.0で測定した結果、図2に示すように、60〜70℃であった。
実施例3:酵素遺伝子のクローニング及びアミノ酸配列の決定
本実施例では、実施例1で得た精製酵素のアミノ酸配列を決定するために、前記酵素をコードする遺伝子をクローニングし、その塩基配列を決定することによりアミノ酸配列を確認した。
前記酵素の精製のため、バチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)を、培地A(実施例1参照)に植菌し、37℃で3日間培養し、遠心分離により培養上清を得た。この上清を、ペリコンXL(cut5000;Millipore)で約20倍まで濃縮し、1mol/L硫酸マグネシウム及び0.05mol/Lトリス−塩酸(pH8.5)溶液となるよう調製した。これを、フェニルセファロースカラム(Phenyl Sepharose FF;low sub,26X300mm;Amersham Bioscience)に供し、0.05mol/Lトリス−塩酸(pH8.5)中、1mol/L〜0mol/Lの直線濃度勾配で溶出し、硫酸アンモニウム濃度0mol/Lで溶出される画分を回収した。この画分はペリコンXL(cut5000)、次いでウルトラフリー15(Ultrafree 15;cut5000;Millipore)で濃縮し、スーパーデックス(Superdex75pg;16X600mm;Amersham Bioscience)に供し、0.05mol/Lリン酸及び0.1mol/L塩化ナトリウム(pH7.0)で溶出し、分子量約31kDaの画分を回収した。この画分はSDS−PAGEの結果、分子量約31kDaのタンパク質を単一に含んでいた。
精製したタンパク質をSDS−PAGEに供し、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜(Immobilon PSQ;Millipore)にブロット後、水洗して風乾した。これをプロテインシーケンサーModel 492(Applied Biosystems)を用いてアミノ酸配列を解析した。その結果、以下に示すアミノ酸配列が得られた。
N末端アミノ酸配列:AQTVPYGIPLI(配列番号2で表されるアミノ酸配列における1番〜11番のアミノ酸からなる配列)
この配列は、バチルス・リケニフォルミスPWD−1由来ケラチナーゼ[Lin,X.et.al.,Appl.Environ.Microbiol(1995)61,1469−1474]及びバチルス・リケニフォルミス由来サチライシン・カールスバーグ(Subtillisin Carlsberg)[Jacobs,M.et.al.,Nucleic Acid Res.(1985)13,8913−8926]と同一の配列であることが判明した。そこで、PCRにより部分断片を増幅し、これをプローブに遺伝子をクローニングした。
バチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)のゲノムDNAは、Wilsonらの方法(Wilson,C.R.,J.Bacteriol.(1985)163,445−453)に従って調製した。このゲノムDNAを鋳型に、以下の配列からなるプライマーの組み合わせを用いてPCRにより異常プリオン分解酵素遺伝子の部分断片を増幅した。PCR用酵素はタカラTaq(TakaraTaq;タカラバイオ)を用い、94℃で1分間の熱変性の後、94℃で30秒間、48℃で30秒間、及び68℃で2分間のステップを30サイクル繰り返すことにより目的のDNAを増幅させた。

その結果、約700bpの断片が増幅された。そこで、この断片をプローブにバチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)のゲノムライブラリーから目的とする遺伝子の全長をクローニングした。
まず、バチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)のゲノムDNAを制限酵素SauIIIA1で部分的に消化し、EMBLIIIベクター(Stratagene)と連結し、市販のパッケージングキット(MaxPlax Lambda packaging extract;Epicentre technologies)を用いてファージ粒子を形成させた。このファージライブラリーから、市販のスクリーニングキット(DIGハイプライムDNAラベリング&デテクションスターターキット;ロッシュ)を用いてスクリーニングを行い、約10000プラークから100種の陽性クローンを得た。この内、10種の陽性ファージからDNAを精製し、これらの内、4種に共通に含まれる約4.1kbのSphI断片をpUC119にサブクローニングした(以下、pUC−PDE4と称する)。このSphI断片の大きさは、PCR産物をプローブに、バチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)のサザン解析を行った結果と一致していた。このプラスミドpUC−PDE4を用いて、DNAシーケンサーmodel 3730XL(Applied Biosystems)を用いたショットガンシーケンス法により配列を決定した。その結果、異常プリオン分解酵素遺伝子の全長が含まれており、その翻訳領域の塩基配列は、配列番号1で表される塩基配列のとおりであった。
その結果、実施例1で得た精製酵素は、サチライシンDY(国際公開第98/30682号パンフレット)とアミノ酸配列が完全に一致することが確認された。また、これ以外として最も相同性が高いものは、バチルス・リケニフォルミス由来のkerA遺伝子の81%であった(BLAST検索による)。
実施例4:酵素組成物の調製
本発明に使用する酵素組成物を得るために、実施例1に記載の培地A(200mL)に、バチルス・リケニフォルミスMSK−103菌株(FERM BP−08487)を接種し、37℃で通気及び攪拌しながら48時間培養した。得られた培養液を遠心分離機にて遠心分離(3000G,30分間)し、本発明に使用する酵素を含んだ培養上清を得た。次に、分画分子量5,000の限外濾過膜にて30倍まで濃縮し、培養上清濃縮液を得た。この培養上清濃縮液を孔径0.45μmの精密濾過膜を用いて除菌濾過し、本発明に使用する酵素を含んだ酵素組成物溶液Aを得た。この酵素組成物Aのケラチンアズール分解活性は、285単位/gであった。次いで、酵素組成物溶液Aを凍結乾燥し、酵素組成物粉末A’を得た。
一方、培地B[0.01%イーストエクストラクト(ディフコ社製)、1%フェザーミール(伊藤忠飼料社製)、0.01%塩化マグネシウム(和光純薬工業社製)、0.04%リン酸水素二カリウム(和光純薬工業社製)、0.03%リン酸水素一カリウム(和光純薬工業社製)、0.05%塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)、及び0.05%塩化アンモニウム(和光純薬工業社製)(pH7.0)]を加熱滅菌した後、この培地B(40mL)に、バチルス・リケニフォルミスPWD−1(ATCC−53757)菌株を接種し、37℃で通気及び攪拌しながら48時間培養した。得られた培養液を遠心分離機にて遠心分離(3000G,30分間)し、培養上清を得た。次に、分画分子量5,000の限外濾過膜にて18倍まで濃縮し、培養上清濃縮液を得た。この培養上清濃縮液を孔径0.45μmの精密濾過膜を用いて除菌濾過し、比較用の酵素組成物溶液Bを得た。
実施例5:精製酵素を用いたマウス由来病原性プリオンタンパク質の分解
本実施例では、実施例1で述べた方法に従って調製した本発明に使用する精製酵素と、市販されているプロテアーゼ〔サチライシン・カールスバーグ(Subtillisin Carlsberg);Sigma社製〕とを用いて、本発明に使用する酵素の病原性プリオンタンパク質分解能を、酵素標品〔プロテイナーゼK(Proteinase K);和光純薬社製〕による分解能を基準として評価した。
本実施例においては、基質として、病原性プリオンタンパク質感染マウス〔「クリニカル・アンド・ディアグノスティック・ラボラトリー・イムノロジー(CLINICAL AND DIAGNOSTIC LABORATORY IMMUNOLOGY)」,(米国),アメリカン・ソサエティー・フォー・マイクロバイオロジー(American Society for Microbiology(Asm)),1995年3月,p.172−176〕の脳から5%ホモジネート〔2%N−ラウリルサルコシン酸ナトリウム,10mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH7.5)〕を調製し、そのホモジネートを最終濃度1%になるように50mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH8.3)で希釈したものを用いた。
酵素反応は、前記1%脳ホモジネートを、等容量の精製酵素溶液、市販プロテアーゼ溶液、又は酵素標品溶液と混和した後、37℃で1時間インキュベートする方法により実施した。精製酵素、市販プロテアーゼ、及び酵素標品の濃度は、酵素反応時の反応混液における最終濃度として、1μg/mL及び0.2μg/mLの2段階とした。
酵素反応の終了した反応混液の一部を、電気泳動装置(ATTO社製)とSDS−ポリアクリルアミドゲル(10%ゲル;ATTO社製)とを用い、電気泳動〔Sodium Dodecyl sulfate−polyacrylamide gel electrophoresis(SDS−PAGE)〕した。SDS−PAGE後のポリアクリルアミドゲル中のタンパク質を、転写装置(ATTO社製)にて、添付のプロトコールに従い、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜(Millipore社製)に転写した。この膜に結合した病原性プリオンタンパク質に対し、抗プリオンタンパク質−ウサギ抗体を1次抗体、抗ウサギIgG−ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ヤギ抗体(Zymed社)を2次抗体として、抗原抗体法により標識した。その後、市販の標識及び検出システム(ECL+Plus Western Blotting Detection System;アマシャム・バイオサイエンス社製)により、添付のプロトコールに従って、病原性プリオンタンパク質の検出を実施した。
なお、1次抗体として用いた抗プリオンタンパク質−ウサギ抗体は、ヒツジスクレイピープリオンタンパク質のコアフラグメントP27−30のN末端配列にシステイン(Cys)を付加した20アミノ酸からなるペプチド(PrP94−112)を合成し、このペプチドにスカシガイヘモシアニン〔Keyhole limpet hemocyanin(KLH)〕を付加したものを免疫原としてウサギに免疫し、得られた抗血清からプロテインAカラムを用いて精製することにより調製した。この抗体は、ヒツジプリオンタンパク質だけでなく、ハムスター、マウス、及びウシの各プリオンタンパク質とも反応する。
結果を図3に示す。図3に示すように、基準となるプロテイナーゼK、あるいは、市販プロテアーゼのサチライシン・カールスバーグでは、1μg/mLの濃度でも病原性プリオンタンパク質の存在を示すプロテアーゼ抵抗性のバンドが検出された。なお、これらのバンドの分子量は、全く分解を受けていないバンドが32kDaであり、部分的に分解されたバンド(3本)が30kDa、25〜26kDa、及び20〜21kDaであった。それに対して、本発明に使用する精製酵素においては、0.2μg/mLでバンドが検出されたが、1μg/mLの濃度では、1%の脳ホモジネートに含まれる病原性プリオンタンパク質をほとんど分解することが可能であった。
実施例6:酵素組成物を用いたマウス由来病原性プリオンタンパク質の分解
実施例4で述べた方法に従って調製した本発明に使用する酵素組成物溶液Aを用いて、マウス由来の病原性プリオンタンパク質分解能を評価した。その際、酵素標品(プロテイナーゼK;和光純薬社製)による分解能を基準とした。また、基質としては、実施例5で用いたものと同じ基質(すなわち、病原性プリオンタンパク質感染マウス由来の1%脳ホモジネート)を使用した。
酵素反応は、前記1%脳ホモジネートを等容量の酵素組成物溶液又は酵素標品溶液と混和した後、37℃で1時間インキュベートする方法により実施した。酵素標品の濃度は、最終濃度として50μg/mL、25μg/mL、12.5μg/mL、及び6.25μg/mLの4段階とし、酵素組成物Aについては、前記組成物溶液を1、1/2、1/4、1/8、及び1/16に希釈したものを用いた。なお、前記組成物の各希釈物のケラチンアズール分解活性は、それぞれ、285単位/g、143単位/g、71単位/g、36単位/g、及び18単位/gであった。
酵素反応の終了した反応混液の一部を、実施例5で述べた方法に従って、病原性プリオンタンパク質の検出を実施した。
結果を図4に示す。図4に示すように、基準となるプロテイナーゼKでは、50μg/mLの高濃度においても、病原性プリオンタンパク質の存在を示す、プロテアーゼ抵抗性のタンパク質のバンドが検出された。それに対して、本発明に使用する酵素組成物においては、18単位/gのケラチンアズール分解活性を有する酵素組成物(1/16希釈物;培養上清の1.875倍濃縮液)でわずかにバンドが検出されたが、36単位/g(1/8希釈物;培養上清の3.75倍濃縮液)以上のケラチンアズール分解活性を有する酵素組成物では、完全に分解されることが明らかとなった。
実施例7:酵素組成物を用いたヒツジ由来病原性プリオンタンパク質の分解
実施例4で述べた方法に従って調製した本発明に使用する酵素組成物溶液A及び比較用の酵素組成物溶液B(バチルス・リケニフォルミスPWD−1由来ケラチナーゼ含有)を用いて、ヒツジ由来の病原性プリオンタンパク質分解能を、酵素標品(プロテイナーゼK;和光純薬社製)による分解能を基準として評価した。
基質としては、病原性プリオンタンパク質感染ヒツジの脳から5%ホモジネート〔2%N−ラウリルサルコシン酸ナトリウム,10mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH7.5)〕を調製し、そのホモジネートを最終濃度1%になるように50mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH8.3)で希釈したものを用いた。
酵素反応は、前記1%脳ホモジネートを等容量の酵素組成物溶液又は酵素標品溶液と混和した後、37℃で1時間インキュベートする方法により実施した。酵素標品の濃度は、最終濃度として50μg/mL、10μg/mL、2μg/mL、及び0.4μg/mLとした。一方、本発明に使用する酵素組成物Aは、ケラチンアズール分解活性として285単位/g、143単位/g、71単位/g、及び36単位/gのもの(希釈倍率として1、1/2、1/4、及び1/8)を、比較用酵素組成物Bは、37単位/g、19単位/g、9単位/g、及び5単位/gのもの(希釈倍率として1、1/2、1/4、及び1/8)を用いた。
酵素反応の終了した反応混液の一部は、実施例5で述べた方法に従って、病原性プリオンタンパク質の検出を実施した。
結果を図5に示す。図5に示すように、基準となるプロテイナーゼKでは、10μg/mL以下の濃度において、病原性プリオンタンパク質の存在を示す、プロテアーゼ抵抗性のタンパク質のバンドが検出された。また、比較用の酵素組成物Bは、いずれの濃度においても、病原性プリオンタンパク質は分解されなかった。それに対し、本発明に使用する酵素組成物Aにおいては、いずれの濃度においてもほぼ完全に分解されることが明らかとなった。また、病原性プリオンタンパク質の由来が異なり、アミノ酸配列が若干異なる場合でも、本酵素には病原性プリオンタンパク質を分解する能力があることが明らかとなった。
実施例8:酵素組成物を用いたマウス由来病原性プリオンタンパク質の分解
バチルス・リケニフォルミスPWD−1菌株を実施例4に記載の本発明に使用する酵素組成物Aと同様の方法(すなわち、培地Aを用いて)で培養した後、実施例4に記載の酵素組成物Aと同様の方法で、比較用の酵素組成物Cを調製した。
また、バチルス・リケニフォルミスDSM−8782菌株を実施例4に記載の酵素組成物Aと同様の方法(すなわち、培地Aを用いて)で培養した後、実施例4に記載の酵素組成物Aと同様の方法で、比較用の酵素組成物Dを調製した。
更に、バチルス・リケニフォルミスDSM−8782菌株を実施例4に記載の比較用酵素組成物Bと同様の方法(すなわち、培地Bを用いて)で培養した後、実施例4に記載の酵素組成物Bと同様の方法で、比較用の酵素組成物Eを調製した。
表4に、各酵素組成物と菌株及び培地との関係を示す。なお、培地Bは、ケラチナーゼ誘導培地(特開平6−46871号公報)である。

このようにして調製した本発明に使用する酵素組成物A及び比較用の4種類の酵素組成物B〜Eについて、各酵素組成物の最終濃度を培養上清の18倍濃縮としたこと以外は、実施例7に記載の手順に従って、マウス由来の病原性プリオンタンパク質分解能を比較した。
結果を図6に示す。図6に示すように、比較用の酵素組成物B〜Eにおいては、病原性プリオンタンパク質を分解することはできなかった。しかし、本発明に使用する酵素組成物Aでは、完全に分解されることが明らかとなった。
実施例9:サモアーゼとの比較試験(1)
実施例4で述べた方法に従って調製した本発明に使用する酵素組成物A′と、比較用の酵素として国際公開第02/053723号パンフレットに記載の菌株であるバチルス・サーモプロテオリティクス・ロッコ菌株由来の酵素、サモアーゼ(Thermoase)(大和化成株式会社)とを用いて、ハムスター由来の病原性プリオンタンパク質(Sc237株)の分解能を評価した。
基質としては、ハムスター型病原性プリオンタンパク質(Sc237株)に感染し、脳内にSc237株型の病原性プリオンタンパク質が蓄積したマウスの脳から1%脳ホモジネート〔50mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH8.3)〕を調製したものを用いた。
酵素溶液は、前記酵素組成物A′及びサモアーゼを50mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH8.3)にそれぞれ溶解して調製した。酵素組成物溶液又は酵素溶液の濃度は、いずれもケラチン粉末分解活性を指標として、最終濃度4、8、16、又は32単位/mLのものを用いた。
酵素反応は、前記1%脳ホモジネートを等容量の酵素組成物溶液又は酵素溶液と混和した後、37℃で20時間インキュベートする方法により実施した。
酵素反応の終了した反応混液の一部を用いて、実施例5で述べた方法に従って、病原性プリオンタンパク質の検出を実施した。
結果を図7に示す。図7に示すように、サモアーゼの酵素溶液においては、いずれの酵素濃度においても、病原性プリオンタンパク質の存在を示す、プロテアーゼ抵抗性のタンパク質のバンドが検出された。それに対して、本発明に使用する酵素組成物においては、全ての濃度で病原性プリオンタンパク質は、ウェスタンブロッティング法では検出することができないレベルまで完全に分解されることが明らかとなった。
実施例10:サモアーゼとの比較試験(2)
国際公開第02/053723号パンフレットにおいて、サモアーゼはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)存在下で、タンパク質(BSE由来の病原性プリオンタンパク質)分解活性が上がるとの記載があるため、そのような条件下でのハムスター由来の病原性プリオンタンパク質(Sc237株)の分解能を評価した。
実施例4で述べた方法に従って調製した本発明に使用する酵素組成物A′と、実施例9で用いたのと同じサモアーゼの溶液とを用いて、ハムスター由来の病原性プリオンタンパク質(Sc237株)の分解能を評価した。
基質としては、ハムスター型病原性プリオンタンパク質(Sc237株)に感染し、脳内にSc237株型の病原性プリオンタンパク質が蓄積したマウスの脳から1%脳ホモジネート〔SDSを0.1、1、又は4%の割合で添加した50mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH8.3)(SDS終濃度=0.05、0.5、又は2%)〕を調製したものを用いた。
酵素反応は、前記1%脳ホモジネートを等容量の酵素組成物溶液又は酵素溶液と混和した後、37℃で20時間インキュベートする方法により実施した。酵素組成物溶液又は酵素溶液の濃度は、いずれもケラチン粉末分解活性を指標として、最終濃度4単位/mLのものを用いた。
酵素反応の終了した反応混液の一部を、実施例5で述べた方法に従って、病原性プリオンタンパク質の検出を実施した。
結果を図8に示す。図8において、レーン1はサモアーゼ(4U/mL;0.05%SDS)の結果であり、レーン2はサモアーゼ(4U/mL;0.5%SDS)の結果であり、レーン3はサモアーゼ(4U/mL;2%SDS)の結果であり、レーン4は酵素組成物A′溶液(4U/mL;2%SDS)の結果である。
図8に示すように、サモアーゼの酵素溶液は、SDS終濃度2%においても4単位/mLの酵素濃度で病原性プリオンタンパク質の存在を示す、プロテアーゼ抵抗性のタンパク質のバンドが検出された。それに対して、本発明に使用する酵素組成物は、全ての濃度で病原性プリオンタンパク質は、ウェスタンブロッティング法では検出することができないレベルまで完全に分解されることが明らかとなった。
以上のことから、SDS存在下においても本酵素の病原性プリオンタンパク質の分解作用は、サモアーゼと比較して優れていることが明らかとなった。
実施例11:マイクロプレートを用いた洗浄モデル試験
病原性プリオンタンパク質に汚染された器具に対する洗浄効果について検討を行うため、モデル実験系として下記のような実験を実施した。
実施例4で述べた方法に従って調製した本発明に使用する酵素組成物A′溶液と、実施例9で用いたのと同じサモアーゼ溶液とを用いて、ポリスチレン上に固着したハムスター由来の病原性プリオンタンパク質(Sc237株)の分解能を評価した。
基質としては、ハムスター型病原性プリオンタンパク質(Sc237株)に感染し、脳内にSc237株型の病原性プリオンタンパク質が蓄積したマウスの脳から1%脳ホモジネート〔50mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH8.3)〕を調製したものを用いた。また、対照処理として、異常プリオンタンパク質に感染していない正常脳からも1%脳ホモジネート〔50mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH8.3)〕を調製した。
このようにして調製した正常又はSc237感染ハムスター1%脳ホモジネートをポリスチレン製のマイクロプレート(IMMUNO MODULE;Nunc社製)に各25μL/well加え、室温で1日完全に乾燥させた。
上述したようにして準備したマイクロプレートに対して酵素溶液を用いた洗浄処理を行うため、酵素組成物A’及びサモアーゼを、ケラチン粉末分解活性を指標として7.5及び15単位/mLになるように50mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH8.3)で希釈したものをそれぞれ洗浄溶液A(7.5単位/mL)及び洗浄溶液B(15単位/mL)として調製した。
酵素反応のため、100μL/ウェルの割合でそれぞれの洗浄溶液を注ぎ、100rpmで振とうしながら37℃で1時間、インキュベーションを行った。その後、洗浄溶液を除去し、約300μLのPBSで2回洗浄を行った。
100μL/ウェルの6mol/L塩酸グアニジン(和光純薬社製)を注ぎ、室温で1時間静置することにより変性処理を行った。その後、塩酸グアニジンを除去するため、約300μLのPBSで3回洗浄を行った。次に、300μL/ウェルの割合で5%スキムミルク(アマシャム社製)を注ぎ、室温で1時間静置することによりブロッキングを行った。その後、約300μLの0.05%Tween 20−PBSで2回洗浄を行った。
このマイクロプレートに結合した病原性プリオンタンパク質に対し、抗プリオンタンパク質−マウス抗体(3F4;ケミコン インターナショナル社製)を1次抗体として、抗マウスIgG−ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ヤギ抗体(Zymed社)を2次抗体として、抗原抗体法により標識した。その後、マイクロプレートのウェル内に残存するプリオンタンパク質を、市販の標識及び検出システム(Super Signal West Dura;アマシャム・バイオサイエンス社製)により、添付のプロトコールに従って発光反応を行った。この発光量を撮影装置(ライトキャプチャーAE−6962型;ATTO社製)を用いて撮影し、その画像を画像解析ソフトウェア(CS Analyzer;ATTO社製)を用いて画像解析を行った。
結果を図9に示す。図9に示すように、本発明に使用する酵素組成物においては、7.5単位/mLの濃度で、病原性プリオンタンパク質の残存率は10%未満であり、また、15単位/mLの濃度では、病原性プリオンタンパク質の残存率は約1%未満であった。それに対し、サモアーゼは、いずれの濃度においても、病原性プリオンタンパク質の残存率は40%以上であり、本酵素の病原性プリオンタンパク質の洗浄能力が高いことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
本発明に使用する酵素は、公知のプロテアーゼに比べて、難分解性タンパク質、特に病原性プリオンタンパク質に対して高い分解活性を有する。従って、本発明に使用する酵素又はそれを含有する本発明に使用する酵素組成物によれば、病原性プリオンタンパク質を効果的に分解することができる。また、本発明に使用する酵素は、安価に生産することができる。
従って、前記酵素又は酵素組成物を使用することで、病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物の汚染を除去することができる。また、前記酵素は、本発明の病原性プリオンタンパク質分解剤又は汚染除去剤の有効成分として有効である。
【配列表フリーテキスト】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号3の配列で表される塩基配列は、プライマーPDE−2であり、配列表の配列番号4の配列で表される塩基配列は、プライマーPDE−5である。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【配列表】





【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の特性を有し、難分解性タンパク質分解活性を有する酵素を有効成分として含有する、難分解性タンパク質分解剤:
(a)作用及び基質特異性:難分解性タンパク質のペプチド結合を加水分解する。
(b)分子量:31,000(ゲル濃度12%の均一ゲルを用いるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)
(c)等電点:pI9.3(ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動による)
(d)至適pH:pH9.0〜10.0である。
(e)作用至適温度:60〜70℃である。
【請求項2】
前記酵素が、下記の(g)の特性を更に有する、請求項1に記載の難分解性タンパク質分解剤:
(g)難分解性タンパク質分解活性として2単位/g以上の活性(ケラチンアズール分解活性を指標として)を示す。
【請求項3】
前記酵素が、下記の(h)の特性を更に有する、請求項1又は2に記載の難分解性タンパク質分解剤:
(h)バチルス属に属する微生物由来である。
【請求項4】
下記からなる群より選択される酵素を有効成分として含有する、難分解性タンパク質分解剤:
(X)配列番号2で表わされるアミノ酸配列を含む、酵素、
(Y)配列番号2で表わされるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、難分解性タンパク質分解活性を有する、改変酵素、及び
(Z)配列番号2で表わされるアミノ酸配列と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、しかも、難分解性タンパク質分解活性を有する、相同酵素。
【請求項5】
難分解性タンパク質が病原性プリオンタンパク質である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の難分解性タンパク質分解剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵素又は難分解性タンパク質分解剤と、難分解性タンパク質とを接触させる工程を含む、難分解性タンパク質を分解する方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵素の、難分解性タンパク質分解剤を製造するための使用。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵素を有効成分として含有する、病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物に対する病原性プリオンタンパク質無毒化剤。
【請求項9】
病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物と、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵素又は請求項8に記載の病原性プリオンタンパク質無毒化剤とを接触させる工程を含む、病原性プリオンタンパク質を無毒化する方法。
【請求項10】
病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物を予め加熱処理することなく、前記処理対象物と、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵素又は請求項8に記載の病原性プリオンタンパク質無毒化剤とを接触させる工程を含む、病原性プリオンタンパク質を無毒化する方法。
【請求項11】
病原性プリオンタンパク質に汚染された可能性のある処理対象物を予め90℃以上の加熱処理をすることなく、前記処理対象物と、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵素又は請求項8に記載の病原性プリオンタンパク質無毒化剤とを接触させる工程を含む、病原性プリオンタンパク質を無毒化する方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵素の、病原性プリオンタンパク質無毒化剤を製造するための使用。

【国際公開番号】WO2004/042049
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【発行日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549581(P2004−549581)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013658
【国際出願日】平成15年10月24日(2003.10.24)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【Fターム(参考)】